旧約聖書略解77章・目次/旧約聖書とは/モーセ五書J.E.P.D資料旧約聖書成立史


 

旧約聖書とは

 


旧約聖書は、一冊の本ではない。

下記の39書の正典と、外典(続編、カトリックのみ採用)からなっていて、「旧約全書」と考えたほうがよい。

旧約聖書は、歴史的順序で書かれていない。
例えばモーセ五書は、補囚帰還後かなり遅く書かれ、しかも創世記1章「天地創造」は、モーセ五書編集の一番最後に書かれたとも言われている。(別項、
旧約聖書成立史表参照)
原典として、BC280年頃エジプトのアレキサンドリアで、
70人訳ギリシャ語聖書が成立しているが、ヘブライ語の正典として確立した時期は意外に遅く、西暦90頃、ローマ軍のエルサレム神殿破壊後のユダヤ人がヤムニの宗教会議で、ユダヤ教再建のため、先ず確立したとされている。

旧約聖書は、キリスト教のみの聖典ではない。(従って旧約という表現は、差別的であるので、ヘブライ語聖書と呼ぶ人もいる。これに対して、ギリシャ語聖書と呼ぶときには、70人訳ギリシャ語旧約や新約聖書を意味することがある)

旧約+タムルードがユダヤ教

旧約+新約がキリスト教

旧約+コーランがイスラム教と考えてよい。

 

39の正典は、ユダヤ教・キリスト教各教団により異同があるが、ヘブライ語聖書では、下記の四つ(或いは三つ。この場合は、律法―トーラー、預言―ナービーム、諸書―ケスビーム)に分類される。(このほか新共同訳聖書では、続編として外典が集録されている)

 

律法の書モーセ5(聖書の基本で、モーセ6書という時にはヨシュア記が入る)
創世記
出エジプト記レビ記民数記申命記

前の預言者(歴史書ともいう)
ヨシュア記士師記サムエル記・上・下列王記・上・下

後の預言者
イザヤ書エレミヤ書エゼキエル書(以上3を大預言書ともいう)
12小預言者ホセア書ヨエル書アモス書オバデヤ書ヨナ書ミカ書ナホム書ハバクク書ゼファニヤ書ハガイ書ゼカリヤ書マラキ書。(ヨナ書は、預言書というより、知恵文学として諸書に属す性質のもの)

諸書
ルツ記歴代志上・下エズラ記、ネヘミヤ記エステル記ヨブ記詩編箴言コヘレトの言葉(伝道の書)、雅歌哀歌ダニエル書

 

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外典(続編)―カトリック教会は第二正典とする
トビト記ユディト記エステル記(ギリシャ語)、マカバイ記Tマカバイ記U知恵の書シラ (集会の書)
バルク書エレミヤの手紙ダニエル書補遺(アザルヤの祈り、スザンナ、ベルと龍)、エズラ記(ギリシャ語)、エズラ記(ラテン語)、マナセの祈り

 

なお、カトリック教会では、諸書という分類はなく、歴史書ルツ記、歴代志上・下、エズラ記、ネヘミヤ記、エステル記、トビト記、ユディト記、マカバイ記T・Uを加え預言書にバルク書を加え、ヨブ記、詩篇、箴言、コヘレトの言葉、雅歌、知恵の書、シラ書を教訓書と呼ぶことがある。

          


 

モーセ五書律法の書ともいい創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記をいう)

 

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創世記、出エジプト記、民数記、レビ記、申命記をモーセ五書といい、ユダヤ教では、律法の書(トーラー)として、聖書中の聖書、最も重要かつ基本的な正典とされている。それに続く、ヨシュア記、士師記などは、預言書や諸書として取り扱われている。

このように、モーセ五書は、基本的な地位を占めているが、その成立は預言書や歴史書よりかなり新しく、補囚期以降、第二神殿再建後最終編集が終わったとされている(B350400頃、旧約成立史表参照)。総督ネヘミヤの書記官(祭司)エズラの宗教改革時公布(ネヘミヤ記8章)し、エズラが読み上げたのが、このモーセ五書の元ではないかと言われている(ネヘミヤ書9637はモーセ五書の要約)。

ペルシャの属州となったイスラエルが民族の独立性を維持するため、宗教祭祀共同体を再建理念とした祭司たちが、伝承として保存していたJED資料を基本にして、P資料により大幅に改定加筆編集し、しかもモーセが書いた律法として権威付けたのがこのモーセ五書。

 

そのモーセ五書の中心が、シナイ契約――エジプトの奴隷からの解放の約束、誓約がシナイ契約
1)ヤーウェの神のみを神とし、他の者に(王にも)屈しない自律/立の誇りと自負。
2)部族連合共同体を、王権無しに維持する自治ルールである律法の公布と遵守。

 

またモーゼ五書で特徴的なのは、預言書・歴史書や詩編と異なり、ダビテ(政治)的メシヤ思想が全くないこと(王制については、創生17616。創生3511。申命記171418にみられるが)。また新約聖書に見られる、終末復活思想などは見当らない(旧約後期のダニエル書やマカバイ記Uにその萌芽は出現するが)。

 

