クルマの燃費

最終更新日: 2008/07/27(追記:両角氏の本の紹介 2009/11/03)

1. エネルギー問題

 ガソリンの値上げが著しい。 自分は車の運転は好きな方なので、運転が楽しめるなら相応の負担があることは仕方がないと思うし、燃費のことは二の次だと思っている。 ただ、なんだか世の中で言われている「エコ」はちょっと違っているような気がしてきて、いろいろと燃費のことを調べてみた。

 燃費の問題はいろいろなファクターが多く、特に運転する人の乗り方でものすごく大きな差が出てしまう。 ネット上で燃費の議論があると「○○(車種)は燃費が悪い」「燃費はいいぞ」という不毛な論争になってしまうのは、よく目にするところである。 そんなわけで、ここでは運転のしかたの差をできるだけ排除して、原理的にどのような車が燃費がよいのかを考えていきたい。

 まず、燃費に最も重要なことは何であろうか。 燃料の制御方法、最新のエンジン技術、ギアボックスの種類、タイヤの転がり抵抗、…いろいろなことが言われているが、自分は昔から「車の重量」ではないかと思っていた。 というのは、車を動かすということは物理的に最も単純化して考えると質量mの物体に速度vに応じた運動エネルギーmv^2/2を与えることに他ならない。 車の速度の時間変化v(t)が、いわば「車の運転のしかた」ということになるだろう。 そして、運動エネルギーを考えるなら、「車の属性」として考えられるのは車の質量(重量)mだけなのである。 この運動エネルギーの元となるのはガソリンの燃焼熱であり、燃焼熱はエンジンの種類などとは基本的に無関係に、ガソリンの性質として決まっているものである。 燃焼熱から運動エネルギーに変換するのはエンジンであり、エンジンのエネルギー変換効率も熱力学的に概ね決まってしまうから、同じような機構のエンジンでそんなに大きな差が出るとは思いにくい。 あとは、動力伝達機構の効率にも差が出るが、これも変速機により多少の違いが出るだけで大きな差が生じるわけではない。 そうすると、エネルギーの変換という原理に立ち返って考えた場合、やはり燃費に一番重要なのは「車重」であるはずなのではないか。

 しかし、燃費の議論で車両の重量が前面に出てくることはあまりないように思う。 世の中の人々が「エコ」と言っているわりには、自動車は大きく、重くなっていくばかりである。 軽いからエコである、という論調もあまり聞かれない。 また、燃費の点で有利と言われているハイブリッド車や電気自動車(EV)は何100kgもの蓄電池を積まなくてはならないのに、本当にそれは意味のあることなのかも、かなり疑問な点であった。

2. 燃費と車両重量の関係

 そんなことを考えて、まずは車の重量と燃費の関係を調べてみた。 燃費としてはいわゆる燃費のカタログ値である「10・15モード燃費」を調べてみた。 カタログ値は実燃費とはかけ離れていることが多く、意味がないという議論もあるが、「運転のしかた」であるv(t)を完全に同じにし、全ての車を同じ運転方法で比較できるという意味は大きい。 燃費の公表値はラッキーなことに国土交通省のサイトにまとめられている。 ここから「ガソリン乗用車(普通・小型)」のみを取り出して表計算ソフトに入力した。 形式別で500以上の種類を一つ一つ入力していくのは、かなりの苦労であった。 OEM生産やブランド毎に車名が違うものも別々に出ているが、特に整理したりはしていない。 公表されている車重にはオプションなどの関係で数10kgの幅があるが、燃費の測定には最も重量の軽い車両を使用しているだろうと考え、この分析では一番軽い重量のデータを使用している。 まとめたデータは2008年7月1日の燃費一覧(CSVファイル、22kB)に置いておく。 なお、まとめたのは国産車だけで、さらにハイブリッド車とロータリーエンジン車はこの分析には含めていなく、後で多少考察を加えている。


10・15モード燃費と車両重量の関係

 結果は上の図のようになった。 やはり、重い車ほど燃費が悪くなるという傾向がはっきり出ている。 それなりの幅はあるものの、車重1000kgなら20km/L前後、1500kgなら12〜13km/L前後、2000kgなら8〜9km/Lという値は動かし難い。 実は同様の図をエンジン排気量に対してプロットしてみても、同じような傾向となる。 しかし、大排気量車の燃費が悪いのは、「重量が重い→大排気量を要する」という関係による間接的なものであり、本質的に重要なのは重量の方だと考えている。 ちなみに同じくらいの車重の車の中で妙に燃費が悪い車がぱらぱらとあるが、その中身は「走り」に振った車やグレードで、ターボ車が多い。 例えば、ダイハツ・ブーン(980kg、5MT、14.6km/L)はターボの付いた競技用車両ベース車、三菱・ランサー(1320kg、6MT、10.0km/L)もターボのいわゆるランエボ、というわけで、燃費でよい数値を出すことを最初からあきらめているような車種である。 その手の車を除いていけば、この図はさらに明確な関係を示すようになっていくはずだが、そこまでやると意図的と言われそうなのでやめておく。(笑)

