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  最新・宇宙論の概略

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      house5.114.2.jpg (1340 バイト)    INDEX         

   プロローグ 1999.4.16
No.1  加速膨張している宇宙の姿 1999.4.16
No.2   物質密度と宇宙定数 1999.5. 8
No.3  無量宇宙の中に生まれた泡宇宙 1999.6.10 

 

  

 プロローグ

 日経サイエンスの1999年4月号に、“揺れ動く宇宙論”という特集があり、以下

の4つの論文が掲載されていました。世紀末の今、宇宙論も押し寄せる大波で揺れ

始めています。

 

      宇宙膨張は加速している

           C.J.ホーガン / R.P.カーシュナー /N.B.サンツェフ

      息吹き返すアインシュタインの宇宙定数

           L.M.クラウス 

      インフレーション理論の新展開

            M.A.ブッチャー / D.N.スパーゲル 

      宇宙は第2のインフレーションに突入したのか

           佐藤勝彦

 

  これらの論文は、それぞれ主張していることが多少異なっています。しかし、その

背景となる天文学の土台はひとつです。したがって、ここから、宇宙論でいま何が

起こっているのかが見えてきます。

 

  私自身も、このページを慎重にまとめながら、一緒に学んでいきます。どうぞ、21

世紀を迎える宇宙論の新展開に御期待ください。なお、私は門外漢です。知識不足

からくる、勘違い等もあるかも知れません。間違いに気づかれましたら、是非、こちらの方で...wpe1.jpg (29062 バイト)...ご指摘をお願いします。

 

 

                         

                                                                      (1999.4.16)

(1) 加速膨張している宇宙の姿...    

 

  つい、ひと昔前までの宇宙論の主流は、 “この宇宙は物質に満ち溢れた、平坦

な空間”と想定していました。そして、この宇宙に存在する物質の総量によって、プ

ラスの曲率を持つ閉じた宇宙、マイナスの曲率を持つ開いた宇宙、そしてその中間

の平坦な宇宙という、3つの姿が描かれていました。しかし、近年、この“前提条件”

となるものが、かなり複雑になってきたようです。その1つとして、

 

  最近、遠方にある超新星の詳しい観測から、宇宙が加速膨張している証拠が見

つかりました。

 

  つまり、宇宙の膨張は、スローダウンしているのではなく、むしろ加速していること

が分かってきたのです。総質量による重力引力で引き戻される“減速膨張”ではな

く、むしろ“加速膨張”しているというのです。この意味するところは、ページ全体で、

徐々に考察を進めて行きますが、まず、次の2つの選択肢が浮上してきます。

 

(A) この宇宙が“加速膨張”しているということは、空間の曲率がマイナスであり、

   開いた宇宙であるということ...

     

(B)もう1つの見方は、 この宇宙はやはり“平坦”であり、一定速度で膨張している

   が、空間全体に正体不明のエネルギーが満ちているというもの...

 

  最近の宇宙論では、この2つ以外の選択肢がなくなったといいます。しかも、様々

な観点から、(B)の見解が有力といわれています。もっとも、宇宙論は時代と共に

変遷して行くので、これが最終的な答えというわけではありません。あくまでも、現

在考えうる選択肢ということです。

 

  この(B)の見解による正体不明のエネルギーということで、まず候補に上がった

のが、アインシュタインが相対性理論の方程式に導入した“宇宙項”(宇宙定数)

す。これはアインシュタインが、“宇宙が静かで、安定したもの”であるために付け加

えた項目といいます。つまり、ニュートン力学のような、静的で平坦な宇宙空間を実

現するためのものでした。これは、眼前する宇宙と対比し、“こうでなければ、理論

的にも宇宙の存在意味がない”と考えられたのでしょうか。もっとも数年後には、彼

自身がこの宇宙項を否定しているわけであり、私などが無闇に足を踏み込むべき場

所ではないのかも知れません。ただ、宇宙そのものが静的な世界ではなく、激しく

揺れ動くダイナミックな世界であるということが分かってきたのも事実です。

  しかし、まさにこのように導入された方程式の中の“宇宙項”が、別の所でしばし

ば大問題を引き起こしています。そして今、21世紀を展望する宇宙論の激変の中

で、またこの宇宙項が急浮上してきたというわけです。

 

  ということは...この宇宙項が真実だからこそ、各所からそのほころびが見えて

くるのでしょうか...

