『若草のシャルロット』レビュー

最終更新日: 2002/04/28

 この作品は同人誌でレビューしたので、その中の一部をそのままここに転載します。ちょっと文体が違うけどごかんべんを。


予想を許さない驚愕のストーリー展開
主題歌も名曲!

 この作品は雪室さんのシリーズ構成・脚本による、純然たるオリジナル作品である。今ではほとんどのTVアニメが原作付きになってしまったが、当時はオリジナル作品もしばしば作られていた。

 どちらかといえば雪室さんは、既定の設定の下で力を発揮している作品が多いが、この作品からは彼の指向するストーリーをはっきりとうかがい知ることができる。ストーリーは、見ている者の予想を超えて進んでいく。毎話毎話、驚きの展開が隠されていて、いったいこれからどうなるのか、ハラハラドキドキなのである。

 当時といえば、「赤いシリーズ」などのストーリー性の高い連続ドラマが人気であった。これをさらにグレードアップしたようなものと言えばよいだろうか。ともかく一話見逃すと話がつながらないくらい、すさまじい展開なのである。雪室さんは同時期に、マンガの原作でも『森の天使アンジー』『おはよう!スパンク』という、ストーリー性の高い作品を残している。これと非常に共通するものが感じられる。


ストーリーに負けない内面描写
まさに波乱万丈というべきシャルロットの子供時代。
そこに様々な人々の思いが交錯していく。

 ストーリーの基本は、生まれてから父アンドレと二人でカナダの牧場を作り上げてきたシャルロットが、別れ別れになった母シモーヌと再会することが軸になっている。しかし、二人の再会自体がドラマであると同時に、シャルの母に対する思い、その変化が大きなテーマになっている。

 最初、シャルは死んだと思っていた母が現れることを拒否する。そしてやっと母を受け入れる心の準備ができたとき、その母の乗った船が嵐で難破して、助けに行った父までが行方不明になってしまう。一転して孤独になったシャルにとって、助け出されたかもしれない母との再会が大事となる。だが、シャルは母の顔を知らないどころか、記憶さえ一切ない。母と会ったときに自分は喜ぶことができるかという不安さえよぎる。

 その後、祖父・モントバーン公爵の差し金で、シャルはパリに渡ることになり、ついには母シモーヌと再会するのである。しかし、その母とさえ、自分の意思で別れる決断をしなければならなくなるのである。別れを決断した第17話『75点の幸せ』はシャルの揺れ動く気持ちが伝わる名作です。この回を含めて、各話の最後に入る坪井章子さんのナレーションがまた非常にすばらしく、シャルの気持ちを代弁するとともに、次回への期待感を盛り上げているのです。ボクはCSの再放送で、毎週涙を流して見ていました。

 ともかく、これだけ波乱万丈のストーリーながら、シャルの心理という太い軸が通ることで、物語は一切散漫になることなく視聴者に伝わってくる。ここが雪室さんの技なのである。ストーリーは書き出すと際限がないうえに、ネタバレになってしまうので、あまり書かないでおきたいと思います。

悪役の魅力

 さらに、シャルを取り巻くたくさんのキャラクターが、この物語を魅力的なものにしている。シャルの味方になる人物として幼なじみサンディー、メルビル爺さん、謎の青年ナイト、父アンドレと同様貴族の生活から逃げ出したルイ、モントバーン家シャル付きのお手伝いソニアなど、素敵なキャラクターが物語を彩っている。

 一方で、いわば悪役の側も魅力的で、特に祖父の権力者・モントバーン公爵と、貴族の娘マリーは、物語後半の大きな存在になっている。悪役に、「悪役である理由」を必ず持たせるのが雪室さんの流儀である。だからこそ、これらのキャラクターとシャルとの衝突が、新たな物語を生むのである。

 脚本以外で特筆すべき点としては、鈴木宏昌さんによる音楽がすばらしい効果を挙げている。アニメ的というよりはドラマ的な劇伴音楽で、感動的なシーンをさらに盛り上げるものになっている。キャラクターおよび作画はいまいち萌えないか?

 ともかく、この作品は雪室さんの脚本作品の中でも、ベストの一つと言ってよい傑作だと思います。



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