My Work Stationgroup C最新・素粒子物理学の風景プレオン・モデル

      プレオン・モデル       

 
  
クォークの構成素粒子・・・ 2種類のプレオン + その反粒子
 
 
 
          

      クォークとレプトンの   世代問題/変身パターンより 

 

               wpe5C.jpg (107387 バイト)                        
             

トップページNewPageWaveHot SpotMenu最新のアップロード        塾長:  高杉 光一           

  INDEX                  

プロローグ

       〔人間の巣・・・脱/冷暖房社会・・・文明存続には不可避の道

2012.12.28 
No.1 〔1〕 クォークに内部構造はあるか? 2012.12.28 
No.2     <クォークが複合粒子の可能性・・・

                   そんなものを、誰が注文したのか・・・?
2012.12.28 
No.3         <クォークが複合粒子である・・・ もう1つの示唆! > 2012.12.28 
No.4 〔2〕 プレオン・モデル・・・の考察 2013. 1.20
No.5     <2種類/4個のプレオンで構成されるモデルとは > 2013. 1.20
No.6     <ハラリとシュッペのプレオン・モデル・・・2種/4個のプレオンで構成>      2013. 1.20
No.7 〔3〕 現状と・・・問題点は? 2013. 2.23
No.8 〔4〕 プレオン・モデルの・・・実証への道 2013. 5.17
No.9    <標準モデルを突き崩す・・・2つのターゲット > 2013. 5.17
No.10    <プレオン関与の事象を・・・膨大な加速器実験データから捜索> 2013. 5.24
No.11    警告/文明構造の今後の展望は・・・ > 2013. 5.24

    

     参考文献>   

           
  日経サイエンス /2013 - 01   

                       
                         
クォークの中の素粒子
      D.リンカーン  (米国立フェルミ加速器研究所)  

 

 

プロローグ            wpe89.jpg (15483 バイト)   


 
   〔人間の巣・・・脱/冷暖房社会・・・

         ホモ・サピエンスと人間の巣は・・・不可分のものに変容


          wpeA5.jpg (38029 バイト)        


「お久しぶりになります!」江里香が、インターネット・正面カメラに向かい、丁寧に頭を下げた。

 シンクタンク=赤い彗星の、事務・担当/二宮江里香です!

    師走も押し迫り、寒波が連続的に襲って来ています。小春日和(こはるびより)がなつかしいですね。と

もかく、今年師走は、“2012/総選挙”で大変でした。

  選挙のたびに...《当・ホームページ》では、長年にわたり提唱してきている事があります。それ

は、“日本の社会インフラ〕が、気候変動による“集中豪雨”や、“地震/津波災害”に対し、極め

て脆弱なことを露呈し始めている事です。

 

  また直近の...“笹子トンネル天井板落下事故”(/2012年12月2日・・・山梨県大月市笹子町の中央自動車

道上り線・笹子トンネルで、天井板のコンクリート板がおよそ130mにわたって落下。走行中の車複数台が巻き込まれた。死亡者9名、負

傷者2名)に現れているように...“基盤的なインフラも・・・老朽化が進行、している様子です。

  ここは...与党/自民党・公明党が推進する...“国土強靭化計画”や、“防災・減災ニューディ

ール政策”のような...“強化・増強という・・・対処療法/応急策”ではなく...“国土の線引き

・・・未来社会の基盤インフラを・・・根本から再構築”...する時に、来ていると思われます。

  また...“社会信用システム・・・社会的評価システム・・・文化・慣習法システム”...も“国民

との・・・あまりにも大きな乖離をうみ・・・すでに久しい年月” ...となっています。

  〔日本国民〕は、今...“信用できる社会システムが・・・無くなっている状態”...のようです。

まさに、真の意味で...〔維 新/革命的な一新 〕 を、この国は、渇望 しています。

 

  御存知のように...《当・ホームページ》では...【日本版/ニューディール政策】提唱してい

ます。これは大公共事業で、〔人間の巣/未来型都市/千年都市〕全国展開(/世界展開)を実現

し、〔ポスト民主主義・・・人間の巣のパラダイム〕を、実践(じっせん)するものです。

  この“ミッション”は...“文明の折り返し/反・グローバル化”推進し...暴走して来た人類

文明を、軟着陸させる方策になります。そして、これは真に、〔次世代/日本列島の・・・社会インフ

ラ風景〕、となるものです。

  〔生態系と協調して行く・・・未来型社会の器・・・人間の巣/未来型都市/千年都市〕...に、

〔社会工学の精華〕反映して行けば...〔人類・数千年の希望・・・極楽浄土・・・パラダイス〕

容易に...実現可能ということです。つまり、これはリスクのない、“日本列島・改造計画”です。

 

   “マヤ文明の予測になる・・・地球の最後” は...どうやら回避されました。でも...“現代文

明が予測する・・・ 21世紀・大艱難” は...確実に押し寄せて来ます。それは、私たちも、肌で感

じている事です。

  さあ...これを回避し、人類文明軟着陸するためには、〔人間の巣の・・・全国展開/世界展

開〕、が急務になります。“地球最後の騒動” は...現在継続しているということです。このことが、

かつての“核戦略時代のような暗雲”となり、再び世界を覆(おお)っているわけですね。

 

  また、1歩、コマを進めて...文明・暴走の、複合的・相乗効果臨界に達し...“21世紀・大艱

難”到来した時においても...過酷な環境変化に対応している...“万能型・防護力”/〔人間

の巣/未来型都市/千年都市〕は、必須となります。

  おそらく...“大艱難(大かんなん)に耐え抜き・・・生き残る方舟(はこぶね)/ノアの方舟”は...

態系の中で孤立して存在できる...〔人間の巣・・・自給自足型の未来都市〕...だけかと、思わ

れます。

  長期・気候変動では...化石燃料原子力エネルギーに頼るのではなく...としての環境・適

が求められます。そのアイテム(品目/必要とされるもの)として...〔ホモ・サピエンスは・・・人間の巣

を獲得しなければならない〕...ということだ、そうですよ、」

 

    wpe89.jpg (15483 バイト)     


「ええ...」江里香が、左手に持っているiPad
タブレット型コンピューターに目を落とした。「さあ、今回は、

素粒子のお話です...

  “ヒッグス粒子”が発見され、【素粒子の・・・標準モデル/標準理論】が、完成に1歩近づいたそ

うです。でも、残った課題鮮明となり、それを超える理論も活発に議論されているそうです。今回の

テーマの...“プレオン・モデル/プレオン・理論” も...そうした中の、1つなのだそうです。

  簡単に説明しましょう...【標準理論】では、クォークは、“大きさゼロの・・・点粒子という【定義】

なのだそうです。“プレオン・モデル”では、このクォークが...“プレオンという・・・さらに小さな素粒子

で構成される・・・複合粒子”...というのが、この理論趣旨(しゅし)になるようです。

  そうなると...当然、クォークは、“大きさゼロの・・・点粒子ではなくなるわけで、【定義】が崩れて

しまいます。そこで、まず...クォークの、“大きさが・・・ゼロではない証拠”を見つけることが、その

可能性をほのめかす、強力な証拠となるのだそうです。まず、“馬を射よ”、ということでしょうか...」

 

  江里香が、iPadを作業テーブルの上に置いた。そして、あらためて一同に、丁寧に頭を下げた。

「ええ...」江里香が言った。「今回は...

  高杉光一・塾長と...ニュー・テクノロジー担当/淡島祐次・准教授(じゅんきょうじゅ)と...

シンクタンク=赤い彗星/生物学~医学担当厨川アンで...考察していただきます。

  アンは、畑ちがいになりますが...人手不足の折、好奇心から参加を承諾してくださいました。あ

りがとうございます」

「お役には立てませんが...」アンが微笑して、眼鏡に手をかけた。「聞き役に回りたいと思います」

「助かります、」高杉が、アンに頭を下げた。

「ええ...」淡島が、固い口調で言い、全員を見まわした。「よろしくお願いします、」

「よろしくお願いします、」高杉が、淡島に頭を下げた。

「よろしく、」アンも、頭を下げた。

〔1〕  クォーク に内部構造はあるか?          


       
          wpe5C.jpg (107387 バイト)            


「さあ...」高杉が肩を回し、スクリーン・ボードを見た。「“プレオン・モデル”考察に入る前に...

  まず...何故...【素粒子の・・・標準モデル/標準理論】を、超える理論が必要なのか。また、

何故...クォークが、内部構造を持つ可能性が考えられるのか。その辺りのことから、考察に入りま

しょう」

「はい!」江里香が、両手を包むように握った。

「ええと...うーむ...

   【標準モデル】では...そもそも、クォークレプトン(/電子とニュートリノのグループがある)というのは...

内部構造を持たない、“点状の粒子”として【定義】されています。つまり...“大きさがゼロの点・・・

位置だけがあって・・・大きさのない図形/粒子”...ということですね、」

「はい...」江里香が、深くうなづいた。

物質は...」高杉が言った。「【標準モデル】によれば...

  この、クォークレプトンという...“2つの素粒子・グループ・・・フェルミ粒子”で...構成されてい

ます。“あらゆる原子・・・宇宙に存在する・・・あらゆる物質”は...クォークレプトンの組み合わせ

で作られているということです。その意味では、地球も、太陽系も、銀河系も、同じです。

  さて、そのクォークは...“6種類”(/アップ・クォークとダウン・クォークの第1世代/チャーム・クォークとストレンジ・クォー

クの第2世代/トップ・クォークとボトム・クォークの第3世代/・・・で計6種類であり...レプトンも、何故か“6種類”(/電子

と電子ニュートリノの第1世代/ミュー粒子とミュー・ニュートリノの第2世代/タウ粒子とタウ・ニュートリノの第3世代/・・・計6種類です」

「いずれも...」江里香が、ゆっくりと指を折った。「第1世代 ~ 第3世代まであって...6種類なの

ですね?」

「そうです...」高杉が言った。「“世代”が存在する、深い意味は、分かっていないようです。ただ、

“世代”として分類され...男女のような、“対”になっているようです...」

「ふーん...」江里香が、唇に指を当てた。「“世代”で、“対”だから...夫婦と考えればいいのでしょ

うか?」

「ハハ...」高杉が、満面で顔を崩した。「そうですね、ネーミングが絶妙で、面白いですねえ...

  【量子力学】には...“強い相互作用の力”量子色(いろ)力学/QCD(quantum chromodynamics)の、

“カラー(/グルーオンはカラー量子数で、8種類に分類とか...クォークの、芳香/“フレーバー”(/クォークはフレ

ーバー量子数6種類に分類だとか...他にも、面白い分類名称がいっぱいあるようです...

  あ、そうそう...クォークという名称の由来も、面白いものです。クォーク数学的に記述し、内部

構造を説明したのは、アメリカの物理学者/マレー・ゲルマン(Murray Gell-Mann/1929年 ~ /ノーベル物理学

賞を受賞/クォークの父/彼と、ジョージ・ツワイクによって・・・1964年にそれぞれ独立に提唱された)ですが...ゲルマンは読

んでいた小説の中で...海鳥が、クォーククォーククォーク、と3回鳴くところから、この新しい素

粒子クォーク命名したという、有名なエピソードがあります。

  当時...彼は、クォーク3つと考えていたのです。そして、その“数”にこだわっていたようです」

「あ、それで...海鳥3回鳴いたから、クォーク命名したのですか?」

「そうらしいですねえ...」高杉が、顔を崩した。「ま...発見者/命名者の、権利ですね...

  もっとも...クォーク実験によって、物理的・存在として観測されたのは...ええと...1968年

ですね。最後に発見されたのは、トップ・クォークです。これは、飛びぬけて質量が大きく1995年に、

アメリカ/シカゴ近郊のバタヴィアにある、フェルミ研究所で見つかっています。

  この、トップクォークというのは...主に“強い相互作用の力”で、他の粒子相互作用するようで

す。そして、崩壊する場合は、必ず“弱い相互作用の力”が関係し...ほぼ例外なく、W粒子と、ボト

ム・クォーク崩壊するようです。

  【標準モデル】によれば...トップ・クォーク寿命1×10−25秒程度であり...“強い相互作

用の力”が働く時間の、1/20なのだそうです。そのために、トップ・クォークは、ハドロン(強い相互作用

を持つ素粒子の総称)を生成せずに崩壊することから、“裸のクォークを観測”するのに、最も適していると

言われています」 

「はい...」江里香が言った。

「ええ...」高杉が言った。「ともかく...

