My Work Stationgroup C量子情報科学“量子=開かずの扉”の内部は?

          “量子/開かずの扉”  内部は?   
 
       
            【 ・・・ T/ 概論  ・・・ 】

            
 弱い測定/量子力学の新側面        未来から現在へ流れる衝撃


     
                                        

                   関 三郎         マチコ        高杉 光一                     北原 和也        江里香     

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プロローグ           ...秋が本格化してきました ...  2009.10. 9
No.1 〔1〕  “量子/開かずの扉の内部” で、一体、何が起こっているのか? 2009.10. 9
No.2     開かずの扉の内部  ・・・ 問うても意味がない?> 2009.10. 9
No.3     開かずの扉の内部 に、挑む! 2009.10.16
No.4     <量子力学の・・・新たな歩み!> 2009.10.16
No.5 〔2〕 “弱い測定”と・・・ 時間の概念 2009.11. 3
No.6     この世の超媒体・・・生命体/主体的現在/今という原野 2009.11. 3
No.7     <量子力学によると・・・自然は気まぐれに振舞うが・・・?> 2009.11. 3
No.     <超越的体験の・・・時空構造解は・・・?> 2009.11. 3
No.

〔3〕 再び・・・ ナマの量子風景・・・

  /量子の重ね合わせを状態を ・・・壊さずに見るとは

2009.11.14
No.10     <具体例/・・・大阪大学の行った実験> 2009.11.14
No.11     存在確率=マイナス1の光子/・・・その意味とは?> 2009.11.14
No.12

    <干渉計の中で、何が起きているのか/

                     不思議な光子・・・に変身?>

2009.11.14
No.13 〔4〕 弱い測定/経過・展望・評価 2009.12. 3 
No.14     弱い測定・・・弱い測定値の、全体像はまだ不明?> 2009.12. 3
No.15        <人間 = “神” なのか・・・?> 2009.12. 3

 

   参考文献  日経サイエンス /2009 - 10   

                    存在確率マイナス1/天才アハラノフの予言      吉田 彩  (編集部)   

                    宇宙の未来が決める現在         語り/・・・・・Y.アハラノフ  (テルアビブ大学)

                                                                 聞き手/・・・吉田 彩  (編集部)

                    量子の“開かずの間”をのぞき見る   井元 信之  横田 一広  (大阪大学)

 

  プロローグ   wpe4D.jpg (7943 バイト)        

                     ・・・・・秋が本格化してきました・・・・・  

 

「夏も終わり、秋が本格化してきましたね... 二宮江里香です...

  私たちの今年の夏は...  《“量子もつれ” “ベルの定理”》  の考察でしたが...その間

“2009/総選挙(8月30日)があり、8月9月と、あわただしく過ぎて行きました。そして、涼し

い空気に、ハッ、と気がついた時...もう10月の深い秋の空でした...

  今回の... “量子/開かずの扉” の内部は?》 ...も、前と同様のメンバーで考察します

が、響子さんは  《危機管理センター》  の方へ戻りました。それで、身体の空いている北原和也

さんが、オブザーバーとして参加して下さることになりました。

  研修目的ということですが、 少人数ですので、もちろん発言は自由です。北原さん、一言お願

いします」

「はい!」北原が、前で両手を組み、頭を下げた。「お久しぶりです。北原和也です...

  私は、 My Weekly Journal》/国際部・担当ですが、まだまだ修行中と思っています。今回

も、そういう意味で、研鑽(けんさん)を兼ねて、参加してみました。それから、塾長のお考えも、直接

拝聴したいと思っています」

「何だ...」高杉が、モニターから顔を上げた。「一緒に仕事をするのは、初めてだったかな?」

「はい。仕事としては、今回が初めてになります。よろしくお願いします」

「ふむ...」高杉が、うなづいた。「これから、世界的・激動期に入り...国際部も重要になって来

ます。しっかりと、力をつけてください」

「はい...」北原が、頭を下げた。

北原さんと私は...」江里香が言った。「<会社訪問: EIZO/オンライン・セミナー>で、一緒

に仕事をしていますから、今回は2度目になりますね、」

「そうです」

「では...マチコさん、よろしくお願いします」

「はい...」マチコが、メモ用紙からボールペンを上げ、カチッとヘッドをノックした。

 

  〔1〕  “量子/開かずの扉の内部” で・・・   wpe8B.jpg (16795 バイト)

            一体、何が起こっているのか?

                     

「ええと...」マチコが、メモ用紙を見ながら言った。「高杉・塾長...

  “参考文献”の表題は...存在確率マイナス1 というものですが...そもそも、これはどう

いう意味なのでしょうか?」

「ふむ...」高杉が、頭をかしげた。「確率というのは...普通は、0〜1の間の値をとります」

「はい、」

「しかし...

  これが0より下の、マイナスの値になることがあり...しかも、それが、実験で確認されたとい

うことですねえ。まあ、量子世界では、色々と奇妙なコトが起こります。これを確認したのは、日本

/大阪大学の研究グループだということです」

「うーん...でもさあ、それは一体、どういうことなのかしら?」

「その意味も含めて...」高杉が、ゆっくりと顎に手を当てた。「その周辺のことを、これから考察

して行きましょう。イスラエル/テルアビブ大学/アハラノフ教授は、ここに、“これまでに無い新し

い概念”を導入しようとしているようです」

「ふーん...」マチコが、ボンヤリと頭に手を当てた。

「それを考察した上で...日本/大阪大学の研究グループの行った実験について...当事者の

論文を参考に、考察してみましょう。量子力学でも、最先端のホットな領域です。そこを、一緒にの

ぞいてみることにしましょう」

「はい!」マチコがコクリとうなづいて、江里香の方を見た。「うーん、面白そうですよね!」

「ええ、」江里香も、白い歯を見せ、うなづいた。「皆さんと一緒なら...量子力学の最先端の領域

にも入って行けそうですわ。一人では、とても無理でしょうけど...」

 

「さて...」高杉が、モニターをのぞきこんだ。「日本/大阪大学の研究グループが、実験で測定

したのは...物体/粒子/・・・光子の...量子的“重ね合わせ”の状態だったようですねえ」

「はい...」マチコが、高杉のモニターをのぞいた。

「少し、歴史を遡りますが...

  20世紀初頭に登場し、黎明期を迎えた量子力学は、以後、素晴らしい成果を上げ続けて来ま

した。電子工学光工学分子生物学放射線技術など、科学技術文明基礎を形成してきま

した...一面、核爆弾などという大量破壊兵器も作り出し、人間を殺傷もしてきました...」

「はい、」

「この、大成功を収めた量子力学という学問には...

  他の科学理論にはない・・・本質的な・・・奇妙な性質”があります。“認識・主体と・・・観察・客

体との融合”が問題になりますし...“確率論的な世界も・・・それまでにはなかった新しい概念”

です。そして、“最も奇妙なのは・・・局所性の否定/因果律の否定”です。

  “この世の記述/・・・相互主体による認識形式”は...ストーリイ性因果律・形式から来て

います。しかし、その因果律というのは、完璧なものではないようです。私たちが知る限りでも、

相当の広い領域で崩れています。歴史ストーリイは、そうした奇跡超偶然に満ちています」

「うん...」マチコが言った。

“予知”“過去知”“透視”などは、明らかに存在します...

  “共時性/意味のある偶然の一致”なども、頻繁に起こっています。この“現在の姿”とは、

果律の流れとは別に、未来から逆流して来る、何らかの衝撃が加わっているのかも知れません。

イスラエル/テルアビブ大学/アハラノフ教授は、それらを“歴史ベクトル”“運命ベクトル”とし

ているようですが、これも後で考察して行くことにしましょう」

「うーん...ややこしそうな話ねえ、」

「しかし、これが...」高杉が、作業テーブルを見まわした。「まさに、私たちの存在する世界なの

です。そして、“私たちが何者であり・・・この世界は何なのか?”という、“文明種族としての・・・覚

醒の道”なのでしょう」

「はい!」北原が、大きくうなづいた。

                                          

「ともかく...」高杉が、モニターに目を落とした。「量子力学という学問は...

  エキゾチック(異国的)な世界だと言われてきました。 《“量子もつれ” “ベルの定理”》  の

ページでも言ってきましたが...このエキゾチックな光景というのは...“物の領域=物理世界”

“心の領域=精神世界”との、親和性を示すものだと...私は見ています...」

「うーん...」マチコが腕組みをし、大きくうなづいた。

「まあ...」高杉が、膝に手を置いた。「それは、今後、考察を進めて行くこととして...

  そもそも、量子力学というのは...どうして、こうも奇妙なことが...次から次へと起こるのか

ということです。こうしたことは、一体、何処から来ているのかということですね。それで、まず今回

は、 “量子/開かずの扉の内部”  というものを...齧(かじ)ってみようという事です...」

「はい。そこから、量子力学を再考してみる、というわけですね」

「そうです」
  

<開かずの扉の内部  ・・・ 問うても意味がない?>  

                   

「いいですか...」高杉が言った。「そもそも、量子力学とは...

  “私たちが・・・見ていない時に・・・何が起きるかを語る理論”だと言います...つまり、これは、

“量子的な現象を・・・私たちが直接見ることは・・・原理的に不可能だ”という点にあります。そこ

粒子を当てて観測しようとすれば、その本質的なものが、破壊されてしまうからです。

  別の言い方をすると...“私たちが・・・量子状態を見ようとすると・・・必然的に、量子状態を乱

してしまう”、ということです。そして、“その乱れは・・・見る方法によって異なるらしい・・・と直感さ

れる”ということです。

  このような...観測によって様々に変化するものは、“実在”とは言い難いわけです。真の姿

は、観測の向こう側の、 “開かずの扉の内部” に秘められているというわけです...」

「うーん...そういうことなのかあ...」

「私たちが、観測で得ているものとは...粒子を当てて撹乱/破壊した...過程〜痕跡

いうことになるのかも知れません。真の姿は、観測する手段がないわけです...まあ、これから

話す、“弱い測定”が登場するまでは、ということですが...」

「うーん...」マチコが、うなづいた。

                 

「ええ...

  何度も言うことですが...私も、“参考文献”を読んだだけの部外者です。十分に理解してると

は、とても言い難い立場です。しかし、逆に、素人の目線で考察することができます。それを、

一の利点として、一緒に考察して行こうということです...その点の考慮を、お願いします」

「はい、」江里香が、手を握った。「だから、私たちも、ついて行けるわけですね」

「はは、そういうことです。その上で話しますが...」

「はい、」江里香が、言った。

量子力学によれば...

   “開かずの扉の内部” では...“物体は相反する状態が・・・同時に実現する・・・重ね合わ

せの状態になっているらしい”ということです。これは、“量子もつれ”の考察の時にも説明しまし

たが...“和音”のように...“状態が重なりあい”...何か形成している様子だということです

ねえ...」

「つまりさあ...」マチコが言った。「ド・ミ・ソや、ド・ファ・ラのような音が、1つに重なり合っている

ような状態かしら?」

「そうです...

