Menu資源.未来工学未来工学人間の巣・第3段階の考察/③人間の巣の原型の建設

  〔人間の巣〕 プロトタイプ 建設 ③/

  
  
ミッションの始動    クリーン・エネルギー 

                     自給自足農業の確立

        肉食の自粛へ・・・食物連鎖の喧騒からの離脱

 
                 

トップページNew Page WaveHot SpotMenu最新のアップロード            担当 : 竹内 建造

INDEX                 

No.1 〔1〕 クリーン・エネルギー 2013. 4. 9
No.2        <ミニ・ダム湖と・・・水力発電所> 2013. 4. 9
No.3       <菜園付き・・・簡易夏ハウスのエリア> 2013. 4. 9
No.4 〔2〕 自給自足農業の基盤整備 2013. 5.10
No.5       <収容人口は・・・ 農業の自給力で決まる!> 2013. 5.10
No.6       <ライブ中継・・・蕎麦の種蒔> 2013. 5.10

    


〔1〕 クリーン・エネルギー            

                

 
  ブラッキーが、南東の渓谷ヘリコプターを反転させた。眩しい太陽が、視界から去った。ヘリには、

原マチコと、ポン助の他に、都市プランナー/柏木と、エネルギー技師/兵頭、そして、My Weekly

Journal/国際部/北原和也が乗り込んでいた。すでに桜の大木も花が散り、が本格化していた。 

 

ダムかしら...?」マチコが、新緑の萌える山々の起伏の中に、青い水の影を見つけた。

「ああ...」都市プランナーの柏木が、後部座席で首を伸ばした。「そうです...」

  ブラッキーが、尾根の樹林を迂回するように接近する。すると水の尾が延びた。頭のダム湖も、青々と

見えてきた。白くまぶしいコンクリートの堰や、小さな発電所ユニット(全体を構成する1つ1つの要素)も見える。

土木機械ユンボーが1台、ダム湖の川下の川原に放置されていた。

  少し離れた所に、作業小屋資材置場の空き地がある。対岸の急斜面で、谷川が堰(せき)止めら

れ、小さなダム湖ができているのだ。広い所は学校のプールの数倍ほどある。が、ダムの規模は、生態

を乱さないように、小型に抑えられていた。そのダム湖の青い水の上に、ゴムボートが1つ係留されて

ある。

  水力発電発電量も、多くはない。が、エネルギー安定的供給のという意味では、重要な一端を担っ

ている。クリーン・エネルギーでは、風力太陽光発電よりも、ダムの保水力位置エネルギーが、安定し

ているという。それと、ダム〔人間の巣/未来型都市〕水源でもあった。井戸は幾つか掘られていた

が、農業用水もあり、谷川は貴重水源になっている。

  ヘリが、ダムの上を旋回し、ゆっくりと高度を下げていく...ダム湖青色が濃く、新緑の中で美しかっ

た。〔人間の巣/未来型都市〕の近くにできた、土を採取した池とは、水深が違う。つまり、保水力が違う

ということだった。.

<ミニダム湖と・・・水力発電所・・・>              

       


「前の大氾濫は、」マチコが、ブラッキーの頭越しに、青いダムを見ながら言った。「ずっと、下流だったけ

ど、草原にまで水が溢れたわよね」

「ああ、聞いてます...」柏木が言った。「相当に、水が引かなかったようですね、」

「そ...」マチコが、大きくうなづいた。「沢の方では、3日は水が引かなかったかしら」

「ふーむ...」エネルギー技師の兵頭が言った。「最近の中豪雨は、凄まじいですからねえ」

「ダムで、釣りができるかしら?」

「はは...」柏木が笑った。「もちろん、できますよ」

「うーん...今日は無理よね...」 

  ダム湖の対岸の山々は、新緑が萌(も)え上がるように鮮やかだった。遅咲きの山桜も見える。5月

ールデン・ウイークも間近で、山が笑う若葉の装いだった。地形としては、渓谷は北に折れて登っている。

〔人間の巣/未来型都市〕は、この下流草原高台にある。土砂崩れ水害も心配のない、安定した

地形にある。

  渓谷の向こう側の斜面に、何本かの杭がチラチラと見えた。黒黄のゼブラ・ロープがはられている。

間の領域の、仮柵が作られているのだ。仮柵の向こう側は、大自然に還元されて行くことになる。つまり、

そのゼブラ・ロープが、治山治水境界線となる。

  いずれ決定されれば、頑丈な防御柵が構築される。そして内側は、多角的運用管理徹底される。

鹿イノシシなどの大型哺乳動物は、エリアには入れないことになる。逆に外側は、大自然の摂理

まかされる。氾濫して鉄砲水が走っても、崩落しても、原則的管理は行わない。

 

