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    緊急薬剤の優先順位 

         大原則: 情報公開/国民参加型の評価     

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 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                     担当 :    里中  響子 

 

 

          薬事行政の真価が問われる時!           wpeA.jpg (42909 バイト)

   緊急時、ワクチンや特効薬は、どのように国民に配分されるのか。暴動やパニックを未

然に防ぐために、“情報公開”と“国民参加型の評価システム”は不可欠!

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プロローグ   2004. 3. 7
No.1 〔1〕 ワクチン接種の優先順位は? 2004. 3. 7
No.2 〔2〕 データベースを作成/情報公開と国民参加型の評価 2004. 3. 7
No.3 〔3〕 暴動やパニックを、未然に防ぐために! 2004. 3. 7

  

  プロローグ          index292.jpg (1590 バイト)            


「おはようございます...危機管理センターの里中響子です。

  3月初旬、関東平野では梅の花が満開で、インフルエンザもピークの季節を過ぎよ

うとしています。しかし、今年は、“鳥インフルエンザ”の動向が不気味です。

  先日も言いましたが、去年のSARSの大流行3月初旬から拡大しています。ちょ

ど今頃、中国広東省や香港、ベトナムで大きな騒ぎになり始め、4月、5月、6月

中国大陸や台湾で大感染となりました。WHOの制圧宣言が出たのが、まさに真夏

7月7日でした...」

 

「ええ、これも先日、掲示板で話しましたが...

  WHO(世界保健機関)が、鳥インフルエンザが人に感染した場合にも治療効果がある

と認めた、人のインフルエンザ薬/リン酸オセルタミビル(商品名/タミフル)というのがあり

ます。これは、坂口・厚生労働大臣によると、日本が最大の輸入国とのことでした。

  スイス・ロシュ社から輸入・販売する中外製薬によると、今季は1370万人分を確

、3月末までに1300万人分を出荷予定とのことです。これは、昨年の2.4倍の量

だそうです...

  企業が、市場経済の中で商売をすることに、私は特に異論はありません。それに、

経済のことは、専門ではありませんので、よくは分りません...

  でも、このケースで、仮に大感染となった場合...国民の1割分に相当する量の

この薬剤は、国民にどのようなシステムで配分されるのでしょうか。特に、非常に死

亡率の高い感染症の特効薬の場合、即、“死の淵”の危険にさらされる事になりま

す。これは、運用次第で、パニックや大暴動の火種にもなり得ます...国民の公平

性という観点からも、あらかじめしっかりと“情報公開”をしておいて欲しいと思いま

す」

 

「さて、そうした一方、今季は、例年のインフルエンザ・ワクチンが病院レベルで不足

し、注射を受けられなかった人が続出したと聞きます。また、通常の何倍もの値段

で、ワクチン接種をした人も多いと聞きます。十分な出荷量があったにもかかわらず、

末端で混乱が生じ、しかもかなり大量のワクチンが返品されたと聞きます。これは、

実にとんでもない話なのではないでしょうか...

  原因は、どこかで値段を釣り上げ、大儲けを企んでいたらしいとのことですが、コト

は人命に関わる重大事です。医療機関全体の社会的責任と、モラルが厳しく問われ

てしかるべきだと思います。

  一方、厚生労働省は、ワクチンの製造プランと運用を、最後までキッチリと監視し、

国民の側に立った厚生行政を行って欲しいと思います。また、“情報公開”により、本

格的な“国民参加型の評価システム”の確立にも、先鞭(せんべん)をつけて欲しいと思

います」

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「さて、以上のような状況をふまえ、今回の感染症・対談の、本題に入ります...

  今季...もし鳥インフルエンザで、昨年のSARSのような大感染が日本で生起し

た場合...上記の約1300万人分の“抗インフルエンザ剤”は、国民にどのような基

準で、どのような人に配分されるのか。これは実に、この国における“基本的人権”

と、“命に直接関わる”大問題です...

 

  ええ、このケースの例だと...国民の1割に行き渡る量ですが...その公正な配

分の仕組みが、非常に気になります。純粋に、経済の“市場原理”に任せるのがいい

のか、“厚生行政”によって老人や子供などの弱者が優先されるのか...あるいは

“政治や権力”が指導力を発揮し、国家の中枢機関が優先されるのか。それから、も

う1つの要素は、“強力なコネ”でしょうか。社会全体にモラルハザードが蔓延してい

る現状では、ともかく大混乱が予想されます...