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創世記――JEP三資料からなる
前半(111章)が、天地創造から、アダムの楽園追放−カインのアベル殺し−洪水による粛清(ノアとの契約)で、創造神話。

後半(1250章)が、族長物語として、アブラハムのカナンへの旅(甥ロト、妻サラ同伴)での神との出会い、ソドム滅亡物語、イサクの奉献など。イサク、ヤコブ物語、ヨセフ物語と続き、一族のエジプトへの下向で終わる。

特徴−天地創造は、世界と人間の祝福。失楽園は、神への背きのプロローグから始まり、カナン( 将来侵入予定) の地での出来事を通じて、各部族(アブラハム、イサク、ヤコブ)の神の、選びと祝福、未来(子孫繁栄と嗣業)への希望と保証の予告がある。
 土地取得と子孫(12部族) 繁栄の契約( ノア、アブラハム、ヤコブとの契約)と各部族の出自の同一を述べ、全イスラエル部族の連合団結を基礎付ける。

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出エジプト記――JEPD四資料からなる。
モーセの召命とエジプト脱出。過ぎ越しの出来事。紅海を渡り、荒れ野に。シナイ契約、安息日規定、カナン進軍の準備(幕屋や祭具)など。エジプトの奴隷から解放されたイスラエルが、シナイ契約、律法授与により、自律/立の民に旅立つ物語。


特徴−出エジプト、荒れ野における神の選び、栄光の顕現、シナイ契約のクライマックスなど、旅程のなかでの事件を通じて神の意志の明確化と信仰共同体に脱皮が物語られ、そして、神からの掟としての律法と、王権(軍隊や警察力)によらず、それを維持する装置としての幕屋、祭儀(3大祝日、儀式)祭司の職務規定が発布される。
肥沃文明からの脱出の困難性:王権の支配の強さと民の奴隷根性、モーセの粘り−フアラオとの交渉10回も−。
奴隷解放の出来事を歴史として民族的に記憶し、伝統化する過ぎ越しの儀式。
神と民との相務契約:神の外、人の上に人を作らず。自由と自律の部族共同体を維持する律法、十戒。国家権力によらない神中心の祭祀共同体理念。
偶像崇拝の誘惑−金の子牛事件。幕屋の神殿化(祭司グループ、P伝承者の思想挿入) に見られる、神殿中心の祭祀装置など。

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レビ記 ――P資料のみ
国家権力に寄らず、祭祀宗教による秩序維持の装置として、祭儀と法制の整備、聖と汚れのガイドラインを示し、祭司の権威の確立を行う。レビ記と言いながら、レビ族は2532で僅かに記述され、アロン系レビ族の祭儀独占を主張し、大祭司の世襲化を合理化する意図が見える。このレビ記の記者が、おそらくモーセ五書を最終的に加筆編集したと思われる(前5世紀半ば)。

特徴−異教徒の中で信仰保持のため、聖なる存在とての儀礼的遮断の強調。

祭儀の内容(律法違反時の贖い、汚れの除去など、罪からの清めの方法について)と神聖法集(生活と信仰の具体化−契約履行時の祝福、不履行の時の呪いと惨状などの26章は、申命記28章と酷似)。

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民数記―――JEPDの四資料よりなる
荒れ野でのカナン侵入準備、訓練と出来事――人口調査、出発準備、諸規定の追加、民の不満と反抗(渇き、飢餓)、指導権争い、祭司間の権威、部族間の優位性などの争いなどを克服して共同体の秩序が完成します。

バラムの託宣、外敵の抵抗。嗣業の土地、聖戦、民族浄化(ペオル事件)。聖職者(アロン系)の権威の確立とレビ族生活保証など。

特徴――誓約共同体の内憂外患の具体例と克服がしるされ、神の臨在とモーセのような優れた指導者がいたイスラエルの蜜月時代でも、荒れ野での浄化作用と信仰共同体の成長に40年一世代かかることが判ります。

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申命記―――JEPDの四資料
モーセの告別説教とされる、ヤーウエ宗教の核心。
ヨシヤ王により発見されたとする律法の書(列王下2223章)は、紀元前7世紀エルサレムで著述された原申命記のことで、これを捕囚後祭司達が修正増補したのが、この申命記とされる。
エジプトの奴隷からの解放。自律/立の宗教。ヤーウエのみが支配者。
ヤーウエと契約すれば、自律/立、土地、自由を保証する。
「聞け、イスラエルよ。我等の神、主は唯一の主である」 64
荒れ野の意義「主は荒れ野で彼を見出し、獣の吠える不毛の地でこれを見つけ、これを囲い、いたわり、ご自分の瞳のように守られた」3210

神の選び−卑小だからイスラエルを選んだ。
祝福と呪い−徹底的な必賞必罰。神の愛−回心と許し。
契約の印としての律法。神を愛することが、律法を守ること――
偶像(異教)の誘惑排除、三大祝日(過越祭など)祭儀、弱者保護などの律法。モアブ契約(祝福と許し)。
後継者ヨシュアの任命、モーセの祝福、モーセの死と偶像化禁止−墓なし。