 これだけきれいな関係が出てくると、何らかの関係式により線を引いてみたくなる。 単純に、必要な運動エネルギーが質量に比例するならば、燃費は質量の逆数に比例するはずである。 こう考えて横軸を車両重量の逆数にしてプロットしてみたのが次の図である。


10・15モード燃費と車両重量逆数の関係

 やっていた自分が驚くほど、きれいな直線状にデータが並んでしまった。 図の赤線は、これを直線で近似したものである。 もし車のエネルギー消費が重量に比例する運動エネルギーだけであれば、燃費は車重の逆数に比例し、この図では原点を通る直線に乗るはずとなる。 しかし、赤い直線はマイナスのy切片を持ち、原点はうまく通らない。 これは後で考えるような、空気抵抗によるエネルギー消費のためであると考えられる。 空気抵抗は車両の前面投影面積と空気抵抗の程度を表す係数(CD値)で表され、基本的に車両重量は関係ない。 さらに、乗用車の範囲では、大きな(重い)車であっても前面投影面積はあまり変わらない。 すると、燃費 ∝ 1/エネルギー使用量 ∝ 1/(運動エネルギー + 空気抵抗による消費エネルギー) となり、単純に運動エネルギーを考えた直線関係よりも一様に少し悪い燃費になるというこの赤線とはつじつまが合う。 空気抵抗を含めた計算は後でやってみることにする。

 ともあれ、運転のしかたを完全に同一にした「10・15モード燃費」だからこそ、このようなきれいな結果が出たと言えるだろう。 やはり、いろいろな付加要因を排除して得られる「第一原理」としては、燃費は車両重量に反比例するのである。

3. 変速機の差は?

 今までは車の重量以外は一切無視してきたのだが、一つだけ気になっている属性があるのでその影響を調べてみた。 変速機(トランスミッション、ミッション)の差である。 変速機はエンジンで発生した運動エネルギーを地面に伝える伝動機構のなかで、一番効率に影響があると思われる。 変速機をMT、AT、CVTと分けて同じ図をプロットするとこのようになった。


10・15モード燃費と車両重量の関係(変速方式別)

 まず、同じ車重でもよい燃費をたたき出しているのは、ほとんどCVTの車であることがわかる。 例えば、トヨタ・ヴィッツ(990kg、CVT、24.5km/L)や、トヨタ・ノア(1670kg、CVT、13.4km/L)といった車種だ。 まあ、CVTが流体クラッチを使った通常のトルコンATより余計な損失が少なく、燃費がよいことは当然の結果と言えるだろう。

 一方でよく理解できなかったのは、MTの燃費があまりよくなかったことだ。 図でわかるように、ATとほとんど差が見えなく、CVTには明らかに負けている結果になっている。 余計な損失がないという点ではCVTと同じ数値をたたき出してもいいような気がするのだが…。 MTが思ったほど燃費がよくない原因には、現在売っているMT車は「走り」に振った車が多いのも一つの原因ではある。 しかし、この図を見るとそれだけとは思えない。

 自分の仮説としては、これが10・15モード燃費測定に特有のもので、現実の燃費をよく反映していないのではないかと考えている。 後で分析するように、10・15モード測定は常用しているよりははるかに出力の小さい領域でテスト走行を行っており、要するにエンジンのアイドリングに近い低回転域をうまく使った走行をしないといい数値が出ないと想像される。 このような低回転域では、MTではかなり運転が難しく、半クラッチの使用はエネルギーの損失に他ならない。 固定された減速比で無理して走らざるを得ないMTよりは、常に必要最低限の回転数で走るように調教されたCVTや、トルコンのトルク増幅効果を使って出力や回転数を調整しやすいATが見かけ上よい数値を出しているだけのように感じられる。 おそらく、エネルギー使用量(余計な損失の有無)という観点で考えると、実際の使用状況(常用回転域)ではMTはCVTとほぼ同等の燃費になり、ATはそれより少し劣るという常識的な結果が得られるのではないかと考えている。

