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    ヒト以外でも進むゲノム解読 wpe5.jpg (12116 バイト)  wpe5.jpg (12116 バイト)   wpe5.jpg (12116 バイト) 

                                及び、日本の現状・・・  

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  外山 陽一郎                               里中 響子          

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プロローグ  プロローグ 2000.12. 7
No.1  モデル生物のゲノム解読 2000.12. 7
No.2  進化や発生の解明を目指す研究 2000.12. 7
No.3  遺伝子組み替え技術と農業への応用 2000.12. 7
No.4

 日本の現状と課題、21世紀での展開

      ポン助の出前

       日本の現状

       ヒトゲノム解読で、日本は何故追い越されたのか

      <日本の大規模ゲノム研究が非効率だった原因>

2000.12. 30

2000.12. 30

2000.12. 30

2000.12. 30

2000.12. 30

  

 

参考文献 日経サイエンス 9月号                    

 

       特集・ヒトゲノム解読をめぐる競争

        

              ヒト以外でも進むゲノム解読研究 ......久保田 啓介 (編集部)

              戦略に欠けた日本のヒトゲノム解読 ... 宮田 満 (日経BP社)

          夢に賭ける

            ゲノム機能解明から画期的新薬を ....増保 安彦/所長 (へリックス研究所)

 

 

プロローグ                  wpe75.jpg (13885 バイト)    house5.114.2.jpg (1340 バイト)  

 

「里中響子です。最高モードのヒトゲノムの解読が、20世紀における世紀末の話題

になっています。しかし、ヒト以外のもっと単純な生物体のゲノム解読は、どのよう

な状況になっているのでしょうか。

  えーと...最初にゲノムが解読されたのは、インフルエンザ菌 (インフルエンザは、ウイル

スですので、私は普通インフルエンザ・ウイルスといいます。しかし、参考文献は“菌”となっていますので、ここは“インフル

エンザ菌”にしておきます...)で、1995年に全塩基配列が解読されています。1995年とい

えば、“Windows 95”が人類文明にリリースされた、思い出深い年でした年でし

た...

  ええ、それから...ラン藻大腸菌酵母のゲノムが解読されています。胃ガン

の原因とされるヘリコバクター・ピロリや、結核菌腸球菌も解読されています。さら

に今年(2000年)に入ってはショウジョウバエも解読されたと聞いています。

  ええ、現在...ゲノム解読が完了した生物は30種を超えているようです。しかし、

この数は、まさにリアルタイムで増えつつあります。ちなみに、ヒト以外でのゲノム研

究は、今の所3つの大きな流れが出来ていると言われます。それは、以下の3つで

す」

 

(1) モデル生物のゲノム解読

「これは、酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスなど、ヒトゲノム

を解読する上で、モデルとなる生物種のゲノム解読、及びその

周辺の研究です」

 

(2) 進化や発生の解明を目指す研究

「原始的な生物がどう進化し、人間の様な高等生物になったの

、その筋道を探る研究です。様々な生物種のゲノムを比較す

“比較ゲノム学”もこの範疇に入ります。今後、大きな発展が

期待されている分野です」

 

(3) 遺伝子組み替え技術と、農業への応用

「今話題になっている、遺伝子組み替え穀物などの研究です。

今後、異常気象や本格的な食糧不足の時代がきた時、この技

術が生きてくるのでしょうか。それとも、遺伝子組み替え食物

は、文明から排除されていくのでしょうか。

  いずれにしても、今後各国が、熾烈な特許権獲得競争を展開

していく雲行きのようです」

 

 

 

 (1) モデル生物のゲノム解読  wpe5.jpg (12116 バイト) wpeC.jpg (18013 バイト)    house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

  響子は、コトリ、と作業テーブルにコーヒーを置き、椅子に腰を下ろした。そして、外

山とチーコちゃんが操作するモザイク構成のプレゼンテーション・スクリーンを眺め、コ

ーヒーを飲んだ。

  外山が作業テーブルの方に戻ってくると、響子はコードレス・マウスを使い、モザイ

クの1つを拡大した。この無数の関連モザイク画面から、インターネット上での最深度

情報まで引き出すことができる。

「いいかしら?」響子は、外山を見上げて言った。

「うむ、」外山は、ドッカリと椅子に腰を落とした。

「はい...ええ、モデル生物というのは...線虫、ショウジョウバエ、マウス、という

ことでいいでしょうか?」

「それと、単細胞で真核生物である酵母があります...」外山が、スクリーンに目を

投げながら言った。「この酵母は、特にガン研究で優れたモデルになっています。細

胞が分裂する方法や、タイミングを決める基本的メなカニズムは、この酵母で最初に

見つかっています。また、DNAの修復についても、この単純な生物から、多くのこと

が分ったといわれます。さらに、既存のガン治療薬がどのように働くかも、この酵母を

使っての解明が進んでいます...」

「はい、」響子は、深くうなづいて唇を結んだ。

「そうですねえ...話が少し前後しますが、モデル生物というものについて、少し説

明しておきましょうか、」

「あ、はい...」響子は、スクリーン上の、別のモザイクを拡大した。

「...ここで、何のモデルになるのかということでは、もちろんヒトゲノム解読のモデ

ということですね。こうしたモデル生物では、実は、すでに多くの遺伝子が見つかっ

ています。そうした中には、“ヒト遺伝子とよく似た遺伝子”も、かなりの量にのぼる

いわれます。

  ちなみに、人間の病気の原因になる遺伝子(病因遺伝子)は、これまでに

約1400種ほど判明しています。しかし、驚いたことに、その内の約60%は、ショウ

ジョウバエの遺伝子の中でも見つかっていると言います。

  また、遺伝子が作るタンパク質という視点から見ても、ショウジョウバエが作り出

すタンパク質の約半分(およそ7000種)は、哺乳動物と共通するといいます。

  さらに、マウスでも、これまでに特定されたタンパク質の90%以上が、ヒトのタン

パク質と似ているといいます。酵母のタンパク質も、約38%は哺乳動物のタンパク

質と似ているといいます...  」

「うーん...複雑な言い回しですのね、」響子は小首をかしげ、目で笑った。

「ま、参考文献のデータが、こうなっています...」外山も、苦笑した。「しかしまあ、

このあたりが、ヒトとモデル生物との微妙な違いであり、また共通点でもあるわけで

す。

  地球における生命進化の流れから、最高モードに位置するヒトゲノムの中には、

下位モードの全生物種のゲノムが含まれていると言われます。しかし、ヒトゲノムは

それらの集合体というわけではありません。実際、失われた遺伝子も、すでに相当

量に達しています...」

「はい、」

「ある研究者は、こうも言っています。

 

