危機管理センターバイオハザード(掲示板)エイズエイズ治療薬の新戦略

 バイオハザード  〔AIDS〕   HIV克服=先進国の・・・重い使命と、重い責任!

         エイズ治療薬の新戦略  

      HIV (ヒト免疫不全ウイルス) レトロ・ウイルス RNAウイルス  


    
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 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                    担当 :    里中  響子

   INDEX                                           wpe18.jpg (12931 バイト)             

プロローグ     人類文明の動向 2006.11. 3
No.1 〔1〕 HIVの薬剤耐性 2006.11. 3
No.2 〔2〕 プロテアーゼに作用から、GAGタンパク質に作用・・・ 2006.11. 3
No.3 〔3〕 “熟成阻害剤”の開発 2006.11. 9
No.4 〔4〕 “様々な薬剤”の開発 2006.11. 9

 

    参考文献   日経サイエンス /2006 - 10   

                   エイズ治療薬の新戦略

                          G.スティックス  (SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)

   プロローグ         

「ええ...いかがお過ごしでしょうか、里中響子です。

  秋もだいぶ深まり、冬の話題もチラホラ出始めていますね。“危機管理センター”

して気になるのは、今季の“新型インフルエンザ”の動向です。今年こそは、ヒトの“新

型インフルエンザ”が、大流行となるかも知れません。

  当ホームページでは、“反・グローバル化”“人間の巣”の展開という大戦略

打ち出しています。この戦略本格展開すれば、感染症というものは人類社会にとっ

大きな脅威ではなくなります。

  “反・グローバル化”は、感染症地域の風土病という、本来の生態系的地位

還元して行きます。また、“人間の巣”強大な防護能力は、大量破壊兵器(核・毒ガス・

細菌)を無力化すると同時に、感染症の防波堤としても、大きな威力を発揮します。

  人類文明の動向としては、“温暖化対策”“海洋酸性化対策”“長期・短期の

気候変動への対処”、それから“自然災害の克服”“脱・原発”“脱・冷暖房社会”

“脱・車社会”等の観点から、今後、世界標準として普及していくものと考えます。

 

  文明は、第1ステージ“農耕・文明の曙”第2ステージ“エネルギー・産業革

を経て...今、第3ステージ“意識・情報革命”に突入する段階にあります。

間の巣”は、この第3ステージの人類文明の世界標準になると思われます。

  生態系と調和した、強固な防護能力をもつ“人間の巣”の展開まで...もうしばら

くの辛抱です...そうなれば、当“危機管理センター”の仕事も、その範囲大幅に

軽減されるものと思われます...

  今季...【H5N1型】鳥インフルエンザウイルスから変異が予測される、“新型イン

フルエンザ”は、色々な意味において、人類文明にとって最大かつ最後の、文明構造

的な危機となるかも知れません...

  当“危機管理センター”としても、去年に引き続き、しっかりとウオッチして行きたい

と思っています...」

 

「ええ、そうした状況の中で...日本においては、エイズ感染拡大の傾向にありま

す。今回は、まずそれについて、お伝えします。解説は、バイオハザードの専任

川清一さんにお願いしました。

  夏川さん、お久しぶりです!また、インフルエンザシーズンがやってきましたね、」

「そうですねえ...」夏川は、白衣のポケットに、両手を突っ込んだ。「ま、分っていた

事とはいえ、大変なことになりそうです...」

「ええ...」響子も、息を吐いた。

“新型肺炎・SARS”の流行が発覚したのは、2003年の2月下旬でした...あれ

は、アメリカ人旅行者香港のホテルに宿泊し、ベトナムハノイで体調を崩し、入

院したというニュースが、コトの始まりでした...あの発表から、世界規模の大流行

になったわけです...」

「うーん...あれから、SARS・ワクチンが完成したという話も、聞きませんが...」

「そうですね...

  特効薬ができたのなら、ビッグ・ニュースとして報道されるでしょう。ここでも、異の

早いRNA型ウイルスがあるのでしょうか...」

「うーん...SARS・ウイルスも、RNAウイルスでしたね、」

「そうです。SARS・コロナウイルスです...RNAウイルスということでは、HIV(ヒト免

疫不全ウイルス)と同じですね。

  それにしても、今年は“新型インフルエンザ”が心配です。すでに動き出しているよ

うですから、

「はい...ええと...今回はその前に、ともかくHIVに関する仕事を済ませておきた

いと思います」

「はい...

