2012.10.22相談
1年前から別居し、私は、子供(3歳)を連れて、実家にいます。
夫から離婚調停を起こされました。離婚はいいのですが、夫も、私も、親権が欲しいので、もめています。最近、夫は、親権と監護権に分けて、「夫が親権を持ち、妻が監護権を 持ったら、いい」と主張しています。
この主張は、どのような意味を持ちますか。親権と監護権は、どのように違うのでしょうか。現在、依頼している弁護士に尋ねましたが、ピンときません。回答
親権と監護権
親権は次の2つに分けられます。
@監護権 子の身上に関する権利(監護、教育をする権利、子の身のまわりの世話・教育・しつけ等の権利、民法820条)
具体的には、以下の権利です。・ 子に対する監護及教育の権利義務(民法第820条) ・ 子に対する居住指定(民法第821条) ・ 子に対する懲戒(民法第822条) ・ 子に対する職業の許可(民法第823条) A上記監護権を除いた親権 子の財産を子に代わって管理し、代理する権利および(養子縁組等)身分上の重要行為を代理する権利(子の財産管理権および代理権、重要行為代理権、民法第824条)
具体的には、以下の権利です。・ 子の取引行為の同意 ・ 子の取引行為の代理 ・ 子の財産の保存・利用・改良などの管理
・ 子の代理人として身分上の重要行為をする *下記東京高裁の決定参照
親権と監護権の分属
親権と監護権の分属とは、親権を、@監護権とA監護権を除いた親権に分けて、別人に与えることです。
具体的には、監護権者である母親が実際に子供を育て、父親が子供の財産の管理、代理および身分上の重要な法律行為をおこなうということになります。
親権と監護権の分属は、離婚に際し父母双方が親権を求めた場合の妥協の産物として、かっては、おこなわれていました。しかし、当事者が混乱する弊害があり、子のためにもマイナスですので、現在では、余りおこなわれておりません。
弊害が具体化した場合は、親権者変更の調停申立をすれば、監護者が親権者に指定されます。
従って、離婚に同意しても、親権と監護権に分けることには、同意しない方が良いでしょう。調停がまとまらなければ、手続きは審判に移行し、現在、母親が子供を監護していますから、母親が親権者に指定されます。判決
- 東京高等裁判所平成18年9月11日決定
ところで,子の親権者と監護者が分離分属している場合には,子の氏の変更の申立ての代理権 は,親権者に留保されており,監護者はこれらの権利義務を有しないと解するのが相当である。なぜならば,監護とは,親権の主たる内容である監護及び教育(民法82 0条),子の居所指定権(同法821条),懲戒権(同法822条),職業許可権(同法823条)を中心とする身上監護権を分掌し,子の財産につき管理及び代理する 権限ないし養子縁組等の身分上の重大な法的効果を伴う身分行為について代理する権限は,親権者に留保され,監護権者にはこれらの権限は帰属しないと解するのが相当 であるからである。
もっとも,子の氏の変更の申立てのうち,上記(1)の子の氏の変更許可裁判の申立てについて,監護者が法定代理人に該当するとした審判例(釧路 家庭裁判所北見支部昭和54年3月28日審判・家裁月報31巻9号34頁)は見受けられるが,少なくとも,上記(2)入籍届けをする権限についてまで,監護者が法 定代理人に該当するとした先例は見当たらないし,戸籍先例としても,15歳未満の子につき氏の変更の許可を得た上で行う入籍届けの届出人は,法定代理人である親権 者又は後見人に限るとされている(昭和25年7月22日付け民事甲第2006号民事局長回答,昭和26年1月31日付け民事甲第71号民事局長回答)。
(4) したがって,民法791条1項及び3項に基づく入籍届けは,法定代理人である親権者又は後見人が届け出なければならないというべきであり,本件入籍届けは 法定代理人(親権者であるB野C男)でない監護者(抗告人)が行ったものであり,本件不受理の処分に違法・不当な点はないとした原審判は相当である。- 大阪家庭裁判所昭和50年1月16日審判(家庭裁判月報27巻11号56頁)
父母の離婚に際して、子供の親権者と監護者を父母その他別異の人に分属せしめることは、民法766条、819条により認められるところであり、監護者制度自体 その合理性を有効に発揮し得る場合のあることは疑問のないところである。
しかしながら、子の福祉の観点からするならば、親権者と監護者が父母に分属しているという 状態は通常最善のものとはいい難い。特に、親権者、監護者の定めが、協議或いは調停によつてなされるとき、父母双方の子供に対する愛情を満足させるために、親権の 本質を充分理解せず、家父長的権利の一種として親権に固執するため等、離婚の成立とのかね合いからの、やむを得ない妥協的措置として、親権者と監護者を父母に分属 せしめる合意が成立する場合が多々ある。離婚後の父母に、親権と監護権の円滑な行使は期待し難く、結局は子の福祉に反する結果を惹起する。