“人間の遺伝子から、無作為に1つ選ぶと、線虫やショウジョウバエにもよ

く似た遺伝子がある確率は、約50%〜80%もある。このため、これらの

生物を利用して遺伝子の機能を研究できる”

 

  ...これは、状況を的確に表現しているのではないでしょうか」

「はい、」響子はうなづいた。

「ともかく、モデル生物なら、遺伝子の組み替え実験なども簡単にできるわけです。し

たがって、モデル生物からガン糖尿病などの病因遺伝子が見つかれば、診断や

治療法の研究開発が非常に加速することになります」

ショウジョウバエ                 wpe5.jpg (12116 バイト)          


「それじゃあ、まず、
ショウジョウバエからでいいかしら?」響子が言った。

  外山は、小さくうなづいた。

「このショウジョウバエのゲノムは、セレーラ社(ヒトゲノムの解読で、国際ヒトゲノム計画と競った会社)

と大学との共同作業で、2000年の3月に解読が完了しています。あの、外山さ

ん...ショウジョウバエの遺伝子の1つ、p53 が話題になっていますが、これはど

のようなものなのでしょうか?」

「はい...これは、ショウジョウバエの遺伝子の中で、ヒトの遺伝子に似ているとい

われるものの1つです。まあ、いわゆるガン抑制遺伝子なのですが、これが突然変

異を起こすと、細胞がガン化するといわれます」

「つまり、この遺伝子が突然変異を起こすとは...正常ではなくなると、細胞がガン

化するということでいいのでしょうか?」

「そうです。p53 遺伝子は、実は細胞を自殺させる機能アポトーシスを持ちます。

例えば、細胞の遺伝子が、修復不可能なほどの損傷を受けた場合、その細胞を自

殺させるのです。

  これは人間の細胞と同様で、p53 のタンパク質が働かなくなったショウジョウバエ

の細胞は、遺伝的な損傷を受けたり、自己破壊をできなくなったりするわけです。す

るとどうなるかというと、ガン細胞の特質の1つにあるように、制御不能なほどの増殖

をしたりするわけですね」

「ふーん...うまくできているのですね。計り知れないほど、」

「そうですね。まさに、驚異的なシステムの一面を、垣間見る思いです...」

「では、次は線虫に移りたいと思います。あら...ミミちゃん、そっちの方で何かある

かしら?」

「うん!」ミミちゃんは、大きな耳を揺らしてうなづいた。

「そ...それじゃ、お願いね、ミミちゃん、」

 

wpe89.jpg (15483 バイト) 《 ミミちゃんガイド...No.1 》   wpe5.jpg (12116 バイト)wpe5.jpg (12116 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

<アポトーシス/細胞の自殺について>

 

       ミミちゃん/談                

「新陳代謝していくための細胞の自殺を、アポトーシスと言います。これ

は、ギリシア語で、枯れ葉が離れ落ちていくと言うほどの意味だそうです。一

方、心筋細胞神経細胞等は、アポトーシスを起こしません。つまり、こ

れらの細胞は新陳代謝はせず、細胞の死は、個体の死と直結します...」

 

       外山陽一郎/談                

「ミミ君のいう神経細胞ですが、最近新しい動きがあるようです...

  それは、こういうことのようです。神経細胞は、17、18歳頃をピークにし

て、徐々に減少していくことが知られています。ところが最近、脳の中に幹細

の様な分裂能力を持つ細胞がかなりあって、ピークを過ぎても神経細胞

が補充されているのではないかという状況が出てきたことです...

  それから、これもつい最近のことですが、アルツハイマー病に朗報という

ようなニュースを見ました。これも確か、こうした方面からの新展開だったよ

うに記憶しています...」

        ( 参考文献: 日経サイエンス/2001年1月号/脳が左右に進化した謎 )

                                                                wpe5.jpg (12116 バイト)

線虫                       wpe5.jpg (12116 バイト)  wpe75.jpg (13885 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)     

 

「さあ...この線虫の方は、1998年にゲノム配列が解読されていますねえ。ここで

は、タンパク質は6000種以上ありました。が、その約1/3は、哺乳動物のタンパク

質と似ていると言っています」

「すると、この地球に溢れているDNA型生命体は、タンパク質としては非常に似たも

のを作っているということでしょうか?」

「まあ、そういうことになりますね...しかし、この巨大生命圏は、実に複雑であり、

また実によく出来ています...したがって、そうした意味では、慎重な言い回しが必

要です...」

「はい、」 響子は、ほくそえんで、うなづいた。

「はっはっはっ...ズルい言い方かも知れませんが、生命は奥が深いのです」

「はい、」 響子は、今度は真面目な顔でうなづいた。

「さて、ここでは、この線虫(約1mm)を使った“自動化スクリーニング法”を紹介しておき

ましょうか、」

  外山は、コードレス・マウスを使って、プレゼンテーション・スクリーンのモザイク画

像を操作した。

「ああ、ここだ。ここでいい...ええ、ご覧のように、複数の企業がこの“自動化スク

リーニング法”で、新しい医薬品の研究をしていますね」

「はい...つまり、モデル生物として、実際にどのように使われているかということで

すね?」

「そういうことです...」外山は、うなづきながらマウスを滑らせた。

  響子も、手元のコントローラーを使い、別のモザイクの情報深度を下げて行った。

“自動化スクリーニング法”が出ると、さらにその詳細を拡大した。

「うむ、それだ、ありがとう...」外山は、響子の方にうなづいた。「ええと、ここでは

ですね、10cmほどのプラスチック製基盤の上に...ちょうど錠剤ほどの穴をあ

け...線虫を1匹〜10匹入れる...ということですね...

  なるほど...糖尿病治療薬をスクリーニングする場合は...インスリン受容体

作る遺伝子が、突然変異を起こして成長が止まった線虫を使うということですね。ま

あ、大半の糖尿病患者の細胞は、インスリンに反応しなくなっているので、この実験

で見つかった化合物は糖尿病の新薬としてはおもしろいということですか...」

「うーん、」響子は、首を横にした。「これだけでは、ちょっと分らないわねえ、」

「まあ、このようなことをやっているということですね。それさえ分れば十分です。え

え、次は?」

「はい。酵母はすでに何度か説明していますので、マウスに行きましょうか」

 

 

マウス               wpe5.jpg (12116 バイト) wpeC.jpg (18013 バイト) wpeC.jpg (18013 バイト) wpeC.jpg (18013 バイト)wpe75.jpg (13885 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「さて、それじゃあ、マウスの話に移ります...

