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  house5.114.2.jpg (1340 バイト)温室効果ガス・コントロール   house5.114.2.jpg (1340 バイト)

    index.1102.1.jpg (3137 バイト)wpe89.jpg (15483 バイト)wpe73.jpg (32240 バイト)  wpe74.jpg (13742 バイト)  wpeB.jpg (27677 バイト)

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード    担当 : 堀内 秀雄 ・ 白石 夏美  

INDEX  house5.114.2.jpg (1340 バイト) <ゲスト/高杉 光一>  <ミミちゃん、チーコちゃん>wpeA6.jpg (14454 バイト)

  プロローグ   2000. 5.15
No.1

<1> 地球の気候変動とは

2000. 5.15
No.2

<2> アリの巣に学ぶ、新しい人類文明の形態

2000. 5.15
No.3

<3> 現在の状況

2000. 5.15
No.4

<4> 炭素管理とは 

2000. 5.15
No.5

<5>炭素管理に反対する人々 

2000. 5.15

 

 

  参考文献 :  日経サイエンス 2000/5月号

        “温暖化ガスを封じ込める”

                                     H.ハーゾック(マサチューセッツ工科大学) /   B.エリアソン(スイス・ABB社) /

                                                        O.カルスタド(ノルウェー・スタトイル社)

          “経済成長を持続させる地球温暖化対策は何か”

                          D.W.キース /   E.A.パーソン

      ***********************************************************************************************************

 

 プロローグ   

index.1102.1.jpg (3137 バイト) 「ご機嫌いかがでしょうか。白石夏美です。今回の対話には、特別に

                 高杉  光一 ( My Workstation 担当/ 統括責任者・塾長 )

                         にも参加していただきます。どうぞ、ご期待ください」

 

「人類文明は、依然として経済成長を続け、さらに化石燃料も燃やし続けています。

増加する温室効果ガス、森林の減少、そして人口の大爆発...このような状況下

で、有効な対策はあるのでしょうか...」

 

「いま、特効薬の1つとして、二酸化炭素を直接固定する“炭素管理”という方法が

試されています。しかし、これはアクティブな、地球の大気成分コントロールにもつな

がるものです。私たち人類文明は、“二酸化炭素の固定”に何処まで介入し、地球

生命圏のバイオリズムの中で、どの辺りに線を引くべきなのでしょうか...」

 

 

wpeA6.jpg (14454 バイト)       house5.114.2.jpg (1340 バイト)

  高杉光一が、チーコちゃんと一緒にハイパーリンクでやって来た。

「ご足労をおかけします、高杉さん」堀内が、パソコンの置いてあるデスクから立ち

上がって言った。

「いや、こちらこそ。どうですか、ゴルフの方は?」

「ここ1ヶ月ほどは、ご無沙汰ですねえ。メタンハイドレートの執筆の方で忙しかった

ものですから」

「なるほど。静岡県の御前崎沖約60キロメートルでしたか、掘削現場は、」

「ええ、南西に約60kmです」

「うむ...その辺りは、ちょうど海洋科学技術センターや、防災科学技術研究所など

の、“深海ステーション”が集中していますね」

「ははあ...どうりで...そうだったのですか...」

「ええ。古くなった海底通信ケーブルを使って、新たに深海ステーションのネットワー

クが形成されつつあります。太平洋では、このあたりが最も進んでいるかもしれませ

ん。神奈川県二宮からグアム島、そして沖縄からグアム島が海底ケーブル・ライン

になっています」

「ほう...すると、いづれもグアム島に行っているのですか?」

「ええ。日本の主な国際通信ラインは、横須賀、沖縄、グアム、そしてハワイへ集中

しています。まあ、東南アジアとオセアニアもそうですね。いずれも、太平洋の中継

地点としてグアムとハワイが使われていますそして、いずれもアメリカ軍が押さえ

ていますね」

「なるほど...アメリカが情報ネットワークを押さえているわけですか」

「それと、東京の横田基地をキー・ステーションに、戦略物資の緊急展開ルートがあ

ります」

「ははあ...なるほど。環境問題ばかり考えていると、こうした軍事戦略的な側面と

いうものは考えないものですねえ。情報ラインは、アメリカ軍が握っているわけです

か。想像したこともありませんでした」

「私だってそうです」高杉は、椅子に手をかけ、口もとを緩めた。「深海ステーションの

ケーブルラインを見ていてそれに気付いただけです。いつだったか、大川さん(国際軍事

情勢担当)がそんなことを言っていたので気付いたんです。まあ、これは、極東アジアや

東南アジアだけではなく、アメリカの世界戦略の一端ですね」

「うーん...」

「ところで、私は温室効果ガスについては何も下準備をしてきていません。もっぱら

聞き役に回ると思いますので、」

「はい、承知していますわ」夏美が、こくりと頷いて言った。「そういう条件でお願いし

たわけですから、」

 