 

  さて、この“宇宙項”は、“宇宙定数”とも呼ばれます。具体的にどのようなものか

というと、簡単に言ってしまえば“真空のエネルギー”です。昔、真空にはエーテル

が詰まっているという思想がありましたが、現代物理学もそれと同じような風景にな

っています。

  それが、いわゆる量子力学と特殊相対性理論から導き出された“バーチャル粒

子”です。これは、つまりこういうことです。真空の中でも、時間を非常に微小なレベ

ルにまで分割して行くと、絶えずこの仮想粒子が消滅している姿が出現してくるとい

うことです。言いかえれば、真空とは、実は空っぽの空間ではなく、莫大なエネルギ

ーを蓄えている場だということです。

  したがって、どんどん膨張して行く宇宙空間は、その内部の質量は相対的に希薄

になっていきますが、空間自体の持つ“真空のエネルギーは、逆に無限に増えてい

くということです。ただし、この“真空のエネルギー”は、私たちが一般的と考えてい

る普通の物質や普通のエネルギーとは異質のものです。

 

( 相対性理論では、質量とエネルギーは等価です。つまり、姿を変えた同じものだということです。

それから、この宇宙には、光という姿でもエネルギーが存在しています。また、この真空のエネルギ

ーである“斥力”も、やはりエネルギーの一種です。)

 

  さて、この空間自体が持つ真空のエネルギーは、むろん私たちの目と鼻の先にも

あるものです。つまり、空間とは、本来そういうものだというわけです。そしてそのエ

ネルギーは、普通の物質のもつ重力引力に対抗する“斥力”ということになります。

  “斥力”とはどのようなものかといえば、電気や磁石がもっている互いに反発する

力です。これらは、マイナスとプラス、S極とN極は、互いに引き合う引力をもちま

す。しかし、同じ極だと、斥力となり、反発力となります。

  この宇宙という自然界には、現在4つの基本的な力が観測されています。電磁

力、重力、そして核にからむ弱い力と強い力です。ところが、この4つ力の中で重力

のみが、引力という片方の力しか持ち合わせていません。しかし、この微弱な重力

という性質の力のみが、集まると膨大なものとなり、超遠方にまでその影響を及ぼ

します。つまり、この引力のみが、この大宇宙を動かしている力といってもいいので

す。

 

  さて...ここに、その重力引力と等しい“真空のエネルギー、斥力”が登場する

わけです。いや、そもそもビッグ・バンの爆発エネルギーとは、この真空エネルギー

の斥力なのです。

 

 

    < メモ...宇宙空間の曲率について>

          プラスか、マイナスか、奇跡的な平坦か.....

 

  (1)プラスの曲率・・・

             閉じた宇宙空間/減速膨張宇宙/有限

  これは、物質密度が高く、ビッグバンの爆発力が相対的に小さい場合です。したがっ

て物質による重力の引力が、ビッグ・バンの宇宙膨張にブレーキをかけ、やがて収縮

に向かい、最後は一点になってビック・クランチを起こし、宇宙は終焉します。

  この様な宇宙空間では、三角形の内角の和は、最大で“540度”になります。また、

円周率は“2πr”よりも短くなります。さらに、平行線は、やがて交わってしまうことにな

ります。

 

  (2)マイナスの曲率・・・

              開いた宇宙空間/加速膨張宇宙/無限

  これは、物質密度が低く、ビッグバンの爆発力が相対的に大きい場合です。したがっ

て物質による重力の引力が、ビッグ・バンの宇宙膨張に負け、宇宙は無限に膨張して

行きます。

  この様な宇宙空間では、三角形の内角の和は、“180度”以下になります。また、円

周率は“2πr”よりも長くなります。そして、平行線は、どんどん開いて行くことになりま

す。

 

(3)ゼロの曲率・・・ 平坦な宇宙空間/永遠に膨張した後停止する宇宙

       ( 質量の重力引力と、ビッグ・バンの脱出力が奇跡的に均衡する宇宙...)

  この平坦な空間では、膨張速度の最適性が保たれています。この最適性が実現して

いなければ、もともと現在のような宇宙は成立していないと思われます。ビッグ・バンの

爆発力だけをとって見ても、強すぎれば飛び散ってしまいます。しかし、弱すぎればすぐ

に収縮し、銀河や知的生命を熟成している時間はありません.....

( 多少人間原理的な説明になってしまいました。)

 

  この様な宇宙空間では、三角形の内角の和は、“180度”になります。また、円周率

は“2πr”、平行線は、どこまでも平行になります。

  これは私たちが小スケールの空間で、日常的に経験している世界です。むろん、

“180度”も“2πr”も、近似値的に間違ってはいません。しかし、何十億光年というスケ

ールで見るとどうでしょうか...

  いずれにしても、重力的なひずみでゆがんでいるにせよ、全体としてはきわめて平坦

であると見ていいようです。そして、この“平坦”ということが、これからの理論の展開に

きわめて重要になってきます。

 

 

                                                     (追加/1999.5.8)

(2) 物質密度と宇宙定数...   