 

  うーん、それにしても...自分の所には、絶対に回ってこないなと感じている人は

多いのではないでしょうか。もっとも、残り9割の人は、あと回しにされるわけです。何

らかの強力なルートが無ければ、無理な話です...

  しかし、いずれにしても、薬事行政を行う厚生労働省は、“主権者である国民”に、

“納得できる説明”をして欲しいと思います。当局は、“緊急薬剤”を後回しにした人達

を、文字どおり“死の危険”にさらすことになるからです...

  もちろん、あらゆる事態において、国民全員の薬剤を準備することは、無理な話で

す。それは、理解できます。また、感染地域というものがあり、その感染地域でのライ

フラインや社会システムの維持など、技術的な問題も多いことも分ります。

  でも、空気感染のインフルエンザのような場合、即全国規模・世界規模で拡大しま

す。ワクチンや特効薬の分配は、まさにこの国の厚生行政の真価が問われる正念場

になるのではないでしょうか。“何を優先するか”“どう仕切るか”、今後、多発するこ

とが予想される感染症の薬事行政は、いずれ歴史的な大評価が下されて行くことに

なると思います...

 

  ええ...危機管理センターの私が、この時期に、あえてこの対談を設定したの

は、“情報公開”“国民参加型の評価システム”の確立が、結局、パニックや暴動

をおさえる決め手になると考えているからです。

  政治とマスメディアが、国民から乖離し、モラルハザードが蔓延している現在の社

会状況下では、社会全体が非常にもろく、壊れやすくなっています。

  しかし、パニックや暴動を起こしても、結局傷つくのは、私たち国民自身です。その

ことで、緊急薬剤が国民全員に行き渡るわけではないのです。したがって、混乱を回

避するためにも、“情報公開”が不可欠です。また、行政当局には、“良識ある日本

国民の評価”に、十分に耐えられる施策を、しっかりと実施して欲しいと思います。

 

  もちろん、これは、今季の感染症対策に限ったことではありません。“情報公開”

“国民参加型の評価システム”の確立は、21世紀社会における、新・民主主義の、

基本的な大原則になるものです...」

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「ええ...さて、この調子だと、一人舞台になってしまいそうです...」響子は、口元

に拳を当てた。「ええ、では...このことについて、さっそく...皆さんと検証してみた

いと思います。

  私たちは、いずれも、ごく一般的な国民です。したがって、内部情報なども、全く知

りません。また、過去に、どのようにインフルエンザ・ワクチンが配分されてきたのか

も、ほとんど知識を持っていません。そうした、ごく一般市民の立場から、討論していく

ことをご承知置き下さい...」

 

「ええと...今回は、高杉・塾長と、危機管理センターで、“地震・対談”を担当して

下さっている Inner Story 中西卓さん...それにマチコにも、オブザーバー的な

立場で参加していただきました。みなさん、よろしくお願いします...」

  〔1〕 緊急時、ワクチン接種の優先順位は? 

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  むこうで、マチコが水盤に紅梅を活けていた。それを、ミケとチャッピーが、すこし離

れて見ていた...

  半分開いている窓から、ヒュー、と冷たい風が部屋に入って来ている...

「マチコ!」響子が肩を回し、手を振った。「頼むわねー!」

「はーい!」マチコは立ち上がり、少し後ずさって活花を見つめた。そして、首をかし

げた。「うーん...」

「ニャーッ...」と、チャッピーが言った。

 