 

 <1> 地球の気候変動とは      

 

        house5.114.2.jpg (1340 バイト)  wpeA6.jpg (14454 バイト)   wpe89.jpg (15483 バイト) house5.114.2.jpg (1340 バイト)

                  チーコちゃん          ミミちゃん    

        

  夏美が、プレゼンテーション用に新しく用意した、薄型の壁掛け液晶スクリーンの

前に立った。ミミちゃんとチーコちゃんも、脇の方の支援コンピューターでスタンバイ

した。夏美から要求のあったデータを、すぐに送り込めるようにしている。

 

「始めていいかしら?」夏美が、伸縮式の電磁ペンを引き伸ばした。

「うむ、」堀内が言った。

「ええ...人間活動の結果、19世紀と20世紀の過去200年間で、大気中のCO

(二酸化炭素)濃度は、31パーセント増加したといわれます。また、このまま放置すれば、

22世紀までの100年間で、COはあの18世紀の産業革命以前に比べ、2倍にな

ると言われます。この、産業革命前の2倍という数値を、一応記憶しておいてくださ

い。大気中濃度にして550ppmですが、ここで安定させようという基準値がありま

す。これは、目標値としては、最も厳しい数値です」

 

《 地球温暖化の原因 》

  過去200年の間に、大気中のCO濃度は、280ppm(1ppmは100万分の1のこと)

370ppmへと約30%あまり増加しています。1990年代では、毎年平均1.5 ppm

づつ増加しているといわれ、増加率は年々上昇しています。人類は、CO以外の温暖

化ガスも排出していますが、地球温暖化の3分の2は、COが原因と考えられていま

す。

 

それから、」と夏美は言った。「二酸化炭素が温室効果ガスであるということでは、

ほぼ意見が一致してきています。したがって現在は、その二酸化炭素をどのように

削減して行くかということに、研究テーマが絞られつつあります...」

どの程度の気象変動を起こすかは、不確かな所が多いと聞いたが、」高杉が質問

を向けた。

「はい、」堀内が、高杉の言葉を受けてうなづいた。「気候変動のレベル、気候変動

が生態系や人類社会に与える影響については、実際の所はまだよくは分かっては

いません。しかし、人類文明が毎年吐き出すCOの総量は膨大なものです。海底

地滑りで、大量のメタンハイドレートが自然環境に放出されることがありますが、こ

れらは定量的なものではありません。しかし、人類文明の吐き出すCO、毎年増

加する一方です。ここが問題なのです

「うむ...ひとつ知りたいんですが、そのメタンハイドレートというのは、これまでの

地球の気候変動の張本人なのですか?」

「いえ、」堀内は手を振った。「これまでの氷河期間氷期を演出するほどのもので

はないでしょう。それに、先カンブリア時代の最後に起こった全球凍ら、古生

代・カンブリア紀の生命進化の大爆発起こる温暖化への移行は、どのようなメカニ

ズムで起こったのか、まだ定説はないようです。いったん暴走冷却モードに入ると、

もはや元に戻ることはないと言われているのですが...おそらく、地球の内部熱か

らくる、火山噴火がカギかも知れません...この火山噴火というのも、大量の二酸

化炭素を放出するわけですから...」  

 

