| ゴミダスについて | パート1の民謡について | パート2の民謡について |

ごあいさつ
 

 2001年は『アルメニアン・ダンス』全曲の初演(1976年4月4日)からちょうど25周年に当たります(管理人が初めて〈パート1〉を聴いたのもこの年の6月、汐澤安彦指揮の東京佼成ウインドオーケストラの米沢公演でした)。また、1981年3月28日、リード氏初来日のあまりにも感動的なコンサート(東京佼成ウインドオーケストラ、新宿文化センター)からも20周年にあたります。『アルメニアン・ダンス』は発表以来、吹奏楽界に燦然と輝く名曲であり続けています。そうして今、おそらく多くの皆様が初めて知ることになる新情報を発信する役割を担ったことに大きな喜びを感じ、また重責に身が引き締まります。

 事の発端は2002年2月、山形県天童市における東北吹奏楽指導者講習会で、大隅晃弘先生県立酒田東高校吹奏楽部)から『アルメニアン・ダンス』のオリジナル民謡について質問されたことでした。リード氏が作曲後に民謡の楽譜を返却したことや、かつて日米の主要な図書館でも手がかりがなかったことを考えると厳しい状況でしたが、管理人にとって良い刺激であり宿題となりました。管理人が6月頃までにゴミダスの最新の著書を見つけ「ロリ地方の農耕歌」の楽譜を入手する間、大隅先生は日本アルメニア友好協会から「あんずの木」「ぼくのナザン」「アラギャズ」の3曲の楽譜を入手され、同協会とのルートを開拓してくださいました。このコーナーの恩人である大隅先生に心から感謝申し上げます。

 管理人は9月に日本アルメニア友好協会を訪問することができました。会長の中島偉晴氏ご夫妻には、お忙しいなかアルメニアの地理・歴史・文化・言語など多方面についてご教示いただきました。アルメニア人の奥様が『アルメニアン・ダンス』のCDに合わせてアルメニアの民謡を歌ってくださったのには感激しました。ご馳走になったアルメニアのお菓子も忘れられません。深く感謝申し上げます。このとき新たに「やまうずらの歌」「風よ吹け」の楽譜のご提供を受け、すでに入手していた「クーマル」と合わせて、8曲中7曲のデータ公開にこぎ着けることができました

 なお、ゴミダスの著作物の保護期間が過ぎているとはいえ、楽譜の引用については慎重な立場をとりました。アルメニアの出版物については在日アルメニア大使館がないので、その役割の一部を担っている日本アルメニア友好協会の快諾を得ました。アメリカ・イギリスの出版物については、著作権法第32条(引用)における「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」や同法による判例に基づき、わずかな引用にとどめました。それでも専門的な立場から懐疑がある場合には、ご指摘をお待ちしています。

 これまでリード氏とはメールによる簡単なやりとりだけで執筆しました。大部分は管理人が独自に調べたことです。今後、記述を変更する箇所があるかもしれません。あらかじめご了承ください。

【お願い】
 『アルメニアン・ダンス』
に関連するご質問やご要望は管理人にお寄せください。日本アルメニア友好協会にご迷惑がかからないよう、よろしくお願いいたします。

【もう1つのお願い】
 音楽について素人の管理人よりももっと適切な、たとえば音楽を専攻する学生さんなどが研究を深めてくださるほうが本来は望ましいことです。このページをご覧になった皆様に期待するとともに、一緒に学んでいきたいと願っています。

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ゴミダスについて
 

 管理人が著した佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』のpp.121-124、pp.139-142にも紹介したように、『アルメニアン・ダンス』は、アルメニアのクラシック音楽の父、ゴミダス・ヴァタベッド Gomidas Vartabed (1869〜1935)が蒐集した、あるいは作曲したメロディによって構成されています。ここでは上記の文献を共有の基盤とすることにし、付加的な情報を加えることにします。


■ゴミダスの名前(その1)

 本名のソゴモン・ソゴモニアンについてはアルメニアの姓名の慣習通りに、ファミリーネームの語尾が「〜アン」(「〜家」の意味)になっています。彼は25歳の1895年に、アルメニアの大建築家・音楽家のゴミダスにあやかり、自らゴミダスと名乗るようになりました。ヴァタベッドのうちヴァタは「教師」、ベッドは「長」を表し、これは修道僧に与えられる称号です。したがって、表記としてゴミダス・ヴァタベッドゴミダス修道僧は適切ですが、G・ヴァタベッド はありえません。その後の誤解を避けるためにも単にゴミダスで十分です。