「ええ...」響子が、高杉の顔を見ながら言った。「変異した、新型ウイルスに対する

“弱毒生ワクチン”は、早い場合だと、1ヶ月ぐらいで出来ると聞きますけど、そうなの

かしら?」

「うむ。そういう話は、聞いたことがある。しかし、実際の運用となると、どうなのだろう

か...それが製造ラインに乗って、大量に生産され、国民に行き渡るまでには、や

はりかなりの時間がかかるのではないかな。それまでに、相当の犠牲者が出てしま

うことになる。そこが問題だ」

「はい!」響子が、しっかりとうなづいた。「流通や、接種の段階でも、それなりの時間

がかかりますよね」

「ま、そうした場面で...まずワクチンは、どのような人たちに優先的に接種されるの

かということだな。その基準は、どうなっているのか。また、その人たちの家族も、優

先的に接種されるのか。それとも、家族は別の扱いになるのか...色々な問題が噴

き出してくる」

「そうなると、」中西が、作業テーブルの上で両手を握りしめた。「まさに、利権政治

が、本領発揮の大舞台になりますね」

「うむ、」高杉は、椅子の下に来たミケに手を伸ばした。「しかしそれは、響子さんが心

配するような、パニック暴動が無ければの話だ...国民は、そうした政治家の利

権のインチキに、どこまで耐えるかという問題になる。

  日本の社会は今、モラルハザードが蔓延し、非常に脆(もろ)くなっている。キレやすく

なっている。しかも、社会全体としては、宗教的な基盤も希薄で、精神の拠り所になる

ものがない。その上、文化全体が白けてしまっているわけだ。まあ、非常に危険な状

況だと思うね」

  ミケは、ペロリ、ペロリ、と高杉の指をなめた。それから、ヒョイ、と高杉の膝に飛び

乗った。高杉は、片手で抱え、頭を撫でた。

「そうねえ...」響子が、知的な眼差しを伏せ、唇を結んだ。「大混乱が無くて、利権

政治で仕切られる程度なら、そうした乱を好む政治家の出番でしょう。でも、どうかし

ら...政治不信が、ここまで深まってくると、」

「難しい問題ですね、」中西が、両手を組み直した。「国家存亡の緊急事態下で“誰

に優先的にワクチンを接種”するか...どの命を確実に救済するか...」

「ま、」高杉が言った。「薬なりワクチンなりが、数十万人分とかの、極端に少ない場合

は、話は簡単だ...ほとんどの国民は、貰えないわけだからね。これは、国民も納得

するだろう。こうした場合、まず国家の中枢機関を守らなければならん。良識もあり、

知的水準も高い日本国民は、こうした事は素直に理解できるはずだ」

「はい、」響子がうなづいた。「政治や行政がいかに腐敗し、文句はあるにしても、そ

れは国民も認めると思いますわ...それから、直接感染症対策に従事する医療機

保健機関研究機関等も、当然優先的に接種されますね、」

「うむ」

「末端の行政機関はどうでしょうか?」中西が、高杉に聞いた。「それから、治安担当

の警察は、どのあたりまで優先されるのでしょうか

「うむ。しかし、それは、“どの程度の量”が準備されているかと絡んでくる話だ。それ

から、警察官といえば、自衛隊はどうなるかということになる。そして、バイオハザード

とは直接関係のない公務員はどうなるか。

  そこまで行くと、職務上の性質とはいえ、“官”と“民”との身分差別の問題が再燃

してきそうだ...まあ、本来、この問題は、この国における実質的な身分格差の問

に深く絡んでいるわけだがね...その基準を、どこに置くにせよ、国家や社会を維

持するためにせよ、“救済に優先順位”をつけるわけだからねえ」

「はい」響子がうなづいた。「例年のインフルエンザ・ワクチンの接種では、“官”の側

に傾く傾向があったと聞いていますけど、そうなのかしら?」

「かつては、“官尊民卑”があったからねえ。まあ、詳しいことは知らないが、あまり緊

急性のない行政機関よりも、要交通機関等の維持などの方が、よほど大事にな

る。それから、電力・ガス・水道・生活物資などのライフラインだ。このあたりは、しっか

りと議論を深め、国民に“情報公開”し、十分な理解と評価を得ておいて欲しいね」

「それと、マスメディアも重要ね」響子が言った。「どのあたりで線引きをするかは

問題として...」

「うむ、」

「ええと、それから...国家的に重要な研究機関芸術家その他の重要人物...

こうした救済すべき人たちの、何らかのリストはあるのかしら?」

「一応チェックはしていると思うんだがねえ...国レベル地方行政レベルでも...

しかし、情報公開はされていない。こうした問題では、地方の首長レベルでも、かなり

の裁量権があるだろうし...

