Menu生命科学危機管理センター)/過敏症化学物質・過敏症

      化学物質過敏症                  


 
  
                                wpe74.jpg (13742 バイト)                                                                     

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                          担当 :    里中  響子 

        wpeE.jpg (25981 バイト)     INDEX                                                wpe8.jpg (3670 バイト)                  

プロローグ プロローグ  2004. 6.19
No.1 〔1〕化学物質過敏症の概略  2004. 6.19
No.2    @ そろそろ、“本格的な21世紀社会のデザイン”  2004. 6.19
No.3    A 化学物質過敏症とアレルギーの違い  2004. 6.19
No.4 〔2〕発症に至る経過と推移  2004. 8.11
No.5 〔3〕 化学物質過敏症の主な症状  2004. 8.11

  

    参考文献

          東京新聞サンデー版/2004年3月21日/...シックハウス症候群

            現代用語の基礎知識  その他...


   プロローグ                             wpe8.jpg (3670 バイト) 

 

「ええ...

  《危機管理センター》の里中響子です。6月も半ばを過ぎ、梅雨の真最中です。世

間は、参議院選挙で、盛り上がっているのか、盛り下がっているのか、よく分りません

が...ともかく、始めます...」

                  

「ええ...私たちは、ご存知のように、非常に多くの化学物質の中で生活しています。

そして、特に問題なのは、“住宅建材”“家具”など、家の中で発生する化学物質等

が原因で、“化学物質過敏症”となる事です...

  そして、こうした状況から健康を損なうのが、いわゆる“シックハウス症候群”と呼ば

れるものです。これには、他に、“シックビルディング症候群”“シックスクール症候

群”などと呼ばれるものもあります。こうした疾病は、増加傾向にあり、事態は今後深

刻化していく様相です...

  ええ...ちなみに、この“シック(sick)”というのは、“病気の/吐き気がする”とい

う意味の英語です。“ホーム・シック”などという使い方もしています...」

 

  〔1〕 化学物質過敏症の概略  wpe74.jpg (13742 バイト)     

  @ そろそろ  “本格的な21世紀社会のデザイン” を・・・ wpeE.jpg (25981 バイト)

                            <少しテーマから脱線していますが、よろしく...>

 

「ええと...堀内さん、よろしくお願いします」

「はい...うーむ、今回は、“化学物質過敏症”ですか...これは、深刻ですねえ、」

「はい!まず、“化学物質過敏症”の、背景を説明していただけるでしょうか」

「そうですね...まず、典型的なものは、響子さんが今指摘したように、“シックハウス

症候群”です。日本の住宅というものは昔から、高温多湿の気候に適した、数奇屋造

りのような、風通しのよいものでした。しかし、冷房や暖房などの発達で、住宅の気密

が向上してきたわけです...まあ、この機密性では、シロアリなどの被害も拡大し

ているようですね」

「はい、聞いたことがあります」

「それともう1つ、建築資材家具家庭用品などが、かってのような木材や石や鉄と

いった素材から、合板やプラスチックや塩化ビニールなど、化学的に合成されたもの

に変わってきた事です。そして、そうしたものを住宅に組み込む時にも、糊や可塑剤や

塗料など、様々な化学物質を使うわけです。

  その結果、機密性の高い場所で...非常に長期間にわたって...揮発してきた

様々な化学物質に晒される事になるわけです。それから、多種多様なスプレーなどが

あるでしょう。最近では、蚊を退治するのにもスプレーを使うわけです。昔は、蚊帳(か

や)を使っていたわけですがね...」

「はい...」

「まあ、その結果...その代償を支払わされているということですかね...

 

  “高気密性の冷暖房完備の住宅”が、本当にいいのかどうか、人類文明的な長期

的な視点から、再検討してもいい頃ではないかと思います。つまり、気象環境も含め、

大自然とどのあたりで折り合うのが、人類にとって最も幸せなのかということです。

 

  こうした意味でも、日本は、“戦後・昭和の良き時代”を再検討してみるべきだと思

います。“便利で・快的”...“ラクで・速い”...“豪華で・飽食”...この、かっては

夢のようだった現在生活ですが...しかし、それでは、全てが満ち足りたここは、“極

楽浄土”なのかということです...どうも、違うのではないでしょうか...