従つて、特段の事情のな い限り、監護適格者に監護はもとより親権を行使せしめるのが妥当であり、特段の事情のないまま、父母に親権と監護権を分属せしめて離婚したような場合は、早晩にそ の一本化をはかり、子の福祉を万全のものとすべきであり、分属による弊害がでてきているようなときはなおさらのことである。これを本件についてみるに、上記認定事 実によると、申立人と相手方は離婚に際し、ともに親権者となることを希望したが、事件本人の親権者と監護者を父母に分属せしめる何らの合理性のないまま妥協的措置 として申立人が監護者となり、相手方が親権者となつたものであり、申立人は事件本人の監護者として適格性を有し、親権者としての適格性に疑問をさしはさむ資料も全 く存せず、既に結婚し一子を儲けている相手方に監護者を変更しなければならない必要性も有効性も全くうかがい得ないところである。
そうすると、相手方が親権者とし ての適格性を有するか否かということではなく、申立人が監護者としての適格性を有し、現に事件本人を適正に監護しており、監護者を変更しなければならないような事 情もなく、親権者として適格性をも有している以上、子の福祉の観点から監護者である申立人に親権者を変更する必要性があるものといい得るところである。
申立人が親 権者でないことから事件本人の氏の問題で同居生活上の支障をきたし、現実の問題として扶養手当、税金、健康保険、母子関係福祉で不利益を蒙むつている事実は分属の 弊害であることは明らかである。そして、相手方が親権者変更について述べる反対の理由のことごとくは不合理なものか、子の福祉の観点から譲歩せざるを得ないもので ある。
即ち、子の氏の問題については、氏を家制度の残存としての意識のあらわれとしての面が強く、同居生活上の支障に思いを至さない独断といわねばならず、事件本 人の親権者であることの心のはりの問題は、子の福祉の観点から譲歩せざるを得ないところであり、事件本人自体に判断させるべきという主張は、現時点で父母のいずれ に親権を負担させるかという要急の問題を回避するにすぎないものである。
以上の諸事情を考慮するならば、事件本人の親権者を父である相手方から、母である申立人に 変更することが相当といわなければならない。- 福島家庭裁判所白河支部昭和42年6月29日審判
本件のように、子が満2歳になるかならないかの幼児であつて、父母が離婚したためそのいずれかだけにおいて監護・養育されなければならない場合に、母 が子の監護・養育を強く望み、かつ母に子の監護・養育をまかせるに足るだけの生活状況にあり、その間に不適当とするような特段の事情が認められないかぎりは、右の ような幼児は、その肉体的・精神的発達のために何ものにもまして母の愛情としつけを必要とするものであるから、母の許で監護・養育されるのが子の福祉に適合するも のということができる。
そして、本件において、前記の如く、母である申立人が、事件本人の監護・養育を強く希望し、その熱意をもつていること、申立人自身身体健康 であり、短大を卒業してかなり高度の知識・教養もそなえ、人格的にみて特別の欠陥・偏倚があるとは認められないこと、その婚姻中の生活態度についてみても特に今後 事件本人を養育するうえにおいて支障となるような事情があるとは認められないこと、現在の生活状態も、前記の如く、安定したものと認められることなどの諸事情に鑑 みると、申立人が事件本人を監護・養育するに不適当な事情は認められず、むしろ上記の事情および相手方自身には事件本人に対する愛情とその養育についての熱意から と認められるものの、相手方の両親には事件本人が事実上の長男に出生した長男であるという家督相続的な意識もあつて、事件本人の養育を望んでいるものと認められる ことからするならば、前判示趣旨にてらし、母である申立人に事件本人を監護・養育させるのが子の福祉に必要であると考えられる。
もつとも、申立人に事件本人を監護・ 養育させることになると、親権者である相手方の事件本人を監護・養育する権利を奪い去ることとなり、その結果親権の内容は空疎なものとなり、親権者とは名ばかりの 存在と化すおそれがあるが、相手方の親権者としての権利・立場を考慮に入れても、上記事情から考えて、事件本人の福祉のため、相手方は親権のうちの監護権を申立人 に譲り、申立人に事件本人を監護・養育させるべきであると考えられる。
相手方は、親権者として事件本人を直接監護・養育することがなくとも、親権者としての立場で、 事件本人の健全な成長を希求しつつ申立人が事件本人を監護・養育するのを見守つてゆき、もし将来の事情の変動により事件本人の監護・養育に不適当な事情が生じたな らば必要な措置をとるというのも、親権というものが子の福祉のためのものであることからいつて、親権者である父親としての一つのあり方ではないかと考えられる。
叙上の事情のもとに考察すると、本件は正しく、子の福祉のため親権者とは別に監護者を定めるだけの例外的な必要性が存在する事案と解されるので、この際、事件本 人の親権者は父である相手方にとどめるとともに、母である申立人を事件本人の監護者と定めるを相当と認める。