  クォークレプトンからなる原子/物質は...4つの力支配されているわけです。つまり、宇宙

4つの力支配されていると言ってもいいわけですが...それが、“重力”“電磁気力”“強い相互

作用の力”“弱い相互作用の力”、ということです。

  4つの力は...“ビッグ・バン”の時には、1つのものだったと想定されています。それが、“インフレ

ーション・宇宙”を経て、現在の宇宙になる間に、“大きく分けて・・・4つの力”分裂してきたようです。

大きく4つということで、今後分岐して行く可能性はあるということです...」

「はい...」

「そして...

  これらの“4つの力を媒介する粒子”は...“ゲージ粒子”というわけですが...“電磁気力におけ

る・・・光子”“弱い相互作用の力における・・・ウイークボソン/W粒子(W粒子と、その反粒子であるW

子の2種類)、Z粒子”“強い相互作用の力における・・・グルーオン(色荷(カラー)と呼ばれる量子数を持ち、その違

いによって、全部で8種類)などです。

  それから、御存知のように...“重力を媒介する重力子/グラビトン(スピン2、質量0、電荷0・・・寿命無限

大のボース粒子であると予想される)は...まだ、観測されていません。

  ええと...もう一度、確認しておきますが...【標準モデル】素粒子は...“力を媒介する・・・

スピン1のゲージ粒子”と...”対称性を破る・・・スピン0のヒッグス粒子”...そして、”物質を構成

する・・・スピン1/2のフェルミ粒子”...からなっているわけですね。

  あ、重力子/グラビトンは...【標準モデル】対象外になっています。しかし、重力子素粒子

スタンダードな素粒子でもあるわけで、【標準モデル】“素粒子の表”に、含まれていることも

あるようです。

  うーむ...重力子は、スピン2質量0電荷0寿命無限大ボース粒子と予想され...力を

媒介する・・・ゲージ粒子”ゲージ相互作用を媒介するボース粒子の総称。ゲージという用語は、ラグランジアンの余分な自由度

を表しているだということですね...」

「はい...」アンが、赤毛を耳の後ろへ撫でた。「ともかく...“ゲージ粒子”というのは、“ボーズ粒

子”範疇に入るわけですね?」

「そうです...

  【標準モデル】では...素粒子は、大きく2種類に分けられます。“フェルミ粒子”(名前の由来は・・・イタ

リア - アメリカの物理学者/エンリコ・フェルミ/Enrico Fermi )と、“ボーズ粒子”(名前の由来はインドの物理学者/サティエンドラ

・ボース/Satyendra Nath Bose)です。

  “フェルミ粒子”というのは、要するに...半整数スピンを持つ粒子や、奇数個の核子からなる

粒子です。これは、“物質を構成する粒子”で...クォークレプトングループであり...身近な

表格は、電子でしょうか...

  一方、“ボーズ粒子”は...整数スピンを持つ粒子で、“フェルミ粒子を・・・相互媒介する粒子”

す。この中に、“4つの力を媒介する粒子”/“ゲージ粒子”も入るわけです。これは、W粒子Z粒子

や、グルーオンですが...身近な代表格子光/光子ですね...」


<クォークが・・・複合粒子である可能性は・・・? 1    

 
                
“そんなものを・・・誰が注文したのか・・・?”>


               
     
 


「さて...」高杉が言った。「江里香さんの紹介でもあったように...

  【標準モデル】では...クォークレプトンを、“分割不可能な・・・基本粒子”とみなしています。し

かし、これらが、さらに小さな要素構成されている、“複合粒子の・・・可能性”が、出て来ているの

です。まず、その幾つか手掛かりを考察してみましょう。

  仮に...もし...クォークレプトン基本粒子ではなく、複合粒子だとすれば、【標準モデル】

は、【定義】が崩れて根本から見直す必要が出てきます。素粒子世界という玉ネギの皮が、さらに

1枚はがされたような、別の世界が、展開・構築されて行くのかも知れません...」

「うーん...」アンが、アゴに指を当てた。「それほどの...ものなのでしょうか?」

「その可能性が、大きいようです...

  【量子論】は、“新たな黎明期”を迎えているのかも知れません...ただし、人類文明が、順調

存続して行けばの話です。現在の世界構造では、早晩、“21世紀・大艱難”がやって来るのは確実

ですから...

  しかし、もし...“文明構造/世界構造を・・・生態系と強調する人間の巣のパラダイムに・・・

大転換できれば”...再び安定した、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”時代が到来するわ

けです。そうであれば、“量子情報科学”などと合わせて、〔極楽浄土の科学文明〕が...大展開

るのかも知れませんねえ...」

「あの、塾長...」江里香が、躊躇(ちゅうちょ)しながら言った。「玉ネギの皮を...1枚はぐというのは、

どういうことなのででしょうか?」

「うむ...」高杉が、うなづいた。「そうですねえ...

  “クォークの・・・内部構造”可能性に関する...“最初の手掛かり”となったのは...“クォークと

レプトンの・・・種類と数に関する問題...だったようですねえ...

   何度か説明していますが...原子核を構成する陽子中性子は...いずれも、第1世代2つ

クォーク...つまり、アップ・クォーク (u) ダウン・クォーク(d)の、“3個の組み合わせ”構成され

ています。

  陽子...アップ・クォーク (u) 2個と、ダウン・クォーク (d) 1個の、合計3個...中性子は、アップ

・クォーク (u) 1個と、ダウン・クォーク (d) 2個の、合計3個ということですね。

  ええ、一言付け加えますが...中性子というのは電荷的“電荷0/中性”で、陽子“電荷+1”

りも、“わずかに質量の大きい・・・複合粒子”です。中性子質量の方が大きくなるのは、アップ・クォ

ーク (u) よりもダウン・クォーク (d) の方が、わずかに質量が大きいからです。そして、中性子では、こ

れが2個となるわけで、その分重くなるわけです...」

「はい...」江里香が、しっかりとうなづいた。「それで、中性子の方が陽子よりも、わずかに重い

けですね、」

「そうです...

  さて...このアップ・クォーク (u) というのは、...“陽子の電荷/電気素量/素電荷”(/電気量の最

小単位。大きさは、陽子あるいは陽電子1個が持つ電荷の大きさ。電子の電荷の符号を変えた大きさ)の、“+2/3倍(プラス3分の

2倍)の電荷”を持ちます。そして、ダウン・クォーク (d) は、“-1/3倍(マイナス3分の1倍)の電荷”を持ち

ます...」

「ええと...」江里香が言った。「つまり...

  アップ・クォーク (u) “電荷+2/3”...ダウン・クォーク (d)“電荷 -1/3”...を持つという

ことですね?」

「そういうことです、」高杉が、うなづいた。

「あの...」江里香が、小首を傾げた。「1/3や、2/3電荷なんて...あるのでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、口に手を当てた。「あるようですねえ...

  いわゆる...電荷1/3を単位とする粒子、も存在するわけですが...これは、“クォークの閉

じ込め”/クォークを、単独では取り出すことが出来ないという物理現象・・・クォークは色荷(カラー)という量子数を持ち、“強い相互作

用の力”によって、全体として “無色” となるような色荷の組み合わせでしか、存在することが出来ないようですにより...通常の

実験室では取り出すことができません。

  したがって...“陽子の電荷/電気素量/素電荷”が、電気量の最小単位となっているようです」

「はい...」江里香が、瞬きした。

「ええ、したがって...

  陽子は...2個 (u) 1個 (d) で構成されますから...“+2/3”“+2/3”、そして“-1/

3”電荷足し算すると、“+1”となるわけですね。中性子の方は...1個(u) 2個 (d) で構

成されますから...“+2/3”“-1/3”“-1/3”電荷合計となり...“0/中性”となるわ

けです。一応...頭に入りて置いてください...」

「ふーん...」アンがうなづき、コーヒー・カップに手を伸ばした。「そういうことですか...」


                     

「この宇宙に存在している...」高杉も、≪クラブ須弥山≫の弥生の淹(い)れた、コーヒーを手にとっ

た。「いわゆる、物質を作るには...

  第1世代のクォークである、アップ・クォーク (u) ダウン・クォーク (d) と...原子核を回る第1世代

のレプトン/電子だけで...十分なのです。

  しかし、何故か...他にも、クォークが確認されているわけですねえ。第2世代チャーム・クォー

(c) ストレンジ・クォーク (s) ...そして、第3世代トップ・クォーク (t) ボトム・クォーク (b) です。

これらの各“世代”は、“対”になっています。

  そして、レプトンの方にも...電子電子・ニュートリノという“対”があり、第2世代第3世代とあ

ります」

「はい...」アンが、コーヒー・カップを傾けた。

「いいですか...」高杉も、コーヒーを一口飲んだ。「くり返しますが...

  第1世代第2世代第3世代まで...それぞれ“対”になっていて...6種類のクォークがある、

というわけですが...この“3つの世代”は、“2つのグループ”に分けることもできます。

  つまり、“アップ・クォーク・グループの・・・第1世代・第2世代・第3世代”と...“ダウン・クォーク・グ

ループの・・・第1世代・第2世代・第3世代”とに...分けることもできるわけです。

  “アップ・クォーク ・グループ”には...第1世代アップ・クォーク (u) と、第2世代チャーム・クォ

ーク (c) と、第3世代トップ・クォーク (t) とがあるわけですが...これらは、いずれも、“電荷+2/

3”を持ち...“世代”が上がると、質量が大きくなります。つまり...重くなるわけですね。

  それから、“ダウン・クォーク ・グループ”には...第1世代ダウン・クォーク (d) と、第2世代

トレンジ・クォーク (s) と、第3世代ボトム・クォーク (b) とがあるわけですが...これらは、いずれ

も、“電荷-1/3”を持ち...同様に、世代が上がるごとに、質量が大きくなって行きます...」

  アンが、無言でうなづき、コーヒーを飲んだ。

「これらの...」高杉が言った.「6種類クォークは全て、観測により存在確認されています...

  質量の大きな第2世代第3世代クォークは...一瞬で...質量の小さな、2個クォーク

するようです。その様子については、ここでは割愛します...

  ああ、そうそう...これらの6種類クォークには、それぞれ反粒子質量などの物理量が同じで、電荷

気モーメントの符号が逆の素粒子・・・例えば、陽電子反陽子反中性子などです・・・反中性子は、質量と電荷も中性子と同じですが、バ

リオン数は中性子の+1に対して-1を取ります)があるわけですね。したがって、合わせて、12種類クォーク

されるようです...」

「はい...」江里香が言った。「今度は、よく分かった様な気がします。反粒子については、よく分かり

ませんが、」

「はいはい...」高杉が、うなづいた。「反粒子について、少し説明しましょう...

  反粒子代表格/“陽電子”(ようでんし/ポジトロン/positron)は...いわゆる電子反粒子になります。

絶対量電子と等しく...電荷だけが“電荷+1”です...だから、陽電子なのです...

  この陽電子というのは...“陽子過多により・・・不安定な原子核の・・・β+崩壊により生成”...さ

れます。それから...“1.022 MeV(メガ電子ボルト)以上のエネルギーの・・・電磁波と電磁場の相互作

用により・・・対生成(ついせいせい)...されます。

  “対生成”とは...素粒子とその反粒子が、同時に生成される現象のことです。例えば、光子から、

電子・陽電子対陽子・反陽子対生成されるようですね...

  また...この陽電子は、物質内に侵入すると、原子核外電子(/特に価電子、伝導電子)“対消滅”

(対生成の逆で・・・粒子と反粒子が衝突し、エネルギーないし他の粒子に変換される現象)して...“数本のガンマ線”となる

ようです。

  それから、“反陽子”というのは...陽子と、質量スピンが全く同じで、逆の電荷/“電荷-1”

持つ、反粒子です。反陽子1955年に、セグレチェンバレンによって...カリフォルニア大学バ

ークレー校の加速器/ベバトロンを使った実験で...最初に発見されていますね。

  この反陽子は、陽子と衝突すると、“対消滅”を起こし...数個パイ中間子など、になるようです

ね...」

「はい!」江里香が、一応...という感じで、しっかりとうなづいた。

   wpe89.jpg (15483 バイト)
                     


「さあ...」高杉が、スクリーン・ボードをスクロールした。「クォークの次は、レプトンの方ですね...」

「お願いします...」江里香が、小さく頭を下げた。

「ええと...

  レプトン代表格/電子(e)“電荷-1”も...クォークと同様に、質量大きく不安定な、親戚

とも言える...第2世代第3世代があります。第1世代電子 (e) で...第2世代ミュー粒子 (μ)

であり、第3世代タウ粒子 (τ ) ですね。この“電子・グループ”は、いずれも“電荷-1”です...

