My Work Station/group C/量子情報科学/量子もつれ・マクロへの拡大 |
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トップページ/Hot Spot/Menu/最新のアップロード 担当 : 高杉 光一 |
プロローグ | ・・・ 忘年会の前に、ひと仕事 ・・・ | 2009.12.23 |
No.1 | 〔1〕 “量子もつれ”を、光合成システムが利用! | 2009.12.23 |
No.2 | 〔2〕 デコヒーレンス/オジャマ虫を無くすには? | 2010. 1. 7 |
No.3 | <オジャマ虫が・・・もつれた関係を破壊する!> | 2010. 1. 7 |
No.4 | <“ダイナミック量子もつれ”・・・とは?> | 2010. 1. 7 |
No.5 | <“受動的な誤り訂正”・・・とは?> | 2010. 1. 7 |
参考文献 日経サイエンス /2009 - 11 /NEWS
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葉緑素の量子パワー 日経サイエンス /2010 - 01 /NEWS SCAN消えやすく、生まれやすいもの |
・・・ 忘年会の前に、ひと仕事・・・
「折原マチコです... うーん...年の瀬になって、“量子もつれ”に関するニュースが、2つたまっていました。企画・ 担当の響子さんが、“年内にか片づけてしまいましょう”と言っています。それで、《クラブ・須弥 山》での忘年会の前に、急きょ設定して、片づけることにしました。 あ...これが、伸びてしまったら、大晦日をまたぐことになります。来年は “量子/開かずの 扉の内部” /【2・・・実証実験】の《新・ページ》がスタートします。その前に...うーん...新 年会の前にでも、セットして、片づけようかしら...来年も、忙しくなりそうでね。 ええ...年越し/正月は、鹿村/鳴沢温泉へ行こうと思っています。でも、ひょっとしたら、行 けないかも知れません。ヘリコプターでの日本アルプス越えはあきらめて、ハイパーリンク・ゲート で行くなら可能ですけど、それでは、つまらないわけよね。 あ、いずれにしても、先に行く茜さんたちの連絡待ちになります。温泉に入って、お雑煮を食べ て、一泊して、帰って来るのもありです。それとも、新年に入ってから、行くことになるかも知れま せん...」
《クラブ・須弥山》のインターネット・カメラが稼働していた。ボンヤリしているマチコの姿をとら えている。それから、クラブ・ママの弥生が、まばらな客の中を、カクテル・グラスの盆を運んでい るのを映した。 弥生が、スッ、とマチコの前にグラスを1つ置いて、微笑した。マチコがうなづいて、グラスを取 り上げ、口に当てた。音声の方はオフになっている。二人が、何を話しているのかは聞こえない。 弥生も椅子に掛け、タバコに火を付ける。談笑しながら、響子の作業の方を見ている... 響子の方は、カクテル・グラスには手をつけなかった。ワイド・モニターを、専用のLAN・ケーブ ルを使い、高杉・塾長の<My Work Station>と接続してい様子だった。キーボードを叩き、デ ータを呼び出していた。それがすむと、自分のノート・パソコンを開き、データをゆっくりとスクロー ルしている。 しばらくして、高杉がボックス席の間を歩いてきた。手に、ポン助からもらった焼き芋の袋を持っ ている。テーブルに、それを置いた。焼き芋を2つに折り、みんなに配った。それを半分ほど食べ ると、弥生が立ち上がった。
「では...」弥生が言った。「いいかしら?」 「ああ...」高杉が、弥生を見上げて言った。「すまなかったな、」 「いえ、」弥生が、目を細めた。「いつでもどうぞ、大歓迎ですわ。最近は、こうしたサービスも広げ ていますの」 「時間になったら、行きますわ、」響子が、弥生に言った。 「はい、」弥生が、嬉しそうに口をすぼめ、頭を下げ、テーブルを離れた。 弥生が、食いかけの焼き芋を手に持ち、クラブの中を見まわしながら、カウンターの方へ戻っ て行く...彼等は、焼き芋を食べ終わると、すぐに考察に入った。