  私たちはむしろ、あの不便だった時代にノスタルジー(郷愁・過去の事物に対する思慕)を感

じ、“貧しさの中の豊かさ”、“労働の中の休息”、“つらい長旅の中での感動”を懐かし

んでいるのではないでしょうか...芭蕉の『奥の細道』も、徒歩の旅だったからこそ、

あの感動の名作が生まれたわけですから...」

「そうですわねえ...」

「かっての祭りは、楽しいものでした...それは、一年を通しての勤勉な日々があっ

てこそ、やがてやって来る祭りというものが、実に楽しいものとなったわけです...」

「はい...そうですよね...

  “車”で高速道路をぶっ飛ばし、日本中で“海山の幸”を食べまわり、いつでも誰とも

“携帯電話”でつながっている...こうした“貪(むさぼ)るような生活スタイル”が、はたし

て本当に幸福と言えるのでしょうか?むしろ、満ち足りた中で、非常に淋しさを感じる

ような気がします...これが、いわゆる、現代人の淋しさと言うものなのでしょうか?」

「そうですね...

  しかも、そうした“文明の利器”を獲得するために、私たちは、“非常に多くのものを

失ってきた”ということに、もっと早く気づくべきだったのです。

  “シックハウス症候群”や“アレルギー”もそうですが、最も大事なものは、“感動”

“純朴”“孤独”“勤勉”というものを無くしてしまった事ではないでしょうか。だか

ら、私たちは、“戦後・昭和の良き時代”に、ノスタルジーを感じるのです。

  人間生活というのは、奇妙なもので、ラクで快適で満腹なら、それが幸せかという

と、そうではないわけです。“多少の刺激”も、“目的意識”も、“達成感”も必要なので

す」

「はい...本当に、そう思います...

  間もなく、2004年の参議院選挙が始まりますけど、私たちは“貪るような生活スタ

イル”の中で、まさに“不満の塊”になっているのではないでしょうか...もう、そろそ

ろ、“本音の議論”を始めてもいい頃なのではないでしょうか」

「うーむ...そう思いますねえ...

  まず...あの“戦後・昭和の良き時代”と比較する事を、始めてもいいのではない

でしょうか。例えば...社会全体で、“冷房暖房”を完全に止めろとは言いません。し

かし、夏はやはり暑く、冬は基本的に寒いのだということを実感する程度の、“社会的

温度管理”というものは、国民全体で合意すべきなのではないかと思います。地球上

の生物体として許容される、“人類文明の、謙虚な温度範囲”というものを、しっかり

と設定してもいいのではないかと思います」

「はい。高杉・塾長が、“人類文明の地下都市へのシフト”ということを言っています

が、それと同じようなスタンスの話になるわけでしょうか?」

「そうですね...

  その前段階として...まあ、“京都議定書”COの排出基準を決めたのなら、日

本全体で、夏の冷房、冬の暖房の、“理想とする温度管理基準”を設定したらいいと思

います。つまり、夏は夏らしく、冬は冬らしいのがいいのです。特に夏の冷房などは、

ほんの一息つけるほどの、涼風でいいのではないでしょうか。それで、クリアできると

思います。

  一度、冷房の生活に慣れてしまうと大変ですが、“長期的な文明形態の視点”

