離婚に伴う過大な財産分与と慰藉料の支払いは詐害行為
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Last updated 2015.6.12mf
弁護士河原崎弘
相談
私は、A(31歳)に対し 4000万円の貸金を持っています。Aは、妻(29歳)と離婚し、妻が再婚するまで妻に財産分与として月額10万円を支払う、その他に3000万円の慰藉料を支払う契約をし、公正証書を作成しました。その直後、Aは、慰藉料と財産分与についての支払として(代物弁済として)自宅の土地建物を前妻に、前妻名義に登記しました。この結果、Aは、無一文になりました。
Aと妻は、債権者の追及を免れるために離婚したもので、今でも行き来があるそうです。Aと前妻の結婚期間は約3年、子供はいません。
前妻の持っている土地建物をAに戻させることはできますか。
相談者は、法律事務所を訪問しました。
弁護士の回答
2つの対処方法があります。-
Aと妻は、債権者の追及を免れるために形式的に離婚し、自宅の土地建物を、真実は妻の所有にする意思がないのに妻に譲渡した場合は、代物弁済は無効です(民法95条、通謀虚偽表示)。
債権者である、あなたは、債権者代位権を行使し、この土地建物がAの財産であると主張することができます(民法423条)。
- しかし、内心の意思の証明をすること、通謀虚偽表示の証明は難しいです。
そこで、Aと前妻は、「Aの財産状態が悪化することを知りながら、過大な財産分与と慰藉料の支払を約束し代物弁済をした」と主張したら、いかがでしょう。「Aと前妻は、詐害行為をした」と証明することは、容易です。
Aらの離婚に伴う財産分与と慰藉料額は、明らかに世間の水準より高いです。子供がいないこと、婚姻期間が3年であることを考慮すると、扶養的財産分与も、月額10万円の、通常は1年分(合計120万円)、高くても2年分(合計240万円)、慰藉料も100万円ないし300万円でしょう。
そうすると、約540万円(高い金額の合計)を越える部分は、詐害行為取消(民法424条)の対象となります。あなたは、まず、前妻名義の土地建物を仮差押し、Aと前妻を被告として、詐害行為取消の訴えを提起するとよいでしょう。
判例
- 東京地方裁判所平成20年1月30日判決
本件財産分与及び本件登記は,Bの代理人から債権者に対し,Bが自己破産を申し立てる予定であるとの通知がされたのと前後して行われている。
これらの事情,すなわち,Aは被告と離婚して別居する際に,被告に財産分与して被告名義となったはずの本件建物の1室に転居していること,別居してから1
年7か月後にAは被告と別居するまで同居していた自宅において再度被告と同居するに至っていること,以上の事情に照らすと,Aと被告の夫婦関係が実質的に破綻し
ているとは認めがたいといわざるを得ないのであって,Aと被告の法律的な婚姻関係自体は離婚届の提出により消滅するに至っていると解さざるを得ないとしても,A
と被告の実質的な夫婦関係はその離婚の届出後も内縁関係として存続していたと認めるのが相当である。これに加えて,本件財産分与及び本件登記が,Bの代理人から
債権者に対しBが自己破産を申し立てる予定であるとの通知がされたのと前後して行われていることに照らすと,本件財産分与がAと被告の真の離婚,すなわち婚姻関
係の解消に伴って行われたものとみることは困難であるといわざるをえない。
結局,本件財産分与は,Bが破産の申立てをすることに伴って予測される,その連帯保証
人であるAの財産,すなわち本件土地建物に対する債権者の強制執行を免れるために行われた仮装の通謀虚偽表示に他ならないというべきである。
そうすると,本件財産分与は通謀虚偽表示として無効たるを免れない。そして,証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば,Aはその所有する本件土地建物以外
の不動産を競売により失った結果無資力となった事実が認められるから,債権者代位権に基づいて本件登記の抹消を求める原告の主位的請求は理由がある。 -
最高裁平成12年3月9日判決(出典:判例時報1708-101)
離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は、民法767条3項の規程の趣旨に反してその額が不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきと解するのが相当である。
この判決は慰藉料についても、当該配偶者が負担すべき損害賠償額を超えた金額を支払う旨の合意がされた場合も、取消されるべきと判断しています。
このケースでは、支払いの合意は、慰藉料は「2000万円」、財産分与は「前妻の再婚までの期間、月額10万円」、婚姻期間は3年位でした。これは高すぎますので、詐害行為取消しの対象となると判示されました。
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