Ti amo



「愛しているよ」
 ロック・コロネオーレは、その言葉を何度も聴いたことがある。
 イタリア最大の勢力(コーサ・ノストラ)を作り上げた偉大な義父(ちち)に。
 やさしさと知性溢れる義母(はは)から。
 そして、勇敢な義兄(あに)たちからも。
 だが、それは、あくまで、肉親の情としてだった。

「愛しているよ、ロック」
 今、囁くように自分へと送られたその言葉は、特別な意味がある。
 なぜなら、最愛の女性の唇から発せられたものだからだ。
「オレも愛しているよ、鈴音」
 愛しているよ、鈴音(すずね)
 ロックは傍らの女性――鈴音の長く美しい髪をやさしく指で梳き、その耳元に息を吹きかけるように囁き返した。
「やっと、呼び捨てにしてくれた」
 猫のように、鈴音が笑う。
 ロックが彼女を呼び捨てにしたのは、初めてだった。
「いつもサン付けだもんな。奥さんに向かって『鈴音サン』はないだろうよ」
「気恥ずかしいから。それに……日本語はムズカシイので」
「そうかい?」
 鈴音の甘い息がロックの首元に浴びせられる。
 彼女の声は妖しく艶めかしく美しい。
 聞き取れるものがすべて、彼女の声になら惑わされても仕方がないような、とても魅力的な声質をしている。
 日本語のわかるものには言葉自体は乱暴に、もしくは"はすっぱな"言葉遣いに聞こえはしても、その響きには酔いしれてしまうに違いない。
「あたしはいつだって、ロックのことを呼び捨てだぜ」
「そうですね」
「……をいをい、丁寧口調に戻ってきたぜ?」
「日本語はムズカシイんですよ」
 先程と同じ言葉を述べながら、ロックは鈴音の艶やかな長い髪を左右に分けた。
 鈴音の性格は男っぽいさばさばしたものだが、長い髪は、それだけでも女性らしさを十分に感じさせる。
 彼女に聞いた話では、彼女の姉が、男っぽい彼女に、せめて髪の毛は伸ばしてみてはどうかと提案したのだという。
 鈴音の姉である霧刃は、ロックにとっては家族と組織(ファミリー)の仇だったが、その提案は正解だったと心の底から賛同できる。
 もちろん、ショートカットだったとしても鈴音の魅力が損なわれるわけではないが、長い髪であることが彼女の容姿にプラスに作用しているのも否定はできない。
 そのように魅力的な鈴音の頬を撫でながら、ロックは微笑を浮かべて彼女の両目を真っ直ぐに見つめる。
 ロックの二つの青い瞳が、鈴音を静かに射抜く。
「でも、イイな」
 鈴音はロックの視線を真正面から受け止めながら、やさしさに溢れた笑みを浮かべる。
 今日の彼女は一段と輝かしい。
 なぜか、ロックにはそう思える。
「あなたの生まれた国の言葉で、あなたがそう言うと、あなたの気持ちがホントに良く伝わる」
「オレもそう想うよ、鈴音。キミが発するキミの国の言葉はオレを心から揺さぶる」
「愛してるよ、ロック」
 鈴音がロックの首に腕を回す。
Ti amo(愛してるよ)
 ロックもまた鈴音を抱くように彼女の腰へと腕を伸ばした。
 どちらからともなく、唇を重ねる。
 潤んだ眼差しで、鈴音の双眸がロックを見つめる。
 蕩けるように甘い。
 ロックが彼女の甘さに堪らず、舌を貪欲伸ばす。
 すると、鈴音もまた舌を絡めてきた。
 お互いがお互いの唾液を啜り合い、お互いの暖かさを存分に味わう。
 歯茎までを舐め貪り、お互いの口の中を味わい尽くす。
 二人がゆっくりと唇を放す。
 銀色の雫でできた橋が、お互いをまだ繋いでいる。
「ん……」
 鈴音はそれを名残惜しそうに舐め取り、ロックの唇に軽く口付けした。
 そして、首元にも接吻しながら、最愛の男性の背に回す。
 ――抱きしめて。
 潤んだ瞳が、ロックにそう訴えかける。
 それに応えるように、ロックは力強く、最愛の女性を力強く抱きしめた。
 女性特有の柔らかな感触が、彼の胸を刺激する。
「んん……」 鈴音はロックに身を預けたまま、ゆっくりと両膝を付いた。
 ロックの背に回していた両手を彼の腰へと降ろす。
 そして、彼の腰部を撫で擦りながら、スラックスの前部へと回していく。
「鈴音?」
 ロックが首を傾げたのを見て、鈴音は気恥ずかしそうに笑った。
(フレンチ)だよ。言わせるなって」
 愛おしそうにスラックスの股間部分へと手を伸ばし、軽く撫で上げる。
 ロックは自分でもすでに自分の分身が膨張しているのを感じている。
 いつもならリードするのは自分なのだが、今日の彼女はいつになく積極的だった。
 特に口内性交(フェラチオ)など初めてのことだ。
 この行為を、ロックは嫌いではなく、過去に組織(コーセ・ノストラ)のために、幾人もの女性と経験してきていた。
 だが、鈴音に頼んだことも強要したことも一度もなかった。

