夫が勝手に離婚届出をした/協議離婚無効調停
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2013.9.14mf
弁護士河原崎弘
相談
私は35歳、7歳の子どもがいます。結婚して8年になります。夫の性格異常と暴力のため2年前から別居しています。
家を出る1年前(同居しているとき)、けんかをし、夫が離婚届出用紙を持ってきたので、私は、署名してしました。捺印はしていません。その届出用紙の親権者の欄には、何も指定がされていませんでした。
家を出るとき、私は、「離婚はしません」と言いました。
夫は、私が署名した離婚届出用紙の親権者欄に、勝手に自分を親権者として書き込み、私の印鑑を勝手に押し、市役所に届けたそうです。
私は、離婚する意思はないし、夫に対し、婚姻費用を請求したいです。
どうしたらよいでしょうか。
相談者は弁護士事務所を訪ねました。
回答
協議離婚は、離婚届出書に署名捺印しただけでなく、届出の際にも、当事者に離婚意思があることが必要です。
当初は(離婚届作成時)、離婚の意思があっても、その後、離婚意思がなくなっただけでは、離婚無効となりません。協議離婚が無効となるのは、離婚届出に署名した後に、
その後「離婚しない」旨の意思表示をした場合です(下記最高裁の判決)。
あなたの場合は、署名しただけで、「離婚しない」と意思表示しているので、離婚意思はなかったでしょう。この離婚届は無効です。
しかし、届出があると、離婚の無効が判決で確定するまでは、離婚は有効(夫婦ではない)と扱われます。さらに、時間が経過すると、離婚届出が無効であることを証明することが難しくなります。
すぐに、家庭裁判所 に対し、離婚無効確認の調停申立をする必要があります。離婚無効について合意できれば、家庭裁判所は、事実調査等を行った上で、離婚無効の審判をします。
夫が離婚無効に合意しない場合は、離婚無効の訴えを提起する必要があります。
参考判例
- 大審院昭和六年二月二〇日判決
協議上ノ離婚ハ之ヲ戸籍吏ニ届出ツルニ因リテ其ノ効力ヲ生スルモノニシテ既ニ夫婦カ其ノ協議ヲ以テ離婚ヲ為シタル旨ノ届出アリタル場合ニ於テハ其ノ後其ノ一方カ離婚届出ノ無効ナルコトヲ主張スルモ他ノ一方カ之ヲ承認セサル以上ハ訴ニ因リ其ノ離婚届出ヲ無効ナリトスル判決確定スルニ非サレハ其ノ離婚ノ届出ハ依然トシテ効力ヲ有スルモノト看做スヘキモノトス(当院大正八年(オ)第五百三十二号大正九年一月三十日判決参照)随テ本件訴訟ニ於テ上告人カ被上告人トノ離婚届出ヲ無効ナリト主張スルモ之ヲ確認スル判決ノ確定スルマテハ両人間ニ夫婦関係アルモノト看做スコトヲ得ス。
- 最高裁判所昭和34年8月7日
原審の引用する第一審判決によれば、本件協議離婚届書は判示の如き経緯によつて作成されたこと、右届出書の作成後被上告人は右届出を上告人に委託し、上告人においてこれを保管していたところ、その後右届出書が光市長に提出された昭和27年3月11日の前日たる同月10日被上告人は光市役所の係員西村繁雄に対して上告人から離婚届が出されるかもしれないが、被上告人としては承諾したものではないから受理しないでほしい旨申し出でたことおよび右事実によると被上告人は右届出のあつた前日協議離婚の意思をひるがえしていたことが認められるというのであつて、右認定は当裁判所でも肯認できるところである。
そうであるとすれば
上告人から届出がなされた当時には被上告人に離婚の意思がなかつたものであるところ、協議離婚の届出は協議離婚意思の表示とみるべきであるから、本件の如くその届出の当時離婚の意思を有せざることが明確になつた以上、右届出による協議離婚は無効であるといわなければならない。
そして、かならずしも所論の如く右翻意が相手方に表示されること、または、届出委託を解除する等の事実がなかつたからといつて、右協議離婚届出が無効でないと言えない。
- 大阪高等裁判所平成6年3月31日判決(判例時報1515号89頁)
前項の認定事実に基づき本件離婚届の有効性について検討すると、まず、離婚届作成時点においては、その作成経過ことに控訴人(夫)本人自ら署名、捺印していることなどからみて、控訴人は被控訴人(妻)から離婚を求められて一旦これを承諾していたことがうかがえる。
・・・・
離婚届がされたことを知った後の控訴人の行動などを考慮すると、その事情だけから右届時点における控訴人の離婚意思の存在を推認することは相当ではない。また、控訴人は、前記の約6か月の期間中に離婚届を破棄することを被控訴人に命じたり、或いはその返還を要求したことはうかがえないけれども、これらの点も、右の考慮事情と対比ずると、控訴人が本件離婚を届出時点でも了承していたことを推認ずべき事情とみるのは困難である。
以上に検討したところに加え、控訴人は、その本人尋間(原審)において、右届出の頃には離婚する意思は全くなく、その届出がされることを考えてもいなかったと述べていることや、被控訴人自身も、右届出に際して控訴人が反対することを予測し、控訴人に右届出をすることを全く知らせていない事情も考慮して判断すると、本件離婚届時点において控訴人に離婚意思があったものと認めることはできない。
第三 そうすると、本件協議離婚の無効確認を求める控訴人の請求は理由があるからこれを認容すべきであり、これと結論を異にする原判決を取消して、控訴人の本訴請求を認容することとし
- 東京地方裁判所平成16年6月28日判決
届出時の届出意思
前記認定によれば、平成9年3月23日原告と被告Y1の間において離婚をする合意が成立したということができるところ、いったん当事者間に成立した以上、仮にその後一方が離婚の意思及び離婚届出の際の離婚届出の意思を失ったとしても、相手方あるいは
戸籍事務を担当する係員に対する明白な翻意の表示がなければ、離婚意思の撤回があったとはいえないと解すべきである。
本件においては、本件離婚届作成が平成9年3月23日であり、その届出が平成14年7月11日と5年以上もの期間が空いているが、被告Y1は、原告に対し、本件離婚届作成時に、5年後に提出する旨告げ、その旨原告も了解していたといえるところ、被告
Y1は、再三にわたり、自ら、あるいはLを通し、原告に対し予定どおり提出する旨伝え、原告からは何らの異議も唱えられ、あるいは伝えられていなかったのであり、そうすると、原告が本件離婚届提出の際、離婚の意思や離婚届を提出する意思を失っていたとは認められず、また、原告が被告Y1あるいは戸籍事務を担当する係員に対し翻意の表示をしたと認めるに足りる証拠もない。
したがって、本件離婚届を無効ということはできない。
港区虎ノ門3丁目18-12-301 河原崎法律事務所 03-3431-7161
2004.12.30