破産前の一部の債権者に対する弁済

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2011.5.11mf

弁護士河原崎弘
相談
自己破産をしようと考えています。
自己破産の申立の前に退職金が出ます。それを個人にだけ一部返済という形で退職金を使いきってしまうことはいけないでしょうか。免責の許可が下りないのかと心配です。
会社を辞める(実際はクビ)の理由にもなった金融業者以外会社の人間複数からお金を借りていたことがばれ、仕事を辞める際、「自己破産するなら退職金全てを、借りた人間に返済しろ」と言われたからです。
自己破産申立て前に退職金すべて使いきってしまって大丈夫なのでしょうか。

回答
退職金を使い切ることはできます。しかし、以下の問題があります。
個人の債務者が自己破産をする目的は、後で免責を得ることです。新破産法では破産の手続き開始の申立をしたときには、免責許可の申立をしたものとみなすと規定しています(248条4項)。
債権者からみれば、 破産は、債務超過にある破産者について、債権者に対して公平に弁済する制度です。不公平な弁済があった場合、管財人は、それを否認して財産を取り戻します(破産法160条以下)。
退職金で一部の債権者に弁済することはできますが、弁済期より早く弁済したりすると否認されます(162条)。さらに、 破産者が財産を隠すと罰則があり(265条)、免責は許可されません(252条)。
一部の債権者に対してだけ弁済した結果、債権者に対して弁済する原資がなくなります。破産原因がある状態で、弁済し、財産をなくすのですから、裁判所は、厳しい目で見ます。多分、財産の隠匿と見て、破産申立ての段階から、問題とします。
例外として抵当権が満額以上に設定されている不動産を売却し、抵当権者に弁済することは大丈夫です。
破産申立てをするなら、退職金を保管しておいてください。 裁判所は、破産申立人の代理人に配当をさせるか、破産管財人を選任し、配当させるでしょう。

破産法第252条(免責許可の決定の要件等)

裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
 民事再生法 (平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項 に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
 民事再生法第二百三十五条第一項 (同法第二百四十四条 において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
3 裁判所は、免責許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び破産管財人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
4 裁判所は、免責不許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
5 免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
6 前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
7 免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。
登録 2008.11.2