《 全球凍結 》 

  最近の研究成果によれば、先カンブリア時代末期(約6億年前)に、地球は最も劇的な気

候異変を体験していることが分かってきました。それは、“ 全球凍結”と呼ばれる、赤道

の海さえも凍る大氷河期でした。地球は、この約1000万年ほどの間は、完全に氷に

閉ざされていたようです。地球本体が持つ内部熱で、海洋底まで凍結することはなかっ

たといいますが、地表は平均−50℃まで暴走冷却し、海面は厚さ1kmもの氷で閉ざさ

れたと推定されています。地球はその全体が氷で覆われた惑星となり、氷が太陽光を

反射しつつ、1000万年以上も太陽の周りを回りつづけていたようです。そして、その後

に、生命進化の大爆発がやってくるのです。これを境に、地質年代先カンブリア時代

から、古生代のカンブリア紀に入ります。

        < 参考文献: 日経サイエンス/2000年/4月号/氷に閉ざされた地球 >

「うーむ...その全球凍結の流れが、すべて偶然の積み重ねだとは思えないが

ね、」高杉は言った。

「と言うと?」堀内が聞き返した。

「そこに、何らかの統一的な流れ...意志、あるいは形式のようなものはなかった

かと?」

「“人間原理”の導入ですか?」堀内は、口もとを緩めた。

「いや、“人間原理”を言う前に、ロマンというか...ストーリイ性ですね、」

「さあ...科学者としては、なんとも言えませんね。高杉さんがおっしゃるように、全

ての偶然の集積が、ストーリイ性だとは、私も思いません。しかし、これは、非常に

難しい話になりますが、」

「地球の、地軸の移動や地磁気の変動もありますし、」夏美が言った。「地球のコア

にあるダイナモ(発電機)の変動もあります。マントル対流プレートの移動、あるいは

火山活動のような、地球内部からくる膨大な熱源もありますわ」

「うむ、」高杉は、口に手を当てた。

シアノバクテリアは、地球の大気成分さえも変えてしまったわけですから、」堀内が

言い添えた。

「しかし、だからと言って、この巨大生命圏の展開に“ストーリイ性”がないとはいえ

まい。全てが、乱数的な偶然の出会いだったわけではないと思う...ま、これはあ

くまでも、リアリティーの人間的側面と言うことも出来ますが、」

「うーん、私としても当然、地球生命圏としてのダイナミズムやバイオリズムはあると

思います。しかし、全てをデザインするのは、まだ難しいですねえ...これは21世

紀における、総合的な進展を待つべきではないでしょうか」

「そうかも知れません。ちょっと、脱線させてしまいましたね」高杉は、椅子の上で脚

を組みなおした。「最近、執筆中の<無門関・草枕>の方で、そんなことが頭の隅に

あったものですから、」

「話を進めてよろしいかしら?」夏美が、電磁ペンの先を握って言った。

「ええ、」

「はい。ええ...ともかく、地球は現在から過去数百万年の間に、何度となく氷河期

を体験しています。この頃にはすでに、私たちの祖先である原人が出現していまし

た。したがって、人類は、この氷河期という過酷な気候の試練を、何度も乗り越えて

きているわけです。中でも、2万年前の最終氷河期は大きなものでした。ヨーロッパ

大陸は厚さ2kmもの氷河で埋め尽くされ、北米大陸の氷河はニューヨークにまで達

していました。規模としては6億年前の、全球凍結に次ぐものだったと思います。

  したがって、こうした地質年代的な地球の気候変動は、自然環境のサイクルとし

て存在しています。ところが、先ほども言いましたように、現在人類が直面している

課題は、少々異なっています。問題のCOの排出は、人類文明そのものが内包し

ている危機であるという側面を持つわけです」

「うむ...」高杉はうなづいた。

温室効果ガスに話を進めてよろしいでしょうか?」

「ああ」堀内が言った。

「それでは...ええ、これらの温室効果の総合的な解明の必要性や、不確実性が

あるにしても、私たちは二酸化炭素の排出量を、極力押さえ込んでいかなければな

らないと思います。また、このことに関しては、1997年の国際会議/温暖化防止

京都会議“京都議定書”にも明記されています。

  先にも述べましたように、 最も厳しい目標として、大気中のCO(二酸化炭素)濃度を、

18世紀の産業革命(1760年代にイギリスで始まっています)前の、2倍で安定させるというものが

あります。この場合、21世紀の半ば、2050年では、COの総排出量を、現在の見

通しの半分に削減しなければならないといいます」

「うーん...どうも、具体的によく分からんな」高杉が言った。

「はい...18世紀半ばの世界人口、近代産業がゼロの状態を考えてみていただけ

ないでしょうか。当然、車も発電所も皆無です。したがって、この当時の2倍と言うの

は、かなり厳しい数値だと思いますが、」

「なるほど。人口がまるで違うし、森林面積もぐんと多かったわけか、」

「はい。それを考えれば、当時の2倍という数値が、いかに厳しいものかお分かりい

ただけると思います。ただし、これは提案されている、最も厳しい数値です。合意さ

れているわけではありません...」

 

