地球環境政治

HOME]−[地球温暖化]−[地球温暖化政治の基礎知識

2004年5月:アップロード
2004年7月18日:一部追加

[地球温暖化政治の基礎知識(2)] 京都議定書の「批准」と「発効」

このページについて

このページは、京都議定書が発効する以前に書きました。2005年2月16日に京都議定書は発効したので、もう今更、議定書の「批准」や「発効」について知りたいという方も少ないと思いますが、記念に残しておきます。

議定書は発効しなけりゃただの紙?

「京都議定書」という国際条約は、前回も説明したように、1997年に採択されました。そして、この後各国はこの条約に「署名 」、つまりサインをしました。日本やアメリカも、この「署名」という段階は終えています。

しかし、国際条約というのは厄介なもので、多くの重要な条約(特に2カ国間ではなく、複数の国が関わってくる多国間条約)は、国々が署名をしただけでは「発効 」(効力を持つこと)しません。つまり、国際法としての効力を持たないということです。では、どうすれば「発効」するのかというかというと、だいたいの条約は、条約自体の中にその条件が書いてあって、多くの場合、一定の数の国による「批准」というものが必要となります。

京都議定書にもその発効条件は書いてあるのですが、具体的にそれを見る前に、ここで、国による「署名」と「批准」の関係について整理しておきましょう。

そもそもなぜ、こういう風に条約は各国の「批准」を必要とするのでしょうか。国際法の教科書によれば、現代における「批准」の意味とは、行政府(日本で言えば内閣)が交渉を通じて「署名」してきた条約を、勝手なことをしてきていないかどうか、国民が議会(日本で言えば国会)を通じて民主的にコントロールする、ということだそうです。具体的には、内閣が署名してきた議定書を国会が承認する、というのが批准の作業となります。[1]

これに関しては、アメリカの例の方が分かりやすいかもしれませんね。アメリカの前クリントン大統領(行政府)は、京都議定書に最終的に「署名」しましたが、議会(上院)は、「途上国の意味ある参加がなければうちは批准しない」という決議を先に出していたので、「批准」はしていません。

ここで1つ注意して欲しいのは、「署名」や「批准」をどういう風にするのか、ということに関する規定は、国によって異なる場合があります。よって全ての国が日本と同じような手順を踏むとは限らないようです。

今現在、どんな国々が京都議定書を「署名」および「批准」しているのかは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局のウェブサイトで確認できます(注:PDFファイルにリンクしています)。

日本とEUはすでに批准をしています。

京都議定書の発効条件:いわゆる「55/55」について

さて、それでは具体的に京都議定書の発効条件を見て行きましょう。

京都議定書の 発効条件 は第25条に記載されています。

1.この議定書は、附属書Iの締約国の 1990年 における二酸化炭素排出総量の 少なくとも55パーセント を占める附属書Iの締約国を含む 55箇国以上 の条約の締約国が批准書、受託書、承認書又は加入書を寄託した日の後90日目の日に効力を生ずる。

(注)強調は筆者による。

これを読んでも、おそらく8、9割の人が「 意味不明 」と思ったのではないかと思います。

分解して考えてみましょう。

まず、「附属書Iの締約国」とありますが、これは簡単に言えば、「先進国」のことです。つまり、日本、アメリカ、ヨーロッパ諸国などです。

次に、具体的な発効条件は、上記の文によれば、2つ存在することになります。

第1は、議定書を批准した国の数が、55カ国以上になること。

第2は、議定書を批准した先進国の、1990年における二酸化炭素排出量の合計が、先進国全体の55%を超えること。

1つ目の条件の方は文字どおりの意味ですので、特に解説は必要ないでしょう。問題は第2の条件です。

鍵となる「55%」を理解するために、具体的に1990年の先進国の二酸化炭素排出量というのを見てみましょう。下の図2-1がそれです(この表は、うちのサイトのここにあるエクセルファイルからとったものです)。

