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   21世紀初頭/宇宙論の新展開

 
             
 

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                担当: 高杉 光一   折原 マチコ

  INDEX        wpe89.jpg (15483 バイト)           wpeA.jpg (42909 バイト)                        

プロローグ   2001. 4. 2
No.1

 全体的状況

     <1> 標準ビッグバン理論とインフレーション理論

     <2> 宇宙の加速膨張の確認と、重力波によるビッグバンの観測 

      <3> 重力波とは

2001. 4. 2
No.2   重力波観測

     <4>重力波望遠鏡

     <5>重力波源

      <6>重力波の補足へ向って



2001. 4.24

2001. 4.24

2001. 5.10

No.3

 クインテッセンス   

       <7> クインテッセンスの概念



2001. 5.27

  

 

参考文献 

       日経サイエンス/2001年4月号

             特集/宇宙論の新展開 (編集部)

                  宇宙論検証のカギを握る重力波観測

                                 (R.R.コールドウェル/M.カミオンコウスキー)

                  暗黒エネルギーが支配する宇宙

                                         (J.P.オストライカー/P.J.スタインハート)

                                                                etc.                                                       

 

プロローグ                                     

 

「マチコです。21世紀がスタートしたと思ったら、もう桜の季節になりました。

  ええ、今回は、“新世紀初頭における宇宙論の新展開”ということで、久しぶりに

宇宙論を検証してみます。宇宙論では、常に様々な新旧の理論がブースを並べてい

ます。したがって、論文によっては、かなり違う角度から理論を展開しているようで

す。また、あえて科学的常識を壊すような、意欲的な新理論もあるそうです...

  うーん...とにかく、部外者の野次馬根性で、ジャンジャン切り込んでいってみま

す。どうぞ、ご期待ください...」

 

「ええと、高杉塾長...宇宙論では、何故たくさんの理論が平行してあるのでしょう

か?」マチコは、大型液晶スクリーンの脇に立って言った。

「うーむ...それは、宇宙論では、実験して確かめるということが不可能だからだ。こ

の宇宙全体を扱っているからね。例えば、銀河系というものを考えてみても、それを

実験室の中に持ち込むことはできない。太陽や星というような、強大な重力場におけ

る水素の核融合反応炉を考えてみても、我々には太陽質量を作り出すことはできな

いわけだ。可能なのは、“観測”と、過去のデータにもとずく理論的展開、そして素粒

子論などの基礎的な実験による検証だ。

  もっとも、ミクロ世界の素粒子の風景は、宇宙というマクロ世界の状況と非常によく

似ていると言われる。また、理論的に予測されている素粒子の発見は、理論を実証

し、補強するものとしては、大いに役立っている。しかし、ともかく...ビッグバンも、

巨大質量も、巨大な時空間も、我々には実験室で作ることができない。このことは、

分るだろう?」

「はい...でも、その中に居ますよね、私たちは、」

「うーむ...マチコにしては、鋭いことを言うな」

「そうかしら?」

「ま、確かに、その通りだ。言うまでもなく、々はこの宇宙の“参与者”であり、単な

る傍観者や観察者ではない。まあ、科学的な様々な宇宙論が展開されているが、こ

“参与者”である“人間の座標”というものが抜け落ちているのが、常に最大の問

題点とも言えるわけだな...しかし、この“人間”をとり入れると、必然的に、“人間原

理空間”というようなものになってしまう。そもそも、“人間原理”というのは、科学の領

域を越えるものなのだ...」

「うーん...」

「ま、それはそれとして置き、21世紀初頭の宇宙論を見ていくことにししようかね」

「はい」

 

 

 全体的状況             wpe89.jpg (15483 バイト)           

 

<1> 標準ビッグバン理論とインフレーション理論   

                                                   


「さて...今、宇宙論の中心にあるのは、“標準ビッグバン理論”だ。これは、相対性

理論から組み立てられていったもので、最新の素粒子理論や、その実験成果が組み

込まれている」

「はい」

「しかし、スンナリとは行かないのが、世の常、宇宙論の常だ...

  そこで、行き詰まった所で、宇宙が初期において滑るように膨張加速したという

“インフレーション理論”が組み込まれたわけだ。そして、これはうまく行った。いや、

非常にうまく行ったというべきだろう...

  いずれにしても、ともかくこれで、幾つかの問題が解決された。が、むろん、完全に

クリアしたわけではない。そこでそれ以後、インフレーション理論も様々な変形が考案

されいいく。が、しかし、まあ全体としては、“標準ビッグバン理論”と“インフレーショ

ン理論”は、完成度の高い宇宙論として、今後も21世紀の宇宙論をリードして行くこ

とになるようだ」

「うーん...では、何が問題なのでしょうか?」マチコは、大型スクリーンに表示され

ている、宇宙開闢のイメージ画像を眺めた。

「うむ。問題は、常にある...まあ、あえて言えば、完全な宇宙論などは、今のところ

不可能と考えた方がいい。その上で、可能な限り、真の姿を構築していく、というべき

だろうな。そして、まあ...インフレーション理論にも組み込まれているわけだが、

論は今、“変革期”にさしかかっていると言われる」

「ふーん、何故でしょうか?」

「それは、まず、この宇宙の総質量の問題から来ている...