ら、“あまり大自然から乖離しない生活スタイル”というものを、模索すべきだと思いま

す。むろん、“食糧問題”でもそうです。まあ、これは、“人口問題”も絡んできますが、

いずれ21世紀の大問題として浮上してきます。いずれも、避けては通れない、大艱難

の道です...」

「フランスでは、冷房というものが普及していなくて、猛暑で死者が出たという話も聞き

ますけど、」

「まあ、湿潤な日本は、フランスとは気候が違いますが...そういうリスクも含めて、

議論したらいいと思います。ともかく、“行き過ぎた冷房”などというのは、論外ですね」

「はい!」

“資源・環境”担当の私としては、“COの排出管理”や、文明全体の“省エネルギ

ー政策”の観点からも、是非、温度管理は検討して欲しい課題です。まあ、さらに言え

ば、“車や飛行機による無意味な移動”というものも、そろそろ社会全体で、自粛して

行く方向を打ち出すべきだと思いますね」

「はい...」響子は、コクリと大きくうなづいた「ええ...日頃、あまりご自分の意見を

話されない堀内さんですけど...今回は非常にいいご意見を伺ったと思います」

「うむ、」堀内は、口元を引き締めて笑った。

「私たちは、当面の問題として、“日本文化・日本社会”の形態を、どのあたりに設定す

るのか、ということですね、」

「そうです...

 

  “冷房暖房の温度管理”、“車社会から、省エネの自転車へ”、“ファーストフードか

ら、スローフードへ”、“速さを競った飛行機から、スローな船へ”...

 

  こうした社会全体のデザインで、どのあたりにターゲットを置くのか...何がベター

なのか...そろそろ、こうした“21世紀社会のデザイン”を始める時期に来ていると

思います」

「はい...津田・編集長の言う、“新・民主主義”という社会形態とは、別にですね、」

「そうです!」堀内は、白い歯をのぞかせて笑った。「そうしたソフト面とは別に、ハード

の社会の器というものもまた、新たに設計して行くべきだということです」

 

  A 化学物質過敏症とアレルギーの違い   

                        <ここでも、少しテーマから脱線していますが、よろしく...>

「ええと、あの堀内さん...

  “化学物質過敏症”“アレルギー”とは違うわけですよね。それは、どのように違う

のでしょうか?」

「そうですねえ...まず、“化学物質過敏症”というものから、簡単に説明しましょう。

  私たちは通常、様々な化学物質に晒されているわけですね。しかし、普通は何とも

ないわけです。ところが、長期間、化学物質を体内に摂取していると、ストレスの総量

が、人体の適応能力を超えると考えられています。この“ストレスの総量”の事を、“ト

ータル・ボディー・ロード”と言います。

  さて、この閾値(いきち)/限界値を超えると、今度は極めて微量な化学物質に接した

だけで、“頭痛”、“下痢”、“疲れやすい”などの症状が出るようになるようです」

「うーん...はい!」

「この“トータル・ボディー・ロード”というのは、人体のストレスの総量ですから、“電磁

波”などの物理的ストレスも、“花粉”などの生物的ストレスも、それから、おそらく肉体

的なストレスも入ってくるのだと思います。まあ、それにしても、過敏症というのは、そう

とうに複雑で、厄介なようです...」

「はい...治療も、難しいようですよね、」

「ま、これから、研究が進んで行くんだろうと思います...

 

  ともかく、特徴的なのは、“特定の化学物質”に対して、“一度過敏性を獲得”してし

まうと、それ以降は非常に微量でも反応してしまうということです。こうした意味では、

糖尿病などとも似ていますね。一度そのサイクルに入ると、そこから抜けるのは、容易

ではないということです。

 

  普通...いわゆる“中毒症状”と呼ばれているものは、“原因物質”“mg(1/

1000)g”単位のレベルで発症します。ところが、“化学物質過敏症”では、“ppb(1

/10億)g”から“ppt(1/1兆)g”のレベルで発症すると言われます...」

「うーん...これは大変ですよねえ...」響子は、椅子の背に体を引いた。「そんなレ

ベルの化学物質を、通常の方法で、検出することができるのかしら?」

「まあ...体の方が、敏感に反応するのでしょうかねえ...私は、患者のナマの声と

いうのは、聞いたことがないのですが、」

「うーん...これが、“シックハウス症候群”なのですよね?」

「そうです!“化学物質過敏症”になり、健康を損なうものの1つが、“シックハウス症

候群”ということになりますね。“シックハウス”ですから、家屋から出る化学物質で発

症した場合です...」

「はい...それで、この“化学物質過敏症”というのは、“アレルギー”とはどう違うので

しょうか?」

「はい...ええ...確かに、“体質”などの要素で、発症しない場合もあり、“アレルギ

ー” と似ていると言えます」

「はい、」

「そもそも、“アレルギー”というのは...生体の“免疫系”が、生体に不都合な反応

を示すことがあり...これを“アレルギー”と呼んでいるわけです」

「ああ...“アレルギー”は“免疫系”なのですね」

「そうです。“免疫系”なのです...