特徴−−五書の核心(律法の中心)ヤーウエ宗教の本質が全て盛り込まれている。今までの総括、復習。その集成が申命記。この律法を、モーセが神から貰ったとして権威付け、理念化絶対化している。
1)神の自由と人間の自律の共存。自律/立と神の臨在、「今日」共に生きる神。
2)神以外の尊崇拒否と偶像崇拝を排除。
 国家権力なし、王権も絶対視していない。平等人権意識(創世記の理念、人は神に似せて作られた。モーセの非神格化と、外国文化の拒否)。

3)弱者への配慮。貧弱だから、神の選び。など寄留者保護の福祉的な面。
4)他民族敵視と儀礼的遮断の強化、民族浄化主義、聖絶(皆殺し)の掟と二重基準倫理。
5)判り易く、守り易い。決められたことだけ、守ればよい、徹底的な因果応報的律法主義と人間性楽観主義。

 

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モーセについて
エジプトの奴隷であったイスラエル民族を救出し、シナイ契約を、神と行い、12部族を結集する律法を公布した、旧約最大の教祖。その教えがモーセ5書とも言える。
メシヤの原型、預言者。イエスの予表。
 神と語る。民を忍耐強く指導する。民の犠牲となる(カナンを見ることが出来ない)

これほどの人を、神の子と呼んでいない。また、墓もない。ここに偶像拒否のイスラエルの民の固い決意を見る。絶対視せず、相対化している。


 

J.E.D.P資料

モーセ五書の古典的四資料仮説によれば、五書はJ(ヤハウェ資料)、E(エロヒム資料)、D(申命記資料)、P(祭司資料)の四資料(層)から構成されている。(参考――聖書大辞典、教文館)。

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ヤハウィスト伝承――J資料
モーセ五書の編集の際に使用されたと想定されている仮説上の資料文書の一つ。
記事の冒頭に、ヤハウェという神名を一貫して使用していることから、このように名付けられている。
ヤハウィストは、創世記では、用語や文体、生き生きとした物語技法や神学的特徴などの点で、他の資料とは明確な違いが見られるので、容易に抽出することが出来る。
一般に、南ユダで筆を起こされたものと想定されているこの資料は、ソロモン王国時代の初期に執筆されたとみなすことが出来る。その理由は、同じ時代に活動していたダビテの家族物語(ダビテ台頭史)の作者と文体がある程度類似していること、またソロモンの死後の王国分裂を知らないようであること、更にダビテ大王国に併合された全ての諸国民とその祖先物語の言及し、彼らが全てヤハウェの支配下にあることを示そうとしていることなどである。
ヤハウィストは、王国の成立を機会に、伝承資料を収集し、位置づけ、構成を行ったが、それは人間創造から始まる自分の民の王国前史を記述し、ダビテ王家の正統化を計ろうとしたからにほかならない。そして最初の原初史の部分では、人間の罪と神の介入によって形成された人類の歴史を描きだし、更に族長たちの物語や出エジプトの物語の部分では、祖先たちの信頼と服従を要求する神の守護と真実を強調しているのである。
しかし、最近の研究では、ヤハウィストの存在を否定したり、ヤハウィストは、補囚期前後の申命記史家的伝承層(D資料)に近いのではないかという説もある。

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エロヒスト伝承――E資料
モーセ五書の編集の際に使用されたと想定されている仮説上の資料文書の一つ。
神名として普通名詞、エロヒムを出3章まで用いているので、このように名付けられた。
祭司文書(P資料)も部分的に同じ神名を使用しているが、E資料は物語の文体、用語、歴史神学などの点で、Pとは明確に異なっている。

成立の時代としては、申命記以前であることは確実であり、また預言を重要視していることや、ホセヤの歴史神学と類似していることから、前8世紀前半とされる。
成立場所は、一般的に北イスラエル王国と見なされ、南王国に対し北王国を神学的に擁護するための作成されたのであろう。事実、南のもの見なされる伝承資料は非常に少ない。
何れにせよ、E資料は断片的にしか保存されていない(イサクの奉献創世22章など)ので、確実な判断が難しいが、J資料(ダビテ王家の正統性を擁護)とは反対に、「王としてのヤハウェ」を主張している(民2321)ことに注目すべきであろう。


この「王としてのヤハウェ」思想は、王国成立以前の時代に由来するもので、E資料が行っているように、国家的・政治的な諸要素を引き合いに出すこと無しに、イスラエルを宗教的・精神的な(ヤハウェ直接支配の)誓約共同体として叙述することとよく一致するからである。

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申命記文書――D資料
D資料(申命記文書)は先ず独自の特色を持つモーセの第五書としての申命記をさすが、他の四書の中にも、J,E,Pの何れの資料にも属さない用語と思想を示す部分があり、申命記ないしは、申命記史書の精神に従う編集者(申命記史家)によって加えられたと考えられている。
ヨシヤ王により発見されたとする律法の書(列王下2223章)は、原申命記のことで、紀元前7世紀エルサレムで著述されたものされる。
なお、申命記史家は、申命記1章に始まり、ヨシュア記・士師記を経て、サムエル記に及び、列王記下25章の至る範囲に認められ、王制は神の恵みとして容認し、国家主義的傾向が強い。( 前記ヤハウィストと同一視する説もある)