 <2> アリの巣に学ぶ、新しい人類文明の形態 wpeB.jpg (27677 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「複雑系の中で、我々に予期せぬ事態も考えられるわけです」堀内が言った。「この

数値は尊重すべきだと思いますね。大気中のCO濃度にして550ppm...しか

し、それには人類社会のエネルギー・システム全体を変えなければならないかもし

れません」

「うむ。それが必要だというのなら、やらなければならんだろうな。私はボスの書いた

小説 『人間原理空間』(このホームページのタイトルにもなっています。第2ホームページの方に掲載してあります)を読ん

でいて思ったのだが、あの宇宙空間の巨大人工島“フロイ”のように、居住空間の

ほとんど全てを、地下に置くべきではないかと思う。地上は大自然の原野のまま残

せたら理想的だと思うね。もちろん、スポーツ施設や、レジャー施設、農業施設等は

大いに地上に作ればいい。あれはどうですか、堀内さん?」

「ええ」堀内は、二度うなづいた。「私も、あの巨大人工島“フロイ”のシステムが、地

で出来たらすばらしいと思いますね。まさに、理想的です。ただ、あれは宇宙空

間に浮かぶ、巨大人工島だから出来たシステムでしょう」

「ボス(岡田)から聞いたのですが、地球上であれを実現するとしたら、アリの巣を学べ

ばいいんだそうです。もともと、それがヒントだったと言ってました。まず、全ての居

スペースを地下に移し、コンパクトにすることです。そうすれば、冷暖房のエネル

ギーは押さえられますし、移動や輸送にかかるエネルギーも押さえられます。光

は、集光ミラーと光ファイバーで、地上から持ってこられるでしょう。しかも、地上の

大自然は最大限に残せます。また、直上の地上へ出れば、大自然は十分に満喫で

きるわけです」

「うーん...ハイウェイは残すのでしょうか?」夏美が聞いた。

「理想を言えば、無い方がいい」高杉は言った。「独立性の高い、それぞれ特色の

ある、高機能な巨大地下都市が点在しているのがいいと思う。そして、通常はその

都市空間の中で生活すべきだと思う。都市の規模としては、数十万人がいいのか、

数万の単位が連合して、数百万人にするのか...いずれにしても、実現するので

あれば、本格的な研究が必要になるだろう...」

「うーん...もし、こうした文明形態が実現できれば、人類文明はさらに2000年は

安泰かもしれませんね」堀内が言った。「もちろん、海洋や、宇宙空間への展開もあ

るわけですから、」

「ええ。ともかく、アリの巣というものを、広域的にしっかりと研究してみるべきだと思

います。コンパクトにまとまった、循環型・巨大地下都市空間へのシフト、そして一方

では、熱帯のジャングルや温帯域の原生林も残すべきです。できる限り多く、」

「21世紀には、このような実験都市ができてくるのでしょうか?」夏美が聞いた。

「そうだな...まず、実験都市のようなものができるのかも知れんな。それにして

も、未曾有の巨大施設の建設になる...」

 

 <3> 現在の状況            house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「ええ...それでは、現状の説明をしておきたいのですか、」夏美が、手元のキーボ