「ええと...」マチコが、モニターを見ながら言った。「これはさあ... 光合成システムの中に...これまで知られていなかった...“量子もつれ”の現象が、見えて きた...ということなのかしら?」 「そうですね...」響子が、両手をすり合わせた。「そういうことだと思いますわ... アメリカ/カリフォルニア大学/バークレイ校/化学者:サロバールが...緑色光合成細菌で 見つけたようです。 それから、カナダ/トロント大学/化学者:ショールズが...近く発表予定の研究の中で、海 生藻類の1種に...同様の量子効果/・・・“量子もつれ”を、突き止めているようです。 これらの研究は...“奇妙な量子の振る舞い”を、生物体が利用していることを示す、“初めて の証拠”だと言います。“量子もつれ”は、量子コンピューターや量子通信への組み込みで、次世 代テクノロジーの開発が進められていますが、今回、生物体での応用が、見つかったわけです」 「うーん...」マチコが、頬に手を当てた。「葉緑素の...光合成の中に見つかったのかあ... 光合成というのはさあ...最古の生物化石/ストロマトライト/・・・シアノバクテリアで、最初 に始まっているわけよね。そんな太古の昔から、“量子もつれ”が利用されていたわけかしら... でも、さあ、こうした研究というのは、まだ新しい分野なわけよね...?」 「まあ...」高杉が、口に手を当てた。「“量子情報科学”...それ自体が、新しい学問です... 私たちも...《量子情報科学のスタート》のページを...“日経サイエンス/2000年6月、 2003年2月”を参考にし...2003年にスタートしました。ページ・タイトルにも示されているよう に、新しい学問分野/新しい学問体系が、歴史的スタートを宣言し、まだ6年というところです。 私たちは...この“量子情報科学/・・・次世代テクノロジーの基盤的技術”が、“文明の第 3ステージ/意識・情報革命”という時代を、切り開いていくものと考えています。これが、“生物体 での活用/生態系での実証”として確認されたことは、今後の展開に大きな意味を持ちます」 「うーん...」マチコが、高杉を見て、腕組みをした。「そういう方向へ、伸びて行くのかしら...」 「そうですね...」高杉が言った。「私たちは、これまで... “量子もつれ”というものを、基礎物理学や量子コンピューターの分野で扱ってきました。しかし、 いよいよ、生物体/生命体に拡大し、ステージ・アップしてきました。非常にエキサイティングな 状況になって来ました。 これは、うかうかしていると、“予想外の方向”へ発展して行きそうですねえ...“人類文明の ・・・想像を絶する方向への展開”が、考えられます。かつては、“原子爆弾”や、“コンピュータ ー”や、“DNA・遺伝子情報・・・ヒトゲノムの解読”などは、想像もできなかった方向/展開です。 そうした、“未知のパラダイム・・・想像を絶する次世代テクノロジー”が、いよいよ動き出し たことを、知るべきでしょう。 現在、“地球温暖化”に際し...経済的・価値観で国際社会が大混乱の様相ですが...やが て、“この世の姿が・・・大きく変貌して行く”ような...パラダイム・シフトが起こることは確実で しょう...ただ、それがどんなものかは、まだ見えて来ていません...」 「うーん...」マチコが、クラブの天井を見上げた。「そんな時代が、迫っているわけね...」
「ええと、高杉さん...」響子が、顎に指を当てた。「この光合成システムの中での...“量子もつ れ”の活用/応用というのは...そもそも、どういうものなのでしょうか?」 「はい、そうですね...」高杉がうなづき、ワイド・モニターに肩を寄せた。「ご存じのように... 植物は光合成によって、太陽光をエネルギーに変換しています。これは、いわば、自然界に膨 大に存在する、超高性能・太陽電池とも言えるものです...この分野で、最近...光合成システ ムが、“量子世界の奇妙な現象”/“量子もつれ”を利用していることが、詳しく分かって来た、と いうことです」 「はい...」響子が、うなづいた。「“太陽光を補足する=新しい手段”に結び付く...そうした可 能性がある、ということかしら?」 「まあ、そうですね...その可能性もあります...」 「はい、」 「ええと、いいですか... 全ての光合成生物は...“光をとらえる・・・タンパク質のアンテナ”を...細胞内に持ってい ます。そして、そのアンテナは光をエネルギーに変え...そのエネルギーを反応中心に導いて います。 ここで言う、反応中心というのは...一連の反応の引き金を引く重要分子です。ここでは、電 子を放出して、化学的変換を促しているようですね。まあ、これ以上の詳しいことは、“参考文献” には記載されていません。研究論文ではなく、ニュース記事なので、ガイドラインだけですから、」 「いずれ...」響子が言った。「研究論文の方も、目にすることになりますね、」 「そうですね...」高杉が、モニターに目を落とした。「ともかく...こうしたアンテナでは、“難しい バランス”が求められる...ということですねえ、」 「バランスですか...?」響子が、聞き返した。 「そうです。そこがポイントになります... というのは...“アンテナが・・・可能な限り多くの太陽光を吸収するには・・・十分な大きさが必 要”になります...しかし、“大きくなり過ぎると・・・今度は逆に・・・反応中心にエネルギーをうまく 送れなくなる”...と言います。 ここでは、詳しい説明はありませんが、何となく理解できますね...常に存在するパラドックス (逆説)です。そして、絶妙なバランスを求められるわけです。そこで、量子力学/量子効果/・・・ “量子もつれ”の登場になります...」 「うーん...」マチコが体をよじり、大きく頭をかしげた。
