「お久しぶりです。星野支折です。
のびのびになっていましたが、ようやく今日(/2月11日−建国記念日)、東京上野
公園へ“皇室の秘宝展”を見に行くことになりました。そう言えば、出かけるのもず
いぶんと久しぶりになります。最初にマチコと野辺山の天文台へ行った時、そして、
みんなで黒部のアルペンルートへ行った時以来かしら...
これからは気候も良くなりますので、みんなでちょくちょく出かけたいと思います。
今回は企画室・会議室を担当する里中響子さんと一緒に行ってきます。
Windows2000と、Office2000のインストールで、アップロードが2週間ほど遅
れてしまいました...」

「それじゃ、ポンちゃん、後はお願いね」支折は、Index.htmへ出るとポン助に言
った。
「おう。暖かくしていけよな。今は大寒だからよう、」
「ありがとう。マフラーも持ったから大丈夫よ。この間、バーゲンで買ったバーバリの
マフラー...」
支折はカーキ色のオーバーコートを着込み、前でバンドをしっかりと止めた。そし
て、コートの上にグッチのリックサックを背負った。
「中にデジタルカメラも入っているし。電池も、3セット...でも、博物館の中では、
カメラは使えないわね」
「...」
「お待たせ!」里中響子が、企画室からIndex.htmへ出てきた。スキー用の防寒
服と、白い毛糸の帽子をかぶっていた。
「天気は良さそうよ」支折は、ブラウザで天気予報を見ながら言った。
「そ、よかったわね。さあ、行こうか」
上野公園に入ると、二人は西郷さんの銅像を見て行くことにした。それから、国
立博物館の方へ歩いた。

<西郷隆盛の銅像> <西郷さんの銅像から少し北の方>
「この公園に、何か思い出はある?」響子が支折に聞いた。
「ええ。私は芸術専攻だから、美術館や博物館へはよく来たわ。だから、ここはよく
通ったの」
「そう...私はここへ来たのはこれで二度目。最初に来たのは、中学生の頃かし
ら。修学旅行できたのよ」
「ずいぶん昔ね。そう言えば、ボスもそんなことを言ってたわね。でも、ボスは最初
の中編小説“人間の座標”の中で、動乱で廃墟となった上野公園を描いているの
よ」
「うん。そうよね...ボスも、ここへはよく来ていたのかしら?」
「さあ...このあたりは変わっていないわね...下の階段の方はずいぶん変った
みたいだけど」
「ええ...桜の咲く頃には大変なんでしょうね、このあたりは、」
「ふーん...」支折は、下に伸びている桜の枝にそっと手を触れながら言った。「ま
だ、蕾をもっていないみたいね」
国立博物館の入り口付近は、かなりの人でごった返していた。この“皇室の秘宝
展”も、11日、12日、13日で終りになる。それに今日は、建国記念日(2月11日)で
祝日になっているせいかも知れなかった。
「入場券は一般で、1000円か...」支折は自動販売機で2枚買った。1枚を響子
に渡した。
博物館の敷地の中は広々としていた。しかし、すでに先の見えない長い行列が
出来ていた。ここには、今回の展示のある平成館の他に、幾つもの建物がある。
「30分から40分待ちますね、」係員が響子に言った。
「そんなにですか、」響子は、ため息をつき、支折の方を見た。
「でも、天気はいいし...」支折は、デジタルカメラのファインダーを開きながら言っ
た。

<このずっと先まで長蛇の列> <皇室の秘宝展をやっている平成館>
平成館に入ると、中はさらにごった返していた。1階にロビーがあった。が、入場
者は、エスカレーターですぐに2階の展示場へ上げられた。そこからは、まさに身
動きのできない混雑だった。通勤列車のよう...埴輪の展示などがあったが、近
づくこともできない...しばらく行くと、さすがに少しずつ混雑がゆるくなった。歴代
の天皇の日記や書籍が展示ケースの中に陳列されていた。
「読める?」支折が、響子の手をしっかりと握りながら言った。
「これでは、ゆっくり読めないわね、」響子が言った。「でも、迫力があるわ。直筆だ
もの...」
「墨が薄いわね」
「うん...これなんか、清書って感じじゃないわ。線を引いて消してあるわ」
「今、そこに居るみたいね」
「そうね」
さらに進んで行くと、古い絵草子や絵画、刀剣、磁器等があり、どれも見ごたえ
のあるものだった。絵草子などは、現在の印刷技術やコンピューター・グラフィック
スになれた現代人からすると、かなり素朴な感じがする。こうした絵の連作を描く感
覚は、現代社会の中では漫画家が一番近いだろうか...いずれにしても、数百年
前には、こうした絵を画くこと自体が、現代のように手軽なものではなかったはずで
ある。紙や絵の具等の画材を集めるのも、一苦労だったのかもしれない。もっとも、
江戸時代あたりになると町人文化が花開き、庶民にも手の届くものになったのかも
知れない。
「とにかく、」響子が言った。「私はこういうものを見るのは初めてなのよ。少しずつ
見ておかなくちゃね」
「そう、一度は見ておくべきよ。特に、本物は、」支折が言った。
外へ出ると、冬の陽射しが強かった。平成館の入り口へは、相変わらず延々と
長蛇の列が出来ている。二人は平成館の前の噴水を眺めながら、のんびりと出口
の方へ歩いた。
「ずいぶん広いのねえ、国立博物館の中は」響子が陽射しに目を細めながら言っ
た。
「うん。今度は普通の展示を見に来ようか。いいのがたくさんあるわよ」
「そうしよか...」響子は毛糸の帽子を脱ぎ、平成館の方を振り返った。