■ゴミダスの名前(その2)

 執筆当時、ゴミダスについて欧米のさまざまな資料はほとんどが Komitas の名で記載されていたことから、管理人は佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』 p.121 の注に「英語圏ではむしろ彼のことをコミタス・ヴァダペット Komitas vardapet と呼ぶことが多い…」と書きました。しかし、これは補足しなければなりません。アルメニア語には大きく2つの流れがあり、同じアルメニア語の綴りが、西アルメニアでは「ゴミダス」、東アルメニアでは「コミタス」と発音されます(下表)

2つのアルメニア語
西アルメニア文語
東アルメニア文語
基盤となる方言
コンスタンチノポリスの方言
アララト地域の方言
使用する主な人々
トルコ、レバノン、シリア、フランス、南アメリカ、北アメリカのアルメニア人(その子孫)
アルメニア、イラン、グルジア、アゼルバイジャン、ロシアのアルメニア人(その子孫)

をどう発音するか
Gomidas
ゴミダス
Komitas
コミタス
その他の違い(例)
Gakavi Yerk
Alagyaz
Kak'avi erg
Alakiaz

 1915年の大虐殺などの過酷な歴史を経て、アルメニア人は世界の各地に移動し、新天地に自分たちの言語をや文化を広げました。南北アメリカには西アルメニア出身のアルメニア人が多いといわれます。リード氏に作品を依頼したハリー・ビージャン氏(彼の名はアルメニア式にはベギアンだが、本人は英語式にビージャンと言っている)や、解題を執筆したヴァイオレット・ヴァグラミアン女史もその子孫でしょう。これらの人々が「ゴミダス」という呼び名を採用していたのも当然です。しかし、現地の発音を重視する現代の潮流を考えると、「コミタス」のほうが本来は望ましいように思われます(当ホームページでは併記の煩雑さと混乱を避けるため、便宜的に「ゴミダス」を採用しています)。

 この項の最後に、主流となっている東アルメニア文語のアルファベットを英語式に読むための一覧表を提供します。これから紹介する楽譜の歌詞も、この表で1つ1つ英語式に読むことが可能です。

 アルメニア語のアルファベット表(pdf)を見る

 執筆当時、ゴミダスに関する資料は The New Grove Dictionary of Music and Musicians (新グローヴ音楽事典)Komitas の項目と数枚のアメリカ国会図書館所蔵のLPレコード程度でした。しかし、この数年間にゴミダスの著書が新たに刊行され、彼の生涯をつづった映画まで製作され、作品集の CD が数種類発売さるなど、ゴミダスの業績に光が当てられつつあります。


●著書
 入手が容易なゴミダスの著書は、ゴミダスの論文を集めた Armenian Sacred and Folk Music (アルメニアの宗教音楽と民俗音楽)。言語は論文によって英独仏の各語。


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  ゴミダス&アルメニアンダンス関連の主なCD(順不同)
 


The Voice of Komitas Vardapet

録音が1912年! ノイズはあるが、コミタスの歌声が聴けるという点では歴史的価値。コミタス関連のベストセラーCD。
Hov Arek(試聴可)
Gna gna
(試聴可)
Alagyaz
(試聴可)
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Komitas String Quartet

弦楽四重奏で民謡を楽しめる。
Gakavi Yerk(試聴可)

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Komitas-Aslamazian


チリンギリアン弦楽四重奏団の演奏。『アルメニアン・ダンス』の原曲を1枚で4曲も聴ける点ではお買い得。Alagyaz は同名異曲。送料込み$26.97(参考)
Gakavi Yerk

Hoy, Nazan Eem
Khoomar
Tzirani Tzar
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 さまざまなショッピングサイトで "Komitas" を検索語にして探すと、さらに多くの資料が見つかるでしょう。ただし、アルメニアの大建築家・音楽家の元祖ゴミダスの資料も扱われていますので、混同しないよう気をつけましょう。

 今すぐ聴きたい!という皆様には、RealPlayer での試聴の機会も用意されています(左の試聴可印)。なかなかの感動ものですので、オススメします。


●映画
ドン・アスカリアン監督の『コミタス』(1988)とは?