  急速に感染拡大する“新型インフルエンザ”とは逆に、HIVの方は真綿で首をしめ

ような感染症です。まあ、どちらも恐いわけですが...よくもこれほどの、両極端な

感染症が、人類にとって大脅威になったものです。

  まるで、そこに意識があり、意図するものがあるような...人類文明に対する集中

攻撃です...」

「はい!ともかく、さっそく本題の方に移りましょう...」

  〔1〕 HIVの薬剤耐性     wpe18.jpg (12931 バイト)

       wpe73.jpg (32240 バイト)         

「ええ、夏川さん...」響子が、バインダーのメモに見ながら言った。「日本国内での、

HIV感染者増加しています。

  厚生労働省が、11月1日に、《2006年/7−9月》期新規感染者数を発表しま

した。新規感染者数は、過去2番目の233人を記録しています。ちなみに、過去最多

は、《2006年/4−6月》期ですから、これは連続しているわけですね」

「そうですねえ...

  年齢別では、20〜30代が69%を占めています...何とか、これ以上の蔓延は、

食止めなければなりません。増加傾向にあるのは、先進国では日本だけです。この

国は、どこか大きな所で、歯車が欠け、社会構造全体が壊れ始めているのでしょうか」

「うーん...それを感じさせるものは、ありますね...

  ええと...厚生労働省エイズ動向委員会《2006年/7−9月》期の発表につ

いては、“エイズ掲示板”の方をご覧下さい...」

 

「さて、夏川さん...」響子が言った。「現在、主要な抗HIV薬で、最も新しいものはど

のような薬なのでしょうか?」

「うーむ...そうですね、」夏川は、アゴに手をかけた。「最新のタイプは、10年ほど前

に登場した“プロテアーゼ阻害剤”でしょう。プロテアーゼというのは、タンパク質を分

解する酵素です。もう少し詳しく言うと、タンパク質のペプチド結合を、加水分解する

素の総称です...まあ、酵素自体も、タンパク質ですがね...」

「はい。プロテアーゼは、私たちも持っているわけですね?」

「そうです...

  エイズウイルスの場合は、HIVプロテアーゼを持っています。この酵素で、GAGタン

パク質を切断します...つまり、“プロテアーゼ阻害剤”とは、このHIVプロテアーゼ

結合し...GAGタンパク質切断するを妨害するのです。そして、ウイルスの増殖

システムを遮断するわけです...」

GAGタンパク質というのは、何なのでしょうか?」

エイズウイルスタンパク質です...順を追って説明しましょう」

「はい、お願いします!」

「まず...

  “プロテアーゼ阻害剤”というのは、非常に有力な薬剤です。エイズ治療の基盤

なると、ほとんどの研究者期待していました。ところが、HIVというのは、実に巧妙で

なんとも難攻不落なのです」

「はい...どうして、期待が外れたのでしょうか?」

薬剤への、耐性が生じてしまうのです...

  “プロテアーゼ阻害剤”への耐性を持つウイルスが増えているのです。“耐性HI

V”です。アメリカでは、治療中のHIV感染者半数が...処方可能な薬剤のうち、

少なくとも1つに耐性を持つウイルスに感染しているということです...」

「うーん...どういうことでしょうか?」

「つまり...感染者半数は...“何らかの薬剤に耐性を持ったウイルス”に感染し

ているということでしょう...治療する側としては、非常に厄介な相手です」

「うーん...」

「医師は...“プロテアーゼ阻害剤”と、2つのタイプ“逆転写酵素阻害剤”とを組

み合わせて、20種類以上の中から選択し、ウイルスの増殖を食止めているのが現状

です」

“逆転写酵素阻害剤”というのは?」

「ウイルスの遺伝子が、コピーされるのを阻害する薬剤です...

  薬剤組み合わせれば、ウイルスが多少の変異を起こしても、“対処できる可能性”

高くなります...しかし、“プロテアーゼ阻害剤”への耐性が生じるのを、“防げ

る”というわけではありません...“対処できる可能性”高まるということです...」

「それが、現状ということですね?」

「そうです!

  まさに、この現状から...“ウイルスの増殖を阻む、新手法の特定”が、最重要

課題と言われています」

「うーん...

  私たちの“エイズ掲示板”でも、新薬“ダルナビル”を紹介していますわ。これは、

“耐性HIV”にも、高い効果があると言うことですが...やはり、決定打にはならな

いのでしょうか...この新薬は、耐性ができにくいと言うことですが...」

「安易なことは言えませんが...その通りなのだと思います...

