2A3シングルアンプの設計と製作

長い間、愛好家に愛されて来た2A3アンプを作ってみたくなりました。直熱管独特の味わい深い音色を私も聞いてみたかったからです。今回は、設計も含めて製作を進めていく事にします。2A3の平均プレート曲線を参考に次の様なロードラインを書いてみました。ロードライン中心のプレート電圧は、250Vに設定し、同電流は、70mAにしています。無信号時のバイアス電圧をー45Vに設定しています。出力は、これで3W程度が出る筈です。今回はオートバイアス方式を取るのでカソード抵抗は、バイアス電圧45Vとプレート損失15Wと250Vから計算した60mAから750Ωを計算しました。

 

大体のロードラインが定まった所で回路図を書いてみました。最大出力で2A3をドライブするのに必要な電圧は、バイアス中心電圧から計算して30前後が出てくるので、入力を1Vで計算すれば、増幅率が30倍程度のドライブ管が必要になってきます。シンプルにドライブ電圧を得られる真空管は無いかと検討した所、6SL7GTが候補となりました。6SL7GTは、プレート電圧250Vをかけると出力電圧は、46.6Vが得られます。従って増幅率は、入力電圧0.97Vで計算すると48倍となり、十分な性能を持っています。更にこれをパラレルで使用する事で十分なパワーも得られます。平均的な特性表からプレート電圧250V、バイアス−1.72V、バイアス電流0,44mAからカソード抵抗は3.9KΩが計算出来ます。更に実際にプレート部分にかかる電圧は、131Vですので、プレート抵抗は、270KΩで求められます。

これらのデータを元に作成したのが次の回路図です。電源トンスは、ノグチのPMC−170M、チョークは、PMC−518H、出力トランスも同PMF−10WSと今回も節約コースとなっています。整流管は前回の6BQ5PPで使用して気に入った5U4Gを使用します。非常にシンプルな回路です。

交流点火方式では残留雑音が不安ですが、実際に音を鳴らしてから、直流点火に改造するか考えてみたいと思ってます。

また、直熱管の素直な良さを出すために今回はNON−NFBとします。

今回の回路図は、クラリスワークスのドロー機能で書きましたが、細かい部品の描写や配線を揃えるのに苦労しました。

回路図を書いている時間で結構アンプが組み立てられたりするでしょう。回路図が出来た事で、次に実際の部品の調達とシャーシーの検討に入る事にします。


やっと実製作です!

最初にこのページをアップしてからなんと十カ月が経過し、20世紀も終わろうとする12月にようやく、この設計した2A3シングルアンプの製作に

取りかかりました。

その間に、TANGOトランスは廃業し、キット会社も店頭販売を停止する等、真空管アンプ自作の環境は益々悪くなりました。真空管の暖かさが恋しくなり、2A3アンプの部品の調達にかかりました。

真空管は2A3、6SL7GTともに中国製、5U4Gは、新たに5U4GBを以前、製作した6BQ5PP用に買い求め、6BQ5に使用していた5U4Gを転用しました。トランスは全てノグチトランス製です。(品番は回路図参照)

CR部品は、750オームのホーロー抵抗がないので550と220を直列にして使用せざるを得ませんでした。仕様を一部変更して音量調整ボリュームを省略しました。電源フィルター用の47μf、450V品は最初は、ニチコンの単体のバラ物(2個合計で700円)にしようと思いましたが、やはり

折角作るのだからとブラックゲート品にしました。こちらは7千円程度。

ケースはリードの一番大型のアンプ用ケースでケージ付きのものです。肉厚も大分ありトランス類の重量に十分耐えてくれますが、シャーシーの部分の肉厚が薄いので大きな部品は内蔵させられないのが欠点です。

真空管、ケース、CR類合計で6万円位で全ての部品を揃える事が出来ました。これだとキットよりも安い価格で良いものが出来ます。

ノグチトランスのPM−170はPM−171にバージョンアップされ、磁気シールド等上等になっています。この効果はアンプを組み上げてから確かめる事が出来ました。


シャーシー加工もオリジナル、肉体労働はつらい!

製作は、シャーシーの加工から始めました。最初に部品を上に乗せて位置を検討してからマジックで直接、中心線と配置位置を決めて行きます。折角大きさに余裕があるので、前面に真空管が一列に右から5U4G、2A3、2A3,そして6SL7GTが2本左端に並びます。

後部には、右から電源トランス、チョーク、左右のアウトプットトランスがこちらも一列に並ぶ配置にしました。

私としては初めての電源スイッチが向かって右側にあるタイプを組み立てる事にしました。結果的にこの方が組みやすかったです。

最初に電源トランス用の穴を開けます。これは、四隅とセンターにドリルで位置決めの穴をあけ、対角線上に切手の目打ちの様に穴を一列ずつ開けて行きます。そしてこれをニッパーで切ると真ん中を頂点に三角形が4つ出来ます。本来の穴の輪郭線には金属カッターで線状に傷をつけて行きます。真ん中の穴から三角形をぐりぐりと動かすと綺麗に穴が飽きます。ヤスリがけの必要もあまりなく、早く簡単に穴が開くのにはビックリ。

その後、アウトプットトランスの穴、真空管ソケットの穴を開けます。シャーシーの肉厚が分厚いのでパンチで穴を開けるのに力が要り往生し、一度、刃先が抜けなくなってブライヤーのお世話になりました。

熱抜き用の穴も忘れずに開けます。

その後、入出力端子、ホスピタルコードが入るソケット穴を加工して外観の出来上がりです。

ここまで出来たら壮観です。(でも、今回は少し穴の位置決めに失敗してトランスの取り付け位置がずれてしまいました。)


