第1編集室/時事対談/時事対談・2011/救難フロートの設置 |
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トップページ/NewPageWave/Hot Spot/Menu/最新のアップロード/ 第二編集部 : 北原 和也 |
プロローグ | 響子・・・ 《My Weekly Journal/第2編集部》 へ | 2011. 5.19 |
No.1 津波避難・フロート |
〔1〕 頑丈・・・耐・津波ビルの展開! /簡易施設・・・津波避難・フロートの展開! |
2011. 5.19 |
No.2 | <津波避難・フロートとは・・・?> | 2011. 5.19 |
No.3 巨大津波/ 3周年 |
〔2〕 巨大津波から3年//津波避難・フロートの・・・展開と・・・課題は・・・
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2014. 3. 9 |
No.4 |
<“津波避難・フロート” の今後の課題・・・ 津波避難タワー、 公共施設、 一般ビルの屋上・・・にも設置を!> |
2014. 3. 9 |
No.5 津波避難・カプセル |
〔3〕 “個人/少人数用・・・津波避難・ライフカプセル”
の展開!![]() ![]() |
2014. 3.22 |
No.6 |
<“サーフボード型=個人/カプセル”・・・
“球形=個人・少人数/カプセル”・・・とは?> |
2014. 3.22 |
No.7 | <最後の手段/最も身近な装備/ ・・・“ライフカプセル” > | 2014. 3.22 |
No.8 |
〔4〕 津波避難・カプセルの開発・・・製作/運搬/組立・・・![]() |
2014. 4. 7 |
No.9 | <ライフカプセルの・・・ 救難装備 & 日常的用途> | 2014. 4. 7 |
No.10 | 〔5〕 苛酷環境下の特殊カプセル・・・ | 準備中 |
大川 慶三郎 北原 和也 里中 響子
響子が、バインダーを肘にはさみ、《My Weekly Journal/第2編集部/軍事・国際》に入っ て来た。顎を上げ、いっぱいに開かれた窓の方を見た。 《 遠くに、《航空宇宙基地/赤い稲妻》の航空管制塔が小さく見える。ブラッキーのヘリが出発し ていくところだ。《鹿村/清安寺》へ行く臨時便で、マチコとユキちゃんが乗っているはずだった。 《危機管理センター》には現在、厨川アンが残って、任務に当たっている。これほど近くにいる のに、響子が《My Weekly Journal/第2編集部》に来ることはめったになかった。 響子の眼に、陽光を受けている観葉植物のポトスの鉢が映った。かつて、彼女が持ってきた鉢 だった。その向こうの窓からは、南東方向の草原が開け、やわらかな春の陽光が散っている。山 桜の季節も終わり、草原は春の装いを濃くしつつあった。 奥の壁面に、プロジェクターで世界地図が表示されていた。上部ラインに、シグナル・ランプが 並び、幾つか赤やオレンジに反転している。北原和也が、部屋に入って来た響子に気がついた。 大川慶三郎は背中を見せ、製図機に向かっている。 床で動いているのは、2台のロボット掃除機だ。しかし、部屋は意外ときれいに片づいていた。 女性がいないためか、男所帯の違和感があった。それでも、響子が訪れることが分かっていたた めか、掃除が行き届き、いれいに整頓されていた。
「ハイ!」響子が、明るくバインダーをかざした。 「ヤー!」北原が、顔を崩し、少し照れくさそうに笑っていた。 「ホホ...片づいているわね、」 「ハハ...掃除をしたばかりですよ。今度は、きれいにしています」 大川が響子を振り返り、無言で手を片手を上げた。響子が、小さく頭を下げた。 「“対・津波プラン”は、できたかしら?」響子が、北原に聞いた。 「一応、できています...」北原が言った。「こちらへ...響子さんの意見も聞きたいですね、」 響子がうなづき、北原の後についていった。ワーク・ステーションは、節電ということで、電源は 落としてある。 分割された大型インフォメーション・スクリーンの1つに、“東京電力・福島第1原発”の光景が 映し出されていた。《危機管理センター》と同じだった。“原発・事故”が、現在、世界的大ニュー スとなっているのだ。
響子が...《My Weekly Journal/第2編集部》に依頼して置いたのは、“東日本大震災後 ・・・新規・・・津波対策” ...の作成だった。大震災からすでに2ヶ月が経過していた。しかし、 “浜岡・原発”の全面停止の他は、特に何かが動いている様子もなかった。 管・政権としては、東日本大震災と、“原発・災害”で、手一杯の様子だった。それも、きわめて 不十分なもので、指導力が発揮されず、“原発・災害”では当事者意識が薄く、全てが後手を踏ん でいる観があった。
そこで、《危機管理センター》から...“全国的・津波対策・・・新規・・・具体策”...を作成 するように、第2編集部に依頼してあった。ここに依頼したのは、比較的ヒマそうだったからであ る。が、響子のヒマそうだという判断は、誤りだった。 “原発/レベル・7”の勃発で、世界的に“脱・原発”の動きが活発化していたからである。それ に加え、米軍/特殊部隊/SEALSが、パキスタンでテロ組織/アルカイダの指導者/オサマ・ ビン・ラディンを殺害し...この方面でも、にわかに緊張感が増していた。
大川が、シャツの腕をまくりながら、北原のワークステーションの方へ歩いてきた。響子がそっ ちを見、また目を戻し、腕組をした。椅子の後ろで、北原の準備作業を見ていた。 「オサマ・ビン・ラディンの方は、どうなのかしら?」そばに寄って来た大川に、響子が尋ねた。 「ま...」大川が、顎(あご)ヒゲを撫でた。「アルカイダの報復はあるでしょうな...」 「はい...」響子が、口に手を当て、難しい顔をした。 「しかし、構造的には、下火になるでしょう... 問題なのは、パキスタンに存在する戦術核兵器ですな。これは、紛争関係にあるインドに向け られた地域限定・核弾頭ですが...イスラム圏が保有する、唯一の核兵器という側面があるの です...この国が不安定であることと...宗教がからみ...厄介な問題ですなあ...」 「克服するには...?」響子が、鋭く聞いた。 「ふーむ...」大川が、ため息ともつかない、長い息を吐いた。「今/現在... 世界の流れが、急激に変わりつつあります。文明のパラダイムが、急変する兆(きざ)しと、見て もいいでしょう。解決策になるのは、ソレでしょうな... 〔人類全体・・・世界市民〕は今...賢明な選択をしつつあるのかも知れません...希望的観 測ですが...」 「そうですか...」響子が、北原の背中ごしに、ボンヤリとモニターを見た。 「〔世界市民〕は、それほどバカではないということですな。小さな希望が育ってきました...」 「はい...」響子が、まばたきした。
〔1〕 頑丈・・・ 耐・津波ビル の展開! 簡易施設・・・ 津波避難・フロート の展開!