  人間の“抗体”としては、“5つの免疫グロブリン”が知られていますが、これらが“抗

原”を非自己として排除する時、時折、この“アレルギー”という不都合が起こるわけで

すね...

  具体的には、花粉症アトピー性皮膚炎などがそうです。まあ、花粉、カビ、ダニ

どというタンパク質などが、原因物質の“アレルゲン”となることが多いですね。アトピ

ー性皮膚炎の場合は、微生物化学物質ストレスなど、複数の要因が“アレルゲ

ン”となっていると言われます。まあ、こうした“アレルギー”に対し、“化学物質過敏

症”の場合は、“明確に化学物質が原因”となっているわけです...」

「うーん、はっきりしているんですね、」

「そうです!

  ええ...それから...“アレルギー”の場合は、“ぜんそく”、“目”、“鼻”、“皮膚”

などで、“特有の症状”がはっきりと出ます。また、原因物質の“アレルゲン”も、ほと

んどが判明しています。

  これに対し、“化学物質過敏症”の方は、これは“自律神経の異常”なのです。自律

神経というのは、簡単に言えば、意思とは無関係に、生体を自動的に調節している神

経のことですね。

  まあ、こっちの方は、“アレルギー”ほど、“検査”でははっきりとした異常が見られ

ないようですねえ。それから、その、“症状も様々”だと、言われます」

「うーん...そうですか...」

“シックハウス症候群”は、“シックビルディング症候群”“シックスクール症候群”

などと共に、今後ますます事態が深刻化していくと思われます。まあ、こんな調子だ

と、今後どんな化学物質が問題化してくるか、予測がつかないのではないでしょうか」

「はい...私たちが、地球生態系の中に、文明をうちたてたツケが来ているのでしょう

か?」

「うーむ...それは、1つの、正しい見方だと思います...

  反・自然的な都市文明を無制限に拡大し、その一方で、無制限に地球の環境破壊

を推し進めてきたわけです。しかし、これでいいのか...そのほころびが、こんな所に

も現れてきているのだと思いますね。

  エイズ”“エボラ出血熱”“西ナイル熱”が人類文明に襲いかかり、“SARS(新

型肺炎)“インフルエンザ”が、人類文明に波状攻撃をかけてきています。現段階で

は、まだ何とかしのいでいる状況ですが、いつ“未曾有の大被害”が眼前に出現して

も、おかしくない様相です。

 

  つまり、この方面でも、“還元主義的/機械論的”な科学文明の行き過ぎに、“全生

態系からの反撃”が始まっていると、解釈できます。

  そして、一方、科学文明の内部から噴出して来たのが、“化学物質過敏症”などに

見られる、“文明病”や“人口爆発・食糧危機”、そして地球規模での“環境破壊”だと

思います。

 

  ...それで、結局どうするのか、ということです...しかし、“人類の集団指導体制”

は、のこ大問題に、明確な解答を出していません。結局、問題を先送りにし、“大混乱

と、無関心と、悲劇”の中で、人類文明は大艱難の時代を描いていくのでしょうか。こ

れは、現在の日本の社会的大混乱とも、非常によく似ているように思います...」

「はい...今は、かってのような、政治的な大指導者が不在なのでしょうか?」

「私は、その方面のことはよくは分りませんが...そうなのかも知れません。人類全

体の指導者がいませんね」

「はい、」

「私は、この地球の生態系というものは...“還元主義的・機械論的”な、“部分の寄

せ集め”ではなく、“ゲシュタルト(部分の寄せ集めではなく、それらの総和以上の体制化された全体的構造)

