ブラックホールの計算−−時間の遅れ


2003/01/31作成
2003/02/01完成

 ブラックホールの周辺での時間の遅れを計算するスクリプトだが、それには幾つか考えねければならない前提がある。何より重要なのは、「どこの誰からみて時間が遅れているか?」という事だ。ブラックホールのはるかかなたにいる人はもちろん、シュバルツシルト半径から寸止めくらいの位置にいる人であっても、自分の周囲の時間が遅れているという自覚はない。宇宙に絶対時間はなく−−少なくとも絶対時間があるという確たる証拠は認められていない−−時間とはそれぞれに異なる。
 とはいえ言葉の定義からいって、「時間の遅れ」というからには、何か二つの時間を比較する必要があるのは明らか。この場合は、シュバルツシルト半径から然るべき距離にいる人の時間を、ブラックホールから無限遠にいる人の時間で比較するという話になる。正確にはブラックホールの重力場の影響を受けないくらい遠くにいる静止した人の時間との比較となる。
 その計算をする前に、ブラックホールの質量とその時のシュバルツシルト半径を求めるスクリプトを作ってみた。太陽で概ね3キロほどであるのがわかる。デフォルトの値を太陽質量の1.9倍にしているのは、だいたいこれくらいの質量の恒星が自然にブラックホールになると言われているからだ。もっともこの辺はブラックホールが生成するプロセスともかかわってくるが。

ブラックホールの質量は太陽の

シュバルツシルト半径


 ところでブラックホール周辺での時間の遅れは、ブラックホールの質量と、ブラックホールからの距離だけで決まるわけではない。確かにこの二つは主要な要素である。しかし、対象がどういう運動状態にあるかによっても時間の遅れは影響を受ける。まずブラックホールから距離Xの地点で静止している物体の経過時間を計算するとこうなる。

ブラックホールの質量は太陽の

ブラックホールからの距離X

無限遠での経過時間(T0)時間

  
シュバルツシルト半径

距離Xでの経過時間(T)時間

時間の遅れの比率(T0/T)


 このようにブラックホールから距離Xで静止している物体の経過時間は計算できる。しかし、よく考えるとこれはけっこう無茶な想定でもある。ブラックホールから距離Xの地点でどうやって静止するんだ?
 まぁ、ブラックホールから距離Xで静止する方法はともかくとして、普通はこういう場合、対象はブラックホールに向かって自由落下する。日常生活を送ってブラックホールに自由落下することは滅多にないはずだが、万が一にもブラックホールと遭遇した場合には、気がついたときにはすでに自由落下状態にあるはずだ。主観的な経過時間は変わらないので、自由落下している人にはあまり救いにはならないが、計算上は、静止状態よりも時間の経過は遅くなる。残された家族や友人・知人には多少のなぐさめにはなるだろう。

ブラックホールの質量は太陽の

ブラックホールからの距離X

無限遠での経過時間(T0)時間

  
シュバルツシルト半径

距離Xでの経過時間(T)時間

時間の遅れの比率(T0/T)


 上のスクリプトは、自由落下状態の場合の距離・質量と時間の遅れの関係である。同じパラメーターであっても時間の遅れの割合が静止よりも大きくなることがわかるだろう。

ブラックホールの質量は太陽の

ブラックホールからの距離X

無限遠での経過時間(T0)時間

  
シュバルツシルト半径

距離Xでの経過時間(T)時間

時間の遅れの比率(T0/T)


 最後はブラックホールの回りを円運動している場合。たぶんSFなどではこういう状況の計算を必要とされる事が多いような気がする。なおこのJavaScriptはエラー処理のような面倒なことはしていないので、数字を入力するとそれなりに計算結果は出力される。だがその数字の意味や、そもそも意味があるかどうかは、各人の判断に委ねている。
 たとえばこのブラックホール周辺の円運動なのだが、最終安定円軌道とよばれるものがある。これはシュバルツシルト半径の3倍で、これ以下では粒子は円軌道を取ることはできない。これは相対論的な効果のため、重力に釣り合うように運動エネルギーを増大させることができないためである。このように数値の意味を理解しないと、これらの計算もほとんど無意味に終わるだろう。

 参考文献  『ブラックホールの世界』 福江純 著(恒星社)