「いいですか...」高杉が、マチコを見て言った。 「うん...」マチコが、うなづいた。 「量子系というのは... “同時に多数の状態が混在する・・・重ね合わせ”...に、なり得るわけですね。このことは、何 度も説明してきています...まあ、何度聞いても、理解しがたい所があるわけですがね... そして、“それらの状態”は...“互いに干渉”し得るわけです...ある時には、建設的に強め 合い...別の時には、互いに打ち消し合う...というようにです...」 「うーん...」マチコが、頭を深くかしげた。 「つまり、いいですか...こういうことです... アンテナに入って来たエネルギーを...精妙な“重ね合わせ状態”の、それぞれに分配し... それ自身が、建設的に強め合うような干渉をしている、というわけです...これで、エネルギー を100%に近い効率で、反応中心に輸送している...と、こういうコトのようですねえ、」 「うーん...」マチコが、反対側に頭をかしげた。 「詳しくは説明されていませんが... このあたりに...量子効果/・・・“量子もつれ”が、活用されているようですね。詳しいことは、 いずれ研究論文の方で発表されるでしょう」 「そうしたことが...」響子が、ノート・パソコンから顔を上げた。「緑色光合成細菌や、海生藻類 の1種で、観察された...というわけですね?」 「そうです... さらに...受け取ったエネルギーを、近くのアンテナどうしで分け合っていて...単なる混合 状態というわけではないのです。これらは量子力学的な意味で...広範囲に及び、エネルギー が“量子もつれ状態”になっているということです...」 「“量子もつれ状態の・・・エネルギー”...ということかしら?」 「そうらしいですねえ... ま、それ以上の詳しいことは分かりません。それが、どんなことを意味するのかも、分かりませ ん。ただ、“少しずつ分かってきた/見えてきた”ということで、これから研究が本格化して行くの でしょう...」 「はい...」響子が言った。「光合成というのは... 光のエネルギーを使って...吸収したCO2と水分とから、有機化合物を合成することですね。 これというのは...こうした光合成/炭酸同化作用の...前段階の話なのかしら...?」 「うーむ... ともかく...化学反応/生物体の中の大化学工場というのは、一連の流れです。したがって、 これだけのデータでは、詳しいことは分かりません... しかし、いずれにしても、これらの系における...“曖昧な量子状態”/“量子もつれ状態”は、 “常温の複雑な生物系に存在するにもかかわらず・・・寿命が比較的長い”ということです。これ は、注目すべきことだということですね」 「はい...」響子が、うなづいた。「うーん... “量子もつれ寿命が・・・比較的長い”わけですね...量子物理学の実験では、外部からかす かな刺激が加わっただけで、“重ね合わせ状態”は容易に崩れてしまうと言います。何故でしょう か?これは、常温・超伝導の話と、よく似ていないでしょうか?」 「うーむ...そうですねえ... ともかく、これは...“生物体の中で確認された・・・量子もつれの・・・初めての証拠”だと いうことです。ここからが、“生物体における・・・量子情報科学のスタート”になるのでしょう。 “量子世界の・・・生物体/生命体/意識体=心の領域との・・・親和性が顕在化”...して 来るのかも知れません...」 「生物体の中にはさあ...」マチコが言った。「すでに、そういう未知の技術が...太古の時代か ら...隠れて存在していた...ということよね...?」 「進化しつつ...ですわ、」響子が言った。 「うん...」マチコが、うなづいた。「でもさあ...その頃にも、“量子もつれ”はあったわけよね?」 「そうですね...」
