子どもの環境を変更するような親権者指定2/別居
弁護士ホーム > 離婚/婚約不履行 > 子どもの環境を変更するような親権者指定2/別居
2013.11.12mf
相談:夫が文書を偽造して離婚届出をした
私(31歳)と夫(39歳)の間には、子供が2人います。
私は、夫の携帯のメールを見て、夫が愛人と何度も旅行したことを知りました。その頃から、私は、体調が悪くなりました。私は、体を直すため、子供を夫の元に残し、子供に対しては、体調が悪いので病院に行くことになったとの説明や日常生活の注意事項を記載した置き手紙を残し、夫に対しては、署名押印をした協議離婚届とともに置き手紙を残し、実家に戻りました。
2か月後、私は、婚姻費用分担調停と夫婦関係調整調停の申立をしました。夫婦関係調整調停では、離婚、親権者指定、財産分与、離婚慰謝料、養育費の支払を求めました。
しかし、夫はすぐ、協議離婚届に子供の親権者を夫として記載して協議離婚の届出をしました。離婚届は偽造です。
今後、どう対処したらよいですか。
離婚の裁判のとき子供が手元にいないと親権をとるのも難しいでしょうか。子供は5歳と7歳です。
子供は私を慕っています。
相談者は、弁護士事務所を訪れました。 回答:弁護士を依頼し手続きをする
離婚届が偽造の場合、協議離婚も、親権者指定も無効です。
離婚無効確認の調停を申立ててください。場合によっては、婚姻費用分担請求を求めてください。
調停が成立しない場合は、訴えを提起してください。協議離婚の無効確認、場合によっては、加えて、
不貞行為を離婚原因とする離婚、子供の親権者指定、養育費の支払、離婚慰謝料、財産分与
を求めてください。
普通、調停はご自分でおこなえますが、本件手続きは、調停段階から弁護士を依頼すべきでしょう。
家庭裁判所調査官の調査に基づき、裁判官が、子供の監護教育のために誰が親権者に適当であるかが判断します。
裁判でのポイントは、@子供の監護の現状に問題がないか、A他の親に監護させた場合との比較、B現在の監護はどのように始まったかでしょう。
親権者指定の際には、現実に子供を育てている親が有利です。裁判所は、子どもの環境を変更するような親権者指定をしません。しかし、子供が幼児であること、家を出た後すぐ調停申立てをしていることなどの事情では、あなた(母親)が親権者として指定される可能性は、相当あります。
あなたのケースと同じく、子供を置いて家を出た母親が親権者に指定された判例(本案と仮処分)を下に掲げておきます。
参考判例
-
東京高等裁判所平成15年1月20日決定(家庭裁判所月報25巻9号91頁)
〔1〕1の前提事実によれば,双方とも事件本人(子供)らに対する愛情,監護に対する意欲は十分であり,その監護態勢は,住環境の面では抗告人(父)の住居が優るといえるものの,監護養育能力や経済的な面ともに大差はなく,また,事件本人らは,現在,抗告人の下で一応安定した生活を送っていることが認められる。
そこで,抗告人は,事件本人らの現在の監護養育状況に特に問題がない以上,事件本人らの福祉のためには,監護の継続性を尊重し,現状を維持すべきである旨主張する。
〔2〕しかしながら,出生時から別居するに至るまで事件本人らを主として監護養育してきたのは専業主婦であった被抗告人(母)であり,別居後2年余りが経過していることを考慮しても,事件本人らと被抗告人との精神的結びつきや母親への思慕の念はなお強いものがあり,事件本人樹及び同文香は,被抗告人の下で生活したい旨の意向を明確に示している。事件本人拓海は,態度を明確にしていないものの,必ずしも現状に満足しているわけではないし,母親を慕う気持に変わりはないと推測される。
これに対し,抗告人は,事件本人らは被抗告人との生活を少なくとも現時点では希望していないと主張し,抗告人と生活することを希望する旨記載した事件本人らの被抗告人宛ての手紙を提出する。
