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no.100 10月21日 ウィントン・マルサリス

 10月10日、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホールで行われたウィントン・マルサリス&リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラと新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートに行ってきました。会場は9割方が埋め尽くされ、今から始まろうとしている音楽シーンに、期待が否応無しに膨らんでいました。プログラムは、第1部はビッグ・バンドの単独ステージ、第2部がビッグ・バンドとオーケストラの共演ステージで、すべてがデューク・エリントン・ナンバー。

 まず、はじめに、マルサリスを簡単にご紹介すると、クラシックのトランペットの勉強を12歳で始め、マーチング・バンド、ジャズ・バンド、ユース・オーケストラで経験を積み、17歳でジュリアード音楽院に入学し、クラシックはもとより、一流ジャズ・ミュージシャンとも共演する、天才トランペッターで、クラシック、ジャズの両部門でグラミー賞を受賞した、ただ一人のアーティストです。さらに作曲家・編曲家・教育者としても活躍しています。数年前になると思いますが、正月のテレビで、子供達に音楽の基礎と楽しさを教える小澤征爾の番組に出演しているので、ご存知の方も多いでしょう。

 そんなマルサリスの音を生で聴きたい、このチャンスを逃したら2度と聴けないかも知れないと思い、仕事を早々に切り上げ、錦糸町に向いました。会場は熱気ムンムンで、私と同じようにマルサリスの音を聴きたいという人達で一杯でした。外国の人も多く見かけました。そして、リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラのメンバーが登場してきました。マイクを持つのはマルサリスで、まず最初にメンバー紹介を行い、そして演奏に入りました。実に柔らかいサウンドです。これまでに聴いたカウント・ベーシー・オーケストラや秋吉敏子&ルー・タバキン・ビッグ・バンドとは、まるで違った洗練された音でした。ダブル・ベースはアンプを通さない生の音。それでも2階席にいる私のところまで充分に音が届きました。ドラムは、「叩く」というより「奏でる」という表現がぴったりの音。これまで何度かジャズのドラムの音を聴いていますが、いつも「奏でる」タイプです。軽やかに、撫でるようにリズムを刻む繊細な音、それに加えてマレットでのドラムの演奏に大満足。(日本ではどうして叩き付けるドラムしか聴けないのだろう? 力強いイメージが先行しているためでしょうかねぇ) そして、マルサリスは、凄い! 自由自在に音を操るテクニックをまざまざと見せつけられてしまいました。超絶技巧をひけらかすのでは決してありませんが、テクニック無しでは吹けない音を作り出していました。私もサックスで、彼のような音に挑戦してみたいと思いました。

 休憩時間にサンドウィッチと赤ワインをいただきながら、後半のオーケストラとの共演に期待が益々膨らみました。どんなサウンドになるのだろう?

 そして、第2部開始のチャイムが鳴り、オーケストラがスタンバイしている中、ジャズ・オーケストラのメンバーが登場してきました。彼らはほぼ中央に座り、新日本フィルは彼らを囲むように座っています。つまり、弦楽器が左右に、管楽器が彼らの後ろに並ぶという配置でした。そして指揮者の井上道義が登場し、井上が両オーケストラを紹介の後、演奏に入りました。思いのほか、ビッグ・バンドとオーケストラが程よくブレンドされ聞こえてきました。これらのアレンジはマルサリスが99年に1年がかりで完成したものなのだそうです。一番の聴き応えのあったのはプログラム最後の「A Tone Parallel to Harlem」で、新日本フィルの管のメンバーもビッグ・バンドとの協奏を楽しんでいました。アンコールは、ジャズ・オーケストラ単独の演奏。カウント・ベーシー風の豪華なサウンドになり、マルサリスもそれに応えてソロを巧みに、かつ力強く演奏しました。もう1曲くらい新日本フィルとの演奏がが聴きたかったなぁ。

 このコンサートの感想を一言でいうならば「マルサリスは素晴しい!」 私の感性に新しい音楽を加えてくれました。

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