「はい...」響子がうなづき、ワークステーションから転送された、スクリーン・ボードの方を見た。 そこには、漁港が津波に呑み込まれて行く映像が映し出されていた。凄まじい激流となって、巨 大なタンクや船、無数の細かいカゴなどを押し流して行く... 日本のマスコミ報道では...“人が呑み込まれている映像”や...“大勢の遺体が打ち上 げられている映像”などは...全てカットされている。その意味で、真実の姿を伝えていないの は、明らかだった。 当面のパニックや、心的障害を押さえるのはいいとして...“永久/全面カット”というのは、 正しい処置/正しい姿とは、響子には思われなかった。 それならば、そのコトを国民に説明し、“国民の理解”を求めるべきだった。そうでなければ、 “報道に置いて・・・国民との乖離を生み・・・国民をないがしろにしていることだ!”...と響 子は思っていた。
「まず...」北原が、響子を振り返った。 「あ...はい...」響子が、明るくうなづき、頬に手を当てた。 「基本的に、被災地は...〔人間の巣/未来型都市〕を展開します。津波の危険のある所には、 住居は建設しないということですね」 響子が、うなづいた。 「しかし...港湾や漁港の建設は...必ず必要なります... それに付随する、倉庫、船のドック、魚介類の工場などは...“耐・津波ビル・・・頑丈な4F以 上のビル”...を建設します。巨大な防波堤で港湾全体を守るのではなく...高台に移住して、 港には、“耐・津波/建築物”を作るということですね、」 「はい...」響子が言った。「こうした意見は...被災地域でも出ていますね?」 「そうですね...その方向で、問題はないと思います... 高台に建設する〔未来型都市〕とは、専用の輸送路で結べばいいわけです。当面は、既存のト ラック輸送でもいいでしょう。この過程で、小さな漁港などは、統合・整理の必要も出てきます。し かし、この方面の展開・設計は、建築家や都市プランナーに任せることにしましょう」 「はい、」 「問題は... “海水浴場”、“海浜公園”、“観光地/景勝地”...そして、“小さな漁港”などです。この方 面の津波対策を、どうするかということです。《危機管理センター》から依頼されたのも、この問 題だと思うのですが?」 「そうです...」響子が、うなづいた。「すぐに、“海水浴シーズン”も始まりますわ... 今年の夏は、特に省エネ/節電ということで、プールや海水浴に涼を求める機会も多くなると 思います。でも津波のイメージは、これに打撃を与えます... これまでは...特別な対策というものもなく...“津波が来ると分かったら・・・できるだけ早 く、高台に避難しろ!”...というものでした。でも、“マグニチュード・9.0クラスの巨大津波” が来たら、莫大な犠牲者が出ることは必至です...」 「そうですね... ええと...地震の大きさと、津波の大きさは、比例するものではありません。しかし、“東海地 震/東南海地震/南海地震”が連動して起こったら...まさに、その巨大津波が予想されます。 そして今回、“原発・事故”で感じたことですが、想定外というのは、想定以上に、頻発して起こ るという事実です。想定外の“原子炉・事故”が...4機もズラリと並んで起こったわけです。これ は、想定外の4倍の規模であり、可能性としては4乗でしょうか?ハハ...確率のことは専門では ありませんが、こんなに起こっては話になりませんね、」 「そうですね...」響子が腕組みをし、頭をかしげた。 「さて...」北原が言った。「海水浴に行く人は... ともかく、“覚悟しておけ!”というのが、暗黙の了解事項でした...しかし、ここは、何とかな らないのか、ということですね?」 「はい! 実際には...各地で様々な対策が考えられていると思います。でも、“全国的な安全指針”と いうものが無いのも事実です。“5分〜10分以内の・・・巨大津波”というものも...今後は、想 定しておくべきでしょう。全国・津々浦々の海岸線で、一律に...簡易/信頼性の置ける、対・津 波施設が欲しいですね...」 「はい...」北原が、真っ直ぐに響子を見て、明るくうなづいた。「そうした、短時間で襲来する巨 大津波を想定して、考えてみました、」 「うーん...」響子が、まばたきして、うなづいた。「自信がありそうですね?」 「私たちは...そこで...“津波避難・フロート”というものを、考えてみました」 「まあ...」大川が、口を開いた。「津波に備えるには... “高い・・・頑丈な堤防/防波堤”か...“4F以上の・・・耐・津波ビル/建築物”か...“強い浮 力のある・・・頑丈/安価な・・・津波避難・構造物”か...ということになるわけですな。海に潜っ ても大丈夫な、“潜水・・・構造物”というのは、除外してもいいでしょう...」 北原が、うなづいた。 「はい...」響子も、北原を見て、同じようにうなづいた。「うーん... 《危機管理センター》では...こうした検討が開始されるのを...待っていたわけです。でも、 国会審議でも、マスコミの論議でも...2ヵ月が経過しましたが...具体策というものは聞こえて きませんでした。それで、急きょ、依頼しました」 「はい、」北原が、答えた。 「でも...」響子が言った。「どうなのでしょうか... 被災した東北はもちろんですが、大震災が予想される太平洋ベルト地帯では...意外と呑気 な国民性から...海水浴客は減少しないのでしょうか?」 「さあ...どうなのでしょうか、」北原が、笑いをこぼした。 「うーん...そういうわけですが、見通しの方はどうなのでしょうか?」 「大丈夫です...」北原が白い歯を見せ、大川の方を見た。「これなら...行けますね?」 「ハハ...」大川が、笑ってうなづいた。「安価で作れる構造物ですから、普及するでしょう。ただ し、強度・保守については、しっかり管理することが必要でしょうな。消防訓練のように、“津波避 難・フロート”を、定期的に海に浮かべ、訓練することが必要でしょう...」 「そうですか...」響子も、顔を明るくし、バレッタ(髪留め)に手をかけた。「多くの命を救えるものな ら、いいんですけど...」 「それじゃ...」北原が、画像をスクロールした。「“津波避難・フロート”を、説明しましょう...」 「お願いします...」
「ええ...」北原が、スクリーン・ボードに手をかざした。「これは... ご存知のように...“レベル・7”の“東京電力・福島第1原発”へ...タグボートで曳航(えいこう) されて行く、メガフロートです...」 「はい...」響子が、腰に手を当てた。 「東京電力が静岡市から提供を受けた...鋼鉄製の人工島ですね... このメガフロートは...長さ136m×幅46mで...浮力を創り出している浮体構造/隔壁内 部に、1万トンの水を貯留することができるそうです。5月下旬に現場投入...1万トンの貯水能 力を持つと言いますが...これも、戦術的に後手に回った観は否めません。 私は、詳しい事情は知らないわけですが...大川さんによると、早くからタンカーを準備し、“東 京電力・福島第1原発”の沖に置いておくべきだったと言います...使うか、使わないかの判断 は、別問題として、まず準備しておくべきだったそうです」 「“原発”には...」大川が言った。「優秀な科学者は多くいました... しかし、コトに当たっての、“戦略眼を持つ人材”は、存在していなかったようですな。あるいは、 例によって...官僚体質の壁に阻まれ、意見具申が届かなかったようですねえ、」 「そうですね...」響子が、小さなため息をついた。「日本全体が、そんな状況にありますわ、」 「ハハ...」大川が、淋しそうに笑い、頭を撫で上げた。 「さて...」北原が、メガフロートを眺めながら言った。「問題の、“津波避難・フロート”ですが、 原型はこのメガフロートになります」 「はい...」 「ただし...こんな大そうなものを...“海水浴場”の沖に、浮かべるつもりはありません...」 北原が、画像をどんどんスクロールした。そして、“津波避難・フロート”/<概略図−1>を 表示した。
「これは...」北原が言った。「海水浴場の場合などは、ふだんは海水の来ない、砂浜の上の方 にを設置します...また、港などで、場所のない場合は、最初から海に浮かべておくのもいいわ けです。 “頑丈なフロート”は...鉄骨で十分な強度で組み上げ、津波で流木やその他の漂流物でも まれても、変形しない構造にします。浮力は、発泡スチロールが安価で確実でしょう。アスファル ト舗装の下に敷き詰めるような、発泡スチロールというものもあります。 鉄骨も発泡スチロールも、劣化しても交換が容易です。発泡スチロールは、養殖のブイ(浮き)に も使われるわけで、浮力という点では信頼性がありますね。ただ、浮くだけでいいわけですから。 もちろん、他にもっといいものや、利便性のあるものがあれば、それでもかまいません。例えば、 木材がたくさんあるのであれば、それでもいいわけです...」 「基本的には、」響子が、口に手を当てた。「鉄骨と発泡スチロールで組み上げるのかしら?」 「そうですね... あと、床面に木材の板も使うかも知れません。それから、発泡スチロールの劣化/破損を防ぐ ために、周りも板材で囲うべきでしょう。基本的には非常に安価な構造物ですが...“津波が 来た時には・・・強力な浮力が・・・威力を発揮”...します」 「ふーん...」 「大きさは、用途/場所/環境によりますが... 大きい方が安定します...“大きな海水浴場”などでは、長さ50m×幅20mぐらいあってもい いかも知れません。状況により、連結したり、散在させたりします。大きさは臨機応変でいいわけ ですが...普段はこの上に売店やトイレ、監視所などを設置すればいいわけですね。 “大きな海水浴場”には...こういう“津波避難・フロート”を必要数設置すればいいわけで す。これなら、巨大津波にも簡単に対処できます。強力な浮力がありますから、津波の大小/地 震の強弱は、問題ではありません。まあ、強風に飛ばされないように、しっかりとセットします」 「うーん...」響子が、満足そうに微笑した。「逆に...海の家や売店などは、それを義務化する 方がいいのではないでしょうか?」 「それもありますが...」北原が、響子を手で制した。「もう少し、説明させて下さい」 「あ、はい...」響子が微笑し、口をすぼめた。 「この“津波避難・フロート”は... 津波が来たら、押し流されて行くというのは、よくありません。流されると、多くのリスクが発生し ます。したがって...“コンクリートの台座の上に固定して・・・津波が襲来した際・・・海水で 上下動が可能”...なのがいいと思います」 「あ...上下・可動ですか...?」 「そうです... こうするには...数本の頑丈な柱が必要になりますね。“海水浴場”では、そこまでは必要な いかも知れません。