  その“和音”では...3つの音が重なり合い...1つの音になっているわけですね...くり返し

ますが、量子力学によれば...“物体は相反する状態が・・・同時に実現する・・・重ね合わせの

状態”になっているということです。それ以上は、物理的手段では見るのは難しいということです」

「うーん...」

「大事な所だから、もう少し具体的に言いましょう...

  いいですか...“1個の電子が/異なる場所に同時に存在したり・・・1個の光子が/異なる方

向へ、同時に進んでいたり・・・こうした状態が・・・重ね合わせになっているらしい”...ということ

です。しかし、実際には、 “開かずの扉の内部” のことは、観測する手段がなかったわけです」

「そうかあ...」マチコが、大きく口をあけた。「“1個”の、電子光子がさあ...同時異なった

場所にあったり、異なった方向へ進んでいたりするわけね...それが、“和音”のように、“重ね合

わせ”状態にあるというわけね...常識的には考えられないわけよねえ...」

「そうですねえ...」高杉が、自分の手を見つめた。「しかし...

  私たちは、そんな不思議電子光子を、原理的に見ることはできないわけです。“重ね合わ

せの状態”を観測してみると...“どれか1つの状態が・・・ランダムに選び出されて実現し・・・残

りは消えてしまう”のです...だから、そこは、 “開かずの扉の内部” ということになり、放置さ

れて来たわけです」

「パスしてきたわけよね...」

「そうです...

  この、量子力学の語る・・・粒子の多重状態”は、観測者にとっては、 “開かずの扉の内部”

にある世界です。私たちは、そこから、“ランダムに飛び出してくる・・・1部の現象”しか、観測する

ことができないわけです...

  これは、私の考えですが...“心の領域=認識”との、親和性/統合性を示すものではないか

と思っています」

「塾長...」関が言った。「“弱い測定”で... “開かずの扉の内部” が垣間見えてきたとしても、

その関係は変わらないわけですか?」

「そうだと思います...」

「何が見えてくるのでしょうかねえ...」

「ふーむ...」高杉が、腕組みをした。

「あのさあ...」マチコが言った。「1つの状態が...ランダムに選び出され...実現するわけよ

ね...そこに規則性/法則性は無いわけかしら...?」

「無いようです。それこそ、さんざん調べたのでしょう...

  アインシュタインは、このサイコロを振るようなランダム性を、非常に嫌ったと言われます。“神

はサイコロを振りたまわず”とくり返し言い、量子論一貫性の無さを攻撃したと言われいます。

【ベルの定理】の元になった、“E.P.R.の思考実験”もその1つですね...

  アインシュタインは、最後まで、“未知の変数/隠された変数(ヒドゥン・パラメーター)があることを信

じていたようです。そして、その決着がつかないまま、この世を去ったわけです。一方の、ボーム

も、【ベルの定理】を見ることなく、この世を去ったわけですねえ」

アインシュタインのそれは...」関三郎が、言った。「アインシュタインの弟子/デヴィッド・ボー

に引き継がれていますね...

   《“量子もつれ” “ベルの定理”》  の時に説明しましたが...ボームは、E.P.R.の思

考実験”、今日知られている、“スピン・モデルの思考実験”にした人です...」

「うん...」マチコが、うなづいた。

波動関数というのは...」関が言った。「量子状態を定義するために...20世紀初頭に、シュ

レーディンガーが導入したものです。

  いわゆる波動力学ですね。そして、その直前に、ハイゼンベルク行列力学が確立されていま

した。この両力学の関係性から、量子力学が誕生したのです。1925年のことですね...

  少し、詳しくなりますが、いいですか、塾長?」

「うーむ、少しにして下さい...」高杉が言った。「まだ最初ですから、話の方を進めましょう...」

「はい、分かりました...」関が、頭を下げた。

           wpe8.jpg (26336 バイト) wpeA.jpg (42909 バイト)     

「では...」関が、両手を組んだ。「一言だけにします...

  “量子もつれ”確率や、“粒子が不確定な位置”をとっている確率などは...波動関数から示

されるわけですね...そして、まさに、“量子力学の非局所効果の・・・謎の中心にあるのが・・・こ

の波動関数”なのです...

  これは、 《“量子もつれ” “ベルの定理”》  のページで、言い残していたので、気になって

いた部分です」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「波動関数というのはさあ...そういうことなんだあ...」

「いや...」関が、頭に手を当てた。「確かに...そうなのですが...

  実は...“そもそも、波動関数とは・・・正確には何なのか?”...ということが、物理/基

礎論の研究者たちによって、現在/盛んに議論されているようです」

今/現在...かしら?」マチコが、ミケの頭に手を置いて聞いた。

「そうです...その、さらに深い意味というのが...問題になってきたわけです...

  “波動関数とは・・・具体的な、物理的実在なのか?/運動法則のようなものなのか?/粒子

に備わった内在的な特性なのか?/点と点の間の、空間的な関係なのか?/はたまた、それら

の粒子について、私たちが現在知っている情報にすぎないのか?/それとも、それ以外のものな

のか? ...といったことなどだそうです...

  こうした意味でも、量子力学において、新たな模索が始まっているようです。《量子情報科学》

新展開と並行して...こうした基礎論においても...また、 “開かずの扉の内部” “弱い

測定”においてもです。

  そして、こうしたことが...“特殊相対性理論”足元をも、脅かし始めているようです」

「うーん...」マチコが、頭をゆらした。「前にさあ...“特殊相対性理論”に、問題があるとか言っ

ていたわよね、」

「そうです...

  “特殊相対性理論”は...特に“量子もつれ”のような、“非局所性”というものを嫌います。“特

殊相対性理論”は、時間空間とを、幾何学的に関連づけています。光速度ロケットに乗ると、

間が縮むという、あの関係性ですね。

  しかし、この幾何学的に結びつけられた関係というのは...4次元リーマン空間(/非ユークリッド

空間)を構成するわけですが...こうした空間では...“量子もつれ”のような、瞬間的/遠隔作

というものは...非常に奇妙なことになってしまうわけです」

「うーん...なんとなく、分かるような気がするわよね...」

「この、4次元リーマン空間で...高杉・塾長の言われる、“物の領域”“心の領域”が、親和性

を持ち、統合されるとは思えません...」

「それじゃ...」マチコが言った。「それは...【人間原理空間】ということなのかしら?」

「はは、いいことを言いますねえ。なるほど、【人間原理空間】なのかも知れませんね。研究して

みる余地はありそうです」

                  

「さて...」高杉が、関の方に言った。「いいですか...」

「あ、はい...」関が、テーブルの上で手をそろえた。

ボーアは...」高杉が、ゆっくりと話し始めた。「 “量子/開かずの扉の内部” は...“問うて

も意味がない!”と、決断を下しました...

  物理的に意味があるのは...あくまでも、観測した時に何が起こっているかであり、私たちに

何が見えるかです。観測できない “開かずの扉の内部” の、“重ね合わせ”状態を論じても、

そもそも、“意味がない”と提唱しました。

  他の物理学者たちも...“見た時に、何が起きるかさえ分かれば・・・とりあえず・・・この世界を

語るには十分”...と割り切り、ボーアの主張を受け入れました。こんな事情で、ボーアの主張

いうものが、“理論物理学の教義”として祭り上げられて行ったようです」

「そうかあ...」マチコが、手を組んだ。「前の説明よりも、よく分かるわね」

「さて、いいですか...

  現実には...このボーアスタンスで、問題はなかったのです...実験技術開発で重要な

のは、観測した時に、電子光子が何処にあり、何を意味しているかです。 “開かずの扉の内

部”で、何が起こっていようとも、それは、直接には関係のないことです...」

「はい、」

「まあ、実際、このようなわけで...

  量子力学は...“現実世界の現象を・・・予測する道具”として使われ...“開かずの扉の内部

の・・・見えない量子の多重状態”は、棚上げにされて来ました。そして、その判断は、間違っては

いなかったわけです。

  結果として...量子力学が大いに発展し、応用が進み、今日の科学文明をもたらしました。こ

のことが、地球環境を破壊し、間違いだったと言えば、それは1つの意見でしょう。しかし、ともか

前進し...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”への、道筋を切り開いて来たわけです。

  これから考察していくわけですが...この“現在の姿”とは...未来から逆流して来る、“運命

ベクトル”の、衝撃が加わっているのかも知れませんねえ...」

イスラエル/テルアビブ大学/アハラノフ教授は...」関が言った。「過去から来る、因果律スト

ーリイ“歴史ベクトル”と...未来から逆流して来る“運命ベクトル”が...“現在の姿”を形成し

ていると、考えているわけですね?」

「そのようですねえ...

  “予知”“運命”というような、超越的目撃/感覚というものは、確かに存在するようです。“共

時性/意味のある偶然の一致”というもの、私たちはよく遭遇します。それも、気が付いていない

だけで、相当濃密に起こっているのかもしれません。そこで、眼前する世界/リアリティーとは、

一体、何なのかということになります...」

「私はさあ...」マチコが言った。「《永田町・妖怪憑依説》を編集中なんだけど...“霊”...と

いう問題もあるわよね...」

「うーむ...」高杉が、椅子の背に上体を倒した。「謎は深いですねえ...」


<開かずの扉の内部 挑む!>   wpeA.jpg (42909 バイト)      

                  
      

「さて...」高杉が言った。「ボーアは...

   “開かずの扉の内部” “重ね合わせ”状態は...“問うても意味がない!”と断じ、そこ

パスして量子力学が展開しました。ところが1980年代後半になり、この“理論物理学の教義”

に、公然と反旗を立てる人物が登場します。

  イスラエル/テルアビブ大学/アハラノフ教授(Yakir Aharonov/現在、同大学の名誉教授)です。同教授

は、“アハラノフ・ボーム効果/AB効果”で知られています。これは、アハラノフがまだ20代の頃

/1959年に、アインシュタインの弟子/デヴッド・ボームと共に、“電磁場がない所でも・・・電子

はある種の・・・電磁ポテンシャルの影響を受ける”...と予測したものです。

  この“AB効果”は...古典力学では説明ができず、量子力学に従わないと起こり得ない現象

と言います。ええ...この現象は1986年に、日本/日立製作所/外村彰実験で実証してい

ます。これは、ノーベル賞級の成果として注目され、同時に、アハラノフ教授の名も、世界に知れ

渡ったと言われます」

「うーん...」マチコが、感心してうなづいた。「ボームは、どうだったのかしら...?」

「うーむ...」高杉が、モニターに目を投げた。「“AB効果”予言されたのは、1959年です...

  ボーム1917年の生まれですから、42歳の時でしょうか。“AB効果”実証された1986年

は、69歳の時ですね...没したのは1992年/75歳です...

  ああ、それから...ボーム“マンハッタン計画”に関与していますねえ...ロスアラモス研究

での、原子爆弾・開発計画です...彼が理論計算した濃縮ウランは、“リトルボーイ(広島に投下

された原爆のニックネーム/ガン・バレル方式)に詰め込まれ、広島に投下されています...」

アインシュタインの弟子なんでしょう?」マチコが聞いた。

「そうです...ええと...

