プロローグ・・・ 
小休止/・・・目下、沖縄県知事選挙(核不拡散条約)

「ええ、支折です...
今、“人間の巣は専守防衛”で《小休止》に入っています...そこで、《小休止》
までを《第1部》とし、《小休止》以後は《第2部》とする事にしました...よろしくお
願いします...
ところで...沖縄県知事選挙が、いよいよ近づいています。“覇権主義の終焉”
のために、是非、基地撤去派に大勝利をお願いします!東アジアから、“軍拡競争
一掃”の、口火にして欲しいと思います!」

 
支折は、窓辺に歩み寄った。ススキが風になびいている、草原の輝きを眺めた。窓
の下の萩の花は、飽きることなく秋風に揺れている。深い青空のスジ雲が、作業前に
見た時よりも、だいぶ広がっていた...
「オー!」ポン助が、ワゴンを押して部屋に入ってきた。「お茶を持ってきたぞ!」
「はい...」支折が、窓辺で振り返った。「ポンちゃん、ご苦労様!」
支折は、作業テーブルに茶碗を並べ、茶を入れた。ポン助が、茶菓子を1皿づつ、
ワゴンからテーブルへ移して行く...
「どうぞ...」支折は、大川と北原の前に、茶を進めた。それから、ブラッキーと、ポン
助と、自分の前にも、茶碗を置いた。
「沖縄県民が...」ブラッキーが、皿から草餅団子を取った。「新型パトリオットミサイ
ル/PAC・3の搬入を、体を張って阻止したのは...本気だぜ!」
「おう!」ポン助が、草餅団子をモグモグやりながら、茶碗を握った。「アレは、迫力あっ
たよな!」
「うむ...」大川が、ブラッキーに大きくうなづき、ゆっくりと茶碗を口に運んだ。
「あれは、結局...」北原が、大川を見た。「搬入されたのですか?」
「そうだ...」大川が、茶を一口すすった。「インターネット情報では...10月25日に
確認されている...米軍・嘉手納基地で、キャニスターの発射口を上空に向けて配
備されているのを、基地外から確認した...4基だそうだ...12月末までには、1部
運用開始になるそうだ」
「それは...」支折が、茶碗に両手を添えた。「米軍のものですよね?」
「うむ...」大川が、体をかしげた。「米軍の、基地防衛のためのPAC・3だ...これ
は、大型ミサイルの弾道ミサイル迎撃用だが、PAC・2の方はすでに配備されてい
る」
「PAC・2の方は、自衛隊にもあるのかしら?」
「うむ...」大川がうなずき、茶をすすった。「ともかく...
“沖縄県知事選挙”は...大局的に見れば...“文明のターニングポイント”
の、分水嶺になるかも知れない...今は、目立たない天の雨水だが、そこから文
明形態の大転換が始まって行くような...かすかな予感を感じる。これは、“覇権
主義の終焉”の序曲になるのかも知れない」
「沖縄の基地反対運動は、」北原が、明るく、口元を開いた。「まさに、燃え上がって
いますね!」
「うーむ!」ブラッキーが、タバコをくわえてうなった。「ひょっとすると、これは、“本物”
に化けるぜ!」
「うむ!」大川が、重くうなづいた。「まず、県知事選挙で基地撤去派が大勝利し、“覇
権主義の終焉”に先鞭をつけてもらうことが第1だ!」
「はい!」支折が、両手で茶碗を握った。「“覇権主義の終焉”で、“反・グローバル
化”の流れになりますね...“文明の折り返し”の雨水が、分水嶺から山肌を削り、
無数の川になり、やがて渓谷が形成されて行きますよね...」
「まさに、そう願っています!」
「はい!」支折は大きくうなづき、白い大福を口に入れた。
〔1〕 “核・ドミノ”
下で、“核兵器の暴走”は必至!

<政治家の感性が、時代についていけない状況・・・>
 
「ええ...」支折が言った。「“ミサイル防衛構想”が...これから数年のスパンで更
新されるとして...それは、“軍拡・・・/覇権主義”の方向ですよね...これは、
明らかに、“間違った方向”ということですね?」
「明らかに...そういうことです!」大川が、大きくうなづいた。「“覇権主義は20世
紀の遺物”というのが、我々“My
Weekly Journal ”のスローガンです。第2編集
部・軍事部門も、同様です。
今は、まさに覇権競争などをやっている時代ではありません。“文明の折り返し”
が急務です。この意味では、国民から乖離した立法府で、保守政党が地道な努力を重
ねている“憲法改正”も、同一軌道上にあります...
今、憲法9条を変えて、どうしようというのでしょうか...まさに、時代錯誤でしょう」
「はい...」支折が、額の髪を揺らした。「今は、そんな“トンチンカンな事”をしている
時ではありませんね...
人類は、“文明の折返し/文明のターニングポイント”を迎えている時ですわ。
文明が、第3ステージ/“意識・情報革命”へ突入している時です...
そして、同時に、文明史的な“21世紀の大艱難”が押し寄せて来ています。人口
爆発、地球温暖化、海洋の酸性化、科学技術の暴走などの、複合的な危機が、一気
に押し寄せて来ます。この全てをを回避できるのは、“文明の折り返し”しかありませ
ん」
「そうですね」北原が言った。
「莫大な予算をかけ...」大川が、自分のパソコン・モニターをチラリと見た。「ロクでも
ない“ミサイル防衛構想”を進めるなら...第3ステージの基盤/“人間の巣”の展
開を急ぐべきですな...