  それから、レプトンも...これらの各“世代”対応する...3種“ニュートリノ・グループ”がある

わけです。つまり...第1世代電子・ニュートリノ ( ) で...第2世代ミュー・ニュートリノ (μ )

であり...第3世代タウ・ニュートリノ (τ  )です。

  これらのニュートリノに関しては...いずれも“電荷0・・・中性”であり...非常に軽いですね。ニュ

ートリノ有限微小質量(電子の質量の~10. 00万分の1程度以下)を持つ、とも言われますが...ニュートリノ

振動(ニュートリノが質量を持つことで、ニュートリノのフレーバーが変わる現象)からは...型/種の異なる、ニュートリノ

の質量差測定されるのみで、質量の値は解らない...様子です。

                                             ・・・・・<詳しくはこちらへどうぞ>

  ともかく、この辺りは、最先端/研究領域です。門外漢が、気安く分け入っていける領域ではない

ようです。したがって、ここでは、ごく表面的な知識整理しているわけですが、それさえも理解が浅

く、齟齬(そご: 食い違うこと)があるかも知れません。ご承知置きください...」

「そうですね...」淡島が、ようやく顔を和ませた。「それを、承知で...

  科学者は、果敢に、フロンティアに入って行くわけです。それを恐れていては、冒険はできません。

学生たちにも言うのですが...間違いを恐れていては、好奇心というものは前進しないわけです。

失敗を学ぶことも...その道を学ぶ...学問なのだということです...」

「なるほど...」高杉が言った。「うーむ...その通りですねえ...

  さて、淡島さん...宇宙の物質が、第1世代アップ・クォーク (u) ダウン・クォーク (d) ...そし

て、第1世代電子 (e) で作られているのなら...何故、これらの素粒子には...第2世代第3世

の多くの親戚がいて...それこそ、多種多様素粒子が存在しているのかという事です...

 

  “そんなものを・・・誰が注文したのか・・・?”              

 

  ...ということですねえ。

  これは、イジドール・ラビ(Isidor Isaac Rabi/アメリカの物理学者/“共鳴法”による原子核の磁気モーメントの測定法の発見に

より・・・1944年ノーベル物理学賞を受賞)が...ミュー粒子(/1936年に、宇宙線の中に観測。電荷-1、スピン1/2、静止

質量は電子の約206.7倍、平均寿命2.2×10-6秒で・・・電子とミュー・ニュートリノ、および反電子・ニュートリノに崩壊する・・・)

を知った時に発した、有名な言葉だそうです...

  あの、【量子力学】黎明期の頃の言葉です。自信に満ち溢れた、時代だったようですねえ...」

「まさに...」淡島が言った。「“注文もしていない・・・余計なメニュー”が、テーブルに追加されて来た

わけですねえ...

  迷惑なメニューですが、真実を追及する学問的テーブルから...登場してきたメューを、排除する

わけにはいかないということです。

  かつては、残された2つの問題...“黒体輻射の問題と、マイケルソンとモーレーの実験の問題”

から...【相対性理論】【量子力学】が生み出され、物理学におけるパラダイムシフトが起こった

わけです」

「そう...」高杉が、うなづいた。「ふーむ...“注文していない・・・メニュー”と言えば...

  生命圏における...膨大な遺伝子発現の光景や...その、しなやかで狂暴なメカニズムも...

“誰が注文したのか?”...ということですねえ...

   “広大な山野を覆う・・・凶暴な緑の爆発的繁茂”...“海洋で・・・爆発的な大発生を見せる

・・・膨大な数量の微生物や・・・食物連鎖の喧噪”...これらも、“誰が注文したのか?”...と

いうことですねえ...それらは、決して、確率論的/偶然の産物ではありません...

  それは...“複雑系の極致・・・神の領域”とも呼ばれる奇跡であり...“絶対主体/我の姿”

 をも含むわけですが...」

「うーむ...」淡島が、口に手を当てた。「そうですねえ...

   “本当に・・・誰が注文した”...のでしょうか...?」

「そうですね...」アンが、長い赤毛を揺らした。「このような...

  “惑星を覆いつくすほどの・・・凶暴/強力な生命システム”...というものは、まさに、“神の

領域・・・神の場”での...出来事かも知れませんわ。科学では、説明できない領域を含みます。

  あるいは、高杉・塾長が言われているように...【宇宙の・・・初期条件】に、書き込まれていたの

かも知れませんわ。“意識と表裏一体の生命現象が・・・熱力学の第2法則/エントロピーの増

大”...と拮抗するような力として...ですわ...」

「ふーむ...」高杉が、ゆっくりとうなづいた。

 

                   

 
「ええと...」淡島が、スクリーン・ボードを見た。「話を、進めましょうか...」

「はい...」高杉が言い、スクリーン・ボードに目をやった。

「上の方は...」淡島が言った。「メンデレーエフ(ロシアの化学者/1834年 ~ 1907年)の、元素周期律

表/周期表ですね...

   下の方は、素粒子の世界を表す...クォークレプトンの似たようなです。“フェルミ粒子”は、

“第1世代・第2世代・第3世代”で...“対”を形成していて...塾長が説明されたように...クォー

クが6種類...そして、レプトン6種類...です。

  もう一方の、“ボーズ粒子”も...一応、説明しておくと...光子(/電磁気力を媒介する粒子グルーオ

(/強い相互作用の力を媒介する粒子・・・色荷(カラー)と呼ばれる量子数を持ち、その違いにより、全部で8種類のグルーオンが存在)

Z粒子(/弱い相互作用の力を媒介する粒子W粒子(/弱い相互作用の力を媒介する粒子・・・Wと、反粒子のW2種類があ

る)ヒッグス粒子(/素粒子に質量を与える・・・種類は未定、があるわけですが...これに重力子(スピン2、質量0、

電荷0・・・寿命無限大のボース粒子と予想される・・・種類は未定が加わるわけですね...」

「うーむ...」高杉が、脚を組み上げた。「この表は...

  深読みすると...実に、広大な世界/宇宙の深淵が...垣間(かいま)見えそうですねえ。素粒子

世界“曼荼羅”(まんだら: 仏教/密教で・・・宇宙の真理を表す方法として仏や菩薩などを、体系的に配置した図のようです

ねえ...」

「ははあ...」淡島が、白い歯を見せた。「“曼荼羅”ですか...

  なるほど、そう見えますか...まあ、そうした深い意味が...背後にあるのは確かでしょう。しか

し、私などには、読み切れませんねえ...最前線にいる物理学者の誰かが、やがて、そういう関係

性の風景を、解き明かしてくれるのかも知れませんが...」

「いやいや...」高杉が、手を上げた。「門外漢だからこそ...

  先入観権威にとらわれず、見えてくる別の風景というものも、あるのかも知れません...」

「確かに...」淡島が、眼鏡の真ん中を押した。「そういうことも、ありますが...」

「でも...」アンが、興味津津(きょうみしんしん)で、表に見入りながら言った。「これ...面白いですわ、」

「この表は...」淡島が、スクリーン・ボードを一瞥(いちべつ)した。「もう一度、言いますが...

  化学元素周期表とよく似ています。物理学者はかつて周期表から、化学元素とは基本粒子/

素粒子ではないことを、見抜いていました。

  また...周期表“列”“行”似かよった性質が、原子内部構造における...“系統的パタ

ーンによって説明できる”...ということにも、気づいたわけです...」

「うーむ...」高杉が言った。「そこで...

  “フェルミ粒子”クォークレプトンについても、こうしたを作ってみた、というわけですか。“世

代”“対”で線引きをし、“表”を作り...そこから、次々にクォーク予想され...実験でそれを

測/追認してきた、歴史があるということですね...」

「そうです...

  くり返しになりますが...第3世代トップ・クォーク (t) が、最も質量が大きいですね。“電荷+2

/3”“質量170 GeV 前後”、と言われ...他のクォークよりも、飛び抜けて質量が大きいようです。

これは、(Au)の原子と、ほぼ同じ質量ですね、」

「はい...」高杉が、うなづいた。「最近発見された...

  “ヒッグス粒子”...らしきものは...ええと...“125GeV~126GeV”あたりで発見されてい

るようですねえ。予想では、同じぐらいと言われていたようですが...トップ・クォークの方が重い(/

質量が大きい)わけですか、」

「まあ、そうですね...」淡島が言った。「“予想よりも少し軽かった”、と言われているようです...

  が、この辺りの齟齬(そご: 食い違うこと)が、新展開を生むとも、期待されています。“ヒッグス粒子”

発見は、どうやら、様々な新展開をはらんでいるようです」

「うーむ...」高杉が、口に手を当てた。「そうらしいですねえ...」

 

「ええと...」淡島が、スクリーン・ボードをスクロールした。「トップ・クォーク (t) の次に重いのが...

  第3世代“対”になっている、ボトム・クォーク (b) です。これは、“電荷-1/3”“質量4GeV ”

あり、陽子4倍の質量です。このボトム・クォークというのは...実は、“多様な崩壊モード”を持ち

ます。しかし、最も分岐比が大きいのは...チャーム・クォークへの崩壊ですね。ま、あとは、別の機

会に説明しましょう...」

「はい...」高杉が、うなづいた。「さて...本論に戻しましょう...

  このクォークレプトンには...何度も言うように、3つ“世代”があり...“世代”が増すご

とに、重くなるわけです。このことは、“原子の内部構造を反映する・・・元素の周期表のパターン”

を、想起させます。

  つまり...クォークレプトンは...“さらに小さな・・・基本粒子”...で構成される、複合粒子

であり...3つ“世代”とは...“基本粒子の・・・組み合わせの違いか・・・配置の違いなど”...

ではないかという...“可能性を示唆”...しているということです」

「その、可能性として...」アンが言った。「何か...観測されているのでしょうか?」

「いや...」高杉が、首を横にした。「まだ、“虎のシッポ!”は、掴(つか)んではいないようです...

  それを、これから...CERN (欧州合同原子核研究機構LHC (Large Hadron Collider/大型ハドロン衝突型加

速器で見つけて行こう、ということのようです。エネルギー・レベルが、クォーク破壊するレベルまで、

上がってきたということでしょう...」

「はい...」アンが、唇を閉じ、うなづいた。


<クォークが複合粒子である・・・ もう1つの示唆    

            house5.114.2.jpg (1340 バイト)


「現在...」高杉が言った。「もう1つ...

  クォーク内部構造がある、可能性示唆(しさ)するあるものがあります。それは、“放射性崩壊”

の中にあるようです。放射性崩壊そのものは、20世紀・初頭に発見されています。しかし、その当時

はまだ、詳しいことは分かってはいませんでした。

  現代/科学文明の中にいる私たちは...放射性崩壊過程を通じて...ある元素別の元素

に変わりうることを知っています。それは、原子核の中の陽子中性子を変えることにより、

なわけですね。中世/錬金術師の夢を、科学的実現可能なことを承知しています。

  まあ、そうですねえ...(Au/原子番号79・・・1種類の安定同位体(197Au)と、18種類の放射性同位体を持つ。 最も

安定な放射性同位体は・・・半減期が186日の195Au)を作り出すこと(/・・・プラチナ原子核に中性子をぶつけると、中性子が1個

増えて、金の原子核ができる・・・しかし、プラチナも高価な上、莫大な費用がかかることなどを計算すると、まったく儲かりません)は、

論的には可能なのです...」

「はい...可能なのですね?」江里香が、念を押した。

現実的ではないですが、可能なようです...

  ええ、そして、ウラン235は...1個中性子吸収すると核分裂を起こすことは、御存知の通り

です。それから、ウラン238中性子をぶつけると、プルトニウム239という、人工の原子が生まれ

ることも、よく知られています。

  まあ...ウラン鉱石の中に、わずかにプルトニウムが含まれていることが知られる以前は、完全

な人工元素と考えられていたようです」

「はい...」江里香が、うなづいた。

「つまり...

  簡単に(Au)を作り出せるわけではありませんが...人為的核種(原子核の種類)操作すること

は、可能だということです。実際には、超新星・爆発でも、無理だとも言われます。中性子星どう

しの衝突で、ようやく作られるとも言われますね。

  しかし...搦め手(からめて: 後ろ側、裏門)から、案外簡単に作られたのかも知れません。ハハ...つ

まり、まだ、そう思っていることが...現代版/錬金術師の夢ですかね...

  まあ...このこの世/この世界は...存在そのものが、“巨大な・・・ミステリーの場”なのです。

“生命体/人間/我の存在が・・・最大の不思議であり・・・最大のミステリー”...なのです...」

「あの、塾長...」江里香が言った。「放射性崩壊というのは...

  よく聞くのですが...よくは分らないのですが...」

「ああ、はい...」高杉が、うなづいた。「そうですねえ...