VHSビデオをHMVで購入する


●コイン(ちょっとおまけ)

 


Varoujan Markarian

マルカリアンの美しいテノールは聴く価値あり。解説がないのが残念。稀なルートだがカード決済で7日めに届いた。送料込み$25(参考)
Alagyaz
Hov Arek
Tzirani Tzar
(試聴可)
armenianmusic.com で購入・試聴する


Music of Komitas

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Divine Liturgy

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Music of Komitas Vartabed

混声合唱で民謡を楽しめる。民謡を生かした本格的な編曲。送料込み$16.98(参考)
Lorva Horovel (truck 18)
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Komitas Armenian Mass

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Armenian Songs & Dances

合唱、ソロ、器楽とさまざまな音源から収集。Kuzhn ara と Gna Gna の結合が聴けるのは貴重。 Alagyaz は同名異曲。
Kuzhn ara & Gna Gna Kuzhn araが試聴可)
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  ゴミダス関連のリンク
 

Armenian Genocide 1915: Komitas 1915年の大虐殺を風化させない運動
Komitas Choir ミシガン州デトロイトにあるセイント・ジョーンズ・アルメニア協会の合唱団
MP3.MusicHall.am アルメニアの音楽をMP3で聴こうというアルメニアのサイト。タイトルに Alagyaz(アラギャズ) の楽譜。ゴミダスの作品も聴けるはずだが、管理人はなぜかダウンロードできない。
Net Arminie.com ゴミダスのコーナーにリンクする。1908年発行の Gakavi Yerk(やまうずらの歌)の楽譜の一部が見られるのが嬉しい
Window to Armenia "Arts"から"Music and Dances"に進むとゴミダス情報がある。リードの『エルサレム讃頌』のオリジナル旋律 Kovia Yerusaghem(エルサレムを讃えよ) がRealPlayerで聴けるのが嬉しい

Gomidas Institute ニュージャージー州プリンストンのアルメニア文化の研究所で、ゴミダスとは直接関係ない
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〈パート1〉(第1楽章)の民謡について
  あんずの木 Tzirani Tzar (The Apricot Tree)
 


  © copyright by Sam Fox Publishing Company, Inc.

「あんずの木」は、1904年に編曲され、有機的に結合された3つの歌で構成されている。その堂々たる冒頭、生き生きしたリズムや装飾処理によって、非常に表情豊かな歌になっている。
 (佼成出版社刊
『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.123)

【民謡の楽譜
★ゴミダスが1904年に出版した楽譜は今のところ見つからない。
★1982年にアルメニアのソヴェタガイグロフ出版から刊行された『ハイエルキ・ゴハールネル(歌の宝庫)』に旋律だけの楽譜が見つかった。ヘ長調4/4拍子と3/4拍子の34小節。18小節にあるべき3/4拍子の記号が欠落している。ヴァグラミアン女史にしたがえば、1〜10小節、11〜17小節、18〜34小節の3つの部分に分かれているといえる。
 
  楽譜(pdf) を見る
【民謡の音源
★マルカリアンの歌声: CD "Varoujan Markarian"
★弦楽四重奏:CD "Komitas-Aslamazian"

【リードの処理】
配列に工夫を加えながら、各部分では民謡の断片をほぼ原曲通り使っている。
民謡
第1楽章
備 考
1〜5小節 1〜4小節

ほぼ原曲通り。民謡の弱起部分は次の小節に収めた

11〜12小節 5〜8小節 ほぼ原曲通り。ゆったりしたテンポにし、独自の展開を加えた
13〜15小節 9〜13小節 ほぼ原曲通り。GではなくAに終止
11〜12小節 14〜17小節 先に使った旋律を下属調で再び使用
1〜5小節
(6〜10小節)
19〜22小節 最初の旋律の再現(または6〜10小節を採用したと考えてもいい)
従来の情報の訂正
解題の翻訳中、
「有機的に結合」とは何を意味するのか? 結合とは同時的なのか連続的なのか? 苦しんだ末の直訳だった。楽譜が入手できた今、ここは「3つの歌をうまく連続させて意味のある、構成力のある曲に仕上げた」ということだろうと理解できる。

曲名について
Tzirani Tzar
(ツィラニ・ツァル)、または
Dzirani Dzar(ツィラニ・ツァル)
Ts'irani ts'ar(ツィラニ・ツァル)
という表記もある。
 

歌詞について
1982年の楽譜によれば、歌詞は24行あるが、そのうち13行め以降はどの旋律につけられているか分からない。歌詞の意味は不明。

     
 

やまうずらの歌 Gakavi Yerk (Partridge's Song)

 


  © copyright by Sam Fox Publishing Company, Inc.

