12G-B7UL cspp






  前章までのCSPPアンプは、ARITO

 さんに巻いて頂いたOPTだったのですが、

 今回は氏の設計試作を元に製品化された染谷

 電子のOPTを使って、元祖のマッキントッ

 シュアンプに少しでも迫るべく、さらなる高

 性能を狙ってみました。

  この染谷電子のOPTは50Wもの伝送能

 力を持つので、このOPTを生かす意味でも

 30W程度の出力のマッキントッシュタイプ

 CSPPアンプを組んでみました。

 まずは出力管を何にするか検討しなければなりませんが、その為には今回使用するOPTの仕様を把握

しておく必要があります。注目の染谷電子のCSPP専用のバイファラー巻きOPT ASTR−12の

仕様は以下のようなものです。



 これを見ると最大許容電源電圧という項目が目を引きますが、これはバイファラー巻きトランスならで

はの制限で、1次側のプレート側巻線とカソード側巻線とは密着させて巻いてあるので、両巻線間の絶縁

は巻線の被覆だけで保っている事から、通常のトランスのような高電圧は許されないのです。ただ逆に言

えば、被覆を傷つけないよう、非常に慎重かつ丁寧な巻線作業が要求される訳で、このような手間の掛か

るOPTが私でも手の届く価格で売り出された事に、大いなる賞賛を贈るものです。

 という訳で電源電圧はなるべく低い方が良いのですが、今回の目標出力が30Wなので1次インピーダ

ンスとの関係で極端に下げる訳にもいきません。白紙の電流電圧のグラフに875Ωのロードラインを引

いて、ニーポイントを50V付近として30W以上得られる電圧を求めると、だいたい300V近い電圧

が必要になりそうです。その条件に合う出力管としては6CA7を始めとして、いくつか候補が挙がるの

ですが、6CA7や6L6GCを使った作例は既にあるので作例を増やす為にも除外する事として、手持

ちの球を眺めていたらテレビ用水平出力管の12G−B7が新旧あわせて十数本出てきましたので、この

12G−B7を使ってCSPPアンプを組んでみる事にしました。

 実は、このテレビ球を使ってみようと思った動機はもう一つあって、CSPPアンプに大変造詣の深い

鱸@日野さんのLUX A3000の解説ページを読んだからでした。それによると、このアンプの出力

段にはKT−88をUL接続で使っていると解説されていましたが、回路図を見るとKT−88のSGは

ただ単にB+に接続されているだけです。しかしカソードはカソード帰還によりプレートと同じだけ振幅

するので、SG電位が一定なら結果的に50%のUL接続と同じ事となるのです。考えてみればその通り

ですが、これには言われるまで気が付きませんでした。そこで今回のアンプでも試してみたいと思ったの

です。さらにこの手の水平出力管は総じてSG耐圧が低く、CSPPで使おうとすると五結でも三結でも

SGへの接続にツェナー等を使って電圧を下げる必要があって扱い難いのでした。ところがSGを電源に

接続するだけで良いなら、適当なSG電源を用意する事は難しい事ではありません。鱸さんは「UL接続

はメリットに乏しい」と書かれていますが、それは専用出力管の場合で、SG電圧の扱いに苦慮する水平

出力管の場合は、これだけでもメリットがありますし、さらにUL接続にした場合の最大出力減少の問題

も、元来がSG電圧の低い水平出力管なら、SG電圧を上げてやれば多少は補う事が出来ると考えます。

なおかつ、大出力のドライブにはブートストラップが必須になる為に、KNFの効果が打ち消されて素の

五極管動作と同様にDFが向上し難い問題も、やはり局部帰還であるUL接続なら改善できるのではない

かと思うのです。という事で水平出力管をCSPPで使う場合には、少なからずUL接続にするメリット

があるように思うので、これらの事も実証してみたいと思ったのでした。

 上記のような理由で、水平出力管をUL接続にするという基本構成は決めたのですが、詳細については

回路図をご覧頂きながら説明したいと思います。




 前段部は相変わらずFETとのカスコードですが、これは前回のセットで選別した時にもう一組採れた

ので有効活用といったところです。さらにブートストラップも、大出力を狙うからにはドライブがさらに

難しくなるのでこの出力には必須の手法でしょう。電源トランスについては、これも手持ちの有効活用で

30W×2を狙うのには容量的に少々不安ですが、まあ「25W以上出せれば良し」という事で採用しま

した。その代わりSG電源はB電源から定電圧回路で落とすのではなく、別に絶縁トランスを使って供給

するようにしました。これなら容量的に不足気味のB電源が大きく変動しても、SG電源は別トランスで

安定しているので、フルスイング時に「もう一伸び」が期待できると思うのです。さらに50%UL接続

の既存データが無く、事前にニーポイントを合わせる事が難しいと思ったので、1次2次ともタップの付

いた絶縁トランスでSG電圧を微調節して、現物合わせでニーポイントをロードライン上に合わせられる

ようにと考えたのでした。

 一方、もしも追試をされる場合には、電源トランスが今では廃品種となっていて入手困難ですが、今回

の電源に最適な電源トランスがOPTと同じ染谷電子から製品化されているので、電源部を以下のように

変更すると良いと思います。


 ただ、このトランスだけではバイアス電圧が取り難いですしSG電圧も不足なので、ノグチの35Vの

ヒータートランスを併用しています。35V用としては一番小型のものですが、上手い具合に2次巻線が

2つあるので、それぞれSG電圧追加用とバイアス用としています。なお染谷電子のP105−37電源

