6AQ5 簡易型csppアンプ





 CSPPアンプも高性能なアンプなら既

に諸先輩方により数多く発表されています

が、それらは回路が複雑で追試のハードル

も上がるので、本章では簡易な回路で作り

易いアンプを目指す事としました。その為

に性能については多少妥協がありますが、

増幅部に半導体を用いない平易な二段増幅

回路で試作してみました。

 そのCSPPアンプに必要なバイファラー巻トランスは、他章でもお世話になっているARITOさんが

発売した新型トランスで、CSPPトランスとしては小型で最大容量も7Wとなっています。そこで出力管

はこのトランスに見合うように6AQ5Aと組み合わせる事にしました。7W程度を守備範囲とし、さらに

作例として大切な要件として入手が容易な点を考慮しました。とりあえずロードラインを引いてみたところ

Eb230V程度で丁度7Wが得られるようです。

 この方針で特性図にロードラインを引いてみたのが以下の図です。




 ただ必要な電源電圧としてはカソードバイアス分の電圧と(簡易型とする為に固定バイアスにはしない)

フルスイング時の電圧降下等を考慮して270V程度になると思います。またCSPPではバイアスが深く

なっても音が悪くなる事はありませんから、カソード抵抗は250V時の抵抗値よりもすこし多めにしてお

きます。これで出力段はあっさり決まったのですが問題はドライブ段で、CSPPでは大きなドライブ電圧

が必要ですし、終段の利得は2以下なので、二段アンプとなるとアンプゲインのほとんどを前段で稼がねば

なりません。という訳で、前段の球は本来なら利得の取れる五極管が良いのですが、音質を考えて三極管を

使うのならば、μの大きな12AX7Aしかありません。さらに大きなドライブ電圧を得るために、前段の

電源は別に高電圧電源を用意する必要があります。

 以上の点を踏まえて様々な球と回路で試作して見たのですが、たどり着いた回路は古典的位相反転回路で

した。現在では、まず採用される事はない回路ですが歪率特性は意外と良好ですし、実際の音についても数

日間試聴していましたが、三極管ドライブが功を奏したようで私の耳では悪くないのです。

 ただ一点だけ改良していて、下側のカソードパスコンを無くし軽い自己帰還が掛かるようにして、その分

の下側への分圧比を変更しています。上下の動作が違ってしまうのですが、どういう訳か手持ちのどの銘柄

の球を挿しても歪率が下がるので、下側のパスコンは無しとしました。

 という訳で以下のような回路になりました。





 この位相反転回路は、初段上側の出力を利得の分だけ分圧して下側に送り、再度増幅して上下均等な反転

信号を得るというもので、初期の位相反転は段間トランスを使っていましたが、トランス無しでも位相反転

が出来るように考案されました。ただ、均等な反転信号を得るのが机上計算では困難ですし、歪が増えると

思われたのか次第に採用されなくなりました。しかし差動回路とかも同様ですが均衡のとれたPP動作なら

偶数次歪は打ち消されて、その分の歪率は少なくなる筈です。似たような回路にオートバランス型位相反転

回路がありますが、こちらは上側の出力をそのまま下側に送り、下側はPG帰還で「利得1」とする事で、

上下の出力電圧が均等になるようにしています。つまり下側は多量のNFによりほとんど歪を生じないので

PP動作なのに上下の歪が打ち消される事はないのです。その辺りの経過についても試作をして特性データ

も採っているので、いずれ別途レポートしたいと思います。



  製作のポイントとしては

1.既に述べていますが本機に使ったOPTはARITOs Audio Labから発売された新型トランスで、特性も良い

  ので当機の成功はこのOPTに因るところが大きいと思います。念の為に各リード線の色分けを以下に示

  しますが、これを間違えると音が出ませんので注意して配線して下さい。なお上記回路図のE端子はE1

  E2を繋いだものです。

   さらなる概要についてはARITO's Audio Labのページを参照して下さい。




2.電源回路について、本機は試作機なのでお手軽に絶縁トランスで組みましたが、ここは見た目のバランス

  からしても標準仕様の電源トランスと組み合わせたいものです。使えそうなトランスは複数ありますが、

  廉価な春日無線の電源トランスKmB250F2を使えば良いと思います。このトランスを使った場合の

  電源回路を以下に示します。




  高電圧回路は相変わらずの半波倍圧整流ですが、次に来る平滑抵抗で50Vもの電圧降下で平滑していま

  すので、これで問題ないです。

3.初段下側の12AX7Aのカソードは、パスコンがなく交流的に浮いているのでヒーターハムを拾い易い

  状態となっています。試しに手持ちの球を差し替えて見たところ、松下とNECと東芝の球はどれも問題

  なかったのですが、Eiやエレハモ等の旧東欧諸国製の球の中には、一部にハムノイズが載ってしまう球

  がありました。ただ誘導ノイズとかではなくヒーターから直接載ってくるノイズなので、高調波等のない

  50Hz(関東なので)の単音で、スピーカーに耳を近づけなければ聴こえないハムノイズでした。どう

  しても気になるようなら12AX7Aを少し余計に入手して選別すれば良いと思います。なお以下に示す

  諸特性は、松下の球を挿した状態でのデータです。



諸 特 性


 最大出力は設計通りの7Wが得ら

れました。出力段はもう少し出そう

で、ドライブ段の励振電圧で頭打ち

になったようですが、CSPPでは

よくある事なので、これで良しとし

ます。なお高域だけ離れた曲線を描

くのはQAUDUでも見られたので

位相反転回路の特徴と思います。



利得 13.3 dB (4.6倍)

NFB 3.5 dB (1.5倍)

DF= 5 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力7.0W THD3.5%/1kHz

残留ノイズ 0.15mV




 次に周波数特性ですが、仕上がり利得を考えるとオーバーオールのNFが少ししか掛けられないので、

さほど広帯域とはいきませんでしたが、それでもOPTの特性を反映して全くアバレ等が無く、滑らかに

減衰している事が目を引きます。

 最終的に10〜70kHz/−3dBの素直な特性が得られました。




 利得についてもう少し説明しますと、当機の仕上がり利得は上記のように4.6倍でノンクリップ出力の7Wの

出力時に必要な入力電圧は約1.6Vとなります。これはやや低感度なセットとなっていますが、一般的なCDプ

レーヤーの出力電圧は2V程度なので、通常の使用時に不自由はないと思います。NFを外してしまえば利得は

増えますが、どうしても音が荒くなってしまうようで、この程度の軽いNFでも音への貢献度は大きいようです。

そこで使い勝手との折り合いを考えて3.5 dBのNFとなりました。



 後  記

 CSPPアンプは既に何作か手掛けているのですが、今回は作例になるようなアンプとして、とにかく簡単な

回路になるように試行錯誤していたのですが、最終的に選んだ回路は古典的位相反転回路でした。今日では誰も

見向きもしない、この古ぼけた回路が意外にも良い結果を出した事に、少しの驚きと、何でもやって見よう精神

の大切さを感じずには居られませんでした。端正なアンプを作るのも良いけど、バラックセットを弄り回すのも

また楽しいものです。