 

 <1>希薄すぎる宇宙の物質密度

 

 宇宙の “加速膨張”の発見は去年、つまり1998年です。そしてその解釈として、

 

(A) この宇宙が“加速膨張”しているということは、空間の曲率がマイナスであり、

   開いた宇宙であるということ...

     

(B) もう1つの見方は、 この宇宙はやはり“平坦”であり、一定速度で膨張している

   が、空間全体に正体不明のエネルギーが満ちているというもの...

 

という2つの選択肢をあると言いました。

  しかし、それ以前から、現在主流のインフレーション宇宙論は、物質密度の問題

で大きく揺らぎ始めていたのです。それは、この宇宙の物質密度が、観測的事実と

理論的予測値とで、大きなズレが生じてきたためでした。それも、よく言われるとこ

ろの暗黒物質を足し合わせても、まだ全体の半分にも達しないというほどの不足で

す。一体それほどの不足分を、どの様にして補ったらいいのでしょうか...

 

  さて、こう言われても、専門外の私たちには何のことやらピンときせん。天文学で

いう、観測的事実とはどのようなものなのでしょうか。また、理論的予測値とは、何

を根拠としているのでしょうか。ここでは、こうした基本的問題にも触れ、改めてその

ガイドラインを考察してみます。

  そもそも素朴に考えて、私たちが全宇宙の平均密度や総物質量などを、計測で

きるものなのでしょうか...ま、これはできるといえば出来るし、できないといえば

出来ません。しかし、これは人類文明がもつ一種の“物差し”のようなものだと言うこ

とが出来ます。それが真実かどうかは別として、物差しは物差しとして使えます。か

って人類は、“万有引力”という物差しを使っていました。しかし、今は“相対性理

論”という、時空間という“器”そのものをも扱える物差しを持っています。それが、そ

れぞれの時代の物差しというものであり、その時代の宇宙論というものなのです。

つまり、絶対的真実がどうこうということではなく、その時代の人類の知恵が描き出

す、精一杯の宇宙の姿ということになるのです。

 

  では実際はどうなのかというと、現代天文学ではかなりの精度で宇宙の総物質

量を推計しています。これは、私のような門外漢が考えているよりも、かなり精度の

高いもののようです。もっとも、以前はかなり大雑把なのもでした。しかし、最近は、

ハッブル宇宙望遠鏡をはじめとする高精度な望遠鏡やコンピューターにより、100億

光年という超深宇宙まで観測できるようになっています。そして、その目視できる数

十億というような銀河や銀河団の観測から、直接その総質量を推計することも可能

といいます。むろん、方法は他にも幾つもあるわけですが...

  一方、銀河系は銀河回転という巨大質量の運動から、その総質量をかなり正確

に求めることが出来ます。また、宇宙で最大規模の構造体である銀河団は、その銀

河間の空間にあるガスが放つX線スペクトルの解析から、その総質量を推計するこ

とが出来ます。この重力構造的な銀河の大集団は、星のようにかなりの内部圧力

がかかっています。したがって、銀河と銀河の間の銀河間ガスにも、収縮的な重力

圧力がかかっているわけです。そして、その内圧が高まるほど、ガスが放つ電磁波

の波長は短くなり、高温になるほどX線に近づいていくといいます。つまり、そのX線

の解析から、内圧や質量を逆算できるというわけです。

  むろん、銀河も銀河団も、こうして求められた総質量から見かけの質量を差し引

けば、残りは暗黒物質ということになります。銀河団の場合で、総質量に占める暗

黒物質の割合は、80%から90%という推計値もあるようです。つまり、そのほとん

どが、光っていない暗黒物質ということでしょうか。なお、宇宙で最大規模の重力的

な構造物である銀河団の質量は、全宇宙に一般化できるといいます。ふーむ...

 

  さて、数千億個の恒星から形成される銀河。それらが、重力引力で稠密に構造

化していく銀河団。さらに、銀河団が連なった超銀河団の巨大構造の風景...しか

し、この大宇宙は、全体としてみれば、きわめて高い均一性・一様性の状態にあり

ます。この均一性・一様性は、天空の全方向から来る宇宙の背景放射、マイクロ波

の観測からも証明されています。が、しかし、銀河が生まれ、星が生まれ、生命体

が生まれているように、この宇宙には適度な質量の偏りがあり、それが“進化”とい

うシステムを波動させているのです。

 

( この進化とは、構造化の力と方向です。宇宙は熱力学の第2法則によって、エントロピー増大の

方向にあります。つまり、生命体は、このエントロピー増大の海の中で、何故か発生し、増殖し、知

恵を持ってきたのです。これをどう考えたらいいのでしょうか.....)