それによって、“完璧な長期構想的/社会防護体制”を固めることが出来ます」
「はい...政治家は、目先のことばかりに、囚われ過ぎていますわ。現在の政治家
は、深慮遠謀というものがありません!」
「官僚が...」北原が言った。「そうだと言うのなら、それは何となく分ります...
官僚組織というのは、確かに“革命”のできる頭脳集団ではありません。彼等は、
“修正”や“調整”は得意ですが、社会の土台/国家の屋台骨を変えることはできま
せん。それは、自分たちのいる、現在の体制を壊してしまうからです。
しかし、それをやるべき政治家まで...まるで、見当違いの事をしていては困りま
す。“憲法改正”も、無論あってもいいわけです。が、“時代の要求”というものを、読
まなければなりません。国家未曾有の大混乱の折、“憲法改正”は火急の政治課題
ではありません。
また、国民から乖離した現在の政治家には、“憲法改正”するだけの頭脳も政治
力も凛(りん)とした精神も欠如しています。モラルハザード社会/格差社会を作り出し
たのは、誰なのか。
その足元も見ずに、“憲法改正”などと時代錯誤なことを叫んでいること自体、“政
治家としての鼎(かなえ)の軽さ”を証明しています。こんな状況の立法府に、“国家の
聖典/憲法”に手を触れさせるわけには行きません」
「はい...」支折は窓を眺め、目をしばたいた。草原が、秋の陽光に光っている。強
い風は、だいぶ治まってきているようだった。
「国民の意識は...」北原も、草原に目を投げた。「相当に、進歩しているのですが、
肝心の“政治の感性が、国民に追い付いて行けない状況”です...“国民より、政治
家の意識が、はるかに遅れている状況”ます...“政治家が、時代についていけない
状況”になっています...残念ですねえ...」
「だから、国民との間に、“決定的な乖離”が生まれてしまうのですわ、」支折が、ポン
助の頭に手をかけた。「官僚に至っては...文明の危機どころか、国家の危機すら理
解していません...
いずれも、“小市民的な既得権の確保”で、汲々としています...どうして、こんな
官僚が、育ってしまったのでしょうか...政治家も官僚も、“言葉”と“行動”が、まる
で噛み合っていません...全てが、空回りしています。平気で嘘をつき、平気で悪事
をやりますわ」
「ともかく、今は...」大川が言った。「国民の手で、“覇権主義の終焉”を実現させ
ることでしょう...国民がまず、具体的な行動を示し、政治を巻き込んで行かなけれ
ばなりません」
「そう思います」北原が、大川にうなづいた。
<ミサイル防衛構想は、森のクモの巣のような防御>
  
「“人間の巣”は...」支折が、鋭くモニター画面に意識を集中した。「本来の目的
は、まるで違うのですが...
“ミサイル防衛構想”で、無駄な予算を何兆円も使うのなら...らくに、〔未来都
市〕を展開できます...その方が、よほど核ミサイルの防御も進むと思います。“環
境圧力”や“淘汰圧力”にも万全な、総合的な防護能力を高めることこそ、よりハイレ
ベルな安全保障だと思います...
そのあたりのことを、大川さん...もう少し、詳しく話していただけないでしょうか」
「まあ、そうですな...
“ミサイル防衛構想”は...ザルというよりは...全体的に見れば、クモの巣のよ
うな防御です...森に張っているクモの巣のような...いざ国民が標的にされたら、
ほとんど役に立たないでしょう...
何故かというと...迎撃に好都合な、数発程度の高性能ミサイルなら、多少有効
というような防衛システムだからです。そんなに都合の良いミサイルを射ち込んでくる
のなら、迎撃が可能という代物です...
北朝鮮のノドンやテポドンが脅し道具なら、こっちも脅し道具の対抗といった“虚構
の兵器システム”ですな...つまり、ただの金食い虫であり、ハイテクの戦争玩具で
す」
「はい...」
「例えば...
実戦では...ノドン程度のミサイルでも、それを“大量に・同時に”射ち込まれれ
ば、空中で補足・撃破するなどは、不可能なのです...といって、そんなもので、日本
が壊滅するわけではありません。所詮、脅しの道具なのです。
あるいはまた...その大量のノドン・ミサイル中に、“核弾頭を数発”紛れ込ませて
射ってきたら...この場合も、迎撃ミサイルがいかに優秀でも、完璧な対応は不可能
です。だから、“森に張っているクモの巣のような防御”だと言うのです。
そんなものでは、軍事基地は守ることが出来ても、国民は守ることがで来ません。国
民を守る事ができるのは、“人間の巣”の方でしょう...こっちの方なら、万全ですな」
「そうですね...」支折がうなづいた。
「強固なミサイル防衛システムが確立している軍事基地に...わざわざ、その餌食
となるようなミサイルを準備する相手が、はたしているでしょうか...軍拡競争で、脅
しのゲームをやっているのなら別ですが...
実際に、相手を殲滅させたいなら、“遺伝子兵器”や、“生物兵器”の方を選択する
でしょう...そうやって、膨大な軍拡競争が始まっていくのです...ともかく、莫大な
予算をかけて、ミサイルに備えても、肩透かしを食らえば、まさに無用の長物ということ
です。
ミサイルシステムを維持・更新して行くことさえ、容易ではありません。結局、そのた
めに、戦争を始めるという事も、実際にあるのです。備蓄した武器弾薬を消費し、更新
するためには、“戦争で消費しなければならない”という事情もあるのです。そうした
側面が、軍拡競争の影として、必ず付きまとって来るわけです...」
「そうですね...」北原が、大川に同意した。「“ミサイル防衛構想”とは、軍拡競争で
あり、常にそうした“血の臭い”がするということです...」
「はい...」支折が、首を斜めにした。「それにしても...“ミサイル防衛構想”という
のは、どこか“間の抜けた感じ”ですよねえ...」
「その通りです!」大川が言った。「その、素朴な感性が、まさに正解なのです!」
<新型パトリオット・ミサイル/PAC・3とは...>

「ま...軍事担当として、」大川が言った。「とりあえず、現在の状況を説明しておきま
しょう...