  単純に言って...この宇宙の総質量が比較的小さく、ビッグバンのエネルギーが

大きい場合は、加速・膨張型宇宙になる。爆発エネルギーが勝っているわけだから

な...それから、総質量が大きく、ビッグバンの爆発エネルギーが小さい場合は、や

て総質量の引力が勝ち、宇宙は収縮して行き、減速・収縮型宇宙になる。そして、

そのちょうど中間のバランスの取れた所が、静的・平坦型宇宙というわけだ。つまり、

この3つのパターンがある。これは分るだろう?」

「はい」

                    wpeA.jpg (42909 バイト)     wpe89.jpg (15483 バイト)                                     

 

  マチコは、ミケを片手ですくい上げ、頭をなでた。ミケはするりとマチコの腕から抜け

出し、トン、と下に下りた。

  ミミちゃんの方は、高杉の隣の椅子の上に載っていた。そこでテーブルの上の端

末装置を使い、正面の大型液晶スクリーンを操作している。

「したがってだ、一般相対性理論によれば、この総質量によって、宇宙空間全体の曲

率も決まってくる...ここでは、重力は空間の極率によって表現されるからね。ニュ

ートン力学のように、加速ゼロの均衡の取れた静的な宇宙なら、この宇宙空間の極

率はゼロであり、平坦だということだ...」

「はい、」

「まあ、1998年の超新星の観測から、この宇宙は加速膨張型宇宙だということが分

ってきたようだがね。しかし、これまでも、加速型だ、減速型だ、平坦型だといってき

たから、どうかな...まあ、今度はそれなりの観測事実に基づいているようだが、」

「ふーん...この宇宙は、加速膨張型なの!」ミミちゃんが、椅子の上で言った。

「うむ。ともかく...見えている物質はどのぐらいあるのか、光としてあるエネルギー

の総はどのぐらいあるのか、さらに見えない“暗黒物質”はどのぐらいあると推定さ

れるのか...これによって、宇宙の総質量というものが推計されるわけだな。

  ところが、この問題は、そう単純ではなかった。理論や観測から推定される、いわ

ゆる見えない物質の総量は、桁違いに大きいことが分ってきた。この宇宙における

見えている物質の量などは、たかだか総質量の数%ではないかという推計値が出て

きた...」

「うーん...でも、どうして、そんなことが分かるのでしょうか?」マチコが聞いた。

「うむ...それはだな...例えば銀河系の回転運動などからも分る。この宇宙に

は、1億個とも言われるような膨大な数の銀河系があるが、それらが集まって局所銀

河群銀河団を形成している。そして、それらがさらに集まって、超銀河団を形成し

ているのだ」

「塾長、私たちの銀河系は?」ミミちゃんが聞いた。

「うむ。もちろん、我々の住む“天の川銀河系”も、こうした局所銀河群に属し、超銀河

団の1つに属している。

  さあ、こうした銀河系や銀河団だが...いわゆる真空容器の中で銀河系を回転し

ているのと、水が詰まったような液体の中で銀河系を回転しているのでは、銀河系の

回転の様子そのものが相当に違ってくる。ここは分るかね?」高杉は、ミミちゃんの

方を見た。

「うん!」

「うむ!では...この宇宙は、どっちなのかというとだ...どうも銀河回転の様子か

らは、水が詰まった液体の中のような振る舞いだというわけだ。そういう状況だと解

釈すると、色々とつじつまが合うわけだ...

  したがって、そこでこの宇宙を満たしている、大量の暗黒物質が予想されたわけ

だ。ところがだ...理論的に予想される暗黒物質の総量でも、まだ桁違いに不足す

ることがしだいに分ってきた。そこで、ついに、アインシュタインの相対性理論の宇宙

、つまり“宇宙常数”が引っ張り出されてきたわけだ。そして、この宇宙乗数という

のは、一口で言えば、真空のエネルギーと一致する...」

「うーん...」マチコが、スクリーンの脇で首をかしげた。「その真空のエネルギーと

いうのは、本当にあるのでしょうか?どんなものなのでしょうか?」

「うーむ...この真空のエネルギーというのはだ...いわゆる“場”というものが、

“仮想的な粒子対”が引き起こす、“量子ゆらぎ”のエネルギーを持つということなの

だ」

「“場”そのものが、エネルギーをもつということでしょうか?」

「うむ。そういうことだ。だから、宇宙が膨張していけば、“場”が増えるわけであり、そ

れだけこの宇宙のエネルギーも増えていく。ところが、この真空のエネルギーは、

発力であり斥力だから、宇宙膨張は益々加速していくわけだ」

「ふーん...難しいわねえ、」

「いいかね、そもそも、ビッグバンの爆発エネルギーというのは、この真空のエネルギ

ーの斥力なのだ」

「うーん、そうかあ...ビッグバンの爆発力は、斥力かあ...それで、どんどん加速

していくわけね」

「うむ...聞くところによれば、重力というものも、“引力”“斥力”“対”になってい

るという。ちょうど、電力のプラスとマイナスや、磁力のS極とN極のようにだ。したが

ってこの真空のエネルギーの増大は、重力に由来しているのだという」

「うーん...」

「まあ、これぐらいにしておこうか...あまり細かいことを言うと、話が混乱するから

ね。ただ、電力と磁力が異なるように、重力もまた異なる型の力だということだ。非常

弱い力だが、集積すれば莫大な力になりうる。ここが、他の力とは違うところだ。電

力や磁力のように互いに相殺してしまうのではなく、重力は蓄積されるということだ。

ちょうど、太陽や地球のように、巨大な質量が集まると、強大な引力が形成される。

あるいは、一般相対性理論から予想されるブラックホールや、銀河団のようなものも

形成されるわけだ」

「ふーん...そうかあ...それが重力の特徴なのね」

「しかし、勘違いされないように言っておくが、“重力波”というのは、そうした巨大な

引力のことではない。それはちょうど電磁波のような、“重力場のさざ波”だという事

だ。いってみれば、そうした種類の電波や光のようなものだということだ...」

「うーん...良く分からないわね」

「うーむ...まあ、それはこれから、くり返し説明していくことにしよう...

