借主が自己破産したが、貸主(債権者)に通知がない
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Last updated 2017.11.15mf
弁護士河原崎弘
相談:破産の通知が来ない
私は、友人にお金を貸しました。相手は返してくれませんでした。
最近、私から返済を請求すると、借主は「破産した」と、言って返してくれません。破産手続きは全て終了したそうです。
破産すると債務を返済しなくてもよくなると聞いていますが、私は、返済請求できないのでしょうか。
なお、破産すると裁判所から通知が来るそうですが、私に対しては来ていません。
回答
免責
裁判所が 破産 決定をし、その後、免責決定をすると、破産者は債務の支払義務を免除されます(破産法 253 条1項 )。免責決定を得ることが自己破産の目的です。免責されない場合
しかし、これには例外があり、次の債務は免除されません。
破産法253条1項
- 租税
- 破産者が悪意で行った不法行為に基づく損害賠償債務
- 雇用契約に基づく使用人に対する債務、使用人から預ったお金の返還債務
- 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償義務
- 扶養義務に基づく債務、養育費、婚姻費用分担債務、および、これに類する債務で契約に基づくもの
- 債権者が破産宣告を知っている場合を除き、破産者が知っていながら裁判所に提出する債権者名簿に載せなかった債権者に対する債務
- 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料
債権者名簿
破産の申立および免責の申立に際し、申立人は裁判所に対し、債権者名簿を提出します。裁判所は、債権者名簿に載せられた債権者に通知をします。債権者から意見を聴くためです。- 債権者は、免責申立てについて
裁判所が定める(官報に公告された日から)1か月以上の期間(この期間は裁判所が債権者に通知します)内に(財産隠匿があるなどの)意見を述べることができます(意見陳述期間、破産法251条)。
- さらに、免責許可があったときは債権者は、公告の日から2週間以内に即時抗告ができます(252条5項、9条)。
- さらに、債権者は、破産者が財産隠匿などで有罪判決を受けた場合、破産者に不正な行為があった場合は、免責取消しの申立ができます(免責許可決定後1年内、254条)。
裁判所からあなた宛てに通知がなかったのですから、あなたは、意見を述べるなどの機会がありませんでした。
その理由は、借主(破産者)が債権者名簿にあなたを載せなかったのでしょう。その場合は、免責の例外の上記6に該当しますから、「破産者が知っていながら」との条件は付きますが、あなたの債権は、原則として免責されません。
従って、免責決定にもかかわらず、あなたは、依然として借主(破産者)に対し貸金の返済を請求できます。
弁護士が自己破産の申立を受任する場合、債権者名簿の記載に漏れがないかについては、非常に気を使います。
依頼者によっては、特定の債権者、例えば、勤務先(勤務先から借りている場合)などを、故意に隠して記載しない不誠実な人が、結構、います(結局、虚偽の債権者名簿が作成されます)。そこで、危ない依頼者の事件の場合、後で、問題が発生しないように、弁護士は、依頼者に対し、作成した債権者名簿に署名、捺印してもらうほどです。
債権者名簿に載せなかった場合についての判例
-
東京地方裁判所平成28年5月31日判決
(2) 原告は,被告に対して破産開始手続き開始決定があった後の平成20年3月10日,同年4月10日,同年5月9日,同年6月10日,同年7月10日,
同年8月8日,同年9月10日,同年10月10日,同年11月10日,同年12月10日,平成21年1月9日,同年2月10日,同年3月10日においても,被告
に対する買掛金から,本件立替金の各月分を控除して支払うという処理を続けており(甲第5号証の1,2),被告やその破産管財人がそのような処理について異議を
述べたことを認めるに足りる証拠はなく(Aおよび被告の破産手続きの事件記録は既に廃棄されている(乙第9号証)。),このことは,被告が,原告が債権者である
ことを知りながら債権者名簿に記載しなかったことを強く推認させる事情である。
被告は,原告は,被告について破産手続き開始決定があったことを知っていたと主張するが,Aの破産についてはともかく,被告個人の破産を原告が知ってい
たと認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって,原告の被告に対する前記2(4)の立替金請求権は,破産法253条1項6号により,免責許可決定の効力が及ばない。