トランスを使った場合には、以下に述べる最大出力を上回ると思います。

 ちなみにヒータートランスを併用したのは、丁度ピッタリのトランスがあったので上記の回路を推奨す

るのですが、染谷の電源トランスならB電源の電流容量に余裕があるので、SG用の電圧はここから定電

圧回路で下げて供給する事も出来ます。その場合は160V巻線が余るので、バイアス電圧はこれを抵抗

等で下げて使えばヒータートランスは不要となります。ただ抵抗や半導体等で降下させる電圧が多くなる

ので、回路的にすっきりするのは、やはりヒータートランスを併用する方法ではないかと思います。



諸 特 性


 気になる最大出力は30Wに僅

かに及ばなかったのですが、それ

よりも、各曲線が素直なカーブを

描いている事が目を引きます。

 特に1kHzはほとんど凹凸の

無い弓形で、私も色々なアンプを

作ってきましたが、こんな綺麗な

カーブを描くアンプを組んだのは

初めてです。


無歪出力27W THD2.3% 1kHz

NFB  15.0dB

DF=10 on-off法1kHz 1V

利得 23.7dB(15.3倍) 1kHz

残留ノイズ 0.68mV


 クリップ出力付近の様子は、出力を上げていくとB電圧がスーっと下がってしまうのが確認されました

から、懸念されていた事ですが30Wを狙うのには電源トランスの容量が不足しているようです。それで

もUL接続でノンクリップ出力27Wが得られたので、先に長々と述べた当初の目的は、ほぼ達成出来た

のではないかと思います。それに音楽を鳴らす時は連続信号ではないので、実際の使用時は30W出力と

変らないと思います。なお本機の30W時の歪率は5.0%/1kHzでした。

 次に周波数特性ですが、15dBの負帰還が掛かっているので高域にピークが出来ているのですが、そ

れほど高いピークではないので微分補正82Pとゾベル補正を付けて最終特性としました。なお82Pと

いうのは単独の数値でもあると思うのですが、私は100Pと470Pをシリーズにしました。面倒なら

100Pだけでも構わないのですが、補正は必要以上に掛けると音質に影響しますし、特性的にも広帯域

を維持したいという思いがありましたし、その甲斐あって補正後の最終特性でも、10Hz〜110kHz/-3dBと

いう広帯域な特性が得られました。




 最後に方形波応答ですが、補正無し波形のオーバーシュートはさほど高くなく、負荷解放でも発振には

至りませんでした。しかし上記のF特ではピークがありますし、音的にも高域が妙に艶っぽいので補正を

掛ける事にしました。




 まずは微分補正として100Pを付けてみたところ、立ち上がりのオーバーシュートは完全に取れたの

ですが、補正が効き過ぎなのか角が丸まるので82Pに減らしました。負荷開放では少しリギングが出ま

すが安定しているのでこれで良しとしました。




 後回しになってしまいましたが、製作の注意点としては初段のFETは事前に選別して特性の揃ったも

のを用意して下さい。ソースのCRDを2本組にして使うようにしたのも、その方が左右で同じ電流値に

合わせやすいと考えたからです。

 それとB電源の平滑用ケミコンは最低でも回路図程度の容量を投入して下さい。このセットではシャー

シ上にスペースが無くて、コンデンサーは全てシャーシ内に収める為に、当初は大きさを優先させて容量

の小さなものを使ったのですが、低域の歪率が下がらないという怪現象に悩まされました。残留ノイズは

さほど多い訳ではないのに、妙だと思ってオシロの波形をよく見ると、波形全体が揺れているようなので

す。乏しい知識で愚考するにアースラインがリップルにより揺すられているようです。しかしアースライ

ンの配線はセオリー通りにしているので、整流直後のコンデンサーの容量を倍増してリップルがアースラ

インに載らないようにしたところ、低域の歪率も素直に下がるようになりました。

 なお低域の歪率が最後まで下がり続けているのは、50Hz地域特有の現象で、リップルノイズが歪率

計のノッチフィルターに排除されているのだと思います。周波数をずらせば0.1Wから下は他の特性曲線

と同様に上昇カーブに転ずるものと思います。


 製 作 後 記

 今回使用した出力管はテレビの水平偏向出力管として幅広く使用された球で、特性が同じ類似管には、

12G−B3、12B−B14、12H−B26、25E5等があってソケットやヒーター電圧等を変更

すれば、どれも同じように使えると思います。さらに、gmが低いのですがピン配置が同じ12DQ6も

あったので差し替えてみたところ、バイアス電圧を5V程度上げるだけで問題なく使用できました。

 ただこれらの球の中には、SG電圧の最大定格が今回の回路よりも低く定められているのもありますが

それは五極管動作の場合であって、UL接続や三結の場合はフルスイング時でもプレートとSGとの電圧

差は大きくならないので、規格表に定められた電圧より少しくらい高くなっても問題ありません。

 さらにCSPPの場合に頭を悩ますSG電圧の供給も簡単ですし、出力低下も少ないという事で、CS

PPと水平出力管のUL接続とは意外と相性が良いと実感した次第です。球の入手にも苦労する事は無い

と思うので、ぜひCSPPアンプにチャレンジして、その音を体験して頂きたいと思うものです。




ト ラ ン ス 情 報

 本章で使用したバイファラー巻きOPTと電源トランスが染谷電子から発売となっています。

入手については以下に問い合わせて見てください。


染谷電子のページへ






目次へ →