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祭司資料――P資料
五書の資料文書の一つ。ヤハウィスト、エロヒスト、申命記的資料など、他の資料文書とは、用語や思想の点で明確に区別される。また定型化した文体を用い、祭祀国家としての思想化と理想化を高度に行った記述(儀礼的遮断と民族主義的傾向)をしている。創世11節から24節aの「天地創造」とレビ記がそうである。
祭司文書は、おそらくバビロン補囚のなかで、ユダの祭司たちのクループによって形成され始めたと思われるが、完成したのはバビロン補囚が終わった頃であり(前6〜5世紀)、更に後の時代に他の古い資料文書と結合され、モーセ五書の成立にいたる。
即ち、J・E・D・P各伝承資料などを祭司たちが第二神殿国家用に最終的に編集したのが、パッチワークとしてのモーセ五書である。


なお、祭司文書の編述の仕方に類似する著述方法で歴史記述したのが、歴代誌で、紀元前3世紀の所産とされる。この歴代誌家の著作として、歴代誌上下と、エズラ記・ネヘミヤ記がある。
歴代誌家は、申命記史家の歴史資料を用い、祭祀国家として、ユダヤ祭儀共同体の理想と信念を通じて歴史を解釈しなおし、新たな歴史書を編纂した。
なお、歴代誌家によるその資料の編述は杜撰であり、その疎漏の例は枚挙にいとま無い。 伝承された歴史を異様に歪曲し変造し、北イスラエル王国が存在したことを抹殺しようとしている。と聖書学者からは酷評されています。現代聖書講座(日本基督教団出版局発行)第2巻、138頁。


 

歴史書

列王記までは、J資料を元に申命記史家がバビロン捕囚中に編集、歴代誌・エズラ・ネヘミヤ記は、第二神殿時代祭司たちの編集といわれる。

 

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ヨシュア記―カナン征服記(前1413世紀頃、青銅器時代)
モーセの後継者ヨシュアが、イスラエル民族を指導して、ヨルダン川を渡り、エリコの戦いを経て、先住民を排除して約束の地カナンを征服して、占領した土地は12部族に公平に分配し、シケムで再契約する伝承。モーセ5書と、士師記をつなげる目的で、BC400ごろ最終編集されたとして、モーセ6書に入れる考えもある(マックッス・ウェヴァー)。
聖絶による残虐で誇大な戦果が、読者を困惑させるが、亡国の民、イスラエル民族の土地獲得の熱望として考えられる。

 

士師記―部族連合記(前12世紀〜11世紀、鉄器時代)
カナンの山地で、半農半牧羊で定住し始めたイスラエル部族の土地に、異民族が侵入してくる。その都度、ヤーウェ神から派遣された士師(審き司)を救助者として、部族連合軍を臨時編成し敵を撃退し、自衛します。
ペリシテの支配に抵抗する、巨人サムソンの悲恋物語などがあり、やがて部族連合は堕落して契約共同体としての求心力を失い、同胞相食む内戦を起こすまでに至ります。それは王がいないからだ、と申命記史家を書き添えます。

 

サムエル記上・下―王国の誕生と成立(前11世紀〜10世紀)
士師記時代の末期現れた預言者サムエルの指導のもとに、北部族名門出身のサウルが王に推戴されます。常備軍を持ち、敵に対抗する王の出現が待たれたのです。しかしサウルは、サムエルの支持を失い孤独のうちに、強敵ペリシテと戦い壮烈な 敗死を遂げます。
台頭しつつあった南部族ユダの出身のダビデが、サウルに代わりますが、その正統性を巡り南北両部族の間で争われます。南北内戦に勝利したダビデは、やがて南北統合王国の王に推戴されます。
優れた戦略家のダビデは宿敵ペリシテを駆逐し、エルサレムに神殿を誘致し首都とし、大イスラエル王国の基礎を築きます。預言者ナタンから、ダビデ契約として、王権の神授と王朝の永遠性を保証されます。アブラハム契約の成就です。
しかしダビデは、王位継承問題で失敗し、王子アブサロムの反乱で苦労します。ウリヤの妻バテシバとの不倫の酬いです。

 

列王記上・下―王国の黄金時代、南北分裂と滅亡(前10世紀〜前6世紀)
後継者指名に逡巡するダビデに、ソロモンの側近たちが宮廷クデターを起こして勝利します。知恵王と呼ばれる英明なソロモンは、中央集権を行いエジプト文化を導入し空前の繁栄をイスラエルにもたらしますが、北部族の反感から、没後再び南ユダ王国と北イスラエル王国に分裂します。
北イスラエルの王、ヤロブアムはベテルに神殿を築き、金の子牛を偶像神とします。サマリヤを首都とする北王国は、王朝交代が烈しく、背信の王権と対決する預言者エリヤ、救国の志士エリシャたちの活動も空しく、北の軍事大国アッシリヤに滅ぼされ、北の10部族は事実上壊滅します。ヤロブアムの偶像崇拝の罪の結果とします。
ダビデ王朝とエルサレム神殿を中心とする南ユダ王国は生き残りますが、アッシリヤ帝国と南の大国エジプトとの間で翻弄されます。ヨシヤ王は政治宗教改革を行いますが空しく、結局アッシリヤを駆逐した北の新興国バビロンに滅ぼされ、王侯貴族は捕囚としてバビロンに連れ去られます。
(王制を神の恵みとする申命記史家派は、ダビド王朝の復興を期待して列王記を閉じています)

