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2015.6.16mf更新
試用期間中の解雇
相談:採用直後から勤務態度が悪い
語学学校を経営しています。
新規に採用した社員(事務職員)に勤務態度が悪い者がいます。営業活動時間中に仕事をしていない様子です。解雇を考えています。まだ、採用して1週間ですが、もう少し、様子をみた方がいいでしょうか。
弁護士の回答:使用期間中に解雇すべき
大企業志向がありますので、
中小企業にくる優秀な若い人材は少ないです。そこで、年配者に目を向ける必要があります。ただし、気をつける必要があるのは、年配の労働者には、要領よく働いた振りをするだけの者がいることです。このような状況下で、営業職の管理は難しいです。
労使関係において、労働者は強く保護されています。そこで、裁判になると、労働者の勤務態度が相当悪くとも、裁判所は解雇を認めません。
これを前提に、労働者に対する対策を考える必要があります。
- 職歴
採用の際、会社を転々とする短期の勤務を繰り返している労働者は避ける。問題がある場合が多いです。
性格異常、精神を病んでいると、職場でトラブルを起こし続けることになります。辞めさせるのに苦労します。
- 雇用期間
最初は、3月、6月とかの期間の定めのある契約で雇用(有期雇用)し、
正規の雇用は避ける。人間性を判断するには、ある程度、時間をかける必要があるからです。外見では、わかりません。正規の雇用をして、異常性格であると判明した後、解雇が難しいです。
- 退職願
雇用後は、まず、話し合いで退職願を書かせるのです。
労働者は、保護されていますから、通常の、働きが悪い、勤務態度が悪いなどの理由では、解雇は難しいです。できる限り、退職願を書かせてください。
- 解雇回避努力
労働者の勤務態度を何度も注意するなど解雇回避努力をする。
- 試用期間中に解雇する
労働者が、
どうしても退職願を書かない場合は、できるだけ試用期間中に解雇してください。試用期間は、3か月ないし6か月くらいが適切です。試用期間中でも、14日を超えた場合は、解雇予告手当が必要です(労働基準法21条)。
試用期間中の解雇は、比較的容認されます。労働者も、期間が短いと通常の解雇に比較すれば、争わない傾向にあります。
- 通常解雇
その後は、解雇は難しいです。その従業員がいるデメリットと解雇が無効とされる危険を比較してください。余りにも会社にとって無益、あるいは、有害な従業員なら、危険を犯してでも、解雇するしか、方法はないでしょう。
本件は、幸い、使用期間中ですから、何度も注意して
解雇回避努力を尽くした後、解雇すべきでしょう。
従業員を採用する際、充分検討してから、採用する必要があります。従業員を安易に採用し続けると会社にとって命取りになるのです。次のような例があります。
- 従業員が、顧客情報など、企業秘密、あるいは、会社にとって重要なソフトを盗んで退職する。盗んだ証明が難しいです。
- さらには、建設会社などで、営業担当者が下請けと結託して、リベートを取り、単価を高くして発注するケース。
- 通信販売の会社の従業員が、商品を横領したが、社長が温情で解雇しなかった。その後、従業員は、顧客情報(クレジットカード情報)を外部に売り、そのため、取引先の信用を失い会社が倒産したケース。
悪質な従業員でしたので、冷静に判断して、解雇すべきだったケースです。軽率な温情が命取りになりました。
判決
-
東京地方裁判所平成27年10月9日
判決
(3) 本件解雇の効力
上記(1)ア,(2)イのとおり,原告には管理部の責任者として高い水準の能力を発揮することが求められていたところ,十分な時間をかけて指導を受けたにもかかわらず,インプット作業の
ような単純作業を適切に行うことができないなど,基本的な業務遂行能力が乏しく,管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあったこと,原告のインプット作業によりGらの業務が停滞して苦情が
出され,インターネット閲覧についても女性従業員から苦情が出されるなど,被告の業務に支障が生じていたこと,前任者として原告に引き継ぎ,指導を行うべきEが平成26年2月末には出向解除によ
りA社に戻る予定であり,上記のような状態で原告が管理部のシニアマネージャーになれば,原告が適切に管理部の統括業務を遂行することができず,管理部の業務により大きな支障が生じるおそれがあ
ると判断されてもやむを得ない状態であったことが認められる。これに加えて,被告の規模や原告の採用条件によれば配置転換等の措置をとるのは困難であったと認められること,原告は当時試用期間中
であり,インプット作業の問題について繰り返し指導を受けるなど,改善の必要性について十分認識し得たのであるから,改めて解雇の可能性を告げて警告することが必要であったとはいえないこと等の
事情も考慮すると,本件解雇が試用期間の経過を待たずに決定されたものであること,原告が同年2月22日に抑うつ状態と診断されていること等,原告が主張する事情を考慮しても,本件解雇が客観的