 

  現在のような、奇跡的な質量の偏りを持つ宇宙の姿は、どの様にして生まれてき

たのでしょうか。現在主流のインフレーション理論によれば、ビッグ・バンの前の量

子的なかすかな揺らぎと、“真空の相転移”による“インフレーション”により、出来あ

がったということになります。しかも、この微妙な質量の偏りによる宇宙の構造化

は、今もダイナミックに進化しているのです。しかし、その進化の最先端にある“生

命体”は、偶然や奇跡として片付けるには問題が大きすぎます。第一、この生命体

は、宇宙の誕生以上に複雑といわれ、まさに難解きわまるものとなっています。ま

た、見かけ上、その生命体が持つ“意識”というものは、もはや物理学的な手がかり

さえもおぼつかないものになっています。

 

  水に個体・液体・気体と、3つの相があるように...また原初の真空が、相転移

によって重力・強い力・電磁力・弱い力と、順次に4つの力に分裂したように...こ

の宇宙の姿の何かが、“物質”・“生命体”・“意識”という3つの相を持つようになっ

てきたのでしょうか...私たちは今まさに、この第3の“意識”で、宇宙論を考察して

いるわけですが...

                             (真空の相転移については、後で説明します。)

 

 

 <2>平坦と宇宙定数

  それが正しいかどうかはともかく、この宇宙はビッグ・バンを経て、現在のような姿

になったというのが、20世紀・天文学の定説です。その全質量がどのように拡散し

たかも、かなり詳しい推計がなされています。むろん、ビッグ・バン直後から現在に

至る宇宙の風景も、光の情報として今も宇宙に満ちています。

  宇宙の時空間が1点から膨張したものなら、100億年昔の宇宙の姿は、100億

年彼方の星の世界からもたらされます。事実、その100億年ほどの彼方に、銀河

のなりかけのような天体も見つかっています。これは宇宙が誕生し、ようやく物質が

銀河の塊になり始めた頃のものなのでしょうか。もっともこうした解釈は常に揺れ動

くものであり、少し離れたところから眺めていた方がいいかもしれません。

  ともかく、最近のテクノロジーは、そうした宇宙の果てに近いところまで観測できる

ようになってきたのです。では、そのさらに先はどうなっているのかというと、“光速

の壁”で、“事象の地平面”になっています。つまり、空間の相対的な膨張速度が光

速度を越えてしまい、一切の光が地球に到達しなくなってしまいます。

 

  このように進化したテクノロジーによる観測値と、理論的予測値が、実は大幅に

違っているといいます。何故でしょうか...

 

  その前に、この理論的予測値とは何なのかを考察してみます。これは、いわゆる

宇宙の平坦性の問題になります。つまり、この私たちのいる空間の曲率は、プラス

かマイナスか、それともゼロなのかということです。そしてこの問題では、ほとんどの

天文学者が、曲率ゼロの平坦性を強く支持しています。また、私たちが素朴に眺め

ても、三角形の内角の和は180度ですし、円周率は2πrです。むろん、私たちが問

題にしているのは、机上でのスケールの小さな話です。しかし天文学者は、それは

宇宙空間というマクロのスケールでも、平坦であろうと推計しているわけです。むろ

ん、様々な観測が長年続けられ、そのほとんどが宇宙の平坦性を支持してきたの

です。また、先ほど述べた宇宙の背景放射から来るの質量の均一性・一様性の確

認も、インフレーション理論では“空間の平坦性”を証明するものになります。

 

  アインシュタインも、相対性理論の方程式に宇宙項(宇宙定数)を入れることによ

って、“まずこの宇宙は平坦である”ということを規定したのです。もっとも、ニュート

ンの万有引力の時代から間もない頃のアインシュタインが考えていたのは、ニュート

ンの想定したような、平坦で静かな宇宙だったようです。ところが、ハッブルが宇宙

の膨張を発見すると、彼は自ら宇宙項を否定してしまいます。

  それ以後、宇宙は極めてダイナミックに変動しつつも、物質に満ち溢れた、“平坦

な宇宙”と考えられていました。見かけ上、物質密度が足りないのは分かっていまし

たが、それは暗黒物質が補うものと考えていたのです。また一方、ビッグ・バン理論

の矛盾を幾つも解決したインフレーション理論は、まさにこの宇宙の平坦性と一様

性を強く支持する理論だったのです。

 