として見るべきだと考えています。

  まあ、生物体もそうですね...現代・西洋医学では、生体を部分の集合体のように

見て、切開手術をしたり、内視鏡手術をしたり、モノクローナル抗体で攻撃したりしてい

ます。しかし、“人間/人格/主体”というものは、生物学的な意味での“肉体”だけ

で成立しているものではないということです。

  ...つまり、何が言いたいかというと...」

「はい、」

この、今のままの...“持続的発展可能な、経済的・世界体制”でいいのかというこ

とです。言い換えれば...例えば...“飛行機と車で代表される社会形態”で、人類

文明はこのまま突っ走って、本当に大丈夫なのか、ということです...」

「うーん...はい、」

「それからですね...

  “EUの統合と拡大”に見るように、“経済と社会のグローバル化”を、本当にこのま

ま推し進めて、人類文明は大丈夫なのか?あのエイズやSARS、インフルエンザな

どの人類文明を脅かす脅威も、実は世界中がグローバル化したことで...“高速で

かき混ぜられている”から、起って来たことなのです」

「はい。それは、よく分ります」

「うむ...

  それから、核戦略下の冷戦構造の崩壊後に見えてきた、“文明の衝突”や、“宗教

対立”、世界中の“民族紛争”なども、“個々の文化”をないがしろにした、経済と文化

のグローバル化の中で、“かき混ぜる”ことによって、起こって来ていることではない

でしょうか...

 

  全ての絵具をパレットの上で混ぜ合せ、高速でこね合わせ、個性を潰して“灰色”に

し...そんな人類文明が、果たして楽しいのでしょうか...

  “豊かさ・楽しさ・感動”とは、大自然を見ていても分るように、そこに“秩序と飛躍”

があるからではないでしょうか。それが、大自然への感動であり、キャンバスの中の芸

術であり...決して、ペースト状にこね合わされた、“灰色”が欲しいわけではないは

ずです。私たちはそろそろ、グローバル化から離脱し、新しい世界秩序を模索すべきな

のではないでしょうか...

 

  それから、もう1つ、“地下資源、農業資源、海洋資源の配分”の問題がありますね。

これから、いよいよ、“人口爆発と食糧危機”の時代がやってきます。まあ、こうした話

は、私は専門ではないので、別の機会にしましょうか...」

「あ...はい、そうですね...

  この種の問題は、津田・編集長が担当しています。“My weekly Journal” 

方では、大川慶三郎さんが、第2編集室で“国際部”の準備を進めています。そちらの

方で、対談をセットしましょうか。もちろん、これは、私の“危機管理センター”の管理に

も重なりますから、」

「まあ、これは脱線ですからねえ...本来、私の仕事ではありません」

「あ、でも、是非、参加をお願いしますわ!編集長も、1人で大変そうですし、」

「まあ...私の意見を述べる機会があるなら、是非、参加したいですがね」

「はい!では、そちらの方は、よろしく!」

  

  〔2〕 発症に至る経過と推移       

      wpe7D.jpg (18556 バイト)           wpe74.jpg (13742 バイト)    

 

“危機管理センター”の、里中響子です...本当に、暑い日が続いています...」

  響子は、グラスのオレンジジュースを半分飲んだ。そして、今歩いて来た窓の外の陽

射を眺めた。彼女は、堀内の方を見、腕ににじんでいる汗にハンカチを当てた。

 

「ええと...

  この、“化学物質・過敏症”のページを始めたのは、6月の中旬頃だったと思いま

す。ちょうど、参議院選挙のスタートの頃でした...はや、その、参議院選挙も終わり、

日本の社会は次のステップへと、静かな胎動を始めています...」

  響子は、オレンジ・ジュースを飲んだ。コップの中の氷が、カラリと音を立てて崩れた。

彼女は、その角の丸くなった氷を、無心に見つめた...

