My Work Stationgroup Cループ量子重力理論の考察

            ループ量子重力理論考察   wpe87.jpg (44989 バイト)

 

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 トップページHot SpotMenu最新のアップロード              担当 : 塾長 / 高杉 光一   羽衣 弥生

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プロローグ   2004. 4.21
No.1 〔1〕 空間・時間の“最小単位”はあるのか? 2004. 4.21
No.2 〔2〕 ループ量子重力理論の風景 2004. 5.28
No.3    ≪時空の“最小単位”とは/ ...ブラックホールの考察≫ 2004. 5.28
No.4    ≪“プランク長”という単位≫ 2004. 5.28

 

 

 

「量子力学と一般相対論の基本原理を、注意深く組み合わせる事で、ルー

プ量子重力理論が生まれました。

  この理論によると、空間も時間も最小単位を持ち、離散的になります。電

気が、電子という最小単位でカウントされるようになったように、時間と空間

もまた、そのような離散的構造をとる歴史を歩むのでしょうか...」

                                                                         <高杉 光一>

 

   プロローグ        wpe18.jpg (12242 バイト)  wpe87.jpg (44989 バイト)wpe8.jpg (26336 バイト)

 

“クラブ須弥山”のママをやっている、羽衣弥生(はごろも やよい)です...

  うーん、ご無沙汰しております...本当にお久しぶりですわ...まあ...タバコを

吸っていて、ごめんなさい...

  うーん、そうねえ...ここのスタッフでも、もうタバコを吸っている人は、何人もおり

ませんね...“国際部”大川慶三郎さん、“Inner Story”中西卓さん、それか

ブラッキーぐらいかしら...

  そうそう...ボス(岡田)も、1日に2、3本ぐらい吸っていると聞いています...ボス

は、それがもう10年ぐらいになるようです...あ、私の場合は、1日に、10本ほどにし

ています...これぐらいなら、何とか、健康にそれほど害がないとか...」

 

「ええ...さて...今回、私に理論物理学の、非常に難しいテーマが回ってきまし

た。高杉・塾長には“畑違いなので無理です”と、一応お断りしました。でも、塾長は、

思った通りに質問し、思った通りに受け答えしてくれればいいと言います。そんなわけ

で、お受けしてしまいました...トンチンカンな質問をするかもしれませんが、そんな

わけで、どうぞ、よろしくお願いします」

 

「うむ...ええ、塾長の高杉光一です!

  トンチンカンな質問は、大いに結構です!というのも、私もまた、理論物理学者では

ないからです。そして、私も、ほんの表面的なことしか理解していません。まあ、時代

の最先端にある理論物理学の理論を、多少でも文化的に反映できれば、大満足とい

うところでしょうか。

  ええ、それから...今回はあまりページが大きくならないように、要点だけを説明し

ます。“量子情報科学のスタート”のように、途中で切れてしまわないようにしようと思

っています。あ、もちろん、“量子情報科学のスタート”の方についても、その方面の論

文が『日経サイエンス』等に掲載されましたら、未完成の部分を補完し、続編を書きま

すので、よろしくお願いします」

 

        *************************************************************************

   参考文献

    日経サイエンス 2004年4月号 

          時空の原始を追う

             ループ量子重力理論  L.スモーリン (カナダ・ペリメター理論物理学研究所)

        ************************************************************************** 

 

  〔1〕 空間・時間の“最小単位”はあるのか?

 

「さて、始めようか」高杉が言った。

「はい、」弥生は、細い指でタバコをつまみ、火をもみ消した。

「ポン助、」高杉が、パソコンで何か打ち込んでいる、ポン助の方に首を回した。「あと

で、お茶を頼むぞ、」

「おう!」ポン助が、背中を向けたまま、手を上げた。

「あら、ポンちゃんとコッコちゃん、お願いね!」弥生が言った。「柏餅が用意してある

の、」

「おう」

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「ええ...20世紀の初期に...量子力学が誕生した。この量子力学というのは、科