に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合に当たるものとは認められない。
なお,Fは,原告が仮払金に関して虚偽の説明をしたと考えて原告に不信感を抱いたことをきっかけとして,原告の解雇を取締役会に提案したものであるが,本件解雇はこの点のみを理由とする
ものではないから,本件証拠上,原告が虚偽の説明をしたとの事実が認められないとしても,本件解雇の効力についての上記判断は左右されない。また,原告は,本件解雇が原告による内部統制整備を嫌
悪したB元社長の意向によって,原告を排除するために行われたものであると主張するところ,上記のとおり,B元社長は原告やFがA社から直接指示を受けることについて快く思っていなかったことは
認められるものの,本件解雇は,原告と同様にA社の意向で採用されたFが提案し,A社の副社長であった代表取締役のCを含め,取締役の全員一致により決定されたものであり,B元社長の意向により
決定されたものとは認められないから,原告の上記主張は採用することができない。
したがって,本件解雇は有効であり,原告と被告との間の雇用契約は本件解雇により終了したものと認められるから,原告の労働契約上の地位確認請求は理由がない
- 東京地方裁判所平成21年10月15日
判決
しかしながら,前記1(6)及び(10)認定のとおり,原告は,第1回面接において,上記の点をAから厳しく指摘され,第2回面接までの間に,入力につい
てはその都度3回の見直しをするなどの注意を払うようになったため,少なくとも入力についてのミスが指摘されることはなくなり,周りの職員に対する気配りも一定程
度するようになるなど,業務態度等に相当程度の改善が見られた。第2回面接においては,上記改善が確認されたものの,原告については,未だ入力内容を常勤職員が点
検している段階で,ほぼ同時期に入職した派遣事務のFと比較して仕事内容に広がりが生じていることや,5月以後に受診者が増えたときに健康管理室の業務に対応でき
ないおそれがあるなど,未だ被告が常勤事務職員として要求する水準に達していないとして,Aから,この点が厳しく指摘された。そして,原告は,一度は退職する意向
を示したものの,同年3月26日の本件面談の結果,退職せずに,引き続き試用期間中は,健康管理室で勤務し,その間の原告の勤務状況を見て,被告の要求する常勤事
務職員の水準に達するかどうかを見極めることとなった。
しかるに,被告は,上記の経緯があるにもかかわらず,3月28日にI事務長及びBからそれまでの事実経過等を聴取したにとどまり,直属の上司であるAから
原告の勤務態度,勤務成績,勤務状況,執務の改善状況及び今後の改善の見込み等を直接に聴取することもなく,また,勤務状況等が改善傾向にあり,原告の努力如何に
よっては,残りの試用期間を勤務することによって被告の要求する常勤事務職員の水準に達する可能性もあるのに,さらに,前記1(11)及び(18)認定のとおり,
原告から,同年3月25日に被告理事長に宛てて退職強要や劣悪な労働環境を訴えた手紙が送付され,次いで,同年4月4日から6日にかけて全日本民主医療機関連合会
会長その他に宛てて,被告のパワハラ等を訴える手紙が送付されたのであるから,被告から原告に対し,これらの手紙の内容が誤解であるならばその旨真摯に誤解を解く
などの努力を行い,その上で職務復帰を命じ,それでも職務に復帰しないとか,復帰してもやはり被告の要求する常勤事務職の水準に達しないというのであれば,その時
点で採用を取り消すとするのが前記経緯に照らしても相当であったというべきであり,加えて,第2回面接があった同年3月23日の時点ではA及びBのいずれも原告を
退職させるとは全く考えていなかったこと(証人A,同B)も併せ考えれば,試用期間満了まで20日間程度を残す同年4月10日の時点において,事務能力の欠如によ
り常勤事務としての適性に欠けると判断して本件解雇をしたことは,解雇すべき時期の選択を誤ったものというべく,試用期間中の本採用拒否としては,客観的に合理的
理由を有し社会通念上相当であるとまでは認められず,無効というべきである。
- 東京地方裁判所平成21年8月31日判決
期間の定めのない労働契約を締結して被告Y社に中途採用された原告Xに対する経歴詐称等を理由とする試用期間満了前の解雇(本採用拒否)につき、意図的に履歴書等に虚偽の記載をすることは、当該記載の内容によっては、従業員としての適格性を損なう事情であり得るとされ、当該経歴詐称のほかXの勤務態度等が就業規則上の解雇事由(「試用期間中の者が,不適格と判断されたとき」)に該当するとして、本件解雇が解雇権の濫用には当たらず有効であるとされた
- 東京地方裁判所平成21年1月30日判決
原告は,平成19年8月27日,B役員及びD役員から呼び出され,成績不振が理由で解雇の方向に話が進んでいることを告げられた。原告は驚き,営
