いわゆる「宇宙戦闘機」の考察 ――何が宇宙戦闘機なのか?
2000/11/30作成

 

はじめに

 宇宙戦闘機の損得を考えてみようと思って重要な問題に気がついた。それは何が宇宙戦闘機であるか?ということだ。これが定義されていなければ宇宙戦闘機の損得を考察するどころの話ではない。とりあえず先にこれだけを考えてみようと思う。


サイロン帝国の宇宙戦闘機って戦闘機なの?

 宇宙戦闘機というと宇宙戦艦ヤマトのコスモタイガーとかが有名だが、ここではもっとも典型的な例として宇宙空母ギャラクティカに登場する人類側およびサイロン帝国の宇宙戦闘機で考えてみる。宇宙空母ギャラクティカでは邪悪なサイロン帝国が和平を結ぶと見せかけ、人類を奇襲してその惑星の大半を滅ぼす――ちなみにこの状況設定は日本海軍の真珠湾攻撃がモデルだそうです――ところから話がはじまる。サイロン帝国はタンカー共々戦闘機を長駆進出させ、奇襲攻撃を成功させる。人類の植民惑星にはそれぞれ宇宙空母があり、これが安全保障の要だったのだが、奇襲攻撃で反撃できないままにサイロンの宇宙戦闘機により撃破される。
 宇宙空母ギャラクティカに限らず、宇宙戦闘機が登場する映画などでの運用形式では、このような相手の戦闘用宇宙船を攻撃することが多い。だが冷静に考えてみよう。対艦攻撃を行うのは攻撃機であって戦闘機では無いのではないか?そうなるとサイロン帝国の宇宙戦闘機は、じつは宇宙攻撃機と呼ばれるべきではないだろうか? この辺はどうなのだろう?



戦闘機と定義すれば戦闘機ではあるが

 すでに宇宙戦艦についての考察で、それを運用する社会が然るべき規範に従いそれを宇宙戦艦と定義すれば、それは宇宙戦艦であるということを記した。宇宙戦闘機もまた宇宙戦艦同様に宇宙船の一種であるから、それが対艦攻撃ばかり行っていたとしても、その社会がそれは宇宙戦闘機だと定義すれば、なるほどそれは宇宙戦闘機と呼べるだろう。だからサイロン帝国や12惑星連合などが「これこれは宇宙戦闘機」と定義するなら、それらを宇宙戦闘機と称することには問題はない。
 確かにこれはもちろんそうなのであるが、ここに一つ重要な事実がある。それはサイロン帝国も宇宙空母ギャラクティカも宇宙戦闘機は持っているが、宇宙攻撃機なんて物は登場しないことである。そしてじっさい宇宙空母ギャラクティカの世界では宇宙戦闘機は人類側もサイロン側も対艦攻撃ばかりでなく、戦闘機と戦闘機の闘いも行ってしまうのだ。そういう意味では戦闘攻撃機的な存在と言えるかもしれない。


どうして戦闘攻撃機しか登場しないのか?

 第二次世界大戦あたりの時代。日本海軍には99式艦上爆撃機から彗星艦上爆撃機という艦上爆撃機の系譜と、九七式艦上攻撃機から天山艦上攻撃機という艦上攻撃機の二つの系統があった。前者は爆撃機、後者は水平爆撃も行うが基本は魚雷を投下する攻撃機である。この二つの系統はそれぞれにエンジン出力も増大し、性能の向上により航空機としての差があまり認められなくなった。そこで艦上爆撃機と艦上攻撃機を一つの機体に統合しようという構想が生まれ、艦上攻撃機流星となる――簡単にこう書いたが、実際の流星開発の経緯はもっと複雑でこれほどすっきりはしていない。参考までに当時の艦上戦闘機、艦上爆撃機、艦上攻撃機のエンジン出力と全備重量、爆弾・魚雷の搭載量を比較すると、


名前 全備重量(kg) エンジン出力(hp) 爆弾・魚雷搭載量
零式艦上戦闘機(A6M2) 2410 940 爆弾60kg×2
97式艦上攻撃機(B5N2) 3800 1000 爆弾800kg or 魚雷×1
艦上攻撃機天山(B6N2) 5200 1850 爆弾800kg or 魚雷×1
99式艦上爆撃機(D3A2) 3800 1300 爆弾250kg×1
艦上爆撃機彗星(D4Y3) 4540 1560 爆弾500kg×1
艦上攻撃機流星(B7A2) 5700 1820 爆弾800kg or 魚雷×1


