森本毅郎 現場にアタック、今朝は音楽評論家・高橋健太郎さんにスタジオに来ていただきました。お早うございます。
高橋健太郎 お早うございます。
森本 高橋さんはですね、「今国会で審議中の著作権法の改正案には、大きな問題がある」ということで、この法案に反対を訴えてらっしゃるということなので、今日はそのお話を伺おうと思うんですが、高橋さん、まず、この著作権法改正案の何が問題なんでしょうか。
高橋 あの、著作権法改正案にはいろんな条項があるんですけれども、私たち音楽評論家が今すごく大きな問題と考えているのは、この中で、CDの輸入盤を規制するところがあるんですね。
森本 CDの輸入盤規制、ほうほう。
高橋 で、今はまあ、東京のレコードショップとかに行くと、まあ、輸入盤もたくさん売ってますし、で、国内盤と輸入盤、同じCDを買いに行ってもどちらかを選べたりするわけですけども、これが国内発売されたものに関しては輸入盤の並行輸入を禁止できるようになるんですね。
森本 ほうほう。
高橋 で、やっぱり問題としては、選択肢がなくなってしまう、選べなくなる。で、場合によっては、国内盤も輸入盤も両方買えなくて、買いたいのに買えない、聞きたいのに聞けない。そうすると今度は、不法コピーとかでしか入手できなくなって、不法コピーも増大してしまう。そういうような懸念があるわけです。
森本 なんで、また輸入盤をそんなに規制しようとしてますか?
高橋 もともとはですね、これは還流盤というのを規制しようという法案だったんですね。
森本 還流盤……。
高橋 はい、還流盤というのは日本の音楽が、まあ、例えばアジアの諸国とかでCDが発売されて、その生産されたCDが日本に戻ってきてしまう。逆輸入ですね。
森本 海賊盤、という意味ですか?
高橋 いや、海賊盤ではないです。
森本 じゃないんですか?
高橋 ええ、正規にライセンス契約をして、ただあの、中国ですとか、香港・台湾なんかだと価格が安いですよね、日本より。
森本 ええ、ええ。
高橋 それが今度、日本へ逆輸入されてくると、日本盤よりも2〜3割安い値段でディスカウントショップなどで売られてしまう。そうすると、レコード会社にちょっと打撃が大きい。まあ、アーティストにとっても不利益がある。ということで、還流盤を防止する法案を文化庁が提出して、日本のレコード協会も「還流防止はどうしても必要である」ということで国会に求めて、で、国会で審議された法案だったんですね。元々は。
森本 それが何で輸入盤全体に及びますか?
高橋 私たちも最初はそういうふうに理解して見ていたら、参議院で審議されている過程で、「内外は不差別である」と。なので、それが日本の音楽であろうが、欧米の音楽であろうが扱いは同じであるので、欧米の音楽も同じように……その、今回の著作権法改正案の中で「輸入権」とは謳ってないんですけども、外国では輸入権って言われているものができるんですね。
森本 ええ。
高橋 それを使えば、輸入禁止ができてしまう。ということなんですね。
森本 しかしですね、まあ、市場の自由競争の中ではレコードに限らずですね、安い外国の製品が入ってくると、あるいは食品が入ってくると、それと日本のその生産業者や人たちは戦うわけですね。そういう自由市場を規制する、っていうことになりませんか?
高橋 そうですね。ですから、公正取引委員会などはやっぱり問題視しているところがありますし、独占禁止法に照らせば自由競争がなくなってしまうわけですから、「価格競争がなくて高い価格になってしまうんじゃないか」っていう懸念もありますし。
森本 はい。
高橋 ただ、この法律っていうのはあくまで著作権法ですので、著作権者の権利を守るためには「自由競争がなくなるというところで多少消費者に不利益があっても、しかたないんじゃないか」というような法案と考えてもいいと思いますね。
森本 なるほどねえ。ま、レコード会社にとると、高い国内盤が売れたほうがいいと。そういうことですよね。非常にわかりやすくいえば。
高橋 ええ。
森本 ハハ(苦笑)、それ、どうなんですかね。ユーザー側にとってみるとねぇ。
高橋 そうですね、で、私たちが一番問題にするのは、その価格のことは……とはいえまあ、レコード会社対レコード会社ではまだ競争はありますし、あまり高くすれば売れないということもあると思いますけども、やっぱり「買いたいものが買えなくなってしまう」。これが一番問題ですね。
森本 ええ、それはそうですね。あの、私の知り合いなんかでも、もう輸入盤のレコードをずいぶん楽しみにして探しに行く人間がいるわけですけど、それ、できなくなっちゃうってことになりますか?