  ええ、新しい化合物が医薬品として承認されるまでには、幾つもの関門をパスしな

ければなりません。酵母や線虫でうまく行っても、哺乳動物でうまく行くかどうかは分

りません。そこで、医薬品はすべて、哺乳動物でしっかりと試験されるわけです。

  そして、ここで哺乳動物という場合、マウスを指すことが多いのです。まあ、実験動

物としてのマウスというのも、それはそれで奥の深いものですが...」

「それは、どういう意味でしょうか?」

「私は専門ではないので、詳しくは言えませんが...マウスと一口に言っても、膨大

な遺伝的掛け合わせや、様々な病気の発症、滅菌...まあ、色々、様々、でしょ

う...」

「マウスといえば、DNAは相当複雑になると思うのですが、これもすでに解読は完了

しているのでしょうか?」

「いや、マウスのゲノムは、ヒトゲノムほどは解読が進んでいません。アメリカに、

ウス・ゲノム配列解読ネットワークという組織がありますが、ここがトップに立っていま

す。これまでに解読されているのは、約3パーセント。2003までには完了の予定だ

そうです。

  しかし、ヒトゲノム解読で活躍したあのセレーラ社が、マウスゲノムの解読に転進

したと聞いています。そうですねえ、あと1ヶ月足らずで21世紀になるわけですが、

解読時期はだいぶ早まると見ていいと思います...」

「はい。ヒトゲノムの解読も、予定よりも早かったわけです。それと同じようなことが起

こっているのでしょうか?」

「そうですね。いずれにしても、技術は刻々と向上しています。ハードウエアーもソフト

ウエアーも、どんどん開発されて来ています」

「はい...いよいよ21世紀ということですね」

「そういうことです」

                                                    wpe5.jpg (12116 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

 

 (2) 進化や発生の解明を目指す研究     

 

「さあ、ここは進化発生に関する分野ですので、今回は私が簡単に説明しておき

ます」

  響子は、スクリーンの脇に立ち、スッと背筋を伸ばした。

「ええ...原始地球の海で生まれた最初の生物が、どのような進化の経路をたど

り、最高モードのヒトに到達したのでしょうか。遺伝子を比較して行けば、の道筋が

見えてくる可能性があります。むろん、これは膨大な作業になることが予想されま

す。

  ちなみに、京都大学が、チンパンジーなど霊長類のゲノム解読に取り組んでいま

す。一方、理化学研究所は、ヒトとチンパンジーの遺伝子を比較し、脳の働きの解明

に取り組んでいます。これはいわゆる、“比較ゲノム学”であり、今後大きな進展が期

待されている学問分野です。いずれ別の機会に、詳しく考察することになると思いま

す...」

                                                    wpe5.jpg (12116 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

 

 (3)遺伝子組み替え技術と、農業への応用  house5.114.2.jpg (1340 バイト)

                                                 < 日 本 編>   

《 かずさDNA研究所  千葉県・木更津市     wpe73.jpg (32240 バイト)   wpe5.jpg (12116 バイト)  

                              <日本のDNA研究機関...No.1>

 

「このかずさDNA研究所は、千葉県木更津市にあります。このあたりは、かって

は上総(かずさ)の国と言われたので、こんな名前がついたのでしょうか。ここでは、

<日本のDNA研究機関...No.1> と紹介していますが、この番号は単なる便宜上の

ものです。

  さて、このかずさDNA研究所では、ラン藻(シアノバクテリア)の全ゲノムを解読

(1996年)し、光合成生物の遺伝情報を世界で初めて明らかにしています。現在は、ア

ブラナ科の植物であるシロイヌナズナのゲノム解読を進めています。もっとも、こうし

た最先端科学では、リアルタイムで事態が推移しているので、もうシロイヌナズナの

解読は完了しているのかも知れません...

  ああ、それから...この“かずさDNA研究所”はシロイヌナズナの国際ゲノム解

読研究のセンターとして機能しています...2004年までに解読完了の予定といわ

れます...

「はい、ミミちゃん!お待たせしました!」響子は、ミミちゃんの方に、しっかりとうなづ

いた。「ガイドの方、よろしくお願いします!」

「うん!」

 

wpe89.jpg (15483 バイト) 《 ミミちゃんガイド...No.2 》 ...wpe5.jpg (12116 バイト)wpe5.jpg (12116 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

    <ラン藻/シアノバクテリア>    

    ミミちゃん/談       <上記参考資料外の余談>   wpe75.jpg (13885 バイト)

 

シアノバクテリアは、この地球上に最初に現れた生命体と考えられていま

す。オーストラリアの海岸を写した有名な写真の1つに、35億年前の微生物

化石“ストロマトライト”がありますが、それはこのシアノバクテリアの集団塊

の化石です。

  ちなみに、原始の海は二酸化炭素で飽和状態であり、分子酸素は存在し

ませんでした。そうした中で、酸素を必要としないシアノバクテリアが出現し、

光合成による生命活動を開始したと考えられています。

  シアノバクテリアは光合成を介して、二酸化炭素からを生産することが

できます。したがって、そうやってエネルギーを得、排泄物として“分子酸素”

を放出し始めました。おそらくシアノバクテリアは、競争相手のいない穏やか

な太古の海で、延々と地球表面に分子酸素を溜め込んできたのです。

 

  植物の細胞が、光合成というエネルギー獲得手段を手に入れたのは、も

ともとその能力を持つシアノバクテリアが細胞内に寄生し、“葉緑体”となっ

たからだと言われています。

  ええと...ちなみに、現在の大気中の分子酸素はすべて、彼らが光合成

によって放出したものです。植物は大切にしてくださいね...