  全体が、そういう流れですね...もちろん、ワクチンのような決定打が登場してくれ

れば、それが一番いいのです。しかし、変異が早く、ワクチンが有効には機能しないわ

けです」

「はい...」

生命体最小単位は....」夏川が、パソコンのマウスを動かした。「細胞だという

ことは、聞いたことがあると思います...したがって、単細胞の細菌でも、完全に1個

の生命体として、呼吸もしますし、増殖もします、生きています...

  その点、ウイルスというのは...細菌よりもはるかに小さく単純な構造で、独立し

た存在として生きて行くことはできません。呼吸もしていませんし、まるで機動性遺伝

のような観があります...

  しかし、だからと言って、アイデンティティーがないわけではないのです...それど

ころか、病原体としては、インフルエンザ・ウイルスエボラ・ウイルス、あるいはエイ

ズ・ウイルスのように、非常に恐れられているスーパーパワーをもっているわけです」

「はい...」響子が、コクリとうなづいた。

「このウイルスというヤツは、宿主細胞に侵入し、その宿主細胞のシステム借用

し、増殖します...そうしなければ、増殖できないわけです。

  HIV“免疫細胞”に結合し、その“細胞内に侵入”し、そこで増殖するわけです。

この侵入プロの、“初期”“中期”“後期”において...増殖システムを妨害す

る薬剤が、現在様々な開発段階にあります...

  人類の叡智を結集し...膨大な研究費をかけ、鋭意遂行中です...」

“プロテアーゼ阻害剤”というのは、どの段階に当るのでしょうか?」

侵入プロセスの、“後期”にあたりますね...増殖サイクル“後期”、ウイルスの

“発芽の段階”を攻撃しています」

「はい!」

  〔2〕 プロテアーゼ に作用から  

         GAGタンパク質 に作用・・・

       wpe18.jpg (12931 バイト)       

「ええ、さて...新戦略薬剤は、“成熟阻害剤”というのでしょうか?」響子が聞い

た。

「そうです...

  今回、治療薬新戦略として紹介するのは、パナコス(バイオベンチャー/米マサチューセッツ州

ウォータータウンに本拠)“成熟阻害剤”というものです。現在、きわめて有望な、薬剤候補

となっているものですね。薬剤として、承認されているわけではありません」

「はい。承認されるまでには、様々な基準臨床試験などを、クリアしなければならな

いわけですね。それで、何が、どのように、新戦略なのでしょうか?」

「この薬剤も...いわゆる、プロテアーゼ活性を阻害するものです...

  しかし、“標的”が異なるのです。“プロテアーゼ阻害剤”は、HIVプロテアーゼ

直接作用し、プロテアーゼの能力を奪ってしまうものです。つまり、ハサミ切れない

ようにしてしまうわけです。

  先ほど言った新薬“ダルナビル”も、“プロテアーゼ阻害剤”1種ですから、そ

の意味では同じです。ただ、この新薬の特徴は、プロテアーゼというタンパク質の、

化しにくい部位に結合し、“耐性HIV”にも高い効果があると言うことです...」

「はい、そういうことでした...それと、“成熟阻害剤”とは、どのように、違うのでしょ

うか?」

「はい、順を追って説明しましょう」

「お願いします、」響子が、手を伸ばし、チャッピーの頭を撫でた。

                 wpe18.jpg (12931 バイト)wpe18.jpg (12931 バイト)

「まず、HIVプロテアーゼというのは...

  そもそも、どのような働きをするのかというと...GAGタンパク質というウイルス

タンパク質を、細かく切断処理するのです...つまり、適切に切断するのです。だか

ら、“プロテアーゼ阻害剤”は、ハサミを切れなくすることに例えられるのです...

  GAGタンパク質の方は、適切に切断されることにより...このタンパク質の断片

が再結合して、円錐形保護殻/“キャプシド”を形成します...」

「はい...

  つまり、GAGタンパク質を、ジグソーパズルのように細かく切断するわけですね。

そして、新たに別の、“キャプシド”という保護殻を形成するわけですね...」

「そうです。大雑把に言えば、そういうことですね...

  そして、この“キャプシド”の中に、HIVRNAが収まるのです...つまり、保護

に、“ご本尊のRNA“設計図・遺伝情報”が、収納されるわけです、」

HIVレトロ・ウイルスですから、DNAではなく、RNAなのですね、」

「そうです...