 日本海軍の場合、艦上戦闘機は零式艦上戦闘機しかなかったに等しい――烈風とかいう益体もない物が試作された程度――ので比較のしようがないが、艦上攻撃機や艦上爆撃機に関しては一つの傾向を見て取れるだろう。最初から魚雷を搭載することを前提としている艦上攻撃機は、この表だけでは性能の向上はわからないが、艦上爆撃機の場合、エンジン出力と全備重量の増大に伴い、搭載爆弾量が着実に増大しているのがわかる。99式艦上爆撃機では250キロ爆弾しか搭載できなかった物が、艦攻と艦爆を統合した流星では800キロまでの爆弾が搭載できるようになっている。こうしたことを可能にしたのは、表を見てもわかるように強大なエンジン出力のおかげである。
 艦上攻撃機や艦上爆撃機についてはエンジン出力の増大が、両者の性能向上と二つの機種を攻撃機として統合することを可能にした。では、戦闘機に関してエンジン出力の増大はどのような影響を及ぼしたか? ここで大戦初期の零式艦上戦闘機と戦争末期のめぼしい戦闘機を比較してみる。いわゆる戦闘爆撃機的な運用も為されてきた機体だ。


名前 全備重量(kg) エンジン出力(hp) 爆弾・魚雷搭載量
零式艦上戦闘機(A6M2) 2410 940 爆弾60kg×2
零式艦上戦闘機(A6M7) 3000 1340 爆弾250kg×1
局地戦闘機紫電改(N1K2) 4000 2000 爆弾250kg×2
Fw190D 4270 1770 爆弾500kg×1
P−51D 4580 1490 爆弾227kg×2
P−47D 6580 2430 爆弾1130kg×1
F6F−5 5670 2100 爆弾合計900kg

 


 戦闘機の場合、何を優先するかなど設計思想の違いもあるので、一概には論じられないものの、それでも末期の戦闘機は少ない物でも250キロ爆弾、多いものになると1トン以上の爆弾を搭載できたことがわかる。250キロ爆弾といえば99式艦上爆撃機の爆弾搭載量に等しい。この表には書いていないが、これらの戦闘機は速力も大戦当初のそれと比べて著しく向上している。エンジン馬力さえあれば、爆弾抱えて高速で戦闘機としての飛行もできるというわけだ。
 この傾向はレシプロエンジンからジェットエンジンになると、より一層顕著になる、


名前 全備重量(kg) エンジン推力(kg) 最大兵装搭載量
B−29 56250 2200hp×4 爆弾9000kg
Me262A−1a 6396 900×2 爆弾500kg
F−15E 36740 13000×2 11100kg
Mig−21bis 7960 7500 爆弾500kg×2


 この表にはB−29なんてものが赤字で出ているが、これはもちろんジェット機でも戦闘機でもなく、レシプロ式の爆撃機である。これは第二次世界大戦レベルでの爆弾搭載量から見た一つの基準として例示した物だ。最初期のジェット戦闘機であるMe262もその下にあるが、これもどちらかといえば参考資料だろう。
 この表でわかるのはB−29よりもずっと小型のF−15が、B−29以上の兵装を搭載できるということだ。兵装と書いているのは、昨今のジェット機ともなると爆弾ばかりでなく、ミサイルやロケット弾など兵装の選択肢が広いため、このような曖昧な記述になる。注意して欲しいのはB−29は爆撃機以外の何物でもなく、そしてF−15は戦闘機であるということだ。ジェットエンジンという高性能なパワーユニットは戦闘機にさえ、かつての大型爆撃機以上の兵装搭載量を許してしまうのである。


結論:もしも宇宙機のエンジンが十分に強力であったとするならば、宇宙戦闘機は戦闘機として必要な運動性能などを持ちながら、なおかつ対艦攻撃能力も兼ね備えることができる。映画などに登場する宇宙戦闘機は地上からそのまま軌道上に上がってしまう――推進剤はどうしたんだという突っ込みは\(^_\)ソンナハナシハ(/_^)/コッチヘオイトイテ ――という芸当をやってのける。スペースシャトルのあの巨大さを考える時、これらの宇宙戦闘機のエンジンがいかに強力なパワーをもっているかが想像できよう。
 そういうわけで、エンジンが十分に強力でさえあれば、戦闘機が対艦攻撃を行ってもなんら不思議は無いという結論が導かれる。
 だからSFにおいて無敵の宇宙戦闘機が大手を振ってまかり通る……とは断言できないのである。それについては次に検証する。