  第2次世界大戦後に、プリンストン大学で、アインシュタインと一緒に研究をしていますね。アイ

ンシュタインは、原爆の開発には反対していましたから...戦後の話になりますね。1957年に、

イギリス/ブリストル大学に移っています。アハラノフボームの学生だったようです。

  ええと...アインシュタインボームアハラノフも、ともにユダヤ系の物理学者ですね。日本

も、湯川秀樹・博士中間子論以来、この量子力学の分野は得意としていますが、ユダヤ

もそうらしいですね...“原爆の父”と言われる、オッペンハイマーもそうですが...」

「ふーん...」

「いいですか...」関が、言った。「【ベルの定理】が発表されたのは...

  “AB効果”が予言された、5年後1964年です...これによって、“E.P.R.の思考実験”

も、ボーム“内臓秩序/隠された秩序”の論争も、全て決着がつくことになります。ボームも、

インシュタインも、“長年の論争の・・・敗軍の将”という結果になりました。

  【ベルの定理】は...“いかなる局所理論を用いても・・・実験結果に対する量子力学の予測

を・・・完全には再現できないことを示す”、というものです。つまり、どんな“局所理論の予測”も、

【ベルの不等式】と呼ばれる・・・数学的関係を・・・常に満たさなければならない”、というもので

す...」

「うーん...ボームはさあ...アインシュタインと一緒に、論争に負けているわけなのね...」

「まあ、そうですね...」高杉が言った。「しかし、ボームも、量子力学黎明期を築いた一人なの

です。アハラノフは、そのボームの学生だったということです」

「うん、」マチコが、納得してうなづいた。

 

「ええ...」高杉が、体をかしげ、モニターのメモをのぞいた。「本題の方に戻りましょう...」

「はい、」

 “量子/開かずの扉の内部” ...“量子の・・・重ね合わせの状態を・・・のぞき見る”...と

いう、アハラノフ“弱い測定”は...“対象を・・・ごく弱く測定すれば・・・量子的な多重状態を壊

さずに観測できる”...と主張しているわけです」

「はい、」

“弱い測定”は、1回だけでは情報量が少な過ぎて、具体的なものは何も見えて来ません...

  ところが、何度もくり返し、平均化すれば、“重ね合わせの状態”輪郭が見えて来ると言いま

す。しかし、量子力学“気まぐれな特性”のために...“重ね合わせ状態”が、“最終的に行き

着く状態”は...ランダムに変化します」

「うーん...」マチコが言った。「ここでも...“気まぐれ”かあ...ランダムに変化するわけね、」

「いいですか...」高杉が、マチコに言った。「“弱い測定”というのは...

  最初最後が...それぞれ、ある特定の状態になる場合だけを選び...実行します。それを、

何回もくり返すのです。そして、平均値をとります...」

「うん...」マチコが、頭をかしげた。

「さて...この“最終状態の選択”が、実に曲者です...“弱い測定”での観測結果は、しばしば、

“物理学の常識に反するような現象”を引き起こすのです...」

「どんなものかしら?」

「例えば...“弱い測定”では...

  アハラノフ教授等の...理論的予測によれば...“鏡が光子を反射する時に・・・光子に吸い

寄せられるような力”を受けたり...あるいは、“粒子の基本的性質であるスピンが・・・通常の数

百倍もの大きな値”になったりするということです」

「ふーん...」

「中でも...

  物理的直観に反するものは...イギリスの物理学者/ハーディーが提唱した、特殊な干渉計

の中で起こる現象です。これは、干渉計に粒子を入れて、“弱い測定”で中をのぞくと...ある場

所では、“粒子の存在確率が・・・マイナス1”になるというものです。

  これは2002年に、アハラノフ自身によって、理論的に予言されたものですが、実験による実証

は、まだなかったわけです。しかしこれは、2009年/日本/大阪大学の研究グループの行った

実験によって、実証されました。

  これは...“参考文献”をもとに...その範囲でですが、後で詳しく考察します」

「はい!」マチコが、江里香と一緒にうなづいた。

「おっと...ええ...

  カナダ/トロント大学/スタインバーグ等も...同じように、光子使った実験で...アハラノフ

の予言実証しています...いよいよ、 “開かずの扉の内部” を、そっとのぞいてみることが可

能になったようです。

  ええと...これは、“量子コンピューターの内部を見るツール(道具)としても、使える可能性が

あるということです。つまり、“重ね合わせ状態”を、壊さずに...量子デバイス量子通信の中

をのぞいてみるわけです...中の状態を見るのに、壊してしまっては、何にもなりませんから、」

「ふーん...そうなんだあ...」

<量子力学の・・・新たな歩み!      

                  


「どうですか、北原さん...」高杉が、北原に顔を向けた。「話の内容は...?」

「はあ...」北原が、歯を見せた。「面白い話ですが、さすがに内容が難しいですね。しかし、あ

あまり簡単すぎても、勉強にならないし...」

「そうですね...」高杉が、マウスの上に手をかけた。「内容については、これからくり返し説明し

て行くことになります。少しづつ、理解も深まって行くでしょう。量子情報科学についても、すでに、

だいぶページを重ねてきていますから、」

「はい。しかし、なかなか深い理解の方は...」

「いや、それで、それで充分です。学ぶとはそういうものですから、深い理解は後から付いてきま

す...

  “参考文献”の本文の方ので、これから<アハラノフ教授への電話インタビュー>と、<日本

/大阪大学の研究グループの行った実験>について、二回考察して行くことになります」

「はい、楽しみですね」

「江里香さん、もいいかな?」

「あ、はい...」江里香が、胸で両手を握った。「量子力学が、少しは分かってきたような気がしま

す」

「うむ、まあ、私も同じような状況です。“参考文献”を読みながら、勉強しています」

「うーん...」マチコが、頬に手を当てた。「塾長もそうなのかあ...」

「私は、専門分野を持たないですから...何にでも手を出しますが、そういう状態ということです」

「うん、」

 

「さて...」高杉が言った。「“量子の重ね合わせ状態とは・・・一体、何者なのか?”、という

本問題に、再び光があたり始めています。本当に、それは、何者なのでしょうか...?

  “量子的な重ね合わせは・・・見ることができない!”...“量子の重ね合わせの実体を・・・問う

てはいけない!”という...“量子力学の・・・黎明期以来のドグマ(独断的な説・意見)...も、ようや

く崩れて来たようです」

「そうですね...」関が、言った。「20世紀初頭に...

  量子力学萌芽が、パラダイムのステージに登場して以来...ちょうど1世紀がたつわけです

ねえ。100年が過ぎ...量子力学新たな展開を見せ始めようとしています。まだ、ほんの兆し

のような段階ですが...着実に、新しい展開が動き出しているようです」

「うーむ...」高杉が言った。「風来坊の部外者が言うのもなんですが、そんな様子ですねえ...

  この“弱い測定”というのは...なにやら、時間の流れを問い直すことにもなるようです...後

で考察しますが、宇宙の過去・現在・未来についても、新たな知見をもたらす可能性があるようで

す。これは、“この世の構造と・・・認識”にも関係してくるわけですが、私たちの意見も取り混ぜ、

考察して行くことにしましょう」

 

「はい...」マチコが言った。「今回は、ここまででいいかしら?」

「うむ...」高杉が、窓の外を見てうなづいた。

  秋晴れの日が続き、草原のススキの穂波が豊かだった。しかし、明るい陽光の射す豊かな草

原が、何故か荒涼とした淋しさをたたえていた。これから来る、“2009年/冬”の、激動を予感さ

せるものがあった。

「日増しに、秋が深まって行くねえ...」高杉が言った。

「津田・編集長がさあ...」マチコも、草原を眺めながら言った。「“国民が・・・無事に冬を越せる

かどうかって・・・”...心配していたわよね...」

「うーむ...」高杉がうなづき、ススキの穂波に風が渡って行くのを、ボンヤリと眺めていた。


  〔2〕 “弱い測定”と・・・ 時間の概念     

                             

 
 

「ええ...」高杉が言った。「量子/開かずの扉の内部” ...を、そっとのぞくという、“弱い

測定”は...スラエル/テルアビブ大学/アハラノフ教授が提唱したものですが、これは、“時間

の流れについての思索”、から生まれたものだそうです」

“時間の流れ”かあ...」マチコが頭をかしげ、髪を揺らした。

「いいですか...」高杉が、作業テーブルを見まわした。「アハラノフ教授によれば...

  現在の状態とは・・・未来に到達する状態から、時間を遡って選ばれる・・・ //つまり、

現在の宇宙の姿とは・・・まだ見ぬ宇宙の最終状態によって決められる”...のだそうです。

まあ、これだけ言われても...納得のできるものではないですがね...」

「うん、」マチコがうなづき、納得できないという言葉に、納得した。

「確かに...」関が、掌をすり合わせた。「私たちの、常識的感覚に反していますね...」

「しかし...」高杉が、ガッチリと手を組んだ。「その、“新しい時間概念の提唱”については、少な

からず、共感を呼ぶものがあります...

  私たちは...いいですか...一筋縄ではいかない...矛盾に満ちたリアリティー/認識空間

の中に存在しています。少なくとも、量子世界/物理空間においては...この矛盾は、数学的

説明する義務があるわけです」

「はい...

  私たちにも....数学的ではありませんが、“予感”というようなものはありますね。そして、聞

くところによると、“予知”“過去知”というものもあるようです。まあ、昔からそうです。そうした

能力者奇跡は、歴史ストーリイ鮮やかな色彩を加えて来ました。

  それを聞く時、私たちは、反発するというよりもむしろ、胸をワクワクとさせてきたのではないで

しょうか。私たちは、本能的に、そうした時空構造というものを、受け入れてきたのではないでしょ

うか...」

「うーむ...」高杉が、椅子の背に体をあずけた。「そうかも知れません...

  そうした奇跡の数々は、ストーリイというものを、面白くしてきましたねえ。決して否定はされま

せんでした。世界的宗教聖典においても、数々の奇跡が示されています。そうしたものが、

され始めたのは、科学万能主義が幅を利かせるようになってからでしょう」

“予知”というのはさあ...」マチコが言った。「本当にある、というわよね」

  高杉が、無言でうなづいた。

「やっぱりさあ...」マチコが言った。「“未来”存在しているのかしら?本当は、“過去”“未来”

も存在していなくて...“今/現在”だけが、あるのではないかしら?」

「マチコさんも...」高杉が言った。「いいことを言いますねえ...それは、“深い洞察を含んだ言

葉”です」

「と、いうと?」

「いや、現在の所、それだけです。そうした意味も含め、これから考察して行くということです」

「はい...」

「ともかく...」関が言った。「こうした不思議な実態が、非常に身近にあるのだとすると...