  レトロ・ウイルスというのは、DNAウイルスではなく、逆転写酵素を持つRNAウイ

ルスです...したがって、感染後は、ウイルスのRNA遺伝情報逆転写され、宿主

細胞のDNAに組み込まれるのです...」

「うーん...

  だから、治療には“プロテアーゼ阻害剤”と、2つ“逆転写酵素阻害剤”とを、組

み合わせて使うわけですね、」

「そうです...RNAというのは、メッセンジャーRNA/mRNAや、転移RNA/tRNA

などとして、よく知られていると思います」

「うーん...ともかく、厄介なウイルスですね、」

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「そうです...さて、話を戻しましょう...

  HIVプロテアーゼの働きとは...GAGタンパク質というウイルスタンパク質を、

細かく切断処理することです。この仕事を“阻害剤”阻害することにより...発芽

始めたウイルスは、保護殻/“キャプシド”を形成することができず...システムが

遮断され、増殖できなくなります...」

「それが...つまり、“プロテアーゼ阻害剤”ですね、」

「そうです!

  そして、新戦略...パナコス“成熟阻害剤”というのは、HIVプロテアーゼに作

用するのではなく、切られる側のGAGタンパクの方に作用します。つまり、プロテ

アーゼというハサミの方ではなく、裁断される布の方に作用するのです...」

「はい、」

「すなわち...

  GAGタンパク“ある部位”をふさいでしまい...それで、正しく切断されるの

を妨害するもののようです...この方法でも、HIV保護殻/“キャプシド”を形成で

きず、システムは遮断され...増殖できなくなるわけです」

「ふーん...確かに、新戦略ですね...」

「そうです...」夏川は、大きなため息をついた。「ともかく...非常に厄介なウイルス

です...まるで、人類の叡智挑戦しているようです...」

  響子が、黙ってうなづいた。

「しかし...解明は着実に前進しています」

「はい...

  こういう、戦術が巧みなもの、難解なものは、確かに存在しますわ...こういう場合

は、戦略で処理するのがいいのです...つまり、エイズ・ウイルスのようなものは、

の生態系的地位に還元してしまえばいいのですわ。

  “反・グローバル化”“人間の巣”で、将来的には戦略的に対処できます...」

「うーむ...

  剣豪・宮本武蔵は、晩年...1637年“島原の乱/天草の乱”に参加していま

す」

「はい、」

「いや、」夏川は笑った。「実は、先日、映画を見たのです...

  剣豪・宮本武蔵は、幕府側として、島原城址天草の攻城戦に参加していました。

“キリシタン・天草四郎時貞の乱”として有名です。しかし、天下無双武蔵“二天

一流”も、あのような攻城戦では、あまり役には立たなかったようです。逆に、上

の方から落とされる落石で、あの剣聖・宮本武蔵が、怪我をしています...

  武蔵ほどの剣の達人でも、それは戦術の達人であって...戦略で押し流されれ

ば、どうにもならないということです...」

「そうですね、」響子が微笑した。「確かに、HIVのような相手は、戦術的に叩こうとして

も、どうにも処理できませんわ...そのような相手は、戦略的に対処すべきでしょう。

“反・グローバル化”“人間の巣”の展開で...」

「そうだと思います...

  しかし、当面の敵は、徹底的に叩かなければならんでしょう。すでに、世界中に蔓延

してしまったHIVは、人類の叡智絶滅させなければなりません。

  特に、この事態は、世界の貧しい人々の責任ではありません。グローバル化で、世

界中をかき回した、豊かな先進国重い責任のある事です。ところが、現在、責任のな

はずの、世界の貧しい人々が、十分な治療を受けられずに、非常に苦しんでいると

いう実態があります...」

「はい!そうですね!

   経済的に恵まれない世界中のエイズ感染者 を、 先進国の重い使命と責任

において、 完全に救済 して行かなければなりませんね!」

「まさに、そういうことです!」

 

  〔3〕 成熟阻害剤の開発     

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「ええ...“成熟阻害剤”は、」響子が言った。「そもそも、どのような発端で開発が始

まったのでしょうか?」

エイズというものを理解してもらうために、薬の開発の歴史というものを、少し話して

おきましょう」

「お願いします」

“成熟阻害剤”の開発は、1990年代の半ば頃に遡ります。ちょうど10年ほど前に、

“プロテアーゼ阻害剤”が登場していますが、その前後の頃でしょうか...」

「はい、」

“プロテアーゼ阻害剤”は、非常に期待の高い薬剤でしたが、一方ではこうした研

究も、始まっていたわけですね...私は当時も、こうした同じ思いを持ったのを記憶

しています」

「夏川さんは、開発の始まりを、ご存知だったのでしょうか?」

漢方薬が、HIV有効というようなニュースの断片を、何度か目にしています。それ

に、依然として、様々な方面で研究開発が続行しているニュースもありました...