  ブラッキーは、ヘリをダムの上で旋回させた。それから、手慣れた様子で、資材置場の草むらに着陸さ

せた。プレハブ小屋があり、10人ほどの男女が働いていた。土木工事のも進行中だ。道路や、広場

憩施設も作るようだ。

  一行は、屋外テーブルでお茶を出された。人が集まってきた。自然と、ダム湖釣りの話に花が咲いた。

この辺りは、昔は子供たちが、カジカヤスで突いていたらしい。渓流は、ヤマメ岩魚が釣れた。去年、

マス稚魚ダム湖に放流され、それがだいぶ大きく育っているということだった。

  マチコが、釣りをしたいというと、案内すると約束した。上流でバカでかい岩魚を釣り落とした話は、昔か

ら有名だった。その岩魚巨大魚影を、ダム湖で再び見たという。それは堰の上からで、何人もが目撃

したという。

  以来...テンカラ釣り(日本の伝統的な毛バリ釣り)ルアーフライ・フィッシング海釣りの仕掛けなども用意

し、試しているのだという。マチコにも、ぜひ参加して欲しいと笑った。

  マチコたち一行は...期待を込めてダム湖をのぞきながら...設計技師の兵頭の案内で、ダム発電

設備を見て回った。全てが真新しかった。そして、順調に発電している様子だった。発電所からの送電線

は、水道管と一緒に引かれているようだった。

 

  一行は、再びヘリコプターに乗り込み、青空へ舞い上がった。ダム川下を見ると、細い水流と、淀んだ

が見えた。取水量は抑えられていて、谷川は生きていた。

「つぎは...」 マチコが、助手席で腰を浮かした。「“菜園付き・簡易夏ハウス”のエリアね、」

「オウ...」ブラッキーが、スティックを押し、ゆっくりと右へ倒した。「ずぐ下流にあるぜ」

「うん...」 マチコが、首の双眼鏡をかざした。

  北側山稜に、風力発電鉄塔が見える。大型輸送ヘリタンデム・ローターのように、起伏する尾根

に、2本並んでいる。ゆっくりと回転していた。水力発電所風力発電2基、そして、水田の広がる北東

草原に、太陽光発電パネル区画があった。

  いずれも、稼働していたが、まだ試運転の段階である。そしてこの他に、バイオマス・エネルギー安定

電源として加わる。今は、草原を刈り払ったカヤや、雑草潅木などが集められていた。これらはメタンガ

の材料として、加工されることになる。

<菜園付き・・・簡易夏ハウス・エリア>          

 
        


  ヘリコプターが機体を傾け、新緑の沢を南下して行く...陽光若葉が輝き、生命力が溢れていた。

から少し下ると、開けたゆるい斜面が広がった。かって、果樹園だった所だ。この一帯は、耕作放棄地

だった。果樹も、放置されて野生化し、つる草が生え、荒れていた。

   これまでもマチコは、草原を跋渉(ばっしょう: 野山を超え、川を渡り、各地を歩き回ること)したり、ヘリコ君を飛ばしたり

して、この荒れた果樹林はよく知っていた。この耕作放棄地に、“菜園付き・簡易夏ハウス”が展開される。

デザインが、幾つかネット上公開されていた。が、まだ、決定にはなっていない。線引きはともかく、ほと

んどは利用者バンガローを作り、菜園を耕すことになる。

  当然、希望者ということになるが、こっちの方までは手が回っていないのだ。しかし、古い農道が、ブルド

ーザ削られ、拡張されて、〔未来型都市〕へ続く輪郭が、荒く描かれている。やがて、このは、草木

が植えられ、祭りが催され、夏を謳歌する人々で賑わうことになるが...それも、遠い日ではない...

 

〔2〕 自給自足農業の基盤整備・・・       


                       