  ともかく、21世紀の宇宙論では、宇宙の背景放射のマイクロ波観測するように、

宇宙初期の重力波の観測がテーマになるという。この重力波だと、限りなく宇宙開闢

の直後まで遡れるということだ。つまり、重力波が最初に生まれたインフレーションま

で遡れるわけだ...」

「...」

「まあ、こんなことを言っているが、」高杉は、笑って腕組みをした。「正直なところ、言

っている私自身にも理解できない領域だ。しかし、私は第一線の研究者ではないか

らね。こうした宇宙論の最先端領域を、文化的に解釈していくのが、最初からの目的

だから...」

  マチコは、黙ってうなづいた。

「まあ、しかし、少しづつ核心に入っていくつもりだ」

「はい。期待しています」

 

                                 wpe89.jpg (15483 バイト)                      

「ええ...ここまでで、何か質問はあるかね?」

「はい...真空のエネルギーが、何で“宇宙常数”なのでしょうか、」

「うむ...それじゃあ、もう一度、この“宇宙常数”について説明しよう。

  アインシュタインは、この宇宙は動的ではなく、静的静かな宇宙だと考えたわけ

だ。膨張したり、脈動したりというようなダイナミックなものではなく、静かな穏やかな

世界と考えたわけだ。これは、それ以前のニュートン力学もそうだった。アインシュタ

インは、この宇宙を構成する枠組みの“時間”と“空間”にまで手をつけたが、宇宙が

静的なものだということにはこだわっていたようだ。

  つまり、“宇宙常数”とは、一般相対性理論において、静的で平坦な宇宙を表現す

るための道具だったわけだ。我々が今夜空を見上げても、この静的で平坦な空間と

いうのが最も人間的感覚になじみやすいだろう?」

「はい、」

「しかし、アインシュタインの努力も空しく、すぐに例の“宇宙の背景放射のマイクロ

波”が観測されて、宇宙は膨張していることが分った。今となっては常識となっている

が、宇宙はきわめて動的で、ダイナミックに変動していることが証明されたわけだ。ア

インシュタインは、この“宇宙常数”を導入したことを、生涯の大失敗といって悔しがっ

たそうだよ」

「ふーん...」

「ところがだ、すぐにまたこの“宇宙常数”が必要になった。別の理論物理学者が、

“真空”に“量子ゆらぎ”のエネルギーがあることを突き止めたわけだ。いわゆる“真

空のエネルギー”だな」

「うーん、アインシュタインさんは、何をやっていたのかしら、」

「まあ、エピソードとしては面白いところだね。いずれにしても、“宇宙常数”で表現さ

た、この宇宙の超真空空間とは...何かがギッシリと詰まっている状態だというこ

とになる...もっとも、こうした概念は昔からあって、その昔は真空中には“エーテ

ル”が詰まっていると考えていたらしい。まあ、非常に似た概念とはいえるわけだ」

「うーん、」

「くり返すが...最初のうちは、冷えたガス未発見の素粒子等からなる、“暗黒物

質”だけだと考えられていた。おそらく、見えている物質の数倍の量はあると推計し

てだ...しかし、その推計値でも、全く足りないことが次第に分ってきた。観測される

銀河系の運動風景とは、まだ相当にかけ離れていることが分ってきたわけだな...

  そこで、では何か、ということで、白羽の矢が立ったのが、宇宙空間そのものが持

真空のエネルギーだったということだ。そして、このエネルギーに求められた量と

は、この宇宙の全質量の実に70%にも達するものだった」

「70%ですか!」

「うむ」 

                                             

「さてと...ここで、もう一度おさらいをしておこう、」高杉は、脚を組みなおした。

「はい」

「いいかね...いわゆる、“力”というものは、現在この宇宙で観測されているのは4

種類ある...つまり、核力である“弱い相互作用の力”と、“強い相互作用の力”。

して、“電磁気力”と“重力”の4つだ。これらは様々な統一理論で統合がはかられて

いるが、現在はまだ4つ目の重力の統合が成功していない。それ以外の3つは、す

でに統合されているがね。

  この4つ目の重力を統合できるのは、理論物理学の方で研究が進んでいる“超弦

理論”や、その発展型の“M理論”(参考:ジャンプなどだといわれている。しかし、まだ、

もう少し時間がかかるようだな、」

  マチコは、黙ってうなづいた。

「そこで...例えば...うーむ...“電磁気力”というものを眺めてみようか...