 

歴代誌上・下―第一神殿時代史(イスラエル古代史の再解釈)
捕囚後、ペルシャ王国の属州となったイスラエルのエルサレムでユダヤ教教団を支配する神殿祭司たちは、申命記史家の編集した従来の歴史書に満足せず、祭司独自の歴史観で王国時代を第一神殿時代として再構成します。
ダビテ王が創始し、祭司たちが支えたエルサレム神殿は、歴代の王の悪行により、滅亡した。しかし今やペルシャのお蔭で、祭司とレビ人が担う第二神殿時代が来るという歴史観です。

 

エズラ・ネヘミヤ記―エルサレム教団共同体の発足(前6世紀〜4世紀のペルシャ時代)
ペルシャ王により、バビロン捕囚を解放されたイスラエルの指導達は、ペルシャの支配下にあるエルサレムに帰還します。官憲と周辺侵入民の妨害に苦労しながら荒廃した神殿を再建し、ペリシャ帝国の支配と援助のもとユダヤ教教団として結集し始めます。
祭司で書記官のエズラがユダヤ教の教義(律法)を公布し、ペルシャの長官として派遣されたネヘミヤがエルサレム城壁(ゲットー)を完成して民族浄化を強行し、エルサレム神殿を中心として結束を強めて、王朝に代わる祭祀共同体組織を完成させます。第二神殿時代が始まる物語です。

 

外典(続編)の歴史書

マカバイ記T―マカバイ兄弟戦記(前2世紀のギリシャ時代、BC175134
ペルシャ王国に代わって、シリヤ王国(シリヤのセレコウス朝)に支配されたイスラエルは、アンティオコス4世エピファネス王のヘレニズム化に抵抗してハスモン家のマカバイ兄弟をリーダとして蜂起します。シリヤ軍とその支援をうけたユダヤ人ヘレニストとの内戦に勝利し、ハスモン王朝成立までの、マカバイ一家の戦記です。
ダビデ家、アロン家出身でないマカバイ家が、王位と大祭司職を独占するのは困難で、その正統化のため、功績と篤信ぶりをPRしていています。

 


 

3大預言書

イザヤ書、エレミヤ書、エゼキエル書をいいます。

 

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イザヤ書―イザヤ・グループの預言を申命記史家的に編集した文書で、下記の3時代に分かれる。キーワードは「シオン」。

 

第一イザヤ書(1〜39章)―覇権国家の狭間で(BC740530
北イスラエルと南ユダ両国は、北の軍事帝国アッシリヤと南の大国エッジプトとの覇権争いの中にあって、王国存亡の危機を迎えます。南ユダ王国の預言者イザヤは、いかなる軍事同盟も反対します。この両大国の狭間で中立を維持し、あくまでも非武装、非戦の主張を貫き行動します。王国の堕落を批判し、周辺諸国民を審判し、ユダ王国のみならず全世界の正義と平和を希求します。
北イスラエルが滅亡した、この激動と危機の時代に、イザヤは徒に右往左往することなく、メシヤの理想像を提示し、新しい社会の統治理念―非権力的理想境を預言します。最後は、列王記との平行記事「アッシリヤ軍の包囲と退去の奇蹟物語」があり、バビロン捕囚の予告があって終ります。

第二イザヤ書4055章)―帰国と挫折(BC546539
ペルシャ王キュロスの解放宣言を受けて、バビロンの捕囚民の第一次帰還グループは、解放と帰還の喜びを高らかに謳い、勇んで帰国します。しかし、待ち受けていたのは苦難です。現地民とペルシャ官憲の反対によって、帰還グループのリーダは殺されて、神殿とダビデ王朝再建は挫折します。(この犠牲死したリーダは「苦難の僕」として記され、イエス・キリストの原型とされます。またこの第一次帰還を指導した無名の預言者を第二イザヤと呼びます。)
しかし、この「苦難の僕」の犠牲死により、帰還民は壊滅を免れ、エルサレムを中心に定着する道が開かれます。

 

第三イザヤ書5666章)―挫折と再生の希望(BC500頃)
第二イザヤの弟子たちが、王朝再興の挫折と幻滅を超えて、正義と福祉を実現し究極の平和国家の創造を語る、激励と希望の言葉です。王権や神殿祭儀に依存せず、第一イザヤの理想、第二イザヤの「苦難の僕」の遺志を受け継ぎ、非権力的平和境(神の国)が約束されます。
黙示録的な最後は、終末論的特徴を持ち、神の霊の働きが強調されていますが、エゼキエルの示した教団国家とは違う理想を提示し、この理念はイエスに引き継がれ(ルカ4・18)、現代に生き続けています。

 