学の歴史の中で、最も成功した理論だと言われている。また、20世紀の人類文明

の、あらゆる方面に強い影響を与えた...化学、原子物理学、核物理学、電子工学

言うに及ばず、最近の分子生物学遺伝学なども、量子論が基礎になって発展した。

  そもそも...19世紀から20世紀に突入すると、アインシュタインが特殊相対性理

(1905年)一般相対性理論(1916年)を提唱し、パラダイムが劇的に変り始めた。それ

から、量子論が動き出して行く。もっとも、量子論は、やがてアインシュタインの掌から

離れ、大勢の物理学者の情熱と興奮の中で育って行くことになる。そして、1925年

頃には量子力学の体形が整ったようだ。

  ま、この話は“量子情報科学のスタート”で詳しくやっているので、ここでは省く事に

しよう...ともかく、20世紀は、一般相対性理論量子力学ダブルスタンダード

時代だった。そしてそれは、21世紀に突入した現在でも続いているわけだ...“ルー

プ量子重力理論”は、こうした時代背景の中から生まれてきた、パラダイムシフトを目

指す理論の1つなのだ...」

「はい...」弥生は、うなづいて、そっと小首を傾げた。

「しかし、現代社会の基盤である理論物理学において、“正しい“不動の理論”が、

“2つ存在”しているということは、本来、矛盾なのだ。こんなことは、有り得ないことな

のだ。したがって、これは必然的に統一されるべきであり、それが無理なら、2つの理

論を超越する新理論が打ち立てられなければならない。両方とも正しいと言うのなら、

当然そうでなくてはならない!」

「はい...そうですわね、」

「むろん...そうした努力は、実際に営々と行われてきた...

  一般相対性理論は、いわゆる“重力”を扱う理論だ。そして、重力は、時空の幾何構

を扱うわけだが...この2つの理論体系は、どうにもうまく噛み合わない...」

「あの、時空の幾何構造というのは、どういうことなのでしょうか?」

「一般相対性理論では、重力というのは、“空間の歪み具合”によって表現されるの

だ。例えば、ピンと張ったゴムの膜の上に、パチンコ玉を1個置けばどうなるか...ゴ

ムの膜は下へ沈むだろう...こうした2次元の膜の沈み込みが、3次元空間で起こっ

ているのが、この我々の宇宙空間だ...まあ、このことについては、こうしたページの

中で、徐々に理解が深まっていくはずだ」

「はい!」

「さて...

  一般相対性理論と量子論は、そもそも理論が載っているプラットホームが違うの

だ。一般相対性理論は、完全に“古典的”なプラットホームに載っているのだ。ここで

言う古典的とは、つまり“非量子的な理論”だということなのだ。矛盾しているような言

い方だが、“量子論的”でないということが、つまり、“古典的”だということなのだ」

「うーん...」

「パソコンのプラットホームになるOSで言えば、一般相対性理論は“MS-DOS”で書

かれているのに、量子論は“Windows”で書かれているようなものだ...

「ふーん...そうなんですの?」

「まあ、この古典的なプラットホームの理論を、何とか“量子論的”なものへと書き換え

るために、色々な数学的手法が開発されてきた。1960年代から80年代に至る努力

は、うまく行かなかったようだ...

  そして、新たに登場してきたのが、“超重力理論”とか、“ひも理論”などと呼ばれる

理論だ。まあ、“ひも理論”を包含する“M理論”などと言うのもあるがね。これから話

す“ループ量子重力理論”というのは、こうした新理論の1つで、最も完成度の高いも

だと言われている...この理論から導かれる予言のいくつかは、近い将来、実験

によって検証できるとも言われる...」

「はい...それは、どんな理論なのでしょうか?」

「うむ...

  今から100年前の20世紀初頭頃は、物質というものは“連続的なも”のだと考えら

れていたわけだ...まあ、古代から、原子というものを想定していた哲学者や科学者

確かにいた。しかし、彼等の言っていたそれは、あくまでも想像であって、科学的に

実証されたものではなかった。したがって、殆どの人々は、科学者も含めて、単純に物

質は連続的なものだと考えていたわけだ。

  これはどういうことかと言うと...包丁で羊羹(ようかん)を切れば、無限に細かく切断

できるということだ...時間に関しては、今でもそうだろう。現代物理学は、ビッグバン

の瞬間に迫るのに、極限まで時間を切り刻んで行く...それは、時間というものを、

“連続的なもの”と見ているからできることなんだ...

  時間が原子のようなもの...“時間子”というようなものなら、そんな極限まで“0”

に接近する事はできないわけだ。電力も、極限においては“電子という粒子”をカウント

するように、“滑らかな連続体”ではない...」

「はい...」

「ところが...話が多少前後するが...“量子論”が登場し、原子の実在が証明され

た。また、最近では、個々の原子を“画像”として見ることも可能になった。つまり、羊

羹は、無限に細かく切り刻むことができないと分ったわけだ。物質を構成する、素粒子

という明確な壁があり、素粒子は包丁では切れない...

