音を作る

●マウスピースのくわえかた Embouchure

 マウスピースのくわえかたを「アンブッシュアー」と呼びますが、基本さえ守れば、むずかしいものではありません。まず、上の歯をマウスピースの先端から約1cm離れたところに置きます。この場合、右手の人さし指の爪で約1cm離れたところにあて、上の歯をその爪にあたるところまでもっていくとわかりやすいでしょう。
 次に、下唇を下の歯の上に巻くようにかぶせ、マウスピースをしっかりくわえます。
 ね!簡単でしょう。これでできあがりです。とはいうものの、この状態で実際に楽器を吹いてみてもきれいな音はでませんね(きれいな音が出ていれば、あなたの素質とセンスは抜群です)。それでは、ここで注意しなくてはいけない大切なことを書いてみましょう。

 これらのことが守られていれば、楽器が壊れていない限り、良い音は出ます。実際、デファイエ氏が日本にやってきてマスタークラスを開催したことがあるのですが、その時の受講者にごく簡単に「下唇を巻いて、しっかり噛めば、あとは自然に楽器が鳴ってくれます」と説明していました。

(1)姿勢
 良い音がでて、音を自由にコントロールできて、指が回れば、それで十分なのですが、変な癖がついてしまってから、直そうと思ってみてもすぐ直せるものではありませんので、基本は知っておきましょう。

 まず、身体をごく普通に、姿勢の良い状態にもっていきます。背筋をのばして、両足はやや開きます。身体の重心をやや前に持ってくる感じのほうが、重心がちょうどまん中にくるかもしれません。
 次に、ストラップを首にかけ、楽器のフックにつけたらその長さを調整します。慣れていない人には固くて調整するのがむずかしいこともありますので、経験者が手伝ってあげましょう。ここで大切なのは、マウスピースが口の位置にくることです。口をマウスピースにもっていってはいけません。それだけで、最初にとった良い姿勢は崩れてしまいます。
 さらに楽器本体を身体の前の自分の中心線にもってきます。右腕が背中の線より後ろでは、変な力が肩や腕に入ってしまうので注意しましょう。逆に右手の親指で楽器を前に押し出す感じで持ちます。楽器を自分の中心線にもってくるのは、口が体の中心線にあるからです。

(2)上の歯
 上の歯の置き方は先ほど書いたとおりです。深くくわえると大きな音はでますが、非常に乱暴な音になりますし、逆に浅くくわえると小さな音しかでず、こもった音になってしまします。そこで私がたどり着いたのが1cmの距離です。
 また、頭の重さをマウスピースにかけるようにしっかり噛みます。楽器を吹いている時に、ぐらついているようではいい音はでません。これをチェックする方法は後で書きましょう。

(3)下唇の巻き加減
 唇の厚さや固さなど人によってまちまちですので、巻き方は一概には言えません。ヘムケ博士も必要以上の下唇の巻きは不要だといっています。
 それではどうすればよいのでしょうか。自分の指をリードに見立てて、下唇を巻いてみます。浅い感じ、深い感じ、その中間の感じを自分で体験してみます。下唇はリードをじょうずに振動させるためのクッションの役割をもちますので、一番柔らかい部分を自分の指と下の歯で感じながら探してみます。一番柔らかいと思えるところが、あなたのベストポイントです
 おなじような感じになるように下唇を巻き、マウスピースをくわえてみます。わからなくなったら、また指で探してみましょう。

(4)舌の位置
 舌は、下の歯の裏に先端がついていて、平らになるように自然に置きます。マウスピースをくわえると見えなくなってしまうので、わかりづらい部分ですが、くわえる前に舌の感じをつかんでおきましょう。特に、舌が「し」の字にならないようにしてください。中〜低音域を吹く時には、舌を平らにすることが必須の条件です。

(5)息の入れ方
 息の入れ方は、吹奏楽器を演奏する上で最も重要な要素です。バイオリンなどの弦楽器のボーイング(弓で弦をこすること)にあたる部分ですので、すぐにできるものではありませんが、時間をかけてじっくりと練習しましょう。
 息を入れることは、ふつう自然に行っている呼吸とはちょっと違います。ご存知の人もいるかもしれませんが、楽器を吹く場合は、横隔膜を利用した腹式呼吸を使います。ただ、腹式呼吸というと息の吸い方のみに焦点が当たってしまう傾向にあるようです。楽器を吹く場合には、息を吐き出す作業の「吹く」という要素がより重要になってきます。

 腹式呼吸を簡単に説明します。肺にあたる胸郭という部分を広げた状態で(胸の中に息が入っている感じ)、おなかを膨らませるように息を吸い込みます。この時に、肺と胃腸の間にある横隔膜が下がる状態になるのでおなかが膨らみます。吐き出す時は、その状態からこの横隔膜を上に持ち上げる感じで息を吐き出していきます。おなかと背中がくっつく状態まで横隔膜を動かせれば完璧です。

 息の方向も大切です。口の前に自分の手のひらをもっていき、ロウソクの火を消すつもりで、息を出してみましょう。最初は手のひらを口の近く約15cmにもっていきます。これならば普通は手のひらに息を感じることができます。しかし、息が右往左往しているようではいけません。手のひらの真ん中にまとめるようにします。これができたら20cm、30cmと、手のひらと口の距離を離していきます。20cm、30cmでも15cmの時と同じように手のひらの真ん中に息があたっていればOKです。

楽器を吹いてみよう
 これらの手順を踏んだら実際に楽器を吹くことになりますが、楽器の組み立てかた(本体、ネック、マウスピースをつなぎ、リードをつける)は、経験者や楽器屋さんに聞いたり、説明書をご覧ください。
 吹く前には、リードを湿らせます。小さなコップ(写真のフィルムケースがちょうど良いサイズ)に水を入れてリードを浸して湿らせるのでも、口の中でなめて湿らせるのでもどちらでも結構です。リードを湿らせることで、リードがスムースに振動するようになります。

 それでは、キーは何も押さずに実際に吹いてみましょう。良い音が出ているでしょうか。変な音しか出ないようでしたら、上の歯の位置、下唇の巻き方、息の入れ方の手順をもう一度踏んでください。特に息の入れ方の手順を何度も確かめることで、のどの力が抜けて、楽器の中に息がスムースに入っていくことになるでしょう。

 これからの練習では、自分の音を自分の耳で聴いて確かめることになります。自分の音をよく聞き、良い音が出ているのかいつも確かめるようにしてください。サクソフォーンの専門家にレッスンを受けられれば、上達するスピードは見違えるほど速くなります。

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