     外山陽一郎/談   <上記参考資料外の余談>    wpe75.jpg (13885 バイト)

「いわゆる“細胞”が獲得したのは、シアノバクテリアからなる“葉緑体”だけ

ではありません。酸素を消費し“ATP”を生産するエネルギー生産工場

“ミトコンドリア”も、外部から獲得し、自らの細胞の中に組み込んだ細菌の

1つです。

  葉緑体は、一般的には植物細胞の中だけにあるわけですが、ミトコンドリ

アは、植物細胞にも動物細胞にも存在します。ちなみに、ミトコンドリアが生

産する“ATP”(アデノーシン3リン酸)は、DNA型生命体の共通エネルギー通貨

であり、生命体はこの共通エネルギーを回すことによって、全細胞を動かし

ているのです。

 

  ええ...シアノバクテリアの環状ゲノムは、357万3470塩基対。この上

に3168個の遺伝子が載っています。数字はいずれも、かずさDNA研究

が公表しているものです。 もっとも、このゲノム上の遺伝子の大部分

は、すでに核ゲノムの方に移行しています...」

 

 

    <シロイヌナズナ>                    

    ミミちゃん/談                          wpe75.jpg (13885 バイト)

「シロイヌナズナは、双子葉植物モデル植物です。ええと...これは小麦

や大豆などと共通の遺伝子を多く持つと考えられます。したがって、農業生

産上の有用性が高いと考えられます...

  染色体は10本、1億3000万塩基対からなります。日米欧の共同でゲノ

ム解読が進められています」

                                         wpe5.jpg (12116 バイト)

 

 

  《 農水省・農業生物資源研究所 茨城県・つくば市 wpe73.jpg (32240 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト) 

               <日本のDNA研究機関...No.2> (ナンバーは、便宜上つけたものです ...)

 

「さあ、イネゲノムの解読では、日本が先行しています...」

  外山は、椅子を少し後ろに引きながら言った。響子は、プレゼンテーション・スクリ

ーンの調整で、チーコちゃんと何か話し合っている。ミミちゃんは、黙々と“ミミちゃん

ガイド”の編集をしている

「ええ...イネゲノムの解読は、1991年に、茨城県のつくば市にある農水省・農業

生物資源研究所が中心になって開始しています。さすがに、稲穂の国であり、コメに

関しては1歩でも2歩でもリードしていたいという願望があったのでしょうか...

  それから、1997年には、アメリカ、フランス、中国、インド等がこれに参加し、11

カ国による共同研究体制になりました。そして、もう1つ、日本政府が2000年から始

めた“ミレニアム・ゲノム計画”でも、4本の柱の1つに抜擢し、さらに補強する体制に

あるようです...」

 

  外山は、響子の方をチラリと眺めた。しかし、あきらめて、また1人で話を進めた。

「ええ...このイネゲノムは、4億3000万の塩基対からなり、この上に約3万の遺

伝子があると考えられています。これは、穀物の中では最小のものです...

  それから、上記のシロイヌナズナは双子葉植物のモデルですが、イネは単子葉植

物のモデルになります。いずれにしても、主要穀物は単子葉植物であり、イネゲノ

ムと構造がよく似ているわけです...」

  

wpe89.jpg (15483 バイト) 《 ミミちゃんガイド...No.3 》 ...wpe5.jpg (12116 バイト)wpe5.jpg (12116 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

     < DNAの大きさについて...>

    ミミちゃん/談      <上記参考資料外の余談>   wpe75.jpg (13885 バイト)

「イネのゲノムは4億3000万の塩基対からなります。それに対し、小麦は160億塩基

対、トウモロコシは25億塩基対からなります...

  さあ、これらに対し、ヒトゲノムは30億塩基対です。最高モードのヒトが何故小麦のゲ

ノムより小さいのかと言うと、それは構造が違うからです。DNAもその形態やゲノム量か

ら、4つほどのクラスに分けられるようです。つまり、ゲノムDNA量は、大きければ良いと

言うわけではありません...」

 

    外山陽一郎/談   <上記参考資料外の余談>      wpe75.jpg (13885 バイト)

「うーん...ミミ君の話を、もう少し補足しようか...

  最小のゲノムDNA量の生物体は、“マイコプラズマ”と呼ばれるバクテリアで、90万塩

基対しかありません...

  これに対し、小麦の例でも分るように、多くの高等植物は、ヒトよりも大きなゲノムDN

A量を持ちます。また、少数の脊椎動物も、ヒトゲノムよりもはるかに大きいゲノム量をも

ちます。例えば、肺魚サンショウウオなどです。

  こうした中でも、最大のDNA量を持つのは、シダ植物の仲間で、マツバランというもの

です。このゲノムDNA量は、10の12乗個といいますから、1兆塩基対ということでしょう

か。

  いずれにしても、このクラスの種は、その体制分化の度合いにしては、異常なほどの

巨大なDNA量を持ちます。しかし、これらのDNAは構造的には単純で、直列式に重複

し、ただやたらと長くなってしまったもののようです。ある研究者によれば、この重すぎる

DNA量が負担となり、マツバランやサンショウウオなどは進化の袋小路に入っていると

言われます。つまり、これは言い換えると、DNAの設計図が粗雑であり、悪いものであ

り、やがては滅んでいく運命にあるということです。そして、私たち自身もまた、このような

DNA進化の、大きな河の流れの中にいるわけです...」  

 

 wpe75.jpg (13885 バイト)                            wpe5.jpg (12116 バイト)wpeC.jpg (18013 バイト) house5.114.2.jpg (1340 バイト)  

 

                                                                    (2000.12.30)

  (4)日本の現状と課題、21世紀での展開 wpeA6.jpg (14454 バイト) wpe89.jpg (15483 バイト)

  house5.114.2.jpg (1340 バイト)               ゲスト: 高杉光一/塾長>house5.114.2.jpg (1340 バイト)

                                                            

ポン助の出前 <冬の軽井沢> house5.114.2.jpg (1340 バイト)lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)wpe97.jpg (51585 バイト)db3542.jpg (1701 バイト) wpe75.jpg (13885 バイト)

 

