〜桜の木の下で〜

 

 

 その日はいつもと変わらない日だった

 そう、彼女に出会うまでは……

 

 

 

 

― 猫ヶ崎高校入学式 ―

 

 入学式……

 俺には単なる学校行事にすぎなかった

 

 

 俺の名前は涼風時雨(すずかぜしぐれ)

 この春から猫ヶ崎高校の1年になった

 

 

 くだらない話が続いている

 偽善者ぶったお偉いさんのうわべだけの挨拶だ

 けど、それを批難しようとは思わない

 他人の事には興味がない

 今までずっとそうだった

 

 

 そしてこれからも……

 

 

 入学式が終わって講堂からでると、お決まりの部活勧誘が始まった

 俺には関係の無いことだ

 

 

 幼いときから俺の家に受け継がれてきた流派、涼風夢想流の修行を積んでいるが剣道部に入ろうとは思わない

 必要以上に人間関係を持ちたくない

 

 

 何故、人は他人を理解しようとするのか?

 

 

 俺にはわからない

 必要性も感じない

 理解したいとも思わない

 

 

 

俺は部活勧誘の波を抜け、俺は校庭へ抜けた

 

 

そこには大きな桜の木があった

 

 

今まで花を見ても何も感じたことは無かったが、俺は不思議と引き寄せられるように、その木へ近づいていった

 

 

時雨「ん?」

 

 

誰かがその桜の木の下にいた

髪の長い女だった

 

 

その女がこっちを振り向いた

 

 

時雨「!!!」

 

 

桜の花びらの中で俺はその女と目が合った

 

 

 

 

 

衝撃が走った

 

 

何故?

 

 

わからない

 

 

けど、胸が高鳴る

 

 

何だろう、この気持ちは……

 

 

 

 

 

その女は立ち去って行った

 

 

 

 

 

俺はしばらくその場に立ち尽くしていた

 

 

さっきの衝撃が体から抜けない

 

 

どうして?

 

 

この気持ちはなんだろう?

 

 

 

 

 

俺は満開の桜の木を呆然と見上げていた

 

 

 

 

 

自分の感情がわからないまま、俺は教室へと向かった

教室に入ると、新しい友人と話している生徒が目に付く

俺は自分の出席番号が書かれた席へと座った

しばらくすると、担任が入ってきた

 

 

プリントを配り終わると自己紹介が始まった

俺のもっとも嫌いなことの一つだ

出席番号順に生徒が教壇に立つ

 

 

自己紹介が始まってまもなく

 

 

時雨「(あ、あれは……)」

 

 

教壇にさっき桜の木の下にいた女がいた

 

 

香澄「天之川香澄です。よろしくお願いします」

 

 

時雨「(天之川……香澄……)」

 

 

 

 

 

ドクンッ

 

 

 

 

まただ

 

 

またあの気持ちだ

 

 

どうして?

 

 

あの女を見るとどうしてこうなるんだ?

 

 

今までこんなことはなかったのに……

 

 

 

 

 

担任「次、え〜と涼風君かな?」

 

 

担任の声に俺は我に帰った

俺は教壇へあがった

 

 

時雨「名前は涼風時雨」

 

 

いつも通りの自己紹介を澄ました

趣味や好きなタレントなどを話す奴もいるが、俺はそういうのはしなかった

 

 

自己紹介が終わると、下校となった

俺は普段と変わらず1人で家路につく

 

 

 

 

 

夜、俺は布団の中で眠れずにいた

 

 

時雨「天之川香澄……どうして俺はあの女のことを考えているんだろう?」

 

 

天之川のことが頭から離れない

 

 

今まで他人がこんなに気になったことはなかった

 

 

どうして?

 

 

 

 

 

結局その夜は眠ることができなかった

 

 

 

― 入学式から三日後 ―

 

 

香澄「涼風君」

 

 

天之川が俺に話しかけてきた

 

 

香澄「涼風君のうちはあの涼風夢想流?」

時雨「あ、ああ」

 

 

うまく喋れない

 

 

普段、喋り慣れていないから?

 

 

違う

 

 

俺は緊張いている

 

 

天之川の顔もまともに見れない

 

 

どうして天之川と話すだけで緊張するんだ?

 

 

 

 

 

香澄「じゃあ、涼風君は剣道部に入るの?」

時雨「い、いや……俺は……」

香澄「よかったら、一度練習を見に来てみて」

時雨「あ、ああ」

 

 

 

 

 

どうして断らなかったんだろう?

 

 

俺は部活動に興味はない

 

 

どうして?

 

 

天之川に誘われたから?

 

 

……

 

 

 

 

 

放課後、俺は道場へ向かった

自分でもどうしてかわからない

その答えを知りたかったからかも知れない

 

 

道場に入ると剣道部が練習をしていた

俺は自然と天之川の姿を探していた

 

 

いた

 

 

天之川は素振りをしていた

それだけでかなりの腕前だというのがわかる

 

 

しばらくすると、一人の男が天之川に近づいていった

男は天之川と話していた

 

 

 

 

 

ドクンッ

 

 

 

 

心苦しい

 

 

どうして?

 

 

天之川が他の男と話しているだけで……

 

 

何故?

 

 

嫉妬?

 

 

そうなのか?

 

 

そうかもしれない

 

 

じゃああの気持ちは?

 

 

恋?

 

 

これが「好き」という感情なのか?

 

 

自分自身が否定していない

 

 

俺は……天之川が好きなのか……?