  これは、いわゆる、“電力”“磁力”の統合された力だ。この2つの力を統合した

のは、マックスウェルだ。この“電力”には、プラスとマイナスがあり、これらは互いに

引き付けあう。しかし、同種同士では反発する。“磁力”にもS極とN極があり、これら

も互いに引き付けあうが、同種同士では反発しあう。それから、直感的にはちょっと

分りにくいが、強弱の核力にも、同様のものがある」

「あの、」マチコが、低く手を上げた。「その強弱の核力というのは?」

「ああ、これは、“弱い相互作用の力”と、“強い相互作用の力”だ。弱い方は、いわ

ゆる核兵器などで使われている“核エネルギー”だ。太陽が燃えているのも、この核

融合のエネルギーだ。

  一方、“強い相互作用の力”は、いわゆる“量子色力学”の方だ。“クォーク”という

言葉を聞いたことがあるだろう。アップクォーク、ダウンクォークとか...ボトムクォー

ク、トップクォークとか...こっちの方の力学のことだ。専門家ではないので、詳しい

ニュアンスは分らないが、いわゆる“量子力学”に対し、“量子色力学”と言っている

のかな。ともかく、“量子色力学”の方は、どれもこれも個性的な面白い名前を使って

いる」

「ふーん」

「そこでだ、話を戻すが...4つ目の力、“重力”はどうか...通常、我々が知ってい

る重力は、引力だけだろう。例えば、地球の引力であり、惑星探査機が火星や木星

フライバイしていく時にもらうエネルギーも、引力そのものだ。ところが、この重力と

いうものにも、“対”があるらしい。つまり、重力にも引力反発力の2つの側面があ

るというわけだな。この反発力のことを、“斥力”という言葉を当てて表現している論

文もある。まあ、私としては、この“斥力”という言葉の方が好きだがね。最初に、こ

の“斥力”という言葉の方になじんでしまったからかも知れんがね

「うーん、難しくなってきたわねえ...“斥力”かあ...反発力の方が分りやすいんだ

ど、

「うむ...まあ、いずれにしても、簡単に言えば、この真空のエネルギーというのは、

引力とは対極にある斥力だという事だ。そしてこの斥力とは、電力や磁力にもあるよ

うに、同種同士の反発しあう力のことだ」

「はい」

「そしてビッグバンを引き起こした膨大なエネルギーとは、この斥力だといわれてい

る。まあ、宇宙論は、理論によって言っていることにズレがあるわけだが、このあたり

はビッグバン理論の共通認識だと思う。まあ、なんでもありというのが宇宙論だが

ね、」

「うーん...」

「さあ、話を先に進めよう」

<2> 宇宙の加速膨張の確認と  wpeA.jpg (42909 バイト)         

                   重力波によるビッグバンの観測 

 

「ええと...1998年の超新星の観測による“加速膨張の発見”は、このホームペー

ジでもすでに触れている事項かもしれません。が、ここで改めて、少し確認しておきま

す。というのは、この加速膨張の発見により、今後の宇宙論に新たな方向性が創出

されて行くからです。

  ちなみにこの観測は、2つのグループが、遠くにある特殊な超新星を独自に観測

し、宇宙膨張率の変化を検出したものです。両グループとも、宇宙は加速的に膨張

ていると結論を出したわけで、信頼性はかなり高いようです」

「うーん...それで、どういうことが分るのでしょうか?」

「まあ、結論から言えば、“暗黒エネルギー”の存在は、いよいよ否定しがたいものに

なったということだ。つまり、“暗黒エネルギー”とは、先ほどから言っている“真空の

エネルギー”であり、重力と対の関係にある“反発力/斥力”のことだ...」

「うーん、暗黒物質かあ...」

「あ!コラ、マチコ、それは違うぞ!」

「なに?」マチコは、首をかしげた。

「いいか...ここで言っている、“暗黒物質”“暗黒エネルギー”とは全く別のもだ。

うーむ...相対性理論では、“物質”と“エネルギー”は同一だなどと言われても困る

が、ここではそれは関係ないと思ってもらいたい。つまり、これは言葉の定義の違い

なのだ。

  つまり“暗黒エネルギー”は“真空のエネルギー”のことだが、“暗黒物質”は、こ

宇宙における“我々には見えない物質”を指している。したがって、“暗黒物質”は

重力も真空のようにマイナスの斥力ではなく、プラスの引力が働いている。分るな?

ここは、混乱してもらっては困る所だ」

「はい。つまり、暗黒物質とは、暗黒星雲なんかのことを指すと考えればいいわけで

すね?」

「うむ。それも含まれる。そして、素粒子論で予測されているが、未だに発見されて

いない素粒子なども含まれる。しかし、こうしたものと真空のエネルギーとは、全く異

質なものなのだ。さあ、脱線ばかりしていないで、話を進めよう 」

  マチコはうなづいて、ミミちゃんの操作している大型スクリーンの方を見た。

「ええと...ともかく...この重力と、それと対をなす真空のエネルギーの斥力は、

宇宙初期のインフレーションの折に、“仮想粒子”“対”が引き離されて出来たもの

といわれている。つまり、本来ないものが、インフレーションの滑るような急激な大膨

張で、仮想粒子対が割れ、引き離され、重力と斥力が顕在化したということかな...