「こんにちは、ポン助さん!」チーコちゃんが、ハイパーリンクから出て来るポン助を見

て駆け寄った。「いらっしゃーい!」

「おう!出前に来たぜ!」ポン助は、ハイパーリンクのゲートから、軽井沢基地のワ

ーキング・ルームを見渡した。

「Pちゃんも、いらっしゃーい!」チーコちゃんが、P公の前へ行って尻尾を振った。

「うん...」P公は、おでんの屋台を押した。

「おう、ミミ...元気か?」ポン助は、パソコンを打っているミミちゃんに言った。

「うん!」ミミちゃんは、肩越しに言ってうなづいた。

「ポンちゃん...」響子が、作業テーブルから声をかけた。「どうも、ご苦労様」

「おう!寒くなったよな!」

  作業テーブルには、外山の他に塾長の高杉光一がいた。高杉も、コーヒーを飲み

ながら、ポン助たちに手を上げた。

「軽井沢は雪かよう...」

  ポン助は、シャッターの開いているガラス窓の方へ歩いた。外は、枯れた芝生に、

真っ白な粉雪が猛烈に吹き付けている。それが、遠くの方で、巻き上がるように吹き

渡っていく。ポプラもイチョウも、今はすっかり葉を落とし、遠くの雑木林が吹雪の中で

白く霞んでいた。

「外は寒いわよ!」チーコちゃんが、尻尾を小さく振った。

「おう...軽井沢は、寒いよな...」

「でも、晴れた朝は気持ちがいいわ」

 wpe99.jpg (47276 バイト)   wpeA5.jpg (38029 バイト) wpeA0.jpg (23511 バイト)   wpeA6.jpg (14454 バイト)db3542.jpg (1701 バイト)lobby4.1119.1.jpg (2391 バイト)    wpe75.jpg (13885 バイト)   

「よう...おでんを仕込む前に、餅を焼いてやろうか?」ポン助が言った。

「食べます!」チーコちゃんは、尻尾を大きく振った。

「おう、ミミも、餅を食うか?」

「うん!」ミミちゃんは、パソコン画面を上書き保存し、ポン助の屋台の方を振り返っ

た。「ニンジンは、持ってきてくれたかしら?」

「おう、持って来たぜ」

「おい、ポン助...」高杉が言った。「おれにも餅を頼む」

「あいよ!」

 

  1.日本の現状                      wpe5.jpg (12116 バイト) wpeC.jpg (18013 バイト) house5.114.2.jpg (1340 バイト)

  響子は、コーヒーカップをコトリと受け皿に戻した。そして、唇を引き結んで、ボンヤ

リと眼前の宙を見つめていた。彼女は、しばらくそうしていたかと思うと、やがて窓の

外の吹雪の方を見つめた...

「かなり、強い寒気が入って来ているようだ」高杉が、ポツリと言った。

「さて、始めますか、」外山が言った。

「はい...」響子は、小さくうなづいた。作業テーブルの上にある、自分のノートパソ

コンに目を戻した。「...ええ...これから始まる21世紀は...ゲノム科学の時代

といわれます...

  そこで、あらためてお二人にお聞きたいのですが、日本の現状は、実際にはどう

なのでしょうか?」

「確かに...」と、外山は、作業テーブルの上で両手を組み合わせた。「ヒトゲノム解

読では、日本は戦略に欠けたところがありました。しかし、ここでも、最初は日本がリ

ードしていたのだといいます...

理化学研究所(理研)・ゲノム科学総合研究センター  wpe5.jpg (12116 バイト)   

         <日本のDNA研究機関...No.3> (ナンバーは、便宜上つけたものです ...)

 

は、“国際ヒトゲノム計画”の中で、21番染色体を解読した所です。いわゆる、国際

分業の中で行ったわけですが、」

「こういう仕事は、理化学研究所でやっているわけですか?」高杉が言った。

「はい。ここは、科学技術庁の所管です。2001年からは、文部科学省になるんです

かね、」

「ふーむ...何度か、この理化学研究所の前を、車で通ったことがありますよ。あれ

は、埼玉県の和光市あたりだったかと、」

「ええ。そこが本部だと思います。まあ、知っている人は、知っているんですが、」

「しかし、知らない人は知らないというわけですか」高杉は、笑った。「このあたりは、

埼玉県といっても、首都圏に入りますね」

「はい...まあ、ともかく、国際ヒトゲノム計画では、

慶応大学  wpe5.jpg (12116 バイト)    

        <日本のDNA研究機関...No.4> (ナンバーは、便宜上つけたものです ...)

 

が同じく21番染色体と、22番染色体を解読しています。日本が解読したのは、全体

の約7%でした。ちなみに、アメリカが67%、イギリスが22%を解読していますす。

残りは、ドイツなど、数カ国ということになります」

7%というのは、アメリカやイギリスに比べれば、ずいぶん少ないですねえ」高杉

は、体を横に揺らした。

「そうですねえ...当時のプロジェクトのリーダーで、理研・ゲノム科学総合研究セン

ターの和田所長は、1986年にカリフォルニア州サンタフェで開かれたゲノム配列研

究会を振り返り、こう言っているといいます。

 

  “会議ではヒトゲノム解読で、日本を追い越そうという話ばかりだった...”

 

  一体、いつ、日本は追い越されたのでしょうか。それは、まさに、本格的なヒトゲノ

ム解読が動き始めた時、日本は戦略的な切り替えが出来なかった所にありました。

したがって、この頃になると、ヒトゲノム解読は、研究というよりは膨大な解読作業

そのもので、30億塩基対の山を切り崩していく段階に入っていました。ここのギア

チェンジの際に、日本は大きく遅れをとってしまったわけです。このことについては、

後ほど分析します。

  それから、和田所長は、このようなことも言っているといいます...1980年代

に、理研のグループが、“4色の蛍光色素で、遺伝子の4種類の塩基を識別”して、

“塩基配列を解読する特許を申請”した。しかし、それはその後取り下げられた...