  しかし、ともかく、どういうことになっているのか、“情報公開”して欲しいね。具体的

なプライバシーに触れる部分は別に考慮するにしても、原則として“情報公開”だ。そ

れから、プライバシーに触れる部分についても、議会などには全部公開するべきだと

思う。

  問題は、隠すのではなく、公開して皆で議論するようにして欲しいわけだ。それ

が、観客・民主主義から、参画・民主主義への脱皮になる。いわゆる、新・民主主義

の大原則になるわけだ」

「そうですね」中西が言った。

「... “プライバシーの保護”“情報公開”は...まあ、相反するものだが、時代は

“情報公開”を選択した。結局、その方が、より公益性が高いということになったわけ

だ。したがって、ここでも、あくまでも“情報公開”を大原則にして、国民の理解と評価

を得ることを推進して欲しいね」

「そういうことですね」

「プライバシーよりも大事なのは、国民や県民や市民が、“知る”ということです。知っ

て、主権者たる国民が、“評価”すると言うことです。ここが、政治や官僚機構が“国民

を支配”するのか、“国民主権の真の民主主義国家”なのかの違いです」

「そこの所を、しっかりと見極めていきたいですね」中西が言った。

「うむ...

  日本の“正しい社会の器”は、ここ20年ほどの政治官僚と、それからマスコ

よって、完全に壊されてしまっている。特に、ここ数年の状態はひどいものだ。悪事を

しても、政治が邪魔をして、しっかりと処分されることもなくなった。また、マスコミも、

自画自賛が多く、内部で問題を抱え、他を非難するような状況ではなくなっているよう

だ...

  まあ、この状況から抜け出すための手段が、“情報公開”“国民参加型の評価シ

ステム”の確立なのではないかな。そして、それが、新・民主主義社会への展望につ

ながっていく」

「観客民主主義から参画・民主主義へのシフトですね」

「そうだ」

「でもさあ、」マチコが、作業テーブルにヒジをついた。「全ての命は平等なんだから、

最後は“クジ引き”がいいんじゃないかしら。それだったら、私も納得よね」

「うーん...」響子が、口元に手をやった。「“クジ引き”もいいけど...“毎年優先順

位が回転”していくというのは、どうかしら?」

「あ、それもいいかもね、」マチコが言った。「それも、賛成!」

「うむ、」高杉がうなづいた。「ま、ともかく、国民の賛同が得られることが大事だ。いず

れにしても、結果については、早い段階で“情報公開”し、国民の批判に十分に耐え

られる内容である事が大事だ」

「はい!」響子がうなづいた。

 

    〔2〕 データベースを作成

      ・・・ 情報公開国民参加型の評価責任の明確化

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「あの、高杉さん、」響子が言った。「繰り返しになりますが...具体的に、どんな人た

ちに、緊急薬剤やワクチンを、優先的に投与されるのでしょうか?ここが、やはり一番

肝心な所だと思います」

  高杉は、ミケを床に下ろした。

「これは、まさに、状況によるだろうねえ...感染症の毒性、感染拡大の状況、そし

てワクチンなどの製造と供給の状況...それから海外への支援もあるだろう。そし

て、もう一方では、病状の劇症性や隔離施設の状況もあるわけだ」

「はい、」

「したがって、それを総合的に指揮する政府や、地方行政の首長の、真の力量が問

われることになるわけだ...そして、一段落した後は、“情報公開”を原則とし、国民

の批判に耐えられる施策であった証拠を示さなければならない」

「はい、」

「ともかく、絶対に死守しなければならないのは、国家の中枢機関の人間だろう。無政

府状態になるのが最も恐いわけだ。それから、重要人物の確保。そして、主要交通機

電力ライフライ治安機関等の確保になる。

  それから、感染地域の弱者である高齢者子供病人なども優先されるかも知れ

ない。まあ、こうした“運用マニュアル”は、ワクチンなどの緊急薬剤分配だけでなく、

“有事際の身柄確保”にも使える。いずれにしても、こうした情報は国民に隠すので

はなく、情報を公開し対話していくのが、これからのガラス張りの新・民主主義の大原

則になって行く。そして、国民参加型の評価システムが確立されていくことになる」

「はい。ここでも、“情報公開”の大原則を、守っていくということですね?」

「うむ。“情報公開”と“国民参加型の評価システムの確立”、これが新・民主主義の大

原則になる。天下りや官制談合と同じような感覚で、“官の側の人”やその家族が、

特権的にワクチン接種などを受けているようだと、それこそ大きな不祥事になる」

 

「厚生労働省はさあ、」マチコが言った。「厚生年金で保養施設を作ったり、自分たち

官舎を作ったり...それから、失業保険を別の事に使ったり、評判が良くないわよ

ね。そんな人たちに、まともにワクチンを分配できるのかしら?」

「そうねえ、」響子が言った。「でも、うまく配分してもらわないと、困るわね。ともかく、

“今季のインフルエンザ・ワクチン”の問題にしても、“抗インフルエンザ剤”の配分に

しても、しっかりとデータベースを作り、“情報公開”を原則とし、“国民参加型の評

価”をすべきだと言うことですね。

  ともかく、1本1本まで、しっかり管理して欲しいわね。どの病院に何本渡ったか、そ

れがどの医者から誰に接種されたか。それから、接種を受けた人から、逆の情報も、

保健機関などへ届けるのも、チェックになるのではないでしょうか」

「うむ...