  それでは、“未来”“過去”、そして“今/現在”というのは...どのような構造になっているの

かということです。これは、特殊相対性理論時空間解釈...“時間と空間とは・・・不可分の幾

何学的関係性をもつ”...というだけでは、うまく馴染まないものもあります。

  特に、“量子もつれ”などに見られる、“非局所性/因果律の崩れ”などの領域ですね。私たち

は、“時間”“空間”というものを...“認識という主体性”も含めて...さらに深く研究してみる

必要があります」

「その通りでしょう...」高杉が言った。「私たちは...

  理屈は分からずとも...何となく、そうした不思議な構造というものを、直感/直接的知識とし

て感じ取っているのかも知れません。動物本能として備えているような、知識・感性のようなも

のかも知れません」

「はい...」関がうなづき、モニターをのぞいた。「ええ...とりあえず...

  この、“物の領域/・・・物理空間”において...時空構造解はどのようなものになっているか、

ということですね。あるいは、“心の領域/・・・認識空間”において...シンボル(象徴、ある意味を表

す記号)構造は、どのようになっているかということです...

  それから...高杉・塾長の言われるように...“物の領域”“心の領域”の、“親和性/整合

性を持つ・・・統合領域”では...どのような構造創造されるかということです。そうした構造

が確定して来ないと、“言語的・亜空間”に構築さる人類文明というものは、座標系が不安定のま

ま進行します」

 

< この世の“超媒体” ・・・生命体/主体的現在/今という世界・・・

                 
  

デカルトが...」高杉が、宙を見て言った。「この世界を...“物の領域”“心の領域”分割

てしまったわけですねえ...

  しかしデカルトは、それを統合するものは、迷うことなく“神”としました...当時としては、それ

はごく当たり前であり、それなりに完結した形だったのでしょう。では、現代物理学が、パラダイム

の基盤となっている21世紀の学問世界で、私たちはどうしたらいいのかということです。

  “物の領域”“心の領域”分割以来...人類文明は、“物の領域”偏重して、著しく発達

て来たわけですね。そして、“心の領域”の方は...客観的/観察・数式化が難しいために、取

り残されてきました。

  さて、私たちは今...デカルト“神”に相当するものを...どのように見つけるかが、大き

な課題になっています。学問体系が発達し、ついに、“物の領域”“心の領域”統合なくしては、

矛盾解決しないレベルに、到達しているのではないでしょうか」

「塾長は...」関が、顎に手を当てて言った。「“エキゾチック(異国的、異国情緒)な、量子力学世界

は・・・心の領域との、親和性/整合性/統合性へと向かう”...とされるわけですね?」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「それから...もう1つ、有ります...」

「はい...」

「私は...

  “物の領域”“心の領域”を統合するものは...“神”でなければ...“この世の超媒体・・・

生命体/命のリズム”...ではないかと思っています」

“生命体/生物体”ですか...?」

「そうです...

  “主体的現在=今という原野=今を形成する世界”とは...過去・現在・未来という直線的

なパラメーターの上の、極限まで細分可能な瞬間ではなく...“この世を走査している・・・超媒

のストーリイ・・・生命体の意識が描く総体”なのではないでしょうか...

  もちろん、これは、完全な答えにはなっていません。“心の領域”に偏っています。しかし、この

考察を深めていくことは、“物と心の統合の・・・1つの叩き台”には、なるのではないでしょうか」

「うーん...」マチコが言った。「つまり、それが...【人間原理空間・ストーリイ】...になるの

かしら...?」

「そうですね...」高杉が言った。「ストーリイというのは、物理的・実態ではありません...

  物理的・実態の上を流れる“影”のようなものです。これは、“命の姿”と似ているかもしれませ

ん。“命の姿”というのは、その完成された“生物体の器”にあるのではなく、その“時間プロセス

性”にあるわけです。ストーリイもそうですね...まあ、これは、直接関係のない話ですが...」

「はい...」

「話を戻しましょう...」高杉が、モニターに目を落とした。「つまり...

  超媒体・・・生命体=意識”が...“主体的・現在”というビームで...一体、何を“走査”

ているのか、ということです。それは裏返せば、“この世=主体”とは...“一体、何なのか?”

いうことにもなります。“自分が・・・自分を・・・走査している”...のでしょうか...?」

“走査”とは...」関が言った。「つまり...テレビの画像や、走査型顕微鏡のような、走査線

ことでしょうか?」

「そうですね...そのアナロジー(類推、類比)です...

  “生命体/意識/・・・主体的現在”...が、“超媒体”となっているとして...では、“何者と

何者の・・・超媒体なのか、ということです。リアリティーは、その切り口によって、様々な側面

我々に見せてくれますが...その本体とは、何なのかということですねえ...」

「そうですね...」関が、顎をなでた。「なんというか...

  “今/現在というものの・・・時空構造解”...を、あらためて再検討してみる必要があるの

ではないでしょうか。何が“過去”で...何が“未来”で...何が“今/現在”なのか...というこ

とも含めてです。さっき、マチコさんが指摘したわけですが...」

「うん...」マチコが、ミケをそっと足で踏みつけ、コクリとうなづいた。「どういうことかしら...?」

  ミケが、裏返しになって、マチコの足にジャレついた。

「まあ...」高杉が、作業テーブルの下の様子を見ながら言った。「そうですねえ...

  “この世の・・・中心座標”は...もちろん、“1人称の主体/・・・私”です。さらには、5感/

視・聴・嗅・味・触直接的・感覚器官です。しかし、その“主体的・・・今/現在”に...数十億

光年遠く(/つまり、過去)のクェーサー(準星)の画像や、天の川銀河の画像まで、視覚に飛び込んで

来るとなると...今/現在というのは...かなり複雑なものに撹乱されます。

  それを再統合するのが、“主体/・・・私/今の再構成”なでしょう...その他の感覚器官

情報も、全て、“主体/・・・私”によって、再構成され...“1つの人格/意識/命の形”が、

らによって認識されます...」

「うーん...ややこしいわねえ...」マチコが言った。「私自身の中で、そんな面倒なことが起こっ

ているのかしら?」

「ははは...」高杉が、頭に手を当てて笑った。「まあ...自分でも分からないコトを...これ以

上、アレコレと言うのはやめましょう...とりあえず、“参考文献”から、アハラノフ教授の言ってい

ることを、考察してみましょう...」

「はい、」関が、うなづいた。「そうですね...」

量子力学によると・・・自然は気まぐれに振舞うが・・・?>  

                      

量子力学によると...」高杉が言った。「...“自然は気まぐれに振舞う”...とされます。

  言いかえると...量子力学においては...全く同一の物理系同じように観測しても、“結果

はランダムに変化する!”...ということですねえ。アインシュタインはこれを嫌い、“神はサイコ

ロを振りたまわず”...と言って、自らがをまいた量子力学に、非常に懐疑的でした。

  しかし、実際に、量子力学の観測をくり返していると...“自然は気まぐれに振舞う”...よう

に見えるわけです。“神”は、信心深いアインシュタインの言葉に反し、“サイコロ博打(ばくち)

(たしな)まれるようです。これは、むろん、アインシュタインも、重々に確認していることですね」

「うーん...不思議よねえ...」マチコが言った。「どうして、サイコロを振ったような、違う結果

なるのかしら?」

  江里香も、ミケを膝の上に抱きながら、無言でうなづいた。

「そうですねう...」高杉が言った。「何故、“神”は...“量子/開かずの扉から・・・サイコロ

を投げるのか?”...ということです。

  言いかえれば...“量子力学では・・・同一のもので構成された物理系が・・・何故、異なる状

態に行きつくのか?”...ということですね。ここの所は、まさに私たちの常識に、大いに反して

います」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「不思議よね...

  同じようにやっていて、何故、結果が違うのかしら...普通は、同じ結果になると思けど、本当

なのかしら?...これは、物理学なのよね?」

「そうです...」高杉が、ゆっくりと言った。「物理学ですし、本当のことです...

  アハラノフは、これを、こう考えたようです...“異なる状態に発展する物理系には・・・初めか

ら、違いが存在している”...のだと。しかし...“その違いは・・・後からその物理系を観測する

ことによってしか・・・見えないのだ”...と...」

「そうかあ...」マチコが言った。「そこでは、すでに...“ランダムに選択されたた後!”...と、

いうわけなのね...?」

「その通りです...また、アハラノフは、こうも言っています...

  “自然のこうした特性を式で表すには・・・量子的状態を表す波動関数が、2つ必要になる”...

つまり...“1つは、過去から現在までを示す波動関数・・・もう1つは、未来から現在までを遡っ

て記述する波動関数”...だと...」

「うん...」

「その結果...

  アハラノフは、どういうことをしたかというと...量子的な状態を、この“2つの波動関数”を使っ

て、書き直したといいます...しかし、“参考文献”には、これ以上のことは、記載されていません

ね...」

「うーん...」

「それにしてもです...」関が、頭をかしげながら言った。「“未来から・・・現在までを遡って記述

する”...というのは、これまで、聞いたことがありませんね」

「うん、」マチコが、コクリとうなづいた。

「いいですか...」高杉が言った。「いわゆる...私たちの知識には...

  直感/・・・直接的知識と...シンボル(象徴、ある意味を表す記号)/・・・間接的知識とがあるのだそ

うです。直観とは、先ほども言ったように、5感/視・聴・嗅・味・触で、直接的に知り得た情報です

ね。あるいは、“第6感”と呼ばれるような、意識レベルの直感も含まれるのでしょう...

  膨大な、文明的・知識のボリュームを保持するホモサピエンスの場合は...シンボル/・・・間

接的知識の方が圧倒的に多いわけですが...これは、直接的知識以外のものをさします。例え

ば、教育学習文化など、社会システムのほとんどは、壮大な“言語的・亜空間世界”を構成

しているわけです。

  したがって...そもそも、人類文明とは...種の意識総体が構成している、“言語的・亜空間

世界”とも言えるわけです。それは、書物絵画通信機材などで、実体化している領域もあり

ますが、その本質“種の共同意識体/バーチャル空間”の中にあるのでしょう。

  動物/植物/細菌の場合でも...種の共同意識は観測されますが...文明レベルまでは発

達していません。したがって、そのほとんどが、直接的知識で行動しています。つまり、本能だけ

であり...教育の必要はないのです...」

「うーん...」マチコが、ボンヤリとうなづいた。「そうかあ...ホモサピエンスは、文明社会を形

成しているから...教育学習が大変なのね...」

「まあ、それだけ豊かに、“存在を覚醒”できるわけです...」

「でも、猫だって幸福よね...」

「うむ...」

<超越的体験の・・・時空構造解は・・・?>  wpeA.jpg (42909 バイト)    

                 

 

「さて...」高杉が、マウスの上に手を置いた。「また、余計な話をしてしまいましたが...本題を

進めましょう...

  私たちは、実際のところ...直感/直接的知識で...ある程度、未来を予知することができ

ます...また、透視して空間を超越することを、実際に体験することもあります。あるいは、そう

した能力者を通して、間接的に体験/実感することもあります...

