アメリカでの配偶者の不貞相手に対する慰謝料請求
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2023.7.9mf
弁護士河原崎弘
相談:どこの国の法律が適用されるか
アメリカ人の夫と結婚し、カリフォルニア州に5年住んでいます。子供は1人います。
4か月前に夫の浮気が発覚しました。その時、私は、相手の女性と会いましたが、相手は、不貞を認めました。しかし、相手は、謝罪しませんでした。夫とは、あまりうまくいっていたとは言えませんが、何とか普通の生活でした。夫の浮気が発覚後、私たちは、別居することになってしまいました。夫は、現在、相手の女性と住んでいます。私たちは、もう離婚になると思います。
私の、今の気持ちは、相手の女性に、せめて慰謝料を支払ってもらいたいと思っています。
そうでなければ、わたしは一生このまま怨んだ気持ちを持ち続けることになりそうです。精神的にもとても不安定で、仕事にいけない日もあります。
主人とは、日本でも籍を入れてました。私は、離婚するときに慰謝料は請求できないのでしょうか。
当地(カリフォルニア)の弁護士に相談しますと、弁護士は、不法行為の考え方が違い、「アメリカの法律では、女性に対し、慰謝料請求できない」と言うのです。
もし、日本でこれらの裁判ができるのであれば、帰国してもいいと思っています。どうかお力を貸してください。
なお、相手の女性は日本人です。
回答:アメリカの法律が適用される
準拠法
どこの国の法律が適用されるかの問題があります。すなわち、準拠法の問題です。日本では、法の適用に関する通則法(以下、通則法)が適用する法律を決めます。
通則法17条によると、「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法律による」と規定されています。
加害行為の結果が発生した地は、カリフォルニアですから、
この慰謝料請求に適用される法律は、カリフォルニア州の法律です。
離婚については、通則法27条により、「夫婦の常居所地法が同一であるときは、その法による」と規定されています。従って、適用される法律は、カリフォルニア州の法律です。
管轄裁判所
女性に対する慰謝料請求の管轄裁判所は、カリフォルニア州の裁判所です。
カリフォルニア州の法律で、不貞の慰謝料を請求できるのか、正確には、わかりません。しかし、カリフォルニア州の民法には下記のような規定(不貞を理由に訴え提起できない)がありますので、慰謝料請求はできないでしょう。アメリカの多くの州では、このような訴訟は、乱用され、恐喝の手段になり、損害が不明確との理由で、法律または判例で認められていません。北欧などでも、このような形の慰謝料を認めていません。
女性が日本にいると、あなたは、日本の裁判所に対し、女性に対する慰謝料請求の訴えを提起できます。しかし、適用される法律は、法の適用に関する通則法17条により、多分、カリフォルニア州の法律でしょう。そうなると、あなたの慰謝料請求は、日本の裁判所においても、認められない可能性があります。
離婚の管轄裁判所は、カリフォルニア州の裁判所です。
日本で離婚裁判ができるのは、あなたが日本に住み、夫から、遺棄された場合です。
法の適用に関する通則法(抄)
(不法行為) |
第17条 | 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。 |
(婚姻の効力) |
第25条 | 婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
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(離婚) |
第27条 | 第25条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。
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カリフォルニア州の法律
カリフォルニア州の民法、Section 43.5(b)は、Criminal conversation(姦通)を請求原因(cause of action) として訴えることを許さないのです。下記サイトで確認できます。
California Legistlative Infomation
Casetext.com
FindLaw
JUSTIA 43-5
California Public Law
CodeはCIV、 Sectionは4.5、DIVISIONは1、PARTは2を入れる。Keywordは、Criminal conversation。
43.5. No cause of action arises for:
(a) Alienation of affection.
(b) Criminal conversation.
(c) Seduction of a person over the age of legal consent.
(d) Breach of promise of marriage.
判例
- 東京地方裁判所平成26年9月5日判決
通則法一七条前段は、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法によると規定する。ここにいう加害行為の結果が発生した地とは、加害行為により直接に侵害された権利が侵害発生時に所在した地をいうと解される。
これを本件についてみると、上記一(1)ア、イ(ア)(イ)(エ)(オ)、ウ(カ)のとおり、原告花子は、平成二二年当時、ニューヨークに約一三年もの長期間居住し、仕事をしており、被告と原告太郎の間で不貞行為が行われた平成二二年五月から九月までの間も、上記一(1)イ(エ)及びウ(カ)のとおり、原告花子は、その大半をニューヨークで過ごし、平成二二年二月一五日に原告太郎と婚姻後も、原告花子がニューヨークで暮らし、原告太郎が原告花子と過ごすためにニューヨークに訪れる方法で婚姻生活を営んでいたから、上記の不貞行為の当時、原告花子の生活の本拠はニューヨークにあり、不法行為により保護されるべき婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益はニューヨークにあったものということができる。したがって、結果発生地はニューヨークであり、不貞行為に基づく慰謝料請求権の準拠法は、ニューヨーク州法である。
- 東京地方裁判所平成15年4月23日判決
準拠法について
前記第2の2の争いのない事実等及び前記1で認定した事実によれば,原告らが本訴において不法行為に当たると主張する被告らの行為には,日本におけるものとハワイ州におけるものとがある。このうちハワイ州におけるものの不法行為の成否及び効力は,法例11条1項の規定により,不法行為地法であるハワイ州法が準拠法となるが,同条2項及び3項により,ハワイ州法に基づく不法行為の成立及び効力は,日本法の認める限度でのみ肯定されるから,以下,不法行為の成否及び効力については,まず日本法に基づき判断することとする。
2006.7.20
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