ともかく、この固定方法は色々ありまして...松・竹・梅のランク...を付け るとすれば、台座と頑丈な支柱を作るのは、松・ランクになります。 竹・ランクは...砂浜に必要数の穴を掘り、テトラポッド(コンクリート製の消波ブロック)を埋めてアンカ ー(碇/いかり)とし...ワイヤーで津波の高さに対応します。地形にもよりますが、ワイヤーの長さ は、ケチる必要もないでしょう。松・ランクでも、支柱の長さを超えた津波では...ワイヤーに頼る ことになります。 梅・ランクは...“小型/津波避難・フロート”になります...これはロープでの固定になりま すが、管理が不十分になりそうですね。この点は想定外などと言わず、十分な強度と管理を徹底 して欲しいと思います」 「はい、面白そうですね、」響子が、顔を和ませた。 「実際には、安価なものですから... 松・竹・梅のランクにこだわることなく...納得のいくものを組み上げて欲しいと思います。“磯 の漁場”や、“子供たちの水浴び場”などに...“小型/津波避難・フロート”を、幅広く広く設 置して欲しいですね。 “小さな漁港/海辺の村・・・あるいは・・・個人家屋/集団家屋の単位”でも...防波堤/ 高台へ避難とは別に...もう1つ、“津波避難・フロート”を準備しておくことは可能です。こうし た施設が、家の近くにあれば心強いでしょう...」 「うーん...」響子が言った。「確かに、家の近くにあれば、心強いですね... それから、“子供たちの遊び場”ですか...それに、“漁村や島々・・・”...“海浜公園”な どでは、普段はあまり人がいないような所でも、“津波避難・フロート”の設置が求められますね。 “海浜に近い学校”などにも、“津波避難フロート”を設置しておく必要がありますね、」 「そうそう...」北原が、ニッ、と白い歯を見せた。「特に... “海に近い学校”では...最高ランクの松・クラスをお勧めします。“子供たちを・・・全員載 せても大丈夫なフロート”...で...“幼い子供たちでも・・・外にこぼれ落ちないような・・・保 護装備の完備”...したものを、設置したいですね、」 「ふーん...そうですか...」響子も微笑し、うなづいた。 「それと...」大川が言った。「“大都市・臨海部”も...細かな検討が必要でしょうな... 場所により、“本物の・・・海に浮かべる・・・メガフロート”の配備も、必要になるでしょう。最初 から、“病院施設/予備機材”や...“救難物資/食糧”...“被災民・収容施設”...“大ヘリポ ート基地”を配置し...例えば、東京湾などに浮かべておくということです。 これらの施設は...地震/津波に対して...直接被災するということは無いわけで...確実 に大震災から生き残ることになります...こうした備えは、是非、必要ですなあ...石原・都知事 なら、やってくれそうですが...」 「うーん...そうですね...」 「津波は...」大川が、続けた。「河口から、川を遡ります... 海辺ばかりでなく、河口や川も、“津波避難・フロート”の備えは必要になりますな。結局、人間 は、川や海を、“生活の場”として、また“憩いの場”として、離れられないわけです。どうしても、 “津波避難・フロート”の備え必要になるでしょう」 「はい...」響子が、髪に手を当てた。「安価なものですから...緊急対応として、整備して欲しい ですね」 「そうです...」北原が言った。「東北の被災地は、廃材でも十分に作れます... 土嚢(どのう)を積む防波堤もいいですが、“津波避難・フロート”の展開も、万一の場合は、人命 を守ることになります。“耐・津波ビル”の出来上がるまで...いや、その後も...“津波の備え” として、“必須の避難施設”になります」 「はい...そうですね。ご苦労様でした、北原さん、大川さん」 「ハハ...」北原が笑った。「あと... 手スリ、ネット、その他に、装備しておくものも色々ありますが、とりあえず、原型を考察しておき ました。このような簡単なものですから、既に存在していたかも知れませんね。しかし、普及はして いなかったわけで、日本中/世界中の臨海部に、配備して欲しいですね」 「はい...」響子が、満面で微笑した。「予想以上のものでした...これなら、本当に大丈夫そう ですね、」 北原が、うなづいた。
〔2〕
巨大津波から3年//
津波避難・フロートの・・・展開と・・・課題は・・・
大川 慶三郎 北原 和也 里中 響子
「うーん...」 《危機管理センター》 /里中響子が...《My Weekly Journal/第2編集部/軍事・国際》 の部屋を訪れ...そこから窓外の風景を眺めた... 《 の巣・・・プロトタイプ/梁山泊〕の、ランドマーク・タワー/円筒形・12層ビルが見える。早春の、 やわらかな陽光の中で、ビルが溌剌(はつらつ/生き生きとして元気のよいさま)と屹立(きつりつ/堂々とそそり立つこ と)している。 「“東日本大震災”から3年ですか...」響子が、独り言のように言った。「早いものですわ...」 〔人間の巣・・・梁山泊〕 の丘陵に下では...いつの間にか、ガラス温室とビニール・ハウスが 点在している。当面の、 冬季用の野菜供給に作られたものだ。 そして、その周囲では、すでに春の農作業も始まっていた。寒風の中で、褐色の土が掘り返され、 そこに淡い陽光が散っている。 《My Weekly Journal/第2編集部》 大川慶三郎/軍事・戦略担当が...響子に目礼し、無 言で、傍(かたわ)らに立った。 「“大震災”から、もう3年になるのですね...」響子が、もう一度言い、溜息をつく。「その後... この...〔人間の巣・・・プロトタイプ/梁山泊〕が...創出されたというのに。被災地/東北で は、このような...〔安価/頑丈・・・脱冷暖房の・・・未来型都市/恒久的構造物〕 は...これ までのところ、1ヵ所も創出されなかったわけですわ」 「そうですなあ...」大川が、大きく口を開けた。「それが...“官主導の・・・復興計画”...とい う奴でしょう」 響子が、無言でうなづいた。 「まあ...」大川が言った。「あの... 莫大な、“復興特別税/復興特別予算”を創設したわけですが、官僚組織にはその運用能力さ え、なかったわけですなあ... 官僚は、その莫大な特別徴収の血税に、白アリのように群がったわけです。そして、全く無関係 な目的外用途に大量にブチ込んだわけですなあ。あれには、さすがに国民も活目(かつもく/刮目・・・刮 はこする意味で・・・目をこすってよく見ること。注意して見ること)です。 まあ...“日本の官僚組織の力量が・・・日本中/世界中に・・・注目された3年間” でした。 被災地での、“ワンストップ/復興庁の創設”も、評判が悪いですねえ。かえって、ひと手間のか かる、“省庁の・・・硬直した縦割り” になってしまったとか...ハハ...」 「はい...」響子が、目を閉じた。「その通りですわ... “脱・冷暖房/自然環境を克服/生態系と協調した・・・高度な自給自足コミュニティー”の、 〔人間の巣/未来型都市/千年都市〕は、被災地の大きな希望/〔極楽浄土のインフラ建設〕 にすることも...容易だったはずですわ。 いえ、私たちの...〔日本版/ニューディール政策・・・人間の巣の全国展開〕に限らず... そうした...“未来型社会の展望・・・活発な、議論/政策展開の・・・可能性”が...“当局/ 官僚・政治・財界の・・・既得権グループ”によって...封殺されました。非常に残念ですわ!」 「そうですなあ...」 「そして、も何よりも...」響子が言った。「被災地での、将来展望の喪失感です... もし、〔極楽浄土のインフラ建設〕が、1ヵ所でも始まっていたなら...PTSD(Posttraumatic stress disorder/心的外傷後ストレス障害)などの、数々の精神障害さえ、希望へ向かって解消したのかも知れま せんわ」 「ふーむ...」大川がうなづいて、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ。
「でも...」響子が、大川の横顔を見た。「でも、いったい... “将来展望を封殺した・・・既得権グループ”も、はたして勝利を得たのでしょうか? “復興 と 未来が封殺され・・・社会の信頼システムが崩壊”... “日本という国家/社会が・・・まさに崩壊 寸前状態”に陥っています。“現在・将来とも失い・・・ひたすら現状維持・・・さらに原発再稼働” ... これで、〔★ 希望の持てる国家 ★〕となるでしょうか?」 「そうですな...」大川が、ポケットから手を出し、顎ヒゲをさすった。「“官僚・政界・財界の・・・現 状維持の・・・強大な意志”が...そうさせたのでしょうな... 我々も含め...都市プランナーや、建築デザイナーや、数多(あまた)の文化人や、思想家...そ うした人々の未来予測/将来展望...それを、政策におとしていく政治家... こうした、真摯(しんし/まじめで熱心なこと)な...“国民の夢・・・未来型社会創出の・・・好機”を... “官僚的エゴで・・・ひねりつぶし・・・ 封殺” したわけですねえ。 “妖怪レベルの・・・官僚的硬直性”が...まさに、如実に発現されたわけですが...“国民の ・・・恨みは・・・末代まで・・・”...残りますなあ。このままでは、“歴史的・・・オオタワケ”として、 史書に記述されていきそうですな...」 響子が、唇を噛み、腕組みをした。