高橋 そうですね。で、一番僕がすごく心配してることは、これはアーティストにとっても問題なんですけども、最大輸入禁止期間が7年って定められてるんですよ。で、一回国内発売されてしまうと、最大7年間輸入禁止措置が執られるんですね。
森本 ええ。
高橋 ですけれど、日本のレコード会社って、発売しても大体1年くらいで生産中止して、カタログからも落としてしまうんですよ。でも、それを誰にも通知しなければ、税関はそのまま輸入禁止措置を続けますから、そうすると国内盤も買えない、輸入盤も買えない。アーティストにとっては、「日本で売ってると思ったら、どこにも売ってない」っていう。消費者も、著作権者も両方不利益を得る(被る)というような状況も出てきてしまうと思います。
森本 これ、どうなんでしょうか、この法案は、成立する見通しになっちゃってるんですか?
高橋 まあ、すでに参議院を通ってしまっていますので、衆議院で廃案とかいう見込みはほとんどないと言ってもいいくらいだと思いますね。
森本 はぁ。これはどうなんです? 音楽関係者の方たちが何かそれに対するこう、動きっていうものはあるんでしょうか?
高橋 ええ、あのー、この法案に関してはやっぱり情報がものすごく無くて……。
森本 そうなんです! 実はね、申し訳ないんだけど私たちもね、ちょっと、そのことについてはね、「えっ、そんな話だったの?」ってことになっちゃうんですよね。
高橋 そうなんですよ。もう、年金のことで……(笑)。
森本 (笑)申し訳ない。
高橋 いや、私たち音楽業界の中にいても本当に知らなくて、もう、その参議院を全会一致で通ったあとに知った人がほとんどですね。何しろあの、レコード会社の取締役とかに聞いても「何? その法案」みたいなぐらいに、何ていうか、業界の中でのヒアリングも何もされていない。
森本 うーん。
高橋 で、その状態で参議院が通過してしまったような状況で、しかも、「還流盤の防止だ」ということでずっと説明されていたのが、参議院で文化庁の説明を受けたら、「いや、そんなことはない。洋楽全部、ジャズもクラシックもすべてに適用される法律である」ということがわかったんですね。
森本 ええ。
高橋 で、この、ほんと1〜2週間の間なんですけれども、反対する動きが急速に大きくなりまして。先週の火曜日に、私たち音楽メディアの関係者、25誌以上の音楽雑誌やオーディオ雑誌の編集長と200人近い音楽評論家、全部で268名……現在は353名になってるんですけども、音楽メディア関係者が反対の声明を発表したんです。それから、ミュージシャンでは、坂本龍一さんとか多くのミュージシャンがやはりこのことに気づいて、反対の声をあげて……。
森本 まあ、そうした声が国会にどういう風に反映されるかっていう問題ですが、これは参議院は通ってしまった。あと問題は衆議院ですね。
高橋 そうですね。ただ、参議院を通った段階では、議員の皆さんも還流盤ということで説明を受けてたんですけれども、その、参議院を通ったあとに、全米レコード協会=RIAAといいますけれども、全米レコード協会が実は日本の文化庁宛に「アジアからの還流盤だけを防止する法律というのはおかしい」と、「内外不差別ですべてを規制する法案を作れ」っていう要望書を送っていたことがわかったんですね。それが、存在がわかって「あ、実はこれは全米レコード協会もやる気じゃないか」と。この権利ができたら、権利を行使する可能性は十分にある。そうすると洋楽、ジャズやクラシックも、私たちがふだん楽しんでるものにも影響が出るっていうことがわかったんですね。
森本 ええ。
高橋 で、そのことは、衆議院の議員の方々の中では次第に知られつつありますので、そんな意味では衆議院での審議は多少、参議院のようにはいかないとは思いますけどね。
森本 そうですか。まあ、これからね、そうした盛り上がりがどこまで反映されるか。大変気がかりではありますが、えー、ありがとうございました。今朝はこの、著作権法の改正案の裏側にある話を音楽評論家・高橋健太郎さんに伺いました。どうもありがとうございました。
高橋 はい、どうもありがとうございました。
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