  それから、電気についてもそうだ...電力という力を表現るのに、“連続的なアナ

ログ的なもの”から、それを電子という素粒子の数でカウントする、“デジタル的なも

の”に変ったわけだ。今では、物質やエネルギーの粒子性は、文化的にも広く波及し、

一般社会でも常識として受け入れられている」

「はい。それは、分りますわ...」

「さて、そこで...“ループ量子重力理論”では、“空間と時間の粒子性”を考えてい

るわけだ...この、一般相対性理論と量子論を超越する“ニュー・パラダイム”が渇望

されている時代に、理論物理学者や数学者は、何を考えているのか...ここからが本

題だ、」

「はい...あの、塾長...タバコを吸ってもよろしいかしら?緊張してしまって、」

「ああ、はっはっ...かまわんよ、」

  弥生は、タバコをくわえ、細いライターで、カチッと火をつけた。

 

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「さて、そこで...

  一部の理論物理学者は...“空間”“連続的で滑らかなもの”ではなく、物質と同

じように、“基本的に不連続なもの”ではないかと考えてみたわけだ...

  あるいは、空間も、別々の糸が織り合わさってできた、布のような存在ではないの

かというわけだ...うーむ...つまり、空間を極小のスケールまで調べて行けば、そ

れ以上分割できない“体積の最小単位”“空間の原子”に行き着くという考えだ...

  また、“時間”についても同様だ...我々は普通、時間をパラメーター(媒介変数、助変

数)として扱っているが、それは本当なのだろうか、というわけだ...実際の所、極小

の領域では、大自然は時間的に切れ目がなく、完璧な滑らかさで、連続的に変化して

いるのだろうか...それとも、大雑把に言えば、映画の24コマのように、あるいは最

近のデジタル・データのように、“極小の時間ステップ”を踏みながら、“小刻みに変

化”しているのではないのか...」

「うーん...どうなのでしょうか?」弥生は、細くタバコの煙を吐いた。

「まあ、それを検証するのは簡単ではない...時間と空間は、物理学を構成する縦

軸と横軸だ。その“X軸”と“Y軸”の目盛を、基本的に変えることになるわけだ」

「はい...」弥生は、タバコの灰を、そっと赤い灰皿に落した。

「ここ16年ほどの間...こうした疑問に関する研究が、格段に進んだといわれる。

“ループ量子重力理論”も、こうした研究の一環として発展したのだろう...」

「ふーん...色々なことを考えている人が、おられるものですね、」

うむ...

  この理論によると、“空間”も“時間”も、まさしく“断片”の集合からできていることに

なるようだまあ、この新理論の枠組みの中で、実際に、数々の理論計算が行われ、

新たな世界像が見えてきたと言われる...」

「はい...」

「まあ、この理論は、我々にも直感的に納得できるものがある...いたって、“シンプ

ルで美しい世界像”と言えそうだ。それから、ブラックホールや、ビッグバンについても、

理解が深まったとも言われている...」

「そうなんですか...あの、この理論というのは、本当に信じられるものなのでしょう

か?」

「うむ...それは、厳密に言えば、難しい質問だな...

  “仮説”というものは、あくまでも仮説なのであって、新しいパラダイムがやってくれ

ば、それによって乗り越えられてしまう。これは、当然のことなんだ。例えば、ニュート

ン力学は、相対性理論という新しいパラダイムによって乗り越えられてしまった。しか

し、それがニセモノで、デタラメで、間違いだったとは、誰も言わない。それなりの敬意

を持って、“ニュートン力学”、“万有引力”と言い、歴史的な評価を与えている。むろん、

近似値的に得られる数値は、今でも十分に使えるものだ...」

「はい、」

「そして、現在正しいとされている一般相対性理論と量子力学も、今まさに、それを

乗り越えようと悪戦苦闘をしているわけだ。したがって、おそらく、絶対に正しいと言え

るものなどは、当分は見つからないだろう。ひょっとしたら、永久に見つからないのかも

知れない。仮説や理論などと言うものは、本来そうしたものだ...

  それは、“人間の思想”“この世”に打ち込んだアンカー(碇/いかり)のようなものな

のだ。そのアンカーを頼りに、パラダイムが広がり、“この世の理論体系”が組み上げら

れていく...