いずれにしても、第一線の研究者以外には分りにくい領域だ...それに、この辺り

のことになると、みんな色々な事を言うらしいし...うーむ、いずれにしても、後でもう

少し詳しく検証することになると思います」

「はい」

「ええ...したがってここでは、“重力波”の発生は、ビッグバンの10のマイナス38

乗秒後のインフレーションにまで遡るということを、覚えておいて下さい。そして、この

時の“重力波”を観測することによって、宇宙開闢の、極限に近い瞬間にまで入り込

むことができるわけです。」

「そんなものを、どうやって観測するのでしょうか?」

「これは、宇宙背景放射のマイクロ波のように、全宇宙にその時の残照が残っている

と考えられている。これも、詳しくは後でもう一度検証することにしよう」

「あの、塾長...」マチコが言った。「その“重力波”というものについて、もう少し詳し

く知りたいんですが...具体的に、分りやすく、」

「うむ、分った。それじゃあ、次は、重力波について少し話そう。その前に、小休止だ」

「はい。ええと、ミミちゃん、お願いね」 マチコは、脇に来ていたミミちゃんの耳に触れ

た。

「うん!コーヒーでいいかしら?」

「ああ」高杉が答えた。

                                          

<3> 重力波とは                 wpe89.jpg (15483 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)  

 

「さて、ミミ君は、“電磁波”という言葉は、聞いたことがあるだろう?」

「うん!」

「この“電磁波”というのは、波長の長い電波から、波長の短いX線まで非常に広い

帯域がある。そして、その中には可視光線(光として肉眼で感じる電磁波)も含まれ、その可視

光線の両側には赤外線紫外線もある」

「うん...」

「この電磁波の構造はどうなっているかというと、“電場”“磁場”、つまり“電磁場”

の乱れが移動していくものだ。これと同じように、“重力場”の乱れが移動していくの

が、いわゆる“重力波”だ。したがって、重力波も光の様な“場の乱れ”さざ波だと

いうことだ。つまり、重力場のさざ波、重力の光のようなものだな、」

「それじゃあ、重力子というのは?」ミミちゃんが聞いた。

「それは、量子力学でいう、波の性質と粒子の性質の、相補的な二面性からくるもの

だ。つまり、電磁波には光子(フォトン)という粒子の側面があるように、重力波には重力

(グラビトン)という粒子が対応している。ちなみに、このグラビトンという素粒子は、実

際にはまだ観測されていない」

「うん!」

 

「はーい、ミミちゃん、ご苦労様!」マチコが言った。「それでは、この章は、これで終

わります。ええ...今は桜が満開なので、次回は桜の花が散ってからになると思い

ます。どうぞ、ご期待ください!」

 

              wpe89.jpg (15483 バイト)       house5.114.2.jpg (1340 バイト)wpeA.jpg (42909 バイト)      

                                                                                                            (2001. 4.24)

  重力波観測          wpeB.jpg (27677 バイト) 

<4>重力波望遠鏡                         wpeC.jpg (18013 バイト)     

TAMA300 /スーパーTAMA                                  wpe5.jpg (38338 バイト) <タマ>      

                      参考文献:<国立天文台/“TAMAプロジェクト”のパンフレット>

 

「うーん...」マチコが、首を横にした。「...何で、タマがここに来ているのかと思っ

たら...現在、日本の国立天文台が進めている“レーザー干渉計型重力波望遠鏡”

は、“TAMA(タマ)300”と言うのよねえ...」

「そうじゃ...」タマが、コクリとうなづいた。「わしの名前が出ている以上は、わしが

紹介するほかあるまいのう、」

「うーん...紹介できるの?」

「ああ...一応は、調べてきてあるわい...

  この重力波望遠鏡があるのは、東京三鷹市の国立天文台本部の地下じゃ。この

あたりの東京都西部地域は多摩(タマ)地方というのかのう...東京都と神奈川県の

県境になる多摩(タマ)川もあるしのう...

  さて、その国立天文台の広いキャンパスの地下に、長さ300mの2本の真空パイ

プが...ああ...直角に...L字型に交差して...建設されておる...その、

“1千億分の1気圧”という超高真空パイプの中をじゃ...ああ...レーザービーム

を走らせるのじゃ...」

「うーん...それで?」

「うーむ...わしは、それ以上のことは分らんわい...」タマは、招き猫のポーズで高

く上げていた左手を下した。

「うむ!」高杉が、強くうなづいた。「ああ...ご苦労さん、タマ。一応、調べてきたよう

だな。後は、私が説明しよう」

「ああ...」タマは、左手で顔を撫でるようにこすった。

「ええと...この三鷹市の国立天文台の地下に建設された“レーザー干渉計型重力

波望遠鏡”というのは...実は、非常に精密な距離測定器なのだ...

