自慢してやる




 平和になったこの世界は、どこもオレたちの思い出の地だ。
 久しぶりに訪れた海賊のあじとでは、子分たちは盛大に迎えてくれた。
 海で眠っているシルドラにも挨拶に行った。
 それから、父さんにも、ガラフにも、手を合わせに行った。
 タイクーン城やバル城にも行った。
 レナもクルルも元気そうだった。
 もっとも二人とも国を治めるのに忙しそうで、「姉さんはずるい」「ファリスはずるい」と連呼されたけど。

 シドとミドにも、ギードにも会いに行ったし、ケルガーやゼザの墓にも行った。

 ――ただ一人、顔を合わせることができない男がいる。

 あいつの墓はどこにもない。
 この世界のどこにも、ない。

 オレは、あいつの形見の剣を抜いてみた。
 白刃に自分の貌が映る。
 男としてきたオレの貌。
 そして、自分の中に芽生えた女を受け入れているオレの貌。
 ――恋か。
 思わず呟いた自分の言葉で、赤面してしまう。
 剣に映った朱の差した頬を見ながら、あいつの言葉を思い出す。

 ――「恋でもして、ちったあ女らしくなりな」

 おまえはずるいよ。
 ああいう時に、ああいうこというのは、な。
 告白してるのと同義だぜ。

 返事も聞かずに逝っちまいやがって、さ。

 おかげで、最後の戦いの後、オレはおまえに縛られてしまったよ。
 オレたちに別れを告げるおまえの横顔、特攻するおまえの背中、おまえの最期の笑顔。
 何度も夢に見た。
 苦しかったよ。
 だけどな、風がオレを開放してくれた。
 おまえの良く知っている男さ。
 あいつは、途方にくれていたオレを、あいつ特有の風でやさしく、包んでくれた。
 そういえば、あいつもおまえと一対一で戦いたがってたよ。
 あいつと何度も何度もおまえのことを話したよ。
 そして、いつしか、オレはあいつといる時間が誰といる時間よりも長くなっていた。
 おまえが取り持ってくれたといったら、おまえは怒るかな。

 でも、あいつがオレの相手ならおまえも認めてくれるだろう。

 いや、認めてくれなくても、イイ。
 オレはおまえに自慢してやりたいんだ。

 オレもずいぶん女らしくなったろって、な。



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