 鈴音は過去に地獄を見てきたのだ。
 彼女は、弱き人々を守る天武夢幻流の使い手として、世の邪悪と戦ってきた。
 鈴音がいくら強いといっても、その戦いは過酷なもので、常に勝利を飾るというわけにはいかなかった。
 彼女は闇の者たちにとっては見せしめとして絶好の獲物でもあった。
 敗れれば待っているのは、拷問や陵辱であった。
 時には媚薬漬けにされて果てしない絶頂を味わわされ、時にはありとあらゆる拷問器具によって膣内を掻き回され、子宮をも痛めつけられてきた。
 時には望まぬ男たちの精液に子宮を満たされるまで輪姦されたこともあった。
 もっとも酷烈な仕打ちを受けた時のことも、鈴音は余すことなくロックに伝えていた。
 千年以上も封印されていた荒ぶる神との戦いと敗北、そして、破れた際に受けた暴虐と輪姦。
 それは愛する者には決して伝えたくない事柄だったが、彼女は隠すことなく伝えてきた。
 肉体で犯されてない場所はないというほどの地獄の暴虐と輪姦を受けたことを。
 何度も何度も犯され、同時に凄まじい暴虐を受け、荒ぶる神の男根に貫かれたまま、その肉体の上で数え切れぬほどに失神したことを。
 幾度も望まぬ絶頂を味わわされ、生殖器がボロボロになるほど酷使され、膣はもちろん、胃や直腸も、そして、子宮も、あまつさえ、卵管や卵巣も、精液漬けにされてしまったことを。
 そして、膣に同時に複数の男根を突き刺され、子宮を破壊されるのではないかと思うほど激しく突き上げられ、幾人もの精液を注ぎ込まれた絶望を。
 肉体の穴という穴だけではなく、乳房の谷間も、両手も、両脚も、ロックが絶賛してやまない長い髪の毛さえも、荒ぶる神とその分霊たちにより徹底的に穢されたことを。
 その上、分霊に操られたとはいえ、自慰を強制され、自分の膣と子宮を自分自身の手で痛めつけ、自分自身の手で果てざるを得なかったことを。
 それはまさに、地獄としか形容できないものだった。
 その耳を塞ぎたくなるような過酷すぎる仕打ちの数々を、ロックは鈴音自身の口から直接聞かされた。
 鈴音がロックへすべてを打ち明けたのは、彼を愛し信頼しているからに違いない。
 隠しておくことだけはできず、正直に、そして脚色も抑制もせず、同情を得ようとするようなこともせず、ただただ正直に、そして、生々しく、その輪姦地獄を語った。
 彼女はもし、この過去に受けた生き地獄を理由として、ロックに拒絶されても、彼を恨むことはしなかっただろう。
 彼女は『覚悟』もしていたし、精神的には弱さを内包しつつも、退魔師としての誇りも持っていたから。
 しかし、彼女の信頼を裏切らず、ロックはすべてを受け入れた。
 わだかまりなどない。
 すべてを承知で、ともに生きていくことを誓ったのだ。
 だが、過去を知っているだけに鈴音に性行為の内容に関して強要をしたくはなかった。
 性交渉(セックス)は愛の営みとして必要不可欠なものとして何度も行為に及んでいるが、鈴音にフレンチ――いわゆる口内性交(オーラルセックス)や、他の性交の技をさせたことはなかったのだ。
 だからこそ、ロック・コロネオーレが少しだけ慌てて、間抜けな問いをしたとしても、それは仕方がない。

