『あずきちゃん』感想 第1話「春らんまん! あずきの恋はさくら色」

最終更新日: 2002/09/08


 このサイトでは『あずきちゃん』は歴史に残る名作だ!と無責任に言い放っているのですが、それでは、「あずきちゃんとやらを見てやろうじゃないか」と思った人が最初に見る話が、この第1話ではないかと思うのです。 しかし、それはボクの恐れていることでもあるのです。 なぜなら、自分がもし何も知らずに第1話を見たならば、おそらくそれ以上このシリーズを見ようとは思わないだろう…と思うからです。

 ということは、第1話は出来が悪いのか、というとそうではありません。まずはこの話から始めなくてはならないでしょう。


 『あずきちゃん』は子供から一歩づつ抜け出そうとする小学校5年生たちの、心のドラマなのです。 しかし、原作は「恋の教科書」というコンセプトが示すとおり、心とは言っても「初恋のドキドキ」を中心にしたマンガでした。 したがって、アニメも第12話くらいまでは、あずきと勇之助の恋心がメインテーマになっているのです。

 ボクは「ドキドキ」を感じない人間ではないですが、あんまり他人の「ドキドキ」を覗いたり、共有したりしたいタイプではありません。 はっきり言ってラブストーリーの類は苦手なのです。 途中から見たからこそ、こうしてこの作品のファンになってしまったのです。 そんなわけで、全117話のすべてがこの調子ではなく、その多くが、様々な「心」に彩られていることを知ったうえで第1話を見てほしいと思います。


 雪室氏は第1話を書くのを得意とする脚本家だと言えます。

 第1話というのは、作品の背景、テーマ、キャラクターなど多くのことを説明しなければならないにもかかわらず、初めて見る人のテンションを惹きつける必要があり、単なる説明的な構成では足りないのです。 雪室氏は元々、多くの内容を詰め込んでも散漫にならない構成力と、説明的なセリフに頼らない作風を持っており、第1話にはうってつけの人材であると言えましょう。 事実、これまでも多数の作品のすばらしい第1話を手がけられています。

 第1話の冒頭は、いきなりコードレスフォンの不便さがテーマ(笑)となります。 原作にはないのですが、雪室氏によって付け加えられたこのシーンがあってこそ、あずきの家族構成がひと目でわかるとともに、最初から謎のハイテンションを保っているあずきが不自然でなく見えるのです。 雪室氏の技のひとつです。

 その後、1話前半は「本当にあずき色なの?」で有名な登校シーンと、新学期の席替えになります。 このときのセリフはほぼ原作から取られていますが、それらの会話で、あずき、かおる、ジダマの性格や人間関係、さらには勇之助、ケン、ヨーコたちの人間関係なども「説明」されてしまいます。 ここらへんは、あずきと勇之助の出会いも含めて、原作の非常にすばらしいところだと思います。 「スカートめくり」から端を発して、後で本当にいろいろな話が発展していきますからね。第30話みたいな話も含めて…


 第1話後半では、人物紹介もそこそこに「かばん」の登場です。これも原作にある話ですが、かなりボリュームがふくらまされています。

(^_^) あずきは勇之助と同じかばんを見て、無理を言ってお母さんに買わせてしまう。

(;_;) しかし、クラスメートにからかわれるのが心配で、学校に持っていく勇気がない。

(^_^) だが、学校に行ってみたら、みんな手提げかばんになっていた。(ここまでは原作どおり)

(;_;) ところが、ジダマに、自分たちだけはランドセルで通そうと言われ、拒否できない。

(^_^) 仙台のおばさんにプレゼントをされたという言い訳を思いつく。

(;_;) ケンが、プレゼントは傘だということをばらしてしまって、ピンチ。

(^_^) ところが、ケンがランドセルにカエルを入れたため、かばんを替える口実ができる。めでたしめでたし。

というわけで、二転三転どころではない、激しい展開になっていて、さらに後半は仙台のおばさん、傘、雨、カエルといった一連の要素まで出てきています。 それなのに、全然ややこしい印象を受けないのが不思議なところです。まさに雪室氏の技であると考えるしかないのではないかと思います。

 それから、カエルがジダマに飛びついたとき、ジダマは狼狽して「おば、おば、…」って言ってるんですよね。ジダマおばあちゃんっ子路線が最初からはっきりと企画されていたことがわかりますね。(笑)


 さて、最後の締めで、「あずき」と初めて呼んだ(読んだ)のがケンだったことが明かされます。 冒頭で「あずき」というニックネームの原因を言っておいて、最後にその下手人を明かすという、考え抜かれた構成であることがわかります。 このあたりも、さすが、と言っていいと思います。

 そんなわけで、第1話に必要な要素をみごとに構成した、第1話であったと思います。もちろん、原作のすばらしさもあるわけですが。 欲を言うなら、作品のテーマが「恋愛」だけでないことを、第1話でも見せてほしかった。でも話がどう進むかなんてことは、まあ最初は誰にもわからないことでしょうからね。 だから、これは本当に「ないものねだり」です。(笑)


『あずきちゃん』TOPに戻る