  まあ、その上で、“評価と責任を明確化”することだろうね。そして、“修正”“処

罰”も、キッチリと実行し欲しいという事だな」

「はい」

 

  〔3〕 パニックや暴動を未然に防ぐために           

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「ええ、過去、薬事行政では、色々問題が多かったと思います」響子が言った。「今回

のテーマも薬事行政になるわけですが、すんなりとうまく行くのでしょうか?」

「まあ、製薬業界や、全国の医療機関という、膨大な関係機関を管轄している行政部

門だからねえ...そして、これまでは国民を支配する側に立ち、どうしても国民の側

に立った政策をしてこなかった...」

「はい。でも、何故なのでしょうか?何故、薬の事では、行政は国民と乖離しているの

でしょうか?」

「まあ、一概には言えないが、江戸時代から明治時代、そして昭和時代へと引き継

がれてきた、国家支配の構造から来るものではないかな...江戸時代には、侍とい

うのは全員役人だったわけで、軍事部門も統括していたわけです。つまり、支配階級

だったわけだ。“上意下達”“官尊民卑”、そうした体質から抜けるには、相当な時間

を要したという事だろうねえ、」

「うーん...薬害事件なんかも、そんな所から来たのでしょうか?」

「薬害事件か...そうだねえ...無責任なことは言えないが、全く無関係という事で

もないだろう」

「はい」

キノホルム(胃腸薬)による“スモン(1955年頃から、日本各地で発生した亜急性脊髄視神経症/キノホルム

による中毒/日本の薬害事件の原点/マンモス裁判...)があったな。それに、“薬害エイズ事件”

は、今でも尾を引いているわけだ...」

「あの、」マチコが言った。「薬害事件は、他にどんなものがあるのかしら?」

「うむ、そうだねえ...

  薬害で、あと有名なものは、“サリドマイド”があるな。あれは、妊娠初期に服用した

睡眠薬のサリドマイド剤で、四肢や内臓等に先天的障害をもった子供が産まれて来

た。もっとも、これは世界中で多発し、1961年にはほとんどの国が使用を中止した。

ところが、日本では、その後も約9ヶ月間にもわたって使用し、被害が拡大してしまっ

た。このあたりは、まさに“薬害エイズ事件”とよく似ているわけだ。

  ところが、このサリドマイドというのは、妙な薬でねえ...どうも毛細血管を消滅

せてしまうような作用があるらしい。それで、ある種のガンの治療薬として、最近注目

されている。血管を消滅させることが、ガン細胞の無制限の増殖に、兵糧攻めのよう

な効果をもたらしているらしい」

「うーん」マチコがうなった「兵糧攻め?」

「まあ、血管による各種の補給がなければ、いかにガン細胞といえども、生きてはい

けないだろう」

「うん。でも、どうして血管を消滅させてしまうのかしら?」

「まあ、私は専門家ではないので、そのメカニズムについては知らない。しかし、発達

段階で先天的な障害をもたらしたものが、ガン細胞に対しては、強力な武器になるわ

けだ。不思議だねえ...

  まあ、それで、個人輸入などで、また問題になっているらしい。しかし、薬などという

ものは、本来両刃の剣であり、必ず副作用というものがある。それを、如何にうまく使

うかということだろうね。まさに、サリドマイドというのは、それをよく教えてくれている」

「うーん...」マチコがうなづいた。「でも、使用中止になった薬が、どうして使われる

ようになったのかしら?」

「うむ、いい質問だ...