  ところが最近の観測から、どうも暗黒物質の推計値をも合わせた物質密度でも、

空間の平坦性を実現するには希薄すぎると言われるようになってきました。これは

前にも言いましたように、質量が多ければ空間の曲率はプラスに、少なければマイ

ナスにということです。そして平坦ということは、この均衡が取れているバランス・ポ

イントです。

  さあ、そこで、観測される総質量(宇宙の物質密度)は、ケタ外れに少ないという

ことが分かってきたのです。これがいわゆる、“インフレーション理論の危機”と呼ば

れるものです。これほどの不足分の質量を、どの様に穴埋めするか...まさに破産

寸前です。

  そこで登場したのが、つまり宇宙定数であり、この宇宙に存在するかもしれない、

膨大な真空のエネルギーだったのです。これは定数と呼ばれるように不変であり、

空間自体の持つ基本的なエネルギーです。したがって、宇宙が無限に膨張して行

けば、それに比例して無限に増大していくエネルギーです。が、この宇宙定数を認

めるということは、単なる宇宙論のつじつま合わせでは済まなくなります。この真空

のエネルギーを認めるということは、物理学の基礎条件にまで影響してくるからで

す。

 

  質量が持つ重力は、いわゆる引力としてのみ働きます。つまり、リンゴが木から

落ちるあの力です。しかし、電気にはプラスとマイナスの組み合わせによっては、引

力と斥力が働きます。これは磁石もそうです。自然界にはこのほかに、原子核にか

らむ弱い相互作用と強い相互作用の力がありますが、話によれば、やはり引力と

斥力があるようです。したがって、引力のみというのは、質量のもつ重力・引力だけ

なのです。しかし、宇宙を支配している超遠方に届く力というのも、まさにこの重力・

引力のみなのです。

 

  そして、ここにその敵役として、真空の斥力が登場というわけです。さて、この真

空の斥力てですが、この力こそ、あのビッグ・バンの爆発力なのです。

 

  それにしても、この“宇宙定数”といわれる真空のエネルギーとは一体何なのでし

ょうか。そして真空とはそもそも何なのか。私たちは普通、真空といえば、空っぽの

何もない空間と考えてきました。真空ポンプで真空を作ったり、宇宙空間の虚無空

間を超真空と呼んだり...しかし、古代科学のアリストテレスの時代には、真空に

はエーテルが詰まっていると考えていたようです。また、近年では、ディラックが真

空を“ディラックの海”と言っていたようです。むろん、デイラックは、相対性理論の宇

宙項(宇宙定数)は、当然知っていたわけです。

 

 

 

 <3>平坦ということ... アインシュタインの宇宙項(宇宙定数)の再登場

 

  現代文明におけるこの宇宙の姿というものは、“神話”的なものでもなければ、

“無限の星の海”といったような、想像を絶する手の付けられないものでもありませ

ん。

  ニュートン力学の万有引力の頃までは、この宇宙は静的な時空間の流れという

基本構成がありました。しかし、アインシュタインの相対性理論の提唱により、この

時間と空間の関係が方程式の中に入り込んできました。つまり、宇宙空間という

“器”そのものが、物理学の掌の内に入ってきたのです。これこそ、まさにびっくり仰

天といったところでしょうか。それによれば、

 

  空間は質量の影響を受け、時間は運動の影響を受けるといいます。しかも、質量

はエネルギーと等価です。また。エネルギーは“光”と“物質”(と“真空のエネルギー”)の姿

としても観測されています。

 

( 銀河団の近くを通る星の光は、重力レンズによって曲げられて地球に届きます。これは空間が、

銀河団の巨大な質量によって曲げられている証拠です。また、光速度に近い速度で飛行する宇宙

船に乗っていると、時間の進み方が遅くなるといいます。これは、運動が時間に影響を与えていると

いうことです...)

 

  これは、“物理学は、すでに極め尽くされた”と考えていたニュートンが聞いたら、

腰を抜かすような話です。もっとも、彼が聞いたら、狂喜してアインシュタインのもと

へ通ったでしょうか。いずれにしても、相対性理論の登場は、それほど劇的なもの

だったのです。

  20世紀はこの相対性理論によって幕が開きました。まず、1905年に、特殊相

対性理論が発表になりました。それから、1915年に、一般相対性理論の発表とな

るわけです。また、この後、1920年に、量子力学立ち上がります。これが20世紀

後半を彩るもうひとつの側面、核兵器時代への導入となったわけです。しかも、人

類に対して実際に使用されて2発の核爆弾、“リトルボーイ”と“ファットマン”は、い

ずれも日本に投下されました.....

 

                      <被爆された方々の、ご冥福を祈ります。>

 

                                                 (追加/1999.6.10)

(3) 無量宇宙の中に生まれた泡宇宙... 

