第7話 ノ−スウェスタン大学

 さて、1ヶ月間の語学研修後、いよいよ大学の門を叩きました。シカゴの北、ミシガン湖のほとりに、その大学はあります。まず、驚かされたのは、キャンパスの広さと、いわゆるアメリカ郊外の町並。湖畔の公園では、サイクリングや、ヘッドフォンをつけてローラースケートに興じている人が多くいます。まさしく、ここはアメリカという感じです。そして、大学には、なんと4つの吹奏楽団があるのです! 音楽を専攻している学生の中でもトップクラスのメンバーで構成される「ウィンドアンサンブル」、次が「シンフォニックバンド」、3つめが「コンサートバンド」。最後のひとつは、自校のフットボール・チーム(アメフト)を応援するために結成された「マーチングバンド」です。このマーチングバンドには、およそ200名位の学生が参加していたでしょうか。総合大学でしたので、一般の学生はもちろんのこと、音楽専攻の学生も自分の専門以外の楽器を持って、本当に楽しく参加していたのが印象的でした。
 ところで、これらのバンドに参加するためには、必ずオーディションを受けなければなりません(マーチングの場合は、夏期練習参加)。オーディションは、学期毎にあり、目隠し審査(演奏者が誰だかわからないように、カーテンや衝立を審査員の前に置いて審査するものです。演奏者は、演奏のみで、しゃべってはいけません。お互いに知っているのは、番号だけ。先入観に妨げられず、純粋に音楽だけで評価してくれるのです)で行われました。いかにもアメリカらしいですね。チャンスは公平に、かつ平等で、そして実力次第で、より上のバンドにいくことができるのです。課題曲は、J.イベールの「サクソフォーン小協奏曲」でした。日本の大学の卒業演奏でみっちり練習していましたので、運良く、その「ウィンドアンサンブル」に入ることができました。
 そのウィンドアンサンブルに参加して、最初に出会った作品は、ヒンデミットの「交響曲 変ロ長調」。指揮者のジョン・ペインター氏(その当時、ミッドウエストバンドクリニックの会長を務めていました。ミッドウエストバンドクリニックとは、毎年12月中旬にシカゴで開催されていた管楽器と弦楽器のための講習会で、新譜紹介、楽譜等の展示などもあり全米で注目されていました。氏は、吹奏楽のための編曲作品も書いています)が、冒頭の部分を演奏しながら、「この冒頭部分は、いろいろな楽器の音が絡み合って、ほら、こんなふうにできているんだ。う〜ん、すばらしいだろう」と説きます。この曲は、日本ではあまりお馴染みの作品ではありませんが、東京佼成ウィンドオーケストラがフェネル氏の指揮でCDを出ていると思いますので聴いてみてください。第2楽章にアルトとテナーサクソフォーンのソロ(ソリ)があり、忘れがたい1曲です。このバンドは、とにかくすばらしく、明るい音色、豊富な音量、的確な音程・アーティキュレーション、そしてアンサンブル力を持ち合わせていました。大学には、ステージを取り囲むタイプのすばらしいコンサートホールがあり、そこでのはじめての演奏会後に、これまであまり話しをしなかった同級生、下級生らから賛辞をもらい、その後いろいろな人と話しをしていくようになります。一般的に音楽は世界共通語であるとよく言われますが、この時に、はじめて実感しました。(つづく)

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