  こうした言葉は、慣れる必要があります。何度も聞いているうちに、何となく分かった様な気になる

ものです。もっとも、何となく分かった気になっているというのは、いいことではないですね。折を見て、

キッチリ確認しておくことは、非常に大事です」

「あ、はい...」江里香が、白い歯をこぼした。

「ま、そういうわけで...」高杉が、スクリーン・ボードに、放射性崩壊の画像を呼び出した。「一応、

説明しておきましょう...」

「あ...」江里香が、ニッコリとうなづいた。「お願いします、」

「うーむ...」高杉が、ボードを眺めた。「まず...“放射性崩壊”とは...

  不安定な原子核(/放射性同位体)が...“様々な相互作用によって・・・状態を変化させる現象”です」

「はい...」江里香が言った。

「また...」高杉が、ボードを見ながら言った。「“放射線”とは...

  放射性元素崩壊に伴い放出される...粒子線あるいは、電磁波のことです。主に、アルファ線

/ベータ線/ガンマ線3種類を指しますね...

  アルファ線/アルファ粒子は...実体は...高速で運動している、ヘリウムの原子核です。つまり

これは、2個の陽子2個の中性子らなる、ヘリウム原子核高速な流れです。それが失われ、

射性崩壊していく、というわけです。

  ベータ線/ベータ粒子は...実体は...高速で運動している電子または陽電子です。普通に

ータ線という場合は、負電荷を持った電子の流を指します。これが放出され、放射性崩壊していく

わけです。

  ガンマ線/光子/電磁波は...波長がおよそ、10 pm (ピコメートル/1pmは10-12メートル)よりも短い電

磁波です。波長が短いわけですから、強いエネルギーを持っています。ちなみに...核種に固有の、

一定のエネルギーを持つわけです。

  ガンマ線は、性質X線と同じですが...エネルギーが強いことから、物質透過力X線より強く

なります。生物影響を与える電離作用は...アルファ線ベータ線に比べて小さい...ということ

ですね、」

「あの...」江里香が言った。「ガンマ線X線は...どう違うのでしょうか?」

原子核基因するのがガンマ線であり、原子基因するのがX線です...

  放射性崩壊は、原子核崩壊ですので、ガンマ線です。そして、その核種により、エネルギーは違

うわけです。まあ、発生機構を明確に区別する必要がない場合は、波長領域による区分をすること

もあります。その場合は、X線より高いエネルギー領域(短い波長領域)の電磁波を、ガンマ線と呼ぶよう

です」

「うーん...はい...」江里香が、スクリーン・ボードを見ながら、2度、3度、とうなづいた。

「いいですか...」高杉が、両手を組んだ。「ちなみに... 

  “アルファ崩壊”とは...そもそも、“強い相互作用の力”範疇(はんちゅう)に入る...原子核

射壊変1種だということです。

   “重い原子核が分裂し・・・より軽い原子核と、ヘリウム原子核になり・・・ヘリウム原子核がアルファ

線として放出される”...ということですね、」

「はい、」江里香が、うなづいた。

「ええと...」高杉が言った。「もう少し、別の角度から言うと...

  “アルファ崩壊”とは...アルファ線/アルファ粒子/ヘリウム原子核を放出し...陽子2個・中性

子2個(/ヘリウム原子核)を減じた...別の核種(/別の原子核)に、放射壊変するということです。これは、

核分裂反応1つとして、認識されることもあるわけです。

  例えば...ラジウム226(226Ra)が、アルファ線を放出して、ラドン222(222Rn)となるのが、そうで

す...質量数(陽子と中性子の和)4つ減り原子核正電荷2つ減るわけです。中性子“電荷0”

ですから、ここでは影響しないわけです...」

「あ、はい...」江里香が、スクリーン・ボードを見ながら、ボンヤリとうなづいた。

 「次に...」高杉が言った。「“ベータ崩壊”とは...

   “弱い相互作用の力”によって起きる...放射性壊変の1群を意味します。この中には、ベータ粒

反電子・ニュートリノを放出する、“β崩壊/陰電子崩壊”と...陽電子電子・ニュートリノを放

出する“β+崩壊/陽電子崩壊”...など、があります。 

  うーむ...など...などと言わずに、付け足すとですねえ...軌道電子原子核に取り込み、

子・ニュートリノを放出する、“電子捕獲”とか...“二重ベータ崩壊”...“二重電子捕獲”...とか

があるようですが、このぐらいで、省略しておきましょう...」

はい...」江里香が、口をすぼめて微笑した。

「まあ...」高杉が、右肩を引いた。「いずれのモード崩壊しても、質量数変化しません...

  つまりベータ崩壊は...“同重体(どうじゅうたい: 質量数が等しいが、原子番号が異なる核種のこと・・・例えば・・・14Cと、

14Nは、同重体です。同重体同士は、異なる元素なので、化学的性質は異なります)を・・・推移する現象”...ということで

す。“親核種と娘核種は・・・同重体の関係にある”...ということですね、」

はい...」江里香が言った。「難しいですね、」

はは...まあ、小耳にはさんでおいて下さい」

「はい、」江里香が、うなづいた。

「あと...

   “ガンマ崩壊”とは...励起された原子核が...ガンマ線/光を放出して崩壊する、放射性崩壊

です。ガンマ崩壊は、アルファ崩壊ベータ崩壊とは違い、核種(原子核の種類)は変わりません。つま

り、“原子番号・質量数ともに・・・変化しない崩壊”...だということです」

「うーん...」江里香が、頭を横に沈めた。「ガンマ線という...

  波長の短い/強いエネルギーの光放出される放射性崩壊で...原子番号質量も、変化しな

いんですね?」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「もう少し、具体的に言うと...

  エネルギーをもらうなどして、“励起された原子核”や...アルファ崩壊ベータ崩壊などで、崩壊

した娘核種が、すでに“励起した状態であった場合”において...高いエネルギー準位から、低いエ

ネルギー準位遷移(せんい)する際に...

  つまり...“その準位間のエネルギー差に等しい・・・エネルギーを持つガンマ線を放出し・・・安定

な原子核へと移行する”...ということです。

  ここに...ガンマ線/光子放出があり...ガンマ崩壊が起こる...ということです。ちなみに、

“励起状態の原子核”が、ガンマ線を放出するまでの時間は非常に短く...10-10秒/以下、という

ことです」

         wpe89.jpg (15483 バイト)   wpeA5.jpg (38029 バイト)       

「それで...」アンが言った。「高杉さん...

  それが...クォークの内部構造と、どう関係するのかしら?」

「ああ...ハッハッハッ...」高杉が、笑って口を押さえた。「そうですね...忘れていました...

  ええ、つまり...“核種/原子核の種類”を変えるには...その構成要素である、陽子中性子

の数を変えることによって、可能なわけですね。

  さらに...核子(かくし: 陽子と中性子)内部に含まれる、クォーク種類/分配を変えることによって

陽子(u・u・d)中性子(u・d・d)に...中性子陽子に変えることができるわけです。アップ・クォーク (u)

ダウン・クォーク (d) を、1個づつ、入れ替えてやれば、陽子中性子に、中性子陽子に変わる

わけです。

  こうした核種変換は...“弱い相互作用の力”を通じて起こります。また、“弱い相互作用の力”

は...レプトン別種レプトン変化させることも、できるわけです。しかし、クォークレプトン

ある電子に変えたり、レプトンクォークに変えることはできません」

「はい...」江里香が、うなづいた。

「つまり...いいですか...

  “ある元素から別の元素への変換が・・・原子の複雑な内部構造を反映”...しているように、

“クォークとレプトンの変身パターンにおいても...そこに微細な内部構造が・・・存在すること

を示唆しているようだ”...という推理が成立するわけです、」

「ふーん...」アンが、耳に手を当て、アゴを傾げた。「つまり...

  “クォークが・・・複合粒子である可能性”は...“クォークとレプトンの・・・世代問題”と...

“クォークとレプトンの・・・変身パターン”...ら想起される...ということかしら...?」

「まあ、今のところは...」高杉が、椅子の背に体をあずけた。「そこで...“プレオン・モデル”が考

察されてきたわけです...」

「はい!」江里香が、コクリとうなづいた。

〔2〕 プレオン・モデル・・・の考察                 

         wpe5C.jpg (107387 バイト)                 

 

「江里香です!」二宮江里香が、かしこまって頭を下げた。「ここから、2013年の仕事になります!

今年も、よろしくお願いします!」

 

「さっそくですが...」江里香が言った。「...塾長!...

  これまでに、説明して来たようなことから、“クォークが・・・複合粒子である・・・可能性”、が考え

られるということですが、そもそも、【標準・モデル】を超えることになる、“プレオン・モデル”というの

は、どのようなものなのでしょうか?」

「ええ...」高杉が、姿勢を正した。「まず、 ・・・新年、明けましておめでとうございます・・・

  さっそく、考察に入りますが...クォークレプトンを構成する、いわゆる仮想要素というものは、す

でに数多く提案がなされているようです。むろん、それぞれに、異なる名称が付けられているわけ

ですが...“これらをまとめて・・・プレオン・モデル・・・と総称”...されているようです。

  いわゆる...その領域の“仮想粒子の総称”が、“プレオン”ということでしょう。ほとんどの場合、

クォークレプトン構成粒子だけでなく...そこで作用する、力を媒介する粒子/“ボーズ粒子”

構成要素も...“プレオン”と呼ばれているようです」

「あ...」江里香が、軽く手を握った。「つまり...

  物質を構成する、“フェルミ粒子”であるクォークレプトンも...力を媒介する“ボーズ粒子”も、

“プレオン”で構成されている...と考えていいわけですね?」

「まあ...」高杉が言った。「そういうことでしょう...

  しかし、固まっているわけではありません。まだ流動的なわけですが、そういう考え方もあるという

ことですね。広く知られているハラリシュッペ“プレオン・モデル”では、“ボーズ粒子”も、同じ“プ

レオン”で説明されています」

ハラリシュッペ“プレオン・モデル”というのは...?」江里香が、アゴを傾げた。

「それは、これから説明します」

「はい!」

<2種類/4個のプレオンで構成されるモデルとは >  

wpe5C.jpg (107387 バイト)                         


“プレオン”...」高杉が、スクリーン・ボードに目を投げて言った。「...つまり...

  クォークレプトンなどを構成する粒子については...これまでに、様々なモデルアイディアが、

提唱されてきているようです。

  まあ、そうは言っても...“日系サイエンス”誌などに、論文として掲載されて...一般人の目に触

れる...ということは、あまりなかったようです。つまり、“日系サイエンス”長年購読している私も、

この種の論文は、目にすることがなかったように思います...クォークレプトンに、“世代”があるこ

とは知っていましたが...」

「あ、そうなんですか?」江里香が言った。

「はは...」高杉が、顔を崩した。「そうです...

  私は、物理学者ではないですからねえ。が、もちろん、素粒子論最先端で、何かをやっているこ

とは、薄々とは知っていました。ちょうど、今進められている、量子情報工学最先端もそうですが、

研究そのものが、まだ固まっていなくて、一般向けの論文としては出ては来なかったのでしょう」

  淡島が、小さくうなづいた。

「さあ...」高杉が言った。「ともかく...

  まず、“一応・成功”している、有名“プレオン・モデル”を考察してみましょう。そこから、話に入っ

て行きましょうか、」

「はい、」江里香が、うなづいた。

 

「ええ...」高杉が、コントローラーを取り上げ、スクリーン・ボードを少しスクロールした。「これは...

  1979年に...当時、アメリカ/スタンフォード線形加速器センターにいたハラリと...アメリカ/

イリノイ大学/アーバナ・シャンペーン校にいたシュッペが...それぞれ、独立提唱したモデル

ということです。 

  彼等は...2種類“プレオン”と、それらの反粒子仮定しました...つまり、これらの4つ“プ

レオン”が...“フェルミ粒子”“ボーズ粒子”両方構成しているとして...仮説を組み立てた

わけですね。これらは...“一応、良くできていて・・・有名なモデル”、になっているようです...」

独立に、提唱したわけですか?」江里香が聞いた。 

資料には、そう書かれています...