  まず、一本のレーザービームを“ビームスプリッター”というもので、直角方向に2

つの成分に分離する。そして、それをL形の超高真空パイプの中を走らせるわけだ。

鏡を使って、150回往復させる。こうやって、双方の距離を、精密に読み取るわけだ

な...この極限的な距離の誤差を読むことが、いわゆる重力波の存在を証明するこ

とになる...」

  マチコは、黙ってうなづいた。

「“TAMA300”では、100億分の1mの、そのまた1億分の1というような誤差を測

定するといわれる。仮に、重力波がやってくると想定される方向の距離と、そうでない

方向の距離では、空間の歪(ひずみ)が微妙に違ってくるわけだ...それが、レーザー

で計測する距離の誤差として出る...」

「うーん...」マチコは、タマの頭に手を置き、毛をつまんだ。「それでどうなるのかし

ら?」

「まあ、これは具体的には、レーザー光線の微妙な波長のズレ程度の誤差だ。レーザ

ービームはそれぞれ150回往復し、100kmほど走った後、再び“ビームスプリッタ

ー”で合体させ、“干渉”させるわけだな。

  うーむ...このほんのわずかな変化を、干渉した光の明暗の変化として光検出

で捉えるわけだな、」

「うーん...それは分かったけど...そんなことで、本当に重力波が計測できるのか

しら?」

「さあ...そうなんだろう...」高杉は、腕組みをした。「世界各地で、こうした重力波

望遠鏡が、続々と建設されているからな...」

「うーん...」マチコは、タマの頭を撫でた。

「まあ...今説明したのは、原理の説明であって、実際には非常に精密な精度が要

求される...直角に分離されていたレーザービームは、再び1本に重ね合わされて

“干渉”させるわけだが、そこで重力波が来ていると、ズレが出来るわけだな...だか

ら、“レーザー干渉計”とも呼ばれる...」

「でも、こんなことが、それほど重要なのかしら?」

「もちろん、重力波の検出は、非常に重要だ。まあ、いずれにしても、こうした重力波望

遠鏡も、どんどん進化して来ている。感度も高まり、より大型のものが作られるようにな

るだろう。そして、いずれは、重力波がしっかりと補足される日も来る。そうなれば、もっ

と具体性が出て、分りやすいものになるだろうな。今の所は、どうも直感的に分りにく

い望遠鏡だ...」

「はい...」

「そうだ...ボスも、だいぶ以前に書いた小説『超越の領域』の中で、宇宙空間にこの

種の“重力波アンテナ”を建設する風景を描いている。確かに、宇宙空間なら、より巨

大で精密なものが出来るわけだ。これはSF小説だが、いずれ実際に、広大な宇宙空

間において、こうした重力波望遠鏡が建設される日も来るだろう。そうなれば、まさに

人類はこの大宇宙に対し、新しい重力波という目を持つことになる」

「うーん...“重力波アンテナ”...かあ...」

「いいか...電波を捉えるのに、電波望遠鏡というようなものもあれば、いわゆるテレ

ビやラジオのアンテナというようなものもあるわけだ。したがって小説の中では、“重

力波アンテナ”というような表現になっていたと思う...イメージとしては、こっちの方

が分りやすいかな」

「はい...それで、本当にキャッチできるのでしょうか?」

「うーむ...理論的には、検出可能とされている。しかし、公式にキャッチされたという

発表はまだないようだ。もっとも、色々な所で、“これが、そうではないか?”というよう

な、報告はあるようだが...」

「はい...」

 

<5> 重力波源                   wpe89.jpg (15483 バイト)     wpe5.jpg (38338 バイト)    

 