「先ほども言ったように...」高杉が言った。「とりあえずは... この微生物学と、量子情報科学の接点を、さらに研究して行けばいいわけです。当面の課題と しては...現在の太陽光発電よりも、コンパクトで効率的な、“バイオ・量子・太陽電池”ができる 可能性があるそうです。 1枚の木の葉でも、こうした途方もない技術が、濃縮されているということですね。そうしたもの が、山全体を、緑で覆い尽くしているということです。生態系の中に、ホモサピエンスが出現して きたのも、先カンブリア時代以来の、光合成システムが存在していたからです。 つまり、光合成システムがあってこその、地球生命圏というわけです。葉緑素/クロロフィルに よる光合成システムでの...太陽エネルギーの固定があり...その膨大な蓄積の上に、巨大 生命圏が繁栄しているということです...いわば、この生命圏の核に近いものです...」 「はい...」響子が、うなづいた。「そのうちに...生物化学/生化学の方でも、研究論文が続々 と出てきそうですね、」 「そうですねえ...」高杉が、顔を和ませた。「この方面に進む若い研究者も、多くなるでしょうね え...」 「“量子もつれ”というのはさあ...」マチコが言った。「その辺にも、ゴロゴロと、いっぱいあるわ けかしら?」 「そういうことです」高杉が言った。「生物的なものでは...他に、鳥の例が見つかっているようで すね」 「鳥ですか?」響子が言った。 「そうです... 鳥が...方位磁石として利用している可能性があるとされる...“磁気感受性分子”の中で、 “電子=量子もつれ”が、“標準的予測より・・・10〜100倍も長く保持される”、ということが、発 見されているようです。 これは...シンガポール大学/べドラル、リーパーの研究のようですが...ここには、詳しい データはありません」 「はい、」マチコが言った。
〔2〕
デコヒーレンス/オジャマ虫を無くすには?
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高杉光一/里中響子/折原マチコが...鏡餅の置かれたテーブルで、インターネット・カ メラに向かい、そろって頭を下げた。代表して...高杉が言った。
「謹んで年頭の挨拶を申しあげます! 今年もよろしくお願いします! 」 ***********************************************
「折原マチコです...」マチコが言った。「明けましておめでとうございます! ここは、《クラブ須弥山》です...私たちは、午後から新年会の予定です。その前に、忘年会 と同様に、ひと仕事をするので、よろしくお願いします。 “量子もつれ”に関する、2つ目のニュースの考察です。塾長によれば、“量子もつれ”に関す る、別の側面が見えてくるということです」
「里中響子です...」響子が、手を握って頭を下げた。「ええ... 2010年・・・胸騒ぎのする新年が、いよいよスタートしました。今年は、私たちに、どんな運命 が待ち受けているのでしょうか。今から、心の準備をしておくことが必要です。この機会/新年に 際し、一言申し上げておきます... 《危機管理センター》 /管理者として言えることは...“国民が心を1つにし・・・国民の総 意で乗り切って行く”、ということです。大変な苦労はあるとは思いますが...“国民の総意が 反映される国家/社会ならば・・・怖いものは無し”、ということです。 いよいよ、私たちは...2010年・・・“大艱難(だいかんなん)の時代の・・・最初の波頭”に、接 触し始めたようです。やがて本格的な大津波が、輻輳(ふくそう)してやって来ることは確実です。今 こそ、頑丈な“万能型・防護力”/〔人間の巣〕の、全国展開を始める時だと思います。 さあ...“日本丸の舵取り”において...今年が、良い年であることを祈っています。夏には、 参議院選挙があるわけですが、“誰が正しいことを言っているか”、見極めて行って欲しいと思い ます。 日本の政治は、今度こそ...7月の参議院選挙には...“国家の将来展望/・・・国家の青 写真”の提示は、避けて通ることができません。“誰のための国家/何のための国家/誰が 主権者の国家”なのかということも、より先鋭化し明確になって来ると思います...」
「今年は...」高杉が、二人に言った。「大変な年になりそうですねえ... 私たちも、新年から大忙しです。しかし、それが本格化するのは、少し先の話になるでしょう。 その前に、できる仕事は済ませておきたいと思います。響子さんも心配でしょうが、よろしくお願 いします」 「はい...」響子が、インターネット・カメラを見上げ、小さく顔を崩して見せた。 「みんなも...」マチコが、ポン助とブラッキーの方を見た。「いいかしら?」 「おう!」ポン助が言った。 「いいぜ!」ブラッキーが言った。 「はい、」マチコが、コクリとうなづいた。
<デコヒーレンス/オジャマ虫が・・・純愛を破壊する!