「その上で...」北原和也/国際・担当が、作業テーブルの方で声をかけた。「通産・官僚は... “レベル7・原発事故”(/ヒューマンエラーによる事故・・・全電源喪失/ベント不能/津波想定の無視)の、謝罪・反 省もなく...“原発・再稼動”に躍起ですね...これは、本当のコトです!」 「ハハ、そうだな...」大川が、軽く笑い流し、ゆっくりと作業テーブルの方へ歩いた。 「官僚は...」北原が、後ろの響子に言った。「本当に、国家・国民を、考えていないですね。もう一 度、原発事故が起きたら、日本は本当に終わりです。“国家破綻”が、現実に起こり、世界も相手 にしなくなります。 いったい、“それほどの・・・危険” を冒してまで、“原発・再稼働”は必要のでしょうか?電気は 足りているわけです! それに、“安全審査” と言いますが、“東京電力・福島第1原発の事故”の以前にも、“安全審 査の・・・お墨付き”で運転していたはずです。“今度は・・・大丈夫”と言われても...」 「そうですね...」響子が、うなづいた。「新たな事態は、それをアッサリとクリアして行くでしょう」 「いや...」大川が、椅子を引いて、そこに腰を落とした。「その前に... 中程度の地震/例えば...新潟県中越沖地震(/2007年7月16日・・・マグニチュード6.8)の様なもので も起こり、また“東京電力・柏崎刈羽原発の事故”(/運転中の全ての原子炉が緊急停止。3号機すぐ横の変圧器 から出火。4人が消火を試みたが、消火栓の水は地震の影響でほとんど出ず。緊急用の、軽トラック搭載の消火ポンプは失念していた。) の様な事態が起これば...そのつど、“原発の安全性が厳しく問われる” ことになるでしょう。 そして、結局は、“脱・原発”ということになる!これは、まさに “大きな失政!”です。国民を正 当な理由なく、“極度に危険な状況!” に、陥れたということです...」 「うーん...」響子が、椅子に手を掛け、作業テーブルについた。「日本では... 地震は常に発生しますわ。その大きなリスクを取っても...“原発・再稼働”するという...安倍 政権の真意はどこにあるのでしょうか?」 「明白でしょう、」大川が、スクリーン・ボードを準備する、北原を眺めた。「“既得権構造” を守るた めです... “文明全体/日本全体”から見れば、“些細なエゴ・・・既得権”です。これが、“経済原理のダ イナミズム”に乗り、“グローバル化世界” を闊歩(かっぽ/大股で堂々と歩くこと)する、巨大な怪物にな るわけです。 “世界中の・・・些細なエゴ・・・既得権”が...レイチェル・カーソンの 『沈黙の春』(/1962年に出版) を反古(ほご/役立たないもの)にし、ローマ・クラブの 『成長の限界/人類の選択』(/1972年に出版) という、 警告を無視し...さらに、COP3の 『京都議定書』 /“温室効果ガスの排出量規制”(/1997年12月) を、デッドロック(/交渉などの行き詰まり)に陥らせてきたわけです」 「うーん...」響子が言った。「まさに...人類の英知/智慧が、問われていますわ」 「ま...」大川が言った。「“原発・再稼働”というのは... 電力各社が、“石に噛り付いて守る・・・大企業/財界の・・・既得権”でしょうな。そして、それ と繋がっている、“通産官僚の・・・仕事の確保・・・天下りの確保” でしょう。それを安倍・政権が、 政策として全面・推進し...与党/自民党・公明党が支える...という構図ですか... “ロクでもない・・・些細な既得権”のために...地震国・日本で...“ヒューマンエラーによる ・・・レベル7・原発事故”の後も...“事故収束を見ずに・・・再稼働”という、莫大なリスクを背負 い込むわけです。政治家としての、信念/スタンスが、問われる事態でしょう。 同じ、“ヒューマンエラー”とされる...アメリカの“スリーマイル島原発事故(1979年/事故の国際評 価尺度・レベル 5)”や、旧ソ連の“チェルノブイリ原発事故(1986年/事故の国際評価尺度・レベル7)” とは、雲 泥の差ですな...まさに、〔★ 日本民族としての真/マコト ★〕 が問われる事態でしょう...」 「はい...」響子が、肩に力を入れた。
<“津波避難・フロート”
の今後の課題・・・
A ・・・ 避難タワー 、 公共施設 、 一般ビルの屋上 ・・・にも設置を! >
“東日本大震災”から、3年が経過し...だいぶ洗練・進化したと思います。工業デザイン的な 進化については、日本産業の得意とする分野でもあり、私たちからは言うことはありません... 構造主体の素材開発...様々な付加装備も加味し...“船舶・自動車・都市と同じような・・・ 文明構造物の逸品として・・・進化” して行って...ほしいと思います。いずれ、〔人間の巣/未 来型都市/千年都市〕 と同様に...世界展開 して行くものと思われます」 「はい...」響子が、結んだ唇に満足をただよわせた。 「さて...」北原が続けた。「私たちが... “3年間の//・・・ポスト・東日本大震災” を見ていて...指摘 したいことの1つは...“大 津波・災害” に対する、“津波避難・フロート”の、“戦略/戦術的・・・展開の仕方”...の方で す。これは、工業デザイン的な進化とは別の...戦略・展開/政策・運用の話になります。 まず...港湾・沿岸・河口地域での...“津波避難・ビル”、“津波避難・タワー”、“公共施設 の屋上スペース”、“一般のビルの屋上スペース” にも、付加装備されるべきであり...これは 〔必須の・・・基本的・・・防災装備〕 だということです。 3年間望見して...“まだまだ・・・展開が甘い”と映っています。私たちは、“津波避難・フロー ト” の大展開で...“津波による犠牲者・・・ゼロ” が...可能だと考えています。 津波は...巨大な暴力ですが...基本的には、サーフボードに乗る波と変わりません。それを “大堤防”や“津波避難・タワー”で受け止めるのとは別に...サーフボードのように、しなやかに、 “津波を乗りこなす”ことで...“犠牲者・・・ゼロ” にすることが、可能になります。 そのためには...“津波避難・フロート”の...“戦略展開と・・・きめ細かな戦術的展開”が、 “津波による犠牲者” を抑える、最重要な要素になってきます」 「うーむ...」大川が、眼鏡の真ん中を押した。「その通りですなあ... <宮城県/南三陸町の・・・防災対策庁舎>が...津波に呑み込まれて行く映像は...何度 も見ました... “女性職員が・・・命がけのアナウンス”をし...最後に、津波に呑み込まれて行きました... あそこでは、41人が犠牲になられたそうです。今後は...“津波避難・フロート”の...追加装備 は必須でしょう。どんな巨大津波が来ても...“最後に・・・命を繋ぐ・・・確実な浮体”...です」 「はい!」響子が、強くうなづいた。「ええ...
...そうですね、今となっては、もう遅いわけですが...“津波避難・フロート”が、事前に展開 していたなら...“命が救われた・・・可能性” があります。“今後は・・・しっかりと追加装備” し ておく...ということですね。 “教訓を生かし・・・津波の注意喚起”はもちろん大事ですが...“幾重にも・・・セーフティー ネットを張っておく”...ということです。逃げ遅れても、最後に、“津波避難・フロート”がある... という万全の状況を整備しておきたいと思います...“犠牲者・・・ゼロ”は...可能です」 「はい...」北原が、うなづいた。「私たちは、“津波による犠牲者・・・ゼロ” を目指しています! 後で述べますが...“個人・少人数用/ライフ・カプセル” ...というものも、開発してほしい と考えています。これは、“個人・オフィス・家族装備の・・・小型/多機能カプセル” ですが、“公 共施設と・・・重複装備”という方向を、検討しています。 “様々なタイプ/情報機材搭載タイプ”...も検討していますが...“対・津波用の・・・簡易 /安価なタイプ”でしたら...日常的な風景に溶け込む...家具の1つ...となって行くかも知れ ません」 「はい...」響子が、大きくうなづいた。「“情報機材・搭載タイプ”というのは、メディカル・チェック や、生命維持・機能も、搭載されるのでしょうか?」 「まあ...」北原が言った。「そうですね... 医療用は別として...そうした非常に高度なものも...範疇に入ってきます。“対・苛酷環境用 の・・・特殊カプセル”になりますが...とりあえず、需要が多いのは、“対・火災用/対・寒冷用 のカプセル”でしょうか、」 「うーん...」響子が、唇に手を当てた。「その方面は...通常でも、犠牲者数が多いわけですね」 「そうです」北原が言った。「後で、考察します...」 響子が、うなづいた。
=3月11日、和歌山県田辺市文里、杉山敏夫撮影... (写真を借用)
「ええ...」大川が言った。「いいですか... 北海道の...“奥尻島・地震/北海道南西沖地震”は...“1993年7月12日/午後10時 17分・・・夜中に起こった地震”...です。この時の津波での...“死者・行方不明者は・・・島民の 4%/198人” ...と記録されています」 「はい、」響子が、うなづいた。「“奥尻島・地震”でも、大きな津波がありましたわ」 「その後、」大川が言った。「奥尻島では... 大津波に備えて、幾つもの “津波避難・タワー” を建設しています。その画像を、インターネット で幾つか拾ってのですが...どれも、“津波避難・フロート” は装備されていないようですなあ。こ れでは...“避難施設の・・・半分の威力・・・半分の安心” ...でしょう。 確かに、“十分な・・・高さ/強度・・・を考慮” したものでしょうが、 <宮城県/南三陸町・・・ 防災対策庁舎>の...“二の舞となる・・・可能性”...があります。この事態は、絶対にあって はなりません。 “東海・・・東南海・・・南海・・・の大地震”が予想される...その沿岸地域の“津波避難・タワ ー”の写真も、幾つか見たのですが、“同じ状況の・・・東日本大震災直後の写真” を見ました。 まあ、実際には、現在は対応しているのかも知れません。しかし、“官僚的・安全神話”が闊歩し ていないか、不安もありますな。今でも、原発・立地自治体は、“官僚的・安全神話”にトップリと浸 かっている訳ですから... ともかく...“原発の安全性・・・安全審査”もそうですが...これでオーケイと...線引きをし てはいけないのです。事態は...必ず...大概...それを、楽々と乗り越えて来ます...そうい うものだと、承知しておいてほしいと思います。 あと...“津波避難・フロートを・・・装備してある施設”なら...その事を、明示しておいてほし いですね。それが...“安心・安全” ...につながる、“防災文化”...となるわけです」 「そうですね...」響子が、椅子の背に上体を引いた。「“安心”できるということも、大切ですわ」 「その通りです...」大川が、大きくうなづいた。「その“安心”こそが、平安な日常なのです... くり返しますが...“津波避難・タワー”、 “各種の・・・公共施設の屋上スペース”、 “一般ビ ルの・・・屋上スペース”などに...“津波避難・フロート”を追加装備することを...是非、お願い したい思います。 “安価で・・・確実な浮体”であり...設置スペースもあり...整備は容易なはずです。様々なシ ミュレーションを重ね...実地訓練を重ね...漏れのない、戦略・戦術的な、配備をお願いします」 「はい...」響子が、強くうなずいた。「“安価で・・・単純構造・・・確実な浮体” ですね... 今後予想される...“東海・・・東南海・・・南海・・・の大地震”でも...是非、“津波避難・フロ ート” を、広く普及して欲しいと思います。 “大堤防/国家予算レベル”のものではなく、“人間サイズの防災装備”です。“個人や集団 レベルで・・・整備が可能”です。是非、“きめ細かい配備”を、お願いします!」 「ええ...」北原が、響子の方を見た。「では、響子さん... “個人・少人数用/ライフ・カプセル” の方に、話を移していいですか?」 「はい、」響子が、小さく頭を下げた。「お願いします...」
〔3〕 個人・少人数用/津波避難・ライフカプセルの展開!