  このモデルでは...“フェルミ粒子”の、“クォークの第1世代”/・・・アップ・クォークダウン・クォ

ーク...その反粒子/・・・反アップ・クォーク反ダウン・クォーク...それから、“レプトンの第1世

代”/・・・電子電子ニュートリノ...その反粒子/・・・陽電子反電子ニュートリノ...がうまく

されています。あ、それに...“ボーズ粒子”の方も、うまく説明できているわけですね...」

 

**********************************************************************  

<ハラリとシュッペのプレオン・モデル・・・2種/4個のプレオンで構成>

                       

 <2種類“プレオン”を、 で表示。 “電荷+1/3 をもつプレオン” “電荷をもたな

   いプレオン”

   2種類“プレオン”には、逆の電荷をもつ反粒子がある。 電荷-1/3 をもつプレオン  

   “電荷をもたないプレオン” です。 “ 都合4個のプレオン/ + 0 - で説明されています。


 フェルミ粒子/クォークとレプトンの・・・第1世代を説明  

クォークレプトンは...各、“3個のプレオン”で構成...電荷の高い順から表示 >

     

<粒子>                <電荷>       <プレオン組成/4種類>

陽電子(電子の反粒子)             +1              +++

アップ・クォーク            +2/3              ++

反ダウン・クォーク          +1/3               + 0 0

電子ニュートリノ             ゼロ               0 0 0 

反電子ニュートリノ            ゼロ              

ダウン・クォーク            -1/3               

反アップ・クォーク           -2/3              --

電子                    -1               ---

 

**************************************************************

 ボーズ粒子 

フェルミ粒子と同じ “プレオン”を...2個、または6個、組み合わせることで...原子内で作用す

力を媒介する粒子/ボーズ粒子 をも説明。原子核内で、クォークどうしを結びつける グルーオン

については、少し込み入っているので、ここでは省略 >


<粒子>                <電荷>        <プレオン組成/4種類>

粒子                   +1            +++ 0 0 0

粒子(W粒子の反粒子)          -1            ---

Z粒子(4種類ある)              ゼロ            0 0 0

                                      +++---

                                      ++--   

                                        

光子                    ゼロ              

 

**********************************************************************  

 

「うーむ...」高杉が、スクリーン・ボードを眺めた。「このように、なるわけですね...

  ハラリシュッペは...2種類“プレオン”...“電荷 +1/3”“電荷 0 ”に加えて...それら

反粒子...“電荷 -1/3”“電荷 0 ”の...“プレオン・モデル”提唱したわけです。つまり、

具体的には...+ 0   ...の“4個/・・・4種類”ということですかね...

  “プレオン”は...“フェルミ粒子”(物質を構成する粒子)であり...クォークレプトンは、上図に示した

ように、“3個の・・・プレオン”で、構成されます。

  例えば...アップ・クォークは、“電荷 +1/3”“プレオン”2個と、“電荷 0 ”“プレオン”

1個から成っています。つまり...++ で...“合計電荷 +2/3”になります。

  その反粒子である、反アップ・クォークは、“電荷 -1/3”“プレオン”2個と、“電荷 0 ”“プ

レオン”1個から成っています。つまり、- - で...“合計電荷 -2/3”になります...」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

「そして...」高杉が言った。「“ボーズ粒子”(/クォークとレプトンに作用する、弱い相互作用の力を媒介)の方は、

 “6個の・・・プレオン”で、構成されます。

  例えば...粒子は...“電荷 +1/3”“プレオン”3個と、“電荷 0 ”“プレオン”3個

から成ります。つまり...+++ 0 0 0...ですね。“合計電荷 +1 ”ということになります。

  それから...光子は、2個“プレオン”で構成されています。つまり、であり...電荷

“電荷 +1/3”“電荷 -1/3”で...“合計電荷 0 ”、になります。まあ、何故、2個なのかはとも

かく...これで、うまく説明できています...」

「そうですね...」江里香が、まばたきした。

ハラリシュッペは...

  “フェルミ粒子”“第1世代・・・全ての粒子”は...“プレオン”構成されている、と提案している

わけです。さらに、同じこれらの“プレオン”から...上図に示した“ボーズ粒子”や...それ以外の

グルーオン(ボーズ粒子/陽子や中性子内で・・・クォークどうしを結びつけている、強い相互作用の力を媒介する粒子)なども...

構成できる、としています。

  “フェルミ粒子”/クォークとレプトン...それに、“ボーズ粒子”基礎構造を、系統的に説明す

る、この仮説/シナリオによって...粒子間に働く多様な相互作用も...説明が可能としています」

 

                                    
       
(ファインマン図/ファインマン・ダイアグラム...の1例/・・・Wikipedia より)


“ボーズ粒子”の方は...」アンが口に手を当て、アゴを引いた。「その作用の方は...どう説明さ

れるのかしら?」

「ええと...」淡島が、口を開いた。「いいですか?」

「お願いします、」高杉が言った。

原子核内部で起こる過程は...」淡島が、アンに言った。「“プレオン”で、合理的に説明できるよう

です...

  1例として...アップ・クォーク/<++ と、反ダウン・クォーク/<+ 0 0が衝突して...

粒子/<+++ 0 0 0になり...それが、陽電子/<+++(/電子の反粒子)と、電子ニュ

ートリノ/<0 0 0に...崩壊する過程を考えてみましょう」

  アンが、無言でうなづいた。

「まあ...」淡島が、スクリーン・ボードに、ファインマン図を表示した。「このような...

  “ファインマン図/ファインマン・ダイアグラム”(/場の量子論において、摂動展開の各項を図に示したもの。それぞれ

のダイアグラムは、素粒子をはじめとする実際の粒子の、反応過程を表現する。リチャード・P・ファインマンはアメリカの物理学者。ジュリア

ン・S・シュウィンガー、朝永振一郎(東京教育大学長/現・筑波大学)とともに、1965年に、ノーベル物理学賞を共同受賞)というも

ので表示すれば、視覚的にも分かるのですが...ここでは、“プレオン”数合せで説明しましょう」

「はい...」アンが、うなづいた。

「この“プレオン・モデル”では...

  アップ・クォーク反ダウン・クォークという...それぞれ3個“プレオン”から成る“入射クォーク”

衝突・合体して...“電荷 +1/3”“プレオン”3個と... “電荷 0 ”“プレオン”3個から

なる粒子...つまり、粒子/<+++ 0 0 0が、生成されるわけです...いいですか?」

「はい...」アンが、淡島にうなづいた。

「そして...」淡島が、つづけた。「その後...

 粒子/<+++ 0 0 0は...もとの“入射クォーク”(/アップ・クォークと反ダウン・クォーク)とは“プ

レオン組成の・・・異なる粒子”...つまり、陽電子/<+++と、電子ニュートリノ/<0 0 0

分裂するわけです...ここでは、“プレオン”増減はないわけですね?」

「うーん...」アンが、アゴに手を当てた。「そうですね...

  アップ・クォーク反ダウン・クォークが、衝突・合体して粒子ができ...それが、より安定した、

陽電子電子ニュートリノ分裂するわけですね...」

「そうです...」

 

「さて...」高杉が言った。「いわゆる...

   【基本原理を探すということでは、ハラリシュッペ“プレオン・モデル”は、ここまではうまく説明

ができています。ここまで...というのは、つまり、“第1世代”クォークレプトンということです。

  逆に言うと...“第2世代”“第3世代”については...うまくいかず...説明曖昧(あいまい)

ままになっている...ということです。

  ハラリシュッペ“プレオン・モデル”では...“第2世代”“第3世代”については、“第1世代の

・・・励起状態(れいきじょうたい/量子力学的な系の定常状態のうち、最低エネルギー状態(基底状態)より大きなエネルギーをもつ

状態・・・励起状態にある系は、光を放出したりして、より低いエネルギーの励起状態や基底状態に遷移する)だと仮定しています」

「ふーん...」アンが、つぶやいた。「“励起状態...ですか、」

「そうです...

  原子の中の電子が、あるエネルギー準位から別のエネルギー準位に移るように...“プレオン”

うしを結び付けている“未知の機構”によって...同じ構成要素のプレオンに・・・世代の違いが生じ

て来る”...と考えているようです。しかし、残念ながら、細部は詰められていません」

「はい、」

「しかし、まあ...」高杉が言った。「1つ上の...

  クォークアイディア登場した時も...理論的研究洗練度においては、似たような状況だった

と言います。当時も、クォークどうしを結びつけて、陽子中性子をつくる“強い相互作用の力”が、

学的記述されたのは...“クォーク・モデル”が出た後のことだったそうです。

  先ほども言いましたが...“クォーク・モデル”は、2人の物理学者/マレー・ゲルマンジョージ・ツ

ワイクによって...別々に...1964年提唱されたわけです。そして、クォークは...ハドロン(強い

相互作用もつ素粒子の総称)系統だてる枠組みの1部として、導入されたわけですね...

  さらに...クォークが、物理的存在として、実験によって観測されたのは、4年後1968年です」

実験によって観測されたのは...」江里香が言った。「1番最後...ということですね?」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「次々に、理論的予測し...実験確認され...最後に発

見されたのが、トップ・クォークなのです。

  トップ・クォークが発見されたのは...ええと...1995年/フェルミ研究所実験でした。この

を受けて...“クォークを・・・6種類と予測”した...小林誠さん(高エネルギー加速器研究機構の特別栄誉教

授)益川敏英さん(京都大学名誉教授 )が、2008年ノーベル物理学賞を受賞したわけです。

  ええと、少し説明しましょう...1973年に、小林誠氏益川敏英氏によって...“K中間子の・・・

CP対称性の破れ”を説明するために...“第3世代の素粒子・・・の存在が仮定”...されたわけ

です...

  そして...1977年に、フェルミ研究所実験によって、初めて、“第3世代”に属するクォークであ

る、ボトム・クォークが発見されました。続いて、1995年に、トップ・クォークが発見されたわけです」

「そんなニュースが...」アンが、眼鏡の真ん中を押し、微笑した。「ありましたわね...」

トップ・クォークは...」高杉が言った。「前にも言いましたが...

   “電荷 +2/3” を持ち...質量/170 GeV 前後で...他のクォークよりもはるかに巨大であり、

金/Auほぼ同じ質量です。“ヒッグス粒子”も、このぐらいの質量予測していたのですが、最近発

見されたものは...126GeV 前後と、多少ズレていたようですね...

  44GeVほど、予想よりも軽かったわけですね。しかし、その齟齬(そご: 食い違うこと)からも、真理の探

では、新しい糸口が見えてくるのかも知れない、ということですね、」

「ふーん...」アンが、宙を見た。「トップ・クォークの発見は...1995年ですか。懐かしいですわ、」

1995年というのは...」高杉も、天井を見た。「様々な、大事件のあった年でした...

  このトップ・クォークの発見も、その1つだったと記憶しています。あの、パソコンOS/Windows

95 が発売されたのは、年末頃でしたかねえ...しかし、1995年初頭には、阪神大震災(/1月17

日)があり...春には、地下鉄サリン事件(/3月20日)があり...ともかく、様々なコトが起こった年だっ

たと記憶しています...」

「私は...」江里香が言った。「まだ子供でした。でも、阪神大震災地下鉄サリン事件は、覚えてい

ます」

「うむ...」高杉が、うなづいた。「Windows95登場も...社会ガラリと変えましたねえ...」

「そうですね...」アンが、ほほ笑んだ。「パソコンが普及し、インターネット時代が到来しました...

  カンブリア紀(/古生代前期・・・約5億4200万年前から約4億8830万年前まで・・・カンブリア爆発とも言われ、突如として今日見ら

れる動物の門が出そろった現象)の...生物爆発的な大発生のように...」

ボス(岡田)などは、それを予測し...」高杉が言った。「それ以前のOSの、MS-DOSから始めて

いたようですね。“松”という、ワープロ・ソフトを使っていたとか、」

「以前に、」アンが言った。「そんなコトを言っていましたね、」

「そうですねえ...」淡島が、懐かしそうに、うなづいた。「あれから、何年になりますか...」

足かけ(/年をまたいで)で...」高杉が言った。「ええと...18年ですか...

  我々は、その情報化時代大爆発の...まさに、ド真ん中に存在していたわけです...さらに、

“量子情報工学”が進展し...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代が、本格化して行く

のかも知れません。まあ...“21世紀/大艱難・時代”を...乗り切ってのことになりますが、」

  アンが、ため息とともに、うなづいた。

「それを...」江里香が言った。「乗り切るには...

  くり返しになりますが...“文明の折り返し/反グローバル化”...ということですね。そして、そ

れを、具体化するツールが...〔人間の巣/未来型都市/千年都市・・・人間の巣のパラダイ

ム〕...ということですね?」

「その通りです...」高杉が、大きくうなづいた。「それが...〔文明の・・・軟着陸の可能性を残す

・・・唯一の方法〕...なのかも、知れませんねえ。ともかく...“文明の折り返し”です!」

「はい!」江里香が、両手を握り締めた。

 

                           


「ええと...」高杉が、ワーク・ステーション・リンクのモニターに目を落とした。「話を進めましょう...