 

 

「さあ...私たちは、ともかく、このページを続けて行きます...あの、それでは、堀

内さん、お願いします」

「はい、」堀内も、窓の外から視線を戻した。

「ええと...何処からだったかしら...」響子は、額にハンカチを当てた。「そうそう、

健康な人が、“化学物質過敏症”に至るまでの...経過と推移ですね。あの、堀内さ

ん、ここから、簡単に説明していただけるでしょうか、」

「はい...

  うーむ...これは、私たち人類文明にとって、非常に重要な課題になりますね私た

ちの文明のあり方そのものが、問題になって来るわけです。まあ、これから研究が進ん

で行くのだとは思いますが...ここでは、すでに分かっていることについて、私なりに、

要点を説明しておきましょう」

「はい...お願いします、」

 

   ********************************************************** 

 

「まず、参考文献によれば...

  “化学物質過敏症”...この中に、住居が関係する“シックハウス症候群”も含まれ

るわけですが...発症までの過程は、@警告期、Aマスキング期、B器官衰退期、

いう3つの期間に区分されます。これについて、まず簡単に説明しましょう...

 

  @警告期 というのは、化学物質に接触(/暴露)して、ショックを受けた時期です。

私たちの体は、これに対し、“血圧が低下”したり、“精神・神経活動が抑制”されるな

どの反応を示します。

 

  Aマスキング期というのは、“適応状態の時期”です。私たちは、長期間化学物質

に暴露されていても、体は“恒常性/(ホメオスタシス)によって、安定を保とうとします。

私たちが、病気やケガなどから回復するのも、この“ホメオスタシス”による、“自然治

癒力”“回復力”によるものなのです。

  医療の本質は、この“自然治癒力”や、“回復力”の手助けをするものだと、よく言

われます。こうした力は、つまり、もともと私たちの生体に備わっているものなのです。こ

れは、“命”を持つ“生物体”と、機械や岩石ような“無機物”との、決定的な違いの1つ

なのです」

「はい...“自然治癒力”ですね...」

「そうです...