北原和也が、スクリーン・ボードの横に立っていた。ボードでは北原が描いた、“津波避難・ライ フカプセル”のデザインが、ゆっくりとスクロールしている。 “個人用/ライフカプセル”が数種類、“2〜4人用/ライフカプセル”が数種類...スケッチ は彩色され、背景の風景もサッと描かれていた。製図機で描いた図面もあり、かなり詳細な説明文 もあり、ゆっくりと下に落ちて行く... 全体の概要が示されると、北原が口を開いた。 「これは... 大川さんと私で...“津波避難・ライフカプセル”のアイデアの起点として、考察したものです。 設計図という段階のものではありません」 「よく描けていますわ...」響子が、最初に戻ったスケッチを眺め、身を引いた。 「ありがとうございます、」北原が、自分でもそれを認め、うなづいた。「さて、まず... こうした“カプセル”が、実用性のあるものかどうか...実用化できるものかどうかを...私たち は、このデザイン集で探ってみました。 “小型フロートの・・・カプセル化”ではありません。より簡易な、大量配備可能な、“津波避難・ ライフカプセル”という、別種のものを考察しました。 “津波避難・フロート”はすでに存在するわけです。これに対し、個人向けの、“対津波・・・装甲 カプセル/装甲スーツ”...と考えて欲しいと思います」 「で...」響子が、あえて質問した。「実用化できると?」 北原が、陽気な白い歯を見せた。 「大いに可能性あり...という結論です!」 「そうですか...」響子が、満足そうにうなづいた。 「津波避難の...“第4の形態・・・個人/家族用・ライフカプセル” として、進化が可能です」 「心強いですね」 「はは...」大川が、明るく笑って、顎ヒゲを撫でた。「彼は、何ヵ月も夢中になっていましたな。アイ デアが湧くと、私のところに跳んで来ましてね。まあ、私も久しぶりに、創造的仕事を楽しみました」 「分かりますわ...」響子も、楽しそうに口をすぼめた。「創造的な仕事は、楽しいものですわ」 「まあ、順調に進んでいる時は、」 「そう、」響子が、うなづいた。 「ともかく...」北原が、満面の微笑で言った。「何は、さておいても、響子さんに説明しましょう」 「はい、」響子が、唇を引き結び、大きくうなづいた。
「ええ...」北原が、口調を改めた。「まず... “対津波の・・・戦略的展開” は...“第1=堤防”、 “第2=津波避難・ビル&(アンド)タワー”、 “第3=津波避難・フロート”を...“港湾・沿岸・河口の地域”に、網目のように展開します。 そこに、新規/追加の...“第4=津波避難・カプセル”を...“個人/家族/少人数オフィス” という最小単位で展開し...“細かい網目で・・・全体を覆う”...という位置付けになります」 「はい...」響子が、口に手を当てた。 「“津波避難・カプセル”は... “堤防/避難タワー/避難フロート”にも、それぞれ追加装備を推奨します。船舶の非常用装 備/ボート・浮輪・救命胴衣のような形態です。“津波の海での・・・浮力と装甲”を備えています」 「うーん...」響子が、“少人数用・・・家族/カプセル”のスケッチを見入った。「これは...そもそ も、どうしても必要なものなのでしょうか?」 「必要です!」北原が言った。「“津波の犠牲者・・・ゼロを目指す・・・4層目の展開” になります。 これは、“安心・安全の文化”ともなるわけです」 「保険ですな...」大川が言った。「保険は、滅多に起こらないコトのために、その障害を金銭的に 保証するものです。その掛金を考えれば、“津波避難・カプセル”は、安価な装備であり、命を守る 備えです」 「常識的には、」北原が言った。「津波は沿岸部や河口を遡るものです... しかし、災害というものは、時として常識を超えて襲ってきます。絶対大丈夫だと思われていた、 <岩手県/宮古市/田老地区(旧田老町)の・・・防潮堤>も、今回の東日本大震災では、楽々と 超えてしまったわけです。“津波避難・カプセル”は、より広範囲で、設置してほしいと思います。 「うーん...」響子が、体を大きく傾げた。「個人で、装備可能というわけですね... もちろん、それを厭う(いとう/嫌がる)ものではありません。でも、あえて聞きますが、どうしても必要な のかということですわ。ゴテゴテとあれば、良いというものでもありません...」 「状況しだいですが...」大川が言った。「命を救われる人々も、多く出ると思いますなあ... それに、北原君が言ったように、“安心・安全”の文化という側面を持ちます。単に命が助かれば いいわけではなく、“安心”して暮らしたいわけです」 「確かに...」響子が、うなづいた。 「ともかく...」大川が言った。「整備するには... “津波避難・カプセル”も、“津波避難・フロート”と同様に、“自治体の・・・補助・管理”が重要 なファクター(/要素)でしょう。しっかりと、整備して欲しいと思います」 「そうそう...」北原が、頭に手をやった。「自治体・管理で、思い出しましたが... “フロート”や“カプセル”には...“地域/所有・型式等”が...船舶やヘリから視認できるよう に、“ナンバー登録”をする必要がありますね。“迅速な情報収集”や“迅速な救助”に役立ちま す。この“システムの充実”が、“犠牲者・・・ゼロ” を可能にします」 「はい...」響子が、手を組み合わせた。「問題は... 何度もいいますが、“津波避難・カプセル”の実用性ですわ。それが、簡易で実用性のあるもの なら、普通の水害や、土砂災害の対応策としても、普及するかも知れませんが...」 「ま...」大川が、苦笑した。「結局、そういうことですな...」 「自信あり、です!」北原が、笑みをたたえ、腕を折って見せた。 <“サーフボード型=個人/カプセル”・・・
B
「はい...」北原が、低くうなづき、スクリーン・ボードに目を投げた。「ええ、まず... “基本・・・個人/最小カプセル”で...全体概念を説明します。“強力な浮力/浮体”は、一般 的な、“漁業用ウキ/ブイ(/水面上に浮かんで、位置標示などをする浮体)”を連想していただければ、いいで しょう。“発泡スチロール充填・・・頑丈/タフな浮力”で、“津波・・・ガレキの海”を乗り切ります。 デザイン画/No.1は、最初に考えたものです...“サーフボード型/平板的・カプセル”として、 “フタをして内側から密閉・・・窓/空気孔を装備”する、というタイプです。長所は、体を伸ばして いられる、ということでしょうか。まあ、サーフボーダー向けですね... 材質は...チタン(金属チタンは強度・軽さ・耐食性・耐熱性を備える。航空機や潜水艦、ゴルフクラブに使われるが、加工が難 しいめ、非常に高価)なら最高です。しかし、これも、“漁業用ウキ・・・硬くタフなプラスチック”が、手頃な 所かも知れません。ともかく、“頑丈”ということが必要条件です。 “カプセル下側に・・・錘(おもり)を入れ・・・復元力”を得ます。復元力が重要なのは、“津波避難 ・フロート”と同様です。ヨットの復元力と同じで、裏返しになっては困るわけですね...」 「はい...」響子が、うなづいた。 「さて...後は、実際に即して、考察していきましょうか、」 響子が脇を見、ポン助の配るコーヒーに手を伸ばした。
が来襲し、ガレキや漁船が防波堤を乗り越えて行く、凄まじい映像だった。それを見ながら、響子が コーヒーカップを、そっと戻した。 「さて...」北原が言った。「余裕があれば...“巨大津波”が到来する前に... @/・・・“津波の到達しない、十分な高台”...に避難する。これが最も安全です。判断は地 震直後の津波情報で分かります。“昼・夜/季節・天候/移動手段/身体能力”を考慮 し、日頃か ら訓練をしておくことが、非常に大事です。次に... A/・・・“津波避難・ビル/津波避難・タワー”...へ避難します。<宮城県/南三陸町・防 災対策庁舎> 等の例もあるように、“常識を超える大津波”が到来するかも知れません。したが って、“津波避難・フロート”の追加装備が、“2重の・・・安心安全”になります。次が... B/・・・“大型/特別・・・津波避難・フロート”...に避難します。これは、“保育施設/学校 /介護施設等”に、万全を期して設置される、“高い安全基準/特別・・・津波避難・フロート”で す。“津波避難・カプセル”の追加装備が、“2重3重の・・・安心安全”が実現します。次が... C/・・・“一般/公共・・・津波避難・フロート”...への避難になります。これは、“港湾/臨 海の公共施設/海水浴場”などに整備されるものです。“大きい方が・・・安定感”があるでしょう。 家屋やガレキと一緒に流されても...“大きく・・・堅牢なフロートが・・・安心安全” です...」 「はい...」響子が、うなづいた。 北原が、スクリーンボードで、別の画像を呼び出す作業をした。響子と大川が、それを眺めながら コーヒーを飲んだ。北原も、それをやりながら、自分のコーヒー・カップを取り上げた。