「やまうずらの歌」は、ゴミダスが創作した歌で、1908年にグルジアのティフリスで出版された。ゴミダスは最初にこれを独唱と児童合唱のために、その後ピアノ伴奏付き独唱のために編曲している。やまうずらのヨチヨチ歩きを描いたと思われる素朴で繊細な旋律である。
  (佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.123-4)

【民謡の楽譜】
ゴミダスが1908年に出版した楽譜の表紙と第1ページがネット上で見つかった。Net Arminie.comをご覧いただきたい。2つの小さな画像はクリックすれば拡大して見ることができる。独唱が2小節歌うと児童合唱がかわいらしく同じエコーを返している。変ロ長調4/4拍子。
★1993年にイェレヴァンのアナヒータ出版から刊行された『イェルカラン(歌集)』に旋律だけの楽譜が見つかった。1908年版と違ってエコーしないため、短く落ち着かない。変ロ長調4/4拍子の12小節。
  楽譜(pdf) を見る
【民謡の音源
★弦楽四重奏:CD "Komitas String Quartet"

★弦楽四重奏:CD "Komitas-Aslamazian"

【リードの処理】
リードは1908年出版の楽譜かそれに近い版に基づいて作曲したに違いない。下の表は
1993年の楽譜に基づいて一応記述したが、長さを倍にしたのはリードの着想ではないと考えるのが適切だろう。
民謡
第1楽章
備 考
1〜2小節 32〜35小節

リピートして倍の長さ。民謡と同じ調とアーティキュレーション

3〜4小節 36〜39小節  同上
5〜6小節

40〜43小節

 同上
7〜8小節 44〜47小節  同上
9〜10小節 48〜51小節  同上
11〜12小節 54〜55小節 リピートなしで転調に向かう
1〜2小節 59〜62小節 ト長調に転調

従来の情報の訂正
特にない

曲名について
西アルメニアでは
Gakavi Yerk(ガカヴィ・イェルク)または
Gakavik(ガカヴィク)
という表記もある。
東アルメニアでは
Kak'avi erg(カカヴィ・エルグ)
Kagavik(カガヴィク)
と呼ばれる。

1908年と1993年の両方の楽譜ともタイトルをアルファベット表でていねいに読むと
Kak'avi erg(e)
と最後に弱母音が入っている。(仮に(e)とした音は本当はeを逆さにした特殊文字)

歌詞について
1993年の楽譜によると、歌詞は4コーラスある。9〜12小節は各コーラスに共通のリフレーン。歌詞の意味は不明。

 

 

 
オーイ、ぼくのナザン Hoy, Nazan Eem (Hoy, My Nazan)
 


  © copyright by Sam Fox Publishing Company, Inc.

「オーイ、ぼくのナザン」は、ゴミダスの編曲による合唱版で1908年に出版されている。この活発で叙情的な愛の歌は、1人の若者が恋人のナザン(少女の名前)を称えて歌う様子を描いている。舞曲のリズムや装飾によって、印象的で覚えやすい旋律になっている。
  (佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.124)

【民謡の楽譜】
★ゴミダスが1908年に出版した楽譜は今のところ見つからない。
★1982年にアルメニアのソヴェタガイグロフ出版から刊行された『ハイエルキ・ゴハールネル(歌の宝庫)』に旋律だけの楽譜が見つかった。ト短調で規則的な12/4拍子の24小節。見開き2ページの楽譜は、第1コーラスの10小節とくり返しが多い第2コーラスの14小節と思われる。
 
楽譜(pdf) を見る
【民謡の音源
弦楽四重奏:CD "Komitas-Aslamazian"
(もちろん規則的な12拍子ですのでお試しあれ)
【リードの処理
民謡旋律のやや冗長な部分を縮めて5拍子にしたのはリード氏だった。また、鮮やかな転調を伴う後半の魅力的な展開もリード氏のオリジナル。オリジナル性という点では〈パート1〉のなかでいちばん高い。
民謡
第1楽章
備 考
1〜2小節 77〜80小節