   ハラリシュッペ“プリオン・モデル”では...“第2世代”“第3世代”については...“第1世代

の・・・励起状態”、と仮定しているも、“細部は詰められていない”...というわけですね。この“世代・

問題”克服するために...“別の・・・プレオン・モデル”が、幾つ提唱されているようです」

  江里香が、スクリーン・ボードのコントローラーを取り上げ、何かの画像を探した。

「ふーむ...」高杉が、アゴに手を当てた。「“別の・・・プレオン・モデル”の...

  1例として...“プレオンの1個が・・・新タイプの量子数をもつモデル”...というのがあります。こ

れは、“プレオン”クォークレプトンの中に束縛する...“超色荷”という“新タイプの電荷”に加え

て...“世代数”と呼ばれる量子数を備えている...と考えるようですねえ、」

“超色荷”...ですか...?」アンが、口を開いたままにした。

「そうです...」高杉が、うなづいた。「“超色荷”というのは、未知の量子数になるのでしょうか...

  “色荷”“超”がついているという意味では...クォーク量子色力学(QCD)で、“色荷/カラー”

持っていることに、ちなんでいるのでしょうか?

  そもそも、“色荷”は...“強い相互作用の力”によって、“光の三原色で・・・全体として無色” とな

るような...“色荷/・・・光の色の組み合わせの束縛”、をもつわけです。

  つまり、この“色荷”にちなんだ、“超色荷”というネーミングなのでしょうか?しかし、“参考文献”

は、これ以上は、詳しくは説明されていません」

「まだ、よくは分っていないということですね...?」アンが、確認した。

「はは...」高杉が、顔を崩した。「よくは分っていない、というか...仮説がはっきりしないというか、

そんな所でしょう...」

  アンが、口をすぼめてうなづいた。

「ええ...」高杉か言った。「いいですか...

  実際には...“他のプレオン・モデル・・・を提唱する論文”は...何百編も...存在するようです。

まあ、その多くは...“少数の基本モデルに・・・わずかな変更”を加えたような...派生的・モデル

だそうです。ともかく、理論研究は盛んに行われているようです。

  そうした中には、ハラリシュッペモデルでは...“電荷が 1/3が単位・・・になっているわけで

すが・・・電荷 1/6単位”、のものも...あるようです。また...クォークとレプトンが・・・3個ではな

く・・・5個で構成されるモデル”、なども...あるようです。

  さらに...“全てのプレオンが・・・フェルミ粒子というのではなく・・・ボーズ粒子のプレオンを含むモ

デル”、などというのも...あるようですねえ。

  あ、それに...そもそも...“ボーズ粒子を構成するプレオン組成が・・・上図で紹介したものとは

異なるモデル”、というのも...あるわけですね、」

「そうですねえ...」淡島が、唇を閉じ、スクリーン・ボードを眺めた。

「まあ...」高杉が、腕組みをした。「可能性多岐にわたりますが...

  データ蓄積されて来ていますし...次第にはっきりと、輪郭線が浮かび上がって来るでしょう、」

「最近の...」アンが言った。「CERN (欧州合同原子核研究機構LHC (Large Hadron Collider/大型ハドロン

衝突型加速器などの成果が、蓄積されて来ているということですね?」

「そうです...」高杉が、腕を解いた。「しかし...

  “プレオン”存在するということになると、多方面に与える影響も、非常に大きいわけです。まず、

【標準・モデル】の、クォーク点粒子だとする前提が、崩れることになります。つまり、クォーク

合粒子ということになるわけですね。

  それに、LHCで発見された...例の、“ヒッグス粒子”にも関係して来るようですねえ...」

「そうなんですか?」アンが、頭を揺らした。

「うーむ...」高杉が言った。「詳しいことは分りませんが、そのようですねえ...

  ちなみに...【標準・モデル】では...“ヒッグス・場”によって、基本粒子(それ以上に分解できない粒子/

素粒子)に、質量がもたらされると仮定しています。

  質量の大きな粒子というのは...偏在する“ヒッグス粒子/ヒッグス・場”の中を移動する時...あ

る種の抵抗を感じるわけですが...光子のように質量を持たない粒子は...妨害されることなく、

らかに動くわけですね。つまり、これが...質量/慣性質量を...“感じる”ということのようです、」

「はい...」アンが、曖昧に、うなづいた。「そんなことを...言っていますね...」

慣性質量と、重力質量とは、等価/同一だと言います...

  つまり、【等価原理】でそうなるようです。まあ...“ゲージ対称性の自発的な破れ”だの、“南部・

ゴールドストーン粒子”だのと言うと...話が非常にややこしくなります。この辺りは、私たち自身も、

もう少し理解が深まるまで、話は割愛(かつあい)しておきましょう。

  あ、一言...ここに出てくる“南部”というのは...南部陽一郎氏アメリカ/シカゴ大学名誉教授のことで

すね...小林誠氏益川敏英氏と一緒に、2008年ノーベル物理学賞同時受賞しました」

「はい!」江里香が、大きくうなづいた。

      

「さあ...」高杉が言った。「また、話を戻しましょう...

  いいですか、ここでもし...クォークレプトンの、“第2世代”“第3世代”を構成する“プレオン”

が、“第1世代”を構成する“プレオン”と同じものなら...おそらく、“プレオン”に関する何かが、“第

2世代”“第3世代”を、“第1世代”粒子よりも強く、“ヒッグス・場”相互作用させているわけで

す。

  それによって...“質量/エネルギーが・・・世代によって・・・より大きくなる”...と考えられるわ

けですねえ...」

「うーん...」アンが、ゆっくりとうなづいた。「“第2世代”“第3世代”と...質量が大きくなっていく

わけですね...」

「そういうことです...」高杉が言った。「ただし...

  “ヒッグス・機構”は...粒子の質量起源を説明しますが...その数値予測することはできな

い、と言われます。つまり、より深淵な理論が構築されるまでは...粒子の質量は、個別測定

て、定める、ということになります」

「はい!」江里香が、両腕をしぼって、うなづいた。

 

〔3〕 現状と・・・問題点は? wpe89.jpg (15483 バイト)          

                          


「さて...」高杉が、口に手を当てた。「“プレオン・モデル”にも...

  当然、問題点はあるわけです...まず第1に...断って置くべきことは、プレオン探索する、こ

れまでの全ての実験は、失敗に終わっているという事実です。実験的には、その片鱗も見せていな

い...ということです。

  もっとも、これは、トップ・クォークヒッグス粒子発見の歴史のように、実験装置熟成が、まだ

不十分ということなのかも知れません...」

「はい、」江里香が、長い髪を首元で押さえた。

「しかし...」高杉が言った。「この種の、実験的諸問題を別にすれば...

  あとは“プレオン・モデル”の、“純粋な・・・理論的問題”ということになります。私は、“参考文献”

一読しただけで、よくは理解していないのですが...“閉じ込め理論”というのが、問題になるようで

すね。淡島さん...この“閉じ込め”とは...どういうことなのでしょうか?」

「まあ...」淡島も、ほくそ笑んだ。「それを言うなら...

  私も、理論物理学専門ではありません。はは、まあ、それを言っても栓の無い(/栓無い=かいがない)

ことですが...“クォークの・・・閉じ込め”、という場合...“クォークを・・・単独では・・・取り出すこと

が出来ない”...という、物理現象のことを言います。

  先ほども言いましたが、クォーク“色荷”(しきか= Color charge・・・量子色力学から導かれる荷量)を持ってい

て...“強い相互作用の力によって・・・全体として、光の混合が無色になるような・・・色荷”、の組み

合わせで、存在しているわけです。つまり...“その組み合わせでしか存在できず・・・単独のクォー

クとしては・・・取り出せない”...ということです」

“色荷”、ですかあ...」江里香が、口にコブシを当てた。

「そうです...」淡島が、口元を崩した。「もう少し、補足すると、ですねえ...

  量子色力学/QCD( quantum chromodynamics/原子核の中ではたらく、“強い相互作用の力”を説明する理論)において

は...仮想的な色として......もしくはその補色(反赤、反青、反緑)定義されています。

  この“色荷”というのは、“光の3原色の性質”との連想によるものですが...そもそも、量子世界

のことであり...現実の“光の3原色の法則”とは、無関係なのです...」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。「ともかく...クォークは、“分離した形では・・・取り出せ

ない”、ということですね?」

「そういうことです、」

                 

「ふーむ...」高杉が、脚を組み上げて、呟(つぶや)いた。「ともかく、“プレオン・モデル”では...

  プレオンは、クォークレプトンの中に、閉じ込められているので...“質量は・・・閉じ込めのサイ

ズに・・・反比例する”...という“閉じ込め理論”が...クォークレプトンにも当てはまる、というこ

とのようですねえ。

  クォークレプトンは、もちろん陽子よりもずっと小さいわけです。したがって、プレオンから成るクォ

ークは...クォークから成る陽子よりも...ずっと大きな質量をもつ、ということになります。つまり、

反比例するのですから、そういうことになりますねえ。

  しかし、これでは...陽子が、その構成要素/クォークよりも軽いどころか...個々構成要

素/プレオンよりも...軽いことになってしまいます...ふーむ...?」

「はい...?」江里香も、顔を傾げた。「どうして...こんなことに、なるのかしら?」

「うーむ...」高杉が、大きく首をひねった。「“質量は・・・閉じ込めのサイズに・・・反比例する”...と

いうのが...つまり、ネックになります...」

「あまり...」江里香が、薄氷を踏むように言った。「深く考えなくて...いいのでは?」

「ハッハハ...」淡島が、首を振って笑った。「ま、“参考文献”では、詳しく説明していませんが...」

「まともに、考えることなのかしら...?」江里香が、重ねて言った。

「ともかく...」高杉が、口を押さえた。「“参考文献”では...こう言っています...

  この問題の解決は...不可能に思えるかもしれない。が、“ボーズ粒子”に関する類似の問題は、

何とか回避されている、ということです。飛躍していて、よく分りませんが、それを見てみましょう。

論物理学では、スキップして考えることも必要です...」

「はい...」江里香が、うなづいた。

                   


「ええと...」高杉が言った。「いいですか...

  これは、例えば...クォーク反クォークから...パイ中間子と呼ばれる、“ボーズ粒子”構成

きるわけですが...“閉じ込めに関する問題”が、ここでも生じているように、思えるということです。

  これだけでは、何のことか分かりませんが...1961年当時CERN (欧州合同原子核研究機構にいた

ゴールドストーン(Jeffrey Goldstone)概略を述べたアイディアを用いることによって...基本理論に存

在する対称性によって、この難問解決できるのだそうです...」

  アンが、むっつりとした顔で、赤毛を首筋に流した。

「ともかく...」高杉が続けた。「これが、いわゆる...

   【南部・ゴールドストーン定理】、と呼ばれるものだそうです。この“南部”というのは、シカゴ大学

/名誉教授南部陽一郎氏(2008年に、小林誠氏・益川敏英氏と共に、ノーベル物理学賞を同時受賞)の名前に由来

します。南部・教授提唱した...“対称性の・・・自発的な破れ”、から導かれたもので...この

名前があるわけです...」

「うーん...」江里香が、頭を大きく傾げた。「...はい...」

「確かに...」高杉が、大きくため息をついた。「論理の飛躍がありますねえ...

  ともかく、そういうわけで...パイ中間子軽いことは、驚くことではなかったようです。ま、“参考

文献”では、これ以上の説明はないので、これで容赦願います...それから、このアプローチは、

“ボーズ粒子”にのみ適用できるもので、クォークレプトンなどの“フェルミ粒子”には、適用できな

のだそうです。ま、これも、聞き流しておいて下さい...」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

 

「ええ...」高杉が、自分のモニターに目を落とした。「しかし...

  1979年...オランダ/ユトレヒト大学トホーフト(Gerard `t Hooft)は、“フェルミ粒子”適応できる

アプローチを、考案したとのことです。このアイディアが、実在粒子実証されるかどうかは不明

そうですが...少なくとも、当初考えられていたほどには...これは、“厄介な問題ではない”ことを、

示したのだそうです」

「うーん...」アンが口を開き、赤毛を揺らした。「“参考文献”では...

  この厄介な...高度専門的な問題を...スキップしているわけですね。それを説明していたら、

際限がなくなってしまうのでしょう、」

「仕方ないですね...」淡島が言った。「理解できないものは、熟成を待つしかありません...」

  アンが、科学者らしくうなづいた。

                  
 

「ええと...」高杉が言った。「ともかく、話を進めましょう...

  これまで、“プレオン・モデル”を考察してきましたが...これがクォークレプトンの、“世代問題”

解明の、唯一の方法ではない、ということです。他の有力候補1つに...あの有名な、【超弦理

論/超ひも理論】があるわけです」

「あ...」江里香が、明るい微笑を浮かべた。「ソレ...聞いたことがありますわ!」

「うむ...