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「さて...」高杉が言った。「さっそく、始めますか...」 「はい...」響子が、組み上げた脚の上で手を結び、モニターをのぞいた。 「ええ...」高杉が言った。「私たちは、これまで... “量子力学が当てはまるのは、ミクロの世界”であり...“マクロの世界は、一般相対性理論” が、支配的であると言ってきました。そして、その境界領域/競合領域が、ナノ・テクノロジー領 域だとも...説明してきました。 もちろん、この説明は間違いではないのですが...原理的に、それが“キッチリと分離”されて いるわけではないわけです。双方が互いに譲らないから、ダブル・スタンダードとなっているわけ です」 「うん!」マチコが、うなづいた。 「両理論を...ガッチリと接合し... つまり...電磁気力と弱い力と強い力...そして、最後の重力/重力理論/一般相対性理 論を統合できれば...これらの4種類の力に分裂する以前の...統一的な力/ビッグバンの時 の、卵の状態に遡ることができるわけです。 卵がいいのですが、割れてしまったということで、花瓶(かびん)にしましょうか...4つに割れて しまった花瓶を、細かな破片を残して、元の形の花瓶に張り合わせることができそうだということ です。しかし、最後の重力/重力理論/一般相対性理論が、うまく統合できないわけですねえ」 「どうしてかしら...?」マチコが聞いた。 「まず、パラダイムが異なるということですねえ。理論の基礎になる、時空間のあり方が異なると いうことです... そこで、“ひも理論”などで...何とか、強力なボンドで固めようとしているのですが...理論 系が複雑な迷路のようになってしまっているとも聞きます。私などにはそうした光景は、“曖昧さ の壁”のようにも見えてしまいます...“超えることのできない壁”です...」 「うーん...」マチコが、首をかしげた。「基本的なことを聞くけど... ビッグバンがあってさあ...“元々の力/・・・卵/・・・花瓶”というものがあり...そこから、 強い力と、弱い力と、電磁気力と、それに重力の...4種類の力に...分裂してきた、というこ とかしら?」 「順序はともかく...そう分裂してきたと考えられています... 自然界/物理的・宇宙の運行は...この4つの基本的な力に分類されます。重力と電磁気力 は、私たちは古くから利用し、生活においても馴染みの深いものです。それから、原子力や核爆 弾は、弱い力/弱い核力/弱い相互作用を操作するものです。 そして、強い力/核力/強い相互作用は...量子色力学になるわけですが、このエネルギ ーはまだ、人類文明では利用されていません。この強い力は、核爆弾などとは比較にならない ほどの、莫大なエネルギーを持っています...」 「うーん...」マチコが、首をひねった。「4つに割れただけでさあ...もう、分裂することはない のかしら?」 「そうですねえ... 詳しいことは...ここにデータを持ち合わせていませんが...まだ分裂して行く可能性はある ようです。それに、現在観測されているのは4種類の力ですが、まだ隠れた破片/隠れた力は、 存在するようです。ただ、自然界にある力は、大きくはこの4種類に分類されるということです」 「うん...」マチコが、うなづいた。「生命力なんかは...のぞいて...ということよね?」 「そうですねえ...」高杉が、満足そうにほほ笑み、腕を組んだ。「生命力や意識を... 重力場方程式/一般相対性理論や...シュレーディンガーの波動方程式/量子力学に、ど のように導入するか、今後の大問題になります。もちろん、現在でも大問題なのでしょうが、とて も、導入できる状況には至っていませんねえ... まあ、発想の大転換は、不可避です...“物の領域”と“心の領域”の大統合の中で進んで行 く...新しい数学なのかも知れません...」 「はたして...」響子が言った。「それが...可能になるでしょうか...?」 「まあ...」高杉が、唇を閉じてうなづいた。「可能でしょうねえ... 不可能というのは、ありません...別の形の、“変数=神様”を...数式に導入してもいいわ けです。想像はできませんが...考えることに、制限はありません...」 「うーん...」響子が、唇に指を当て、頭をかしげた。 「そういう意味では、私たちがまさに...“神”...なのかも知れないのです...」 マチコが、ニッコリとうなづいた。そして、ミケの頭をなでた。 「さて...」高杉が言った。「話を進めましょう... つまり...量子力学/量子効果というものは...どうやら、ミクロ世界に限定されたものでは ない、ということですねえ。