新型のパトリオットミサイル/PAC・3/弾道ミサイル迎撃用の防空ミサイルは、
在日米軍基地を中心に、非常に限定的に配備が進められています...
弾道ミサイルというのは、大陸間弾道ミサイルのように、ロケットブースターで打ち
上げられ、その後、慣性誘導される大型ミサイルです...北朝鮮では、ノドン、テポド
ンなどがそれに当ります。
この新型のパトリオットミサイル/PAC・3は、“運動エネルギーで撃破”するもの
ですが、合わせて“殺傷力強化装置”も内蔵しています。これは、“225gのタングス
テン・ペレット24個”を放出するものです。レーダー・シーカーが、近接信管の役割も
兼ねています...
これによって、慣性誘導ではない航空機や巡航ミサイルの、迎撃確率を高めている
わけですな...つまり、ダイレクトに命中しない場合でも、近接信管が感応するという
わけでしょう...それ以上の詳しい事は分りません...
最大射程20kmは、カバー領域が非常に限定的です。これは、従来型パトリオット
ミサイルと比較すると、3分の1以下です...まあ、重量の方も、4分の1となっている
わけです...それから、高度の方は...最大射高1万5000m...最低射高50m
が、公表されているPAC・3の諸元です...
ええと、製造メーカーは...ロッキード・マーチンですな...」
「最大射程が...」北原が言った。「20kmとは、短すぎますね。その分、小型化し
て、運動性を確保したのでしょうが...」
「まあ...スタンダード・ミサイルSM-3で射ち漏らしたものを、最終的にこれで射
ち落すというものです...このSM-3の方も、現在、日米で共同開発に当っています
な...
ええ、したがって...海上自衛隊のイージス艦(/こんごう・きりしま・みょうこう・ちょうかい)に、
現在配備されているスタンダード・ミサイルはSM-2であり、これは弾道ミサイル迎撃
用ではなく、それよりも前の型になります...
つまり、戦略的な大型の弾道ミサイルを迎撃するためのものではなく、戦術的な航
空機や対艦ミサイルを迎撃するためのものでしょう...まあ、いずれも、詳しい事は、
軍事機密になっています...」
「うーん...」支折が、椅子の背に体を伸ばした。「軍事専門の話になると、とたんに複
雑になってしまうわよねえ...」
「ミサイルの分類になると、さらに複雑です。一口に、スタンダードミサイルといっても、
計画中のものまで含めると、相当な種類になります...」
「つまり、私たちは...」支折が言った。「そんなものは、“止めてしまえ”と言うことで
すよね...
それよりも、“人間の巣”を展開し、〔未来都市〕建設の方へ、シフトしていこうとい
うわけですよね、」
「そうです...」大川が、苦笑し、うなづいた。「どうも、話がそれてしまいますなあ...
つまり...射程20kmのPAC・3では...例えば、東京のような巨大人口密集
地域では、とうていカバーしきれないということです。まさに、国民を守る事を思えば、
“森に張ったクモの巣のような防衛”だということです...“人間の巣”の様な、万能
型の完璧なシステムではありません...金食い虫の玩具です...」
<核兵器の暴走は必至!> 
「ええと...支折が言った。「このセクションのテーマは...“核ドミノ”の状況下で
は、“核兵器の暴走は必至!”ということです...
現在、安倍・政権の下で、“ミサイル防衛構想”が進行しています...それは、構
築されるまでに、どのぐらいの時間が必要なのでしょうか?」
「軍拡競争は...」大川が言った。「先ほども言ったように、際限がありません...」
「あ、はい...」
「兵器の開発競争に、終わりというものはないのです。そして、競争は最後には、最
終兵器である核兵器の抑止力という話になります...しかし、それは幻想なのです。
よく考えてみれば、核兵器の抑止力などというものは、全くの幻想なのが分ります。
例えば...“死にたいヤツ”、“死ぬ覚悟の出来ているヤツ”、そして“頭の狂って
いるヤツ”が...“核兵器の操作ボタン”を握れば、非常に気軽に、“核兵器を使え
る”ということです。これは、核兵器を使う側の極意というべきものです...
それは...もはや核兵器の抑止力の問題ではなく...“核兵器の操作ボタン”を
握った者の“胆力の競い合い”になります。ヤクザのケンカと同質のものです。そして、
気軽に、“全部灰にして、お終いにしよう”と考えているヤツには、絶対に勝てない勝
負だということです...
“核の手詰まり”も、“相互確証破壊”の駆け引きもありません。本気で、“ボタンを押
す”というヤツにはかなわないのです...北朝鮮の核兵器の保有が恐いのも、まさ
にここにあるわけですな。そのような相手に、日本の核武装が抑止力になるはずもな
いのです...
抑止力などは棚の上に置いておき...要は、本気で、“核のボタン”を押すかどう
かということなのです...そんな相手には、“人間の巣”で守りを固める他はないの
です」
「でも、大川さん...東西の冷戦構造では、確かに核の抑止力は、効きましたよね」
「そうですねえ...