  “ループ量子重力理論”というのも、人類文明が繰り広げている、そうした最先端の

パラダイムの一環なのだ。だから、絶対と言うわけではないが、人類の英知が結集さ

れているのは、事実だ」

「はい。分りますわ、それは、」

「だから、有能な科学者は、唯物論の科学という方法論を扱いながら、非常に信心深

いと言われる。“この世の深淵”を垣間見た者は、皆そうだ。それゆえに、科学では説

明のできない“神の存在”を信じるのだ。あの、アインシュタインも、非常に信心深かっ

たと言われるからねえ...」

「うーん...立派な人だったんですのね」

「うむ...しかし、どうしてなかなか、弥生さんもたいしたものだ」

「まあ、そうかしら、」弥生は、口元を、タバコを持った手で押えた。

 

  〔2〕 ループ量子重力理論の風景     

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「弥生!お茶の用意ができたぞ!」コッコちゃんが、弥生の後ろで言った。

「あら...」弥生が、タバコを口にくわえ、肩を回した。「コッコちゃん、ありが

とう...」

「よう、コッコ...」ポン助が、柏餅の葉っぱを取りながら言った。「鳥インフ

ルエンザはもういいのかよ?」

「うん!そんなの、関西の話じゃん!」

「ま、そうだよな...」ポン助は、柏餅を口に入れた。

「もう、本当に心配したわよ、」弥生が、コッコちゃんの鶏冠(とさか)を、指では

ねた。

「カラスへの感染も伝えられたが、」高杉が、湯飲み茶碗を掴んだ。「ま、ブ

ラッキーも、よく頑張った...」

「はい、」弥生も、茶を一口飲んだ。「...中国では、SARS(新型肺炎)が今年

も動いたようですわね...大丈夫なのでしょうか?」

「うーむ...

  “危機管理センター”の響子さんの話だと、4月の末頃、“感染疑い例”

の中から死者が一名出た。その後、中国衛生省は、北京で337人に対し、

隔離や医学的観察措置を取ったようだ。まあ、感染が起こった病院関係者

や、接触者に対してだと言うがね...それから、安徽省(あんきしょう)でも、

133人を隔離観察していたようだ...うーむ、まあ、去年のような事はな

いだろうがね...」

「そう言えば...」弥生が、細い指で柏餅の葉っぱをつまんだ。「去年の今

頃は、ほんとうに、SARSで大騒ぎでしたわ」

「うむ...ま、来季の、鳥インフルエンザの方が、もっと心配だがね...」

「ええ、」

「おう、ポン助!仕事が終ったら、この間言っていた“地ビール”を飲みに行

くか?」

「おう、いいよな!」

「あら!それなら、私も行きますわ!」弥生が、白い歯を見せた。

 

                        

 

≪時空の“最小単位”とは/ ...ブラックホールの考察≫

 

「さて、ともかく、仕事だ...」高杉が言った。「あまり理論的なことを説明しても難解

で分りにくい...

  そこで...この“ループ量子重力理論”による、時間や空間というものの“最小単

位”とは、どのようなものが想定されているのか...そのあたりを見てみよう」

「はい、」弥生は、小さな肩をかしげ、脚を組み上げた。

「くり返すが...“ループ量子重力理論”によると、“空間”というものは、“原子の集合

体”に似ているようだ...物質が原子の集合体でできているように、空間も空間原子

の集合体でできているというわけだ」

「うーん...そうなんですか、」

「したがってだ...体積の測定は、空間原子の集合体で、飛び飛びの離散的な値

なる。つまり、空間領域というものは、離散的な体積を持つ塊として現れてくるわけだ」

「その空間というのは、そもそも、どんなものなのかしら?」

「ふむ...まあ、何でもいいんだが、空間は空間だ...