  多くの研究者が、“プロテアーゼ阻害剤”に高い期待を寄せていましたが、それだ

けでは済まないという意識もあったわけです」

「うーん...“プロテアーゼ阻害剤”が、ワクチンのように決定打という感じはなかっ

たですね、」

「そうです...

  さて、この“成熟阻害剤”ですが...アメリカのボストン・バイオメディカ社が、ノー

スカロライナ大学/チャペルヒル校の教授との、共同研究に着手したことが、そもそ

もの始まりのようです...

  この共同研究というのは、中国の漢方薬から、HIVに対する活性を示す化合物

選別することが目的だったと言われます...私は、このあたりのことを、ニュースで見

たのかも知れません」

「うーん...そう言えば、漢方薬の中に、HIV有効なものがあるというようなニュー

は、何度か聞いたことがありますわ」

「そうですね...かなり広く伝わったニュースです...

  リー(Kuo-Hsiung Lee)の研究室では...台湾の漢方薬に、薬剤・候補となる手がかり

を見つけています。それは、“ベツリン酸”という物質です」

“ベツリン酸”ですか...」

そうです...

  “ベツリン酸”のままではHIV活性は弱いのですが、“ベツリン酸”成分ごとに

分離していき...そのうちの1つの成分を、化学的に修飾すると...強い効力を示

すことが分りました。

  このベツリン酸誘導体“PA-457”と名付けられました。“ベツリン酸”の状態で

は、“マイクロ(100万分の1)・モル濃度”HIV活性を示しますが、“PA-457”では

“ナノ(10億分の1)・モル濃度”で有効なことが分りました...」

「はい...1000分の1ですね」

「最初に紹介した、パナコスというバイオベンチャーは、ボストン・バイオメディカ社が、

HIV研究部門を分離して設立した会社です」

「はい...」

「このベツリン酸誘導体/“PA-457”は、比較的どこにでもあるスズカケノキカバ

ノキなどから、“ベツリン酸”を抽出し、それを処理することで得られます。

  かって抗ガン剤“タキソール”というのがありましたが...これはセイヨウイチイ

の樹皮からしか採れなくて、相当に物議をかもしたことがあります。貴重な樹木の伐採

か、抗ガン剤かということでした...

  響子さんは、そんな話を聞いたことはないですか?」

「ええ、ありますわ...」響子は、笑ってうなづいた。「つい最近だったような気がしま

すけど...あの話は、どうなったのでしょうか?」

「今は、半合成の代用品ができています。まあ、その点では、“ベツリン酸”では、そうし

た苦労はなかったようです」

「うーん...

  それにしても...そんなふうにして...漢方薬なんかからも、効目のある薬剤・候

を探し出しているわけですね」

「そうです...熱帯の密林や、極限環境に生息する微生物などからも、新薬・候補

見つけ出すわけです。

  土壌中の微生物などは、まだそのほんの1部が、人類文明によって知られている

に過ぎません。それこそ、ケタ違い種類の微生物が、まだ発見もされずに、生態系の

多様性を展開しています...」

「はい...HIVインフルエンザ・ウイルスエボラ・ウイルスなどは、その一端が顕在

したものなのですね...そうしたものに対抗する薬剤もまた、そうした膨大な生物

界の未知の生物に存在しているということでしょうか、」

「そうですね...

  こうしたスーパーパワーの感染症は、世界のグローバル化の進展と比例するよう

に、続々と登場してきています。しかも、文明の水準を越えた所感染拡大を起こし

ています...

  これは、まさに、文明種族に対する、生態系の調整機能として働いているのかも

知れません」

天然痘コレラペストから...最近ではHIVや、エボラなどのウイルス性出血熱

のように、常に、医療技術の上を行っているようですわ...」

「まあ、それゆえに、感染拡大が起こるとも言えるわけです...しかし、この戦いは、

いずれ人類が負けるでしょう...そして結果的に、生態系の中で、ドラスチックに

体数量適正化されていくわけです...」

「あるいは、生態系が、壊れてしまうかですね、」

「そうです...

