兄 藤沢周平』  小菅繁治  毎日新聞社 ISBN4-620-31500-1 C0095   2001年4月28日完

   藤沢作品は全て読んだ。
   藤沢周平の全てと言う特集号も持っている。                

ただしこれは未だ全てに目を通した訳ではない。
もしかしたら、この「兄 藤沢周平」を読まなければ
藤沢周平について本当に理解出来たと言えない
のではないかと思った。
   「兄 藤沢周平」は幾つかの出来事を著者は少し
詳しく語っている。それはこれまでに知り得たもの
のより正確な泥臭い実態でもある。
   だが「兄 藤沢周平」は私が今迄、個人としての
藤沢周平にいだいていた私のイメージが微塵に砕
かれたのである。
藤沢周平自身も多分自らは語らなかった私生活(
家庭のごたごたの)一面、彼を知り語るひとびとも
決して語らなかったことを、著者は彼の文章を通し
て語ってしまった。
   著者は藤沢周平を取り巻く評価と周囲の言動に
ある時「欠落」を感じどうしても書き残しておかなけ
ればならないと思った。 「あとがき」のなかで次の
様に記している。
    「......藤沢教とでも言うべき賛美のなかで、無名時代、作家生活のスタートを切った前後の
      兄の実像は果たしてどうだったのか。意識するしないにかかわらず今日の名声を得るま
      での兄を支えた、両親をはじめとした人々との関係はどうだったのか。口を極めて兄を賛
      美する無数の言葉の中にその辺が欠落しているのではなかろうか。 そうしたことも含め
      てその一端にメスを入れ、兄との交流を書き記しておくことは、私に与えられた強制され
       ない 義務でもあるといつのころからか思うようになった」
   
   藤沢周平作品の良さ、というより魅力は、個人にもっていたイメージが壊されてしまっても、
かわる訳ではない。 むしろ作家の生活の裏面にはそんな知られざる一面があったからこそ、
時代小説としての市井の人々の哀歓を伝える名手であったのではないかと思う。
 「兄 藤沢周平」を読んで藤沢周平の作品にいっそうの親しみを覚えた。