  ああ、そうだ...物理学的に、面白い空間がある。それは、ブラックホールが作り

出す、“事象の地平面”による空間だ。参考文献でも、この“事象の地平面”という言葉

が出て来る」

「ふーん...そうなんですの。それは何かしら?」

「まあ、参考文献では何も説明していないが...最近の理論物理学の論文を眺めて

いると、よくこのブラックホールが作り出す“事象の地平面”という幾何構造が出て来

るねえ。今後の参考に、ざっと説明しておこう...まあ、少々脱線するがね、」

「はい。私も、聞いた事がありますわ。ブラックホールというのは、銀河系の中心にあ

るんですってね?どこかで、そんな事、聞いた事がありますもの」

「うむ...銀河の中心にも、ブラックホールがあることは、よく知られている。我々の

“天の川銀河”の中心にも、巨大なブラックホールがあることが分っている。しかし、一

般的には、そうしたブラックホールよりも、超新星爆発の後にできるブラックホールの

方が分りやすい」

「ふーん、そうなんですか、」

「“事象の地平面”という幾何構造は、物理学的には、面白いのだろうねえ。私はその

方面の専門家ではないので、そうした数学的なことは分らないが...」

「あの、高杉さん...どうして、そんなブラックホールというようなものができるのでしょ

うか?」

「うむ。いい質問だ...これは、重力を扱う理論である、一般相対性理論から導き出

されるものなんだ。

  それによると...星、つまり恒星が、進化の最後に、超新星爆発を起こす...簡

単に言ってしまえば、大きな星では、全てが吹き飛ばされた後に、“ブラックホール”

残る。それよりやや質量の小さなものでは、“中性子星”になる。それから、比較的質

量の小さな星は、“白色矮星”となって、その星の一生を終ると言われている...」

「私たちの太陽も、いつかはそうした最後が来るんですの?」

「うむ。まあ、我々の太陽のケースだと、あと50億年もすると、“赤色巨星”になるそう

だ。それは、地球軌道をも呑み込むほどに、太陽が巨大に膨れ上がるそうだ。そし

て、その後、外層のガスを失って、“白色矮星”になる...この“白色矮星”と言うの

は、非常に熱いわけだが、やがてこれは冷えて行き、星の一生が終るわけだ...」

「ふーん...それじゃ、私たちが、ブラックホールに呑み込まれる事は、無いのでしょ

うか?」

「さあ、それはどうかな...宇宙の死は、“ブラックホールによる死”か、あるいはエント

ロピー増大による、“熱平衡的な死”か、と言われいる...

  ああ、それから...最近の超新星観測のデータによると、50億年程前から、この

宇宙は膨張加速に反転しているそうだ。どうも、この我々の宇宙というのは、我々が考

えているよりも、はるかに、常に、ダイナミックに変動しているようだ。

  そうした宇宙論によっては、“今、私や弥生さんを形成している素粒子”が、50億年

後にどの座標系のどの構造に属しているかということは、大いに違ってくるだろうね」

「そうした宇宙論は、ブラックホールにも関係してくるのでしょうか?」

「もちろんだとも。大いに関係してくる。この宇宙現象そのものの実態だからねえ...

  つまり、順を追って説明すれば、こういうことなんだ。この現在の人類文明において

は、量子論と一般相対性理論は、“正しい”とされている。本来、両方正しいというのは

矛盾しているが、いわゆるダブルスタンダードということで、何とか了解されている。

  次に、これらの基礎理論から導かれた、宇宙開闢の“ビッグバン理論”というのも、

本筋において、大きな間違いはないといわれている。これは、宇宙の背景放射などの

精密な観測など、多方面からそれが実証されている。

  そして、もう1つ、素粒子世界での“標準理論”というのがある。これも、もう動かしが

たい事実として多方面から証明されていると言われる。まあ、今後新しいパラダイム

が出てきても、この部分の研究成果というものは、1つの事実として残っていくだろうと

いうことだ」

「はい...そうなんですか

「ま、そうした理論によるとだ...

  まず、ビッグバンがあり、インフレーション加速で、この宇宙は急速に膨張した...

それが、宇宙の質量による引力で、“減速”に転じていたとか...“斥力による膨張”

“引力による減速”で、平衡していたとか...はっきり言って、あまりにも話が壮大

で、よく分らない...」

  弥生は、口元で笑った。

「しかし、遠くの超新星の観測などから、50億年前から、この宇宙は“膨張加速”に反

転していたという...こうなると、かなり複雑な話になる...目に見えない“ダーク・マ

ター(暗黒物質)や、アインシュタインの“宇宙定数”から導かれる膨大な“暗黒エネルギ

ー”がからんでくる...」

「はい、」

「ま、もうひとこと言わせて欲しい。ここは、“ループ量子重力理論”にとっても、重要な

所だ。立場をわきまえている野次馬としても、大きな疑問がある」

「はい...」弥生は、口をすぼめた。そして、手に持っていたタバコに火をつけた。

「そもそも...この宇宙が膨張しているということは、どういうことなのか?“真空”