しかし,事件本人らとしては,両親が激しく対立する中で父親から母親の下で生活することを希望するかと尋ねられれば,父親に対する配慮もあって,自分の本心を素直に表現することは事実上困難であり,事件本人らの上記手紙は,その文面からも,事件本人らの真意を表したものとは直ちに認め難いといわざるを得ない。したがって,抗告人の主張は採用することができない(抗告人が事件本人らに対して被抗告人の下へ引っ越したいかどうかを尋ね,上記手紙を書かせたのは,事件本人らを自ら養育したいと強く望む余り,事件本人らの心情への配慮を欠くものであり,子の福祉の観点からも決して望ましいことではない。)。
〔3〕本件記録によれば,事件本人らは,抗告人が被抗告人に対して暴力を振るったことを目撃し,恐かったことを記憶しており,事件本人樹及び同文香は,抗告人に対する違和感を払拭できないでいることが認められる。
そして,抗告人が別居後まもなく青山を同居させたことについて,抗告人は,事件本人らの母親代わりの女性が必要であると考えたことによるものであり,短期間で解消したから問題はない旨主張するが,上記経緯に照らし,事件本人らの心情に対する配慮に欠けているというほかない。
〔4〕子は,父母双方と交流することにより人格的に成長していくのであるから,子にとっては,婚姻関係が破綻して父母が別居した後も,父母双方との交流を維持することができる監護環境が望ましいことは明らかである。
しかし,抗告人は,1で認定した原審審判期日に合意した被抗告人と事件本人らとの月1回の面接交渉の実施に対して非協力的な態度をとっている。これについて抗告人は,事件本人らの都合ないし希望によるものである旨主張するが,事件本人らが抗告人に気兼ねして本心を表明することができない心情に対する配慮に欠けるものである。
そして,本件記録によれば,抗告人が合意に反して面接交渉の実施に非協力的な態度をとり続けるため,合意に基づいて面接交渉の実施を求める被抗告人との間で日程の調整をめぐって頻繁に紛争が生じ,そのため抗告人と被抗告人の対立が更に悪化するという事態に陥っており,抗告人のこのような態度が早期に改善される見込みは少ないことが認められる。
このような父母の状況が事件本人らの情緒の安定に影響を及ぼし,抗告人と被抗告人の対立に巻き込まれ,両者の板挟みになって両親に対する忠誠心の葛藤から情緒的安定を失い,その円満な人格形成及び心身の健全な発達に悪影響を及ぼすことが懸念される(事件本人拓海が,面接交渉をめぐる抗告人と被抗告人の対立に巻き込まれて,精神的なストレスが高まったことから,じんましんと嘔吐の症状が出たことは,その表れと見られる。)。これに加えて,事件本人拓海は中学2年生,事件本人樹は小学校5年生,事件本人文香は小学校3年生であり,いずれも人格形成にとって重要な時期にあることを考慮する必要がある。
そうすると,抗告人との面接交渉について柔軟に対応する意向を示している被抗告人に監護させ,抗告人に面接交渉させることにより,事件本人らの精神的負担を軽減し,父母双方との交流ができる監護環境を整え,もって事件本人らの情緒の安定,心身の健全な発達を図ることが望ましいというべきである。
抗告人は,抗告人が被抗告人と事件本人らとの面接交渉に支障を生じさせたことは一切なく,したがって,現在の生活環境の下で事件本人らへの心理的な悪影響はなく,むしろ元気に生活している旨主張するが,採用することができない。
〔5〕以上によれば,事件本人らを被抗告人に監護させることが事件本人らの福祉に合致するものというべきである。
- 東京高等裁判所平成15年 1月20日決定
1審では、母親が父親に対して審判前の保全処分として子供らの引渡しを求める仮処分を申し立てたところ、これが認容された。
ところが、
抗告人(夫、事件本人らの父)が、抗告した事案で、本件認定事実によれば、事件本人(子供)らは、現在、抗告人の下で一応安定した生活を送っていることが認められ、保全の必要性を肯定すべき切迫した事情を認めるに足りる疎明はないから、本件審判前の保全処分の申立ては理由がないとして、原審判を取り消し、本件申立てを却下した。
上記2つの裁判は同じ当事者の事件で、本案は認められたが、仮処分は認められなかったのです。よくある例です。
港区虎ノ門3丁目18-12-301(東京メトロ神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161
登録 2005.1.12