ここ最近/・・・10年間ほどの間に...影響力を持つようになった“新 たな見解/新たな見方”によると...こういうことだそうです。 日常生活で...量子効果が見えないのは...サイズが大きいからではなく...“量子効果そ のものの複雑さによって・・・量子効果がカモフラージュされているから”...なのだそうです。 つまり、“量子効果は目の前で生じており・・・適切な方法が見つかれば・・・実際に見ることが できる”...のだそうです」 「ふーん...」マチコが、口に手を当てた。「そうなんだあ...この世界というのはさあ、そういう ことだという、ことなんだあ...」 「まあ...」高杉が、うなづいた。「そういうことだ、そうです... 物理学者たちは...以前考えていたよりも大きな世界に...量子効果が現れて来ることに、 気づき始めたということでしょう」 「はい...」響子が、頬に手を当てた。「それが...物理的世界の光景...だということですね」
「うーむ...」高杉が、うなづいた。「そうですね... そうした量子効果の中でも、最も奇妙で特徴的なのは...非局所性の現れる、“量子もつれ” だと言われています。これは、“粒子/・・・電子や光子などのペア”が...“時間と空間を超越し てリンク”し...“長距離恋愛”しているようなものだと言います。 この長距離恋愛は純粋なもので...内部に、不純な構造/打算というものがありません。粒 子同士の純粋なもつれあい現象です...“相補性”や【不確定性原理】と同じように、量子力学 の最も基本的な、観測事実だということですねえ、」 「ふーん...」マチコが、うなづいた。 「さあ...ところがです... 粒子というのは...反面では...救いようのない浮気者の姿を見せます。出会った相手と は見境もなく、その全てと関係性を持ってしまうわけです。つまり誰とでも、“量子もつれ”の関係 性を結び、結婚してしまうわけです。 そうなれば、時空間を超えた純愛も、一切がご破算になってしまうわけですね...そして、そ れが...粒子の持っている性(さが)であり...業(ごう)なのです...」 「うーん...それもさあ...」マチコが、響子を見た。「あっけなく...ドライなわけよねえ...」 響子が、笑ってうなづいた。 「つまり、粒子という若者は... そういう純愛もできるのですが...大概は望んでもいない、圧倒的な大衆の中で...関係性 を結び、無意味な結婚生活に入るわけです...まあ、どっちが幸せなのかは分かりませんが、 さらに、結婚と離婚をくり返し...無為に過ごすわけです。 いずれにしても...このように、“量子もつれ”がかき消されてしまうのが...“デコヒーレンス” と呼ばれる、過程/プロセスです...」 「はい...」マチコが、首を斜めにして、うなづいた。 「“デコヒーレンス”というのは...」高杉が言った。「つまり... 量子世界で起こる、“状態の重ね合わせ”が壊れることです。シュレーディンガーの波動方程 式で表現される“波”は...“幾つかの状態が・・・重ね合わさって・・・並存する状況”を意味する わけです...しかし、その状況というのは、周りの環境の影響で、簡単に壊れるわけです... その過程/プロセスを...“デコヒーレンス”というわけです。まあ、言ってみれば、“量子もつ れ”という純愛は、超時空間的な深遠なものですが...非常にもろく、壊れやすく、はかない関係 性だということです...私たちが、“観測/・・・見ただけ”で、その純愛は壊れてしまうわですね」 「はい...」響子が、うなづいた。「そこに...高杉さんは... “量子力学の・・・心の領域/精神領域との・・・親和性/統合性”を見ているわけでしょう か?」 「うーむ... これは当然な流れなのですが、難しい仕事になります...“文明の第3ステージ/意識・情報 革命”の時代の...中核的な仕事/・・・大仕事になるのでしょう...」 「はい...」響子が、まばたきした。「人類文明が、順調に継続して行けば、ですね?」 「はは...そういうことです」 <“ダイナミック量子もつれ”・・・とは?> 「ええと...」響子が、ノート・パソコンに目を落として言った。「こうした“量子もつれ”を、量子コン ピューターなどで利用するには、“量子もつれ”をしっかりと保存する必要があるわけですね」 「そうです...」高杉が言った。「《量子コンピューターの概略》では... “量子もつれ”は、“真空容器/・・・イオントラップ/電磁トラップ”の中に封じ込めていました。 しかし、ここでは別の研究を紹介します。まあ、こういうことも、研究されているということですね」 「はい!」マチコが、うなづいた。
