採集 * COLLECTING

その(1) オオクワガタの巻


      
      
  オオクワガタ採集第1号
  山梨県北巨摩郡明野村 1981 
  ♂ 62mm  



         クワガタの採集と言えば、誰もが一度は採ってみたいと答えるに違いないのが
         オオクワガタ。現在多くのクワガタ虫飼育愛好者が日本にいるのも、この虫の
         存在があればこそである。オオクワガタの採集方法や生態は今まで数多く書か
         れており、いまさらと言う感もあるが、そこはやはり何と言ってもオオクワガ
         タ、避けて通れない。私がこの虫の採集に夢中になっていた頃の様子を少し書
         いてみる事にした。

         当時、オオクワガタは幻のクワガタなどと呼ばれ、多く採集されたのを聞いた
      事も無かった。なにせクワガタに関する情報も今と比べると雲泥の差で採集記
      事なども、本当に数えるほどしか無かったものである。また、たとえ採集方法
      が書かれていても、中にはかなり不正確(根拠の無い)なものもあった。
         たとえばオオクワの幼虫は桜の朽ち木を好み、地面近くの水分の多い場所に多
         く居る、産卵されてから羽化するまでながいものは5年を要する等々。それに
         分布も日本全国とだけしてある事が殆どだった。そんなわけで採集はポイント
         も絞れずボウズの日々が長く続いたのだが、ある時オオクワガタの多産地が有
         ると言う話しを聞いた。今は有名になりすぎた山梨県明野村・韮崎市あたりの
         台場クヌギ(台木)に多く集まると言うものだった。(それより以前関西方面には
         多いとは聞いていたが)だがその台場クヌギなど見た事もないしホントかいな?
         と思いもしたのだが、何しろ多産地と言う言葉の響き(なんと虫屋の心をはやら      
         せる言葉“多産地”)につられ、
         ある夏の休日ついに山梨へと車を走らせたのである。


      
       
  良い条件のウロに入るのは強い
 個体。御神木には何頭か集まっ
 ている事があった。入っている
 のか外からは確認出来ない深い
 裂け目やウロも有るし発見しず
 らい高い位置のウロなどもきっ
 と沢山有るに違いない。 



         当時中央高速道路は勝沼インタ−(東京方面からです。大月までだったかな?
      記憶が曖昧)までしか開通していなかった。インタ−をおりて甲府の町を抜け
      韮崎市内を通りすぎ明野村方面の標識を見つけとりあえずそちらの方向へ走る。
      明野村に入ったのは良いが、かなり早くに家を出たので、あたりはまだ真っ暗
      で右も左もわからない状況、そのまま道の端に車を止めて寝てしまった。この
      後明るくなって台場クヌギなるものを目にするのだが、まあ、殆どの人はあの
      太くゴツゴツした台場クヌギを初めて見た時、驚き感激?して声を上げるだろ
      う、私ももちろんそうであった。

         そして初の山梨行きで運良くオオクワガタを採集してしまったのである。オオ
         クワを発見した時の情景は今もハッキリと記憶している。そいつはやはり太い
         台場クヌギのウロに入っていた。(この木からその後3頭採集している)目標に
         していた種が採集出来た時!何とも嬉しいもの、その瞬間はホントにいたんだ
         な〜とただ興奮するばかり、更に採った〜と言う本当の実感は後からじんわり
         こみ上げて来てとにかく嬉しい。こういう感覚はそう何度も味わえるものでは
         ないが、虫をやってて良かったと思う時でもある。
      この日オオクワは1頭のみ他はスジ、コクワ、ノコ数頭と言う結果だったがな
      にせ初のオオクワを採集出来た事で帰りは渋滞も気にならずハンドルさばきも
      右へ左と軽かった。その時カーラジオから岩崎ひろみの“ロマンス”が流れて
      いたのだが(みんな古くて知らないだろうと思うけど)以後“ロマンス”を聞い
      ただけで、その時の情景 → オオクワガタ採集の瞬間と記憶がありありとよみ
      がえって来る様になってしまった。条件反射(的な?)とはかくも簡単におき
      る様になるものなのか!さすがに最近は聞いた事ないな“ロマンス”(笑)
         この日以降しばらくは休みのたびに山梨へ通う日々が始まってしまうのだ。

     
       
  
  巨大な台木の上部の朽ちた部分
 にもクワガタの幼虫がいる。
 このような場所に産卵するのは
 普通コクワかオオクワ。 



          樹液が沢山出て隠れ家となるウロが有る台場クヌギに良くオオクワが集まると
          単純に考えるわけだが、一見同じ様な環境の木でも集まる木とそうでない木が
       有り、やはり何か違うのだろう。私の能力ではその違いは良く解らなかった。
          オオクワは集まらない木でももちろん他の虫は集まるわけで、クワガタはノコ
       ギリ、スジクワ、コクワ、少し標高の高い場所ではミヤマなどが良く見られた。
          アカアシは朽ち木割りでのみ採集した事が有りヒラタも採れると言うが私は採
          った事がない。
       他の甲虫ではカブト、カナブン、アカマダラコガネ、アカアシオオアオカミキリ
          (夜間樹液)等々が見られ、珍しいところではオオキノコゴミムシを夜間樹液(樹
          液に来ていたものと思うのだが)で採集した事があったが、かなりすばしこく歩
          くので驚いた。大概ゴミムシは素早いがこの虫を見つけたら上手く捕まえないと
          すぐに隠れて逃げられる。欲しがる人は限られると思うけど、、(笑)
          他にこの辺りにはオオムラサキがとても多く日中は良く樹液に集まり見ていて
          飽きない。中には飛べないくらいに樹液を吸っているものもいて笑ってしまう。
        