「ええと...」北原が、スクリーンボードを見ながら言った。「次に... D/・・・“一般/公共/小型・・・津波避難・フロート”...への避難になります。これは、“磯 の漁場/子供たちの水浴び場/漁村などの集落/個人家屋”などに、展開します。漂流物が少な けれは、フロートは安全です。ガレキに揉まれることがなければ、サーフボードのような波乗りにな ります。」 「はい...」響子が、うなづいた。 「まあ... 小型でも、復元力の錘(おもり)と、セーフティー・ネットは基本的装備です。これで、“津波の海”を数 日間漂流することを考え、漂流のための装備を搭載しておき、必需品を直前に積み込む必要があ ります。搭載品・リスト、必需品・リストを、パネルで“フロート”に張り付けて置きたいですね... “大型・フロート”で、“カプセル・ハウス”を搭載したものや...“小型・フロート”で、全体がカプ セル型になっているものは、事前に装備品・非常用食料を搭載しておくことが可能で、風雨や寒さに も対応でき、安全性が高まります...しかし、“高台へ避難が・・・最も安全”ですね...」 「うーん...」響子が、肘を抱いた。「そうですね...」 「まあ...」大川が言った。「それが、出来なくて... 東日本大震災では、1万数千人の犠牲者を出してしまったわけです。それを“ゼロ”にするため に、我々もこうやって頑張っているわけですな、」 「はい...」響子が、コクリとうなづいた。 <最後の手段/最も身近な装備/・・・“ライフカプセル”
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「さて...」北原が、スクリーン・ボードに次の映像を出した。「地震の震源地が近くて... “巨大津波が・・・短時間で襲来” するケースがあります。また、様々な事情で...“逃げ遅れ る事態” も起こるでしょう。偶然が重なり...“避難できないケース” もあるでしょう。そのための、 【最後の手段/最も身近な装備】 として... E/・・・“個人/家族・・・津波避難・カプセル”...に避難することになります。これは、“屋外 /屋外に準じた場所”に設置します。重要なことは、“家屋と一緒に・・・沈むのを回避” すること です。 これは、例えば...庭に上下可動のポールで固定ししておき、津波で2階に浮き上がってきた時 に、“乗り込む”、という方法もありますね。やはり、まず高い2階へ逃げますから...このあたりは、 運用面での工夫や試行錯誤が必要です」 響子が、タバコを吸っている大川の方を見た。 「大川さん、どうなのでしょうか...」響子が言った。「ここが一番肝心ですが... “津波の海”で、ガレキや家と一緒に押し流されても...“強力な浮力で浮上し・・・硬いカプセ ルが・・・身体を守ってくれるのか?”...という、機能が十分に発揮するかということですが...」 「ふむ...」大川が、タバコの灰を落とした。「“実用性があるのか?”、ということですな...」 「はい、」 「少なくとも... “ガレキの中での・・・圧死や溺死・・・”のほとんどは、助かるでしょうな。それに、“カプセル” に入って、ビーコン(/無線標識)を発信していれば、行方不明も避けられるでしょう。“迅速な情報収 集”や“迅速な救助”も可能になります。 “巨大津波が・・・短時間で襲来” するケースでは...ここが、“津波避難の・・・最前線/生 死のライン” ...になりますな...」 「はい!」響子が、コブシを口に押し当てた。「では...不可欠の装備だと、いうことですね?」 「そうです!」大川が、片手を立てた。「次に... “ガレキの中で浮くか?”ということですな。“漁業用ウキ/ブイ・・・球形カプセル”なら、沈む 方がマレでしょう。“球形”は外圧に強く、“ガレキにも・・・引っかかりにくい”...ということです。 ええと...北原君、No.7のスケッチを...」 「はい...」北原が、画像を呼び出した。 スケッチと一緒にある図面では...外寸直径2mとある。ナンバーの横に...“家族用/津波 避難・ライフカプセル”と、分類名が入っている。 「まあ...」大川が言った。「一目、瞭然でしょう... “漁業用ウキ”をモデルにした、外径2mの、“球形=家族用/津波避難・ライフカプセル”です な。“浮体/発泡スチロールの浮力は・・・カプセルの肉厚”の中に、封じ込めます。その内部が、 “避難スペース”となります。壁はクッション、壁に埋め込み式・固定バンド、取っ手もあります...」 「これは...」響子が言った。「津波の中で、体を固定するわけですね?両手でも、つかまって...」 「そうです... 上下で3つにスライスされた球体の図は...“上部の1/3が透明な蓋(ふた)・・・真ん中が避難 スペース ・・・下部の1/3が錘(おもり)と収納スペース”...ということです。 下部の1/3所が床になります。ここは、カプセルの強度に貢献します。かなりの収納スペースが ありますが、収納物も床も、しっかり固定します。散乱すると、凶器にもなりますから...」 「このあたりは、試行錯誤が必要だということですね」 「はは...」北原が笑った。「全部が、試行錯誤ですよ」 「はい、」響子が苦笑した。「そうですね」 「こうした...」大川が言った。「“球形/カプセル”というものが... あの、“津波の海で・・・沈む・・・”...と思いますか?“全体がウキで・・・水が入っても・・・沈 まない構造”です。“ガレキに揉まれて沈んでも・・・浮き沈みは大丈夫・・・”、でしょう...」 「うーん...」響子が言った。{そうですか...」 「まあ...」大川が言った。「あえて、言えば... 水中で引っ掛かった時のみ、装備品や才覚がものを言いますな。通気孔を閉じて密閉度を高め れば、しばらくは中部の空気が持つでしょう。ダイバー装具があれは、色々と補助にも使えますな。 濡れることを考えれば、“ウェット・スーツ”を積み込んでおくのも、いいアイデアでしょう。“津波の 海”を乗り切っても、“凍えて”は、何にもなりません。必需品・リストを作って、中に貼り付けて置くと、 いざという時に役立つでしょう...」 「うーん...」響子が、腕組みをした。「そうですね... 北原さんが...“津波による・・・犠牲者・・・ゼロを目指す” ...といった言葉が、実感できま すわ。“大堤防よりも・・・海の近くで・・・海を克服し・・・海と共に生きる”...ということが、可能 になわけですね」 「そうです!」北原が、大きくうなづいた。 「うーん... 〔人間の巣のパラダイムは・・・大自然との協調・共生〕ですわ...“方向性は正しい”と思い ます...」 「そのようですな...」大川が、ヒゲをさすった。
〔4〕
津波避難・カプセルの開発=製作・運搬・組立
「さて...」大川が言った。「次に...No.11のスケッチも説明しておきましょう」 「はい...」北原が、サッカーボール型のスケッチにスクロールした。「これは... “製作工程・・・/運搬・・・/組立・・・”なども考慮し、実際の“開発・・・/流通・・・/デザイン 性・・・”にも、アプローチしてみたものです。サッカーボール型というのは、進化型の1例ですね」 響子が、うなづいた。 「その前に...」北原が、スクリーン・ボードをスクロールした。「まず... 一般的な、“津波避難・ライフカプセル”の製作について説明しましょう。これについては、“カプ セル/巨大ウキ”を、一体整形で製作する必要はありません。これでは大袈裟(おおげさ)になり、運 搬にもかさばります。そこで“カプセル”を、数個のパーツに分割し、製作する方法を考えました。 “個人用/球形カプセル”の例では...“球体を・・・2分割+透明フタ”、という構成になりま す。まあ、“球体は・・・4分割”でも、それ以上でもいいわけですね。 このように、“硬質プラスチックを成形・・・発泡スチロールを充填・・・パーツを合体” させて、 “球形/カプセル”を組み立てます。内部は、“床・・・床下の収納庫/錘(おもり)”です。“頑丈/ 単純構造”で、複雑なものは何もありません。 あと...津波に揉まれた時のために...“自動車様の安全ベルト・・・取っ手・・・セーフティー ネット・・・クッション等”、が付き...“救難ビーコン(無線標識)・点滅信号”も基本装備となります。 さて...このように分解して製作すれば、移動・流通・組立も容易です。個人配備が普及します。 しかし、最終的には“自治体の・・・補助/管理”と、“地域・・・救出システムの構築”、の方向が いいでしょう。これは、“災害発生時の・・・状況把握・・・迅速救出” ...の基幹となります」 「うーん...」響子が、脚を組み上げ、ボードの説明を眺めた。「この“ライフカプセル”は... “津波災害”だけではなく、“地震災害・・・/風水害・・・/土砂災害・・・/山岳災害・・・”など、 “災害全般に及び・・・避難場所確保/状況把握という・・・ライフカプセル”...となるわけです ね。是非、開発・進化させてほしいシステムですわ」 「そうですな...」大川が言った。「津波に対しては... まず、“個人装備/個人管理” が大事です。無駄を承知で、余分に配備しておくことです。それ が保険というものであり、“安全・安心の・・・文化”というものでしょう。これは、保険のように後で金 を払えばいいというものではなく、“命の・・・安全保障”です」 「はい、」響子が言った。 「“高い堤防・・・防波堤”は、“折れやすく・・・超えられやすい”のです。 防御手段としては必要ですが、木偶の坊(でくのぼう/あやつり人形・・・ 役に立たない人)ですな。硬い防御も、 確かに必要ですが、大自然に対しては十分ではない。超えられるか、迂回されるか、重荷となり、 無用の長物となるか...」 「つまり...」響子が言った。「しなやかさ、がないと?」 「“人間的な身の丈”...ということです」 「それが、文化だと...?」 「そうですな...」大川が顎ヒゲをなでた。