  ちなみに、生物と無生物の決定的な違いは、あと2つほどあります。1つは、生物体

というのは、“新陳代謝”しています。これは、“呼吸”と言ってもいいですがね。つまり、

“構造物やエネルギーを、外界から体内に取り入れ、エントロピーを排泄”しているわけ

です。

  “形あるものは必ず滅びる”、と言われるエントロピー増大(熱力学の第2法則)宇宙の中

で、“自らの構造を維持・進化”させて行けるのは、恐らくこの方法しかないのでしょう。

生物体の構造というのは、外界から物を取り入れ、エントロピーを排出することで、この

宇宙の物理法則と同調し、それそのものの形態を維持できているわけです。

  うーむ...他にも方法があるのかどうか...いずれにしても、人類文明によって観

測されているのは...今の所は、唯一、このスタイルだけだと言うことですかね...」

「はい...あと1つは、何なのでしょうか?生物と無機物を区別するものは?」

「そう...ええと、3つ目は...“自らを複製・増殖”するということです...つまり、

“自己増殖”です」

「あ、はい...そうですよね...」

「まあ、複製のための設計図が、DNAやその周辺のものであり、細胞核の中の染色体

に含まれています...最近は、単なるDNAの塩基配列だけではなく、その周辺との膨

大な対話が絡み合ってきて、まさに底知れない深遠さが垣間見えて来ているようです。

設計図と言うよりは、非常にダイナミックな様相が加わり、まさに後成学的な光景を感じ

ます...」

「うーん...生命体というのは、一体、何処まで複雑なのでしょうか?」

「それは、まさに、私たちの理解と並行するものだと思います...いつまでたっても、

満足することはないのだと思いますね」

「はい、」

「これは、時代スケールを使うよりも...平面的に...児童、学生、専門学生、そして

第一線の研究者を、平面的に比較してみるといいでしょう...彼等は、皆、それぞれの

レベルでの理解はあります。しかし、誰もが、“完全な理解”というものには、おそらく到

達できないのだろうということです」

「はい。さらに上があるということですね。高杉・塾長が言っていました...物質を極限

まで観察していくと、“不確定性原理”に行き着くし、生物体を極限まで観察していくと

“カオス”に行き着くと...」

「そうですね...我々は、どこかで“矛盾”を受け入れ、それを処理しなければならない

わけです。いま私が言った、“完全な理解には到達できない”というのは、これは何処

にでも見られる、ごく共通のパターンです...“人間の脳が、自分自身の脳を完全に理

解できるのか”“脳が脳を超越することが出来るものなのか”、ということになるわけ

です...」

「うーん...」

「つい先日、ボス(岡田)がこっちに来た時、ボスはこんなことを言っていました...

 

「我々は、“命”というものの本質を、“プロセス性”ととらえている。命は、“失

われて行くもの”であると同時に、“継承されて行くもの”という側面を持つ。こ

れは非常に興味深い...

  しかし、堀内君、こうは考えられないだろうか...“命の本質がプロセス性

なのか”、それとも、我々のこの世における、“認識の形式がプロセス性によ

るものなのか”...】

 

  つまり...我々の、“認識の形”というのは、“時間の流れの中”で行われるわけで

す。ボスは、時間と空間とは対等だが、あえて言えば、空間が優位だと言いました。何

故かと聞いても、笑って答えませんでしたが、さらに聞くと、こう言いました。

 

   “時間は、認識のための座標”...なのかも、知れない」

 

 と...つまり、時間とは、“意識のための座標系”かも知れない、と言うことなのでしょ

うか...」

「うーん...それは...この世の姿、と言うことなのでしょうか?」

「さあ...その真意は、私にも分りません...」

「うーん...」

「しかし...高杉・塾長に師事し...“禅”をやっておられる響子さんは、飲み込みがい

いですね」

「あら、」響子は、ニッコリと笑みを浮かべ、深く頭を下げた。「有難うございます。何か、お

礼を差し上げなくてはいけませんわ」

「ほう。それじゃあ、楽しみにしていますか...はっはっはっ」

「ええ、」

「さて、話を戻しましょう...」堀内は、まだ笑みを残しながら、体を後ろに引いた。「え

えと、何処だったかな...そうそう...

 

  “Aマスキング期/適応状態の時期”では...再び“血圧も上昇”し、“精神・神経

活動も活発”になり、一見、“症状が軽くなった”ように見えるのです。まあ、回復して、

適に感じられるように錯覚するわけですね。しかし、実際には、それは“ホメオスタシ

ス”の働きによる、“見せかけの回復”であり、“化学物質は体内に蓄積”され続けてい

るわけです。ここは、非常に重要なポイントになります。

  それから、この時期...例えば、大気汚染のひどい状態から、空気のきれいな環境

に移動するなどすると、かえって“ホメオスタシス”による“適応状態”が乱され、体調を

悪くすることがあります。これを、“離脱状態”と言います。まあ、だいぶ専門的な話にな

りますが、一応、頭に入れておいて下さい...」

「はい...うーん、難しいですねえ...それじゃ、一体、どうしたらいいのかしら?」

「もちろん、実際には、専門医や、専門の医療機関の指示に従って下さい。ここでは、

予備知識として、私たちが独自に考察を行っているわけですから...しかし、まあ、非

常に微妙な診断になって行くのだと思います。

  ともかく、医療機関は、こうした数多くの症例をこなしています。それに、医療ネットワ

ークもありますし、そこにデータが集中していることは確かです

「はい」

「ええと、次に...3番目の器官衰退期について説明しましょう...

