6CW5 三結 アンプ






 日本が誇る三極管6RA8は今や幻の銘球と

なってしまいましたが、代用管として”思いつ

きコラムV”でも取りあげた6CW5が無理な

動作条件にも関わらず意外と良い特性を見せた

ので、今回はトランス類にC/Pが良いと評判

のISO製を採用して、6CW5の実力を出し

切るようなアンプとして組んでみました。

 回路としては標準的なリークムラード式なのですが、出力段のB電圧が低いので位相反転段だけ

別電源で供給して出力管を無理なく振り切れるようにいます。それでも別章で紹介したように6C

W5の最大電圧が低いので、無歪で10W得られるようにB電圧を上げていったら、定格オーバー

の動作となってしまったのですが、製作してから半年間常用アンプとして動作させていても別段異

常は見られないので本章で紹介する事にしました。

 定格オーバーは無論好ましい事ではないのですが、定格にもいろいろあってプレート電圧などの

最大電圧はある程度のマージンがあるみたいで、それを超えたからといって直ちに寿命に影響する

ものでも無いようなのです。武末数馬先生は6BQ5に350V掛けたセットを発表されていて、

このセットだけは最後まで手放さずに長く愛用していたと聞きます。一方で6CW5や6BQ5等

MT管としては極限の性能を持つ球の損失は、管壁の表面積により決まってしまうので、その最大

値は絶対に超えてはならないのですが、このセットでは無信号時の損失を10W以下に設定してい

るので、この点では無理な動作はさせていません。

  唯一無理をさせているのはSG電圧なの

 ですが、危惧されるのは電圧オーバーが損

 失オーバーに連動する事で、特に小型管で

 SG損失を超えるのは致命的なのです。右

 の図の赤線はプレートとSGを直結した時

 の特性で、青線は100Ωの抵抗を介してS

 Gに繋いだもの、黒線は48Vのツェナー

 を介したものです。これを見ると、SGに

 100Ωの抵抗を入れるだけでもSGの動作

 はかなり楽になるものと思われます。


  今回、ISOのトランスを使うのは初めてなのですが、OPTのFE−25は高域の特性が優れ

 ていると評判なので、初段に低rp管を用いて高域の特性を伸ばすようにしました。その為に高域

 の第一ポールは終段に設定して、念の為に軽い高域補償を入れてあります。高域の特性については

 後ほど詳しく説明したいと思います。という訳で以下のような回路になりました。



 製作のポイントとしては

 6CW5を採用するときに一番問題になるのは電源トランスで、B電圧250V250mAを得る為には

巻き線表示で200V250mAのものが欲しいのですが、タンゴの電源トランスでこの条件に合うものが

なく、何れも6CW5には電圧が高すぎるのです。このような場合最適なのはチョークインプット

整流なのですが、専用チョークは高価なのでセミチョークインプット式とでも言うような方法で、

コンデンサーインプットの場合よりも低電圧大電流が得られるようにしました。といっても整流直

後のコンデンサーの容量を少なくしているだけですが、このコンデンサーには過大リップルが流れ

るので、フイルムコンデンサーを使っています。



 諸 特 性


 出力10Wまで直線で伸びて

いて、この時の入力電圧は約

0.8Vとなりました。これ以

上ではクリップが目立ちます

が、出力は依然伸び続けてい

て最大出力としては15W付近

になります。




無歪出力10W THD1.1%

NFB 7.2dB

DF=4.8 on-off法1kHz 1V

利得 21dB(11.2倍)1kHz

F特 10〜150k/-3dB

残留ノイズ 0.18mV



 歪率特性は数字の良し悪しよりも各曲線がよく揃っていて、全帯域にわたって理想的な動作をして

いることを覗わせます。小出力側の低域の数値が良くなっているのは、自宅が50Hz地域なので残留

ハムとの打ち消しがあるのかも知れませんが、本当のところはよく判りません。他のアンプ(FET

シングル)でも同じような傾向が見られるので、このアンプの所為ではないようです。





 特筆すべきは周波数特性で、以下のグラフのように高域が100kHz以上まで素直に伸びています。

これは前段を低rp管でまとめて高域のカットオフをOPTより上に持ってきたからで、全体の高域

特性はOPTの特性がそのまま現われるようになっています。




 しかし、ただ高域を伸ばしたのでは、動作が不安定になり超高域にピークやディプ等のアバレが出

てしまいます。本機は上図のようにそれらしいアバレは見られないのですが、高域の動作が安定して

いるかを確認する為に、10kHzの方形波を入れて波形を見てみました。


 高域を伸ばす場合には各段のスタガー比が

きちんと取れていないと、方形波にリギング

やオーバーシュートが出てしまうのですが、

右の波形は、それらの配分が上手くいき安定

動作をしている事を覗わせます。

 また当初はボリュームの位置により僅かに

オーバーシュートが見られたので、軽く高域

補償を入れたところ、このような整った波形

が得られました。



 雑  感

 近頃は、MT出力管の人気があまり無いのですが、きちんと組めば優秀なパフォーマンスを見せる

だけに大変惜しい事だと思います。しかしそのおかげで比較的安く手に入るので、セットのC/Pを

考えたらMT出力管の独壇場というところでしょう。人気の無い理由は何と言ってもその外観なので

すが、組み合わせるOPTによっては細身の姿と上手くマッチする場合もあります。かつて6RA8

でアンプを組む場合には多くの方がLUXのOY−14をOPTに選んだもので、6RA8とOY−

14は性能はもちろんデザイン面からもまさに”黄金コンビ”とでも言うような組み合わせでした。

一方、今回の6CW5とFE−25の組み合わせも、性能的には上記のように良い結果を見せました

が、今ではLuxもタンゴも製造中止となってしまったので、もしも追試をする場合は、OPTには

ソフトンのRX-40-5、電源トランスはノグチの PMC-190M、チョークは PMC-518Hを使うのが

良いと思います。




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