「“高い堤防”は...」大川が言った。「海を恐れるだけです... それだけでは、海の豊かさを忘れてしまう。海を超えるということを、知らない者のすることかも知 れません。豊饒(ほうじょう/よく肥えた)の海も、恐怖の海も、全てが我々の歴史であり、我々の文化だと いうことです。 海に尻尾を巻いて、山に暮らすも人の姿...再び海に挑むのも、人間の風景です...しかし、 必要以上の“高い堤防”は、シラケを感じます...中国の“万里の長城”がしかり...フランスの “マジノ線”がしかりです...無用の長物と化してしまいます...」 「“マジノ線”というのは...」響子が言った。「フランスとドイツの国境線に、展開した要塞(ようさい)と か?」 「そうです... “マジノ線”は、フランス・ドイツ国境を中心に構築された、対ドイツの長大な複合要塞です。当時 の、フランス陸軍大臣/アンドレ・マジノの名を冠して、“マジノ線”と呼ばれました。 第二次世界大戦/開戦後の1940年に...ヒットラーの率いるドイツ軍は、“マジノ線”を迂回、 アルデンヌ奇襲により国境を超えています。 この、アルデンヌ地方の森(/ベルギーとフランス国境の森林地帯)というのは、大自然の要害で、重砲や戦 車は通れず、行軍不可能とフランス軍は想定していました。しかし、正面の“マジノ線”は、見事に 迂回されたわけです...」 「うーん...」響子が、口にコブシを当てた。「“東京電力/福島第1原発事故”で連発された... “・・・想定外・・・”ということですね...」 「そうです... これは、“想定を間違ったことが・・・大きな誤算”なのです。それで、責任も生じず、罪もないと いうのは、言語道断ですな。そんな論理で、また“原発の再稼働”を画策していますねえ...」 「はい...」響子が言った。「“マジノ線”を迂回したというのは、<義経の一の谷の奇襲>に似て いるかしら?」 「ああ...」大川が、顔を和ませた。「はい... 義経の...<ひよどり越えの・・・逆落とし>(/源平合戦で・・・精兵70騎を率いて、一ノ谷の裏手の断崖絶壁の上 に立った源義経は・・・ここが戦機と見て・・・断崖を馬で駆け下りた。馬を背負って下りた者もいたという)と似ています。つまり、 “高い防波堤/マジノ線”は...正面に強いが、脇が甘い、ということですな、」 「ふーん...」響子が、コクリとうなづいた。
「ええ、さて...」北原が言った。「“サッカーボール型/ライフカプセル”を説明しましょう」 「あ、はい...」響子が、肩を回した。「お願いします」 「私たちは... “組立式/カプセル”の発達型として、“サッカーボール型/ライフカプセル”を、考案してみた わけです。金属フレームの骨格に、サッカーボールのような5角形や6角形のパネルを張るわけで す。もちろん、パネルは発泡スチロールを充填した浮体です。 上の方には、透明パネルもはめ込み、外が見えるようにします。入口にも、このパネルを使いま す。ファッショナブルで楽しそうな、“ライフカプセル”が出来上がります...」 「うーん...」響子が、口元をゆるめた。「これは、楽しそうですね、」 北原も、複数のデザイン画を眺めて、白い歯を見せた。 「問題は...」大川が言った。「強度でしょう... 球形フレームを強化することで、問題はクリアできるでしょう。水が入っても、全体が浮体パネルで すから、沈むことはありません。実際に開発されて行くのは、こいうものになるのでしょうか。しかし、 実用的な、配備となるのは、“球形カプセル”となるのでしょうか...」 「形は、」響子が言った。「自由にということですね?」 「そうですが、」大川が、眼鏡の真ん中を押した。「基本は、球形/ウキ型です... 底を平らで広く取るなら...私たちは、“カプセル型の・・・フロート”...と分類しています。これ は超大型から小型まで、各種サイズが可能です。したがって、“ライフカプセル”は、あくまでも最小 単位の分類です。しかし、子供の存在から、“家族用/ライフカプセル”もあり、としたわけです」 「はい、」響子が瞼を閉じた。
「はい、」響子が、姿勢を正した。バレッタ(髪留め)に、ポン、と手を当てた。 「基本的に... “ライフカプセル”は、“津波避難・フロート”のように、“アンカー/錨で・・・固定しない方が良 い”、と考えています。つまり、ロープやワイヤーで、“つなぎ留めない方が良い”、ということです」 「その方が安全だと?」 「そうです... ロープやワイヤーがガレキに絡み、沈み込む恐れがあります。その可能性を無くすために、球形 /ウキ型としたわけです。“津波避難・フロート”は“大きな浮体/強大な浮体”ですが、“ライフ カプセル”は“最小単位の浮体”です。流された方が、安全だと考えます。 まあ、この辺りは、検証をくり返すべきでしょう。環境や条件によっても異ります。ともかく、“ライフ カプセル”は“津波避難・フロート”にも追加装備されます。船舶における“救命ボート/救命胴衣” のような位置付けになります」 「うーん...」響子が、深くうなづいた。「漂っていたら、“フロート”に回収するわけですね?」 「そうですね... 島やビーチのような、ガレキ発生の少ない所なら...そして、子供たちだけなら...何かに固定 しておく方がいいかも知れません。海洋を漂うのは、ビーコン(/無線標識)があるとはいえ、より危険性 を高めるだけ化も知れません。 まあ、子供が大勢いるような場所では、当然、“フロート”の方が準備されるべきですが、様々な ケースが起こり得るということですね。運用面での研究も、進めてほしいと思います」 「研究課題ということですね?」 「そうです」北原が、スクリーン・ボードをスクロールさせた。「ケース・バイ・ケースということですが、 漏れの無い、柔軟性のある、“津波避難・・・配備”としたいものです。ともかく、配備し、進化させて 行ってほしいと思います」
「これは、」大川が言った。「余談になりますが... “ライフカプセル”は、“超小型/人間サイズ”だけに...“海での・・・人の安全性・・・多用途・ カプセル”、に進化できる可能性がある知れません。“磯の漁場/養殖場/子供の水浴び場”では、 “大きな・・・フロート”ではなく、“小型の・・・カプセル”の配備も、一考でしょう。 海に親しむ時は、“津波避難・フロート”や“津波避難・カプセル”の習熟も、同時にして欲しい ということです。浮輪/サーフボード、あるいは、ボート/カヌー/ヨットと同じように、“身近な海の 道具”として配備し、親しんで欲しいですな」 「船への配備は...」響子が言った。「どうなんでしょうか?」 「一考ですね、」北原が言った。「検討課題になります。しかし、球形はどうでしょうか?」 「うーん...」響子が、うなづいた。「球形の必要はないと?」 「球形は、“津波の・・・ガレキの海”を乗り切るための形です... まあ、これも、底が完全な球である必要はないのかもしれません。設置するのに座りが悪いです から。多少カットは、開発段階でどうにでもなることですね」 「それならば、漁船などにも、搭載は可能と?」 「流用は可能です...」大川が言った。「まあ、そのためには設計段階から、そのスペースを作って おけば、邪魔にはならないでしょう」 「うーん...」 「ま、その先は、専門領域の話です」 「はい、」
<ライフカプセルの・・・ 救難装備 & 日常的用途・・・> E D
この、“津波避難・ライフカプセル”で...【数時間 〜 数日間】...“巨大津波の・・・ガレキ の海” を...漂琉し...救出を待つ...ということになります。 “ライフカプセル”は...自動/手動で、ビーコン(beacon/無線標識)・光点滅を発信します。したが って、救出も早いと思われます。しかし、“真夜中の被災”だったり、“冬の悪天候”だったり、“広域 災害”が重ると、救出体制が整うのに、相応の時間が予想されます」 「“東日本大震災”でも、」響子が言った。「数日かかった、でしょうか?」 「そうですね...」北原が言った。「しかし、今度は... “津波避難・フロート”や、“ライフカプセル”を配備し...それぞれに、“救助ビーコン”(無線標 識・救助システム)も発信しているわけですから、早い救出は可能なはずです。そうした“地域・・・救出 システム”を、積極的に構築して欲しいですね。“民間ヘリの要請”も、事前調整が可能でしょう」 「そうですね、」 「しかし、“予想を超える事態”は常にあります... そのための“救難装備”も、命を守るためには重要です。“ライフカプセル”で、“津波の海”を乗 り切っても、“寒さと飢えは・・・急速に体力を消耗”させます。そこで命を失っては、元も子もないわ けです。 最悪...“真冬の・・・嵐の海・・・を想定” し...“濡れて・・・漂流も・・・想定” し、“万全な体 制を・・・日頃から整備” して置いて欲しいと思います」 「基本...」「大川が言った。「“ライフカプセル”は個人装備です... “個人責任での配備/管理” が原則となります。“命は自分で守る”、ということですな。“ライ フカプセル”は、そうした最後の手段の個人装備だと言うことです」 「はい...」響子が、唇を結んだ。