業開始後まだ3か月であり,あまりにも性急であると訴え,せめて試用期間の6か月の実績を見て欲しいこと,自分の採用を決めた社長と直接面談したいことを申し入
れた。翌28日B役員から回答があり,給与を65万円から25万円に減額した上であと1か月だけ猶予か,それが嫌なら解雇を受諾すること,社長は面談しないこと
が告げられた。その際,B役員は,「9月に頑張って成果を上げれば10月からの給料は見直してまた上げてもらえるのではないか。」と話した。原告は給与減額の上
1か月解雇猶予を選択した。
原告はB役員に対し,これまでの実績だけでも他の入社半年ないし8か月の従業員の営業成績と比べても遜色はないのになぜ自分だけが解
雇なのか尋ねたところ,「君は期待度が高すぎた,だから給与も高い。」と述べた。原告は,翌30日朝,B役員から,月給を65万円から25万円へ変更する旨の給
与変更合意書への署名を求められたが,署名捺印を断り,同日夜,B役員に対し,改めて試用期間残り3か月について従前通りの待遇を求めた。
被告は,平成19年9
月3日,「営業担当として採用したが,営業担当としての資質に欠けるので,就業規則19条2項(試用期間中に不適と認められるときの解雇)により解雇する」とし
て,原告を同日付で解雇した。原告は,顧客との連絡や説明の機会を確保するため,夕方まで時間がほしいと被告に願い出たが,被告は,原告に対して荷物を整理して
すぐに出て行くようにと申し渡し,顧客への説明等は会社側で考えるというものであった。当時の相場状況は,アメリカのサブプライム住宅ローン問題という外的要因
により世界的な同時株安の状態にあり,個人投資家へ新規ないし変更の投資活動を呼びかけるのは極めて困難な状況にあった。(争いのない事実)
(四) 以上の事実に照らせば,なるほど平成19年5月21日から同年9月3日までの期間の原告の手数料収入は高いものとはいえないが,わずか3か月強の期
間の手数料収入のみをもって原告の資質,性格,能力等が被告の従業員としての適格性を有しないとは到底認めることはできず,本件解雇(留保解約権の行使)は,客
観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができない。
-
東京地方裁判所平成14年8月9日判決
前提となる事実
証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば,原告が,B社長,Cに次ぐ職位にある事業開発部長として,年俸1300万円で雇用された
こと,B社長が,原告の業務遂行状況をみて,事業開発部長としての業務能力及び適性の有無を判断し,これが良好であれば,原告を取締役にする予定であったこと,
原告が,被告に雇用される前に数社を転職しており,その中に試用期間が設けられていたものがあったこと,原告が署名押印して被告に提出した誓約書には試用期間の
存在を前提とした記載がされており,原告がこれを提出した際,被告に対し誓約書の内容につき異議を述べなかったことが認められる。
これらの事実によれば,原告と被告との間で,原告の事業開発部長としての業務能力を把握し,その適性を判断するための試用期間を定める合意が成立したものと
認められ,この合意は,合理的理由に基づくものとして,有効というべきである(これに反する原告の主張は,以上の認定判断に照らして採用できない。)。そして,
被告がした本件解約告知は,雇用から2か月弱経過してされたものであり,原告の業務能力を把握し,その適性を判断するための合理的な期間内にされたものといえる。
ただし,本件解約告知が有効と認められるためには,上記試用期間の趣旨,目的に照らし,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当として是認されるものであ
ることが必要というべきである。
<<中略>>
前記(1)ないし(4)によれば,原告の業務能力又は業務遂行が著しく不良であるとか,原告が事業開発部長として不適格であったと認めることはできず,本件解
約告知は,試用期間中の本採用拒否として,客観的に合理的な理由があるとか,社会通念上是認することができるものということはできない。
したがって,本件解約告知は無効である。
原告は被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認,及び本件解約告知後の賃金として,後記3の金員の支払を求めることができる。
- 最高裁判所昭和48年12月12日判決
試用期間中の労働契約は,使用者の解約権が留
保されている労働契約であると解されるところ、右留保解約権の行使は、採用後の調査や勤務状態の観察を行って採否の最終決
定を行うという解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認されうるものでなけ
ればならない。
2003.4.1
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