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エレミヤ書―滅亡する南ユダ王国と共に(BC626583?)
南ユダ王国の末期、召命を受けた若者エレミヤが、支持したヨシヤ王の申命記改革の挫折と、転落する王国のなかで預言し、裏切りと迫害の苦悩を告白します。
イザヤと違い神殿やダビデ王朝に望みをおかず、親バビロン派のエレミヤは、対立する政敵との孤立無援の戦いの中で神と対話し、エルサレムの滅亡と捕囚を預言し、「新しい契約」を見いだすまでに至ります。
最後は、売国奴視されながらも、王国の滅亡に立会い、バビロンの招聘を断り亡国の民と運命を共にします。国家や教団の幻影に惑わされず、自由人として悩みながら、神に捕らえれた人エレミヤの長い受難記です。

 

エゼキエル書―神殿国家構想(BC592539
第一次捕囚民の一人として、バビロンに行った祭司エゼキエルは、エルサレム神殿を去り捕囚の地に顕現した神の啓示を受けて、故国の堕落を告発し、エルサレム神殿は抜け殻に過ぎないこと、そして捕囚からの解放を「第二の出エジプト」と、神学的に意味付けします。
やがてその王国滅亡の知らせで民は絶望しますが、「枯れた骨」になった捕囚民こそ、主を知り、イスラエルの再生の担い手であると激励します。
神殿と王朝と嗣業の土地を失った捕囚民に、エゼキエルは王権に頼らず、祭司と神殿を中心とする神殿国家の壮大な青写真を画き、イスラエル再建の希望を指針します。典型的な
祭司資料です

 


 

小預言書

(12の預言書をいいますが、独断でヨナ書は除いて知恵文学に、ダニエル書を預言書に入れてみます)

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(北イスラエル王国時代、前8世紀)

アモス書―繁栄社会の告発
北イスラエルはヤロブアム2世の時代、繁栄から取り残された人々のために、テコアの牧者アモスは、権力者(王、貴族、祭司たち)と富者の堕落、社会的不正義を告発し、神の審判を告知して王家の滅亡を預言し、危険人物として南ユダ王国に追放されます。記述預言書では一番最初。

 

ホセヤ書―神の愛の苦闘
北イスラエル王国は、アッシリヤの侵略の前に風前の灯火です。預言者ホセヤは姦淫の妻を愛せよ、という神の命ずるままに、裏切りと背信の国、北イスラエルを受け入れ、運命を共にします。姦淫のイスラエルを見捨てるか、愛するか。神の烈しい逡巡と苦悩が語られていますが、それは、ホセヤの苦闘でもあったのです。

 

(南ユダ王国末期、前7世紀)

ミカ書―神殿の否定(南ユダ王国の審判)
イザヤと同時代の預言者ミカは、アモス以上に厳しく南ユダ王国の堕落を審判し、エルサレム神殿の荒廃とメシヤを預言し、権力と権威に挑戦します。

ゼファニヤ書―残りの者が再生(ヨシア改革前夜)
北イスラエル滅亡後、アッシリヤの属国として異教化された南ユダ王国で、神の烈しい怒りと審きを告知し、残りの者に再生の希望が託されます。

ナホム書―アッシリヤ滅亡の嘲笑歌(ヨシア王後期)
流石の軍事大国アッシリヤも遂に新興バビロンに滅ぼされます。ニネベ陥落の吉報を「良い知らせ」として、国中が沸き立ちます。ここの「良い知らせ」は、福音として、ロマ書1015で使われる。

ハバクク書―強国の横暴(ヨアキム王時代)
ユダ王国が滅亡に向う時、祭司預言者ハバククは、解放者と期待された新しい支配者バビロンの横暴を訴えています。バビロン名は隠されています。

 

(ペルシャ時代、前6世紀〜4世紀)

ハガイ書―神殿建設の再開
バビロン捕囚からの帰還第一陣(第二イザヤ)が失敗した神殿再建を、預言者ハガイが呼びかけ、神殿の定礎が置かれ工事が始まります。ゼルバベルを王として指名する神託をうけます。このダビデ王家の再興宣言でハガイ書は突如終っています。続きは第一ゼカリヤ書です。

ゼカリヤ書―ダビデ王朝復興ならず  
第一ゼカリヤ書(1章〜7章)
―ハガイと同時期の預言者ゼカリヤは、八つの黙示的な幻により、ゼルバベルの戴冠式を行いますが、又もやゼルバベルの失脚が暗示されます。神殿の再建に、シオン再興の望みを託します。ペルシャの検閲をおそれ、ゼカリヤ書は非常に晦渋で黙示的です。
第二ゼカリヤ書(8章〜14章)―アレキサンドロ大帝の東征に、イザヤ・グループは、メシヤの到来、シオンの再興を期待しますが、やがて裏切られてヘレニズム国家の支配のもと、ダビデ王朝再興の望みは断たれ絶望のうちに、終末的な主の日の到来に希望を托します。

 