理由は、公的研究機関は研究成果を公表すべきで、特許権取得に走るのは、公の

利益に反するという意見があったためだったと...もし、この時、特許が成立してい

れば、日本が世界のDNA分析装置を制覇していたかもしれないということです」

「そのニュースは、私も覚えています。その特許申請を取り下げた時のニュース報道

も、確かそんな奇異なニュアンスだったことを記憶しています。時代としては、すでに

特許権の争奪の時代に入っていたのではなかったでしょうか?」

「はい。そうだったと思います」

「それでは、」響子が言った。「21世紀は、特許権取得の熾烈な競争の時代になる

のでしょうか?」

「そうだろうねえ...」外山は、大きく溜息を吐いた。「まさに、医療方面のヒトゲノム

ばかりでなく、穀物や食糧に関係するゲノムも、経済原理のもとで戦略化されていく

可能性があります」

「大変な時代になりそうですね」響子は、ノートパソコンのキーボードを2つ叩いた。

「それにしても、外山さん、ヒトゲノムそのもので、特許を取得する動きがあるでしょ

う。これには、納得しがたいものがありますね。ゲノムはもともと、そこにあったもの

であって、誰のものでもないでしょう。勝手にそんなもので特許を取られては、たまっ

たものではないでしょう」

「ええ。それは分かりますよ」外山は、微笑してうなづいた。「これは本来、誰のもの

でもありません。それは、まさしく、その通りです。また、しいて言えば、各個人の所

有物であり、最高度のプライバシーそのものでもあります」

「しかし、現実には、特許権の争奪で動いているわけでしょう?」

「まあ、そうですねえ...私としては、時代の中で、コトの推移を見守っていくという

立場です」

「これは、土地の所有権と似ていないかしら?」響子が言った。「もともと地球上の土

地は、誰のものでもありません。だけど、現実には、かなりしっかりとした所有権が確

立しています。私などは、全く土地を所有していませんが、」

「ハハハ、確かにそうだね」高杉は、顔をほころばせた。「本来、土地は、この地球上

に存在するすべての生命体の共有財産です。“命”は、その無機物と有機物の生態

系の中に、深く織り込まれています。それが時間軸と空間座標に最大限に広げる

と、私が“ニューパラダイム仮説”として展開している“36億年の彼”という地球生

命圏の人格になります。したがって、その一部を私有するなどということは、本来お

かしなことです」

「持たざる者、としてはですね、」外山は、口もとを崩した。

「まあ、思想と、便宜性は、分ける必要はありますね」

「さあ、それで、どうなのでしょうか?」響子が言った。「日本のゲノム研究の実態

は?」

「そう、ともかく、話を進めましょう」外山が言った。

《イネゲノム》                          house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「“イネゲノム”については、農水省・農業生物資源研究所(つくば市)の所でも多少触れ

ましたが、国際共同研究が進行しています」外山は、正面スクリーン見ながら説明し

た。「2000年の春までに、約800万個の塩基配列が解読され、年内には全体の4

割ほどが解読されているはずです。しかし、ベンチャー企業などの参入もあって、競

争は激化しています」

「つまり、解読も早まるということでしょうか?」響子が言った。

「結果的には、そうですね。しかし、ここもヒトゲノムと同様で、塩基配列を解読しただ

けでは何の意味もありません。問題は、その遺伝暗号の意味、遺伝子の機能の解

析にあります。

  ちなみに、イネゲノムは4億3000万の塩基対からなり、約3万の遺伝子があると

考えられています。また、今の所、農業上有用と思われる遺伝子は、ほとんど見つ

かっていないとも言われます」

「イネゲノムに関しては、日本は進んでいると聞いていますが、どんなことをやってい

るんですか?」高杉が聞いた。

“イネ・レトロトランスポゾン”の実験がよく知られています。この“イネ・レトロトランス

ポゾン”というのは、特殊な遺伝子なのですが、これを使って突然変異を起こしたイネ

3万種類以上作っています。そして、変異の現れ方から、遺伝子の機能を突き止

めていこうというわけです」

「3万種類のイネというのは、約3万の遺伝子全てということかしら、」

「ふーむ、大変な作業になりますね」

「確かに、口で言うほど簡単ではありません。しかし、遺伝子の機能を解析するに

は、そうした地道で膨大な量の作業が必要だということです」

「コンピューターがなければ無理ね」響子が、高杉に言った。

「ああ、」

「すでに、“イネの背丈を決める遺伝子”、“乾燥への強さにかかわる遺伝子”、“光合

成の効率にかかわる遺伝子”等、14種類の遺伝子を特定し、特許を出願しているそ

うです」

「うーん...これは、農水省の(農業)生物資源研究所(つくば市)の特許出願ですね」

「はい、」

「すると、有用な遺伝子が、全く見つかっていないというわけではないのですね?」高

杉が言った。

「まあ、いずれは、ほとんどが解明されていくわけです。しかし、現在はまだ、白紙に

近い状態だということでしょうか、」

「そして、特許になるわけですか?」

「はい」外山は、うなづいた。「日本のミレニアム・ゲノム計画では、2004年までに、

100個の遺伝子の特定を目指しています」

「アメリカでは、どうなのですか?」

「ええと...」響子が小さく手を上げた。「それは、私の方から説明しますわ...この

分野でも、ヒトゲノム同様に、欧米が本腰を入れた追撃を開始しています。ヒトゲノム

解読で活躍したセレーラ社や、あの有名なデュポン社、それから英国のノバルティス

もイネゲノムの解読を始めています。

  さらに、欧米企業では、主食の小麦やトウモロコシでも、ゲノム解読に着手してい

るようです。主要な植物は、ここ2、3年で、次々に解読が完了していくと思われま

す。ですが...繰り返しますが、問題はその遺伝子の機能を知ることです。その遺

伝子の作り出す、タンパク質の構造と機能を解明していくことが重要なのです」

「響子さん、いいかしら?」ミミちゃんが、向こうのパソコンの方から言った。

「あ、はい」響子は、片手を上げた。「それじゃ、ミミちゃん、お願いします」

「うん!」

wpe89.jpg (15483 バイト) 《 ミミちゃんガイド...No.4 》 ...wpe5.jpg (12116 バイト)wpe5.jpg (12116 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)


< ミレニアム・ゲノム計画 >

             ミミちゃん/談               wpe75.jpg (13885 バイト)

「この“ミレニアム・ゲノム計画”は、すでに何度も登場していますが、これは日本政府

が2000年度に開始したプロジェクトです。この計画の中で、イネゲノムの解読に関して

は、約50億円(2000年度)が投じられています。また、研究の対象も、ゲノムの解読か

ら、遺伝子の機能解明に移りつつあります。

  したがって、イネゲノムの解読の先には、コンピューターを利用したバイオインフォ

マティックス(生物情報科学)や、プロテオミクス(タンパク質発現の研究)、完全長 

cDNAの“ライブラリー作り”などが視野に入ってきます...」

wpe75.jpg (13885 バイト)                             wpe5.jpg (12116 バイト)wpeC.jpg (18013 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト) 

 

 

「はい、ご苦労様、ミミちゃん...