- 東京地方裁判所平成18年2月27日判決(判例秘書)
2 争点(2)について
(1)以上のとおり、原告には被告に対する本件合意に基づく返還請求権及び遅延損害金が発生しているが、前記前提事実のとおり、被告が免責決定を受け確定してい
るため、これらが自然債務となって、被告に対する強制執行が許されない可能性があるところ、本訴求債権は、破産宣告前に発生していたにもかかわらず、債権者名簿に
記載されていない(前記前提事実及び前記認定事実)。
(2)そこで、本訴求債権が非免責債権に該当するか、以下検討する。
原告は、被告は本訴求債権の存在を知りながら債権者名簿に記載しなかった旨主張し、被告はこれを否認するところ、前記前提事実及び前記認定事実のとおり、
被告は、借用書(甲1)を作成し、かつ、原告から何度も返済を求められていたのであるから、本訴求債権の存在を知っていたと認められる。
しかも、前記前提事実、上記認定事実及び証拠(原告及び被告各本人)によれば、原告は被告から回収する目的で被告の上司に相談したところ、被告はその上司
を通じて回答したが原告からの借入を否定していなかったこと、それは本件破産手続中の平成17年3月であったが、被告は、原告から請求されていることを破産裁判所
及び破産管財人に何ら報告せず、被告の破産申立代理人弁護士に相談していなかったことが認められ、原告の存在を隠していた可能性すらあるから、借金との認識がなか
ったから載せなかった旨の主張は到底採用できない。
3 争点(3)について
(1)被告は、原告が被告について破産手続開始の決定があったことを知っていたとして、本訴求債権は非免責債権に該当しない旨主張する。
(2)前記前提事実、前記認定事実と証拠(原告及び被告各本人)と弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から、平成16年秋に、被告が自己破産の申立てをしようと
思っている旨を聞き、同年11月に破産手続になった場合郵便物が破産管財人に届くようになる等の説明を受け、平成17年3月、被告の上司を通じて、被告が破産手続
をしていると聞いたものの、具体的なものではなく、半信半疑であり、弁護士のアドバイスを受けて待っていた破産裁判所からの通知が来なかったことから、被告の破産
申立ては話だけと理解して、同年6月に本件訴訟の提起を決め、同年7月に提起したこと、被告が原告に対し、本件破産手続開始の決定があったことを知らせたことはな
いことを認めることができる。
(3)以上のとおり、原告が近い将来被告が破産の申立てをする可能性があると知らされていたとしても、破産申立を予告したまま年月を重ねる例がないわけでもなく、
真に申し立てるのか否か、破産申立てがどの程度先のことなのかは不明であるから、破産裁判所からの通知の有無で判断しようとするのは不自然な行動ではなく、原告が
本件破産手続開始の決定があったことを知っていたとまでいうことはできない。
4 争点(4)について
被告は、原告が本件訴訟を提起したこと及び破産免責の効果が本訴求債権に及ばない旨主張するのは、権利の濫用である旨主張する。
しかしながら、被告は、例えば成立に争いがある旨付記して債権者名簿に記載する方法も考えられるのに、原告が請求しているにもかかわらずこれを行わなかった
ものであり、原告を非難し得る立場にない。そして、前項で認定した事実によれば、原告の本件訴訟の提起及び主張を権利の濫用と評価することができないことは明らか
である。
- 東京地方裁判所判決、平成14年2月27日(金融法務事情1656号60頁)
破産法366条の12第5号は、「破産者が知りて債権者名簿に記載せざりし請求権」は、免責によって責任を逃れることはない旨規定するが、これは、
債権者名簿に記載されなかった債権者は、破産手続の開始を知らず、債権の届出をしなかった債権者は、審尋期日をしることができず、そうすれば、免責に対す
る異議申立ての機会が与えられないことから、債権者が、特に破産宣告の事実を知っていた場合を除き、免責されない債権として債権者を保護しようとしたもの
である。一方、破産免責制度は、不誠実でない破産者の更生を目的として定められたものであることを併せて考慮すれば、破産者が、債権の存在を知って債権者
名簿に記載しなかった場合のみならず、記載しなかったことが過失に基づく場合にも免責されないと解すべきである。
- 名古屋高裁平成5年1月28日決定(判例時報1497-131)
賭事、遊興の過去を知っている債権者をことさら債権者名簿に載せなかった事件では、虚偽の債権者名簿を提出したことを理由に(破産法366条の9の3号)免責不許可とした例があります。
この場合は免責そのものを不許可としたのです。
登録 Aug. 5, 1998