 

  無量宇宙 ( Multiverse ) とは、宇宙 ( Universe ) の Uni Multiに置き換えた造語です。

つまり、“唯一の宇宙”というイメージがら、“無限数の宇宙”というイメージになります。

 

  さて、宇宙の物質密度(エネルギー密度と置き換えてもかまいません。物質とエネルギーは、相対性理論で

は等価。つまり、同じものということです。)は、理論的予測値を大幅に下回ることが明白になって

きました。現代天文学のインフレーション理論では、宇宙は平坦で、物質は一様に

広がっているということになっています。では、この前提が崩れてしまうのでしょう

か。

 (   しかし、インフレーション理論でも、物質は完全に一様に分布しているわけではありません。か

すかな偏りがあるのです。その、きわめて微妙で深遠な偏りが、星や銀河や銀河団を形成してきた

わけです。また、一方では、アミノ酸や巨大な分子が形成され、生命が醸成されてきました。これも

物質の偏りの一種なのです。このビッグバン前後のかすかな揺らぎから生まれた偏りは、今もなお

宇宙や生命を進化・構造化する重要なベクトルとなっているのでしょうか...)

 

 天文学者は、このインフレーション理論の危機を打開するために、さまざまな改

定版インフレーション理論を提案しています。

 

 “元祖”インフレーション理論

                        

 カオティックインフレーション

 ハイブリッドインフレーション

 拡張インフレーションモデル

 超拡張インフレーションモデル

 ソフトスンフレーション

 ナチュラルインフレーション

 オープンインフレーション    

                     ...etc.

 

  これらの中で、最近注目されているのは、オープンインフレーションです。この理

論では、曲率が負の宇宙を作れるからだといいます。しかし、本来単純な構造のイ

ンフレーション理論が、しだいに人為的で複雑なものになっていくのは否めません。

しかし、ここでは細かなことは抜きにして、宇宙論の全体風景のみを考えていきま

す。

 

 

 <1>自然界を支配している4つの力 ... 真空の相転移

 

  現在、自然界には4種類の力が観測されています...いわゆる、“重力/一般相対

性理論”と“電磁力/電磁気学”、それから原子核にからむ“弱い力/量子力学”と“強い力

量子色力学”。

  そして、これら4つの力をひとつにまとめるのが、理論物理学者の見果てぬ夢に

なっているとか...

 

  しかし、すでに電磁力と弱い力は、“電弱統一理論”によって統合されています。

また、これに強い力が加わり、3つの力を統合する“大統一理論”がすでにありま

す。あとは、これに重力を統合する“超大統一理論”で、4つの力全てを統合するこ

とになります。

 

  私は若い頃、サイエンス(現在の日経サイエンス)に掲載されたこれらの論文を、わけもわからず

に読んでいました。今思えば、物理学を専攻していたわけでもないのに、何故か苦労してこんなもの

を読んでいました。私にとって、懐かしくほろ苦い、青春の頃の思い出です。それにしても、何故こん

なものを読んでいたのでしょうか...

 うーむ...自分の知的好奇心から、他に満足のいくものが無かったからでしょうか...

 

  さて、そこで...何故これら4種類の力が、理論的に1つに統一されなければな

らないのでしょうか。それは、今私達の周りに見られる4種類の力は、元々が1つだ

ったと考えられるからです。そしてそれは、宇宙の開闢にまでさかのぼる、“真空の

相転移”によってもたらされたとするのが、現代物理学/統一理論の解釈です。つ

まり、真空の相転移のたびに、力が枝分かれしたと考えるわけです。

  まず原初のプランクエネルギー密度からの真空の相転移で、“重力”が枝分かれ

して行きます。それから、宇宙開闢の10のマイナス36乗/秒後あたりに、第2の

真空の相転移があり、強い力”が枝分かれしたと推定されます。さらに、第3、第4

の相転移があり、それぞれ力は分裂して行きますが、ここらあたりまできても、宇宙

開闢からまだ1秒とたっていない瞬間の出来事ということになります。この量子的と

も言える短時間に、この宇宙の原型と運命は、ほぼ固まっていたということになるの

です。

 

  ここに、何者かの“意図”や、“設計図”はあったのでしょうか...それとも、我々

のこの宇宙は、たまたま偶然に生まれてきたのでしょうか...また、“私”は無限の

偶然の積み重ねの果てに、今ここに存在しているのでしょうか...

  いずれにしても、今まさに“私”がここに存在していることこそ、動かしがたい真実

なのです。そしてこれが、人間原理の立場です...