マラキ書―神殿は完成したが
ようやく第二神殿が完成しましたが、祭儀をつかさどる祭司の堕落を告発し、レビ契約の違反、ソフトともいうべき律法と神殿祭儀の欠如を指摘します。主の審きが来る前に、エリヤのような預言者を派遣すると言います。エズラ・ネヘミヤ改革直前の状況です。

ヨエル書―国難と神殿祭儀
飛蝗襲来や主権侵犯の危機に、教団は断食と聖会、すなわち回心の神殿祭儀を行い、神の憐れみよる救いと復讐を願います。教団あげて回心の祭儀をおこない困難に対応すれば、主の慈しみにより、神の霊が降臨し、諸国民の審きが行われて、ユダの救いが実現します。

オバデヤ書―エドムへの近親憎悪
エソウを祖先とするエドムは兄弟国として、近隣諸国のなかでは最も深い関係にありましたが、その裏切りに対する烈しい憎悪が語られています。

 

(ギリシャ時代、前4世紀〜2世紀)

ダニエル書―抵抗と希望の黙示文学(マカベヤ戦争時代)
前編(1章〜6章)では、バビロン王廷に仕えていても儀礼的遮断を固守した知者ダニエルは、天上の秘密を告げられて、王に各種の幻の意味を解読して重用されます。夢でやがてエルサレムに迫害が迫ることを知る。
後編(7章〜12章)では、流石の知者ダニエルも見た四つ夢が理解できず苦しみます。この幻を、天使が解読します。この(アンティオコス4世エピファネスの)絶望的迫害は、どうなるのか、何時まで続くのか、そして何時終るのか、それがダニエルの見た黙示的夢・幻の意味です。
殉教した「目覚めた人々」は、復活して永遠の命に入る。苦しい迫害は期限が定められている。それまで耐え忍んで、非暴力抵抗の道を貫くよう、希望でダニエルを励まします。告発は死を意味する極限的状況の中で、過去から現在と未来を黙示的に預言した抵抗文学書といえます。

 


 

諸書(教訓書)

教訓的意味があるとしていますが、知恵文学書と呼ばれるこれら中には当時の政治・宗教を批判した、パロディ文学と考えられものもある。

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(知恵文学書)

ヨナ書―人間の正義と神の愛の対決
北イスラエルが軍事大国アッシリヤの脅威にさらされていた頃の預言者ヨナが、神の命令で仇敵アッシリヤに赴き、その回心を説く寓話。敵国をも許す神の広大な愛に反発する、熱烈な愛国者ヨナを戯画化して画く典型的知恵文学。3日3晩大魚の腹の中にいて、助かったという点が、イエスの復活の予型とされる。

 

ルツ記―人種差別と偏見を超えて
異邦人であるモアブの寡婦ルツが、義母ナオミに孝養を尽くし、しかも豪農ポアズとの結婚に成功し、ナオミの嗣業を守る国際結婚物語。その子、オベトが、ダビデ王の祖父となる。メシヤの家柄ダビデ王朝には、このように異邦人の血が混じっているとして、当時の律法が外国人女性との結婚を禁じた民族浄化主義を暗に批判している。

 

ヨブ記―義人ヨブの絶望と癒し
子供たち、家畜財産を失い、しかも重い皮膚病にかかり、いわれの無い苦難に襲われても神を賛美していた敬虔な義人ヨブが、見舞いにきた友人たちの忠告に憤激して大論争となり、悪いことをしていない私ヨブに何故神は罰を与えるのか、神に本当の正義はあるのか、という怒りをぶつける。当時の因果応報の申命記的律法神学への批判文学とされるが、長大なヨブと友人たちの論争は、正義が人を傷付けて、失敗したカウンセリング逐語録として読める。知恵文学最大の力作。

 

箴言―処世訓の倉庫
人生訓、格言の集大成。女性と貧民の差別、男性優先、権威・権力への阿諛など問題もあるが、古今東西の俚諺と変らぬところが面白い。この世俗的生活と、「詩篇」に見られる聖なる信仰生活とを両立させる庶民の知恵感覚は絶妙。庶民の世俗の知恵を「ソロモンの格言」としてオーソライズするのは知恵文学の定石ですが、最終章ではソロモン批判とも思えるところあり。

 

コヘレトの言葉(伝道の書)―懐疑主義者の反骨
知恵王ソロモンの述懐として、全ての学問と、栄耀栄華を極めてみたが、世界と人生全ては空しいと東洋的無常観が述べられ、隠者の自足した生活を勧めているが、申命記的世界に疑問を呈し律法精神主義の欺瞞を告発しています。この異端とも思える書が、正典にされたのは、やはりソロモン王のお蔭とされています。

 

雅歌―神と人との相聞歌?
優美かつ率直な女体と性愛賛美詩に、これが聖書かと驚く。これもソロモンの雅歌として、正典にパス。教会は「神(キリスト)と人の相聞歌」としているが。

 

哀歌―亡国の記憶
バビロン軍に蹂躙され、エルサレムが陥落した時の前後、悲惨な状況を嘆く敗戦詩。かって日本の終戦と呼ばれた飢餓の時代を想起するが、彼らは、その惨状と屈辱を決して忘れまいとする。

 

