最終更新日: 2001/10/21 (追記2001/10/22)
あずきとヨーコが協力して何かをやる、っていうのは全話通してもこの話だけではないでしょうか。一方的にやらされてる話は結構多いですけど。 お互い勇之助をめぐりライバル視する間柄ではあるのですが、「決闘タコ公園」から最終話に至るまでの間で、双方の気持ちを通わせる数少ない機会であったように思います。
ヨーコが学級新聞を作ろうと言い出したのは、おそらくジダマの説の通り、買ったワープロを使いたかったからなのではないでしょうか。 クラスでの賛成が少なかったことで、かえってヨーコは本気モードに入ります。 ヨーコちゃんって基本的に、あずきに対立感情や恨みは持っていないのですね。新聞制作にあずきを誘ったり、ポケベルの連絡をするあたりは、ヨーコのからっとした性格が出ています。 というか、ヨーコにとっては学級新聞も勇之助も、単なる夢中になれることの一つなのかもしれません。
かくして、ヨーコちゃんはお約束通り、「目的のために手段を選ばず」になっていきます。勇之助に関していつもやってきたことといっしょです。
ヨーコは「一般大衆」の目を引き、なおかつ当たり前じゃない新聞を作りたい。志は高いのだが、結局スキャンダリズムに流されて行く。
あずきは、そんなヨーコについていけない。むしろ「学校の裏で飼っているウサギに名前がつきました」というような日常的な記事でいいと思う。こんな対立も結局、いっしょに新聞を作る結末になってしまいます。
アニメに一切そんなシーンは出てきませんが、ヨーコが寝不足で倒れている間、あずきは破いた新聞を手にとり、そこにヨーコの努力と新しいコンセプトを見て、心を動かされたんだと思います。 だからこそ、ヨーコの集めてきた記事で、自分が新聞を作り直そうと思ったのではないでしょうか。 新聞作りでは最初は対立していたけれども、ヨーコはスキャンダリズムの弱点を認め、あずきはヨーコの非凡な企画力を認め、一人では作ることができなかった魅力的な壁新聞を作り上げる。 これこそ、対立から昇華に至る弁証法と言って過言ではないでしょう!
そして、このような二人の気持ちの移り変わりを、ほとんど解説的なセリフ、そして場面なしで表現してしまう、雪室氏の脚本に私は感銘してしまうのであります。
(追記2001/10/22)
上の文を書いた後ちょっと考えてしまったのですが、ヨーコが倒れてしまってから、あずきが壁新聞を作り出す間のエピソードって、あずきの気持ちの変化を表すためには、ふつうは入れるべきシーンなのだと思います。 しかし、それはあえて入れていないのでしょう。入れるつもりなら、他に削ることのできるカットはたくさんあると思います。 そして、場面転換として、お母さんに偵察に行かされただいずが登場するという心憎い演出。
本来書くべき場面をあえて書かず、それによって時間の経過を表すとともに、登場人物の心理の変化を間接的に見ている側に想像させ、深みを醸し出す。 見ているだけでは全然気づかないけど、すごい技巧が隠されているのですね! こういった、考え抜かれた「技」が『あずきちゃん』の脚本には特にたくさん詰め込まれているのではないかと感じます。
この話で出てきた「アピール性の高さ」と「日常性の重視」という対立は、学級新聞に限らず様々なメディア作品制作において大変重要な問題であると思います。 だから、この話は「アニメ制作」の隠喩としての意味が含まれていて、最近のアニメに対する批判ではないかと考えることもできるでしょう。 実際にある人から「雪室さんはヨーコちゃんに本音を語らせているのでは?」という意見を聞いたこともありますし。
このあたりは、見る人の気持ちに委ねられているということで。(笑)
ここでひとつ嗜好を変えて、今までふれなかった「作画」について書いてみたいと思います。 なぜなら、この話は片渕須直氏が絵コンテ・演出を担当しているからです。 片渕氏は最近劇場版アニメ『アリーテ姫』の監督として売り出し中です。これがとてもすばらしい作品だったので、『あずきちゃん』でどのような仕事をしていたのか気になっているのです。
まず、この92話最大の名場面は、あずきの部屋であずきとヨーコが正対する、このシーンだと思います。真上から見る風変わりな視点のうえに、回転しながらズームアウトする独特なカメラワークで、あずきとヨーコの間の緊張感を非常にうまく表現していると思います。 シリーズを通しても、屈指の名場面です。 片渕氏はカメラワークを売りにしているようなので、その実力が発揮されたシーンと言えるでしょう。
また、だいずに「白雪姫みたい」と言わせるヨーコちゃんの寝姿。これも予想以上の白雪姫ぶりだったのではないでしょうか?
一部の方には、露出度がシリーズ最大になっているあずきちゃんの着がえシーンが受けているようです。 本来は、だいずとの「ノックしなさい」をやるための着がえなわけでしょうが、サービスしすぎです。 それから、着がえるときは、カーテンを閉めた方がいいと思います。(笑)
他に特徴的かなと思ったのは、ヨーコちゃんの燃える「波目」(by コンタロウ)。これ他に使っていた回あるでしょうか? 片渕氏オリジナルのような気がするのですが。
画面のレイアウトでは、一人が画面の端に引っかかっているシーンが多いのが気にかかりました。これとパンの組み合わせなど。全体的に、画面の端っこを使うのが好きなのではないかと感じました。
学級新聞の中身も、かなりていねいに書かれています。香月先生の破れて重なっているとこなんて、ふつう書きませんよねぇ。 裸足が書かれているのは『アリーテ姫』っぽい?
壁新聞の中身は、作画の方の力作なのかもしれません。
アニメーションもムチャクチャ枚数使っているとか、派手な動きをさせているわけではないようですが、他の回よりよく動いているのではないでしょうか。 このヨーコちゃんがひざをついてかがみこむシーン、1コマずつ並べてみました。短いシーンで、しかも端っこギリギリですが、スカートなどは『あずきちゃん』らしからぬ動きではないかと思います。
こちらもほんの一瞬ですが、スクープ写真ができたのを喜ぶヨーコちゃん。なかなかこまやかな表情の動きだと思います。
とはいいつつも、私はふだんあまり演出や作画には注目していない人なのです。誰か演出に詳しい方がいたら、このあたりの「見方」をご教授いただければと思います。
★これは名作★