 

  繰り返しますが、“真空の相転移”とは、水で言えば、気体、液体、固体と、温度

が下がることによって相が変わる風景です。この相が変わるとき、“過冷却”という

現象が起こります。たとえば、0℃の水から同じ0℃の氷に相転移する時、水はさら

に冷却しなければ氷にはなりません。この相と相の間のエネルギー・ギャップが“過

冷却”になるわけです。そして、宇宙開闢後の真空の相転移の時にも、この過冷却

があったのではないかと言うのが、“元祖”インフレーション理論の出発点だったと

言われています。

 

  つまり、この真空の“過冷却”の間に、原初宇宙がインフレーションを起こして、い

っきに大膨張したと考えるのです。そして、ビッグバンはその直後に起こったと想定

しています。

  ビッグバン理論の様々な矛盾を解決したと言われるインフレーション理論ですが、

このあたりの微妙な機微は、専門書の方をお読みください。ここでは、宇宙論を文

化的なフレームで捉えていくのに留めています。

 

  ところで、真空のエネルギーとは、空間自体の持つエネルギーです。これは、相

転移以外ではエネルギー密度は変化しません。つまり、大雑把に言えば、宇宙が

いかに膨張して行っても、空間自体の相が転移しない限り、空間は一定のエネルギ

ーを保ち続けるということです。

 宇宙空間は、膨張によって物質(エネルギー)密度はどんどん小さくなって行きます。し

かし、全宇宙のエネルギーは、空間の膨張に比例してどんどん増大して行くわけで

す。すると、やがては、物質のエネルギーは相対的に低下し、空間自体のエネルギ

ーは、益々増加していくという風景になります。これは、物質総量の持つ一定の重

力引力に対し、真空エネルギーの持つ斥力が、増大して勝って行くということでもあ

るのです。

  アインシュタインが相対性理論の中に導入した宇宙項(宇宙定数)とは、まさにこ

のような奇妙な真空のエネルギーだったのです。宇宙空間の膨張に比例して、いく

らでも増えていく空間自体が持つエネルギーということです...

 

    この膨大な空間自体の持つエネルギーを加えることによって、この宇宙空間の

曲率が平坦に保たれていると考えるわけです。しかし、物質エネルギーはどんどん

相対的に低下していくわけで、これもきわめて不安定な宇宙の風景ということになり

ます...

 

  が、それにしても、この“真空の相転移”などというものが、本当に存在したのでし

ょうか。大統一理論では、それはヒッグス粒子が発見されれば証明されるといいま

す。このヒッグス粒子とは、素粒子に質量を与えるもので、現在CERN(欧州合同

原子核研究所)の大型加速器で研究が進んでいます。もし、このヒッグス粒子が発

見されれば、ノーベル賞級の大偉業になると言われています。

 

ヒッグス粒子   

  素粒子のゲージ理論の中の基本的粒子の1つ。標準模型や大統一理論では、クォ

ーク、レプトン、ゲージ粒子などの基本粒子は本来は質量(重さ)をもたず、ヒッグス粒子

との相互作用によりはじめて質量を獲得する。各粒子がどれだけの質量を持つかは、

ヒッグス粒子のさじ加減ひとつである。理論的にはこのように重要な役割を持つが、実

験ではまだ発見されていない。ヒッグスはイギリスの物理学者。 

                                <現代用語の基礎知識 より>

 

 

 <2> 無量宇宙の中の泡宇宙の風景

 

  あれこれと、色々なことを集めて書いていれば、まさに切りがありません。現代物

理学は、広大多岐にわたる人類文明の、最も基盤的な学問です。耳新しいもの、興

味深いもの、私自身にとっての体系付けの発見など、いよいよ深くはまり込んで行

きそうです。しかし、この“人間原理空間”のホームページは、科学的知識の探求の

場ではありません。科学をも超えた、人間原理探求の場ですので、よろしくお願いし

ます。

 

  さあ、いよいよ最も新しい、“無量宇宙の中の泡宇宙”の概念に入ります。むろ

ん、この泡宇宙も、インフレーション理論の範疇に入るものです。

 

  そもそも“元祖”インフレーション理論では、宇宙は無限に作られるのだと言いま

す。これは無限に膨張拡大するという意味ではなく、泡のように無限の数量の宇宙

が生み出されるという意味です。まず、宇宙が開闢するわけですが、この時の宇宙

を“母宇宙”と考えます。この母宇宙は、真空のエネルギーが非常に高いので、

“偽”真空と呼ぶのだそうです。まあ、言葉の意味はともかくとして、非常に高いエネ

ルギー準位にあるということです。また、宇宙が大爆発して膨張して行くエネルギー

とは、この真空エネルギーの斥力によるものです。つまり、電気で言えば、プラスと

プラス、マイナスとマイナスが反発しあう、あの斥力のことです。

 

  それから、上で述べましたように、宇宙開闢直後、まず最初の真空の相転移が

起こります。そして、この時の“過冷却”がインフレーションを引き起こし、宇宙はいっ

きに大膨張します。また、この真空の相転移における“過冷却”の終わった“偽”