「ええ...」高杉が言った。「これは... オーストリア/インスブルック/量子光学・量子情報研究所/カイ、ブリーゲル...それから、 イギリス/ブリストル大学/ポペスクが...ある、新しいアプローチを提案したと言います。信頼 できる“参考文献/日経サイエンス”の情報なので、聞いてください」 「はい、」響子が顔を上げ、高杉を見た。 「この、思考実験によると... まず...ピンセットのように開閉できる、V字型の分子を想定しています。この分子ピンセット が、“閉じて/くっついている時”、その両先端の電子は、“量子もつれ”の関係になるとします。 分子ピンセットの先端がくっついていて、“量子もつれ=電子”が実現しているわけですね...」 「うん...」マチコが、うなづいた。 「私たちが...」高杉が言った。「これまで考察してきた“量子もつれ”は、光子でした... “量子もつれ=光子”を作りだすのは、比較的簡単です。“ビーム・スプリッター”として働く“特 殊なダウン・コンバート結晶”に、光を通すだけでいいわけです。これだけで“量子もつれ=光子” が、“量子もつれ”を残しながら、“別々に分かれて・・・導き出せる”ということでした」 マチコが、うなづいた。 「しかし、今回は、“量子もつれ=電子”ということですね... “量子もつれ=電子”については、私たちはその実体についてはよく知らないわけですが... ともかく、分子ピンセットの先端が閉じていて...そこに“量子もつれ=電子/もつれた電子の ペア”が、実現しているということでしょう」 「はい...」響子が言った。 「しかし... “もつれた電子のペア”を、このまま放っておくと...周囲の環境にある粒子が衝突し...“デ コヒーレンス”を起こします。すると、それ以前の“量子もつれの状況”を、回復する術(すべ)は無く なると言います。 つまり、熱力学のエントロピーと同様に、“神様がサイコロ遊びをされ・・・”、それ以前への“時 間(反転)対称性”は、無くなるわけですね。つまり...“量子もつれ/深遠な純愛”を保つには、 さて、どうしたらいいかということです」 「あ...」マチコが言った。「“時間対称性”というのはさあ...どういう事だったかしら?」 「“時間対称性”というのは、 “量子/開かずの扉の内部” で話ました... 現象の未来だけでなく、過去をも記述する方程式のことです。“物体の運動を記述する・・・ニュ ートン方程式”や、“電磁気学を記述する・・・マクスウェル方程式”などは...“時間対称性”を満 たす方程式です。 しかし、エントロピー増大/熱力学の第2法則による、時間不可逆性を持つ熱力学では、“時 間対称性”が破壊されているわけですね。方程式では現象を遡って、過去を表現することはでき ないということです。 同様に...シュレーディンガー方程式/波動方程式の...その外側にあると考えられる“デ コヒーレンス”の後は、“量子もつれ”を回復することはできないということです。つまり、“神がサイ コロを振る以前の状態”へは、“時間対称性”が無いということです」 「うーん...そうかあ...」 「いいですか...」高杉が言った。「この思考実験は... “デコヒーレンス/・・・オジャマ虫”から...“量子もつれ/深遠なる純愛”を守り...それを、 量子情報科学で、応用しようというものです」 「はい、」響子が、唇に指を当てた。 「さて... この解決策は...意外にもというか、そのための思考実験なのですが...ここで分子ピンセッ トを、開くことで解決するといいます。 つまり、“もつれた電子”を引き離し、環境にさらし続けることにあるようです。こうすると、“デコ ヒーレンス”によって...“電子はデフォルト(初期設定)状態・・・エネルギーが最も低い状態”... へとリセットされると言います...」 「うーん...リセットかあ...」 「まあ...」高杉が言った。「ここは、この一言では、よく理解できないでしょう... ここは、ブラック・ボックス化してOKを出し、先へ進みましょう。物理学では、後で理解するとい うことも多いわけです。ニュースではなく、詳しい研究論文が出されるのを待ちましょう...」 「はい...」響子が、余裕でうなづいた。 「ともかく...」高杉が、モニターをのぞいた。「いいですか... ここで再び、分子ピンセットを閉じると...電子は、新たに“量子もつれ=電子”になって... 事実上の復旧が、可能になるようですねえ... そしてもし、“十分に速く・・・分子ピンセットを開閉”したら...“量子もつれが壊れずに・・・ず っと存続しているのと同じようなもの”...だと言います。まあ、ここも、思考の飛躍があるわけで すが...一応、そういうものかと、OKを出しておきましょう。ニュースでは、これ以上の情報は引 き出せません」 「はい...」響子が、顎をなでた。「そうですね、」 「ええ... 