ま...時代背景もありました...また、非常に運が良かったと言うことでしょうな
あ...しかし、それが特に、核兵器の抑止力だったとも断定はできません。普通の
武器・普通の兵器にも、抑止力はあるのです...例えば、サリン・ガスや細菌兵器に
も、抑止力はあるわけだし、小銃やナイフにも、抑止力はあります」
「はい...」
「最近...“日本の核武装論議”などの話がありますが...
結局、それは互いに、“核兵器で脅し合おう”というわけですな...“そうした中で
の均衡”を、求めたいわけでしょう。しかし、それは“非常に危険な均衡”であり、
“幻想”だというのです。そんな状況に、足を踏み込んではいけないのです...“冷戦
時代”に、逆戻りしてはいけないのです!
“核の手詰まり”も“相互確証破壊”も、要するに“ケンカ哲学”なのです。覚悟を決
めてかかるヤツがいたら、そのケンカには絶対に勝てません。そんな無意味な“危険
な火遊び”は、やってはいけないのです。そんな“安易なケンカ哲学”で、日本が核武
装をするような事が、あってはならないのです!
“平和憲法”は、そのような“軽く・安っぽい”ものではないのです。日本が唯一核兵
器の被曝国であるという歴史的事実も、そのような“軽い”ものではないのです...」
「その通りだと思います!」支折が、強くうなづいた。
「前の冷戦構造時代は...」大川が、タバコをくわえ、火をつけながら言った。「幸いに
も、核兵器は暴走することなく、うまく収拾がつきました...失敗していたら、豊かな地
球生態系は、ほぼ消滅していたでしょう...
人類文明全体が、非常に危険なバランスの上に漂っていたのです...しかも、軍
事戦略というのはむしろ、“最後に、それが試されて終わる”というのが、常なのです。
また、“強者の軍略”よりも、“弱者の軍略”こそ、歴史にその名を刻できたものです」
「はい、」
「義経の“鵯越(ひよどりごえ)”しかり、信長の“桶狭間(おけはざま)”しかりです...弱者/
被支配者は、必ず強者/支配者を超えようとし、奇襲/奇策/新戦術を編み出し、
常に挑戦して行くものです。
したがって、私に言わせれば...再び世界が、核戦略下の冷戦構造となった場合
は...必ず、“核兵器は暴走する!”と断言しましょう...それは、非常に確実な
ことです...
あるいは、それ以上の、“遺伝子兵器”などが、大規模に深く潜行し、生態系を揺り
動かすかも知れません。そうなれば、“生態系が大攪乱”されることも予想されていま
す...攪乱された生態系は、二度と“同じ姿”に戻ることはありません。それは、人類
というよりも、地球生命圏にとって、最大の不幸となります。
まあ、そうした事態がなくとも、21世紀の人類には、“文明史的な大艱難”が押し
寄せて来ています。“核ドミノ”などをやっている場合ではないのです。再び“核戦略下
の冷戦構造”を呼び戻すなどは、政治家の選択すべき道ではありません。まさに、そ
れは時代錯誤というものでしょう...」
「つまり、“それぐらい危険”だ...ということですね?」支折が、念を押すように言っ
た。
「いや...」大川が、椅子から立ち上がり、プカリとタバコを吹かした。「支折さん...
そうではありません...
私は...必ず...“核爆弾が爆発する事態になる!”と断言しているのです。
“核兵器の暴走”か、“それ以上の事態”が、必ず生起すると、断言しているのです。
今、このチャンスに...“覇権主義”を超越できなければ...ホモサピエンスは
救い様のない文明種族ということになります。“野獣”から“真の知性を持つ文明種
族”に、“解脱”できないままに終ることになるでしょう...
まあ、これは、高杉・塾長の言葉ですがね...我々は、この地質年代の地層の中
に、その“悲劇的な痕跡”を刻み込み、後々の文明種族に語り継がれて行くことになり
ます...
太陽が、赤色巨星となって膨れ上がり...地球生態系を焼き尽くすまで、まだ何十
億年もかかるでしょう...知的生命体は、その時、どのような座標系に展開している
かは、“想像もつかない”と塾長は言いましたが...」
「うーん...」支折が、風に髪をなびかせた。
「ともかく、」北原が、立っている大川に言った。「我々が今やるべき事は、“覇権主義
を終息”させる事でしょう」
「そう...」大川は、ボソリと言った。
「大川さん...あえて、もう一度聞きますけど、」支折が、大川の方に肩を回した。「核
兵器が、必ず暴走するという、その根拠は何でしょうか?」
「そうですねえ...」大川が、自分の席に寄り、タバコを灰皿に置いた。そして、立った
まま両手でキーボードを叩いた。「別の角度から見てみましょう...
まず、第1に...“核兵器”を管理する人間が、非常に多様・多岐・広範囲になって
しまうことがあります...つまり、“管理が行き届かない”という事態が起こります。
第2に...“人間精神が非常に脆(もろ)い時代”になっている、ということです。“誰
もが、大局的に物事を判断する時代”では、なくなっているということでしょう。これは、
“核兵器使用”の閾値(いきち/限界値、最小の刺激量)を非常に低いものにしてしまいます。
第3に...国を持たないテロ組織が、容易に“核兵器”を保有できる時代になった
ということです。したがって、“核兵器”の使用目的も、非常に複雑になって来るという
ことです」
大川は、タバコをくわえ、片手でマウスで操作した。
「つまり...」支折が、考えながら言った。「...非常につまらない人が、非常につま
らない理由で、“核兵器を使ってしまう”...ということでしょうか?」
「その通りです!その恐れが、あるということですな...