  ヘリコプターは...〔人間の巣型/災害対策拠点・・・プロトタイプ〕の、正面/大駐車場戻った。

そこで、都市プランナー/柏木と、エネルギー技師/兵頭を降した。代わりに、強行予約を取り付けて

いた、若手・女性研究員/丸橋清美が乗り込んだ。

  ヘリ正面/大駐車場に降下して行くと彼女ゲート脇に佇(たたず)んで見上げていた。着陸すると、

ひょいとバッグを肩に投げ、首元を押さえ、ローターの下に走り込んだ。降りる柏木兵頭と、気やすい言

葉を交わし、中に乗り込んできた。 

  (や)せた体躯にかかわらず、彼女は非常にエネルギッシュだった。〔人間の巣・・・プロトタイプ〕の、

データ収集・解析・・・自給自足農業部門”の、プランナー・スタッフで、大学では、有機農法准教授

いうことだった。

「お早うございます、みなさん!」丸橋・准教授が、よく通る声でいった。「よろしくお願いしますわ!」

「オウ...」ブラッキーがタバコをくわえ、スティックに手を掛けながら振り返った。「座ってくれ...発進す

るぜ!」

「はい、ブラッキー!」丸橋・准教授が笑顔を送った。ヘリの中が、花が開いたように明るい空気になった。

「みなさん、缶ジュースをどうぞ!」

「あ、うん...」マチコが言った。「コーヒーはあるかしら?」

「ありますよ!」丸橋・準教授が、白い歯を見せた。

  彼女はマチコの横に腰を落とし、バッグから缶ジュースを出した。ヘリがフワリと上空に上がった。青空

の中へ上昇して行く。パイロット助手席には、ポン助が座っていた。その後ろに、マチコと丸橋・准教授

が座っている。後部座席は北原和也が占領し、インターネット・カメラが起動していた。が、ライブ中継には

なっていない。

「ダムの方へ...」丸橋・准教授が、深くシートに座り直した。「回られたのですの、柏木さんたちとは?」

「そう...」 マチコが、缶コーヒーをゴクリとやった。

風力発電の方へは?」彼女も、ピシッ、と自分の缶ジュースの口を切った。

「そっちの方へは、行かなかったわね...」

「そう...」彼女は缶ジュースを手にし、風防ごしに、遠くなっていく下界を見下した。

「水田の方は...」 マチコが言った。「もう、今年から、作付けができるのかしら?」

「できますよ、」丸橋・准教授が、缶ジュースで乾杯のしぐさをした。「注文ですが...3年後には、

前の苗と、思っています」

3年後には、独自米を...?」

「はい...」丸橋・準教授が、口をすぼめ、しっかりとうなづいた。「早ければ、ですわ...

  研究は、並行して進めます。ともかく、今は、〔人間の巣〕の運営を、安定させて行くことが大事です。

本の人口が、大きく流動する時代に入りました。競争のための産業ではなく、生態系負荷をかけずに

調し、“自給自足していくための・・・人口大移動・・・日本列島の大改造”です。

  表日本/・・・メガロポリス集中過多日本の人口も、農村過疎地大移動が始まるでしょう。“東

南海での大地震”予想されていますから、早い方がいいでしょう。日本の産業再編成も始るでしょう。

市場経済下の、無意味競争経済ではなく、地に足のついた、産業再編成になりますわ」

「うーん...」マチコが、キラキラする緑の下界を見下ろした。ゆっくりと、缶コーヒーを飲んだ。「“富士山

の噴火”も...ありそうよね...」

「そうですね...」丸橋・準教授が、静かな口調で言い、後ろの北原和也に笑顔を送った。

「私たちはさあ...」マチコが言った。「“富士山の噴火”でも、〔人間の巣/未来型都市〕“万能型・

防護力”提唱していたわよね...?」

「そうですね...」北原和也が、答えた。

「いよいよかあ...」

「せめて、もう数年は、噴火しないで欲しいですね...」北原和也が、言った。「〔人間の巣/未来型都

市〕の展開が、本格始動するまでは...」

「うーん...」マチコが、陽光に目を細め、コクリとうなずいた。「そうよね...」

  ヘリが再び、“菜園付き・簡易夏ハウス”の沢に到達し、そこを越えた。笹藪の斜面を過ぎ、農地として

ブルドーザ開墾した耕作地にかかった。一帯は起伏する斜面に、茶褐色の畑地が広がっていた。大地

が、細かく整地され、労働集約型農業を目指すべく、温もりのある農場が意図されていた。曲り道もあり、

桜の巨木も残され、所々にススキの原野も残してあった。

  その向こうは、広大な菜の花畑絨毯が広がっている。去年以前整地されたエリアだ。菜種油を収

穫するために、が空中散布されていた。上空からだと、そのに広がる水田区画が見渡せた。水田

張られた水が、陽光に反射していた。

  飛び地になるが、水田は他にもかなりのスペースがあった。過疎地放棄水田である。そこは、収穫

保証されたエリアである。合計すると、かなり広く、重要な農地だった。しかし、そこを、“自給自足農地”

として含めるか、議論になっていた。農地は広ければいいわけではなく、実地に運用した上での、判断

なるようだった。

<収容人口は・・・ 農業の自給力で決まる!>         

       