通常の“量子もつれ”は、“真空容器/・・・イオントラップ/電磁トラップ”のような方法で、周 囲の“オジャマ虫”の環境から、隔離しているわけですね。 こうした、静的な“量子もつれ”と区別するために...研究チームではこれを、動的という意味 で、“ダイナミック・量子もつれ”と呼んでいるそうです」 マチコが、うなづいた。 「“ダイナミック・量子もつれ”は... いわゆる“振動”しているにもかかわらず、静的な“量子もつれ”で起こる現象は、“全て起こせ る”と言います。まあ、量子情報工学での応用は、これからということでしょうか。今はまだ、基礎 研究が広がっている段階なのでしょう」 「“量子もつれ”に...」響子が言った。「別の系列ができて来たということかしら?」 「うーむ... 全体となると、膨大で分かりませんが...“生物体の中の・・・量子もつれ”といい、だいぶ膨ら みができてきたようですねえ。さて、次に...もう1つ別のアプローチを紹介しましょう」 「はい、」響子が、ノート・パソコンに目を落とした。 マチコが、ポン助を手招きした。ポン助が、マチコの横に来た。 「おう...何だよ?」 「お茶が欲しいわねえ...弥生に、そう言ってよ、」 「おう、」 <“受動的な誤り訂正”・・・とは?> 高杉が窓を眺め、お茶をすすっている...マチコと響子も、同じように茶を飲んでいる... 新春の穏やかな陽光が、冬枯れの庭の芝生に散っていた。庭の向こうの木立の間を、江里香 と、支折が歩いてくるのがチラリと目に入った。江里香が、新しいダウンのロングジャケットを着 ていた。支折はいつもの、シックなモスグリーンのオーバートだった。 「うーん...」マチコが、顔を崩した。「江里香...あのコートを買ったのかあ...」 「フフ...」響子も、顔をほころば、茶碗を口に当てた。 「みんなも集まってきたようだ...」高杉が言った。「こっちも、早く片づけてしまおう。そのうちに、 “オジャマ虫”に“デコヒーレンス”されてしまいそうだ...」 「はい...」響子が笑いを浮かべ、モニターに細い指を置いた。
「ええと、塾長...」響子が言った。「この“受動的な誤り訂正”...というのは、どういうものなの でしょうか?」 「うーむ...まあ、聞いてください...」 「はい、」 「これは... “全体として1つのものとして振る舞う・・・粒子集団”...を使うようですねえ。“粒子集団内部 のダイナミズムのために・・・粒子集団は、複数の平衡状態を・・・デフォルト(初期設定)として持ちう る”...と言っています。 さらに...“それぞれの平衡状態は・・・それぞれの異なる粒子配置に対応しているが・・・エネ ルギーは、ほぼ同程度だ”...ということですねえ...」 「うーん...」マチコが、首をかしげた。「それが、一体何なのよ?」 「まあ... これだけのニュース・データでは、よく分かりませんが...“特殊な粒子集団”ですね。この中 に、個々の粒子の代わりに、“複数の平衡状態に・・・データを格納”するような...量子コンピュ ーターが考えられるということです。 この種のニュースは、以前にも何度か聞いています。しかし、その時もよく分かりませんでした ね。そのうちに、研究が進めば、研究論文の方が出てくるでしょう...」 「はい...」響子が言った。「ともかく、これだけではよく分かりませんわ」 「そうですね...」高杉が、うなづいた。「この方法は... ロシア/ランダウ理論物理学研究所/キタエフ(Alexei Kitaev)が・・・10年前の在籍当時に 提案したものだそうです...人間が積極的に粒子を管理する必要がないので、“受動的な誤り 訂正”と呼ばれているそうです。 粒子集団が平衡状態から外れると、周囲の環境がそれを押し戻すように働くようです。ともか く、こういうことも研究されているということです。研究開発が進んでくれば、詳しい論文が出てく るでしょう...」 「こんな所にも...」響子が言った。「量子コンピューターの、可能性があるということですね」 「そうですね...そのうちに、具体的な成果が出てくるでしょう...」 「はい、」マチコが言った。「では、これで終わりかしら?」 「うむ...」高杉が、うなづいた。「終わりにしましょう」 「はい!」マチコが、ポン助の方を見て立ち上がった。「さあ、新年会へ行こうか!」 「おう!」ポン助が言った。 「里中響子です。新春早々、ご静聴ありがとうございました... 今年は、 《危機管理センター》 としても、大変な1年になりそうです。 でも、皆さんと御一緒に頑張って行きたいと思います。その折には、ま たよろしくお願いします...」
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