  そして、生態系が壊れれば、結局、人類も滅ぶわけです。人類文明は、“戦術”では

勝てても、“戦略”では生態系絶対勝てないということです。何故なら、人類もまた、

生態系を形成している一部だからです...生態系に依存し、生態系と共にあるから

です」

「はい...」

 

「さて、ベツリン酸誘導体/“PA-457”の話に戻りましょう...

  “PA-457”は、全てのHIV活性を示すことが分ってきました...しかし、

とするには、分子レベルで解明をし、それを証明しなければならないわけです。そこ

で、パナコスは、NIH(米国立衛生研究所)フリードと協力体制をとったようです...

  そして、この“PA-457”は、ウイルス増殖“後期”...“キャプシド”形成の段

階で作用しているらしいことを突き止めました。まあ、詳しい事情は分りませんが、あ

る程度の予測をつけ、ターゲットを絞り、その周囲の状況を洗い、固めて行くというの

が、研究開発というものです。その過程で、様々な発見があったりするわけですね。

  このあたりの詳しい事情も、話としては非常に面白いのでしょうが、ここでは割愛し

ましょう...」

「うーん...」響子が、アゴに手を当てた。「“プロテアーゼ阻害剤”と、その効果の

点では、よく似ていたわけですね?」

「そうです...

  増殖した、新しいウイルス“GAGタンパク質”が...宿主であるT細胞(免疫細胞)

細胞膜の内側に結合していて...それがHIVプロテアーゼによって小さく切り刻

まれた後...“キャプシド”つまり“HIVキャプシド”に再構成される...

  このことは、すでにこれまでの多くの研究から、分っていたわけです...したがっ

て、“PA-457”も、まさに、そこを攻撃していたわけです」

「うーん...その過程が...もう1つ、具体的イメージにならないのですが...」

「まあ...これはウイルスの増殖という、極微の世界の風景です。具体的に見える世

界ではないですからねえ...

  ともかく...ベツリン酸誘導体/“PA-457”は、これまでのような、単なる“プロ

テアーゼ阻害剤”はないということです...HIV阻害剤に限らず、大概の薬剤は、

“酵素の働きを微調整”することで作用します。

  ところが、“PA-457”酵素ではなく、基質(酵素の作用を受けて反応を起こす物質)の方に作

用します。こうした“基質をターゲットにした薬剤”というものは、これまで例がなく、まさ

画期的だということです...」

「まさに、新戦略なわけですね...薬剤耐性の方は、どうなのでしょうか?」

開発段階で、パナコスはわざと“PA-457”“耐性株”を作り出しています...

  それで、通常株と比較し、変異している部位を特定し、この薬剤の特徴を探り出し

ました。そこで、GAGタンパク質に作用していることを突き止めたわけです...」

「うーん...“耐性株”を...あえて作り出したわけですかですか...そういうこと

は、よく行われるけですが...それにしても、新薬“耐性株”を作り出したわけです

か...大丈夫なのでしょうか?」

“耐性株”を作り出せるからと言って...この薬剤の寿命が、短いということにはな

らないと言います。HIV突然変異しても、“基質の部分”/“HIVプロテアーゼが、

GAGタンパク質に結合する部位”は、簡単に変異することはないと言います...」

「うーん...」

ベツリン酸誘導体/“PA-457”耐性が、すぐに発現することはないだろうと言う

ことです...まあ、ほとんどの薬剤に、耐性が出ているわけですからねえ...

  ともかく、“基質の部分をターゲット”にした薬剤できるということは、画期的だと

いうことです」

「うーん...そうですか...

  画期的ではあっても、ワクチンのような特効薬ではないわけですね。やがて、耐性

出てくると、

「そうです...それはまあ、仕方のないことでしょう」

「はい」

 

「ええ...“PA-457”は、中間段階臨床試験を、すでに通過しているようです。

次の臨床試験では、“他の薬剤との相互作用”を見る予定だと言うことです...

  HIVは、すでにどれかの薬剤耐性をもっている...恐れがあるわけです。実際

の治療では、複数の薬組み合わせて使うことになります。他の薬に、どのような影

響を及ぼすかをチェックすることは、非常に重要な要素になります」

「はい...ここで、望ましくない結果が出るようなことはあるのでしょうか?」

「もちろん、あります...