あるいは、“核兵器”も、“多少強力な通常兵器”という感覚で、使われてしまうこと
です...軍事・戦略家とは、そういう種類の人間です...」
「大川さんは...」支折は、顔を上げた。「軍事・戦略家ではないのでしょうか?」
「私は、少し違うでしょう...」大川は、顔をほころばせた。「このホームページに席を置
く以上は、もっと大局的な立場に立つ思想家であると、自負していますがね...そう
したプロジェクトに参加していると...」
「その通りですわ!」支折が、大きくうなづいた。「思想家であり、軍事専門家という事
でしょうか、」
「支折さんに、そう言ってもらうと、嬉しいですな、」
「でも、本当のことですわ!」
「それにしても...」北原が言った。「かっての、冷戦構造時代の核管理とは、まるで
“様相が異なってくる”わけですね。かっては、東西の固い軍事機構が、総合戦略とし
て、ガッチリと“核兵器”と“核兵器のボタン”を管理していました。これからは、違うわ
けですね」
「そう...」大川が、ポケットに片手を入れた。「あらゆる面で、核兵器使用の閾値が、
非常に低いということです...
現在は、“自分の命”が軽いのと同時に、“他人の命”も非常に軽くなってしまってい
ます。しかも、“死”というものが、社会の表から隠さる傾向があります。“死”もバーチ
ャル的になり、宗教心も希薄になっていますな...非常に危険な時代と言わざるを得
ません」
「はい、」支折が、うなづいた。
「このような時代に、“核ドミノ”が起こることは...即...“世界を破滅させる可能性”
が高まります...“日本の核武装論議”をあおっている人たちは、こうした全般的状
況を、十分にわきまえて発言して欲しいですな...
“文明”と、“時代”への、深い洞察を、私は強く進言したいと思います。“核武装議
論”は、あまりにも議論が単純で、浅すぎます。もっと、文明全体の流れを展望した、
深慮遠謀が必要でしょう」
「そうですね」北原が、風に目を細め、うなづいた。「絶対に、核兵器を使わないのであ
れば、“専守防衛”に徹するべきです...
それには、“人間の巣”を展開すればいいわけです。“人間の巣”は、“コンパクト”
な“半・地下都市”という要件ですから...即・来年からでも...展開は可能なので
しょう」
 
「可能ですわ!」支折が、北原の顔を見て、しっかりうなづいた。「特別な予算がなくて
も、可能です...
まず、建設する場所を選定・吟味します...それから、箱物を既存の鉄筋コンクリ
ートの技術で建設し、ベルトコンベアーで土を被せます....“人間の巣”の基本要
件はこれだけですわ...
もう一度言いますと、“@・・・都市を人間サイズに、コンパクトにまとめること”。
そして、“A・・・その低い頑丈な構造物に、適量の土を被せること”...これだけ
です。これだけで、“人間の巣”の要件は、十分に満たしています...
したがって、本来の目的とは違いますが、これだけで“核兵器/化学兵器/細菌
兵器”に対しても、“第1級の要塞”となります。もちろん、通常戦力による侵略にも
対処できますし、テロやゲリラ戦のようなものにも、対処が容易です。基本的防護能力
が高いのですわ」
「ふむ...」大川が、息を吐いた。
「“人間の巣”に...」支折が、モニター表示されたデータを見ながら言った。「〔未来
型・都市システム〕を付加するのは...
長い時間経過の中で、ゆっくりとやって行けばいいことですわ...都市交通システ
ムも、クリーンエネルギー・システムも、後から付加して行けばいいことです。新しい社
会形態や、そのネットワークも、そうした中で、徐々に形成していけばいいでしょう。
とりあえず、“人間の巣”という箱物を作り...大量破壊兵器や温暖化対策等の
緊急事態に対処することが、戦略的に求められます。それが、“時代の要求”だと思い
ます...
“巣の箱物”は、地上の基礎の上に建造し、そこに土を被せます...〔地下1層=
公共・商業スペース〕、〔地下2層=居住スペース〕があれば、原型としては十分だと
思います。あとは、〔屋上=公共野外スペース〕を整備し、〔周辺=自給自足農業〕が
展開します...実際、特別なことは、何もありません...
一度作ってしまえば、半永久的な構造物となります...大量の土木建築資材を、
無限に供給し続ける必要も無いわけです...」
「確かに、難しい技術は、何もないですね...」北原が言った。「莫大な資金が必要と
いうわけでもないようです。既存の都市整備で、十分可能な範囲でしょう」
「はい...」支折が、モニターをチラリとのぞいた。「全国に、高速道路を整備する事業
を考えれば...これは、数キロメートル程度の、頑丈な“2階建て建造物”です。それ
に、ベルトコンベアーで“土”を被せ、半・地下構造物とするわけです。
たったこれだけで、生態系と調和した、〔未来都市〕の展開ができるわけですわ。バ
イオマス・エネルギーの利用や、クリーン・エネルギーの導入は、それからの楽しみと
してもいいわけです。
ともかく、半・地下のコンパクトな都市を構成し、必要な所には動力も使います。で
も、それは最小限にするべきでしょう。冷暖房もそうです。夏は暑く、冬は寒いのは、当
り前のことですから、」
「そうですね...」北原が言った。「その方が、人間生活として、楽しい感じがします。
自然との一体感がありますね」
「はい!」
〔2〕
NPT体制の不備と、 
中国の急速な軍拡!