  そもそも、このサリドマイドというのは、最近になって、アメリカでハンセン病患者

激しい炎症に対する治療薬として、発売が再度許可された。ところが、いま言ったよう

に、ガンの治療薬としても、人々の命をつなぐようになったわけだ。

  それから、どのようなシステムかは知らないが、エイズの治療薬としても注目され

ているようだ」

「うーん...エイズも?」マチコが首をかしげた。

「うむ。つくづく、深く考えさせられる薬だ...しかし、サリドマイド児を生み出した、

常に危険な薬だということは、絶対に忘れてはいけない。特に、日本では、薬害事件

もあったわけだからね。近年、相当量がガン治療などに使われるようになった以上、

行政面での管理も、しっかりとやって欲しいね」

「はい!」響子がうなづいた。

 

  ≪パニックや暴動で傷つくのは、結局、国民自身・・・≫  

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「ええと、パニックや暴動については、中西さんにまとめてもらいました。ええ、中西さ

ん、よろしくお願いします」

「はい、」中西は、自分のノートパソコンを、作業テーブルの正面に引き寄せた。

 

      ***************************************************************

 

「ええ...昨今、日本の社会情勢は、非常に荒れています。引ったくりや、弱者に対

する暴行、オレオレ詐欺、社会全体をおおうモラルハザードは、いっこうに解決の糸

口を見出していません。上は政治家や官僚から、下は少年犯罪にいたるまで、一向

に終息する気配が感じられません...

  こうした状況下で、昨年起こった新型肺炎・SARSのような事態が、もし日本で生

起した場合、相当な大混乱が予想されます。しかも、今季は、それよりも強力な空気

感染の鳥インフルエンザだといいます。これが、ヒト・インフルエンザに変異した時、日

本社会にとっては、非常に大きな脅威になります。まさに、1つの現実感のない巨大

な危機が、ひたひたと忍び寄って来ています。

 

  政治が国民から乖離し、マスメディアも何故か国民から離反し、いずれも現在の状

況下では、国民が全幅の信頼を寄せるには躊躇するものがあります...

  こうした状況下で、本格的な危機が到来すれば、自暴自棄になる人も出てくると思

います。したがって、感染症が拡大し、それが極限に達した時、パニック暴動が起

きる可能性があります。

 

  しかし、結局、パニックや暴動で傷つくのは、国民自身なのです。これは、何として

も回避しなければなりません...パニックや暴動になっても、本質的には、何の問題

解決にもならず、結局事態を悪化させるだけです。

 

  あらゆる種類の混乱を押さえ込むために、警察や機動隊に、優先的にワクチン等

が投与されるということは理解できます...

  一方、ワクチンや、現在ある“抗インフルエンザ剤”ですか...そうしたものは、ど

んどん追加生産されるので、ポッキリと品切れということにはならないと思います。し

かし、配分の優先順位が問題になるわけです。こうした状況下での薬事行政は、“情

報公開”を原則とし、透明性の高いものにして欲しいと思います...

 

  現在は、インターネットの発達した情報社会ですから、薬剤の流通を、末端まで

ータベースに記録して欲しいと思います。また、曖昧な部分がないように、責任と処

罰も明確化すべきです。

  それから、事態の収集後、できるだけ早く情報を公開して欲しいと思います。不正

な流れや、暴利を貪(むさぼ)るような事が無かったか、国民の評価を受けるべきです。

最初から満点が出るとは思えませんが、ともかく、そうした方向へ動き出すべきです」

 

      *********************************************************************

 

  中西は、高杉の方を見た。

「うむ、」高杉が、うなづいた。

「ありがとうございます」響子が言った。

「さて...

  牛のBSE(牛海綿状脳症)でも、トレイサビリティー(追跡可能なシステム)が問題になっている

が、インフルエンザのワクチンや薬剤の優先投与でも、しっかりとそれをやって欲しい

と言うわけだな。まさに、ワクチンが貰えたら、“確実に生き残ることができる”わけだ

から、人間の強烈なエゴが剥き出しになってくる。

  まあ、これは、感染症そのものに対する対策というよりは、それに対処する行政

や、民主主義の問題だがね」

「はい...そうだと思います」中西が言った。「私は“新・民主主義”という言葉は、最

近になって聞いたわけですが、大原則の“情報公開”“国民参加型の評価システ

ム”というのは、いいですね。こうした問題でも、大きな威力を発揮します」

「うむ、」高杉は、微笑した。「いずれにしても、最後は行政のリーダーシップの力量に

かかってくる所が大きいようだねえ」

「そうですね」

 

 

「ええ、響子です。今回の対談は、ここまでとします.....    index292.jpg (1590 バイト)

  今、まさに、日本で鳥インフルエンザが拡大しようとしています。今後の展開は、

“掲示板”の方でご覧下さい」