空は“真”の真空に変わります。この、“真”の真空とは、“泡”であり、“子供宇宙”

なのです。

 つまり、“偽”真空である“母宇宙”中に、“真”の真空の“泡”である“子供宇宙”

が、無数に生まれてくるということです。そして、ここで相転移が終了すると、次に

ビッグバンが起こると想定します。

 

 ビッグバン理論とインフレーション理論の違いは、このビッグバンの前に、宇宙が

インフレーションを起こしているかどうかという点です。また、ここでいうインフレーショ

ンとは、真空の相転移の直前の過冷却の間に、宇宙が相当な大きさまでいっきに

拡大したということです。

  この過冷却の風景を、もし第三者の目で観測しているとしたら、それはエネルギ

ーの高い“偽”の真空から、エネルギーの低い“真”の真空への相の転移だというこ

とです。それは具体的には、無数の“泡”が発生してくる風景ということでしょう

か...

 また、この“泡”の“子供宇宙”からは“孫宇宙”も生まれて来ると言います。つま

り、理論的には、無限に生まれてくるようです。これが、いわゆる無量宇宙の中の泡

宇宙という概念です。そして、この“泡”の1つが、まさに私達のいるこの大宇宙とい

うことです。

 

 さて、真空の相転移は、一度で終わりということではありません。水が個体・液体・

気体と3つの相を持つように、真空も幾つもの相を持つと考えられています。この相

転移のたびに、“力”は次々に枝分かれし、現在自然界で観測されているような、4

種類の基本的な力の支配する風景になったと推定しています。

  むろん、これからも真空の相転移があり、現在の4種類の力は、さらに枝分かれ

して行く可能性があります。しかし、すでに真空のエネルギー準位は相当に低くなっ

ていますので、仮にあったとしても、ごく小さな変化と考えられています。

 

  この真空の相転移とは、素粒子論的に言えば、ヒッグス粒子の相転移のことだと

いいます。そして、上記のようにスイスのCERNでは、このヒッグス粒子の検出に精

力的に取り組んでいます。この素粒子がどのぐらいのエネルギーを持つかによっ

て、加速器のエネルギーも上げて行かなければならないわけです。これはまさに、

宇宙開闢から間もない頃のエネルギーを、人類文明が地上で作り出し、確認してい

るということなのです。

 

 

 

 <3> オープンインフレーション理論

 

  第3章のトップで述べたように、インフレーション理論も改訂版が幾つも提唱され

ています。観測との矛盾点や整合性をとるために、それこそ無数のデッサンが試み

られているようです。しかし、それでもなお、完璧なものは無いということでしょう

か...

 

  いずれにしても、その元になったのは、“元祖”インフレーション理論です。そし

て、現在最も注目されているオープンインフレーション理論は、この“元祖”インフレ

ーション理論を裏返した形になっているといいます。

( これは、両方とも無限の数の宇宙が生み出されるということのようですが、日経サイエンスの論文からは、それ以上のこ

とは分かりませんでした...)

 

 現在、何故このオープンインフレーション理論が注目されているかと言うと、“曲率

が負の宇宙”を作れるからだと言われます。これは、最近の超新星の精密な観測等

から、この宇宙が負の曲率を持ち、加速膨張している可能性が高まっていることに

よるものです。

 

  宇宙空間の曲率が負ということは、開いた宇宙であり、加速膨張している宇宙で

す。むろん、ざまざまな観測から、平坦よりはやや負の方向にバイアスがかかって

いるといった想定でしょうか...

 

  このオープンインフレーション理論が、従来のインフレーション理論と違うのは、イ

ンフレーションの度合いと、宇宙の揺らぎの現れ方だと言います。つまり、揺らぎの

生成がインフレーションによって生じるだけでなく、泡(私たちの宇宙)の外で生じた揺らぎ

が、泡の中まで伝播するということです...

 

 いきなりこんなことを言われても、何の事か分からないと思います。が、とりあえ

ず、最新の宇宙論の概略ということで、聞き流しておいて下さい。いずれ後に、関連

付けられた知識として生きて来ると思います。

 

 

 <第1部 > 最新・宇宙論の概略は、これで終了します。宇宙論は、文明の総力

を結集した広大で深遠な課題であり、門外漢の私の手には余る課題です。しかし、

正真正銘の門外漢だからこそ、あえてその純粋学問の聖域に踏み込み、一般人の

感覚での解釈を試みています。

 

 <第2部>では、さらに詳しい内容に踏み込む予定です。しかし、すぐにではな

く、しばらく時間を置くことにしました。

 

                                             執筆 : 高杉 光一

                                                                           house5.114.2.jpg (1340 バイト)