  現在、“自給自足/農業エリア”範囲は、正確には確定していなかった。黒黄のゼブラロープが、仮

に張られているだけである。したがって、〔人間の巣/未来型都市〕収容人口も、流動的要素が残って

いる。収容人口は、“自給自足/農業エリア”と、その安定的収穫量/自給率で決まって来るからだ。

  が、そうは言っても、もともとが大雑把数量であり、実際には、労働力計算されるわけでもない。クリ

ーン・エネルギーの動力を使えば、種蒔収穫も、人手不足/労働力不足ということにはならない。つまり、

人類文明のその余裕が、〔人間の巣〕形成させ、すでに、〔極楽浄土〕可能としているのである。

  一方...〔人間の巣/未来型都市・・・高機能空間〕インフラ面では...容易収容人口は増やせ

るという。つまり、居住・構造物増築し、連結すれば、それですむ。また、居住・構造物多層化すること

も容易で、人口密度2倍に高めることも簡単だという。

  したがって、〔2次的・・・旅客施設〕増設など、簡単にできてしまうという。しかも、木造家屋などとは

違い、半永久耐用年数を持つ。つまり、森林伐採しなくて済むということである。クリーン・エネルギー

の確保も1つの要素だが、大自然と協調の方向であり、大エネルギー抑えていく方向である。

  したがって...“問題は食料自給率”であり...“自給自足・・・高機能/農地面積”になると言う。こ

のあたりが、〔人間の巣・・・プロトタイプ〕の運用で、実地判明して来るという。それから、〔人間の巣〕

規模の問題もあった。飛び地水田放棄地は、統合するのではなく、小規模〔人間の巣〕を、新たに

建設するという選択肢もあった。

  しかし、分散化し過ぎると、別の問題が生じて来るという。社会形態全体デザインの問題である。

規模一家/一族のようになってしまうと、昔の姿に戻ってしまうからだ。そうなれば、生態系は再び荒廃

して、争い事が発生することになる。

  〔人間の巣のパラダイム〕では...可能な限り、大地大自然に還元する。そして、〔人間の巣・・・自

給自足領域〕は...〔コンパクト/高機能〕徹底する...という大前提がある。


<ライブ中継・・・ 蕎麦の種蒔 >                   

 
     

                       


  ヘリ操縦席で、管制塔のコールサインのランプが点灯した。

「こちら...≪航空宇宙基地 - 赤い稲妻/管制塔星野支折です...」支折の声が、スピーカーか

ら流れた。「機外・固定カメラ機内・固定カメラとも...画像音声...感度良好...ネット中継まで5分

です...」

「こちら、ブラッキー...了解した...」ブラッキーが、首を半分後ろに回した。

「北原和也、了解!」北原が、カメラの前に片手をかざした。

感度良好、です!」支折の声が、スピーカーから返った。

「丸橋さん...」北原が中継カメラの液晶画像を覗きながら、前席の丸橋・準教授に言った。「ネット中継

で、4分です。メモはいいですか?」

「はい!」丸橋・准教授が、慣れた様子でコクリとうなづいた。

  この、録画/1部ライブ中継(編集なしの生中継)は...丸橋・准教授の強い要望によるものだ。彼女は慣れ

た様子で、下界を見下ろし、インターネット中継ランプが、に変わるのを待った。

「さすがですね...」北原が、彼女の落ち着きぶりを見て言った。「いいですか...

  15分間・中継します。まず、〔未来型都市/千年都市〕遠景と、草原台地の全周を、撮影します。そ

れから、丸橋・准教授を紹介、横顔を撮ります。後は、を拾いながら、下界の農作業風景に接近。順次、

開墾された大地周囲の山々などを写します...いいですね?」

「はい...」丸橋・准教授が、うなづいた。

「...5、4、3、2、1、」

  ランプに変わった。

「こちらは...」北原が、インターネット・カメラに軽く手を添え、タブレットのメモを読んだ。「関東平野/西

部山岳・丘陵です...

   今、話題の...〔人間の巣・・・プロトタイプ・・・自給自足農地〕上空を...ヘリコプターで飛行して

います...

  ゴールデン・ウイークも間近の...4月末の空の下...〔人類文明/・・・ニューパラダイム社会の器

/・・・未来型都市/・・・自給自足農地〕での...歴史的・耕作が...今、開始しています。人類文明

の、〔千年都市・・・プロトタイプ〕が...今、まさに...活動開始しているわけです...