「脱ぎますか?」
「……バカ、脱がせてやるよ」
 鈴音は少し怒ったような口調でそういうと、ロックを見上げた。
 その頬が桃色に染まっている。
 怒りではない。
 恥ずかしいのだ。
 鈴音はツイッと目を背けると、ロックのベルトを外し、ジッパーに手をかけた。
 淫乱な女だと思われたくない。
 だけど、愛してる。
 心の底から、目の前の彼が愛おしい。
 その彼に初めて、呼び捨てで呼ばれた。
 ただそれだけで、鈴音は高揚していた。
 ――あたしはマゾか?
「こんな時に何を間抜けなことを考えてるんだ」と、鈴音は首を横に振り、幾分もどかしそうにジッパーを降ろす。
 下着(トランクス)が中身の圧力で盛り上がっているのがわかった。
 鈴音は興奮と期待で膨らんでいる最愛の男性のの大事な部分を撫で上げた。
 愛おしい彼の大事なモノ。
 それを見て、ロックも頬を赤く染める。
 ――元気だな。元気でなくても困るけど。
 ロックは我ながら間抜けな感想だと思った。
 次の瞬間には、漆黒のスーツのボトムたるスラックスも、下着(トランクス)も、鈴音の手でずり降ろされ、膨張した『彼』が晒されていた。

 男性の生殖器と女性の口による愛の営みを終えた後、鈴音はくぐもった声を上げながら、愛する男性の放出した白濁の液を飲み込んだ。
 しかし、吐き出された欲望は濃厚で、放たれた量を飲み干すにはやや難だったのか、彼女の唇の端から生命を生み出す液体がトロトロと垂れ落ちる。
 ロックは欲望を注ぎ終えると、満足げにゆっくりと息を吐いた。
「はぅうぅ……」
「ロック……濃い……」
 鈴音が舌で唇にこびりついた愛する彼の放った液体を舐め取り、熱っぽい視線をロックに注ぐ。
「濃いって……」
「濃いのは、濃いの!」
 まるで駄々っ子のように眉を吊り上げた後、鈴音は自分の言動に吹き出した。
「……変だな、あたし」
「濃いかどうか、確かめましょうか?」
 ロックが屈み込んで、鈴音に口付けする。
「ロック……んんっ……むむっ……」
「んくっ……んふぅ……鈴音は変じゃない」
 そして、ロックはその手を色香(エロス)を感じさせる鈴音の黒いショーツに滑り込ませた。
 すでに鈴音の女性としてもっとも大事な部分は湿り気を帯び始めている。
 欲望を放出したばかりだというのにロックのソレも、猛りを表すように脈動を続けている。
「――ただ愛おしい」
 だが、ロックは自分の猛りを押さえつけ、妻を労わるような手つきでショーツをゆっくりと下げた。
 そして、妻の股間へとやさしさを感じさせる動作で手を宛がう。
 指で刺激を与えると、鈴音のもっとも大事な部分はじんわりと潤いを増していく。
 やがて、くちゅり、くちゅりと、卑猥な水音がロックの指先から聞こえ出すと、鈴音はわずかに俯いた。
「ロック……あなたを感じて……あたしの……」
「……鈴音?」
 股間をまさぐる手の動きにビクビクと身体を反応させながら、上気した顔を夫へと向ける鈴音。
 美し過ぎる顔が耳まで赤く染まっている。
「ロック……あなたが欲しい……」
 鈴音は蕩けるような眼差しでロックを見つめ上げる。
 その言葉には、額面通りの淫靡さなど感じられない。
 逆に、捨てられた子猫の鳴き声ような、頼りなさだけがある。
 普段の勝ち気な、男勝りの、鈴音からは想像できないような弱気とも思える声だった。
 ロックは応えるように、そして、自分に言い聞かせるように頷き、鈴音の『女性の部分』に滑り込ませていた指を抜く。
 そして、指先にこびりついた分泌液を舐める。
「鈴音、おいしいよ」
「バカ」
 顔を真っ赤にして、形の良い眉を微かに吊り上げて鈴音が言う。
「ロックのいじわる」
「オレのを濃いって言っただろ?」
「バカ、バカ」
 微笑みながら抗議の声を上げる鈴音にやはり微笑み返しながら、ロックは彼女の豊かな両胸に手を被せた。
 やらかな、そしてずっしりとした感触。
 鈴音の身体はすでに火照りに火照っている。