4. 10・15モード法とは

 ここからは分析編となる。 現在、燃費の評価に使われる「10・15モード法」とはどんなものかを調べ、この走行に必要なエネルギーを考えることで、燃費測定におけるエネルギー収支を考えてみたい。 最後には、燃費は原理的にどこまで良くなる可能性があり、現在はどの程度達成されているものなのかまで推定できるはずである。

 「10・15モード法」とは、ある特定の走行パターンで実際に(測定機上で)車両を走行させ、そのときの排気ガスや燃料消費を調べる方法である。 どのような走行パターンであるかは国土交通省が決めており、今回は国土交通省の解説pdfに基づいて計算を行ってみた。 原典に当たるという意味で、国土交通省が10・15モードを取り決めた告示(平成14年国土交通省告示第619号別添42だと思うのだが)を探してみたのだが全然見つからなく、オリジナルの規定には到達できなかった。 上の解説でも、たぶん間違いはないだろう。

 しかし、この解説をもってしてもわからない点が一つあった。 実は、加速や減速に関しては、最初と最後の速度と時間しか出ていないのだが、この加減速v(t)をどのように設定するかでエネルギー消費量や走行距離が変わってしまうのである。 今回は、「一定加速度」で加減速をすると仮定すると資料に示された走行距離4.16kmが再現できるため、「一定加速度」の条件の下でいろいろな計算を行っている。 ただし、「一定加速度」加速はロケットダッシュ的で、現実の車両走行にはあまり合っているとは思えない。 現実の走行の加速ではむしろ「一定パワー」に近いような状況になっているような気がする。

 余談であるが、Web上にはこのような走行パターンも示されているが、これにはデータに省略があり、実際には10モードのモード9と10、15モードのモード14は2段階に分かれている。 最初はこれをベースに計算していたが、計算が合わなくてしばらく悩んでしまった。

5. 必要なエネルギーの計算

 走行パターンの速度v(t)がわかってしまえば、必要なエネルギーの計算は簡単だ。 今回は


としてこの走行パターンに必要な最小限のエネルギーを見積もってみた。 結果はこのようになった。


10・15モードでの速度と単位時間あたりエネルギー消費量

 ここで単位時間あたりのエネルギー消費量はイメージしやすいように「馬力(ps)」で示してある。 元々の計算結果はMKS単位系ではワットで出てくるものであり、1ps=735.5Wとして換算してある。 車のデータとしては自分が今乗っている車(質量1000kg+乗員110kg、前面投影面積は全幅×全高=2.40m^2、CD値はよくわからないので0.3を仮定)のものとした。 グラフからわかるように、10・15モードの加速は加速時でも10ps前後の非常に低い負荷で行われている。 自分の場合は、常日頃の発進加速では1500〜2500rpmあたりをよく使うので、20〜40psくらいの出力で加速していることになる。 10・15モード走行というのは体験したことはないが、ふつうの加速の1/3〜1/4くらいのイメージ、おそらくアイドリングよりちょっと踏みこんだ程度の回転領域を使う特殊な運転であることがよくわかる。 一方で、一定速度走行時には運動エネルギーを与える必要はなくなり、空気抵抗に逆らうエネルギーだけが必要だが、これは最高速度の70km/hでも5ps程度しか必要としなく、低速ではさらに小さい。

 このグラフの消費パワーを10モード×3回と15モード×1回で積算したものが、必要なエネルギー総消費量となる。 その値は運動エネルギー762.3kJ+空気抵抗エネルギー253.3kJ=1015.6kJであった。 ガソリンエンジン自動車は、走行に要するエネルギーをガソリンの燃焼熱から得ている。 ガソリンの1Lあたりの燃焼熱は34.6MJ/Lであるので、もし全ての発生熱量が運動エネルギーに変換できるとすれば、10・15モード走行を行うのに必要なガソリンの容量は29.3mLとなり、これで4.165kmの距離を走るのであるから、燃費は141.9km/Lとなる。 これが、全てのエネルギー変換が効率100%で行われたときの、仮想的な最大燃費ということになる。 しかし、これは机上の空論であって、エンジンは熱機関であるので燃焼熱から得られる運動エネルギーは熱サイクルから決まる熱効率が上限となり、自動車ガソリンエンジンの場合は概ね熱効率25〜30%のようだ。 残りのエネルギーは排気熱やエンジンの発熱に散逸されてしまうが、同じ燃料や点火方法を使用している限り原理的に熱効率を上げることは不可能である。 となると、熱効率を25%として(今自分の乗っている車のスペックで)原理的に可能な究極の10・15モード燃費は35.5km/Lと見積もることができる。