「そこで...」北原が言った。「“ライフカプセル”の装備品/(予想)を点検します。まず... ★ “救難信号ビーコン((beacon/無線標識)/点滅灯”は必需装備品です。継続電源となる“太陽 電池パネル”は、“カプセル”の表面に装備可能です。エネルギー源があれば、“暖房”が可能に なります。また漂流した時もも、高い生存率につながります。 ★ “伸縮式の・・・フックのついた竿(カプセルを押したり、引き寄せたりする)/パドル(カヌーで使用する櫂)/ ロープ/バケツ/ナイフ”...なども必需品です。これらは、流失防止・フックを付け使用します。 ★ “カプセル”から海へ出る時は、“命綱”が絶対条件です。宇宙遊泳と思い、“フローティング ベスト・・・救難用フック・・・命綱” を、装備してほしいですね。ここで命を落とす可能性もあります。 ★ “保温目的の・・・厚地のウェットスーツの類(たぐい)” も、装備しておくべきでしょう。“カプセ ル”は強力な浮体であり、沈むことはありません。しかし、海水で濡れることは、想定しておくべきで しょう。それから、避難時の必需品である... ★ “水・・・/食料・・・/非常用救急セット・・・/防寒衣類・・・/ 携帯電話・・・/身分証明 ・・・/薬などの必携品” です... ★★・・・// “装備品は・・・収納庫に常備” し、ロックしておきます。“直前に持ち込む・・・必 携品は・・・リストを作成”し、“カプセル”の内側に張って置くと良いでしょう。これらも、日頃から、 準備しておきたいですね。 こうした準備をしておくことで...地震/震源が近く、津波が短時間で到達する場合にも...ス ムーズな避難が可能です。本来、“ライフカプセル”は、そうした時のための、“緊急避難装備”で す。緊急時に対応できなければ、本来の機能性を失います...」 「はい...」響子が、コクリとうなづいた。「細かい配慮まで、有難うございます」 北原が、スクリーンボードをスクロールした。 「いいですか... これらの“装備品を搭載”するとして...“津波避難・ライフカプセル”を再デザインして行くこと になります。“救難信号・・・/強度・・・/居住性・・・”など、様々な要素が加わります。まあ、緊急 時には、身ひとつでも転がり込めるように、“水/非常食は・・・常備品”としたいですねえ...」 「はい、」響子が、うなづいた。「そうですね!」
「それから...」北原が、腕組みをした。「海上での落雷を避けるために... ★“避雷針” も付けた方がいいでしょう。これは、“金属のカゴ”にすればいいわけです。“カプセ ル”の成型加工の前後に、針金を埋め込めばいいわけですが、検証は必要です」 「はい、」 「はは、こうなると... “山岳エリアの・・・緊急避難カプセル”にもいいですねえ。山岳では、落雷となると避難場所が ないのです。私も恐(こわ)い思いをしたことがあります。山では、近くの岩場や、下の方でも落雷があ ります。それに、寒さや風雨による疲労ですね...」 「そうですね、」響子が、腕を組んだ。「“ライフカプセル”は... “地震/津波災害”だけでなく...“山津波/土砂災害”や、“風水害”にも有効ですが... “落雷”にもいいですね。山岳地帯では、“多用途/緊急避難・・・ライフカプセル”になりますわ。 “太陽電池パネル”があれば、暖房もとれますし、救難信号も発信できますわ」 「ま...」北原が、困ったように髪を撫で回した。「考えてみたのですが... はは...これは、トイレに使われる恐れがありますね。まあ、横に、もう1個/トイレ型を設置して おけば、問題ないと思います。この“ライフカプセル”は、救難時には頼りになると思います。 しかし、山岳では船舶と同様に、球形の必要があるか...ということですね。ともかく、球形は座 りが良くないですね」 「うーん...」響子も、口元をゆるめ、微笑した。 「まあ...」北原が言った。「それは、その方面の人に任せましょう」 「そうですね、」 「ええと、No.7の家族用/スケッチは... 外寸/直径2m...下1/3に所に床...膝を折れば大人が横になることも可能...大人2人、 子供1人は...楽に入れるでしょう」 「うーん...」響子が、口に手を当てた。「球形が、強度としては最高なわけですね?」 「まあ、そうだと思います.... “ライフカプセル”の場合は、外部圧力ということになります。材質や構造材の細かな検討は、ま だ行っていません。“上部/透明フタ”は細部の設計が必要です。また、十分な強度が得られるな ら、もう1ヵ所、“横の入口”も欲しいですね。これは津波対応ではなく、使い勝手からです」 「それは...」響子が、デザイン画を眺めた。「家族用では...ということですね?」 「そうです... 救難時/平常時の、“ライフカプセル”としての、使い勝手からです。“上の入り口”というのは、 いかにも不便でしょう。“横の入口”があれば、日常的にも様々な使い道が考えられます」 「使い道とは...?」 「言葉の通りの意味です... 響子さんは、この“カプセル”が庭の隅にあったら...何に使いたいですか?中に...椅子とテ ーブルがあったら?」 「ほほ...」響子が、満面に笑みを浮かべた。「そういうことですか... うーん...“横の入口”があれば...楽器演奏とか...読書とか...1人になりたい時は重宝 しそうですわ」 「ははあ...」北原が、宙を見た。「楽器演奏ですか。それは考えなかったですね... “ライフカプセル”はウキで、発泡スチロールが詰まってますから、防音効果/断熱効果は高い と思います。読書もいいですね。子供の遊び場にもなります。 ま、何にしても、“津波避難・カプセル” は、何十年に1度かの“非常時装備”です。平常時の位 置付けが重要になってきます。それを無視すると敬遠され、無用の長物とされます。日常に溶け込 んで、“安全・安心・・・文化”として、違和感がなく、活用されることが大事でしょう」 「はい...」響子が言った。「入口を、家と接続することも可能ですね...1部屋多くなりますわ」 「うーむ...」大川が、顔を崩した。「響子さんは...応用の方が得意なようですなあ」 「ほほ...いっそのこと、茶室にしたら、どうかしら?」 「ははあ...」北原が閉口し、頭に手を当てた。「それは、響子さんにお任せしましょう」 「はい!」響子が、満面の微笑で、うなづいた。
「さて、」北原が言った。「話を進めます... ええ...“サーフボート型”は最小のものです。“球型”は、個人/家族用で、様々なサイズが可 能です。“サッカーボール型”は進化型です... “細長/大型カプセル”も可能ですが、大型になると浮力のある、“津波避難・フロート”の方が いいわけです。“フロートとカプセルの合体型”です。“大型フロート”は、いずれにしても、風雨を 避けるためにも、備品搭載のためにも、用便のためにも、カプセル/小屋というものは必要です。 こうした施設と比べ、“ライフカプセル”はあくまでも、【個人の装甲/浮体・・・最後の手段】と言 うことです」 「はい!」響子が、大きくうなづいた。「そこに、家族型もあるという分類ですね?」 「そうです」北原が、うなづいた。 浮体パーツを開発・・・ 自分で組み立て・・・ 海水浴で使って見る!
「“ライフカプセル”は...」北原が、スクリーン・ボードを大きくスクロールした。「“津波避難・フロ ート”と比べれば...“個人の装甲/浮体・・・非常に小さな浮体”です... 材料としても安価です。パーツは、町工場でも容易に作れます。個人の創意工夫で、“一定の基 準”のもとに、“オリジナリティーな・・・独自カプセル”を作ることも、可能です。それを目指し、各自 のアイデアを結集し、開発をスタートさせて欲しいと思います。 海水浴シーズンには...“自慢の・・・装甲浮体・・・カプセル”を海に持ち出し...習熟し、進化 させて欲しいですね。防災訓練時でも、訓練を実施して欲しいと思います。消火器の使い方と同様 に、“津波避難の基本・・・最後の手段”を、身に付けて欲しいと思います...」 「はい!」響子が、コクリとうなづいた。 「“ライフカプセル”は...」北原が、続けた。「これ以外に、確実な需要が見込まれます... 商品開発/市場リサーチも含め...全国展開/世界展開して欲しいと思います。海で川で山で、 多くの人命を、守って欲しいと思います...」 「はい!」響子が、深く頭を下げた。「ええ...“東日本大震災”から3周年です... “東海・東南海・南海・・・の大地震”も、近いと予想されています。“犠牲者ゼロ・・・の津波避 難対策の展開” を...是非、お願いしたいと思います!」
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「ええ...」響子が、唇を結び、微笑した。「お2人とも、ご苦労様でした!今回も、予想以上の成果 と思っています!」 「はは...」大川が、眼鏡をはずした。「次は...これ以外の、“特殊・カプセル”ですな」 「その方も、よろしくお願いしますわ」 「はい!」北原が、白い歯を見せた。「少し、小休止を取ってから取り掛かるつもりです」 「そうですね、」響子が、うなづいた。「私の方も、同じ 《危機管理センター》 での... 《凶暴化する結核菌》のページが、“東日本大震災/3周年”の特集で、中断となっています。 まず、そちらを、片付けてからになりますが... 次の “特殊・カプセル” の展開にも、どうぞご期待ください! 」
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苛酷環境下の特殊カプセル・・・
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ふふ |