  現状では、臨床試験がかなり進んだ段階で、望ましくない相互作用が判明するケー

スがあるということです。すると、それまでの臨床試験が無駄になってしまいます。だか

ら、FDA(米食品医薬品局)では、早い段階で、この試験を実施することを、勧めているそう

です」

「はい」

「全てが順調に、計画どうりに進めば...2008年までに、FDA薬剤としての承認

申請ができると言うことです」

「うーん...是非、順調に進んで欲しいですね」

 

  〔4〕 様々な薬剤の開発          

              

「ええと、夏川さん...」響子が言った。「最後になりますが、“抗HIV薬”は、他にはど

のようなものが開発されているのでしょうか?」

「そうですね...

  繰り返しますが...“プロテアーゼ阻害剤”は、酵素プロテアーゼに作用して、

その働きを阻害するものです。“成熟阻害剤”も、同様にウイルス増殖“後期”に、

“HIVキャプシド”形成を阻害するものです。

  しかし、“成熟阻害剤”の方は、プロテアーゼではなく、ウイルス“GAGタンパク

質”の方に作用します。まあ、結果的にはどちらも“HIVキャプシド”形成を阻害

るものですが、ターゲットが全く違うのです...ハサミの方か、布の方かということで

す。この薬は、布の方に作用するということで、まさに画期的なのです...」

「はい、」

「ところで...“成熟阻害剤”というものですが...これは、ベツリン酸誘導体/“P

A-457”は、その唯一の例ではありません...他にも、開発中のものがあるようで

す」

「あ、そうなんですか、」

“PA-457”が、商品化に一番近いということです。詳しい分類が、どのようになっ

ているのかは判然としませんが、参考文献には、そのように記されています」

「はい...他に、どんなものがあるのでしょうか?」

アラバマ大学と、メリーランド大学の研究者は、それぞれ...“キャプシド”もとに

なる断片が、一緒になって保護殻/“キャプシド”を形成するのを防ぐ、“小さな有機

分子”特定していると言います...」

「うーん...どういうことでしょうか?」

「まあ、情報が少ないので、よくは分りませんが...“断片同士が、ピタリとはまらな

いように、妨害する方法”を、開発しているようです。そのための“小さな有機分子”を、

すでに特定しているということでしょうか...」

「うーん...それも、面白そうな話ですね。開発は進んでいるのでしょうか?」

「そうだと思います。これも、面白い新戦略かも知れません。

  それから、参考文献アメリカの論文ですが、日本でも研究開発は相当に進んで

いると思われます...」

「はい」

“成熟阻害剤”の他にも...」夏川は、パソコン・モニターを除いた。「色々あります

ねえ...

  “ウイルス増殖のメカニズム”に着目し、これを阻害する薬剤が、色々開発されて

いるようです。これは、“侵入阻害剤”と言いますが...HIV“細胞へ侵入するの

を防ぐタイプの薬”でしょう...」

「うーん...“侵入阻害剤”ですか...」

「そうです...

  “侵入阻害剤”では、注射で投与するタイプのものが、すでにFDA(米食品医薬品局)

承認済みのものがあります。

  ベツリン酸誘導体/“PA-457”を開発しているパナコスの、新しい“侵入阻害

剤”では、どうやら飲み薬になるようです...」

「うーん...注射よりは飲み薬の方が、患者負担の軽減になりますね...他には、

何があるのでしょうか?」

「色々あると思うのですが...

  すでに、中間段階の臨床試験を経て、後期・臨床試験に入っているものに、“イン

テグラーゼ阻害剤”というものがあります...」

「うーん...名前からは、良く分らないのですが...どういう薬なのでしょうか?」

「ええと...」夏川が、パソコンのマウスをクリックした。「これはですね...HIVが作

ったDNAを、宿主のDNAに組み込む時に働く酵素を阻害...“新たなウイルスRN

が、できないようにするもの...ということです。そのあたりの酵素を、ターゲット

にしているわけですね...」

「うーん...“逆転写酵素阻害剤”とは、違うのでしょうか?」

「さあ、詳しいことは分りません...ともかく...すでに、最終段階にある薬剤・候補

ということでしょう...新薬が、続々と誕生する状況にあるのでしょうか、」

「はい...」

 

「ともかく、こうした“生物学的製剤”は、どれも全てが必要な状況と言います。まだま

だ、足りない状況とも言います。

  また、世界に蔓延したHIV感染者の実態は、特に貧困国社会的弱者皺寄せ

行っている状況です。したがって、薬剤は、量的な不足深刻です...これは、薬剤

開発の問題ではなく、経済問題という側面があります...」

「そうですね!」響子は、両手を固く組んだ。「当“危機管理センター”でも、その点を危

惧しています!」

「これほどまでに、グローバル化を推進し...HIVを世界に蔓延させた先進国には、

HIV感染者に対し、  感染対策の責任 と、 重い使命 があります...ここは、 先進

国には、経済原理を越えた支援 を... “強く要求”  したいと思います...