  こうした現象というのは、すでに古来から、社会化されています。また、文献などにも多く記さ

れています。科学的でないというだけで、荒唐無稽(こうとうむけい)と片づけるわけにはいきません。

物理科学とは、“物の領域”のことであり...この世の半分しか説明していないわけですから」

「うん...」マチコが、真面目な顔でうなづいた。

「ええ...」高杉が、モニターに目を投げた。「いいですか...

  こうした超越的体験で...私たちが問題にするのは...そうした能力者不思議な力ではあ

りません。その不思議さの背景となっている、“謎の数学的・時空構造解”の方なのです。あるい

は、“認識のシンボル構造”の方なのかも知れません。

  つまり、それは...“謎/・・・人間的解釈”の、“言語的・亜空間座標”での、構造化の作業

のです。それは、そこへの記述の方法の探求であり...そのための構造解明なのです。そして、

それが、文明の威力となるわけです。

  人間動物昆虫も...あるいは細菌なども...“36億年の彼”とのリンクという点では...

全体性の中で平等です。しかし、ホモサピエンス大容量の大脳を付与され...文明の発展

いう役割を担わされています...何故なのかは、分かりませんがね」

「はい、」

「私たちは...

  ともかく...“言語的・亜空間座標”を拡大して行き...さらに、それを、ステージ・アップして行

くという、“生命潮流”の中での使命を背負っているのかも知れません...そうした意味で...

という固定観念は、取り払っておきましょう...」

「はい...」マチコが、椅子の下に寄ってきたミケの頭に手を触れた。

    

アハラノフの話に戻りますが...」高杉が言った。「彼は、こう言っていいるわけです...

  “ある物理系の現在の状態は・・・その系がたどってきた過去だけでなく・・・これから進む未来

によっても決定されている”...と。非常に明快な概念です...」

「うーん...」マチコが、首をかしげた。「でも、さあ...どういうことなのかしら...?」

「まあ...」関が、つぶやくように言った。「深慮遠望の領域となると...私などには分かりませ

んが...例えば...明日、海へ海水浴に行くのか、山へ登山に行くのかで...今日の準備の

内容...も違ってくるわけでしょう」

「でも、さあ...」マチコが、関に言った。「今日の準備があるから...明日の日程も決まって来

るのではないかしら?」

「ああ...」関が、頬に手を当てた。「なるほど...しかし、明日の日程/行為が...逆流して、

今日に衝撃を与えるということが...“有り得る!”...ということですね、塾長...?」

「うーむ...」高杉が、口に拳を当てた。「そうですねえ...

  ともかく...過去からの因果律と、未来からの衝撃両方で...“今/現在”...というもの

が、決定されるようですねえ。先ほども、少し考察したように...“現在/今という広野/今を

形成する世界”...が、“果たして何者なのか...?”、ということもあるわけです」

「はい...」関が言った。「“命とは・・・/そこに発現する今の広がりとは・・・/現在を認識す

る波動とは・・・”...一体、何なのでしょうか...?」

“時間”とは...」高杉が言った。「単なるパラメーター(媒介変数)なのか...特殊相対性理論

ように、空間と不可分の、幾何学的関係性を持つ何者かなのか...それとも、“認識の本質”

関係するものなのか、ということですねえ...」

「これは...」関が、頭をツルリと撫でた。「古くて新しくて...難解な問題ですね...頭脳が、

頭脳について、理解しようとしているように...が、私について、理解しようとしているように」

「そうですねえ...私たちも、先人と同じ道を...彷徨(さまよ)っているということですかね...

  ええと、ちなみに...アハラノフは、こう言っています...“量子力学の方程式は・・・時間につ

いて対称なので・・・未来から現在に遡るような定式化も、可能なのだ”...と。

  それから...“2つの波動関数”を使って書き直した式でも...物理系を観測した時に何が見

えるかは、従来の式と変わらないのだそうです。アハラノフは、量子力学変更したのではなく、

“新しい見方を提唱”しているのだと言っています...

  つまり...量子力学の理論自体は、従来のままだということですね。では、何が違うのかとい

うと...“新しい見方に基づいて記述すると・・・今まで見えなかった特徴や物事が・・・見え

てくる”...のだそうです、」

「うーん...」マチコが、椅子にそっくり返った。「見えなかったものが...見えて来るのかあ...」

「そして...いいですか...そのようなことを、具体的に示すような実験がないかと考え...思

いついたのが...“弱い測定”だった...と、アハラノフは言っています」

「うーん...」マチコが言った。「そう言われてもさあ、よく分からないわよね...ま、いいかあ。そ

れで、それが...どうだというわけよ...?」

「つまり...」高杉が、ほくそ笑んだ。「“弱い測定”という概念は...

  このような経緯から...思いついたということです。まあ、マチコさんの言うように、これだけで

は分からない部分もあります。しかし、ここはパスして、先へ進みましょう。つまり、そう言っている

ように...そうすることによって、“見えてくるものもある!”ということです...」

「うーん...」マチコが、頬を両手で挟んだ。「なにか、誤魔化(ごまか)していないかしら?」

「ははは...」関が、笑った。「いいですか...学ぶというのは、風景画を描くようなものかも知れ

ません...

  全体をスケッチし、少しづつ絵具を重ねて行くわけです。実際の学問フィールドにおいてもそう

です。みんなで分業し、専門的解明を深め、それらを再統合して行くわけです。こうした膨大な業

蓄積によって...現在の、量子力学体系も出来上がっているわけです」

「そうかあ...

  こうやって...知識を重ねて行って...量子力学全体の絵/風景が...キッチリと見えてくる

というわけね?」

「そうです...」関が、うなづいた。「量子力学相対性理論が、現代物理学/現代社会の、基盤

になっています...まあ、ダブル・スタンダードですがね...

  一応...ということですが...ナノ(10億分の1の意味/・・・ナノ・メートル)・レベル以下ミクロ領域が、

量子力学の支配下にあるようです。そして、それ以上のマクロ領域が、相対性理論の支配下

あるといいます。

  ちなみに...最近、話題にっているナノ・テクノロジーの領域では...両者が競合しているの

だそうです。そのために、難しいこともあるようですね...」

「はい...」マチコが、コクリとうなづいた。「うーん...

  ともかく、さあ...ナノ・テクノロジーの領域では、量子力学相対性理論が競合しているわけ

ね...なら、その領域で...2つの理論は統合できないのかしら?」

「なるほど...」高杉が、腕組みをした。「マチコさんの言う通りかもしれませんねえ...」

「でしょう...?」マチコが、少し威張って言った。

「はは...」関が、笑った。それから、深く頭をかしげた。

  〔3〕 再び・・・  ナマの量子風景・・・        

    /量子の重ね合わせ状態  を壊さずに見るとは            

             wpeA.jpg (42909 バイト)   

「さて...」高杉が、モニターの(あら)い走査線の画像を見た。「これが、何に見えますか?」

「ええと...」江里香が、スクリーン・ボードに転送されている画像を振り返った。「鹿が走っている

所かしら?」

「まあ、そんな感じですねえ...

  この画像は、走査線の数を増やしていけば、はっきりと見えるようになります。しかし、“量子的

な重ね合わせは・・・観測すると・・・撹乱され、壊れてしまう”、と考えられています...極微の世

のために、そこに粒子を当てると、それだけで大きな攪乱要因になってしまうようです」

「はい...」江里香が言った。「普通の世界では、光子電子が当たったぐらいでは、ほとんど変

化がないわけですね?」

「そうです...

  つまり、いいですか...“重ね合わせの量子系”観測して...その状態を知るには...“重

ね合わせ”壊すという、代価を払う必要があるわけです。そして、そこにはもう、“もとの状態”

は存在しないということですね。これは、極微の世界破壊検査ということになるのでしょう」

破壊検査ですか...」

“量子状態”の場合、本質的に、非・破壊検査不可能だったわけです。だから、 “量子/開

かずの扉の内部” と言ってきたわけです。/観測/測定/破壊検査/で見えてくるのは・・・

壊れた後の状態、なのです。少なくとも、“壊れる前の・・・重ね合わせの状態”ではありません」

「うーん...」マチコが、体を揺らした。「そこで...アハラノフ教授の、“弱い測定”が登場するわ

けね」 

「そうです...

  少し細かく言うとですね...観測した時に、壊れる程度は・・・得られる情報の大きさによっ

て決定”、されます...数学的に言えば、観測によって壊れる程度は・・・観測によって得られ

る情報量の2乗に比例、します。

  ここで...情報量を小さく絞っていくと・・・壊れる程度は急速にゼロに接近、するわけです。

したがって、“得られる情報量を、極限まで減らせば・・・重ね合わせ状態を・・・壊さずに観測する

ことが可能だ”、ということになります」

「うーん...」マチコが、指をガッチリと組んだ。「数学的に、計算できるわけね...」

「もちろんです...」高杉が、ニッコリと笑った。「まあ、我々は、数式を使った説明はしませんが、

物理学にとっては、主要なツールですからねえ...」

「はい...」

「ともかく...

  1回の測定で得られる情報量は...非常に少なくなります。しかし、測定を何度もくり返すこと

により・・・情報量を加算し・・・ナマの量子状態/重ね合わせの状態を・・・見ることが可能だ”、と

いうことです」

「はい、」江里香が、両手を握り、マチコを見た。

    

「いいですか...」関が、マチコと江里香に言い、それから北原を見た。

「はい、」北原が、うなづいた。

“弱い測定”では...」関が、北原に言った。「測定何度もくり返すことになります...

  それには、“同じ観測/測定が・・・何度もできる”、ということが前提条件となります。ところが、

“量子状態は・・・全く同じ条件のもとで観測しても・・・結果はランダムに異なる”、わけですね」

「はい...」北原が言った。

「したがって...いいですか...

  測定対象が・・・実験の最初から最後まで・・・全く同じになった場合だけを選んで、測定する”

ということになります。そこで、まず、最初に...

  @ “実験を始める際の・・・始状態を普通に測定(/強い測定/破壊測定)して・・・特定の状態になっ

ているものだけを選び出す”、ことになります。

  次に...A “実験を始め・・・その最中に弱い測定(/非・破壊測定)を行う”、わけです。

  そして...B “実験が終わったら・・・終状態を普通に測定(/破壊測定)して・・・再度ある特定の

状態になったものだけを選び・・・その中から、先ほどの弱い測定の結果を記録する”...という

わけですね...」

「うーん...」マチコが、唇を指でこすった。「ややこしいわねえ...」

「はは...」関が笑った。「細かく言えば、ややこしくなりますが...

  要するに...最初最後に、“普通の測定/強い測定”を行い...その間に“弱い測定”を行

うということです。そして、“重ね合わせ状態”を壊すと、終状態がランダムに変化するので...

“そろっている・・・特定のもの”を、選び出すということです」

「うん...」マチコが言った。「そういうことね、」

「まあ...」関が、頭をつるりと撫でた。「“終状態は・・・ランダムに変化するので・・・弱い測定結

果も・・・無駄なものは捨てる”...ことになるわけです。“同じものを選んで・・・積み重ねれば誤

差が減り・・・実験中の量子状態が見えてくる”...ということです」

「うーん...」マチコが、また難しい顔になった。

「はは...もう一度言いますが...