 同じ車重1000kgクラスの小型車では、前に見てきたように公表されている10・15モード燃費は15〜25km/Lである。 実際にはエンジン内部や駆動系の損失、発電機など補機による損失があるので、25km/L以上の燃費はもはや理論的に不可能な領域に近づいているような気がする。 あとは、車重を減らすか、極端に空気抵抗の少ないボディ形状にするかのどちらかしかなくなってくるのだが、おそらく安全性や居住性を考えるとどちらもかなり難しいはずである。 そういう意味では、現在のガソリンエンジン自動車は燃費の限界にかなり迫っていると言えるのではないだろうか。

6. ハイブリッド車

 ここで、ハイブリッド車の燃費を考えてみる。 ハイブリッド車の10・15モード燃費は30〜35km/Lに達している。 しかし、これは本当に妥当な値なのであろうか。 ハイブリッド車の燃費測定においては、バッテリーの蓄電をどう扱うべきかという問題が残されたままになっており、場合によっては電池によるモーター走行だけで4キロ余りのテスト走行を完了してしまうこともできるだろう。 その場合は、10・15モード燃費は無限大ということになってしまう。 これは決してルールを破っているわけではないが、インチキと言っていいだろう。 例えば、トヨタ・プリウスは68psの最大出力の電気モータを搭載しているので、出力としてもモータだけで10・15モード走行を行うことが可能であるし、電池容量も6.5Ah×202V(単純に計算して4.7MJ)あるのでバッテリだけでテスト走行を完遂することが(性能上は)可能なはずである。 自動車メーカは、ハイブリッド車がテスト走行において適度に蓄電エネルギーを使用し、それによって驚異的な燃費をたたき出しつつも、インチキには思われない程度の燃料を消費するように制御プログラムを調整しているのではないかと、個人的には推測している。 現行の10・15モード測定は、ハイブリッド車の燃費を正しく示していないのではないだろうか。

 しかし、ハイブリッド車は減速時に失う運動エネルギーを発電に回して回生するという、通常の車には存在しないエネルギー変換が利用できるようになっているので、この点に関してはしっかり評価をする必要がある。 加速するために消費したエネルギーは車両の運動エネルギーとして蓄えられ、それが減速時に電力に変換される。 したがって、「電力→運動」「運動→電力」の変換効率が100%であれば運動エネルギーの増加に使われた、車両重量に比例するエネルギー消費は全て減速時に電力として戻ることになり、空気抵抗に抗するエネルギーだけを与えてやるだけでよくなる。 そうすると、燃費は通常のガソリン車に比べて圧倒的によくなるばかりか、車両重量にもあまり依存しないということになる。 現実にはエネルギー変換での損失があるので、そんな理想的な状態にはならないが、ハイブリッド車の燃費のよさは単なるカタログ値だけのものではないのは事実のようだ。 また、ハイブリッド車はバッテリーの搭載により大幅に車重が増加しているが、電力回生の効果によって重量増加の悪影響を抑えることに成功し、燃費改善を実現しているのではないかと思う。 というわけで、ハイブリッド車はちゃんと意味のある省燃費技術であるということが(たとえカタログ燃費に意味がないとしても)理解できた。 おそらく、燃費向上に一番寄与しているのは、電力回生ではないかと推測している。 今さらそんなことをと言われるかもしれないが、実はまじめに考える前は「ハイブリッド車はどうせ重くなるからダメだろう」「あんな重い車種をさらにハイブリッドにしても」と考えていたのである。