  利潤だけを得て、人類社会を汚染し、それを放置することは、絶対に許されませ

ん...」

「そうですね...

  それは、“環境破壊/地球温暖化/海洋酸性化”でも、共通していると思います。

トヨタなどは史上最高の利潤を上げていると言うことですが、それだけ自動車公害

撒き散らす製品を大量に作り出しているということですわ...素直には、喜べない状

況です。

  企業は、どれだけ利潤を上げるかではなく、どれだけ社会文化貢献しているか

が問われています。これからは、社会文化貢献していないで、利潤だけを追求し

ているような企業は、消えていってもらうべきですわ」

「その通りですね」

「ところで、夏川さん...HIVには、ワクチンの開発は、されていないのでしょうか?」

HIVには、ご存知のように、ワクチンはまだありません。ワクチンの候補さえ、まだない

のが実態のようです」

「はい...でも、薬の研究開発は、大車輪で進んでいるわけですね」

「そうです。莫大な予算をかけ、推進しています。新薬も、続々と登場してくる状況の

ようです」

「はい...」響子は、小さく、強くうなづいた。

 

「ええ...夏川さん...最後になりますが、一言お願いします」

「そうですね...

  ウイルスというのは、非常に単純な構造をしています。単細胞生物のような、新陳

代謝の構造さえありません。DNARNAカプセルに入り、その表面に表面タンパ

ク質があるという、きわめてシンプルな構造です...まさに、機動性遺伝子というイメ

ージも、こんな所から来るのでしょうか...

  インフルエンザ・ウイルスの場合は、その表面タンパクの様子で、【H5N1型】とい

うように、ウイルスの型が決まってくるわけです...しかし、その単純な、核酸とタン

パク質の陰に、感染症の恐るべきスーパーパワーと、膨大で深遠なバリエーション(多

様性)が潜んでいます...

  エイズインフルエンザ...最強最悪のエボラ出血熱...それから、デング熱西

ナイル熱新型肺炎・SARS...ニパウイルス...まだまだ、こうした脅威の感染

は、生態系の中で、続々と待機状態にあるといいます...

  グローバル化がさらに進めば、こうした脅威の感染が、続々と覚醒してくる状況

にあります」

機動性遺伝子/ウイルスというのは...この巨大な地球生命圏の中で...とても

重要な生態系的地位にあるのでしょうか?」

「さあ...どうでしょうか...」夏川は、口元にかすかな微笑をもらした。「まあ、そん

なことを考えるのは、高杉・塾長に任せておきましょう」

「そうですね...」響子も、微笑した。

「ともかく...“人類文明のターニング・ポイント”が来ているのは、確かです」

「はい!

  人類文明が...依然として“開発・発展・欲望型”の、“経済至上主義”を持続する

のであれば...また、“グローバル化”“人口増加”とを合わせ、“地球環境の破

壊”を続けるのであれば...さらに強力な感染症続々と登場してくるでしょう...

  そして、過程はどうあれ最後には、人口生態系において適正な数量まで、調整

れるということです。また、その調整の効かない場合は、地球生態系の方が壊滅し、

人類文明もまた沈没していくということです。したがって、人類の選択肢は、すでに非

常に限られたものになっています...

  人類文明は、“反・グローバル化”ダイナミック舵を切り、同時に、“人間の

巣”の展開を急ぐべきです。“人間の巣”は、あらゆる“自然災害を克服”し、“生態系

と調和”し...“核兵器”等の大量破壊兵器をも、事実上“無力化”するものです」

 

                        wpe8.jpg (3670 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)      

「ええ、響子です。

  今回は、これで終ります。抗HIV薬開発状況と、エイズの実態というものを、少し

は理解していただけたでしょうか...今後も、エイズについては、考察を続けていきま

す...どうぞ、今後の展開に、ご期待ください!」

 

 

 

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