『氷河戦士ガイスラッガー』レビュー

最終更新日: 2004/03/20

 石ノ森章太郎原作による改造人間宇宙戦闘ものです。 3万年の昔地球上に栄えていたソロン王国では、宇宙から来襲するインベム星人と戦うためにサイバノイド(強化改造人間)と呼ばれるガイスラッガーを作り出す。 しかし、ガイスラッガー達が冬眠テストを行っているときにソロン王国は地球的規模の災害で滅亡してしまう。そして南極の氷の下からガイスラッガーが掘り出され冬眠から覚めると時期を同じくして、インベムは再び地球の侵略に乗り出す。 ガイスラッガーは、失った祖国の代わりに地球人のためにインベムと戦うのであった。

 石ノ森原作モノとしては009に似た面があり、あまり成功した作品とはいえないが、失ってしまった祖国という拠り所のない不安感は一風変わった雰囲気を醸成していて面白いと思います。 一方で敵インベムに地球侵略のモティベーションが薄いことや、敵の存在感がいまいち感じられないことが、作品の吸引力に欠けた原因ではないかという気もします。

 メインライターは辻真先、他に安藤豊弘、藤川桂介が脚本に参加しています。


第16話「夕子の羽衣」(1977放映)

滅亡したソロン王国

ストーリー: 三保の松原の松に謎の羽衣が掛けられていた。そしてその上空にインベムのUFOがやって来た。羽衣を掛けた少女、夕子は、UFOは自分を迎えに来たと言う。羽衣を分析してみると、それはインベムの織物であった。
なんと、夕子は1000年以上も前に地球に渡来した、前のインベム王朝の血を引くインベム星人の子孫だったのである。 夕子はその事実を知り、インベム星へ帰ることを望む。それをめぐり意見が真っ二つに割れるガイスラッガー。 結局ガイスラッガーは夕子の望みを叶えるが、実はインベムにとって前のインベム王朝の血を引くものは全て抹殺しなければならない存在だったのだ。
物語は、しかし夕子を捕らえたフォーサー(UFO)の指揮官であった端役とも言えるダガル少佐の登場で一転する。なんとも一言でまとめられない、様々な考えが交錯するストーリーなのである。

感想: 夕子がインベム星人の子孫でありながらインベム星人に全く似ていないのはどうしてだ!(一応理由の説明はあるが)と考えつつ、この話には強く引き込まれてしまうものがあった。 故国を離れた夕子の心情は、ソロン王国を失ったガイスラッガーの心情と大きく重なってくる。 敵であるインベム星へ帰りたいと熱望する夕子に対してガイスラッガーの意見は真っ二つに割れるが、リキは「もし俺たちのソロン王国が滅んでいないとしたらどうする?たとえ悪いやつが支配していたとしても、俺はソロン王国へ帰りたい。故国と言うのはそういうもんじゃないのか?」と夕子に同調する。 このセリフは名言だと思います。
結局、地球人は全く意見をはさむ余地はなく、夕子、ガイスラッガー、インベムの三者が思い思いの思惑を持って話が進行します。 しかも、ガイスラッガー内では夕子賛成派のリキと反対派のカヤの意見は割れ、インベムの中でも夕子の気持ちを聞き作戦に躊躇するダガル少佐と、司令官であるデガス将軍の行動は食い違っていく。 そんな多くの人々の気持ちを羽衣伝説に結びつけるとともに、祖国を失ったガイスラッガーという存在を際立たせた、傑作であると思います。

★これは名作★



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