ードを叩きながら言った。

「ああ、」堀内がうなづいた。  

「ええと...現在、実際に行われている対策は、“エネルギー効率の向上”と、“クリ

ーンな代替エネルギーの導入”です。代替エネルギーとしては、太陽光発電、風力

発電、原子力発電が活発です。その他に地熱バイオマスの応用なども進んでい

ます...」

「風力発電の方は、だいぶ技術が進んできたようですね」高杉が言った。

「ええ」堀内が、椅子を引き、腕組みをしながら言った。「日本でも、政府援助があっ

て、だいぶ育ってきているようです。もっとも、太陽光にしろ風力にしろ、単位面積あ

たりのエネルギー量が小さいのが難点です」

「うむ、」

  スクリーンに、最新の風力発電施設が映し出された。ミミちゃんとチーコちゃんが、

一生懸命にパソコンを操作し、新しい画像とデータを順次送り出している。

「火力発電所並みの発電量を確保しようとすれば、」夏美は、スクリーンのデータ表

示に、チラリと目を投げた。「膨大な土地が必要になってきます。むろん、広い土地を

使うと言うことは、環境破壊になるケースが多いわけです。これでは、本末転倒であ

って、」

「海洋や、砂漠ならどうかね?」高杉は言った。

「もちろん、いいのですが、送電の問題があります」

「うむ、」

「でも、各個の住宅や工場などに設置していくのは、非常に重要な施策のひとつに

なります。そうした細かな単位での努力が、発電所の総数を減らすことにもつながり

ます。ただ、そうした努力だけでは、抜本的な対策にはなりませんわ」

「原子力発電は、世界的に縮小の方向にあります」堀内が言った。「核融合発電

は、まだ先のことですし...」

「そこで、」夏美は、引き伸ばした電磁ペンで、トン、とスクリーンを叩いた。「炭素管

という手法が登場してくるわけです。では、炭素管理の方に移ってよろしいでしょ

うか?」

「うむ」堀内が答えた。

 

 <4> 炭素管理とは  house5.114.2.jpg (1340 バイト)  wpe14.jpg (31298 バイト)

              

「今、話題の炭素管理というのは...」夏美は、スクリーンの前で手を組み、しばらく

ぼんやりとしていた。電磁ぺンをくるりと回し、トン、と頭を叩いた。

「どうしたね、」堀内が言った。

「いえ...ええ、炭素管理というのは、排ガスの中からCO(二酸化炭素)を人為的に分

離し、地中や深海の深くに封じ込めるというものです...前回特集したメタンハイド

レートは、自然界自身がこうした形で炭素を封じ込めている形式とも言えるわけで

す。この地球の全生態系の炭素量の循環を、短期、中期、長期的に、適正な量に

するために、」

「適正な量の炭素か...」高杉は言った。「いい表現だね」

「高杉さんにとってはでしょう」堀内が笑った。

「いや、夏美さんの理解が深まっているということさ」

「そうなのかね?」

地球の全生態系を、」と、夏美が言った。「地球生命圏という独立した主体と考える

のは、いいことだと思いますわ。完全な部分系、完全な独立系の存在しない生態系

というものの生物体を考えれば、生命圏も同じ意味ですから、」

「うむ。そういうことなのだ。よく勉強しているね。完全に生態系から独立した生物体

などというものは存在しないのだ。それゆえに、全体が1つであり、有機的に連動し

ている。生物も無生物も含めて、」

「はい...ええと、よろしいでしょうか?」

「進めてくれ」堀内が言った。

                   house5.114.2.jpg (1340 バイト)   house5.114.2.jpg (1340 バイト)

「ええ...このメタンハイドレートというのは、大気中ですぐに二酸化炭素に化けて

しまうのでしたわね、堀内さん?」

「いや、全てというわけではない。大気中には、メタンそのものも存在している。しか

も、二酸化炭素よりもはるかに温室効果が高い。また、メタンハイドレートも、全てガ

スとなって大気中に散逸するわけでもない。まずは、直接接している海水と反応し、

炭酸となって海水に溶け出していく。いずれにしても、それほど単純ではないね」

「はい...話を進めます。現在、何故、炭素管理という手法が注目されているかと

言いますと、今も化石燃料が使われ続けているという現実があるからです。また、も

ちろん、火力発電や自動車文明というこの現在の状況を、急に変えることも出来な

いからです。おそらく、今後数十年間は、この炭素管理という手法に頼らざるをえな

いのかもしれません」

「うーむ...」高杉は、体を後ろに引いた。「この炭素管理という手法は、原子力発

電よりも優れた方法だと、はっきりと言えるのかね?」

「さあ、どうでしょうか...」堀内は、アゴに手を当てた。

「原子力は嫌われたわけですか、」

「まあ、国によって違いはあります。しかし、チェルノブイリ事故(ロシア)、スリーマイル

島事故(アメリカ)東海村事故(日本)と、原子力に対する信頼性に陰りが出てきているの

は確かです、」

「うーむ、やはり、炭素管理に行かなければならないのか、」

「はい。いずれにしても、二酸化炭素を分離し、固定するという作業は、避けては通

れない道だと思います。さらに、費用対効果の点でも、炭素管理は当面もっとも優

れています。まず、既存の施設をそのまま利用できるというメリットは大きいでしょ

う。それからもうひとつ、産業界や国際政治の利害対立を押さえ込めます。つまり、

次のステップへの軟着陸が可能な選択ではないでしょうか」

「なるほど。しかし、堀内さんが国際政治の話を持ち出すとは意外でしたねえ」

「ハッハッ、高杉さん、それは誤解というものですよ。環境問題は、確かに表面的に

テクノロジカル・アセスメントの問題ですが、裏側は地域間や国際間の政治的な

問題なのです」

「うーむ...」

       ( 炭素管理については、次の特集  炭素管理への道で詳しく考察します...) 