各小節の拍数は「6+6」「6+6」を「5」「5」「5」「5」拍に変更している

5〜7小節 81〜86小節

各小節の拍数は「6+6」「6+6」「6+6」を「5」「5」「5」「6」「5」「6」拍に変更している。5拍に縮められない小節については6拍を許したことが、かえって「不規則性」を高め、曲をおもしろくしたという見方もできるだろう

 

87〜100小節
101小節〜

原曲をヒントに旋律の跳躍を4度(E-A-E)に拡大。ドリア風の旋律展開やその後の自由な転調はリード氏独自の工夫

従来の情報の訂正
リード氏は Hoy, Nazan Eem の綴りを 「ホイ・ナザン・イーム」 と呼んでいたが、アルメニアでは「ホイ・ナザン・エーム」と発音される。

曲名について
Hoy, Nazan Eem(ホイ・ナザン・エーム) のほかに、
Hoi Nazan Im
Hoi Nazane

Oy, Nazan
Oy im Nazani yar
などの表記に出会うことがある。

歌詞について
歌詞は24行あるが、そのうち17行め以降はどの旋律につけられているか分からない。歌詞の意味は不明。

     
アラギャズ Alagyaz (Alagyaz)
 


    © copyright by Sam Fox publishing Company, Inc.

「アラギャズ」(アルメニアの山の名称)は、ゴミダスが最初ピアノ伴奏付き独唱のために書いたのち、合唱用に編曲している。有名なアルメニア民謡の1つで、その息の長い旋律はこの山と同様に威厳に満ちている。
(佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.124)

【民謡の楽譜
ゴミダスの楽譜が見つかりました楽譜と歌詞の日本語訳の公開に向けて準備中
1982年にアルメニアのソヴェタガイグロフ出版から刊行された『ハイエルキ・ゴハールネル(歌の宝庫)』に旋律だけの楽譜が見つかった。落ち着いたイ長調6/4拍子の8小節。

  楽譜(pdf) を見る
【民謡の音源
ゴミタスの歌声:CD "The Voice of Komitas Vartapet"

【リードの処理
民謡
第1楽章
備 考
1〜8小節 186〜201小節

ほぼ原曲通り。この長さで1コーラス分となる。2度ある弱起はリードの創作

5〜8小節 202〜209小節 原曲の1コーラスの後半4小節を再び使っている
 

210〜223小節

それまでの旋律の自由な展開と転調の準備

従来の情報の訂正
特にない

曲名について
西アルメニアでは
Alagats
(アラガツ)
Alagyaz(アラギャズ)
Alagyoz (アラギョズ)
東アルメニアでは
Alakiaz(アラキャズ)と発音される。

主流は Alagats だが、トルコでは Alagyaz と発音され(トルコのアルメニア人は多くないが…)、これが英語圏に広がっている。日本の地図では現地音に従い「アラガツ山」という表記が一般的。

歌詞の続きまで踏み込んで、 Alagyaz sarn ampel a (アラギャズ山が雲に隠れた)
と表記される場合もある。
Alagyaz Khunki Tsar
でも同じ。

歌詞について
6番まである歌詞の残りの意味は「アラギャズ山が雲に隠れた。ラララ…」以降は不明だが、ゴミダスの歌声のCDで原語の響きを楽しむことができるのはうれしい。sarn = 山。

     
ゆけ、ゆけ Gna, Gna (Go, Go) & ジャグ Kuzhn Arra (a jug)
 


  © copyright by Sam Fox publishing Company, Inc.