          次に、これは幾つかの本に書かれている事で私も経験したが、最初に採集した
          個体の次に同じウロに入っているものは殆どが前のものより小型になる。同
          じウロに♂2頭が入っていた経験もない。2頭いる場合は♂♀ペアで入ってい
          るのだが、この場合♀も1頭だけで、同じウロに♀2頭と言うのも経験した事
          が無い。やはり一番強いものが良い場所に居るわけで、夏に活動している成虫
          を採集する場合、その様な御神木のウロを発見すると大型を採集出来る可能性
          有りなのだが、現在の状況ではどうだろうか!

          山梨では人の作った台場クヌギがオオクワにとって良い環境を提供しているわ
          けだが、やはり今では有名になったオオクワの多産地福島の南会津などではそ
       の様な環境ではなく人の手が余り入っていない森林(里山でない)である。それ
          に豪雪地帯だし、今まで知っているオオクワの多産地とはだいぶ違う、ここを
       初めて知った時はこんな環境にもオオクワが多産するのか!と驚いたのを覚え
          ている。
          南会津では殆ど灯火に飛来する個体が採集される事からも発生個体数は相当に
          多いと想像出来るのだが、多数の樹液トラップを同地に仕掛けたがオオクワガ
          タは1頭も来なかったと聞いた事がある。私は今までに♀1頭を拾った事があ
          るだけで、この地のオオクワに付いては殆ど知らないのだが、良く採集にいく
          人からも樹液で採集された話しはまだ聞いた事がない。樹液の出ている樹木が
          殆ど見つからないだけの事だろうか?多分そうだと思っているのだが、、、
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          この産地ではライトトラップや外灯、自販機の灯りに来た個体が採集される事
      が多い。樹液での採集やブナ朽ち木での幼虫採集の記録も少ないが有るようだ。
          南会津郡伊奈村のブナ林よりの採集報告。(月刊むし292-1995)
          檜枝岐村ではアカシデの樹液からの採集報告がある。(月刊むし304-1996)
          


      
       

  オオクワガタの幼虫は倒木にもい
 るが、やはり大きく太いものが狙
 い目。しかし、林道の脇などに転
 がっているさほど大きくないもの
 からも割りだした事が結構あり、
 まめに食痕を捜した方が良い。



          冬になってもオオクワ熱は覚めず、材割りに通う事になるわけだが材を割って
          クワガタを見つけるのは、ある程度の知識が無いと結構難しい、初めての材割
          りでは、幼虫すら見つける事が出来ずそんなに甘くないもだと痛感させられた。
          有る程度のコツをつかんだ後でも良く言うタコ採れ状態などの経験は無い。運
          が悪いか腕が悪いか?それに、今まで材割りで採集出来た成虫の最大サイズも
          59mm程度である。幼虫も飼育方法が今の様に確立されていたわけではないの
          で、小さい幼虫を大きい成虫で羽化させる事も出来なかった。せいぜい、大き
          な幼虫が縮まないで羽化してくれるのを祈ると言う状態だった。今思えば嘘の
          様な話しである。

          材割りをしているとクワガタ以外の虫も出て来るのだが、私の好きなマイマイ
          カブリが出て来たのは今まで一度だけ。他の甲虫ではキノコムシ類が成虫で集
          団越冬しているのに出くわした事があるし、カブトの幼虫やカミキリの幼虫も
          多数出てくる。それにスズメ蜂の越冬中のものが結構出て来て、冬でも気温の
          高い日などはいきなり飛んでビックリさせられる。太いクヌギの朽ち木には背
       に茶色っぽいトゲの有るトゲアリが巣を作っている事も多かった。オオクワは
          採れずとも冬の朽ち木割りは楽しい。

          現在はさすがに山梨通いはしていないが、今でも機会が出来たら行く事は吝か
          ではない。オオクワを採集出来たのは1994年に材で1♀を割りだしたのが
       今のところ最後で、この♀は畑の脇に転がっていたさほど大きくない朽ち木か
          ら割り出した。何の変哲もないこんな場所にもいる事があるから虫は解らない。
          このあと1998年の冬に一度採集に行っているが、その時に同行した強者が
       ♂65mmを目の前で太い台木の朽ちた部分から割りだしたのには驚いた。この
       人はオオクワが好きで山梨に引っ越して住んだ事も有ると言うから半端な人で
       はないポイント付近はネズミの巣まで知っている!今でも採れる人には採れる
       のだろう。

          と言うわけで、古い話しをだらだらと書いてきたのだが、大して参考にもなら
          ない話しで恐縮です。次はもっと参考になりそうな最近の採集記を書く事が出
          来る様、もっと採集にも行かねば!


             【予定】

               珍品採集の記録?  
             出来れば海外の採集記 (汗)


                                                   Jan./2000  A.CHIBA