  ええ...ここでは...労働集約型・農業が展開され...高い土地生産性が追及されて行きます。その

分、人類文明の環境負荷が、軽減されされると言われます。現在...初動段階では、労働人口整備

れず、大型・農業機械を使っての、耕作になっています。

  しかし、これは徐々に減らされて行くと言います。ただ、種蒔(たねまき)に関しては、当初から人手で行わ

れている様子です」

  北原が、カメラを丸橋・准教授の横顔に向けた。

「さて...」北原が言った。「今回は...

   データ収集・解析/自給自足農業部門”の、丸橋清美准教授に...初期の作付けと、今後の

などを、お聞きしたいと思います。准教授有機農法専門家と伺っています...

  ええ...まず、丸橋・准教授...現在、種蒔をしているのは、何でしょうか?」

「はい...」丸橋・准教授が、カメラを横顔で受けながら言った。「ええ、丸橋です...

  今日、(ま)いているのは、蕎麦(そば)ですね。春ソバは、4月下旬~5月上旬タネ蒔きます。

に弱いので、の危険がなくなてからの、種蒔になります。ジャガイモ種蒔は、もう完了しています...」

  北原が、画像機外・固定カメラに振った。ヘリが、高度を下げて行く。種蒔をしている人が、グンと近く

に接近した。帽子に手を当て、ヘリを見上げ、手を高く振り上げた。

蕎麦収穫は...」北原が、カメラを丸橋・准教授に戻した。「何時頃になるのでしょうか?」

収穫は...

  種蒔からおよそ、60日~80日後とされています。今回の蕎麦は、収穫まで、無肥料で行う予定です。

“自給自足農業”は、いずれ有機栽培徹底して行き、種苗(しゅびょう)独自のものを循環させて行きま

す。生態系多様性同調させます...」

「はい...遺伝子操作は行わない方向でね?」

「そうです、」丸橋・准教授が、強くうなづいた。

                


「これから...」丸橋・准教授が、種蒔の光景を見下ろしながら、目を細めた。「蕎麦(そば)について、少し説

明しましょう...北原さんは、蕎麦はお好きですか?」

「はい、好きですねえ...」北原が、モニターを見ながら、白い歯をこぼした。「蕎麦を食いに、に出ること

もあります...」

「そうですか...

  私も、蕎麦は、好きな人間の部類でょう。蕎麦は、ジャガイモの収穫の後作...あるいは、秋大根

としても、作付けすることが可能です。

  収穫に関しては、時期の見極めが難しいと言われます。完熟まで待っていると、先に熟した蕎麦

が、ポロポロと畑に落ちてしまいます。早過ぎても、遅過ぎてもダメですのです。最適な時期を見極めて、

収穫しなければなりません。多少のロス神様の取り分と思い、(あきら)めることも肝要ですね...」

「はい...実り過ぎて、蕎麦の実がこぼれている畑を、よく見ます。あれは、我慢のしどころですか?」

「そうですね...

  それから...今年は、コンバイン(刈取作業と脱穀、選別作業を、走りながら同時に行う収穫機)で刈り取ることになるで

しょうが...労働集約・体制が整えば、手刈りへ移行します。

  竿にかけて干した後、足踏みの脱穀機などで脱粒します。ゴミなどは、唐箕(とうみ: 穀物を脱穀した後、籾殻や

藁屑を風によって選別する農具/古民具)にかけて、除去します。唐箕はよく考えられた...面白い道具ですわ...」

「うーむ...唐箕ですか、」

「その後...」丸橋・准教授が、言った。「さらに天日乾燥させ、水分を抜きます...

  後は(ひ)くわけですが...この先は、ソバ粉種類や、蕎麦打の話になってしまいますね...」

「はは...」北原が、笑った。「蕎麦・好きは、ここからですね。まあ、産地も、ですか...」

  ヘリコプター低空旋回を終え、ゆっくりと高度を上げた。正面に、東端水田が見えてきた。広い水田

に水が張られ、陽光が白く反射した。ブラッキーが、ヘリをさらに上昇さる。機体を大きく傾け、青空の中を

大きく旋回しながら、その水田の方へ向かって行く。

  前方に広がる水田が、これから、〔未来型都市/千年都市〕食料を支えていくことになる。そこ以外

米穀は、都市に送られることになる。もっとも、今年収穫量はまだ分らなかった。それに、品質によっ

ては、流通に回される。美味い米が、地産地消されるのは当然である。

「もうじき...」マチコが、前方の山と水田を眺めて言った。「田植えよね...」

「そうですね...」丸橋・准教授が、うなづいた。

  北原和也が、インターネット・カメラ手動カメラに切り替え、広い水田風景ファインダーに収めていく。

彼には、その向こうに...〔数十年後の・・・極楽浄土の風景・・・極楽浄土の大繁栄〕 が...見えて来

るようだった。