「ゆけ、ゆけ」は、ユーモラスで軽快なタッチの旋律である。ゴミダスはこれとは反対にゆっくりとした「ジャグ」という歌を組み合わせて演奏していた。その何度も繰り返す音符のパターンは、笑っている表情を音楽的に描いている。この歌もレシタティヴの様式をとっている。
  (佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.124)

【民謡の楽譜
ゴミダスの楽譜が見つかりました楽譜と歌詞の日本語訳の公開に向けて準備中

【民謡の音源】
ゴミタスの歌声:CD "The Voice of Komitas Vartapet"
★女性合唱:CD "Armenian Folk Songs and Dances"


【リードの処理】
楽譜がないためどこがどう使われたというのを指摘しにくいが、次の部分に民謡が使われている。
民謡
第1楽章
備 考
  234〜247小節

ほぼ原曲通り

  251小節〜 それまでの旋律の自由な展開

従来の情報の訂正
リード氏は Gna, Gna の綴りを 「ニャー・ニャー」 と呼んでいたが、アルメニアでは「グナ・グナ」と発音される。左の引用の「組み合わせて演奏していた」は、当時は同時的か連続的か分からず直訳したが、調査により「ジャグ」は導入として「ゆけ、ゆけ」の前に演奏されることが分かった。

曲名について
Gna, Gna(グナ・グナ)
に異形は見られない。

ゴミダスのいう「ジャグ」(壺、水瓶、ポット)に相当する
Kuzhn Arra(クジュナラ)は
Kuzhn Ara(クジュナラ)、
Kujn ara (クジュナラ)という綴りもある。どちらも「私は水瓶を運んだ」の意味。

歌詞について
楽譜がないため不明だが、2枚のCDでその楽しさを味わうことができるのはうれしい。

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〈パート2〉(第2〜4楽章)の民謡について
風よ吹け Hov Arek (The Peasant's Plea)
 


  © copyright by C. L. Barhouse Co., Inc.

「風よ吹け」は叙情的な歌で、1人の若者が山に向かって、風を送り、苦悩から解放してくれるように懇願している。繊細なメロディ・ラインが幅広い表情を内包しており、非常に感動的な歌である。
  (佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.141)

【民謡の楽譜
★ゴミダスが出版した楽譜は今のところ見つからない。
1982年にアルメニアのソヴェタガイグロフ出版から刊行された『ハイエルキ・ゴハールネル(歌の宝庫)』に見つかった。ハ長調3/4拍子の40小節。

楽譜(pdf) を見る
民謡の音源
★ゴミタスの歌声:CD "The Voice of Komitas Vartapet"

リードの処理
民謡の小節の順番を入れ替えながら、素材を残さず使い切っている。原調でアーティキュレーションもそのまま。部分的に3度上げたり2度下げたりしながらも、旋律が違和感なくつながっているところは神業的。
民謡
第2楽章
備 考
1〜8小節
9〜16小節

ほぼ原曲通り。弱起はリード氏の創作

25〜32小節
17〜24小節 ほぼ原曲通り。弱起はリード氏の創作
33〜40小節
25〜32小節 長2度上げてほぼ原曲通り
1〜8小節
33〜40小節 1〜8小節の3度上を基盤に展開
9〜12小節
41〜44小節 ほぼ原曲通り
13〜16小節
45〜48小節 2度下げてほぼ原曲通り
17〜24小節
49〜56小節 ほぼ原曲通り
1〜8小節
57〜64小節 ほぼ原曲通り。弱起はリード氏の創作
  65小節〜 それまでの旋律の自由な展開

従来の情報の訂正
特にない

曲名について
Hov Arek (ホヴ・アレク)
歌詞の続きまで踏み込んで、
Hov arek, sarer jan(親愛なる山々よ、涼風を与えよ)
という表記もある。
hov風を、arek与えよsarer 山々、jan親愛なる

歌詞について
歌詞は16行あり、1コーラスが8行。一方、旋律は4小節が10段あり、おのおのに歌詞の1, 2, 3, 3, 4, 4, 5, 6, 7, 8行めが当てられている(3、4行めは2回ずつ歌われる)。
歌詞の意味は最初の部分以外は不明だが、ゴミダスの歌声のCDで原語の響きを楽しむことができるのはうれしい。

     

クーマル Khoomar (Wedding Dance)

 


  © copyright by C. L. Barhouse Co., Inc.