エネルギーをもち、空間そのものが膨大な速度で拡大しているとしたら、“暗黒エネル

ギー”がどんどん発現しているということになる。

  さて、そこで、“ループ量子重力理論”で、離散的な値をとる空間や時間は、どのよ

うに記述されていくのかな、ということなんだ...宇宙の膨張は、引っ張られて拡大し

ているのではなく、“増量”によって拡大しているわけだからねえ。

  まあ、ゴム風船を膨らませるのも、それは単純に拡大しているのではない。表面は

ともかく、吹き込んだ空気が増量しているという側面もあるわけだ...」

「それで、ブラックホールというのは、色々あるのでしょうか?高杉さんの口ぶりから、

そう感じたのですけれど、」

そう、色々ある...“ミニ・ブラックホール”というものもあるらしい」

「ミニ?でしょうか?」

「そう...ミニだ。

  一般相対性理論によれば、ブラックホールは、星ほどの質量がなくてもいいらしい。

素粒子程度の小さいものから、地球半径程度のものまで考えられているようだ。それ

から、こうしたものの存在が、宇宙形成に与える影響というものも、研究されているよ

うだ。

  ちなみに、現在見つかっているブラックホールは、“太陽の100万倍から10億倍”

の質量をもつ巨大ブラックホールと、“太陽質量の数倍程度”のものがほとんどだそう

だ...

  まあ、銀河中心部のものと、超新星爆発の後にできたものだ。ミニ・ブラックホール

というのは、まだ観測されていない。

  もっとも、実際には、ブラックホールそのものを観測することはできない。しかし、そこ

に落ち込んでいく、ガスのスペクトルや、銀河回転の重力解析などから、間接的にそこ

にブラックホールが存在することを知ることができるだけだ」

「うーん...すごいわねえ、宇宙観測というのは...望遠鏡で、そんな事まで分るん

ですのね」

「まあ、いわゆる可視光線レベルの望遠鏡だけではないがね...望遠鏡にも、赤外

線から紫外線、X、それから電波望遠鏡など、あらゆるものがある。そうした全ての観

測手段を駆使しての成果だ...また、これからは、さらに重力波望遠鏡などというの

も加わって行くことになる...

  それから、望遠鏡本体も、大気圏を通して届く地上よりも、宇宙空間の方がよりクリ

アーな画像が得られる。したがって、今後は、人工衛星や、月面天文台が展開する時

代に入っていくだろうね」

「うーん...すると、もっとずっと、この宇宙のことが分ってくるわけね、」

「そういうことになる...この、人類文明が続いていく限りね...まあ、話をブラック

ホールに戻そうか、」

「はい」

                     wpe18.jpg (12242 バイト)  wpe87.jpg (44989 バイト)          

 

「えーと...何処まで話したかな?

  非常に強い重力源であるブラックホールの、いわゆる“重力半径”というのは...

“事象の地平面”になる...ここまで話したのかな?」

「ええ、そうですわ、多分...」

「ふむ...

  何故、“事象の地平面”などと呼ばれるかと言うとだ...それは、ブラックホールの

強大な重力に補足されて、光さえもその外側に脱出できなくなるからだ。その“境界

面”が、つまり“重力半径”であり、“事象の地平面”になるようだ...」

「はい、」

「“地平線”や“水平線”という言葉は、日常でもよく使うだろう。しかし、ブラックホール

の場合は、そうした“線”ではなく、おそらく“球面”の様になるから、“地平面”と言う

わけだ...正確な、静的な球面かどうかは知らないがね...」

「はい、」

「したがってだ...このブラックホールというものの“境界面”では、物質やエネルギ

ーは、一方的に吸い込まれていくだけだ。一切のものが、そこから再び外に脱出して

来ることがない。

  光さえも脱出できないということは、あらゆる情報が、そこから漏れ出してくることが

ないということだ。だから、“地平面”であり、すべてのものを呑みこんでしまう、ブラッ

クホールと言われるゆえんだ...

  ところで、弥生さんは、ホーキング博士という人を知っているかね?」

「あら...聞いたことがある...と思いますけど、」

「うむ。車椅子に乗った、有名な物理学者だ...確か、イギリス人だったと思う...

  そのホーキング博士は、量子論的な効果から、ブラックホールを熱力学的に蒸発さ

せる解を出しているようだ...まあ、私には専門過ぎてよく分からないが、そんな話も

あるということは、知っておいてもいいだろう」

「はい...」弥生は、やや肩を引いた。「でも、高杉さん...そのブラックホールの中

は、どうなっているのでしょうか?」

「まあ...“重力崩壊”しているのだろうねえ...

