ヨーロッパのルリクワガタ属 - @

- Platycerus of Europe -




瑠璃色に輝くこのクワガタの仲間は、小さな体に大きな魅力を秘めている。一度この クワガタの魔力的 !! な魅力に取り憑かれると、おいそれとは抜け出せなくなり、キラリと 輝く姿が脳裏を離れず、この種を求めて山中をさ迷う憑依者となってしまう虫屋も少なくないの だ !!!

ヨーロッパ産のこの属も以前よりぼちぼちと集まり未展足の標本が溜まって来ていた。ある日や っと展足整理をしてみる気になり重い腰を上げたのだが、あらためてじっくり眺めるとヨーロッ パのルリは日本産とは又違った雰囲気を持っている結構良い虫ではないか!! 俄然興味が沸いて 来た。集まった標本にはきちっと同定ラベルの付いたものも有るが、中には同定されているもの の、どう見ても誤同定ではないかと思えるものもある。疑問が出ると興味は更に強くなり、そこ でこれらについて資料や情報を集めてみようと思い立った。
近年インターネットの普及で海外の研究者や採集者から直接標本や資料を手に入れる事も出来た り、素人にもなかなか便利な時代になったのだが、文献を捜すのは予想以上に時間が掛かってし まった。手に入っても当然ながらそれぞれの国の言語で書いたものが殆どで、言葉の壁も立ちは だかっている。
今回まだ十分ではないのだが現在まで調べる事の出来た資料から、知り得た事と幾つかの地域か ら来た標本の紹介として書いてみた。ほんの少しでもヨーロッパ産ルリクワガタの魅力を感じて もらえたら幸いである。
また期せずして今回のクワ馬鹿にはえいもん氏によるフランスでのヨーロッパコルリクワガタ採 集の記事が載り、非常に興味を持った。最近フィルドワークの乏しい (当然ヨーロッパで採集し た事は無いです) 自分としては、今後の期待が大である。




ルリクワガタの仲間は北半球の主な大陸と一部の大陸島に広く分布しているが、 ヨーロッパで見られる代表的な種としては、Platycerus caraboides (Linnaeus, 1758) カラボイデスとPlatycerus caprea (DeGeer, 1774) カプレアがよく知られて いる。この2種は非常に近い種で酷似しており分布が重なる地域も多く、今までしばしば混同さ れて来た事は否めないようで、この点を指摘する最近の文献も有る。
両種の形態からの区別は前胸背板と頭部のカタチとそれらに有る点刻の相違、更に脚や交尾器の 違いなどに及んでいるが、なにせ小さい種、頭部や前胸背板の点刻に関してはかなり拡大して見 る事が必要になる。ちなみにカプレアは若干点刻が少なくカラボイデスの方が密で、これは雄 雌とも同様である。 更に個体によっては微妙な違いでなかなか難しいものも有る。


         


雄のサイズに関しては、カラボイデス8-13mm、カプレア10-15mm程度としてある文献が多く、 カプレアの方が平均的に大きいようだ。
幾つかの分布図(それぞれの国の)によるとこの2種は平地から標高1000mを超えた山地まで棲息し ていることが判るが、やはり小さい島には分布しないようだ。地中海に浮かぶかなり大きなコル シカ島、サルディニア島、シチリア島に於いても発見された記録が載る文献や標本をまだ知らな い。

ヨーロッパのルリクワガタは、ヨーロッパミヤマと同様に古くより多くの種名や亜種名が記載さ れその数は優に20を超えている。現在それらは同一の種に異なる種名(シノニム)がつけられたと して扱われるものが殆どのようだが、更に研究整理の進むことが望まれる。何しろ広範囲に分布 している系統だけに少し変わったのがいてもおかしくない。
今回、この2種のほかにイベリア半島からの種とコーカサス地方からは2種。そのほか中央ロシア 、シベリア、あたりまで含む地域のものを載せてみた。


Platycerus caraboides (Linnaeus, 1758)  カラボイデス  (ヨーロッパ) fig-6-16
Platycerus caprea (DeGeer, 1774)  カプレア  (ヨーロッパ) fig-5-7-14-15-17-18
Platycerus spinifer Schaufuss, 1862  スピニファー  (イベリア 半島) fig-1-2
Platycerus caucasicus Parry, 1864  コーカシクス  (コーカサス地方 ) fig-11-12-13
Platycerus primigenius Weise, 1960  プリミゲニウス  (コーカサス 南西部) fig-8-9-10
Platycerus pseudocaprea Paulus, 1971  プセウドカプレア  (ピレネー山脈) fig-3-4 ?

Platycerus oregonensis Westwood, 1844   オレゴンエンシス  ( 北アメリカ)

( 上記はここで扱った種の学名ですが以降、カタカナ読みした種小名か、その後にルリクワガタ をつけて表示しています。例-カプレアルリクワガタ )






まず最初はヨーロッパ南西部イベリア半島のルリクワガタでfig-1fig-2はスペ イン産のスピニファールリクワガタである。この種はスペインとポルトガルに見られる特産種 でピレネー山脈を越えて他のヨーロッパ地域には分布していない。半島での分布は割と広いよう で広範囲に産地が点在しているが、ポルトガルでは北部から記録されている。見ての通り顎の基 部外側が張り出す特徴が有る比較的判りやすい種で、体色は濃紺から深い緑、黒色に近いものも ある。 写真雄2頭の顎を含む体長は12mm前後だが、この種の最大は15mm程度とされる。
この他イベリア半島北東部にはカラボイデスとカプレア及びピレネーからはプセウドカプレア が分布するとされるが、どれもスピニファールリクワガタより分布域が狭く個体数もそれほど多 くないようだ。





写真はイベリア半島北東部ピレネー山脈に位置するアンドラ公国とスペインの国境近くからの標 本。fig-3が雄、fig-4が雌でカプレアルリクワガタの同定ラベルが付いて来たが 、載せた個体は他の地域のカプレアルリクワガタと比べて前胸のカタチなどに幾らか相違が有る ように見える。ピレネー山脈中部 (北東スペイン・南西フランス) からプセウドカプレアとされ る種が記載されているのだが、この種に関して詳しい資料はまだ見る事が出来ずにいる。推測の 域を出ないが写真の個体がこれに該当する可能性も有る。




fig-5はスロバキア産のカプレアルリクワガタ雄14mm。
fig-6は同じくスロバキアのカラボイデスルリクワガタ雄11mm。
北アフリカのモロッコ、アルジェリア、チュニジアからも、このカラボイデスとされるルリク ワガタが記録されているが、見た事も無く少ないものだろう。またイングランドからは19世紀に 報告された事が有るがそれ以降は無いらしい。
fig-7はドイツ(Brandenburg) ベルリン産のカプレアルリクワガタ雄13mm。