「クーマル」は、ゴミダスが混声合唱をともなうソプラノ独唱に編曲している。この活発で軽快なダンスの歌は、2人の若者が出会い結婚するというアルメニアの村の楽しい情景が描かれている。この歌は、いきいきとしたリズムパターンを特徴としている。
  (佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.141)

【民謡の楽譜
ゴミダスの楽譜が見つかりました楽譜と歌詞の日本語訳の公開に向けて準備中
ビージャン博士による解説に引用されているので、それを紹介する。
 楽譜(pdf)を見る
【民謡の音源
弦楽四重奏:CD "Komitas-Aslamazian"

【リードの処理
民謡旋律が短いので、かなり自由に展開している。
民謡
第3楽章
備 考
1〜4小節 1〜5小節 4小節+終止のための1小節
1〜6小節 6〜13小節 4小節の後、後半2小節を2回演奏
  14小節から 自由な展開
1〜6小節 102〜114小節 4小節の後、後半2小節を2回演奏
  115小節〜 自由な展開

従来の情報の訂正
リード氏は Khoomar の綴りを「クーマー」と呼んでいたが、西アルメニアでは最後に弱母音の (e) をつけて「クーマル」と発音されるか、r をカットし「クーマ」と呼ばれる

曲名について
Khoomar(クーマル)、または
Khoumar
(クーマル)
Khouma(クーマ)
という表記もある。
東アルメニアではフーマルと発音されるそうだが綴りを見たことがない。

歌詞について
入手した楽譜に印刷されていないので不明。

     
ロリ地方の農耕歌 Lorva Horovel (Songs from Lori)
 


  © copyright by C. L. Barhouse Co., Inc.

「ロリ地方の農耕歌」の複雑で即興的な旋律については、ゴミダスが詳細に研究している。その豊かなリズム構造と旋律構造には、キリスト教以前の時代にさかのぼる要素を見出すことができる。農夫や、農夫が働いているときの肉体的・精神的な存在感を思い出させるこの歌は、耕牛への命令や農耕中のかけ声と同じように労働のなかから自然に生まれたものである。この美しい歌の自由に流れる旋律、リズムや音程の構造のなかに、そうした印象が一貫して反映されている。
  (佼成出版社刊『アルフレッド・リードの世界』ヴァグラミアン女史の解題、p.141)

【民謡の楽譜】
ヴァグラミアン女史が指摘するのゴミダスの詳細な「研究」とは、 Armenian Sacred and Folk Music(アルメニアの宗教音楽と民俗音楽)の pp.59-96 に掲載されている論文「The Plough Song of Lori(ロリ地方の農耕歌)」(英語)だろう。そこに全曲の楽譜と歌詞、楽曲分析が載っている。特殊な音階をもち、5/16拍子、5/8拍子、10/8拍子の合計262小節というかなりの長さをもつ。入手可能という状況から、著作権に配慮して一部分だけ紹介する。全曲については、上記書籍の入手の方向でご検討いただきたい。
  楽譜(pdf) を見る
【民謡の音源】
混声合唱CD "Music of Komitas Vartabed"
【リードの処理
ビージャン博士による解説で指摘されたように、第4楽章は5つの主題あるいは部分から構成されている。

 (1) 冒頭の5/8拍子の主題
 (2) プレストの2/4拍子の主題
 (3) 緩徐楽章の5/8拍子の主題
 (4) 同じく6/8拍子の主題
 (5) 318小節めからの主題

「ロリ地方の農耕歌」とはこの5つの主題がすべてなのか、それともどれか1つなのか? 英語の副題 "Songs from Lori" によれば「複数」であることは想像されるが、謎には変わりなかった。

上で楽譜を示したように、 (3) 5/8拍子の引用は明らかであり説明の必要もない。問題は、その他の4つの主題がどこから来たかということだ。
このことについてリード氏に確認したところ、リード氏は「ロリ地方の農耕歌」のエッセンスを自由に引用した旨のことを述べている。確かに、この長い歌は独特の音階によって旋律が構成され、音符の順番を即興的に並べ替えると (1) や (2) の主題に近いものを作りだすこともできなくはない。ただし、調性感の高い (4) や (5) の主題がこの方法で作られたとは考えにくい。
最後の最後に歯切れが悪いが、この件はリード氏に詳細に確認したいのでご猶予をいただきたい。

従来の情報の訂正
特にない

曲名について
Lorva Horovel(ロルヴァ・ホロヴェル) の他に、
Lorou gout'anerg
という表記もある。

歌詞について
左記ゴミダスの論文で、アルメニア語から英語に1行1行訳されているのでご参照いただきたい。大意は「朝が来たぞ。みんな出てこい。神に感謝しろ。家畜たちも働け。仕事だ!」というもの。