しばしば、医療システムと教育システムは、外部からのメスが入りにくいと聞きま
す。が、ここでは細かなシステムの修正ではなく、医療というもの、健康管理というも
のの全体的デザインを考察したいと思います。いわばこれは、政治で言えば、政局
の問題ではなく、政権構想のようなものです。
この医療における課題は、私達個人にとっては、政治よりもさらに深刻なものがあ
ります。何故ならこれは、私達の命と健康に直接かかわる大問題だからです。
(1)
構造的不信感
私達はしばしば、お金さえあれば何でも手に入ると思うことがあります。しかし、
実際にはそうではありません。少なくとも、お金で健康を買うことはできないのです。
また、高額な医療費をかければ病気を予防でき、健康を維持できるかというと、これ
も少し筋が違うようです。現在の医療システムは、あくまでも病気を発見し、治療し、
それに見合った報酬を得るシステムなのです。少し言い過ぎかもしれませんが、別
ないい方をすれば、“不健康な治療を必要とする患者”が大勢いなければ儲からな
いという側面を持っているです。また、さらに突っ込んで言えば、
“過剰医療をしていないか?”
“過剰投薬をしていないか?”
“それらが、逆に健康に害をおよぼしてはいないか?”
“外科手術や歯科手術で、逆に傷つけられたことはないか?”
“結局、本当に直す気があるのか?”
と、いったようなシステム的な疑惑が噴出して来ます。また、これが経済原理で動
いていますから、より多くの利益をあげようというプレッシャーが常に働いているわけ
です。こうした中で、“医は仁術である”を貫けというのも、所詮無理な話です。一方、
医療現場での訴訟が増加しているというのも、こうした現実があるということを、如実
に示しているのではないでしょうか。
(誠心誠意医療に取り組んでおられる、非常に多くの方々がおられることは承知しています。しかしここで
は、国民全体にとっての健康管理システムを考察しています。)
では、どうしたらいいのでしょうか。私は医療方面の専門家ではないので、具体的
な妙案は持ち合わせてはいません。しかし、全体的なデザインとしては、表題にもあ
りますように、
“対処的医療から、未来型の予防・健康管理システム”
へ、シフトしていくべきだと考えます。まず、予算を予防・健康管理システムの確立
の方に徐々にシフトし、医療関係者も予防医学の方へ重心をシフトしていくべきだと
思います。
また、いずれ必ず来る死の問題はきわめて複雑で、ここで簡単に述べるわけには
いきません。が、ここもパラダイムを変えていく必要があります。かっては天国や地
獄というような、独創的で豊かな思想がありました。しかし現在は、単なる消滅として
捉えられ、“忌み嫌うもの”というマイナスイメージだけがはびこっています。
この領域は、本来そんな薄っぺらなものではありません。いわく、死は“人生の完
成であり”、“最高位のもの”であり、ここに“人生の原動力”があることを、もっと知る
べきです。したがって、医療現場でも、ただ延命に延命を重ねるのではなく、死の哲
学というものも教えつつ、静かな死を迎えられるような心のケアが求められます。
いずれにせよ、難しい問題ではありますが、<平成維新の標準目標 No.2>と
して、どうしてもこの医療革命はやっておかなければなりません。すでに健康保険財
政はパンクし、一方で国民は医療に対して構造的な不信感を増大させています。そ
の上、モラルハザードがこの国家の根幹を蝕んでいます。こうした中で、私達自身の
命も、俎上の鯉のように扱われているのではないでしょうか。
(2)
未来型の予防・健康管理システムへ
さて、今年の夏のことです...インドネシアで、自然発火的な大火災がありまし
た。原因はエルニーニョとか言ってましたが、どのようなメカニズムだったのでしょう
か...
ところで、その時のニュースで知ったのですが、あの国では消防自動車を呼ぶと、
お金がかかるのだそうです。つまり、ポンプで水をまくと、一回いくら、あるいは一時
間いくらとお金を取るのでしょうか...ずいぶん奇異な話だな、とニュースを見なが
ら思いました。現地の人は、家や町が延焼しているのに、お金がないから消防自動
車を呼べないんだと話していました。なぜ、日本のように、消防活動を国が管理し、
無料にしないのかと不思議に思いました。
ところが、実は日本でも同じようなことが、医療現場で起こっていました。病気で死
にそうなんだが、お金がないので病院に行けないんだという...また、病院はインド
ネシアの消防自動車のように、放水した水の量で料金を取ります(本当に水の量か
どうかは知りませんが...)。したがって、水をどんどん無駄につかっていれば、そ
れだけお金が儲かるという仕組みです。まあ、実際には水ではなく、薬であり、医療
施設ということになりますが...
では、未来型の予防・健康管理のシステムとは、どのようなものが想定されるで
しょうか。先ほどの消防活動のアナロジーを、逆に考えてみるのも一考と思います。
日本の消防署は、一定の区域を所轄し、火災を極力起こさないように日夜監視し
ています。そして、もし火災が起こった時は、ボヤのうちに消し止め、万全の態勢で
延焼を食い止めます。しかも周囲の消防署からも応援に駆けつけ、さらに上部組織
が広域のコントロールをしています。
これを医療システムに置きかえると、大体こんな風景になるでしょうか。消防署の
ような国営の病院や保健所が各所に配置され、予防・健康管理のキャンペーンが張
られます。また、各種のスポーツ施設や運動施設が建てられ、健康管理を志向しま
す。無論、薬漬け、検査漬けの医療は激減させ、消防署のように費用は無料としま
す。
こうなれば、タバコや飲酒、肥満や糖尿病などに対しても社会的な認識が高まり、
予防が効果をあげ、大幅な医療費の削減につながります。また国民も、大いに健康
的になると思います。一方、医師の身分なども大変動するわけですが、こうした所
も、大きな社会的合意が必要なところです。
私は専門外なので詳しいことは分かりませんが、参考になるのは、北欧の高福祉
社会の医療システムなどでしょうか。しかし、いずれにしても、より優れた独創的なシ
ステムが求められます。それには、医療システムだけでなく、平成維新という社会シ
ステム全般の大変革が必要なわけですが...
さて、21世紀の医療システムは、どのようなものが良いでしょうか。私達の未来
は、私達が設計し、私達が作り上げていかなければなりません。大いに議論が盛り
上がることを期待します。