  始状態終状態を選択することで・・・途中の状態/ナマの量子状態/量子の重ね合わせの

状態を・・・測定できる”...ということです」

「それにしても...」北原が、白い歯を見せた。「やっぱり、ややこしいですね」

「これは...“弱い測定”の大事な所なのですが...ここでは、大体の所を理解しておいてくださ

い。これからも、くり返し説明して行きますから、」

「そうですか...」北原が言った。「どうも自信がないですねえ」

「この説明だけで、全て理解できるのであれば、量子力学も苦労はないわけです」

「なるほど、」北原が、納得してうなづいた。

「また...」関が言った。「そこに、疑問をさしはさむことによって...新たな1歩が始まるのです。

それがなければ、物理学の進歩はありません...まあ、学問は皆そうですが...」

「そうですね、」北原が言った。  

具体例/・・・大阪大学の行った実験 >  wpeA.jpg (42909 バイト)   

               wpe8.jpg (26336 バイト)    

「では...」関が言った。「実証実験での、具体的な事例で話を進めましょう...

  日本/大阪大学の研究グループの行った実証実験については...“参考文献/当事者の論

文”をもとに、後で詳しく考察しますが...ここでは少し、そのガイドラインをのぞきながら、話を

進めたいと思います」

「はい、」マチコが、うなづいた。「いよいよ...“存在確率=マイナス1の光子”が、確認された話

ね、」

「そうです...    

  この日本/大阪大学の実験は...イギリスの物理学者/ハーディー(Lucien Hardy)が提唱した、

パラドックス(逆説)に基づいていると言われます。

  これは...“量子的・干渉計”を2つ組み合わせて...それぞれに電子と、その反粒子である

陽電子を入れます。電子陽電子は出会うと、対消滅(ついしょうめつ)で消えてしまうわけですね。し

かし、それにもかかわらず、2つの粒子波動関数の干渉は起こるといいます。

  この時...干渉計の中では、一体何が起こっているのか?これまで、このことについては、誰

も説明ができなかったわけです。電子陽電子対消滅したはずなのに、何故、波動関数の干

は起こるのかということですねえ...不思議です。まさに、ミステリーです。

  まあ...量子力学は、エキゾチック(異国的な、異国情緒のある)な世界であり、ミステリーには事欠き

ませんが、それにしても...干渉計の中は、一体、どうなっているのかということです...」

「不思議だけどさあ...」マチコが言った。「突然、そんなことを言われても、分からないわよね」

「そうですね...」関が、顎に指を当て、モニターをのぞいた。「これまで、物理学者たちは...

  “干渉計の内部で起きている現象は・・・干渉を妨げずに観測することは不可能だ”...と言っ

てきました。そして、“観測できないことを・・・語ろうとするから・・・いけないのだ”、と言う...

ーア(ニールス・ボーア/・・・相補性原理を提唱/量子力学のコペンハーゲン解釈の中心人物)以来の、ドグマ(教義、独断

的な説)を受け入れてきたわけです」

「そこで...」マチコが言った。「アハラノフ教授の、“弱い測定”が登場するわけね?」

「そうです...

  アハラノフ教授は...電子陽電子が、“特定のパターンで入力・出力される場合”を選んで、

“弱い測定”を行えば...干渉計の中で電子陽電子がどのようなコースを進み、何故、干渉

起きるのかを、見出すことができると言っています」

「うーん...ミステリーの謎を解くわけね...

   “量子/開かずの扉の内部” で、何が起こっているのか...“弱い測定”を行えば、分かる

というわけね?」

「そういうことです...」関がニッコリと笑い、唇を結んだ。「しかし、実際には...

  電子陽電子を使う実験は、技術的に非常に困難なようです。あ...もともとこれは、思考実

なのです。つまり、実証実験が必要なわけですね。ところが、干渉計の中に電子陽電子を入

れ、対消滅させて“弱い測定”を行うという実験は、非常に高い壁があるようです」

「はい...」

「ところが...前に紹介したように...

  日本/大阪大学のグループと、カナダ/トロント大学のグループが...電子陽電子の代わ

りに、光子を用いた実験で...実証成功しています。

  光子反粒子は、同じ光子であり...そして、“量子もつれ光子”の、“非局所性”をうまく使っ

たようですね...」

「うーん...」マチコが言った。「それは、後で説明するわけね、」

「そうです」

                             wpeA.jpg (42909 バイト)          wpe75.jpg (13885 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト)
        

  ミケが、ひょいと、江里香の膝の上から、作業テーブルに上がった。そして、のっそりと歩きな

がら、それぞれのモニターを見た。それから、高杉のキーボードの横にくると、行儀よく両手を揃

えて座り、尻尾をクルリと巻いた。

アハラノフ教授は...」高杉が、ミケの頭をひと撫でして言った。「“弱い測定”というのは、“全

く新しい概念”だと言っています。

  これまでは...“測定できない量子状態には・・・物理的なリアリティーはない”...と考えられ

てきました。しかし、“そうではない!”と主張しているわけです。“始状態”“終状態”を選べば、

“その間の量子状態”測定でき...したがって、その“量子的・実在”についても、議論ができ

るという主張です」

「うーん...」マチコが、頭に手を当てた。「“量子的・実在”かあ...」

「これは...“新しい概念であり・・・量子力学の新たな側面”に、光を当てることになると言い

ます」

「塾長...」関が言った。「一般的には...

  “量子的な重ね合わせには・・・物理的実体はない”...と考える人が多いようですね...これ

は、今後、議論を呼ぶことになるのでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、頭をかしげた。「そうですねえ...

  私たちとしては、専門家の議論を見守って行くしかないでしょう。そのことについて、アハラノフ

教授は、このようなことを言っています...

  観測/測定によって様々に変化するものを・・・実在とは呼びにくい。しかし、弱い測定通常

の測定と違って・・・量子状態に影響を与えない。それならば、この方法で測ったものを、実在

んでもいいはずだ”...と、」

「はい...」関が、顎に手をかけた。

アハラノフ教授は...

  “弱い測定”で得られる測定結果を、“弱い測定値(Weak Value)と名づけたそうです。これは、

“物理系の量子状態”“直接測ったもの”で...“これまでにない新しい概念”だと言います。

“量子力学の・・・新たな側面を解き明かす・・・ツール(道具、手段)として、期待されるようです」

「はい...

  量子力学は...“量子情報科学”という新展開もあり、新しい段階へ入るようですね。20世

紀初頭黎明期を経て...原子爆弾の開発という暗い方向へ進みましたが...今度は、明る

い方向へ進みそうですね」

「まあ、そう願っています。我々としても、後を追いかけてみましょう」

「はい」

存在確率=マイナス1の光子/・・・その意味とは? wpe8.jpg (26336 バイト)    

                       

「ええと...」関が、モニターから顔を上げ、高杉の方を向いた。「塾長...

  アハラノフ教授が、予想した通りに...日本/大阪大学グループ実証実験で...干渉計

の中の...“粒子(/この場合は光子)が、ある場所に存在する確率が・・・マイナス1”...になった

ことを確認したようですね。

  “存在確率=マイナス1の光子”...というものは、はたして“実在”なのでしょうか?純粋な疑

を感じますが...?」

「うーむ...」高杉が、マウスに手を置いた。「その通りですねえ...

  ともかく、このことについては、アハラノフ教授もこのように言っています...“私は・・・マイナ

の確率という言葉は使わない。負の存在確率というのは・・・何かが、負の数だけ存在するとい

のと同じで・・・意味をなさない...と、」

「私も、そう思います...」

アハラノフ教授は...さらに、こう言っています...

  光子の数がマイナスなのではなく・・・物理的特性が全て逆になった光子が・・・正の数だけ存

在する・・・と見るべきだ”...と」

「ふーむ...」

「つまり...

  普通の光子は、“振動数に比例する正のエネルギー”を持っているわけです。しかし、“全てが

逆になった光子”では、“同じ大きさの負のエネルギー”を持つのです。そして、“偏光方向も・・・

普通の光子とは逆になる”、ということですねえ」

“負のエネルギー”ですか...そのような、“物理的特性が・・・全て逆になった光子”が、干渉計

の中に存在するというわけですか...?」

「うーむ...」高杉が、腕組みをした。「まあ、そのように、解釈するということですねえ...

  アハラノフ教授は、このようなことも言っています...粒子の数の測定というのは・・・普通の

測定/強い測定だ。しかし、弱い測定では・・・粒子の数を数えるのではなく・・・代わりに、粒子の

何らかの物理的性質を測定することになる”...と...」

数量のカウントではなく...何らかの物理的性質をカウントするのですか...それも、奇妙な

ですねえ...」

「うん、」マチコも、うなづいた。

「ともかく、“弱い測定”で...“測定値が負の値”になったら...

  それは...“その性質が・・・普通とは逆であることを意味しているのだであって・・・粒子の数

が負になるわけではない”...という解釈です。

  例えば...粒子の質量について...“弱い測定”を行い、負の値となったら、その粒子“負

の質量”を持つ、ということになるわけです」

「うん、」

相対性理論においては、“質量はエネルギーと等価(とうか/等しいこと)です。したがって、“負の質

量の粒子”とは...“負のエネルギーを持つ粒子”...ということになります」

「うーん...」マチコが、不満そうに口をとがらせた。

  高杉が、丸くなって眠っているミケの頭に、そっと手を置いた。ミケが目を開け、高杉の手をペ

ロリとなめた。

 

「塾長...」関が言った。「確認ですが...

  “物理的性質が逆の粒子”というのは...いわゆる陽電子反陽子のような...反粒子とは

違うわけですか?」

全く違うということです...

  ここで、アハラノフ教授がいう...“物理的特性が・・・全てが逆になった光子”というのは、それ

とは、全く異なる粒子のようです。反粒子は、電荷スピンなどが逆になっていても、質量は正の

です。したがって、正のエネルギーを持つわけですね。

  ところが、“物理的特性が・・・全てが逆になった光子”では、質量まで含めて、全てが逆になっ

ている粒子だといいます。これも、“全く新しい概念”だということです...」

「あの...」江里香が言った。「“物理的・性質”と、“物理的・特性”とに、使い分けていますが、そ

れは違うのかしら?」

「ああ...性質特性も同じ意味です。ただ、同じ言葉を統一的に使っただけです」

「あ、はい...」江里香が、うなづいた。

“物理的特性が・・・全てが逆になった粒子”、というのは...」関が言った。「“全く新しい概念”

なのですか?」

「そう、アハラノフ教授は言っています」

  マチコが、コクリとうなづいた。

 

<干渉計の中で、何が起きているのか/不思議な光子・・・に変身?

                  

「ええと、塾長...」関が言った。「日本/大阪大学グループの実証実験ですが...