「あっ、あん……」
 抑えきれぬ甘い声が漏れる。
 快感に身を捩る愛妻に愛おしさを覚えながら、ロックは鈴音の美しい形の豊かな胸を丹念に捏ね上げる。
「……ん、っくっ……はぁん、んっ……ロック……イイの……とっても……んはぁっ!」
「オレもとても気持ちイイ……鈴音……」
 ロックが親指の腹で豊かな胸の先端を撫で上げると、鈴音が眉を寄せて喘いだ。
「はっうぅう……んんぁはぁ!」
 微かに首を横に振り、小さく痙攣する鈴音。
 軽い絶頂に達したのだろう。
 汗でねっとりと髪の毛が頬に張り付いている鈴音の姿は、どこか背徳的でとても色香に溢れていたが、決して淫靡ではなかった。
 彼女の精神的なもののせいだろうか、ただただ愛おしく見えるい、美しい女性だった。
 ロックは鈴音の両胸を鷲掴みにしたまま、どのような男性をも魅了するような彼女の肉付きの良い太腿を広げる。
 そして、『彼女の大事な部分』に『自分自身』を宛がった。
「……イイよ、ロック。いつでも」
 ロックは一応は頷いて、先端を溢れた分泌液で滑らかになっているソコに押し込む。
 くちゅり。
 小さく水音が鳴り響く。
 同時に、鈴音の身体もまた小さく震えた。
 ロックは腰をゆっくりと動かし、愛おしい妻の内部へと自分のモノを侵入させていく。
 鈴音のソレが、きつく締めつけてくる。
「うくっ、あうっ、あたしの……中に……入ってくる……んあああああ……んんぁん……」
 眉を寄せ、身を捩らせる鈴音。
 やがて、ロックのソレは、鈴音の胎内の最奥まで到達した。
 ロックのモノをぎっちりと締め付けてくる鈴音。
 鈴音の内部を擦り上げるロック。
 二人ともお互いを見つめ直し、そして微笑みあった。

「はっ……んっ……!」
 鈴音が豊満な胸を激しくと揺らしながら、喘ぐ。
 ロックは腰を鈴音に突き入れながら、跳ねる鈴音の柔らかな両胸を鷲掴みにして、激しく揉みし抱く。
「あっあっあぁぁぁんん!!」
 鈴音の喘ぎ声が激しさを増す。
 ロックは鈴音の内部へとゆっくりと出入りを繰り返しつつ、彼女の胎内を掻き回す。
 鈴音の胎内で、ロックが暴れまわる。
 擦れ合う、お互いのモノ。
 そして、混じり合う肉体。
 二人は激しく一つとなって、高まり合う。
 お互いがお互いを貪る。
 鈴音が愛おしい。
 ロックが愛おしい。
 ――愛おしい!
 たまらない。
 ロックは心底、鈴音の内部に出したいと思った。
 鈴音は心底、ロックの子種を受けたいと思った。
 二人の欲望のまま、二人の腰の動きが速くなる。
 そして、二人の眉を歪む。
「んんっ、くっ、鈴音……」
 限界とばかりにロックが鈴音の両胸を握り締め、そして、鈴音の中へと欲望を放出した。
 鈴音が四肢を突っ張らせて、これ以上ないほどに身を反らせる。
 ロックから放たれた液体を最後の一滴まで受け取り、鈴音がその魅惑的な身体を痙攣させる。
 胎内の中に注ぎ込まれたたっぷりの愛を感じながら、鈴音は満ち足りた表情を浮かべる。
 トロンとした視線でロックを見つめる。
「ロック……」
「鈴音サン?」

 鈴音は果てて気だるい身体をロックの胸に身を預け、その唇に軽い接吻を与える。
 そして、笑った。

「……んもう、ロック、またサン付けに戻ってるぞ」
「ははっ、何度も言いますけど、日本語はムズカシイんですって。どうにもこちらが楽ですよ」
 ロックが指で鈴音の髪を梳くと、鈴音は気持ち良さそうに目を細めた。
「ずるい。もっと、呼び捨てにしてよ。それともこれからも、こういう時だけ?」
「そんなことはありません。ただの癖ですよ」
 鈴音はもう一度、最愛の人に接吻して少しだけ気恥ずかしそうに微笑んだ。
「なあ?」
「ハイ?」
「あ、赤ちゃんの前では呼び捨てにしてくれよ」
「Lei ha ragione」
 ロックも頬を染めて気恥ずかしそうに応えた。


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