 

  B器官衰退期というのは、様々な症状が現れて来る時期です。@警告期やAマ

キング期に、原因物質が体内に蓄積され続けると、体が化学物質の解毒に必要な栄

養素を使い尽くしてしまうわけですね。

  この段階で、“化学物質過敏症”と気づく人が多いと言われます。したがって、この段

階で、“適切な治療”を受けないと、本格的な病気になってしまいます。

 

  〔3〕 化学物質過敏症の主な症状      

             wpe74.jpg (13742 バイト)        

《様々な症状》


「ええ、堀内さん...」響子が言った。「“化学物質過敏症”では、実に様々な自覚症

状を訴えると聞きますが、そのあたりの説明をお願いします」

「そうですねえ...先ほども説明しましたが、そのあたりが、アレルギーとは違う所なの

です。“アレルギーは免疫系の疾患”で、原因物質のアレルゲンがあり、喘息(ぜんそく)

などで、特有の症状が出ます。

  ところが、“化学物質過敏症の方は、自律神経の異常”です。検査でもアレルギーほ

ど明確な異常は見られないし、症状も様々なのです」

「うーん...医療現場では、どうなのでしょうか?」

「まあ、聞くところによれば...

  明白な“器質的な疾患”が見られないのに、様々な自覚症状を訴えることが多いと言

います。したがって、原因が不明なため、医療の場では、“自律神経失調症”、“更年期

障害”ノイローゼアレルギーなどと、間違った診断をされてしまうことも多いよう

です...」

「うーん...その後で、“化学物質過敏症”を疑ってみるわけですね?」

「まあ、そうなんでしょう...“化学物質過敏症”が、もっと広く認知されてくれば、事情

は変わってくると思います」

「ふーん...それで、肝心の治療の方は、どうなのでしょうか?」

「もちろん、第1にやるべきことは、“原因の化学物質を除去”することです。あるいは、そ

れを“遠ざける”ことです。しかし、医療の場では、様々な化学物質が原因のために、

“対症療法”では、根本的な治療にならないとも聞きます。まあ、ともかく、千差万別、色

々、様々なケースがあるわけでしょう...」

「うーん...でも、具体的には、どうなのでしょうか?」

「ええと、そうですねえ...

  まず、首から上には、目、鼻、耳、口、喉、があるわけですが...目がかすむ等の視力

障害、まぶしいなどの光敏感などがあります。それから、鼻水、くしゃみ、鼻血...耳鳴

りや難聴...そして、口が渇きやすい、よだれが出る...さらに、精神・神経的なもの

で、頭痛、不眠、うつ状態などがあります」

「はい、」

「次に、首から下ですが、呼吸器・循環器系では、呼吸困難、息切れ、喘息(ぜんそく)、胸痛

などがありますね。腎臓・泌尿器系では、トイレが近い、夜尿症などですか...ええと、

それから、消化器系では、下痢、便秘、食欲不振などもあるようです」

「うーん...そんなものまで、“化学物質過敏症”の症状に入るのですか?」

「まあ、私は専門家ではないですから、具体的なことはいえませんが...本来の消化

不良などとは別に、“化学物質過敏症”が原因の、こうした症状もあるということでしょ

う。だから、様々な間違った診断が下されてしまうことがあるのです。つまり、こうした疾

患では、整腸剤消化器系の薬剤では、対処療法にはなるのでしょうが、根本的な治

にはならないということでしょうか」

「うーん...はい!」

「次は...筋肉や関節ですが、筋肉痛関節痛、肩や首が凝るということがあります。

皮膚系では、湿疹、じんま疹、アトピー性皮膚炎などがあります。それから、あとは産婦

人科関連になりますが、汗が異常に増える、手足の冷え、陰部のかゆみや痛みなどが

あると言われます」

「はい、」

「繰り返しになりますが...

  このように、“明白な器質的な疾患が見られない”のに、様々な自覚症状を訴える

とが多いと言われます。したがって、原因不明のため、医療の現場では、“自律神経失

調症”、“更年期障害”“ノイローゼ”、“アレルギー”などと、間違った診断をされてしま

うようですね...」

「うーん...そうしたことも、疑ってみる必要があるということですね」

「そういうことです」

                                                 house5.114.2.jpg (1340 バイト)     house5.114.2.jpg (1340 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

  〔4〕 シックハウス症候群の原因と対策

                     index292.jpg (1590 バイト)       

 

  wpe7D.jpg (18556 バイト)                                wpe1D.jpg (34276 バイト)