「批准した先進国の排出量が55%以上になる」とは、このグラフにある割合を足したものが55%以上になるということです。

見てすぐにわかるように、仮にアメリカとEUがともに批准をするならば、それだけで55%は軽く行きますから、あとは批准する国の数が問題になるだけのはずです。ところが、2001年3月にアメリカが京都議定書を支持しないと宣言したことで、(少なくとも当分の間は)この「36.1%」が期待できなくなりました。

図2-1:1990年における先進国の二酸化炭素排出量(上位10カ国を中心に)

1990年時の各国別二酸化炭素排出量のグラフ

出所:UNFCCC事務局のサイトから得られるFCCC/CP/1997/7/Add. 1のp. 60を元に管理人作成。

では、アメリカの36.1%抜きで発効させるためには、どうならなければいけないのでしょうか?

アメリカ抜きで55%を達成しようと思うと、基本的に、EU、ロシア、日本の批准は不可欠となります。現在、EU、日本をはじめとする多くの国々が批准をしており、その合計は44.2%ということになっています(2004年4月15日現在)。しかし、他の排出量が小さい国々が全て批准したとしても、排出量は55%には達しませんので、現在は、ロシアの批准が発効には不可欠であるということになります。

これが、議定書発効前に巷を騒がせた「ロシアの批准問題」の背景となっているわけです。

脚注

  1. 松井芳郎 他 『国際法[第3版]』 有斐閣 1988年 pp. 36-38。

関連事項の解説:途上国とアメリカ

基本的に、以上で今回の解説はおしまいなのですが、関連する事項として2つの点を解説しておきたいと思います。

1つは、アメリカの立場です。

ご存じのように、アメリカは京都議定書を支持しておらず、批准をしていません。これはブッシュ大統領の個人的な方針によるところが大きいのは確かですが、「アメリカが批准をしない」こと自体は、別にブッシュ大統領でなくても変わらなかったでしょう。というのは、先に少し触れましたが、1997年、京都議定書が採択される年の上院で、バード・ヘーゲル決議とよばれる決議がだされ、そこで「途上国の意味ある参加なくしては議定書を批准しない」ということが決定されています。つまり、議会が先に「議定書は批准しない」という決議を出しているので、たとえ大統領が前向きだったとしても、アメリカが現在までに批准しているかは怪しいといわざるをえません。

よって、2004年11月には大統領選がありますが、ここでもしケリー氏が勝ったとしても、アメリカが議定書に即時復帰するということはありえないでしょう。これには、排出量がのび過ぎているという理由もありますが、議会がそんなに簡単に異なる決議を出すとは考えにくいからです。

ただし、「大統領が前向きであるかどうか」は大きな違いを生みます。また、現在のブッシュ大統領は、環境政策に関してはほとんど悪魔的な所行をしていますので、その他の部分での改善は見られるでしょう。さらには、議会も、昨年はマケイン・リーバーマン法案という国内に排出量取引制度を導入する法案が高い支持を得る(けど否決)などの変化も見られます。

この辺についても、またいつか詳しく書いてみたいです。

もう1つは、途上国についてです。

よく「議定書にはアメリカも途上国も参加していない」という表現を見かけます。

これは、厳密に言えば間違いですし、途上国に対しては失礼にあたるでしょう。

というのは、一方で、アメリカは議定書を批准していないのに対し、途上国の多くは既に議定書を批准しているからです。上記のようないい方がされる時の意味合いとしては、「アメリカは、議定書では本来7%削減という義務を追っているが、批准をしていないので、参加していない。途上国は、議定書に批准しているが、そもそも議定書の中で排出削減の義務が課されてない」ということを意味しているのだと思いますが、両者の立場は全く違うので注意が必要です。

今回のポイント

参考文献・サイト

国連気候変動枠組条約事務局(英語) http://unfccc.int/
国連気候変動枠組条約のウェブサイトです。Kyoto Protocol Status of Ratification (PDF file)は、京都議定書の批准状況を一覧表にしたものです。毎月1回程度、アップデートされます。
THOMAS(アメリカ議会データベース) http://thomas.loc.gov/
アメリカの議会の法案(上院・下院両方)を検索できるデータベースです。The Byrd-Hegel Resolutionは、本文中で説明したバード・ヘーゲル決議のテキストです。