  ええ...今年、2000年の2月には、農水省の外郭団体などが出資して、イネゲ

ノムを専門に研究するベンチャー企業が設立されています。

     植物ゲノムセンター <ベンチャー企業> (茨城県・つくば市)  wpe5.jpg (12116 バイト)        

                              <日本のDNA研究機関...No.5> 

    植物ディー・エヌ・エー機能研究所 wpe5.jpg (12116 バイト)

                           <ベンチャー企業> (茨城県・つくば市)       

                              <日本のDNA研究機関...No.6> 

 

  上記の2社は、いずれも茨城県つくば市に設立されたものです。イネゲノムの分野

で、欧米の追撃に対抗する研究機関です。ベンチャー企業という形態でもあり、その

特質を生かした活躍が期待されています...」

「響子さん!もう一度、いいかしら?」ミミちゃんが聞いた。

「はい。どうぞ、」

 

wpe89.jpg (15483 バイト) 《 ミミちゃんガイド...No.4 》 ...wpe5.jpg (12116 バイト)wpe5.jpg (12116 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

< ベンチャー企業 >

             ミミちゃん/談               wpe75.jpg (13885 バイト)

「ベンチャー企業は、“ゲノム創薬”を目指している方が圧倒的に数が多いと思います。

今の所、こちらの方が、はるかにビジネスチャンスが大きいからです。アメリカでは、ゲノ

ム創薬を目指すベンチャー企業は、約500社はあると言われます。

  ヒトゲノム解読のセレーラ社や、遺伝子診断サービスのミリヤッド社、タンパク質チップ

シファージェン社などが良く知られています。

 ちなみに“ゲノム創薬”では、“最先端研究をする能力”と、“医療現場のニーズを見極

める能力”という2つの能力が必要といわれます。したがって、この仕事は、個人研究を

優先する大学などの学術研究機関で進めるのは難しく、組織が複雑な大企業にも適さ

ないといわれます。したがって、この中間に位置し、かつ、学術研究機関と大企業を橋渡

しするのが、いわゆる“ベンチャー企業の仕事”になります...」

 wpe75.jpg (13885 バイト)                             wpe5.jpg (12116 バイト)wpeC.jpg (18013 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト) 

 

「はい、ミミちゃん!ご苦労様でした!

  ええと...その他に...日本のDNA研究機関で、特に活躍が目立っている所

を、いくつか紹介してみましょうか...

    奈良先端科学技術大学院大学   wpe5.jpg (12116 バイト)     

                             <日本のDNA研究機関...No.7> 

  枯草菌のゲノム解析は、ここが中心になって進められました。

枯草菌の遺伝子の機能解析でも、先行しています。

    名古屋大学        wpe5.jpg (12116 バイト)     

                             <日本のDNA研究機関...No.8>

  タバコの葉緑体のゲノムを全解読しています。

 

  うーん...他に何処があるかしら?」

「色々ありますが...まず、へリックス研究所を紹介しておきますかね、」

「あ、はい。ええと...へリックス研究所ですね...」

  響子は、手元のコントローラーで、スクリーンのモザイク画像を操作した。

 

《へリックス研究所 <ベンチャー企業> 千葉県・木更津市   wpe73.jpg (32240 バイト)wpe75.jpg (13885 バイト)

                             <日本のDNA研究機関...No.9>

 

「さあ...ええ、出ました...うーん、このへリックス研究所も、ベンチャー企業です

ね。通産省の基盤技術研究促進センターと、民間企業10社によって設立されてい

ます。場所は“かずさDNA研究所”と同じく、千葉県の木更津市にあります...」

「このへリックス研究所は、完全長 cDNA(相補的DNA)の収集と機能解析で、現在世

界のトップを走っているはずです」外山が言った。

「このcDNAは、mRNA(メッセンジャーRNA)から逆転写して人工合成したもので、余分な

配列を含まない、人工のタンパク質情報そのものでしたわね、」

「はい」

「そして、これは本物で、実際にタンパク質を合成できるものだと、」

「そうです。これはmRNAをもとに、逆転写酵素を使ってコピーしたものです」

「この分野では、日本はまだトップを走っているということですか?」高杉が聞いた。

「そうです。ヒトゲノムの解読では、日本は大きく水を開けられてしまいましたが、ヒト

ゲノム以外の所では、よく健闘していると思いますね。実際に、」

「日本はどうも、こうした戦略的な事態に対処するのが下手ですねえ。ヒトゲノム解読

の様なビッグサイエンスや、国家戦略なども含めて、基本的な戦略構想というものを

描けない...

  それから、これまで聞いてきたところでも、通産省の基盤技術研究促進センター、

科学技術庁の理化学研究所、農水省の農業生物資源研究所といった具合に、3つ

もの省庁がからんでいます。私には詳しいことは分りませんが、日本の縦割り行政

から言って、とても整合性が取れているとは思えませんね」

  外山は、黙ってうなづいた。

「政治家が国家戦略を描けないように、科学者もやはり科学戦略というものを描けな

いのでしょうか、」

「そうですねえ...そうした、しっかりとした戦略的な上位システムを作ることかも知

れません。そして、そこに権限を与え、さらに予算や人材を思い切ってコントロールし

ていけるようだといいのですが、」

「うーむ...“権限を与える”という所が下手なのでしょうか?」

「そうかも知れません」

「あの、それでは、高杉さんは、どうしたら良いとお考えなのでしょうか?」

「うむ...ともかく、日本は倫理問題環境問題も含めた、“科学行政”という大道

を、もっと活発化していくべきだと思います。今後、この科学技術上の政治的決断

が、人類文明のカギを握って行くことになります。

  また、科学技術の分野ばかりでなく、芸術や教育や政治についても、国民がしっ

かりと議論を積み重ねていくことが、大事ですね」

「うーん...科学技術上の政治的決断ですか。例えば、どんなものがあるのかし

ら?」

「過去の例でいえば、原子爆弾の開発があります。そのために、今でも地球上には

危険な核爆弾が大量に存在しています。そして、最近の例では、神の領域といわれ

ヒトゲノムの解読に手を付けたこと。ここはもっと、人類文明全体で、慎重な議論

が尽くされるべきだったと思っています。

  まあ、これほど大きな問題ではなくても、科学技術における政治的決断、文明的

決断の機会が増えてくるのは確かです。その場面で、ただ成り行きに任せるのでは

なく、正しい決断をしていくことが重要だということです。それ如何によっては、ご存知

のように、全面核戦争や、遺伝子兵器による文明の絶滅ということもあり得るわけで

す」

「まさに、そのとおりだと思います」外山が言った。

「はい、ミミちゃん」響子が言った。「お願いします、」

「うん!」ミミちゃんは、長い耳を揺らしてうなづいた。

wpe89.jpg (15483 バイト) 《 ミミちゃんガイド...No.4 》 ...wpe5.jpg (12116 バイト)wpe5.jpg (12116 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

< 日本の cDNA(相補的DNA)研究について...>

             ミミちゃん/談               wpe75.jpg (13885 バイト)

「ええと、すでに何度も話していますが、このcDNAは、mRNAから逆転写酵素を使って

人工合成したものです。したがって、余分な配列を含まない、タンパク質情報そのもので

す。今後、遺伝子の機能解明や、それによって生産されるタンパク質の研究において、

cDNA完全長cDNAのライブラリー編集は非常に重要な領域になってきます。この分

野では、現在日本が最も進んでいます...