  アハラノフ教授の話によると...最初に干渉計に入れるのは、“普通の光子”ですよね。それ

干渉計の中では...“物理的特性が・・・全てが逆になった光子”/“不思議な光子”...にな

る、ということでいいのでしょうか?」

「そういうことですねえ...」高杉が言った。「そして、“実験装置/・・・特殊な干渉計”から出てき

た時には...再び“普通の光子”に戻り...“普通の測定/強い測定”検出器に入る、という

ことになります」

「都合がいいですね、」

「まあ...そのための仮説ですから...」

「はい、」

実験では...

  最初に“普通の光子”を入れる時に...“普通の測定/強い測定”をして、“同じ方向から来る

光子”だけを選んでいます。そして、干渉計の中で“弱い測定”を行い...“最後に出てきた光子”

に、再び“強い測定”を行い...“特定の方向に出てきたものだけを選択”するようです」

「そうかあ...」マチコが、頭を反対側にかしげた。「関さんが説明したのはさあ...そういうこと

なのか、」

「はは...」関が、頭をかいた。「私の説明が悪かったですかね、」

「うーん...何度も説明すると、分かって来るわよね、」

「ええと...」高杉が言った。「いいですか...

  干渉計の中で...“負の数だけ存在しているかのような光子/存在確率マイナス1の光子”

というのは...“物理的特性が・・・全てが逆になった光子”...だということですね。アハラノフ

教授は、この光子実在するが...“弱い測定”でしか、見ることはできないと言います」

「はい、」関が、小さくうなづいた。「実在するということですね、」

「そうです...しかし、“弱い測定”でしか、見ることはできないわけです」

「ふーむ...」関が、口に手を当てた。

「ま...実証実験については、後で詳しく考察しましょう...

  ところで...アハラノフ教授は、もう1つ、別の実験提唱しています。もちろん、この実験はま

実証は行われていないわけですが、近い将来、実現されるようです。これだと、分かりやすい

と、教授は言っています」

「どのような実験なのでしょうか?」

「ええと...これは、ですねえ...

  単純な干渉計に、光子1個入れます。これをくり返し、“入れる前”“出てきた後”で、“一定

の状態になったケース”について...干渉計の中で、“弱い測定”を行います。もちろん、後から

“弱い測定”を行うのではなく、条件に合ったものを選び、不要のものは廃棄ということでしょう」

「ええと、塾長...」関が、モニターを見て言った。「これは...

  “弱い測定”において...干渉計の中にあるが...“光子との衝突によって・・・どのような

運動量を得るかを・・・調べる”...というものですね?」

「そうですね...

  まあ...光子質量が問題になりますが...現代物理学の常識としては、“光子の静止質

量はゼロ”ということになっています。しかし、光子周波数に応じて、エネルギー(質量とエネルギー

は等価)を持っているわけですね。

  さて、そこで...“普通の場合は・・・鏡は光子を跳ね返し・・・光子が飛んでいく方向とは逆向

きの・・・運動エネルギーを獲得”、するわけです。しかし、負の数に見える光子が衝突すると・・・

鏡は光子の飛んでいく方向に・・・引き寄せられる、ということですねえ。

  これはまるで、“この光子から・・・負の圧力を受けるような現象”、になるということです。“存在

確率・・・マイナス1の光子”が鏡にぶつかると...“負の圧力”をうけ...“鏡が光子に吸い寄せ

られるような力”、を受けるということです。普通とは逆になるわけですね」

「ええと...実証実験は...まだ、ということですね?」

「そうです...

  近く行われるようですね。したがって、このようになるということが、実証実験確認されている

わけではありません。理論上計算上では、そうなると予測されているということです」

「つまり、さあ...」マチコが、頭を揺らした。「それが...どうだというわけよ...?」

「まあ...」高杉が、ほくそ笑んだ。「そうですねえ...

  “弱い測定”による...“存在確率・・・マイナス1の光子”...が実在することの証明になるの

でしょうか。これは...“量子力学に・・・新しい窓を開く”...ことになるのかも、知れないとい

うことです」

「うーん...」マチコが、コクリとうなづいた。

  〔4〕 “弱い測定”/経過・展望・評価    wpe75.jpg (13885 バイト)

                 

  高杉が、モニターから顔を上げ、作業テーブルを見まわした。関が、モニターを見ながら、キー

ボードを打ち込んでいる。北原は、科学雑誌/日経サイエンス/“参考文献”のページをめくって

いた。マチコと江里香は、テーブルの上のミケをかまっている。

「さあ...」高杉が言った。「いいかな...」

「はい」江里香が、小さくうなづいた。

  北原が、“参考文献”を脇へやった。

「これは...基本的なことですが...

  物理学基本方程式のうち...“物体の運動を記述する・・・ニュートン方程式”や、“電磁気

学を記述する・・・マクスウェル方程式”などは...時間を示す“ t ”負の値にしても、なんの問

題もなく成立します。これは、“時間(反転)対称性”と呼ばれている性質です。

  “時間対称性”を満たす方程式では、現象未来だけでなく、過去をも記述しています。例え

ば、ボールの位置速度と、ボールに働く力が分かれば、数秒後の未来の位置が分かります。

同時に、この運動方程式から、過去の位置も正確に分かるわけです...」

「はい、」江里香が、言った。

「これに対し...

  “熱運動を記述する・・・熱力学方程式”は、“時間対称性”はありません。熱力学では、第1法

則/【エネルギー保存の法則】と、第2法則/【エントロピー増大の法則】が有名ですね。そして、

後者の方の、エントロピー増大による時間不可逆性が、“時間対称性”を破壊しているわけです。

  具体的に言うと...熱い湯冷たい水を混ぜたら、全体でぬるい水ができるわけです。しかし、

そのぬるくなった水から時間を遡り...以前にどのような状態があったかは...熱力学方程式

は、何も語らないわけです。つまり、“時間対称性”のない...不可逆の現象だからです」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「かき混ぜてしまうわけかあ...」

「この不可逆熱力学現象は、宇宙をも支配しています...

  壮大な宇宙の運行は...ビッグバン宇宙から、エントロピー増大による、宇宙の熱的な死の

状態へ向かっています...そもそも、ビッグバン直後の小さな“物質のゆらぎ”から、物質の偏在

が生じ、しだいに宇宙の構造化/宇宙の進化が始まったと考えられています」

「それが...」江里香が言った。「再び、熱的な死/熱的平衡へ向かって...不可逆的に流れて

いるわけですね、」

「その通りです...

  しかし、全体はそうですが、それほど単純なわけではありません。まず、そこに、“主体/私/

生命体”が、存在するということです。全ての現象は、宇宙の運行も含めて、超媒体/・・・命

/主体的現在”の、“認識の鏡”に映された“この世の姿”なのです。

  これは、“夢”同根で...どのようにでも変化します。私たちは、ホモサピエンスの形成する、

“夢のような共同意識体の幻想と・・・リアリティーの融合世界”に住んでいると考えられます。

その、“言語的・亜空間”に、人類文明が形成されているようです...」

「はい...」江里香が言った。「そして、時間の上を流れているわけですね..」

「うーむ...流れ...時間の流れは...認識に付随するパラメーター(媒介変数)なのか、“世界

の本質と不可分のもの”なのかということですねえ...エントロピーの増大は、あるわけですが」

エントロピーの増大は...不可逆的で...止めることはできないわけですね...」

「止めることはできませんが...拮抗(きっこう)するものは存在します...

  それは...構造化/進化の、ベクトルの発現です。熱力学的にいえば、宇宙構造化/

進化していますが、身近で分かりやすいのは、生命体/生物体でしょう。生物体というのは、前

にもしばしば説明していますが、“エントロピー増大宇宙に拮抗し・・・唯一、永遠性を獲得”、して

います。

  個体さえも、生態系の中で“新陳代謝”して行きますが...その生物体を利用し、“命の

本質”のように...あるいはのように...これらの個体の上を移ろい...まさに永遠性

を獲得しているのです。それゆえに、“命の本質”は、そのプロセス性にあるように見えます」

「うーん...」マチコが言った。「それが、塾長の言う...“36億年の彼”になって行くわけね、」

「まあ...生物体エントロピー増大に拮抗しているのは、“新陳代謝”というシステムです...

  “食糧やエネルギーを外部から取り入れ・・・それを自らの再生・増殖・エネルギー源とし・・・エ

ントロピーを排泄する”...という、“新陳代謝エンジン”です。この高性能エンジンによって、

物体個体を超えた、“命のプロセス性/永遠性”を獲得しています」

「うん...」

「これは、もちろん、DNA型生命体の姿ということです...

  しかし、現在、唯一観測されている生命体は...この“DNA/炭素型=新陳代謝エンジン”

をもつもののみです。このシステムは、生命体最小単位/細胞と、単細胞生物で観測されてい

ます。

  ウイルスは、“新陳代謝/呼吸”はしていません。また、単独/自己完結的に、増殖することも

できません。“生態系/生物体の、細胞の海を渡り歩き・・・機動性・遺伝子のような生き方”をし

ています。これはこれで、生態系のモザイクを形成しているわけですね...」

「はい...」マチコが言った。

                    

「さて、と...」高杉が、モニターをのぞきこんだ。「話を戻しましょう...

  “量子力学の基本方程式/シュレーディンガー方程式/波動方程式”にも...“時間対称性”

があります。電子光子量子状態が、この式に従って変化している限り...過去未来

測が可能です。

  しかし、“量子状態を測定/強い測定”した後のことも含めた、全・理論体系でも...“時間対

称性”が成立し得るのか、ということですねえ。つまり...“観測/強い測定”をすると、“重ね合

わせ状態”が壊れて...サイコロを振ったように...ランダム1つの状態が顕在化るわけで

す...」

「うん...」マチコが言い、横に頭を沈めた。「そうよね...」

現在量子力学では...

  “測定するという行為は・・・波動方程式の枠組みの外側にあり・・・式では書けない不連続な

過程”...とされています。

  この“測定するという過程”を経ると...“神”が...例のアインシュタインが嫌うところの、

イコロを振るわけです。ここで、量子状態本質的な変化を起こし、それ以前の状態は、撹乱

れて、分からなくなるわけです。つまり、“時間対称性”はなくなります...」

“測定するという過程”を含めて...」関が、腕組みをした。「“時間対称性”のある理論で、記

述することはできないのでしょうか...?」

「問題は、そこです...

  実は...そうした試みに端緒を開いたのが...1963年当時アメリカ/イェシーバー大学

アハラノフバーグマンレボヴィッツが提唱した、“新たな量子測定の理論”だということです。

  彼等は...“量子状態が・・・測定後に・・・あらかじめ決まった状態になるという仮定を置く”

ことによって、“時間対称性を持つ・・・量子測定の理論”を構築したようです。

  その後、アハラノフイスラエル/テルアビブ大学へ移り...アルバートヴァイドマンととも

に、この“新たな量子測定の理論”を発展させたようです...ええと...1988年に、“量子状態

をほとんど壊さずに測定”するという、“弱い測定の概念”を導入したということです...」

「うーん...」マチコが言った。「そういう、長い努力があってさあ...開発されてきたわけね、」

「そうですね...

