親子間の金銭貸借で贈与税を課せられないために
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2023.5.15mf
弁護士河原崎弘
相談
手持ち金600万円、父から、2000万円借りて、マンションを買う予定です。きちんと証拠を残しておかないと、税務署から贈与と認定され、贈与税を課せられると聞きました。
どのような証拠を残しておくとよいでしょうか。
相談者は、電話で予約をし、弁護士会で法律相談をしました。
回答
税務署は、高額な資産の移動については、関心を持っています。あなたが、マンションを買うと、税務署から、資金をどこから出したか、尋ねてくるでしょう。
住宅の購入資金の一部を親から「もらったの」(贈与)場合、「住宅取得資金贈与の特例」(非課税枠3500万円)といった贈与税の優遇措置があります。
この特例の適用条件に合致しなかった場合は、贈与税を課せられます。贈与税は税率が高いです。贈与税計算機 で計算すると、わかりますが、2000万円の贈与の場合、贈与税は695万円です。
もらったのではなく、親からの借金した場合には、贈与税は課せられません。その場合でも、贈与ではなく、借金であることを第三者から見ても認められように明確にしておく必要があります。
親子の関係では、真実、「借りた」場合でも、とかく親子間では書類を作らない場合も多いです。これでは、借りたとの証拠がないので、「もらっている」(贈与)と認定をされるおそれがあります。さらに、借用書をつくるなどして、形式を整えたとしても、きちんと返済をしていないと、これも実態は贈与ですから、税務署も贈与と看做すおそれがあります。実際に、贈与税をかけられる例も少なくありません。
そこで、必要なことは、次のとおりです。
- 借用書(借主のみの署名捺印)の書式にせず、金銭消費貸借契約 などの書式にして、当事者である、親と子が署名捺印する。
- 現在の相場でよいですから、契約書の中で、利息の条項を入れること。
- そしてできれば、実際は贈与であることを隠すために、税金対策のために金銭消費貸借契約を後から作ったのではないことを証明するため、契約書作成時に公証役場で、確定日付印を押してもらうこと。手数料は、1通700円です。公正証書にする必要はないでしょう。
- 面倒でも、現金による返済でなく、子は定期的に親の口座に銀行振込みし、返済している証拠、すなわち、借金である証拠を残しておくこと。
返済したことを振込票で証拠を残すことは、税務対策だけでなく、相続の際、他の相続人から、特別受益(贈与)と疑われることを避けるためにも必要です。
裁決・判決
- 国税不服審判所平成25年10月7日裁決
原処分庁は、請求人の父H名義の預金口座から出金された金員(本件資金)が、平成18年に請求人の母G名義の預金口座に入金されたことによって、母G(平成22年死亡)は父Hからこの入金に係る金員(本件入金額)に相当する利益を受けたと主張する。
しかしながら、母Gは、遅くとも昭和63年頃から父Hが経営していたU社の取締役に就任しており収入を得ていたと推認されるので、本件資金の入金前数か月間に解約された母G名義の定期預金等は、母Gの固有の資産であると認められ、また、父H固有の資産のうちに、本件資金の原資たり得るものがあった事実も認められないことから、本件資金の原資はこれら母Gの定期預金等であると推認される。そして、平成16年以降の母Gの病状等からすると、本件資金の入金当時において、母Gの預金等を父Hと母Gの子らが管理していたことが推認される。
以上のことからすると、本件入金額は、母Gの預金を管理していた父Hが、母Gの定期預金等を解約したものを、一旦父H名義の預金口座に入金した上で母G名義の預金口座に入金したものと認められるから、母Gは父Hから本件入金額に相当する利益を受けたものとはいえない。
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津地方裁判所平成15年12月4日判決(出典:判例秘書)
相続税法1条の2に定める贈与税の課税原因となる贈与は,贈与者の贈与の意思表示に対して受贈者がこれを受諾する
ことによって成立する契約であるが,一般に妻子等自己と極めて親密な身分関係にある者の間で財貨の移動があった場合,これが租税
回避の手段としてされることが少なくない。そのため,贈与税の課税に当たっては実質課税の原則に則り,実質に着目して行われるべ
きである。
したがって,親族間で財産的利益の付与がされた場合には,後にその利益と同等の価値が現実に返還されるか又は将来返還
されることが極めて確実である等(若しくは,名義上の利益付与等)特別の事情が存在しない限り,贈与であると認めるのが相当であ
る。
これを本件についてみるに,上記1の認定にかかる,@本件の資金移動の際に金銭消費貸借契約書は作成されておらず,返済期限も定
められていなかったこと,AH,G及びBは原告に対して返済を催告したり,訴訟を提起するなど返還を求める具体的な行動を起こし
ておらず,原告はHらに金銭を返還していないこと,BP税理士の作成したBの相続税申告書には原告に対して3430万円の生前贈
与がされたとの記載があること,CHから金銭を受け取るに当たって,競売物件の仲介業を営み多額の金銭を貸し付けても不自然では
なく疑われにくい知人2名からの借入れがあったように偽装していること,DHらから原告への資金提供であるにもかかわらず,A商
店と原告,A商店とHらという真実に反する不自然な公正証書を作成し,税務当局に対し取引の実態を殊更に糊塗しようとしているこ
となどの諸事情に鑑みれば,本件取引は贈与であると認めるべきである。
相続税法9条
第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。
相続税法基本通達9−10
夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする。
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