「ああ...」タマが口を開いた「“TAMA(タマ)300”の精度を上げたものが、将来型の

“スーパーTAMA”じゃ。ちなみに...TAMA300では...およそ300万光年以内

の重力波源を観測する...それが、スーパーTAMAじゃと、7000万光年まで拡大

されるそうじゃのう...」

「うむ!」高杉は、目を閉じて、うなづいた。「そうした範囲における重力波源としては、

“中性子星”“ブラックホール”などの、非常に重い天体の連星系が考えられる」

「あの、連星系とは、何でしょうか?」マチコが聞いた。

「うむ。連星系とは、非常に接近した天体同士が、互いに影響しあい、互いの周りを

周回しているものだ。

  例えば、我々の太陽系でも、木星の質量がもう少し大きかったら、太陽がもう1つ出

来ていたといわれる。つまり、質量が大きければ、木星中心部の内部圧力がもう少し

高まり、核融合反応に火がついていたということだ」

「うーん...」

「いいかね...宇宙空間で、ガスである質量が大量に集中すると、まあ、いわゆる木

星のようになるわけだ。それ自体が回転していて、中心部はガス自身の引力で凄ま

じい高圧状態になる。高圧状態ということは、高温状態だとも言えるわけだ。これは、

地球中心部のコアでもそうだし、太陽の中心部も凄まじい高温・高圧状態だ。質量が

大きいほど、その傾向は強くなるわけだな。まあ、地球は太陽質量にはるかに及ばな

いから、中心部の圧力も核融合反応を起こすほどではないわけだ。

  ところが、太陽系でケタ違いに大きな惑星である木星となると、様相がだいぶ違っ

てくる。もう少し星間ガスが集中していていたら、中心部の高温・高圧で、核融合反応

に火がついていたと言われる。だから、木星は、太陽になりそこなった惑星と言われ

ているわけだ...」

「うーん...すると、どうなるのかしら?もし、木星が、太陽のようになっていたら、」

うむ。そうなると、2つの太陽同士はもっと影響しあい、太陽系は中心に2つの太陽を

もつ、連星系になっていたかも知れない。あるいは、現在と似たような位置で、もう1

つの太陽として輝いていてかもしれない。しかし、そうなると、地球に今のような巨大

生命圏が出来ていたかどうかは分らない。つまり、2つの太陽に照らされて、地球は

相当に熱い惑星になっていただろうからね。ちょうど、金星のような、灼熱の惑星表面

だったかも知れない...」

「そうかあ...」

「実際には、こうした連星系というのは、宇宙では意外と数が多いらしい...まあ、そ

うだとすると、連星系にも色々なタイプがあるのだろう...」

「ふーん...」

「こうした連星系の一方、あるいは双方が、その寿命を終えて赤色巨星となり、超新

となって爆発する。まあ、質量が大きければ、この爆発でブラックホールができる。

しかし、質量が小さければ、爆発は起こらない。この場合、赤色巨星から白色矮星(わ

いせい/小さな星)となり、やがて完全に燃え尽きて赤色矮星となって、星はその一生を終

える。

  そして、この二つの中間あたりの質量の星だと、超新星爆発の後、残骸として中性

子星が残るわけだ...この中性子星とは、中性子物質から出来ている星のことだ。

小さいが、非常に重く、超高速で回転している星だ。ちなみに、中性子物質とは、原

子核の周りを回る電子が全て押しつぶされて、中性子だけになっている物質のこと

だ。およそ、スプーン一杯分で、数億トンもの重さがあるといわれる。

  これもまた、超新星の爆発によって圧縮され、こんな物質ができてしまうわけだ

な。超新星爆発は、質量を内部と外部の両方に吹き飛ばす。そして、中心部へ向か

って重力崩壊をした側で、中性子星が残骸として残るわけだ。そして、ある質量の限

界を超えた星の場合、ブラックホールになるということだ。この場合は、内部に向かっ

て重力崩壊を起こし、中性子物質でも支えきれず、さらに内部に落ちていく。これは一

般相対性理論の予測する所だ。

  まあ、重力という力は非常に弱いものだが、蓄積されると、こうした手におえない

ラックホールの様なものになってしまうわけだ。我々の住む、この“天の川銀河”の中

心部にも、超巨大なブラックホールがあるといわれている...」

「すると、どうなるのかしら?星がブラックホールになってから、」

「うむ...このブラックホールでは、何と言っても、“事象の水平面”が出来てしま

う...この球形の事象の水平面のことを“シュバルツシルト半径”と言ったり、“重力

半径”と言ったりするようだ。まあ、あらゆる物を呑み込んでしまうわけだな。光でさえ

も、1度ここに吸い込まれたら、2度と出てくることが出来ない。つまり、光が出て来る

ことができないということは、見ることが出来ないというわけだ。だから、“事象の水平

面”という。よく使う言葉で、地平線や水平線があるが、その向こうは見えないわけだ

ろう?」

「ええ、」

「このブラックホールの場合、線ではなく、球形の面になっているから、“事象の水平

面”というわけだ。数学的に言えば、このブラックホールの内部では、時間と空間が逆

転していると聞くが、いずれにしても直感的には分りにくい領域だな...」

「うーん、」

「いずれにしてもだ、こうした強い重力場が、連星系のようなメカニズムでかき回され

た場合、“強力な重力波を放出”すると考えられる。“TAMA300”は、およそ300万

光年以内の、こうした重力波放出型天体を捕捉することになるだろう...」

「はい、」

「さっきも言ったように、こうした中性子星やブラックホールの存在は、一般相対性理

論から導き出されてきたものだ。したがって、もし重力波が検出されれば、相対性理

論の正しさを、さらに補強するものになる...ここが非常に重要なわけだ」

 

「はい...」マチコは、うなづいて、インターネット・カメラの方を向いた。「ええ...こ

の章は、これまでとします。次回は、重力波観測の現状と、“クインテッセンス”という

概念について、ごく簡単に説明しようと思います。 どうぞ、ご期待ください!」

                         wpe5.jpg (38338 バイト)    wpeC.jpg (18013 バイト)               

 

 

                                                      (2001.5.10)

<6> 重力波の補足へ向って                

 

「ええと、塾長...繰り返しになりますが、“重力波”というのは、この宇宙空間で見え

る“光”の様なものだと考えていいのでしょうか、」マチコがコーヒーカップを、カチャリと

受け皿に戻して言った。「それが電磁波ではなく重力波で、光子(フォトン)ではなく重力

(グラビトン)だということで、」

「まあ、そういうことだ...

  すでに述べてきたように、ビッグバン直後のインフレーション期において、最初の重

力波が量子力学的な過程において作られた。こうした重力波は、初期宇宙の原始プ

ラズマ中をこだました。そして、宇宙開闢から50万年後に、あの有名な“宇宙のマイ

ロ波背景放射”が出る。宇宙の“一様性”“等方性”を証明した、宇宙の残照だ。

  最先端の研究者は、この“宇宙のマイクロ波背景放射”のかすかな“ドップラー偏

移”から、インフレーション期に生成された重力波の残滓を探っている。しかし、電磁

波も同様だが、重力波もそうした初期宇宙の残滓だけが全てではない。それ以外の

“重力波源”もあるわけだ。たとえば、連星系...そして、中性子星の合体や、ブラッ

クホールの衝突等、さまざまにある。まあ、一般相対性理論によれば、

 

   “どのような系でも、球対称でない内部運動があれば、重力波ができる”

 

のだそうだ...