 
「ええ...」北原が言った。「NPT(核不拡散条約)は、
My Weekly Journal
=国際部
の私の担当です。
“核ドミノ”が問題になっている今こそ、核保有大国=国連安全保障理事国(米・英・
仏・ロ・中)に、真剣に“核軍縮/核兵器の廃絶”に取り組んでもらうことを、“強く要求”
します!」
「はい!」支折が、しっかりとうなづいた。
「もともと...」北原が、データを見ながら言った。「イラクやイランに対して...また
北朝鮮に対しても...核保有大国は、自分で“核兵器”を保有しつつ...かつ核兵
器の開発を続けながら...他国がこれを持つのは“きわめて危険”というのは、スジ
の通らない話です...
それで...イラクには戦争を仕掛け、国家を大混乱に陥れているわけです。イラク
のみならず、イランや北朝鮮の言い分にも、十分な正論が含まれているわけです。そ
れに、インドとパキスタンの例外もあり、イスラエルのような“暗黙の承認”もあるわけ
です。
こうした、“国際的なアンバランスな核兵器の保有”を背景に、“覇権主義”をかざ
し、利権を獲得しているわけです。ここが、まさに、現在の国際社会の枠組/土台そ
のものの歪(ひずみ)なのです...こうした状況は、“時代に即した正しい姿”に、変え
て行かなければなりません」
「はい、」
「NPT(核不拡散条約)では...
“核軍縮”につき、核保有大国は、これを“誠実に交渉する”ことを約束していま
す。まず、この“義務/約束”は、どうなっているのでしょうか。誰が見ても、空証文に
なっています。
“都合のいい所”だけを食いかじり...言うことを聞かなければ、“経済制裁”、
“武力行使”を執行するというのでは、国際社会の秩序そのものが腐敗してしまい
ます...
まさに、現在は、国連体制を利用した“覇権主義”がまかり通っています...私た
ちは、まさに、こうした状況に終止符を打ち、“地球政府/世界政府”を創出したいと
願っているわけです...」
「つまり...」支折が、前髪をかき上げた。「核保有大国=安全保障理事国こそ、真
剣に、“核軍縮”に取り組むべきだということですね...そして、その延長線上には、
“地球政府/世界政府”を創出するべき...ということですね」
「そうです!」北原がうなづいた。
「うーん...」支折が、大川と北原を交互に見、首をかしげた。「日本にとって、北朝
鮮問題は...厄介なことではあっても...脅威ではないと思います...
北朝鮮の金正日・体制が、核兵器を持つことは、野蛮極まりない事ですが...日
本の国家体制がぐらつくような事態ではないと思います...何らかの理由で、ミサイ
ルを射ち込まれたとしても、それなりに対処すればすむことです...
つまり、その上で...現在騒いでいる、“北朝鮮問題の本質”というのは、何なの
でしょうか?」
「重要なポイントですな...」大川が、テーブルの上で肘を立て、両手を組んだ。「かっ
て、冷戦構造下で...ソ連の大陸間弾道ミサイルの標的にされ...スクランブル(緊
急発進)をかけた自衛隊機が...核ミサイルを搭載したTu95・ベア、Tu26・バックファ
イアー等の戦略爆撃機と、ニアミスを繰り返していたのです。
そうした時代に比べれば...現在の“北朝鮮の脅し”などは、
まるで“児戯(じぎ)に
も等しい脅し”でしょう...」
「そうですね、」北原も、両手を組んだ。「あの頃は...米軍のB52戦略爆撃機が、
核・巡航ミサイルを大量に搭載し、フェイルセーフ・ポイントまで定期運行していまし
た。核戦争が勃発した時点で、遅れをとらないなめの、米戦略空軍の運行でした。
もう、詳しいことは忘れてしまいましたが...フェイルセーフ・ポイントというのは、も
し間違いが起こっても、まだ安全装置が働くという、戦略空域です。アジアでは、南東
部から大陸の共産圏/中国・ソ連邦の領空へ、戦略爆撃機(B52、B2)が侵入するわ
けですが、その外縁まで、常時出撃していたわけでした...」
「そのあたりから...」大川が言った。「核弾頭を搭載したトマホーク(巡航ミサイル)の発
射も可能でしたな。当時はGPS(全地球測位システム)ではなく、デジタルマップが搭載され
ていましたねえ...内蔵された3次元地図と、実際の地形を比較し、超低空を高速で
飛行し、侵入していくわけです...」
「そこを越えたら、核戦争になったわけですね?」支折が聞いた。
「米大統領の“GO!”サインが出れば、」大川が言った。「間髪を入れず、全面核戦争
に突入です。当時は、それ程の緊迫下にあったものです。もちろん、陸上のICBM(大陸
間弾道ミサイル)も、原子力潜水艦搭載のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)も、発射されます」
「双方の核爆弾の総量は、」北原が言った。「地球生態系を、数十回も繰り返し絶滅さ
せる程のものでした...まさに、気違い沙汰です。それが、軍拡競争だったのです。
しかし、今、まさに、“日本の核武装論議”を主張する...日本の1部の政治家が
います。いったい彼等は、こうした“核戦略下の冷戦構造”を、再び蒸し返そうという
のでしょうか?」
「しかし、今度は...」大川が、ドン、とテーブルを打った。「先ほども言ったように、
“必ず核兵器の暴走”が起こります...」
「うーん...大川さん...日本が、その引き金を引く事になるのでしょうか?」
「日本は...何度も言いますが、“日本独自の国際平和戦略”を持つべきなので
す...米中の覇権競争に巻き込まれるべきではありません...
