東京小さな旅 番外編-山寺冬紀行 山形立石寺

山寺冬紀行 山形立石寺




奥の細道より


序文

月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人なり。

舟の上に生涯を浮べ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々旅にして旅を住みかとす。

古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず。


  



海浜にさすらへ、去年の秋、江上の破屋に蜘蛛の古巣を払ひて、やや年も暮れ、春立てる霞の空に、

白河の関越えんと、そぞろ神のものにつきて心を狂はせ、道祖神の招きにあひて取るもの手につかず。

股引の破れをつづり、笠の緒つけかへて、三里に灸すうるより、松島の月まづ心にかかりて、住めるかたは人に譲り、

杉風が別墅に移るに、 「草の戸も住み替る代ぞ雛の家 」表八句を庵の柱に掛けおく。



    



立石寺

山形領に立石寺といふ山寺あり。慈覚大師の開基にして、ことに清閑の地なり。

一見すべきよし、人々のすすむるによりて、尾花沢よりとって返し、その間七里ばかりなり。

日いまだ暮れず。ふもとの坊に宿借りおきて、山上の堂にのぼる。岩に巌を重ねて山とし、松柏年旧り、

土石老いて苔なめらかに、岩上の院々扉を閉ぢて、物の音きこえず。岸をめぐり、岩を這ひて、仏閣を拝し、

佳景寂寞として心澄みゆくのみおぼゆ。 「閑さや岩にしみ入蝉の声」



  






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