エステル記―ホロコーストの危機
ペルシャ時代、離散ユダヤ人絶滅の危機に直面した時、捕囚の民の子孫で王妃になった美女エステルが、女性の魅力で国王に嘆願してユダヤ人は死を免れることが出来たという物語。迫害の歴史の中で、神への信頼と王への従順が、民を救うという教訓と希望の大衆文学書。外典(続編)とされるギリシャ語のほうが、完成度が高い。

 

詩篇―民衆祈祷詩の宝庫
長年の庶民の律法生活の祈りから生まれた、ユダヤ教の美しい典礼・祈祷詩集。神/律法への賛美・感謝、嘆願、改悛、呪詛のほか、ダビデ/メシヤ待望・憧憬の強さなど、モーセ五書にはない庶民の本音がうかがわれる。なお、死と復活、死後の審きなど新約の思想は見られない。

 


 

外典(続編)

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トビト記離散民の慰め、天使物語
離散民であるトビトが同胞のために働いたのに、失明の不運に陥るが、息子トビアに天使ラファエルの援助で、嫁とりと、快癒の幸運に恵まれる物語。国家から保護されない在外ユダヤ人が、同胞相助けていれば天使の助けがあるという、教訓民話。

 

ユディト記―マカバイ記のパロディ?
外国軍の侵略をうけたユダヤを、ユディトという絶世の美女が性的魅力・知力・胆力で、敵の大将の首を寝室で切り落とし、武力によらず女性の魅力で侵略軍を破り、ユダヤを救うという架空歴史物語。旧約聖書の故事を駆使したこの知識人作者は、マカバイ記Tで誇示したハスモン家一家の武勇は、たった一人の女性の力に及ばないと言おうとしたなら、これは風刺文学の傑作。

 

エステル記(ギリシャ語)―ヘブライ語正典の改訂増補編
ヘブライ語の原典を、律法主義文学に改訂増補した外典(共同訳では続編)。こちらの方が完成度が高くカトリック教会では、第二正典とするが、女性エステルの地位が後退して男性中心的になったという評あり。

 

マカバイ記U―ユダ・マカバイと殉教物語
マカバイ記Tのマカバイ戦争の初期を、フィクションとして編集した殉教物語。マカバイ兄弟最初のリーダーのユダ・マカバイの信仰と天佑神助、死を恐れず律法に殉じた人々を誇大に画く律法精神鼓吹文学。死者の復活と審き、永遠の生命への希望など、キリスト教に至る思想の萌芽が見られる。

知恵の書―為政者と知恵
律法信仰をヘレニズム的理念と哲学で解釈したユダヤ教信仰書で、「ソロモンの知恵」とも呼ばれるが、ローマ帝国に滅ぼされた歴史的文化大国エジプトの、国際都市アレキサンドリア居住のユダヤ人が、支配者と伝統的価値観激変の中で、新支配層への提言と、来るべき新時代に神の民として生きる決断を促がした文書。また、新約聖書の入り口と考えられ、キリスト教に影響を与えた。

シラ書(集会の書)―律法生活のマニュアル
箴言と同じく知恵文学の典型的要素と世俗的訓戒を備えているが、箴言とは異なり、知恵と律法の調和、イスラエル先祖たちの賛歌でユダヤ民族のアイデンティティを強調し、律法に適った生活を目標にしている。前190から170頃(マカバイ戦争前)エルサレムで成立されたとする。

 

バルク書―エルサレムへの激励
かってバビロン捕囚中のエレミヤの弟子バルクの名で、故国エルサレムの送った手紙を装い、当時(後6770
ローマ軍とのユダヤ戦争で炎上陥落したエルサレムへの激励をしるした文書。この著者は、自己を前6世紀の状況の中において、現実の歴史を解釈しそれを暗示的、間接的に批判したとされます。

エレミヤの手紙―偶像崇拝の愚かさ
エレミヤの名を利用して、偶像崇拝の愚劣さを強調した手紙。知恵の書(13章〜15章)と同思想。前2世紀、エジプト居住のユダヤ人の著とされる。知恵の書の偶像崇拝排撃思想と酷似している。

 

ダニエル書補遺―アザルヤの祈りと三人の若者の賛歌。スザンナ。ベルと龍。
ギリシャ語ダニエル書に付け加えられた
知者ダニエルにまつわる民話集。

 

エズラ記(ギリシャ語)―若者の知恵くらべ
ギリシャ語のエズラ記は、第一エズラ書とも呼ばれ、歴代誌下の最終部分、エズラ・ネヘミヤ記との平行文に、宮廷物語「若者の知恵くらべ」をくわえてある。成立はダニエル書の後とされる。

エズラ記(ラテン語)―エズラ黙示録
ラテン語のエズラ記は第四エズラ書ともいわれ、エズラが天使によって終末の秘儀を啓示されるというユダヤ教再建の黙示文学(七つの幻)を中心に、前後(12章、1516章)にキリスト教徒の手になる託宣集が加えたとされる。第二神殿国家が崩壊した後100年頃の成立。

 

マナセの祈り王の改悛
南ユダ王国最悪と評価されるマナセ王が告白したとする、偶像崇拝の前非を悔いた美しい祈り。