  この、【超弦理論/超ひも理論】というのは...物質究極構成要素は、素粒子/微小粒子

ではなく...“振動する・・・極めて小さな弦”...ということを、提唱していています。

  例えるなら...【標準・モデル】各素粒子相当するものは...“異なる音を奏でる・・・極め

て小さな弦/超弦”であり...物理空間は...“大宇宙の交響曲を演奏する・・・超弦のオーケ

ストラとみなせる、というものです。(/・・・“超弦”の超は、超対称性に由来するそうです・・・)

「ええ...」淡島が、手を開いた。「この...

  “超弦”というのは...実はクォークレプトンよりも...“はるかに・・・サイズの小さいもの”

なのです。したがって、プレオン“超弦”とは...その意味において、共存可能なのです...」

「ふーむ...」高杉が、ゆっくりとうなづいた。「ええと...つまり...

  “超弦”というものが、仮に存在するなら...クォークレプトン構成するのではなくて...それ

らを構成している、“プレオンの構成要素しても・・・十分に成り立つ”、ということになりますか?」

「そういうことですね...」淡島が、うなづいた。「まあ...

  物質を構成する玉ねぎ構造が...どれだけあるのかは分かりませんが、そういうことです」

「ふーむ...」高杉が、椅子の背に上体をあずけた。

「あ...」淡島が、指を立てた。「それから...

  もう1つ...“プレオンを・・・通常の未発見粒子ではない”...とするアイディアが、2005年

ーストラリア/アデレード大学/ビルソン=トンプソン(Sundance Bilson - Thompson)によって、提唱されて

いるそうです」

「というと...?」

「ええ...」淡島が、モニターを眺めた。「“参考文献”では、これも、詳しい解説はありません...

  一言...プレオンを・・・時空のねじれた・・・組みひも”...として記述する方法だと言っていま

す。ええ...まだ、新しいモデルですが、“量子重力理論”【標準・モデル】に組み込む、1つ

能性を与えているそうです...物理学者たちは、このモデルの内容を精査している、とのことです」

「はい...」高杉が、うなづいた。


〔4〕 プレオン・モデル・・・実証への道        

                          


「ええ、二宮江里香です...」江里香が、両手を固く握り、頭を下げた。「お久しぶりです...

  しばらくの間に、季節がすっかり流れてしまいました。厳寒の頃から、もう初夏の季節です。ご迷惑

をおかけしました...」江里香が、もう一度頭を下げた。

 

「 さあ...」江里香が、初夏の陽光の射す窓の方を眺めた。「ここからは...

  “プレオン・モデル”が...既存【標準・モデル】に変わりうるものなのか、ということですね...

“プレオン・モデル・・・実証への道”ということで、話を進めてまいります」

「はい...」高杉が言った。「ええ...途中途切れてしまい、ご迷惑をおかけしました...

  さて...さっそく、話しに入りますが...物理学実験科学です。理論がどんなに美しく、整合性

が取れていても、眼前リアリティー世界と付き合わせて、現場正しいことが確認されなければ、

空理空論ということで、1文の価値もありません...

  くり返しますが、最終的実験結果と合わなければ、“それは真理ではなく・・・間違っている”...

ということなのです。そこが芸術などとは、本質的に違うところです。サポートするのは、人間精神

感性ではなく、厳格数学的真理だということです」

「はい...」江里香が、うなづいた。

数学と...」高杉が言った。「芸術/人間的感性は...

  “どちらが優れている”...というものではありません。しかし、しいて言えば、感性の方がより

で、高尚なものかも知れません。しかし数学は、すべての土台/骨格となるような、基礎構造なの

です。つまり、“どちらが優れている”...というものではないのです」

「はい!」江里香が、ゆっくりとうなづいた。

 

「さて...」高杉が、何気にスクリーン・ボードを眺めた。「ここで...

  “プレオン・モデル”既存モデルにぶつけ...その正しさ/優位性実証していくためには、何を

しなければならないのか?実験的に、どんなことを証明していけばいいのか?

   【標準・モデル】では、プレオン導入することなく、これまで【量子力学】や、宇宙論でのクォーク

レプトンボーズ粒子を、うまく説明してきているわけですねえ、」

「つまり...」江里香が言った。「必要ないと?」

「ま、そうですね...

  しかし、そうは言っても...その必要性があって、“プレオン・モデル”が考案されて来たわけです。

つまり、我々は、何をしなければならないのかというと、【標準・モデル】予言の、“わずかなズレ

/現代物理学のわずかな亀裂”を...探すということです」

「はい...」

「ともかく...

  これまで、広く承認されている【標準・モデル】が、やはり当面重要な標的になります。ここを突

き崩さなくては、新理論は受け入れられません。

  うーむ...とりあえず、2つの...照準/可能性が、俎上(そじょう: まな板の上)に上っているようです」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

<標準モデルを突き崩す・・・2つのターゲット >      

                    


「ええと...」高杉が、スクリーン・ボードを眺めた。「俎上に上っている、ターゲット1つは...

   “素粒子のサイズの問題”です...【標準・モデル】では、クォークや、レプトン(/代表は電子)は、

“点状粒子”として、“大きさがゼロの点・・・内部構造をもたない存在”...として扱われている

わけです。

  そこで、クォークレプトンが...“大きさをもつ”、ということが確認されれば、【標準・モデル】

突き崩すことになります。プレオン存在するという、直接的な証明ではないですが...まあ、

力な証拠にはなります...」

「うーん...」江里香が、うなづいた。

「いいですか...」高杉が、作業テーブルの上に右ヒジを置いた。「陽子中性子は...

  3個クォークという構成粒子を持つわけであり、点状粒子ではないわけです。ちなみに、これら

粒子は、“半径約10-15 m”...ということが、測定によって分かっています。両方とも3個クォー

で構成されていますから、大きさもあまり変わらないのでょう。重さも、そうですね...

  一方...クォークレプトン大きさ/サイズの方は、点状粒子ですが...昔から注目の的です。

歴代の、世界最大加速器実験で、測定可能サイズを持つ証拠が...くり返し...探索されて来た

わけです。

  しかし、これまでは全ての実験で、“大きさゼロ”、あるいは、“陽子の大きさの・・・0.0002倍 ~

 0.001倍”、という仮定の...いずれとも、矛盾はしていないようです...」

「ふーん...」アンが、脚を組み上げた。「さすがに...【標準・モデル】、と言うわけですね」

「まあ...」高杉が、うなづいた。「そういうことです...

  アッサリと、引っかかるようなら、とうの昔に分かっていたでしょう。まあ、この条件でも、“ゼロ”か、

“極めて小さい”のかは、非常に重要なことです。これを見極めるには、より高性能加速器で、より

精密測定を、する必要があるわけですね」

「つまり...」アンが言った。「それが...

  CERN (欧州合同原子核研究機構LHC (Large Hadron Collider/大型ハドロン衝突型加速器に、期待されて

いるわけですね?」

「そうです...

  すでに、膨大なデータ蓄積があります。また、LHC改修工事後の、エネルギーの向上にも

するところが大きいですね。まあ、これから、面白くなりそうですねえ、」

「はい、」アンが、うなづいた。

 

「さて...」高杉が、モニターを見た。「もう1つターゲット...

  もう1つの...可能性の方ですが...」

「ええと...」アンが言った。「内部構造があることを実証する、もう1つ方法ですね...?」

「そうです...」高杉が言った。「俎上に上っている、もう1つの方です...

  いいですか...“基本粒子・・・少なくともレプトン” に...内部構造があることを実証するもう1つ

方法は、互いに密接に関係するスピンと、磁気モーメント(磁気能率/・・・磁石の強さを表す量。ベクトルで表現)

を調べることが...提唱されているそうです」

  アンが、頭を反対側に振り、説明を促した。

「うーむ...」高杉が言った。「まあ...

  厳密さに目をつむれば...電子自転するとみなすことができます。物理学者はその性質を、

スピン量子数として、定量化しているわけです。電子は、いわゆる“フェルミ粒子”代表格で、他

基本的“フェルミ粒子”と同じく、“スピン・1/2”、を持ちます。

  また、電子“電荷・-1”も持っているので...スピン電荷から...磁気モーメントが得られま

す。つまり...“スピンと電荷の・・・組み合わせ”が、“電子を・・・N極とS極をもつ・・・棒磁石”のよう

にするわけです...いいですか?」

「はい...」アンが、眼鏡の真ん中を押した。

レプトンが...」高杉が言った。「つまり...電子ミュー粒子が...

  “スピン・1/2”を持つ、点状粒子だとすると...その磁気モーメントは、ある“特定の値”になる、

のだそうです。それゆえに、電子ミュー粒子が...“理論予測値”“測定値”とで...異なる磁気

モーメントが得られた場合...それは、点状粒子ではない、ことが予想されます。

  点状粒子でないということは...複数プレオンで合成される複合粒子であることを...強く示

していることになるわけです」

「はい...」アンが顔を傾け、赤毛を揺らした。

 

「実は...

  物理学者は以前から、電子ミュー粒子磁気モーメントが、点状粒子の場合の“理論予測値”

から、“若干・・・ズレている”ことを承知しています。しかし、この“ズレ”は、【標準・モデル】枠内

説明のできるものでした。つまり、複合粒子可能性プレオンとは、無関係のものだと分かってい

ます」

「一応...」アンが言った。「それは、どういうものかしら?」

「ええと...」高杉が、モニターをスクロールさせた。「ああ、ここです...

  ええ...電子ミュー粒子というのは、現れては消える・・・仮想粒子からなる雲”...に取り囲

まれている様ですねえ...そして、この“雲”に、大きさがあるために...電子ミュー粒子磁気

モーメントがほんのわずか、“1/1000程度・・・ズレる”...という事のようですねえ、」

「うーん...」アンが言った。「その...

  レプトンを取り囲む...“現れては消える・・・仮想粒子からなる雲”...というのは、何かしら?」

「さあ...」高杉が、頭をひねった。「ここまでしか、調べてありません...

  “点状粒子を取り囲む雲”が、ではなく、大きさを持つというのは分かります。が、“現れては消え

る”、というのはどういうことでしょうか。まだ、謎は多いということですか...まあ、次の課題としてお

きましょう」

「うーん...」アンが、アゴに手を当てた。「そうですね、」

「ちなみに...

  近く、米国立/フェルミ加速器研究所(/シカゴ近郊バタヴィア)で行われる、“ミュー粒子 g-2 実験”

は、これまでの4倍以上精度で、磁気モーメント測定するそうです...そうですね、今頃は、もう

実験は終わっているのでしょうか?」

  高杉が、淡島・准教授の方を見た。

「さて...」淡島・准教授が言った。「後で、調べて見ましょう」

「そうですね」

「お願いします、」江里香が言った。

<プレオン関与の事象を・・・膨大な加速器実験データから捜索 >  

                    


「ええ...」淡島・准教授が言った。「物理学者は、もう一方で...

  プレオン関与するかも知れない現象が...これまでの過去の加速器実験データ記録され

ていないかを、丹念に捜索しています。そういう意味では、蓄積されてきたデータは、まさに宝の山

です」

「はい...」江里香が、こぶしを胸に当てた。

「仮に...」淡島・准教授が言った。「プレオン実在するとして...

  かつ、ハラリシュッペの言うように...“第2世代”“第3世代”粒子というのは...“第1世

代の・・・励起状態である場合...“特定の崩壊パターン”が起こる...と期待されています...」

「その条件だとしたら...」江里香が、言った。「それが、予測できるというわけですね...

  そして、その“崩壊パターン”が...過去のデータ蓄積の中から、見つかるかも知れない、とい

うことですね?」

「そういうことですね...」淡島・准教授が、深くうなづいた。「いいですか...

  その1つは...“ミュー粒子が・・・電子と光子に・・・崩壊するパターン”です。実は、この“特殊

な崩壊パターン”は...“まだ1度も・・・観測されたことがない”、と言います。もし、起こるとして

も、その確率はおよそ...1/1000億...もない、ということです。まあ、探しがいがありますね、」

「うーん...」アンが言った。「まだ、見つかっていないわけですね?」

「そうです...

  これまでに行われた...直接測定・実験/結果は...クォークレプトンが、“スピン・1/2”を持

点状粒子であるという...【標準・モデル】仮定と、矛盾はないようですねえ。

  まあ...クォークレプトン“世代”という問題が...未発見の物理学存在示唆すると考え

ている人々にとっては...過去数十年間というものは、歯がゆい時代だったでしょう。

  しかし、CERN (欧州合同原子核研究機構LHC (Large Hadron Collider/大型ハドロン衝突型加速器でのヒッ

グス粒子の発見もあり...ようやく素粒子物理学が、新たな胎動を始めたようですね」

「はい...」アンが、うなづいた。

 

「ええ...」淡島・准教授が、自分のモニターに目を落とした。「ちなみに...