  “弱い測定”は...“量子力学の新しい窓”...を開く可能性のあるものです。そう簡単なも

のではありません。これは、もう一度説明しますが...

  “博物館にある貴重な展示品を・・・ガラス越しに、そっとのぞき見る”...ようなものだと言い

ます。ガラス越しであれば、展示品を壊すこともないわけですが、触ることもできず、非常に見に

くいわけです。しかし、それでも何度もくり返し、じっくり観察すれば、見えてくるものもあるわけで

す」

「はい...」マチコが、うなづいた。

 

“弱い測定・・・弱い測定値”の、全体像はまだ不明?

                   

「ええ...」高杉が言った。「前にも言ったように...

  “弱い測定”によって得られる、“弱い測定値”は...“現在から未来に時間発展する波動方程

式・・・歴史ベクトル”と...“未来から現在に時間逆流する波動方程式・・・運命ベクトル”の...

ペアの方程式によって、定義されています...」

「はい...」マチコが、頭をかしげ、まばたきした。「そんなことを、言っていたわよね...」

「そして、いいですか...」高杉が、マチコに言った。「この“弱い測定値”は...

  これまでの物理常識とは、相容れない結果になることが、しばしばあるということです。例えば、

“存在確率=マイナス1の光子”や...通常は、“0”や、“1/2”や、“マイナス1/2”などの値

になるスピン(角運動量)が...“100”という異常な値になったりすることも、あるようです...」

「うーん...“存在確率=マイナス1の光子”だけでもさあ...理解に苦しむわよね、」

「まあ、その解釈はともかく...そういう値が出るわけですから...物理的常識を超えているわ

けですねえ」

「うん...」マチコが、うなづいた。

「したがって...

  当初は...まったくの“理論的な量”として存在していたようです。そんなわけで、実際に測定

しようとする人もいなかったわけです。ところが、近年、状況が変わってきたと言います。主とし

て、光学の分野において、実証実験が行われるようになって来たということです。その成功例

1つの...大阪大学のグループというわけです」

「はい...」マチコが、ニッコリと笑った。「“研究論文”の考察が、楽しみよね!」

「はは...」高杉が笑った。「マチコさんも、興味が持てるようになりましたか、」

  みんなが、笑った。

<人間 = “神” ・・・なのか      

                  
 

「しかし...」高杉が、作業テーブルを見まわした。「いいですか...

  “弱い測定/量子状態を壊さないで測定”するという...これまでの、量子力学の基本方程式

/シュレーディンガー方程式/波動方程式の...外側にあった現象まで取り込んだ、理論の全

体像は...まだ明らかになってはいないようです。

  “弱い測定とは・・・今までの量子力学とは何が違うのか?”...ということを、明確に断言する

までには、まだ研究の熟成/時間的熟成を待たなければならないと言います。 “存在確率=マ

イナス1の光子”や、“スピン100という異常な値”の意味も...今後、“言語的・亜空間座標”

中で、つながって行くのだと思います」

「はい...」関が、うなづき、握った手を見つめた。「カギになるのは、“時間対称性”ですか?」

「そのようです...それを、“理論的枠組み・・・数学的な言語/数式”、で記述するということで

すね...」

「ふーむ...」

アハラノフ教授が言うように...

  “歴史ベクトル”と、“運命ベクトル”が...両方から...“今の認識/主体的現在”に衝撃を

もたらしているとなると...時間概念も、ずいぶんと変容してくると思います。

  シュレーディンガー方程式/波動方程式の中の、“時間= t ”ではなく...人間的な臭いのす

る、“時間= T ”とでも言うように...」

【人間原理空間】の方に、だいぶシフトしてきますね...?」

「もともと...」高杉が言った。「私たちの主張は...

  “デカルトが分割した・・・物の領域と心の領域の再統合”、にあります。“エキゾチックな量子力

学世界が・・・心の領域/主体性/精神性との・・・親和性/整合性/統合性を示している”、と

主張しているのも...“時間空間の・・・主体的側面/心の側面の拡大”になります...

  デカルトは...“物の領域”“心の領域”再統合するのは、“神”であるとしたわけですが、

私は、それは...“今の認識/主体的現在”であると...仮定しています。すると、前にも言っ

たことがあるわけですが...“人間=神・・・?”ということも...さらに深く考察してみる必要が

あるのかも知れません...」

「うーん...」マチコが、首を反対側に投げた。「私が...“神”...??」

  江里香が、クスクスと笑った。

   

「ええ...」関が、モニターを見ながら言った。「現在までのところ...

  量子力学は、現象の予測において、素晴らしい威力を発揮しています。しかし、理論の枠組

しては、大きな問題を抱えているわけです...これは、言うまでもなく、ダブルスタンダードとなっ

ているもう一方の雄、一般相対性理論との矛盾です。

  一般相対性理論の枠組の中では...“時間と空間は・・・原理的に区別できないもの”...に

なります。これは、時間が伸びれば、空間が縮むというような、“幾何学的関係性”で示されるわ

けですね。

  しかし一方、量子力学では...“空間は・・・測定可能な物理量”ですが、“時間は・・・理論を記

述するためのパラメーター(媒介変数)にすぎない”、ということです。これでは、両理論の統合

空間の概念が違うわけで、そもそも、非常に困難になるわけです」

「そうかあ...」マチコが言った。「それなら、何となく分かるわよね...」

「ええ...」関が言った。「いいですか、もう一度言いましょう...

  相対性理論の中では...時間空間は、“原理的不可分な・・・幾何学的関係性にあり・・・対

等の関係”です。量子力学の方は...“測定可能な物理量としての空間と・・・パラメーターとして

の時間に分離されている”、ということです。

  ここで問題になるのは...量子力学における、単なるパラメーター/媒介変数としての、時間

の姿です...」

「うーん...時間の姿かあ...」

「理論の中で、時間がどのような位置づけになるかということです...

  まあ、そんなわけで...ダブルスタンダード両・基盤理論/相対性理論と量子力学は、“相

性の悪い夫婦”と言われるように...様々な仲介の理論もむなしく、仲直りしようとしません。

  それじゃあ、このまま、墓場まで行くかということですが...しかし、そうは言っても、それぞれ

が仲よくしてくれれば...それで、丸く収まるわけですねえ...」

「うーん...両方の産みの親が、アインシュタインなのかしら?」

「まあ...」関が、高杉の方を見た。「そうですかね...」

一般相対性理論は...1916年に、アインシュタインが発表したものです。

  それから...量子という概念を、最初に持ち込んだという意味では...アインシュタイン

みの親の1人なのは、間違いないのかも知れません。ただ量子力学を、強く否定し続けたのも、

アインシュタインだということですね...」

「うーん...ややこしいわねえ...」

「まあ...」高杉が言った。「最後の望みは...“物の領域”“心の領域”の、統合の場というこ

とですかね。私たちは、そういう立場をとっているわけです...

  仮に...両・基盤理論がうまく統合できたとしても、次は“物の領域”“心の領域”との大統合

が残るわけです。結局、ここが、全ての問題のネックになっているのかも知れません」

「うん...」マチコが、うなづいた。

「全ては...」高杉が言った。「超媒体/人間/・・・主体的現在”の問題であり...【人間原

理空間】において、“新しい視野/新しいステージ”で、再構成する必要があるのかも知れませ

ん...現在ようやく、その“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代に突入しました...」

  江里香が、コクリとうなづいた。

 

「ええと、塾長...」関が言った。「最後のまとめになります...

  そこで、もう一度、“弱い測定”についてまとめてもらえるでしょうか。それから、“大阪大学グル

ープ”の、“存在確率=マイナス1の光子”実証実験の方に移りたいと思います」

「はい...」高杉が、うなづいた。「そうですねえ...

  “弱い測定値の理論”は...“時間を単なるパラメーターではなく・・・測定可能な物理量”...

にできる、可能性を秘めていると言われます。これは量子力学と、一般相対性理論とを、統合す

る手掛かりになるかも知れないということです」

「はい...

  そして、仮に、両理論が統合されたとしても、それは物理学/“物の領域”での、ダブルスタン

ダード理論の統合にすぎない、ということですね。その後にはまだ、“物の領域/物質世界”

“心の領域/精神世界”の、理論統合/大統合があるわけですね...」

「そういうことです...

  ええ...すでに、“時間の・・・弱い測定値”は、数学的に定義されているようです。しかし、これ

が、物理的にどのような意味を持ち...また、日常的な時間概念に...どのように関係してくる

かは、これからの研究の展開次第...ということのようです...」

「はい...私たちの世界観が、大きく変わるかも知れませんね、」

「そうですねえ...

  ええと、くり返しますが...“弱い測定値の理論”は、“量子力学の新たな解釈”を、切り開く

可能性があります。

  量子論/量子力学とは...“初期状態が決まった時・・・その後のある時点での状態を、予言

する理論”...だと考えられています。これは、一般的にはそうだ、ということですね。

  これに対し、アハラノフ教授は...“初期状態と終状態が決まった時・・・その間の時刻で、弱

い測定をしたら・・・何が見えるかを示す理論”...だと考えているようです。

  これが、“新たな解釈”、あるいは“新しい窓”ということなのでしょうか...」

「ふーむ...」関が、うなった。

「さて...いいですか...

  この考えを、宇宙全体に当てはめると...“重ね合わせの・・・無数の宇宙(多世界宇宙/多世界解

釈)の中で...“ある決まった終状態”に行き着く宇宙だけが実現し...それが、現在の宇宙

ということになるそうです...

  つまり...私たちが目撃しているこの宇宙は...“弱い測定”によってのぞき見ている、“弱い

測定値”なのかも知れないと言うことです...

  ま、こう言われても、直感的には理解しがたいことですが、一応、耳に止めておいてください。

今後、理解する上で、役に立ちます」

「ふーむ...

  私たちが見ている宇宙は...“弱い測定”で見ている、“弱い測定値”かも知れないということ

ですね...何か、不思議な感じがしますね...」

“エキゾチックな量子力学”では...」高杉が言った。「“主体性の位置/認識の座標系”とい

うものが、大きな比重を占めるようです...

  どうやら...命という超媒体/・・・今の広がる世界/主体的現在”という、“心の領域”

疎外しては...完全な円を結ぶことはできないようですねえ...」

「はい...」関が、顎に手を当てた。「私たちとしては、そこを...さらに考察して行くということで

すね...?」

「そうですね。それが、私たちにできる仕事なのかもしれません...まあ、総合的に考えて行くと

いうことでしょう」

「はい...」


             

「江里香です「江里香です... ... 

  話の内容は、理解できたでしょうか。私も、その時は理解できた感じもするので

すが、すぐに何処かへ忘れてしまいます。でも、それでいいのだ、と塾長は言われ

ます。その経験が学びとなり、次のシーンで生かされるのだそうです。

  ええと...ページが長くなりましたので、【1・・・概論】【2・・・実証実験】とに

分割しました。以降は、新しいページに移ります...」  

 

 

ふふ

 

                      マウスコンピューター/モニタセットモデル 

 

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