整然とした配線を心がけているのですが

配線は簡単です。私の場合は真空管ソケットの上下にラグ板を取り付け、そこに部品を配置しました。CR類が少ないのでこれで簡単に出来ます。最初にやはり、100Vボルト電源からヒーター電源の配線、B電源とコンデンサ、アースの配線と進んでいきました。アースはアースラインを電源トランスの横にアース点を決めて端子をつけました。アースは太線を張る方式を今回はやめて黒のビニール線で都度、ラグ端子経由で1点アースになる様にしました。B電源の配線が終わると、次は、例の2A3の自動バイアスのコンデンサと750オームのホウロウ抵抗、2W品のボリュームの中点の配線です。ボリュームの取り付け位置はケースの裏蓋が占めても調整が可能な様に2A3の前面にボリューム端子が出る様にしました。結果的に調整が非常にやりやすくなりました。

6SL7の配線は、パラレルなのでプレート、カソード、グリッドともに2本ずつ配線するのでややこしくなります。また、CR部品も小さくなるので十分な位置の検討が必要です。B2ラインのコード配線が複雑になり仕上がりが汚くなってしまいました。


製作ミスと設計ミスの原因究明と修正に悪戦苦闘

 

いよいよ、完成で真空管、ヒューズを挿入して通電検査です。B1の電圧は正常値が出ているのにB2の電圧が出ない。保護用の抵抗が熱くなって来ました。その内に1.5Aヒュースが切れてしまいました。一発で完全動作を目指していたのに落第!!!!

原因を確かめるのに半日かかってしまいました。馬鹿みたいな単純ミスに気づかずに...6SL7のB2電源から2つのプレートに電流を送り込むコードが接続されている端子を見て唖然としました。中央の接続穴のあるアース端子に接続されてショートしていたのです。

ミスを修正して、再びB2の電圧を測定しましたが、6SL7のプレート電圧がなかなか電圧が上がってくれない。滅茶苦茶ですが、B2電源の減圧用の3W抵抗を外して直結してみました。そうしたらようやく電圧が70V位出る様になりました。

音を鳴らしてみましたが、か細い音で正常動作とは言えません。何故、電圧が上がらないのか悩み続けました。原因は6SL7にパラレルにB2電源が送られているので電流消費量が倍と言う事で電圧が下がってしまうのです。6SL7の動作一覧表を再検討して、プレート抵抗を270キロオームから100キロオームに変更、カソード抵抗も3.9Kオームから2.2Kオームに変更してみました。そうしたら100V前後まで上がりました。ようやく大きな音で音楽が聴ける様になりました。その後、適正電圧を得る為にB1電源減圧用の30W300オームのホーロー抵抗を外し、更にB2用の減圧抵抗を27Kから5Kに変更しました。これで測定した2A3のプレート抵抗は295V、バイアス電圧は−45Vが出るようになり、6SL7のプレート電圧も動作例よりは幾分低いですが120〜125Vまで出てくれる様になりました。

5U4Gの出力で6SL7を定格通りにパラレル動作させるのには相当な電流が必要であると言う事を考えても見なかった事が設計ミスの最大要因です。仕上がった回路は、キットの製作例とほとんど同じものになっていまった。「こんな事だったらまた、回路をコピーして作れば良かった。」

2a3sur.jpg (65912 バイト) これが実作を元に修正した回路図です。以前の回路図で製作すると音が出ませんのであしからず。

 

 

今度は本格的に音楽を聞いてみる事にしました。2A3独特の音が感じられるのですが、ピアノや声楽のフルコーラスで音が割れます。

「2A3シングルってこの程度の音か、やはり昔の人はおおらかだったんだな。」と思って諦めかけました。

しかし、この手の割れた音はどこかで聞いた覚えがあります。学校放送でインピーダンスが合わないスピーカーを使用した場合に出る音を同じです。

もしやと思ってカップリングコンデンサとそれにつながる抵抗値をチェックしてみました。470キロの場合は、カップリングコンデンサの値は0.2μFよりもずっと小さい値の回路例が殆どです。0.2μの場合の抵抗値は、270Kオームが適正な様で、早速、抵抗を取り替えてみました。

そうしたら見違える様な音がダイヤトーンの610から聞こえて来ました。

最後にハムバランスを調整してみました。こわごわボリュームを廻すと徐々に音が小さくなっていく事が判ります。全く聞こえなくなる所で固定すると

なんと、交流点火なのに全くハム音は聞こえません。更に以前のキットの300Bでは周波数の高いジリジリノイズが聞こえていたのが、自作品では全く聞こえない。今までの自作アンプの中では最も雑音が少ない出来上がりとなりました。同じ電源トランスPM170を使用した6BQ5PPの場合はハムが乗りました。今回のノグチトランスは磁気シールドが施されているで雑音が聞こえないのでしょうか。


60年前の技術でもこんなに素晴らしい音楽が再生出来る。

早速、試聴です。ピアノの中高音、声楽が濡れた様に瑞々しく響きます。弦楽器は超高域の再生は無理ですが、中音域で一斉にテュッティの部分ではビブラートがかかり具2a301.jpg (413109 バイト)合が芳醇で身体中を包み込む様な響きがします。全体に半導体アンプで再生した時に較べて演奏者が近くで演奏している様に聞こえます。音量は6畳位の部屋では十分な位出てくれます。NON−NFBと言う事で歪みがある事を覚悟していたのですが、意外にも澄んで、しかも実体感のある音です。低音も意外なほどにしっかりと締まって出てくれます。

この程度の簡単な回路でオーディオアンプなんて無理だと思っていましたが、この60年間の電子技術の進歩はなんであったのか思わせる様に素晴らしい音で、この直熱管交流点火独特の魔力のある音に引き込まれてしまいそうです。

         

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回路図はこちらです。