  2011年に...LHC 超高速陽子どうしを衝突させ...7Tev(/1Tev=1兆電子ボルト)衝突エ

ネルギーを実現しました。この値は、それまでの最高記録(/フェルミ研究所の加速器テパトロンが、四半世紀以上

にわたって最高記録を保持)3.5倍に相当します。LHC 2011年1年間だけで...ええと、テバトロ

28年分の蓄積データ量の...約半分の量を生み出しているようですね」

「ふーん...」アンが、赤毛を前の方で絞った。「コンピューター・テクノロジー進化も、大きいのか

しら?」

「まあ、その通りでしょう...

  LHC 衝突エネルギーは...2012年には、7Tevから8Tevに上がりました。そして、今回の、

修理・改良後2014年末 ~ 2015年初頭再稼働時には...13Tev ~ 14Tevでの、陽子衝

突実験が始まります。実験ペースも、これまでよりも、相当に速くなるようですねえ」

「はい...」アンが、うなづいた。「2014年末の、再稼働が楽しみですわ」

「すぐでしょう...」淡島・准教授が、微笑を漂わせた。「しかし、成果が上がるのはその先ですね、」

  江里香が、うなづいた。

「ええ...」淡島・准教授が言った。「話を戻しますが...

  2012年の...7Tevから8Tevへの引き上げですが...プレオン探索においては、これは大き

な意味のあるものと言われます。衝突エネルギー微増ともいえるものですが、最高エネルギー

起こる衝突回数は、5倍に増えたそうです。

  最高エネルギーでの衝突は、“最小スケール”探索を可能にします。プレオン探索するには、

これが必要なるわけです。そして、2014年末 ~ 2015年初頭再稼働では、さらにアップグレード

しているわけです...」

「はい...」アンが、満面で微笑した。「驚異的な...アップグレードになるわけですね...

  何が出てくるのでしょうか?」

「そうですねえ...

  場所は変わりますが...フェルミ研究所(アメリカ/シカゴ近郊バタヴィア)でも...設備抜本的リニュー

アルが行われていて、プレオン直接的・証拠をつかむことが、期待されている様子です。あ、テバ

トロンの方は、2011年運転を終了していますね。フェルミ研究所は、この分野ではもう、高エネル

ギーに挑むことはないようです。

  その代わりに...“ビーム強度のフロンティア”開拓し...“まれな現象を・・・これまでにない精

度で調べている”、ということです。この分野で...“2つの・・・プレオン探索に関係する実験”、ある

ようです」

「はい...」江里香が、唇に手を当てた。

「ええと...」淡島・准教授が、モニターを眺めた。「うーむ...

  “ミュー粒子の・・・磁気モーメントの測定”と...“ミュー粒子が・・・電子と光子に崩壊する

パターンの探索”...ということですね。先ほど紹介していますが...レプトン“第2世代”/ミュ

ー粒子ターゲットにしているようです」

「ええと...」江里香が言った。「レプトン“第1世代”電子で、“第2世代”ミュー粒子で、“第3

世代”が...タウ粒子だったかしら?」

「そうです...」淡島・准教授が、顔を和ませた。「そして...

  電子・ニュートリノミュー・ニュートリノタウ・ニュートリノが...それぞれの、“世代”となっ

ています」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

 

「うーむ...」高杉が、額を撫で上げた。「そうですねえ...

  クォークレプトンの、内部構造探索将来展望は、非常に明るくなってきたようです。フェルミ研

究所では...“ミュー粒子の磁気モーメントや・・・崩壊パターン”、を探索しているようですが、

“参考文献”著者などは...“クォークやレプトンが・・・点状粒子でない証拠”、を探索している

ようですねえ」

「そうですねえ...」淡島・准教授が、うなづいた。

「それから...」高杉が言った。「“第4世代”となる...

  クォークレプトン探索しているようです。こんなものが、はたして、あるのでしょうか?また、力を

媒介する粒子/W粒子・Z粒子が、“世代をもつ証拠”探索しているようですねえ。まあ、あるかな

いか...クォーク質量を、正確に予言したようにはいかないでしょう」

「いずれにしても...」淡島・准教授が言った。「今後、数年間で...

  素粒子物理学の世界は...“超ミクロの世界に・・・新たに踏み出す...と言われています」

「うーむ...」高杉が、口に手を当てた。「本当に、そうなるようですね...

  宇宙を構成する...“暗黒物質”や、“暗黒エネルギー”などの解明もありますし...“重力波

の補足”も近そうです。まあ、テクノロジーの面での...“量子情報科学”進展期待できます。

これは、実験科学天文学への応用期待できますね。“量子もつれ”多方面への広がりも、見

えてくるのでしょう...」

「はい...」淡島・准教授が、微笑を漂わせた。「躍動的な、面白い時代になってきました...」

 

警告 /文明構造の今後の展望は・・・>     
  

           

「しかし...」高杉が、口元を引き締めた。「いよいよ...

  “文明構造的な・・・巨大危機”...“21世紀・大艱難” (だいかんなん/・・・巨大な困難に出会って、苦しみ悩

むこと)に...突入しています。“巨大危機が・・・輻輳して・・・大接近”...しています。

   世界のトップ・リーダーたちが...“20世紀の遺物/・・・市場経済 + 戦争ゴッコに・・・固

執している姿” も...まさに、“ホモ・サピエンス文明の・・・実像と限界”...を象徴しているのか

も知れません。

  レイチェル・カーソン『沈黙の春』 (1962年出版)以来...ローマ・クラブ『成長の限界』  (1972

年に発表)...COP3『京都議定書』 (1997年)と...ことごとくが...“経済原理のダイナミズム

と、物質的欲望に凌駕され・・・地球環境破壊の方向へ・・・舵を切ってきた”...わけですね

え、」

「つまり、」江里香が言った。「“知性”よりも、“欲望の原理”勝った...ということでしょうか?」

「今のところ...」高杉が言った。「そのように、見えますねえ...

  “膨大な野生のベクトル/食物連鎖の相克/原初の欲望”...が“知性”凌駕(りょうが)して

いた、ということでしょう」

「はい...」

“生態系危機の警告要因” は...」高杉が言った。「他にも、様々に表れていたわけです...

  “地球温暖化/海洋の酸性化”...“生態系の絶滅危惧種の増加”...“南極の棚氷の崩落”

“山岳地帯での氷河の融解と雨”...“ツンドラ地帯での永久凍土の融解とメタンの大放出”...

  また、“感染症パンでミック”等々...他にも様々ありますが...今年に入ってからは、ハワイ島

マウナロア観測所で...5月9日に、CO 濃度が400ppm/・・・大気中濃度が0.04% に突入”

しました。

  しかし、それでもなお...世界のトップ・リーダーたちは、“経済競争”“化石燃料の開発”や、

“北極航路の開発”“領土紛争”、“戦争ゴッコ” にいそしんでするわけです...これでは、“21

世紀・大艱難” は、超えられません。“破局点” に落下します...」

「あ、」江里香が、うなづいた。「はい...」

「しかし...」高杉が言った。「早晩...

  弱者から...飢餓・感染症・気候変動などの相乗効果で...“人口が激減していく風景” を見る

ことになります。これが...“暗黙の了承のグローバル世界”、ということになります...」 

「本当に...」江里香が、言った。「こんなことに、なるのでしょうか?」

「まあ、確実ですねえ。このままでは、“素直に受け入れる” しかないでしょう」

「はい...」

 

  高杉が、リモコンを拾い、スクリーン・ボードの画像を切り替えた。古生代/ペルム紀の、想像風景

を表示した。

地球生命圏は、」高杉が言った。「地質年代記憶として...

  地殻表層/地層中に...少なくとも5回の...“種の大量絶滅” が刻まれています。最大のもの

は、古生代/ペルム紀・末期(2億4800万年前)絶滅です。新しいのは、中生代/白亜紀・末期(6500万

年前)恐竜が絶滅した時ですね。いずれも、生態系が壊滅し、地表の風景が一変 しています...」

「そんなことが...」江里香が、言った。「実際に、何度も、起こっているわけですね...?」

「そうです...」高杉が言った。「その痕跡が、地質年代となっているわけです...」

化石など、としてですね?」

「そうです...

  しかし、我々/ホモ・サピエンス文明の痕跡となると、巨大なものになるでしょう。巨大建造物

コンクリートセラミックスなどが、大量に積層します。100万年後に、他の星域から異星人が、

発掘調査に来るほどの、巨大文明遺跡になりますねえ...はは...」

「はい...」江里香が、口に手を当てた。「宇宙の中でも...巨大な文明なわけですね?」

「まあ、そうでしょう...

  我々存続できれば...我々他の星域へ出て行き...そうした、過去宇宙文明の痕跡を、

発掘することになるでしょう...」

「ふーん...」江里香が、大きくため息をついた。

 

「ま...」高杉が、首を振った。「ホモ・サピエンス文明が...

  地球生命圏“リセット”することになったとしても...これは、生命圏内部要因によるもの、と

いうことでしょう。“外適応の巨大な脳を与えられたわけですが...“野生/食物連鎖の喧噪”

し...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”を、本格化することが出来なかった、“準・知的生

命体”という位置づけでしょう」

「もし...」江里香が、両手を握った。「地球生命圏が、“リセット” になったら、ということですね?」

「そうです...」高杉が、宙を見た。「まあ、現状ではその可能性高いわけです...

  “6度目の・・・種の大量絶滅” の後...数千年後か、数万年後か、数十万年後に...地球生

命圏の・・・広大な空きニッチ(カラッポになった生態的地位・・・ここに、新しい生物種が爆発的に拡大して行くことになる)

に...新しい生物種が芽吹き...やがて、凶暴に...繁茂・拡大して行きます」

「これまでの、」アンが言った。「“種の大量絶滅” では、そうだったということですね...」

「まあ...」高杉が言った。「“核戦争”などでは、様相は異なるでしょう...

  が、再び、太陽系/第3惑星は、水の惑星として、暗黒の宇宙で輝き始めるでしょう。その時に、

何らかの形で...ホモ・サピエンス欠片(かけら)が...新しい生態系の息吹の中に、移植されてい

るかも知れません。

  あるいは...“36億年の彼”/地球・ガイアの人格の中に...記憶された何かが、引き継がれ

て行く、ということになるのでしょうか。

  ホモ・サピエンス文明は、“36億年の彼”到達できなかったということになりますが、次の“新人

類”は、容易到達できるのかも知れません。それが、“生命潮流の原型”だとしたら...ですが、」

 

「それは、高杉さん...」アンが、眼鏡の真ん中を押した。「哲学者考え方ですわ...

  〔ホモ・サピエンス/世界市民〕は...“種の大量絶滅” を...アッサリ受け入れると...

したわけではありませんわ。

  ここは、“誰かさんのように・・・諦めの早い哲学者”ではなく...政治家や、宗教的指導者や、

中世ルネッサンスを牽引した...偉大な芸術家たちの出番かも知れません。私は、それを信じてい

ますわ」

「はっはっは...」高杉が、声をたてて笑った。「もちろん!...私も、1個生命体です...

  “生きる・・・存続する”という、“方向性+力・・・強大なベクトル” のかかった存在です。それを、

裏切るつもりはありませんがね...」

「ほほ...」アンが、口に手を添えた。「それなら...安心しましたわ、」

「まあ...」高杉が、髪をなで上げた。「我々は...

   〔人間の巣/未来型都市/千年都市〕提唱し...〔極楽浄土・・・パラダイス〕提示してい

ます。他にも方法様々にあるでしょうが、あとは、“1人1人が・・・真剣に考える”...ということ

でしょうね。ただ、もう、あまり時間がありません...」

「そうですね...」アンが、足を組み上げ、ゆっくりと腕組みをした。

〔人間の巣〕展開しても...」高杉が言った。「“21世紀・大艱難” を、軟着陸させるのは、容易

ではないでしょう...いずれにしても、人口減少絶対条件になります...」

「そうですね...」アンが、肩を傾げた。「巨大慣性力が動いていますわ...

  簡単には、復元しないでしょう...〔人間の巣〕/“万能型・防護力”で、環境適応して行くしか無

いのかも知れません」

「はい!」江里香が、両手を絞った。「〔人間の巣〕は、ますます重要になりそうです,...

  さあ、ええと...今回の、プレオン考察は、これで終わります!長い間、有難うございました!」

 

     wpe5C.jpg (107387 バイト)