7. では電気自動車は

 さらに、最近は電気自動車(EV)が環境によい、あるいはエネルギーコストが低いと言われているがこれも本当であろうか? 電力も、そもそもは発電所でタービンを回して作るのであるが、原子力発電などを持ち出すと比較が極めて困難になってしまうので、ここでは元のエネルギー源が同じである石油火力発電のことのみを考えることにする。 発電所のタービンは熱エネルギー→運動エネルギー→電気エネルギーという変換を行うが、最初の運動エネルギーへの変換の過程では、自動車のエンジンと同じように熱効率の制限を受ける。 しかし、大型で発電に特化した施設を利用することができるため、日本では火力発電所の熱効率は40%以上に達しているという。 となると、車のエンジンの25〜30%に比べると3〜5割は効率よくエネルギー変換されていることになる。 また、ハイブリッド車と同様、EVは減速時の電力回生ができるのも有利になるはずであるし、車両の発動機・駆動系はガソリンエンジンより単純になるので、トータルの損失も少なくなりそうである。 一方で、送電ロス、蓄電池の効率、ハイブリッド車以上に必要になる蓄電池の重量増による燃費の悪化などは決して無視できないファクターであろう。 でもこう考えていくと、なんとなくトータルでEVはガソリンエンジン車(ハイブリッド車含む)よりはエネルギー利用効率が高くなりそうな気がする。 たぶんトータルで考えたエネルギー効率は数10%の向上で、おそらく2倍にはならないと思うが、定量的な議論は誰か専門家にお任せしたい。

 しかし、最後にちょっとだけ疑問を挟ませてもらう。 EVにするとエネルギーコストも大幅に(何分の一かに)安くなるという論調を最近聞くようになった。 TV番組で1/7という解説を見たことがあるし、某自動車評論家は雑誌に1/10と書いていた。 しかし、これには何か罠があるのではないだろうか。 なぜなら、車の運動エネルギーは結局は同じ石油の燃焼熱から変換されたエネルギーであるわけだし、たとえ効率がよかったとしても、せいぜい倍にはならない程度ではないかと思うからである。 おそらく、深夜電力の政策的な低価格、ガソリンという油種に特別に課せられている高額な課税、あるいは現在のガソリンスタンドの小売マージンあたりが、EVを一見ローコストに見せかける仕掛けになっているのではないかと勘ぐっている。 単純に「電気だからローコスト」「電気だから排ガスがなくてクリーン」といった考え方は、間違っている。 エネルギー変換を行う場所と、エネルギーの伝送・蓄積を行う方法(と効率)が変わっているだけなのである。

 感覚的にも、車の数10psという出力は数10kWのエネルギー消費に相当し、エアコンの1桁上である。 夏場のエアコンの電気代が月何千円もかかるというのに、その10倍の電力を必要とするEVの電気代が(運転時間は短いとはいえ)ガソリンの1/10になると思えるだろうか。 ちょっと変だと思わなくてはならない。 もしEVが普及して、誰もが深夜に車の充電を行うようになれば深夜電力の価格は上がるだろう。 また、自動車の運行コストが安くなってエネルギー使用量が増加するのは環境問題上も好ましくないので、政策的にも課税などによりコストは現在と変わらなく設定しなおされることであろう。

8. 結局

 ガソリンエンジン車に関しては、原理的にも実際にも、軽い車が圧倒的に燃費上有利だということである。 車を買うときに車重をチェックする人が少ないのは残念である。 どんなに燃費に気をつけた運転をしても、重い車は確実に燃費が悪い。

 車のカタログを見ていれば明白だが、流行のミニバンやRV車は大変重い。 同じ車種でも、グレードが高くなりエンジンが大きくなると、なぜか重量もどんどん重くなる。 必要があったり好みで乗っている人は別にいいのだが、重たい車を買って、燃費が悪いだのガソリン高騰が家計を圧迫してるだの税率を下げろだの文句を言っている人は正直いただけない。 環境環境と声高に叫ぶのであれば、ワンサイズ下の車を選ぶのが最も確実に貢献できる方法だと思うが、自動車メーカーに遠慮しているのか、マスコミからも政治からもそのような声が出てこないのは残念である。

 燃費については、車の問題だけでなく、個人個人の運転方法や運転環境などが大きな影響を与えるし、カタログ値と実燃費が違うという問題があり、なかなか結論の出にくいテーマになってしまう。 しかし、なんと言っても「車両重量」だけは物理法則が保証する最大の要因であることは、ぜひ覚えておいていただきたい、と重ねて最後に言っておきたい。


追記:両角岳彦「ハイブリッドカーは本当にエコなのか?」(宝島社新書)

 2009年9月出版のこの本ですが、ハイブリッドカーに限らず、車の燃費や「エコ」に関して広く書かれていておすすめです。 燃費の計測に際し等価慣性重量の設定が段階別になっていて、車両重量をこの幅の上限に合わせこんでいるとか、速度許容誤差ギリギリで運転するなどの「受験テクニック」は初めて知りました。 また、CVTは伝達効率が70〜90%にしかならないことも書かれていて、燃費測定の場合には無段変速の利点を使うことで燃費を稼いでいるらしいです。 他にもいろいろ勉強になることが多かったです。


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