 

 

今まで「好き」だと異性に言われたことはある

 

 

その時は何とも思わなかった

 

 

けど俺は今、天之川を意識している

 

 

天之川のことを知りたい

 

 

今まで他人を理解したいと思ったことはなかった

 

 

けど、今は天之川の全てを理解したい

 

 

これが「好き」ってことなのか……

 

 

 

 

 

香澄「涼風君」

 

 

俺に気が付いた天之川が話しかけてきた

 

 

香澄「どう、剣道部に入ってみない?」

 

 

俺は「YES」と言おうとしている

天之川と少しでも長くいたい

無意識のうちにそう思っている

 

 

男「香澄、新入部員か?」

 

 

さっき天之川と話していた男が来た

 

 

香澄「同じクラスの涼風時雨君です」

男「涼風っていうとあの涼風夢想流か?」

香澄「そうです、迅雷先輩」

迅雷「面白い。どうだ、俺と試合してみないか?」

 

 

迅雷という男が俺に話しかけてきた

 

 

時雨「まだ、入部するとは……」

迅雷「まあいいじゃねえか。入部するかしないかはその後で決めればいい」

 

 

俺は試合をしたいと思った

 

 

さっき天之川と話していたこの男を倒したい

 

 

そう思った

 

 

やっぱりあれは「嫉妬」ってやつなのか……

 

 

これではっきりさせよう

 

 

時雨「やります……」

迅雷「おお、そうこないとな!道具は貸すからよ」

 

 

周りにはギャラリーが集まってきた

どうやらこの迅雷という男が目当てらしい

 

 

只者じゃないことは目を見たときわかった

いままでこんな目をした人間に会ったことがない

 

 

時雨「竹刀を2本貸してくれ……」

迅雷「涼風夢想流、たしか二刀流だったな」

 

 

気持ちを落ちつかせる

今はこの男を倒すことだけを考えるんだ

 

 

時雨「用意できました」

迅雷「よし、始めるか。香澄、審判を頼む」

 

 

天之川が審判として2人の間に立った

 

 

香澄「始め!」

 

 

時雨「!!」

 

 

迅雷の気合がに膨れ上がった

身が切り裂けそうだ

 

 

迅雷「いくぞ!」

 

 

迅雷が向かってきて、竹刀を一気に振り下ろした

 

 

時雨「涼風夢想流『豹』」

迅雷「!?」

時雨「豹双(ひょうそう)!!」

 

 

頭上で2本の剣を交差させ、その交わった部分で相手の剣を受けた

 

 

迅雷「ぬう!?」

時雨「『蛇』」

 

 

涼風夢想流は「蛇」、「龍」、「豹」、「虎」、「鶴」の5つの構えからなる流派だ

 

 

時雨「蛇突連撃(じゃとつれんげき)!!」

 

 

2本の剣のコンビネーションで迅雷に攻撃をしかける

 

 

迅雷「くっ!」

 

 

迅雷の防御が崩れた

 

 

時雨「『虎』」

迅雷「ちぃ!!」

時雨「虎旋剣!!」

 

 

虎旋剣、自ら回転して相手を8回切りつける技だ

 

 

迅雷「ぐっ!!」

 

 

迅雷は倒れた

 

 

時雨「(勝ったのか……いや!)」

迅雷「……やるな」

 

 

迅雷は平然と立ち上がった

 

 

時雨「(効いていないのか……)」

迅雷「なかなかの技だ。こちらも本気でいくぞ!」

 

 

迅雷の気合が更に膨れ上がった

 

 

迅雷「はぁぁぁぁぁぁ!!」

時雨「『豹』」

迅雷「おらぁぁぁぁ!!!」

時雨「豹爪」

 

 

再び迅雷の攻撃を受け止めた

しかし……

 

 

時雨「ぐわぁ!!」

 

 

俺は倒れた

迅雷の攻撃は涼風夢想流の防御の型「豹爪』を打ち破った

 

 

迅雷「ふう……」

 

 

立つことができない

これほどの攻撃を受けたのは初めてだった

 

 

香澄「勝者 影野迅雷!」

 

 

天之川の声が聞こえた

 

 

迅雷「お前ならすぐにうちのトップクラスになれるぜ。どうだ、剣道部に入らないか?」

 

 

迅雷が俺に手を差し伸べてきた

 

 

パシィッ

 

 

迅雷「!?」

香澄「!?」

 

 

俺は迅雷の手を払いのけた

 

 

迅雷「どういうことだ?」

香澄「涼風君……」

 

 

自分の気持ちに整理がついた

 

 

時雨「剣道部には入る。けど俺の目的はあなたを倒すことだ」

 

 

 

 

 

悔しかった

 

 

何故?

 

 

天之川の前だったから……

 

 

天之川の前では強くありたい

 

 

誰にも負けたくない

 

 

 

 

 

迅雷「……フハハハハハ!!」

香澄「迅雷先輩?」

迅雷「いいだろう。お前の挑戦いつでも受けるぞ!」

時雨「はい」

 

 

俺は道場をあとにした

 

 

 

 

 

自分の気持ちがハッキリした

 

 

俺は天之川が好きだ

 

 

天之川に振り向いてもらいたい

 

 

天之川のことをもっと知りたい

 

 

そして強くなろう

 

 

誰にも負けないぐらい

 

 

そしていつか言おう

 

 

本当に自分が強くなったら

 

 

天之川に俺の気持ちを

 

 

「好きだ」って……・

 

 

 

 

 

 

 

こんなにはっきりと、なにかを望むのははじめてだった

 

四月の風が

 

花びらを空に舞い上げる

 

満開の桜の下で

 

俺ははじめて恋をしたんだ

 

 

 

 

 

おしまい

 


>> BACK


あとがき

 

作者のSWEEPERです

 

この作品はエルさんのページでキリ番をGETして、キャラを作ったので、ついでに書いてみた短編です

 

テーマは「結ばれぬ初恋」(爆)

迅雷には勝てないや(笑)

 

この話で時雨という人物が少しでも理解していただければ幸いです

 

では、あなたに幸あれ☆