  物質というものが、“中性子”だけのスープのような状態で、その中性子で“形”

支えられているのが、いわゆる中性子物質だ。その中性子物質からなるのが、いわ

ゆる中性子星だ。この中性子星の密度は、たった1立方センチの角砂糖ほどの大きさ

で、10億トンにもなると言われる...ちょいと想像できない重さだろう」

「うーん...」弥生は、悪戯っぽく目を輝かせてた。「そうね、」

「この、中性子物質という状態は、原子核の周りを回る電子など、全てが潰れてしまっ

ている。いわゆる、核子(陽子と中性子)だけになり、やがて全てが中性子だけになってしま

うのが、いわゆる中性子星だ。

  まあ、この中性子や陽子というのも、それぞれ3個のクォークからできているわけだ

がね...アップ・クォークダウン・クォークが、2個と1個の組み合わせで3個になっ

ているんだが...どっちが2個入っているのが、陽子か中性子だったか、ちょいと忘

れてしまった...

  が、まあ、それはどうでもいい...ともかく、ブラックホールの場合、この最後の砦

である中性子の“形”でも、自らの膨大な重力が支えきれなくなる。そして、内部へ内

部へと重力崩壊していく...“形”が壊れ、柱も失われ、全てが中心に向かって落ちて

いく...その先がどうなっているのかは、分らない...」

「ふーん...」

「地球で言えば、地球の全重量は、その中心に向かっているわけだろう...地殻も、

その下の膨大なマントルも、地球中心部の固い中心核で支えられている。そこは個体

で、非常に密度が高く、硬いと言われる...しかし、それでも、中性子物質とは程遠

いものだ...地球程度の質量なら、その内核で支えられる...

  しかし、質量がどんどん大きくなるとどうなるか、ブラックホールの場合、その中性子

物質でも自らの重さを支えきれず、潰れてしまう。そして、さらに、支えるものがないま

ま、無限に内部に落ち込んでいく。それが、一般相対性理論から導き出される重力崩

壊だ...もっとも、それには、超新星爆発という爆発で、内部へ圧縮されるわけだが

ね...

  まあ、そのブラックホールの中のことは、我々には分らない...ブラックホールとホ

ワイトホールがつながっていると言うような話もあるが、確証はない...こうなると、F

S小説的な話になってしまう...ともかく、私は専門家ではないので、これ以上の説明

は、難しい」

「はい...でも、何も分らないなんて事が、あるのかしら?」

「うーむ...もっともだ...

  ちなみに、ブラックホールも、元の天体の“角運動量”は保存されているわけだか

ら...重力崩壊している本体は、高速で回転していることは想像できる...この“角

動量の消失”というのは、実は非常に面白いテーマになるようだ。

  この“角運動量の消失”というのは、これは1つの“情報の痕跡”なのだ。この情報

だけが、内部と外部の掛け橋のようになっているという研究もある...まあ、ここで

は、そういう研究もあるということだけ知っていればいいと思う」

「はい、」弥生が、小さくうなづいた。

「それから...この“重力半径”の内側では、時空の幾何構造において、時間と空間

が逆転しているというが、直感的に理解できる世界ではないねえ...ともかく、“事

象の地平面”を越えてしまうと、こちらからは、あらゆる観測手段が断たれてしまうとい

うことだ」

「はい、」 

「ともかく、ブラックホールの“事象の地平面”というのは、一種の特異場だとは言える

だろう...理論物理学の論文などを読んでいると、しばしば登場してくるからねえ。ま

あ、私などは、野次馬根性で眺めているだけだが...」

「でも、面白いですわ、」弥生は、微笑んだ。「たまには、こういう話もね、」

                                                     

 

「うむ...さて、何でブラックホールの話をしたかというとだ...

  つまり、閉鎖空間や、体積というものを計測するということだったな...もちろん、

本来、こんな複雑な概念を持ち出すまでもない。空間というなら、プラスチックの容器だ

っていいわけだし、鉄の容器だっていいわけだ...

  ま、参考文献でもそうだが、理論物理学では、ブラックホールの“事象の地平面”と

いうのがよく出てくる。そこで、今回、一度説明しておいたということだ」

「はい」

くり返しになるが、“ループ量子重力理論”によれば...そうした空間の体積という

ものは、連続的なものではなく、“空間原子”が詰まったデジタル的なのもだというわけ

だ...