しかし、覇権競争が再び繰り返されるかどうかは...中国の軍備拡張が、カギに
なります。中国は急速な経済成長をしていますが、まだ非常に不安定です。経済その
ものも、これから“エネルギー問題”や“環境問題”が一気に噴出してきます。しかし、
難問は、“深刻な格差問題”でしょう。これは、大暴動の引き金にもなります...」
<中国の将来展望・・・>  
 
「話を戻しますが...」大川が言った。「あの当時...東西の冷戦構造時代に比べ
たら...現在の北朝鮮の核もミサイルも、まさにお粗末なレベルです...ともかく、
“騒ぎ過ぎ”なのです...
しかし、その“騒ぎ過ぎ”の裏には、別の意図がある、ということです...」
「はい...そのあたりは、本当はどうなのでしょうか?日本の、“核武装論議”をあおっ
ている人たちの、真意は?」
「そうですね...」北原が顔を上げ、草原に目を投げた。秋空の中に、鳶が1羽舞って
いるのが目に入った...「真の問題は、確かに北朝鮮問題の背後にあります...
つまり、東アジア諸国にとって、問題はむしろ中国共産党が指導する、“中国の猛烈な
軍備拡張”です。そしてまた、地域で唯一の、“核兵器の保有”でしょう...」
「それはつまり...」支折が言った。「NPT(核不拡散条約)体制の機能不全ということ
で、いいのでしょうか?」
北原が、うなづいた。
「その通りです...
NPTについては、あとで説明しますが、日本、台湾、そして韓国の極東アジアの国
にとっては、中国の軍備増強と、核兵器による覇権が、潜在的に大きな脅威となっ
て来ています...」
「東南アジアについても、同じだと思いますが、」
「まあ、そうですね...
東南アジア諸国では、中国と対立できる国はありません。しかし、覇権という意味
では、歴史的にも、むしろ影響力は強いのかも知れません。
ともかく...中国は安全保障理事国であり、NPTにも参加しています。この中国
の軍備拡張に対し、各国とも核の抑止効果を期待したいところでしょう。特に、アジア
の覇権をめぐり、日本において、その“思いが強い”と思われます...また、中国やロ
シアに比べ、日本の経済力が相対的に落ちてきた事とも関連しています」
「うーん...」
「中国にしても、今さら共産主義による世界同時革命を策動している訳ではないと思
います...また、中国も確かに、“国力に見合った軍事力”を持つ権利はあるので
す。しかし、とかく、急速な軍備拡張というのは、近隣諸国を緊張させるものですね」
「うーん...」支折が、もう一度言った。
「しかし、残念なのは...」大川が、ブラリと窓の方へ行き、壁に寄りかかった。「こん
な折に、何故か中国が、猛烈な軍備拡張を進めるわけです...それが、アジアのみ
ならず、世界の秩序を混乱させています...
ヨーロッパで終息しつつある“覇権主義”を、アジアで再燃させてしまっています。
それが巨大な米軍を、“不安定な弧”と称して、アジアにスイングさせているわけです。
そして、まさに“弧の起点”/要石の位置に、安定した社会の日本列島があるわけで
す...
小泉(小泉・元首相)は、アメリカの子分になりたがり...この要石をそっくり差し出した
のです...小泉は、清水の次郎長の子分/森の石松よろしく、“覇権主義”の片棒を
担ぎ、肩で風を切って歩きたかったのでしょうな...それしか、日本の生きて行く道は
ないと思ったのでしょう...
アメリカにも、小泉・人気に対する誤算があったようです...もし小泉・人気が本物
なら、日本国民の大多数の意識は、まさに小泉・人気に反映されていたわけです。とこ
ろが、小泉は政策を誤りました。小泉・人気を本物にする事が出来なかった...
成果を急ぐあまり、《大企業優遇/富の寡占/国民の弾圧》に走ってしまったので
す...誰が小泉に、こんな戦略を耳打ちしたのでしょうか?まあ、最終的には、小泉
が選択し、右傾化に大きく舵を切ったわけですがね...
私は、小泉の政策を支持するわけではありませんが...小泉は急ぎ過ぎたので
す。政策的に、小泉・人気を保持しつつ、アメリカの期待に答えるという演出ができな
かった。国民とアメリカの両方の期待に答えることができなかった...政治家として
の器が、おそらく小泉をそうさせてしまったのでしょう...
私は結果として、そうならなくてよかったと考えています。小泉に、巧妙にアメリカの
覇権主義と一体化させられては、やはり日本と世界のためにはならなかったと思いま
す。なぜなら、まさに、“覇権主義は、20世紀の遺物”だからです...
今、求められているものは...日米の繁栄でもなく、資本主義の繁栄でもなく、“文
明の折り返し”であり、“反・グローバル化”の流れであり、“生態系との調和”だか
らです...」
「うーん...そういうことですよね」支折が言った。
<矛盾する、共産党指導・資本主義体制・・・>   

「中国は...」北原が、言った。「共産党・政治指導、資本主義・経済体制という、国家
構造的な大問題を抱えています」
「はい、」
「この矛盾が、あと何年持続するのでしょうか...