  ただし、星が1個そこにあるだけでは、重力波は生まれない。つまり、それが、掻き

回されて、初めて重力波というサザ波が生まれるわけだ。池の水面の波と同じ様に

な...」

「ふーん...そうかあ...」

「分ったかね?」

「はーい、」

「さて...池の水面の波は、遠くへ行くにしたがってだんだん小さくなっていくだろう。

これと同じ様に、重力波も遠くへ行くにしたがって、その波は弱くなっていく。先ほども

説明したが、レーザー干渉計型重力波望遠鏡は、水素原子の直径のさらに10億分

の1というような、直角方向の空間の縮(ちぢみ)のズレを計測するものだ。それが如何

に微妙なものかが分かるだろう」

「はい、」

「日本では“TAMA300”“スーパーTAMA”だが、アメリカでは、レーザー干渉型

重力波観測所 “LIGO”が建設中だ。

  この“LIGO”は、2か所の施設からなっている。1か所は、ルイジアナ州リビングスト

ンの森の中にあり、もう1か所はワシントン州ハンフォードの砂漠の中にある。いずれ

長さが4kmの管がL字型に配置され、“TAMA300”と同様な構造と考えていいだ

ろう。ただし、“LIGO”は、同じタイプのもので、2か所で同時に計測するわけだ。これ

は、どういうことかというと、その2つの結果を突き合わせることができるからだ」

「...?...突き合わせると、どうなるのかしら?」

「地震や火山活動、その他の、雑音を取り除くことができる。したがって、格段に精度

が高くなるわけだ。もちろん、“TAMA”も連動させれば、こっちの方でも同時に重力

波源を確定でき、いっそう精度は高くなる。この種のものは他に、イタリアのピサの近

郊に“Virgo”がある。それから、ドイツのハノーバー近郊に“GEO”というのがある

な...

  さらに、2010年には、NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(欧州宇宙機関)は、“レーザー干

渉型宇宙アンテナ”を打ち上げる予定といわれる。これは、地上では観測できないよ

うな長波長の重力波を補足するためだといわれる。まあ、これはいずれ、詳しい話が

伝わってくるはずだ」

「ふーん...」

「いずれにしても、これからは宇宙観測の機材は、必然的に宇宙空間に運び出され

ていくのだろうな...」

「ボスの書いた『超越の領域』(SF小説)の、“L5宇宙天文台”のようになるのかしら、」

「うむ...ま、次から次へと、興味の尽きない課題ではありつづけるだろう...」

「はい、」

 

                                           room12.982.jpg (1511 バイト)        

 

                                                      (2001. 5.27)

 インテッセンス      

<7> クインテッセンスの概念                wpeA.jpg (42909 バイト)

 

「ええ、それでは塾長、“クインテッセンス”という概念について説明して欲しいのです

が、」マチコが、膝の上に乗せたミケの頭をひと撫でして言った。

「うむ。先程、“暗黒物質”“暗黒エネルギー”は、全く別のものだと説明しただろう」

「はい。“暗黒物質”は、この宇宙における、いわゆる見えない物質のことで...“暗

黒エネルギー”はアインシュタインの言う“宇宙常数”であり、“真空のエネルギー”

のことだということでした」

「うむ...そこでだ、では何故、“暗黒エネルギー”と“真空のエネルギー”という言葉

分けて使っているのか。同じものなら、最初から“暗黒エネルギー”などと言わず

に、“真空のエネルギー”と言っていればいいはずだろう?」

「はい...」

「その意味は...つまり、イコールではないからだ。つまり、こういうことだ。“暗黒エ

ネルギー”というものがあり、その中の1つの候補として、“真空のエネルギー”がある

ということだ」

「では、他にも、暗黒エネルギーの候補はあるのでしょうか?」

「うむ。それが、この“クインテッセンス”という概念だ。まあ、宇宙常数と似たような値

をとるわけだが、少し違う。

  この“クインテッセンス”という言葉は、ギリシア語で“第5元素”を意味するそうだ。

古代ギリシア哲学では、宇宙は“土”、“空気”、“火”、“水”の他に、これらのバランス

をとるような第5の元素が考えられていたらしい。まあ、そこから借用したわけだな。

ちなみに、現在の宇宙論における“クインテッセンス”の意味は、

 

“重力が反発力になるような、電磁場などとは異なる、動的な量子場...”

 

 ...だそうだ」

「うーん...それだけではよく分らないわねえ...」

「うむ。いずれにしても、一度で説明するのは難しいだろう。今後、宇宙論の中で、次

第にこの“クインテッセンス”という概念が出てくると思う。そうした中で、徐々に説明し

ていこうと思う」

「はい、」

「まあ、ともかく...“真空のエネルギー”以外にも、“負の圧力”を生み出すエネルギ

ー形態があるということだな。この“負の圧力”とは、宇宙を膨張させるマイナスの圧

力のことだ。

 

  この、“クインテッセンス”を、量子論で記述すると、“場”と“粒子”で表現されるわけ

だ...するとどうなるか...まあ、参考文献によれば、クインテッセンスはエネルギー

密度が非常に低く、ゆっくりとしか変化しないので、クインテッセンスという粒子はきわ

めて軽く、大きさは超銀河団なみになってしまうようだ...

 

 ...うーむ...」

「超銀河団の大きさの素粒子ですかあ...?」マチコは、両手を頭の後ろで組んだ。

「ふむ...やはり、ヘンだと思うか?」

「はい、」マチコは、ミケの頭の毛をつまみ、コクリとうなづいた。

「ま...したがってだ...ここは粒子で表現するよりも、“場”で表現した方が適切な

ようだな、」

「うーん...それより、高杉さん、クインテッセンスと真空のエネルギーは、具体的に

どう違うんでしょうか?」

「うむ、そうだな、“クインテッセンス”は、負の圧力の絶対値が小さいので、“真空のエ

ネルギー”ほど、宇宙膨張を加速しないようだ。うーむ、まあ、今回は、クインテッセン

スの説明はこれぐらいにしておこう。私も、論文を一本読んだだけでは、いかにも勉強

不足だ」

「はい。ええ、それでは...今回の宇宙論シリーズは、これで一応これでおしまいに

します。次の展開にご期待ください」

                                               wpeA.jpg (42909 バイト)