  あの量子論が始まった時、物質は連続的なものではなく、原子という粒子の集合体

であるという概念を導入した...そして今度は、物理学の基本的尺度である“空間”

と“時間”までも、粒子のように扱おうというわけだ...」

「はい...」

「しかし、空間や時間というものは、本来、厳密な意味で、いわゆる“点”ではありえ

い。どんなに小さくても、最小単位の“広がり”というもののを持っているわけだ...い

わゆる、素粒子の点とは、意味が違うわけだなあ...」

「うーん...高杉さん、それは具体的に、どのような粒子なのでしょうか?」

「うむ、その話に移ろうか...」

  ≪“プランク長”という単位≫ wpe73.jpg (32240 バイト)  wpeB.jpg (27677 バイト)  

 

「さて...

  “ループ量子重力理論”で体積というものを考えた場合、原子の集合体に似てい

て、飛び飛びのデジタル的な離散的な値になるわけだ...では、境界面である重力

半径の、“事象の地平面”の面積はどうなるのか...3次元の体積がそうなら、当然、

2次元の面積も、離散的な値になる...

 

(ちなみに、この“ループ量子重力理論”でも、厳密には、量子化されるの

は、面積や体積などの“幾何学量”のみです。つまり、理論の定式化のため

には、時空が滑らかな多様体で記述されることを仮定する必要があります)

 

「はい、」

「うむ。話を進めよう...

  “面積”と“体積”には、特定の“量子単位”というものがある。これらは、“プランク長”

という単位で計られる。この“長さの単位”は、“重力の強さ”“量子の大きさ”“光

速”に関係している...いずれにしても、この単位が使われるあたりが、空間の幾何

構造が、連続的に記述できなくなる目安になるようだ」

「うーん...話が、分らなくなってきましたけど、」

「ま、ともかく、具体的に言うと、こういうことだ...

 

プランク長  :10のマイナス33乗/cm (数字でうまく書けません。ご容赦ください)

最小の面積 :10のマイナス66乗/平方cm (“プランク長”の2乗)

最小の体積 :10のマイナス99乗/立法cm (“プランク長”の3乗)

プランク時間10のマイナス43乗/秒 

 

  うーむ...これが、“最小の面積”“最小の体積”“最小の時間”ということになる

ようだ...」

「...」

「はっはっ...ま、そうだねえ...ともかく、非常に小さい世界だ。極微の世界だ。し

かし、そうした世界において、“ループ量子重力理論”では、空間も時間も原子のよう

な最小単位を持つということだ。時間も、粒子をカウントするように、デジタル的に動

く...この感覚は、デジタル時計で、何となく分ると思うが...」

「はい...秒針ではなく、数字が、カチ、カチ、と変っていく感覚かしら...」

「そういうことだな...」

「あの、高杉さん...この重力理論の、“ループ”というのは、どういう意味なのかし

ら?気になっていたんですけど、」

「ああ...それは、この理論計算が、時空の中の小さなループ(閉曲線)に関連すること

に由来するようだ。

  まあ、今回は、これぐらいにしておこうか。ここでは、理論的な説明と言うよりも、最先

端の、理論物理学という学問分野では、こんなことも研究しているということを、知っ

てもらえればいいと思っている。

  ま、ともかく...“今”が、こうした全体で、ゆっくりと経歴し...流れているというこ

とだ...それが、離散的な値をとる“空間”であり、“時間”であるにせよ、それは私と

いう“主体の認識の形式”と不可分の関係にあるということは、知っておいて欲しい。

  “認識”を離れては、時空の存在も、孤独も、生死も、一切あったものではないからね

え...しかし、その認識を断ち、“内外打成一片(ないげだじょういっぺん)となる所から、

“禅”がはじまる...ともかく、非常に面白い世界だとは言える...

  “この世”とは、とうてい理論物理学で割り切れる世界ではない。だから、あのアイン

シュタインでさえも、非常に深く、神の存在を信じていた。まあ、私は生まれ育った環境

からかどうかは知らないが、神というものをそれほど深く考えた事はない。しかし、信

心深くはなくても、そうした“超越の座標”というものは、やはり存在すると思っている」

「うーん...はい、」

「ま...今回は、ここまでにしておこうか、」

「あ、はい!

  ふーん...ようやく終りましたのね...とにかく、乾杯しましょうか?」

「ああ...」高杉は、入り口の方に目を投げた。「彼が、お待ちかねだ...」

  弥生は、むこうで待っている“クラブ・須弥山”のウエイターに、小さく手を上げた。そ

れから、タバコをくわえ、楽しそうに細い電子ライターで火をつけた。

「その後で...」と、彼女は、細く煙を吐いた。「ポンちゃんの言う、“地ビール”を飲み

にいきましょう」

「うむ」高杉が、うなづいた。

 

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