これを、どう動軟着陸させるかは、中国共産党にとって、“長征”以来の最大の難事
業になると思われます」
「うーむ...」大川が、ポケットに手を突っ込み、歩き始めた。
「現代化した、軍の火力・機動力が、」北原が、大川に言った。「中国国内の民衆に向
く事態はないのかと、心配です。北京(ぺきん)オリンピック、上海(しゃんはい)万博の後が、
心配です」
「うーむ...どう、決着をつけるのだろうか...」大川が、ドッカリと椅子に掛けた。「あ
の、中国共産党に...どんな戦略が、用意されているのだろうか...出口は、ある
のだろうか?」
「あ...それは、ありますわ」支折が、アッサリと答えた。
「ほう...」大川は、支折の方に体を向けた。「どんな...?」
「日本もそうですが...中国も、“人間の巣”を展開することですわ...」
「ふむ...なるほど...」
「“人間の巣”は、共産主義でも、資本主義でもありません...
宗教も、民族も、産業も、学術も、芸術も...全て都市単位で、自由に、強烈なアイ
デンティティーを持って形成すればいいのですわ。“21世紀型/自給自足型社会
/独立都市連合体”というべきものです...
中国が、共産党指導のもとで、文明の第3ステージへパラダイムシフトできれば、軟
着陸に成功すると思います...逆に、共産党・1党独裁を維持するのは、不可能です
わ...こういうことは、外から眺めた方が、冷静に判断できるものですわ」
「うーむ...」北原が、腕組みをした。
「まず、中国は...分割すべきですわ...
いずれにしても、将来的には13億人を、“1つの体制下”に縛り付けて置くことに
は、無理があります。まず、“ゆるい連合体”にするべきです。“人間の巣”による、小単
位の自給自足と、高度な自主性に任せるべきです...台湾も、チベットも、自由にや
らせるべきです...それが、つまり、生態系の多様性の姿です」
「なるほど...」大川が言った。
「私たちは、資本主義も共産主義も、その時代的役割を終了したものと考えています。
では、何を基本戦略にするかというと、“生態系との協調”です...生態系のシス
テムに学ぶということです...中国が“人間の巣”を展開すれば、世界の風景が急
速に変わって行きますわ」
「うーむ...」大川が言った。「さすがに...支折さんは...“人間の巣”の大戦略を
よく理解しているようだ」
「ありがとうございます、大川さん...
私は、いわばスポークスマンですの...私たちは、30万人規模の“人間の巣”を
想定し、それを1つの独立した社会単位と考えています...最初は、数万人規模の
“人間の巣”の集合で...30万人ぐらいということになるでしょうか...
ともかく、生物体の本性からして、13億人なんて、まとまるはずがありませんわ。
生態系では、もっと細分化された姿になっています」
「そうですね、」北原が言った。
「“人間の巣”も、」支折が言った。「元々は蟻の巣を模倣しているのだと、高杉・塾長
が言っていました」
「うーむ...」大川が、考え込んだ。「中国も、思い切った新展開をするべきなのだろう
ねえ、」
「日本でもそうですわ。急速に少子高齢化が進行しています。選択を誤ることは許さ
れませんわ...」
北原がうなづいた。
「世界中が、“人間の巣”の展開するべきですわ...
他に、良い方法があるかしら...中国は、好調な経済力を、未来都市の建設に振り
向けるべきです。北朝鮮もそうです。“人間の巣”をつくり、自給自足農業を確立すれ
ば、ただそれだけで、豊かに暮らしていけるのです。そうした援助をするべきです。
“人間の巣”では、“脱・冷暖房”であり、莫大なエネルギーの浪費を断ちます。その
大地の自然環境と調和し、そこに棲む昆虫たちのように、人間もつつましく生きていけ
ばいいのですわ。
食い散らかし...旅をしまくり...大量生産・大量消費し、結婚と離婚を繰り返す。
そんな必要は、ないのですわ。そうした、欲望の原理で動く、経済至上主義は、非常
に行儀の悪い文化です。知性と品性が欠如しています。もう終わりにすべきですわ」
「まさに...」北原が言った。「支折さんの言う通りでしょう。日本は、経団連主導の国
家から、主権者/国民主導の国家に、立ち返るべきなのです」
「ありがとうございます、北原さん!」支折が、丁寧に頭を下げた。
「まあ...」大川が、言った。「それには、文化そのものを、戦略的に“企業文化”から、
“国民文化”に変えて行かなければならないでしょう。
企業の“経済・覇権主義”、“経済・拡張主義”も、いわゆる“軍事的・覇権主義”
と同一軌道上にあります...企業の成功物語も、軍事作戦の成功と同じ匂いがしま
すな...
私は、軍事専門家として、こういう戦略的成功物語や、汗を流して作戦を遂行する
話は、嫌いではないのです。しかし、商売や覇権が、日本の文化の中心であっては困
るわけです...経済至上主義では困るわけです」
「はい...“日本人の精神性”は、もっと別な、“はるかに高い所”にありますわ」
「そうでした...」大川が、口元を緩めた。「支折さんは、“文化・文芸”が担当でした
な」
「はい、」支折は、軽く睨むように、大川に微笑した。
「ともかく、」北原が言った。「コマーシャリズムには、もう正直、ウンザリしています」
「うーん、」支折がうなづいた。「そうですね...
もっと、社会的・慣習法に裏打ちされた、純粋で、勤勉で、高い向上心のある“本
来の日本文化”がいいですわ。
それには、公共放送を“解体・再編成”し、“真の日本文化”を国民自身の手で、
再構築していくしかありません。それが、“美しい国”を創ることであり、“国を愛する
心を涵養(かんよう)”することだと思います」
「そうですね」北原が言った。
 
「ええ、支折です...このページは、これで終了します。
“人間の巣”シリーズは、
さらに続きます。どうぞ、今後の展開にご期待ください!」
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