 

 <5>炭素管理に反対する人々         wpeC.jpg (50407 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「さて、ここでは、このような炭素管理という手法に、反対している人々やグループの

意見に、耳を傾けてみたいと思います」夏美が、支援コンピューターを操作している

ミミちゃんの横で言った。

「私からまず、ひとこと言わせてもらおう...」堀内が、片手を上げた。「こうした技術

は、慎重にやるべきだというのは、私も賛成です...しかも、非常に大規模なもの

になる可能性があるわけで、どこかで線引きをしておく必要があると思います。これ

は、いわば、地球の大気成分、大気組成への介入になるわけで、下手をすれば取

り返しのつかない事態になります。非常に、慎重な取り扱いが求められます。

  これは例えば、大気中の酸素濃度が1%くなるだけでも、この地球表面の風景

はガラリと変わってしまうということなのです。たった1%酸素濃度が高くなったぐらい

で、どう変わるかというと、発火点(発火温度)が下がるのです。つまり、全ての物が非

常に燃えやすく( 酸化しやすく )なります。そこでまず、世界中で山火事や都市火災が頻

発し、工場や油井等でも、火災や爆発が増加すると思われます」

「うむ、」

「これは、逆にいえば、現在の大気組成は、実にうまく出来ているというわけです。し

かも、それ自体が、ダイナミックで、安定しています。私たちは、このような地球生命

圏のホメオスタシス(恒常性)に介入しようとしているのかも知れないのです」

で、どうなのかね、夏美君、」高杉は、夏美の方に聞いた。「その、反対意見という

のは?」

「はい。実は、環境保護論者の中でも、意見が割れているようなのです。反対の理

由も、いくつかに分類されます。例えば、二酸化炭素を封じ込めるという事への、

全性と信頼性の問題で反対している研究者たちもいます。これは、原子力発電でも

同じことですが、要はそのテクノロジーへの信頼性の問題です。それから、二次的

な環境汚染に対する不信感もあります。中には、化石燃料を燃やし続けること自体

に反対している人々もいます。こういう人たちは、クリーン・エネルギー以外は受け

入れないという方向を向いています」

「なるほど、」

「もともとこの炭素管理技術というのは、」と、堀内が言った。「地球工学

(ジオ・エンジニアリング)から提唱されてきたものなんですよ」

「ほう、地球工学ですか?

「はい。あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、」

「夏美さんからこの企画を聞いた時、ある程度の炭素管理は受け入れざるを得ない

と思いました。少なくとも、車の排気ガスをこのまま放置しておくわけにはいかんで

しょう。このままでは、汚染は拡大する一方ですから、」

「高杉さん、実は最も簡単に行えるのは、車よりも天然ガスの掘削施設油田なん

ですよ。その次が、火力発電所。車の方は、過渡期のハイブリットからクリーン・エネ

ルギーへ転換されつつあります」

「なるほど、車社会はエンジンモーターに変わってしまうわけですか」

「むろん、長期的にはです。そこで当面は、石原都知事が推進しているような、ジー

ゼルエンジンの規制というような問題にもなってくるわけです。あとは、都市工学の

問題もあります。高杉さんの言われるように、“アリの巣”を学ぶとしたら、 都市交通

システムも抜本的改革が必要でしょう」

「うむ...循環型・巨大地下都市空間が散在している状態になれば、地上の道路

は、予備の幹線道路以外は必要なくなるでしょうね。それに、地下都市は独立性が

高い方が、多様性が高まりますし、安全性も高まります。ただし、インターネットで結

ばれた社会ということになります」

「インターネットは必要ですか?」

「この辺りの独立性は、さらに研究する必要があるでしょうね」

 

 

house5.114.2.jpg (1340 バイト)「今回はここで終了します。つぎは、実際に動き出している炭素管理の試み

について、さらに詳しく考察していきます。どうぞご期待ください」

                                  進行担当 : 白石 夏美    

                                                                          house5.114.2.jpg (1340 バイト)