 <完全長cDNA : mRNAを頭から尻尾まで、完全に写し取ったcDNAのことです。>

 

  日本は、RNAの研究では、伝統的に強いものがあると言われます。mRNAにキャッ

プ構造と呼ばれる特異な構造があることも発見していますし、mRNAをもとにcDNAを

作り出し、それをクローン化する独自技術をも発達させてきました。

  へリックス研究所は、通産省がこの日本の得意分野に着目し、この分野を官民で強

力に推進していくために設立したベンチャー企業です。ヒトゲノムの解読が完了し、舞台

がいよいよタンパク質に移り、cDNAはまさにそのキイストーン(かなめ石)なりつつあるよ

うです」

 

< オリゴキャップ法

        外山陽一郎/談/ (少し難しい話になります)   <参考文献: 現代用語の基礎知識 > wpe75.jpg (13885 バイト)

 

cDNAは、ミミ君が説明したように、mRNAから逆転写して作るものです。しかし、普通

の方法で採取したcDNAの集団(ライブラリー)には、完全長cDNAが10%程度しか含まれ

ていません。

  そこで、真核生物のmRNAの頭には、完全な遺伝情報をもつmRNAの旗印ともいえ

る、特異な構造(キャップ構造)があることに着目しました。ええ...これは、東大医科学研

究所癌ウイルス研究部の菅野純夫助教授らのグループですね。彼等は、3段階の酵素

反応で、キャップ構造を人工合成した14塩基程度の短いRNA配列(オリゴヌクレオチド)

置き換える方法を確立しました。これが、いわゆる“オリゴキャップ法”と呼ばれるもの

です。

  この方法だと、mRNAから逆転写して作られるcDNAの集団(ライブラリー)には、完全

cDNAが50%〜80%も含まれるといわれます。へリックス研究所では、オリゴキャッ

プ法にコンピューターソフトなどによる改良を加え、完全長cDNAの収率を90%まで高

めています。

 wpe75.jpg (13885 バイト)                              wpe5.jpg (12116 バイト)wpeC.jpg (18013 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト) 

 

 

   2.ヒトゲノム解読で、日本は何故追い越されたのか...     

           house5.114.2.jpg (1340 バイト)  wpeA6.jpg (14454 バイト)wpe89.jpg (15483 バイト)         house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「さあ...この分野における、日本の課題と展望に話を移します...」

  響子は、正面スクリーンの方に歩み寄り、作業テーブルの外山と高杉を振り返っ

た。そして、後の2、3歩は、後ろ向きのままスクリーンに近づいた。

「日本は、ヒトゲノムの解読では、最初は先進的にリードしていたと聞きます。しか

し、いつの間にか、遅れをとってしまいました。いったい何故遅れをとったのでしょ

うか...」

「日本は、さきほども言ったように、戦略に弱いところがあります」外山が、首を斜め

にして言った。「研究以前の問題として、行政的な予算配分の段階で、戦略を欠いて

しまっていたようです」

「そうですね、」高杉が、うなづいた「あらゆる分野での国家戦略は、ほんらい政治家

の仕事です。しかし、彼等はそうした意味では、遊んでいますね。結果的に...」

「私は、政治のことは分りませんが、21世紀の“科学行政”では、戦略的な所をしっ

かりと組み上げてもらいたいですね。戦略的に誤ると、末端の戦術面でいかに努力

しても、どうにもならないものがあります」

「まさに、その通りだと思います」

「はい...」響子は、スクリーンの脇でうなづいた。「ええと...日本の大規模ゲノム

研究が非効率だった原因として、参考文献に以下のデータがありした。しっかりと、

列記しておきます...」

wpe5.jpg (12116 バイト)日本の大規模ゲノム研究が、非効率だった原因

 

(1)          

  ゲノム研究に参画する科学技術庁、通産省、厚生省、文部省、

農水省の5省庁が、戦略的な予算配分が出来なかった。

 

(2)          

  研究者間の連携が少なかった。

 

(3)          

  税制の制約により、ヒトゲノム計画に資金を投じた英国のウェルカム・ト

ラストのような資金提供組織が国内になかった。

 

(4)          

  国の研究機関に、ゲノム研究費の配分が偏った。

 

(5)          

  ゲノム研究に取り組むベンチャー企業が、ほとんど存在しなかった。

 

(6)          

  民間企業が、ゲノム研究のリスクを負おうとしなかった。

 

(7)          

  バイオインフォマティックスのような学際的研究を育むことが出来なかっ

た。

   house5.114.2.jpg (1340 バイト)                            

 

 

 

「それでは、高杉塾長、」響子が、高杉に軽く頭を下げた。「このことについて、最後

に一言お願いします」

「そうですねえ...強力なリーダーシップが発揮され、大きく戦略的な舵を切ることが

望まれます。こうした伝統的な得手・不得手というものは、一朝一夕にできるもので

はないのですが、“明治維新”のように、一気に大改造が成就することもあるので

す。いずれにしても、現在の日本は、まさにあらゆる分野で、こうした大改造が急務

となっています。ぜひ、実現してほしいものですね」

「はい。ええ...それでは、外山さんも何か?」

「まあ...ヒトゲノムの解読が、人類文明にどのように貢献できるかが、本来の課題

です。国家や企業間の競争や特許権の騒動は、別の次元の話です。

  また、ここはすでに“神の領域”とも言われているわけですから、文明全体として

の、謙虚で慎重な対応が必要だと思います」

「はい。どうもありがとうございました。ええ...これで終了します」

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「里中響子です。とりあえず、今回の特集は、これで終了します。後は、日本の主な

ゲノム研究機関を紹介しておこうと思うのですが、これは年が明けた21世紀初頭の

仕事になると思います。

 

  ええと、それから、“国際・軍事情勢”担当の大川主任の方から、遺伝子兵器や遺

伝子テロの可能性について一言触れておきたいといって来ています。近いうちに、そ

のことについて、私と大川主任のショート対談をセットします。こちらの方も、ぜひご覧

になって下さい」

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